亜愛一郎の転倒*泡坂妻夫

  • 2009/11/26(木) 18:52:23

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)
(1997/06)
泡坂 妻夫

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完璧な写実性で注目された画家の絵の中に見出される数々の不思議――手の指が六本ある少女、針の間違っている時計、開けられないドアなどは何を意味するのか? さらに一夜にして忽然と消失した合掌造りの家、タクシーの後部座席に突然出現した死体……等々、ちょっとした不合理から思いもかけぬ結論を導き出す亜愛一郎。快調の第二弾。


「第一話 藁の猫」 「第二話 砂蛾家の消失」 「第三話 珠洲子の装い」 「第四話 意外な遺骸」 「第五話 ねじれた帽子」 「第六話 争う四巨頭」 「第七話 三郎町路上」 「第八話 病人に刃物」

颯爽として見目麗しい青年写真家・亜愛一郎が、主人公であり探偵役のシリーズである。
見た目どおりのキャラクターならば物語はもっと違ったものになっていたかもしれないが、亜――これが彼の姓である――は、いささかだらしなく、粗忽でもあるのがご愛嬌である。しかし、目のつけどころは並ではない。ほんの些細な齟齬を見逃さずに、事件を解決へと導いてしまうのだから、優秀な探偵役と言えるのだ。たとえまるでそうは見えないとしても・・・。

ごきげんな裏階段*佐藤多佳子

  • 2009/11/24(火) 16:48:16

ごきげんな裏階段 (新潮文庫)ごきげんな裏階段 (新潮文庫)
(2009/10/28)
佐藤 多佳子

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アパートの裏階段。太陽も当たらず湿ったその場所には、秘密の生き物たちが隠れ住んでいる。タマネギを食べるネコ、幸せと不幸をつかさどる笛を吹く蜘蛛、身体の形を変えられる煙お化け。好奇心いっぱいの子供たちは、奇妙な生き物たちを見逃さず、どうしても友達になろうとするが…。子供ならではのきらめく感情と素直な会話。児童文学から出発した著者、本領発揮の初期作品集。


「タマネギねこ」 「ラッキー・メロディー」 「モクーのひっこし」

著者の子ども向け物語。みつばコーポラスの寂れた裏階段つながりの連作である。
裏階段は、じめじめしていて埃っぽく、壁にはヒビが入っていて薄気味悪く、なにやらヘンな生き物もいるのである。タマネギ頭のねこや、笛を吹く蜘蛛、煙を食べるけむりおばけなど・・・。みつばコーポラス住む子どもたちが彼らと出会い、家族や先生を巻き込んでごきげんな――不運なこともあるが――ひとときをすごすうちに、ほかの住人とも繋がっていく。子ども向けではあるが、細かい描写など大人でも充分愉しめる一冊である。

ニサッタ、ニサッタ*乃南アサ

  • 2009/11/23(月) 17:05:32

ニサッタ、ニサッタニサッタ、ニサッタ
(2009/10/21)
乃南 アサ

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最初の会社を勢いで辞め、二番目の会社が突然倒産し、派遣先をたて続けにしくじったときでも、住む場所さえなくすことになるなんて、思ってもみなかった。ネットカフェで夜を過ごすいま、日雇いの賃金では、敷金・礼金の三十万円が、どうしても貯められない。失敗を許さない現代社会でいったん失った「明日」をもう一度取り返すまでの物語。


タイトルの「ニサッタ」は、アイヌ語で「明日」という意味だそうである。
主人公・耕平は、口では地道にやっていきたいなどと言っているが、常に不満を抱え堪え性がなく、不運も重なり職を転々とするような不甲斐ない青年である。半ば過ぎまでは、とてもではないが「ニサッタ」など感じることもできないような状況である。そんな耕平が、ホームレスになる一歩手前までいきながら、なんとか明日の希望を見つけ出すラストは、胸をあたたかくする。エピローグの展開は唐突でもあるが、希望の端っこを掴まえるときというのはこんなものなのかもしれない。東京の新聞販売店時代の後輩であり、耕平を追うように知床にやってきた杏菜とのかかわりも、あたたかい気持ちにさせてくれる。

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あした咲く蕾*朱川湊人

  • 2009/11/21(土) 21:43:52

あした咲く蕾あした咲く蕾
(2009/08)
朱川 湊人

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「赦されること」と「受け入れられること」それがこの世の中で、一番うつくしいことだと思いませんか。世界一、うつくしい物語。


表題作のほか、「雨つぶ通信」 「カンカン軒怪異譚」 「空のひと」 「虹とのら犬」 「湯呑の月」 「花、散ったあと」

ホラー臭はなく――ちょっとした不思議は起こるが――心温まる物語集である。いまよりものんびりしていた昭和の頃を思い返す物語が多いのも、効果的である。大切な人と不思議な力。切なくあたたかい一冊だった。

骸の爪*道尾秀介

  • 2009/11/21(土) 08:04:38

骸の爪 (幻冬舎文庫)骸の爪 (幻冬舎文庫)
(2009/09)
道尾 秀介

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ホラー作家の道尾は、取材のために滋賀県山中にある仏像の工房・瑞祥房を訪ねる。彼がその夜見たものは、口を開けて笑う千手観音と、闇の中で血を流す仏像。しかも翌日には仏師が一人消えていた。道尾は、霊現象探求家の真備、真備の助手・凛の三人で、瑞祥房を再訪し、その謎を探る。工房の誰もが口を閉ざす、二十年前の事件とはいったい。


シリーズ二作目のようだが、一作目が未読でも充分愉しめる。
あちこちに伏線が張り巡らされ、記述方法にも読者の眼を欺く仕掛けが施され、愉しみがたくさんある一冊である。同じものを見ていても、各人が心に秘めていることによって、あるいはそれぞれの体験によって、まったく別物に見えていることもあるのだと、改めて思わされる。そこにちょっとした悪戯心のスパイスが振りかけられると、流れはとんでもない方向へと向かうのである。タイトルもいい。

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モーラとわたし*おーなり由子

  • 2009/11/19(木) 11:02:17

モーラとわたし (新潮文庫)モーラとわたし (新潮文庫)
(2009/02)
おーなり 由子

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モーラは、わたしのともだち。おとうさんやおかあさんには、みえない。かなしいときには、モーラがいつもきてくれた。眠れないときには、夜をこえ、空をこえ、あかるいみどりの野原へつれてってくれた。けれどもある日、モーラはいなくなっていた―。きっとあなたにもいたはず、忘れられないひみつのともだちが。心をじんとあたためて、なつかしく、やさしい気持ちにさせてくれる絵本。


きっとだれの心の中にも棲んでいるモーラ。ちいさなさみしがり屋さんに、なにも言わずにそっと寄り添ってくれる。モーラと過ごしたやすらぎは、いくつになっても忘れずにいたいものです。

元気でいてよ、R2-D2。*北村薫

  • 2009/11/18(水) 16:58:55

元気でいてよ、R2-D2。元気でいてよ、R2-D2。
(2009/08/26)
北村 薫

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●隣の課の課長が自分のことを好きらしいと聞いた陽子は、全く好意はないが変に意識するようになる。その後課長は若い部下との結婚が決まって、陽子は微妙に“振られた女”という目で見られるように。最初に課長の話を振ってきた後輩・亜里沙の作為を疑う陽子。だが後輩の行動はそれだけではなかった…「三つ、惚れられ」
●会社の後輩と居酒屋で飲んでいる女性の独白。連想ゲームのように次々と話題が出てくるなか、彼女の儚く終わった恋の記憶が蘇る…「元気でいてよ、R2- D2。」
●千葉に住む姉夫婦の家に数日泊まって東京見物をする詩織。義理の兄に郊外の美術館に連れて行ってもらう。日常を離れて特別な時間を味わうが、帰宅して姉に言われた言葉にどこか毒を感じてしまう…「さりさりさり」
他、普段は見えない人の真意がふと現れる瞬間を描く、全8編収録の短編集。


上記紹介作のほか、「マスカット・グリーン」 「腹中の恐怖」 「微塵隠れのあっこちゃん」 「よいしょ、よいしょ」 「ざくろ」

「普段は見えない人の真意」の内でも、ダークな部分が、するりと身を入れ替えるように描かれていて、静かに怖い。登場人物のだれもが、声を荒げるでもなく暴れるでもなくほんとうに静かで、あまりにも淡々としているのがかえってじんわりと怖い。「腹中の恐怖」の息子はもちろん怖いが、その母の怖さも背筋が凍りつくようである。

児玉清の「あの作家に会いたい」*児玉清

  • 2009/11/18(水) 13:36:24

児玉清の「あの作家に会いたい」児玉清の「あの作家に会いたい」
(2009/07/01)
児玉 清

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 大崎善生 角田光代 町田康 村山由佳 
 森絵都 真保祐一 江國香織 北原亞以子 
 荻原浩 あさのあつこ 北方謙三 浅田次郎 
 東野圭吾 三浦しをん 山本兼一 宮部みゆき 
 上橋菜穂子 有川浩 石田衣良 万城目学 
 北村薫 小川洋子 桜庭一樹 川上弘美 
 夢枕獏 


まさに、「あの作家に会いたい」と読者が思う顔ぶれである。
作品の書き方や、子ども時代の読書体験など、同じような質問でも、答えにはそれぞれ個性がにじみ出ていて興味深い。それぞれの作家のおすすめ本が載せられているのも嬉しい趣向である。
聞き手の児玉清さんの読書家ぶりも素晴らしい。

まほろ駅前番外地*三浦しをん

  • 2009/11/17(火) 13:27:30

まほろ駅前番外地まほろ駅前番外地
(2009/10)
三浦 しをん

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第135回直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』での愉快な奴らが帰ってきた。多田・行天の物語とともに、星、曽根田のばあちゃん、由良、岡老人の細君が主人公となるスピンアウトストーリーを収録。


「光る石」 「星良一の優雅な日常」 「思い出の銀幕」 「岡夫人は観察する」 「由良公は運が悪い」 「逃げる男」 「なごりの月」

なるほど「番外地」である。多田と行天にスポットを当てるというよりは、前作に登場した人物たちの日常に多田と行天が関わる形の物語になっている。そうは言っても、彼らふたりの関係には変わりはなく、相変わらず相性が良いのか悪いのか、依りかかっているのか依りかかられているのか判らないような、なし崩し的でありながら必然的とも言えるような関係性のままである。それがもどかしいような気もするが、心地好くもある。このまま安定せずに、安定して欲しい(?)ものだなどと、身勝手に願いたくなる。

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後悔と真実の色*貫井徳郎

  • 2009/11/15(日) 16:36:52

後悔と真実の色後悔と真実の色
(2009/10)
貫井 徳郎

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あの強固な呪縛から、いつか解き放たれたかった。若い女性を襲い、死体から人指し指を切り取る連続殺人魔「指蒐集家」が社会を震撼させている。警察は、ネットでの殺人予告、殺害の実況中継など犯人の不気味なパフォーマンスに翻弄され、足がかりさえ見えない。その状況下、捜査一課のエース、西條輝司はある出来事を機に窮地に立たされていた―。これは罠なのか?被害者たちにつながりはあるのか?犯人の狙いは何か?緻密な構成で不器用に生きる男たちを活写する傑作長編。


文句なく面白い一冊だった。
はじめの内は、横山秀夫氏張りの警察小説になるのかと思うほど、捜査一課の刑事たちの癖のある絡みが描かれるが、それがかなり興味深い。ひと口に刑事と言ってもまさに千差万別であり、使い方によっては、良くも悪くもとんでもないことになる、というのがよく判る。
真犯人は、主人公である西條が初めてその人物と接触したときに、すでに引っかかり、以後注目していたので、早い段階でわかったが、それでもなおページを繰るのを止めないのは、ひとえに著者の上手さである。509ページというボリュームを感じさせない一冊だった。

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない*桜庭一樹

  • 2009/11/13(金) 14:10:00

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet
(2007/03)
桜庭 一樹

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桜庭一樹の原点、青春暗黒ミステリーが単行本化!
どこにも行く場所がなく、そしてどこかに逃げたいと思っていた。そんな13歳の二人の少女が出会った。リアリストの山田なぎさと不思議系転校生の海野藻屑。すべては生きるために、生き残っていくために。


   

  第一章   砂糖菓子の弾丸とは、なかよくできない
  第二章   砂糖菓子の弾丸と、ふたりぼっち
  終章   砂糖菓子の弾丸とは、もうあえない

 
冒頭に載せられた新聞記事の抜粋で、すでに物語に惹きこまれる。
この記事に至るまでのあれこれが、第一章から綴りはじめられているのである。砂糖菓子という、甘くほろほろと崩れやすそうなタイトルの裏に、これほど救いのない人生が隠されていようとは・・・。
手立てがなかったわけではないだろう。それなのに何故救い出すことができなかったのか。自らを人魚という少女の諦念も、やるせなさすぎる。それでも、最後の数か月は、少女にとってしあわせに似たものだったと思いたい。

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初恋ソムリエ*初野晴

  • 2009/11/12(木) 20:20:06

初恋ソムリエ初恋ソムリエ
(2009/10/02)
初野 晴

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廃部寸前の弱小吹奏楽部に所属する穂村チカと上条ハルタ。吹奏楽部の甲子園「普門館」を目指して日々練習を重ねる二人に、難事件が? 話題作『退出ゲーム』待望の続編!


表題作のほか、「スプリングラフィ」 「周波数は77.4MHz」 「アスモデウスの視線」

部員もずいぶん充実し、吹奏楽部は次ぎの段階へと進んでいる。だが、それだからこその問題もまた起こってくるので、なかなか安泰とはいかないのである。そして相も変わらず、学校内外の変わり者(?)がトラブルを背負ってやってくる。望むと望まざるとにかかわらず、首を突っ込むことになるのが、ハルタとチカの名(迷)コンビである。彼らの三角関係にもまったく進展はない。
ひと癖もふた癖もある者ばかりが吹奏楽部に集まってくる気がするが、芸術家肌ということなのだろうか。
次作も愉しみなシリーズである。

無理*奥田英朗

  • 2009/11/11(水) 13:04:26

無理無理
(2009/09/29)
奥田 英朗

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人口12万人の寂れた地方都市・ゆめの。この地で鬱屈を抱えながら生きる5人の人間が陥った思いがけない事態を描く渾身の群像劇。

相原友則―弱者を主張する身勝手な市民に嫌気がさしているケースワーカー。
久保史恵―東京の大学に進学し、この町を出ようと心に決めている高校2年生。
加藤裕也―暴走族上がりで詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマン。
堀部妙子―スーパーの保安員をしながら新興宗教にすがる、孤独な48歳。
山本順一― もっと大きな仕事がしたいと、県議会に打って出る腹づもりの市議会議員。

出口のないこの社会で、彼らに未来は開けるのか。


ゆめの市という寂れた地方都市に暮らすという以外何も接点のない五人である。それぞれの状況が交錯することなく順番に淡々と描かれている。それだけで充分に重い。どの人物の物語も、明らかな他人事と割り切れないところが、さらに胸の中にもやもやを溜め込み重くする。
ひとりずつでも充分に重いのに、どういうわけかラストで彼らは吸い寄せられるように一箇所に集まり、とんでもない事故に巻き込まれるのである。しかし、命の危険さえあるようなこの事故が、なぜか救いのようにも思えてしまう。それほど重い一冊だった。

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はむ・はたる*西條奈加

  • 2009/11/08(日) 16:37:04

はむ・はたるはむ・はたる
(2009/08/20)
西條 奈加

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心に傷を負った若き侍と、江戸の下町でたくましく生きる孤児たちの、強い絆とままならぬ過去への思いを描く青春時代小説。


表題作のほか、「あやめ長屋の長治」 「猫神さま」 「百両の壺」 「子持稲荷」 「花童」という六つの連作物語。

『烏金』の続編である。江戸の下町を舞台に、いまではもう立派に更生した子どもたちが、金貸しのお吟婆さんや、武家の長谷部様の力を借りて、稲荷売りをして暮らしている。そんな折り、その存在も知らなかった長谷部様の弟・柾(まさき)様が放浪の旅から戻ってきた。子どもらと同じ長屋に住まい、直に彼らに頼りにされる存在になる柾様であるが、江戸に戻ってきたのには何か仔細があるようである。仲間のため、柾様のため、子どもたちはきょうも働きながら手を尽くす。幼い恋心も絡めつつ、生き生きとしたお江戸物語になっている。

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シングルベル*山本幸久

  • 2009/11/06(金) 17:21:47

シングルベルシングルベル
(2009/06/05)
山本 幸久

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典型的な草食系男子で結婚興味なしの陽一は、父の策略で3人の女性と見合いをする羽目になる。外資系バリバリ管理職、バンド大好きOL、元人気モデルの中から彼が選んだ女性とは? ドラマでも話題の「婚活」世代に送るコメディタッチの恋愛小説。


婚活――好きな言葉ではないが――流行り(?)の今日このごろである。だが、この物語に登場する男女は、結婚を焦って自ら婚活に乗り出しているわけではない。婚活しているのは、親や伯母たちなのである。「月下老倶楽部」なる親のための婚活セミナーまである始末。そして、そこで出会った親たちが、ドタバタお見合い劇を繰り広げるのだが・・・・・。
セミナーでの親たちの我が子売り込みの様子をみていると、どんな情けない子どもたちなのだろうか、と思ってしまうが、実際の子どもたち――とは言っても立派な大人である――は、それぞれが結構それなりに社会で役に立っている。いくつになっても子どもは子ども、という様子が微笑ましくもあり、情けなくもある。ドタバタ劇ではあるが、描かれ方は丁寧で、それぞれの人生がよく見える。誰もが良かれと思って手を尽くしているのが判って微笑ましくもある。
文句なく愉しい読書タイムだった。

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パイの物語*ヤン・マーテル

  • 2009/11/05(木) 19:29:25

パイの物語パイの物語
(2004/01)
ヤン マーテル

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1977年7月2日。インドのマドラスからカナダのモントリオールへと出航した日本の貨物船ツシマ丸は太平洋上で嵐に巻き込まれ、あえなく沈没した。たった一艘しかない救命ボートに乗り助かったのは、動物たちをつれカナダへ移住する途中だったインドの動物園経営者の息子パイ・パテル16歳。ほかには後足を骨折したシマウマ、オラウータン、ハイエナ、そしてこの世で最も美しく危険な獣ベンガルトラのリチャード・パーカーが一緒だった。広大な海洋にぽつりと浮かぶ命の舟。残されたのはわずかな非常食と水。こうして1人と4頭の凄絶なサバイバル漂流が始まった…。生き残るのは誰か?そして待つ衝撃のラストシーン!!文学史上類を見ない出色の冒険小説。


  

  覚え書きとして
  第一部 トロントとポンディシェリ
  第二部 太平洋
  第三部 メキシコ、トマトラン、ベニート・フワレス診療所


第一部では、物語の主人公ピシン・モリトール・パテル(通称パイ・パテル)の育った環境について語られ、第二部では、沈没した船から救命ボートに乗り移り、リチャード・パーカーと共に耐え忍んだ、227日間の漂流生活について語られる。そして第三部で、奇跡的に助かったパイ・マテルの話を聞く、という構成になっている。
物語のメインとなる漂流物語は、手に汗握るものであり、強靭な精神力と工夫や決断力を興味深く読んだ。そして第三部で、思いもしないことを知らされて面食らうのである。なんということだろうか。
ただ、やはり翻訳ものは苦手で、いささか読むのに苦労した。

ifの迷宮*柄刀一

  • 2009/11/02(月) 20:22:00

ifの迷宮 (光文社文庫)ifの迷宮 (光文社文庫)
(2003/04/10)
柄刀 一

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とっくに死んだはずの人物の遺伝子が、殺人事件現場から発見されたら!?遺伝子治療や体細胞移植を手がける最先端医療企業SOMONグループ。その中枢を担う宗門家で、顔と手足が焼かれた女性の死体が発見された。現場のDNA鑑定が示したのは、“死者の甦り”という肯きがたい事実だった―。読者を謎の迷宮へ誘う本格推理の真骨頂。


ほんの少し先の時代を舞台にした物語である。出生前診断で退治の遺伝子をチェックすることが、一般的になり、中絶の選択権がゆるやかになっている時代である。そんな時代に、遺伝子治療や体細胞移植をてがける宗門家の周りで殺人事件が起こるのだが、次々と奇妙な事実――とっくに亡くなっているはずの人物の遺伝子が検出されたり、被害者だと思った死体の遺伝子が加害者のものだったり――が判明するのである。
命の問題、人生の問題、幸福の問題・・・。さまざまな問題を投げかけられているような心地で読んだ。何が正しいのか、一概には言えないと思うが、安易に流されていい問題ではないと改めて思わされた。