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てのひらのメモ*夏樹静子

  • 2009/08/31(月) 19:20:36

てのひらのメモてのひらのメモ
(2009/05)
夏樹 静子

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広告代理店で働くシングルマザーの種本千晶は、社内でも将来を有望視されているディレクターだった。彼女には喘息で苦しむ保育園児がいたが、大切な会議に出席するため子供を家に置いて出社し、死なせてしまう。子供に傷などもあり、検察は千晶を「保護責任者遺棄致死罪」で起訴。有罪になれば、三年以上二十年以下の懲役刑となる。市民から選ばれた裁判員たちは、彼女をどのように裁くのか?そして読者の貴方は、有罪無罪どちらに手を挙げるか?法曹関係者もうならせたリーガルサスペンス。


辞退する理由に当てはまらなかったので、あまり深く考えることもなく裁判員として、東京地検に赴いた五十七歳の専業主婦・折川福実の目を通して見た、ある裁判の模様である。
裁判員制度普及のための教科書のようだ、というような批評も目にするが、物語自体はとてもリズムよく、裁判員の役割もわかりやすく、裁かれる事件の内容も身近で、惹きこまれるようにページを捲った。自分だったらどう判断するだろうか、と否応なく考えさせられ、またこれほど客観的に検察側弁護側の主張を考え抜けるだろうか、と自信を失いもするのだった。たまたまその裁判で裁判員を務めることになった人たちの経験値によって、判決が変わることもあり得るのではないかと感じ、一抹の怖ろしさと、それゆえの責任の重さをも痛感させられた。

咲くや、この花 左近の桜*長野まゆみ

  • 2009/08/30(日) 16:31:36

咲くや、この花  左近の桜咲くや、この花 左近の桜
(2009/03/27)
長野 まゆみ

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春の名残が漂う頃、「左近」の長男・桜蔵のもとに黒ずくめの男が現れて、「クロツラを駆除いたします」という怪しげな売り込みのちらしを置いていった。数日ののち、離れに移ってきた借家人の骸が押し入れから転がり出た。そこへくだんの男が現れて言うには、クロツラに奪われたタマシイを取り戻せば息を吹きかえすと…。魂を喰う犬を連れた男、この世の限りに交わりを求める男、武蔵野にたたずむ隠れ宿「左近」の桜蔵を奇怪な出来事が見舞う…。夢と現が交錯する蠱惑の連作小説シリーズ第二作。


シリーズ一作目は『左近の桜』。未読である。
「迷い犬」 「雨彦(あまひこ)」 「白雨(ゆうだち)」 「喫茶去(きっさこ)」 「ヒマワリ」 「千紫(せんむらさき)」 「髪盗人」 「雪虫」 「灰かぶり」 「黒牡丹」 「梅花皮(かいらぎ)」 「桜守」

看板も軒行灯も出さず、少々ワケアリな商いをしている宿・左近の物語である。桜蔵(さくら)は、ここの長男だが、その生い立ちも少々ワケアリである。そのせいか、この世ならぬ妖しいものを惹き寄せる性質であるらしい。
そんな桜蔵が出会い、取り憑かれ、惹きこまれる妖しいひずみのような世界が描かれている。著者らしい妖しさ全開の一冊である。

狩人は都を駆ける*我孫子武丸

  • 2009/08/28(金) 16:38:31

狩人は都を駆ける狩人は都を駆ける
(2007/12)
我孫子 武丸

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京都を舞台に、ペット探偵(?)は今日も大活躍!タフでなければ生きていけない。動物に優しくなければ生きていく資格が、ない?動物嫌いの私立探偵のもとには、なぜかペット絡みの依頼ばかり舞い込んで…ドーベルマン誘拐、野良猫連続殺し、ドッグショーの警備等々、手に汗握る傑作ミステリー。


表題作のほか、「野良猫嫌い」 「狙われたヴィスコンティ」 「失踪」 「黒い毛皮の女」

私立探偵なのだが、なぜか向かいの動物病院からの紹介の犬猫がらみの依頼ばかりが舞い込むのだった。しかも動物嫌いなのに。私立探偵というのは、キャラクターが似通ってしまうものなのだろうか。これまで読んできた、さまざまな作家のさまざまな探偵たちと、どこかダブって見えてしまう。
ハードボイルドを気取りきれず、仕事の依頼はほとんどなくてお財布の中身はいつも寂しく、やる気があるようには見えないが、やることはきちんとやり、価格設定も良心的である。彼もまさにそんな探偵である。ときに、――自己満足とも言えるかもしれないが――依頼された以上の働きをすることもある。目のつけどころは確かで、この先も見たいと思わせてもくれる。

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フリークス*綾辻行人

  • 2009/08/27(木) 16:45:23

フリークス (光文社文庫)フリークス (光文社文庫)
(2000/03)
綾辻 行人

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「J・Mを殺したのは誰か?」。私が読んだ患者の原稿は、その一文で結ばれていた。解決篇の欠落した推理小説のように…。J・Mは、自分より醜い怪物を造るため、5人の子供に人体改造を施した異常な科学者。奴を惨殺したのは、どの子供なのか?―小説家の私と探偵の彼が解明する衝撃の真相!(表題作)夢現、狂気と正常を往還する物語。読者はきっと眩暈する。


表題作のほか、「夢魔の手-三一三号室の患者-」 「四〇九号室の患者」

「K**総合病院」の精神科を舞台としたミステリなのだが、一般的な謎解きの要素に加え、患者の心の動きに翻弄されながら、読者である自分がいまいる場所を見極めながら読み進まなければならないという要素もあるので、考えなければならないことが多い一冊である。
視点によって、物事がいともあっけなく反転してしまうということを改めて思わされる。

エコノミカル・パレス*角田光代

  • 2009/08/26(水) 19:01:31

エコノミカル・パレスエコノミカル・パレス
(2002/10)
角田 光代

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私はちゃちな恋をした。
私はちゃちな夢を見た。

どこへでも行けるはずだったのに――
バブル青春世代10年後のリアルと恋の夢。

34歳フリーター、同居の恋人は失業中。
どんづまりの私の前に、はたちの男があらわれた――。
生き迷う世代を描いて〈今〉のリアルを映す角田光代の最高傑作。


なんだか、気力を吸い取られるような一冊だった。
男は口だけで、夢を追っているのか現実を諦めているのかさっぱり判らず、女は「NO」と言えずに引きずられているうちに、ぐずぐずと崩れていく。
一歩ずつを地道に歩くことができない者たちには、輝く明日はやってこないのだろう、と思わせられる一冊でもある。

ころころろ*畠中恵

  • 2009/08/25(火) 17:19:43

ころころろころころろ
(2009/07/30)
畠中 恵

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摩訶不思議な妖怪たちに守られながら、今日も元気に(?)寝込んでいる江戸有数の大店の若だんな・一太郎。ある朝起きると、目から光りが奪われていた!その理由は、空前絶後のとばっちり?長崎屋絶体絶命の危機に、若だんなが名推理。だけど光りの奪還には、暗雲が垂れこめて―。佐助は妻と暮らし始め、どうなる、若だんな?絶好調「しゃばけ」シリーズ第八弾。


表題作のほか、「はじめての」 「ほねぬすびと」 「けじあり」 「物語のつづき」 という五話の連作。

第一話は、一太郎がまだ十二歳の頃の話である。しかし、そこで起こる出来事が、後々まで尾を引き、一太郎の目から光を奪うことになるのである。
相も変わらず律儀に寝込んでいる若だんな・一太郎であるが、今回は目まで見えなくなってしまったので、佐助や仁吉はもちろんのこと、妖たちの心配はいつにない程である。八方手を尽くして、一太郎の目に光を取り戻そうと奔走する彼らの活躍はとても頼もしい。しかし最後は、心配ばかりかけ、足手まといにばかりなっているような一太郎のやさしい心持ちが解決を導き出したと言ってもいいだろう。病弱でも、人の心のわかる人間に育っている一太郎が頼もしくも思えた。

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甘い記憶--6Sweet Memories

  • 2009/08/24(月) 13:35:44

甘い記憶―6 Sweet Memories甘い記憶―6 Sweet Memories
(2008/08)
井上 荒野川上 弘美

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6人の人気女性作家が贈る、とっておきのショート・ストーリーズ。

そのひとかけらを口に含んだ瞬間、あなたの胸によみがえるとっておきの物語は? 切なく身を焦がす片思い。若い日の恋の記憶。束の間の逢瀬。気づけばそばにいた温かなぬくもり。そして……。甘く、そしてほろ苦い、あなたの気持ちを溶けさせるひとかけら。チョコレートをモチーフに描いた6つのショート・ストーリーズ。


井上荒野「ボサノバ」  江國香織「おそ夏のゆうぐれ」  川上弘美「金と銀」  小手鞠るい「湖の聖人」  野中柊「二度目の満月」  吉川トリコ「寄生妹」


森永製菓株式会社が2007年9月から2008年3月までの間で実施した「森永チョコレート カレ・ド・ショコラ」のキャンペーンのプレゼント本「ひとり時間にカレ・ド・ショコラ 6ショート・ストーリーズ」に加筆修正したものということで、どの作品にもチョコレートが出てくる。しかし、チョコレートが主役というわけではなく、効果的にスパイシーに扱われることもあれば、至って無造作に扱われることもあり、著者のチョコレートに対する思い入れの度合いが垣間見られるのかもしれない、などと秘かに思ってみたりもするのである。そして、チョコレートがどんな場合にも甘い記憶とむすびついているかといえば、必ずしもそうではなく、逆にほろ苦かったりもするのだが、なぜか痛い記憶にはならないような気がするのは、わたしがチョコレートが大好きだからだろうか。

マイ*ブルー*ヘブン*小路幸也

  • 2009/08/23(日) 16:41:32

マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴンマイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン
(2009/04)
小路 幸也

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国家の未来に関わる重要な文書が入った“箱”を父親から託され、GHQを始め大きな敵に身を追われるはめになった、子爵の娘・咲智子。混血の貿易商・ジョー、華麗な歌姫・マリア、和装の元軍人・十郎、そして、がらっぱちだけれど優しい青年・勘一にかくまわれ、敵に連れ去られた両親の行方と“箱”の謎を探る、興奮と感動の番外編。


いまとなっては、幽霊としてのみ登場し、古本屋「東京バンドワゴン」と堀田家周辺の人々の様子の絶妙な語り手となっているサチさんが、うら若き乙女の頃、終戦直後の物語である。
サチさんや堀田家の人々の出自や、勘一との出会い、それにつづく活劇のような出来事の数々には、いちいち「あらまあ!」と驚かされ、しかし、後々の彼らを知っていれば、「さもありなん」と納得もするのである。
侮りがたし「東京バンドワゴン」である。嬉しいサプライズの番外編だった。

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海のある奈良に死す*有栖川有栖

  • 2009/08/22(土) 16:36:30

海のある奈良に死す海のある奈良に死す
(1995/03)
有栖川 有栖

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半年がかりの長編の見本を見るために珀友社へ出向いた推理作家・有栖川有栖は、同業者の赤星と出会い話に花を咲かす。だが彼は「海のある奈良へ」と言い残し翌日、福井の古都・小浜で死体で発見された。
地図に秘められたトリック。時刻表でも、旅情でもない、本格推理の新境地。奔放、奇抜な発想と巧妙な謎解き。新鋭実力派が放つ長編ミステリーの意欲作。


アリス・火村コンビの初期の作品であるが、スタンスはほぼ変わらず、強いて言えば近作の方が、アリスが自らを三枚目に仕立てているかもしれない。
「行ってくる。海のある奈良へ」という言葉を残して取材旅行に出かけ、死体になって帰って来た推理作家・赤星楽の、次の一冊になるはずだった物語の登場人物になって、アリスと火村が謎解きするような構成に(結果的に)なっているのも面白い。形になるはずだった小説上のミスリードを現実にも辿ってしまったりするのである。
また、民族学の要素や地理的トリックの要素、人物相関の要素など、多様な要素が盛り込まれていて興味深く愉しめる。

ほおずき地獄*近藤史恵

  • 2009/08/18(火) 17:18:17

ほおずき地獄―猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)ほおずき地獄―猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)
(2009/06/11)
近藤 史恵

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吉原に幽霊が出るという噂がたった。幽霊が出た後には必ず縮緬細工のほおずきが落ちているという。騒動のさなか、幽霊が目撃された茶屋の主人と女将が殺された。下手人は幽霊なのか。女性が苦手な“二枚目同心”玉島千蔭は「じゃじゃうま娘」との縁談話に悩む傍ら、事件の解決に乗り出すが…。『巴之丞鹿の子』に続く「猿若町捕物帳」シリーズ第二弾。


このシリーズ、読む順番がめちゃくちゃになっているが、本作がシリーズ第二弾である。
石より硬いと言われる堅物・玉島千蔭に十六歳のはねっかえり娘との縁談が持ち上がる。そしてこの顛末とは別に、吉原には幽霊騒ぎが。幽霊が消えた後には、必ず縮緬のほおずきが落ちているという。さらにもうひとつ、七~八歳の頃から屋根裏部屋に幽閉されている美少女・お玉は誰なのか、という謎もある。そして、夜な夜な客を引く白髪の夜鷹…。
縁談はもちろんのこと、ほかの謎にも千蔭はかかわることになる。どれもが濃い内容であり、縁談以外はじわじわと一本に収束していく。見事な構成である。
そして、縁談に関しても――順番を後先に読んだ者にとっては事情が腑に落ちる――ちょっとしたサプライズが用意されているのである。ぎっしりと中身の詰まった一冊だった。

エスケープ!*渡部健

  • 2009/08/16(日) 16:53:23

エスケープ!エスケープ!
(2009/07)
渡部 健

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シュウは会社の内定も決まり、かわいい彼女もいる大学四年生。春からは忙しく働き、数年後には彼女と結婚して子どもをもうける予定―。「でもなあ、そんな人生って…正直、楽しそうじゃないな」将来は約束されている。でも、その将来には何も刺激がない。ぜいたくな不満だと頭では理解している。けれど…。そんなある日、シュウは人生を変えるかも知れない雑誌記事を見つけてしまった。「プロが語る!空き巣手口のすべて!」その日からシュウの日常は一変。かつてない情熱で入念に計画を立て、人生で初の興奮を覚えながらの綿密な下見。すべては完璧で、安全だと思われた空き巣計画。が、しかし…忍び込んだ家の中にはなんと―。


アンジャッシュのコントそのままの一冊である。
見事なまでの勘違いと思い込みで、同じ場所にいながら、まったく別の物語を歩きつづける人物たちは、それぞれ真剣なのだが、仕掛けをすべて承知している読者は、くすくす笑いを禁じ得ない。
そして、ラストにダメ押しのようなひと捻りが配されていて、さらに愉しめた。
愉しい読書タイムだった。

失踪者*折原一

  • 2009/08/16(日) 13:41:03

失踪者失踪者
(1998/11)
折原 一

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ノンフィクション作家・高嶺隆一郎は真犯人に直接インタビューする手法をとっていた。埼玉県の久喜市で起きている連続失踪事件を調査するなかで、15年前の同様の事件との関連性が浮かび上がる。月曜日に女が消えること、現場に「ユダ」「ユダの息子」のメモが残されること。犯人はまた「少年A」なのか。


まるで15年前を模倣したかのようなそっくりな連続失踪事件が起こる。高嶺隆一郎は、重要参考人と目される人やその周辺の人たちに取材して「ユダの息子」を書き上げるが、その後、彼自身も何者かに襲われる。そんなとき、押しかけ助手の神崎弓子は、独自の調査によって核心に近づいて行く。
15年前の事件の容疑者・少年Aと現在の容疑者・少年A。まったく別の人物であるふたりの少年Aの存在が、物語上での過去と現在との時間の行き来に――それが著者の意図なのだろうが――混乱を生じさせ、読者に立ち位置を見失わせる。どちらの事件もごく近い場所で起き、 似たような周辺環境であるのも錯覚を促す一因である。騙されまいとして読み進んでも、ときどき混乱させられる。
いままで読んだ「○○者」シリーズのなかでは、本作がいちばん面白かった。

薬屋のタバサ*東直子

  • 2009/08/14(金) 16:42:36

薬屋のタバサ薬屋のタバサ
(2009/05)
東 直子

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自分を消そうとしていた女が、一軒の古めかしい薬屋にたどり着いた。つかみどころのない、独身の薬屋店主、平山タバサと町の住人との不思議な日々。身を任せる安らぎと不安。リリカルな長篇。ややこしくなった、心と身体がほぐれる魔術的な恋愛小説。


内容紹介には恋愛小説とあるが、人間が生きていくことの根源を描いたファンタジーのような印象がより強い。
どこから来て、どこへ行くのか、自分が生きていることの意味、そして居場所……。薬局タバサのある町――すなわちそこに暮らす人々や彼らに必要とされているタバサ――は、どう生きるかをさりげなく教えてくれる場所なのではないだろうか。
ラストには、時間の流れが一瞬にして裏返ったような驚きがあったが、それを含めて、この町全体の包容力のようなものを感じるのである。

グランド・フィナーレ*阿部和重

  • 2009/08/14(金) 06:47:23

グランド・フィナーレグランド・フィナーレ
(2005/02/01)
阿部 和重

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終わり、それとも始まり……神町を巡る物語。
「グランドフィナーレ」という名の終わりの始まり。
毎日出版文化賞、伊藤整賞W受賞作「シンセミア」に続く、
二人の少女と一人の男を巡る新たなる神町の物語。
第132回芥川賞受賞作。


表題作のほか、「馬小屋の乙女」 「新宿ヨドバシカメラ」 「20世紀」

「神町(じんまち)」がキーワードなのだろう。確かにどの作品にも出てくるので、そうなのだと思うのだが、どんなキーになっているのかと問われると、よく判らない。全体を通して、なにを受け取ればいいのかがよくわからない一冊だったとも言える。

文学が、ようやく阿部和重に追いついた。


と、帯の惹句にあるが、どうやらわたしはまだまだ追いつけそうにない。

銀の朝、金の午後*藤堂志津子

  • 2009/08/12(水) 20:14:28

銀の朝、金の午後銀の朝、金の午後
(1996/07)
藤堂 志津子

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一人暮らしをするトヨノ、初代、春子。三人寄れば噂話に花が咲く。ご町内の小さな事件に巻き込まれた彼女たちが繰りひろげる、ちょっとコミカルな物語。好奇心いっぱい、年をとるほど女は元気!


「シングルス」 「元上司」 「女ごころ」 「究極の夢」 「羽振りのよい男」 「謎の女」 「わが子よ・・・・・。」 「待ちあい室」 「尊師」 「従姉キヌ」 「人気者」 「夢か、うつつか」
その浮気に悩まされた夫に七年前に先立たれた69歳の初代、70歳のちんまりと小柄な未亡人・トヨノ、定年まで会社勤めをし、独身をつらぬいてきた65歳の春子。三人が主役の物語である。それぞれに個性があり、「老人」とひと括りにはできない、未だ枯れない好奇心とプライドも持ち合わせている。
彼女たちの日常に起こり、関わり、通り過ぎていくあれこれが、面白く可笑しくそしてちょっぴり哀しくもあり、彼女たちの行動のひとつひとつが、「いずれ我が身」というふうにも思えて親しみ深くもある。
若い世代とはひと味違うが、老人たちには老人たちのパワフルな時間があるのだということを改めて思わされる。

みにくい あひる*谷村志穂

  • 2009/08/10(月) 16:48:47

みにくいあひるみにくいあひる
(2008/03)
谷村 志穂

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故郷を離れバブルに沸く東京で、わたしは精一杯生きてきたはずだったのに…。失った恋、母への愛憎―悔恨と愛惜の思いを込めて描く、六人の「わたし」の物語。


表題作のほか、「カントリー・ガール」 「泡立つ海」 「フタコブラクダ」 「きれいな体」 「ネイル」
表題作だけは少し趣が違うが、ほかはみな報われない男女の関係――恋と呼べるかどうかも判らない――が、典型とも言えるような報われなさで描かれていて、いささか食傷気味になる。
表題作だけは、主人公の女性が理想としていたと思われる華やかな恋や結婚とはかけ離れた、地味で静かな毎日のしあわせに、やっと気づきかけた姿が描かれていて、この物語がさいごに配されていたことに救われる思いがした。

夕映え天使*浅田次郎

  • 2009/08/09(日) 16:37:51

夕映え天使夕映え天使
(2008/12)
浅田 次郎

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さびれた商店街の、父と息子二人だけの小さな中華料理店。味気ない日々を過ごす俺たちの前に現れた天使のような女・純子。あいつは線香花火のように儚い思い出を俺たちに残し、突然消えてしまった。表題作「夕映え天使」をはじめ、「切符」「特別な一日」「琥珀」「丘の上の白い家」「樹海の人」の6編の短篇を収録。特別な一日の普通の出来事、日常の生活に起こる特別な事件。


たしかに、「日常生活に起こる特別な事件」には違いないが、ただの特別とはひと味違う。
ひねり具合が絶妙で、仕掛けがわかったときには思わず唸ってしまう。特に『特別な一日』には驚かされたが、判って思い返すと、賦に落ちる場面がたくさんある。上手い。

私立探偵・麻生龍太郎*柴田よしき

  • 2009/08/08(土) 16:43:42

私立探偵・麻生龍太郎私立探偵・麻生龍太郎
(2009/02/28)
柴田 よしき

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春日組大幹部の殺害事件が解決した後、警察を辞めた麻生龍太郎。彼は私立探偵として新たな道を歩み始めた。麻生は、裏社会で生きようとする美貌の男・山内練に対して引き起こした罪を背負い、全てを捧げることを誓う。その麻生の想いに呼応するかのように、今日も人々の切実な依頼と事件が次々と舞い込んでくる…。傑作の呼び声高い『聖なる黒夜』の“その後”を描いた麻生と山内の物語がついに明らかに。そして警察小説の金字塔「RIKO」シリーズ『聖母の深き淵』『月神の浅き夢』へとつながる心揺さぶる連作ミステリ。


RIKOシリーズ、花咲シリーズから飛び出した、麻生龍太郎シリーズになるのだろうか。
『所轄刑事・麻生龍太郎』につづく二作目である。
上記両シリーズにも登場する山内練との関係を織り込みながら、私立探偵としての依頼をこなす麻生だが、性格上中途半端に片づけることができず、深みに嵌っていくのだった。そしてまた、それを期待して依頼されるということも多分にあるのである。
麻生のキャラは、真面目すぎず崩れすぎず、格好よすぎずよれよれすぎず、ハードボイルドを気取ることもなく淡々と事件に当る、言ってみれば――練との関係を除けば――いたって普通なところが好感が持てる。
同じ未来を見られない麻生と練、その関係がこの先麻生の私立探偵としての仕事に影を差すようになるのだろうか。

神のふたつの貌*貫井徳郎

  • 2009/08/05(水) 21:30:23

神のふたつの貌神のふたつの貌
(2001/09)
貫井 徳郎

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ミステリーの限界を超えた新世紀の「罪と罰」!牧師の子に生まれ、神の愛を一途に求めた少年。もっとも神に近かったはずの魂は、なぜ荒野を彷徨うのか?無垢な魂の彷徨を描く渾身作。


牧師の子として生まれ育ち、「神」を真摯に思い詰め、神の愛を受けたいと真剣に思い続けたがために、出口のない森に迷いこんでしまったような物語である。
早乙女少年の心の中の葛藤が精細に描写されており、その考えの深さに目を瞠り、それゆえの短絡さに驚きを禁じ得ないのである。神とは…?信仰とは…?と考えさせられる一冊だった。
著者らしい企みは、タイトルにも籠められていているが、ラストで物語がひっくり返ってしまうほどではない。

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行方不明者*折原一

  • 2009/08/04(火) 06:59:57

行方不明者行方不明者
(2006/08)
折原 一

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埼玉県蓮田市で、ある朝、一家四人が忽然と姿を消した。炊きたてのごはんやみそ汁、おかずを食卓に載せたまま…。両親と娘、その祖母は、いったいどこへ消えたのか?女性ライター・五十嵐みどりは、関係者の取材をつうじて家族の闇を浮き彫りにしてゆく―。一方、戸田市内では謎の連続通り魔事件が発生していた。たまたま事件に遭遇した売れない推理作家の「僕」は、自作のモデルにするため容疑者の尾行を開始するのだが―。


蓮田市の一家消失事件と、戸田市の連続通り魔事件が、まったく別々に描かれるので、はじめは視点の転換に少々戸惑う。さらに、過去の一場面がフラッシュバックのようにはめ込まれるので、自分がどの時間軸に立っているのか、一瞬混乱させられる。戸田市の事件では、事件を追う推理作家自身が、度々夢なのか現実なのか区別がつかない状態に陥るので、読者も共に惑わされるのである。
やがてふたつの事件は一本になっていくのだが、賦に落ちるという感覚よりも、薄ら寒さが先に立つのは、事件のありようのせいだろうか。

沈黙者*折原一

  • 2009/08/01(土) 20:35:21

沈黙者沈黙者
(2001/11)
折原 一

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同夜、二軒の民家で発生した大量殺人と、警察の尋問に名前も明かさぬ謎の男。二つのストーリーをラストで待ち受ける驚愕の真相!


同じ新聞販売店の配達区域の二軒の家で、立て続けに家族が殺される事件が起こった。
物語は、いくつかの視点で描かれる。唯一残された田沼家の娘・ありさと、事件の第一発見者の新聞配達員・立花洋輔の視点。ディスカウントストアで万引きをして捕まるが、徹底して身元や名前を名乗らない沈黙者。そして、「私」が「君」に語りかける形でその沈黙者の行動を追っているらしい者の視点である。
巧みに描き分けることで、読者の目は間違った道へと導かれるのである。
わかってみれば、事件そのものは単純なもので、犯行の動機も、さらに言えば沈黙者が沈黙し続ける動機もいささか弱いように思われるが、思ってもみない真相に、目を覚まさせられたような心地がするのである。