花と流れ星*道尾秀介

  • 2009/12/30(水) 17:14:21

花と流れ星花と流れ星
(2009/08)
道尾 秀介

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死んだ妻に会いたくて、霊現象探求所を構えている真備。その助手の凛。凛にほのかな思いをよせる、売れないホラー作家の道尾。三人のもとに、今日も、傷ついた心を持った人たちがふらりと訪れる。友人の両親を殺した犯人を見つけたい少年。拾った仔猫を殺してしまった少女。自分のせいで孫を亡くした老人…。彼らには、誰にも打ち明けられない秘密があった。


表題作のほか、「モルグ街の奇術」 「オディ&デコ」 「箱の中の隼」 「花と氷」

真備庄介と北見凛、そして道尾のシリーズである。
不思議な現象と傷ついた心、呼ばれるのか、惹き寄せるのか、本来の仕事とは少し違った相談事が多く集まる真備霊現象探求所である。真備自身の傷ついた心が未だ癒されないことと関係があるのだろうか。どの物語も、もの哀しく胸を締めつける。少年少女が登場するのも、幼さゆえのある意味残酷な真っ直ぐさが胸を刺す。真備の心にまだ夜明けはきそうもなく、それも案じられる。

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外科医 須磨久善*海堂尊

  • 2009/12/29(火) 16:52:57

外科医 須磨久善外科医 須磨久善
(2009/07/23)
海堂 尊

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“海堂ワールドの新展開、外科医の謎に迫る。” 世界的権威の心臓外科医はいかにして誕生したのか。旧弊な学界から若くして認められるため、どんな奇策をとったのか。現役医師作家にしか書けない、医者の秘密。


小説かと思って読み始めたのだがそうではなかった。『チームバチスタの栄光』を著すきっかけになったとも言える、外科医中の外科医・須磨久善氏の人物伝とでもいう一冊だったのである。
越境者の中の破境者として、心臓外科とそれ以外の外科、そして内科との間に厳然と立ちはだかる壁を乗り越えると同時に壁を突き崩して、技術の交流を実現させ、外科医としてとるべき道を歩み続けてきた須磨医師の魅力が充分に伝わってくる。こんな神さまのような人がほんとうに存在するのだろうか、と疑いたくなるほど神々しく見える。こんな医師がいてくれるなら、心臓外科の未来は明るい、と文句なく思わせてくれる一冊である。

かけら*青山七恵

  • 2009/12/27(日) 17:02:25

かけらかけら
(2009/10/01)
青山 七恵

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父は、昔からちゃんと知っていたようにも、まったくの見知らぬ人であるようにも感じられた―第35回川端康成文学賞受賞。最年少で受賞した表題作を含む珠玉の短篇集。


表題作のほか、「欅の部屋」 「山猫」

日常のひとコマが淡々と描かれているだけなのだが、何かが心に留まる。問題が解決されるわけでもなく、カタルシスを得られるわけでもなく、ただそこにあるもの、そこで起こりつつあることが、あるように描かれているだけなのに、沁みてくるものがある。「かけら」の父、「欅の部屋」の小麦、「山猫」の栞に共通する不器用な生き方が好ましいからだろうか。不思議な心地にさせられる一冊だった。

死者の裏切り*桂修司

  • 2009/12/26(土) 16:50:16

死者の裏切り死者の裏切り
(2009/11/06)
桂 修司

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日本の法律では、失踪してから七年間が経てば、遺体が発見されなくても死者とみなすことができる―。偶発的に夫を殺してしまった祐子。彼女は遺産を相続するために、愛人・黒沢とともに自宅の地下室に遺体を隠し、蒸発を装う。しかし、義母が雇った探偵が真実に迫ろうとする。祐子たちは探偵の目を欺くため、警察が公開している身元不明者のリストに目をつけて…。祐子は家族や探偵、警察を騙し通し、遺産を手に入れることができるのか。


翻弄していると思っていたが、実は翻弄されているのは自分の方だった。そんな逆転の視点が愉しめる。しかしそれだけではなく、最大のどんでん返しがラスト近くに用意されているのである。夫・和彦の真意が判ったところで想像できたが、そこへ辿り着くまでの道のりは充分愉しむことができた。祐子の愚かさとしたたかさ、そして哀れさを思わされる一冊でもあった。

亜愛一郎の狼狽*泡坂妻夫

  • 2009/12/24(木) 21:24:42

亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)
(1994/08)
泡坂 妻夫

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『11枚のとらんぷ』を筆頭に、『乱れからくり』等数々の名作でわが国推理文壇に不動の地位を築いた泡坂妻夫が、この一作をもってデビューを飾った記念すべき作品―それが本書冒頭に収めた「DL2号機事件」である。ユニークなキャラクターの探偵、亜愛一郎とともにその飄々とした姿を現わした著者の、会心の笑みが聞こえてきそうな、秀作揃いの作品集。亜愛一郎三部作の開幕。


  第一話  DL2号機事件
  第二話  右腕山上空
  第三話  曲がった部屋
  第四話  掌上の黄金仮面
  第五話  G線上の鼬
  第六話  掘り出された童話
  第七話  ホロボの神
  第八話  黒い霧


本作がシリーズ第一弾らしい。亜愛一郎や、三角形の顔をした小柄な洋装の老婦人の出自を知ってしまったあとでも、亜の容貌と行動の落差は相変わらず愉しめる。
物語はパターン化されているが、それがまた安心していられるし、愉しみでもある。愛すべき亜愛一郎である。

きりこについて*西加奈子

  • 2009/12/22(火) 18:44:54

きりこについてきりこについて
(2009/04/29)
西 加奈子

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きりこは両親の愛情を浴びて育ったため、自分がぶすだなどと思ってもみなかった。小学校の体育館の裏できりこがみつけた小さな黒猫「ラムセス2世」はたいへん賢くて、しだいに人の言葉を覚えていった。ある事件がきっかけで引きこもるようになったきりこは、ラムセス2世に励まされ、外に出る決心をする。夢の中で泣き叫んでいた女の子を助けるために…。美しいってどういうこと? 生きるってつらいこと? きりこがみつけた世の中でいちばん大切なこと。最新書き下ろし長編小説。


きりこの容姿は、言い表す言葉を見つけるのが難しいほど一般的な「美」から外れている。要するに「ぶす」である。だが、両親(パァパとマァマ)はこの上なく愛娘・きりこのことを可愛がり、あふれんばかりの愛を注いで育てたので、周りの反応がどうあれ、きりこ自身は自分がぶすだなどとはこれっぽっちも思わず、思春期のある出来事までは、いちばん可愛いのだと思っていた。価値観を覆され、引きこもり、予知夢を見て立ち上がり、自分を取り戻す過程をすべて見ていたのは、賢い黒猫ラムセス2世だった。
唯一無二の自分であること、容れ物ではなく中身で判断すべきだということ、心の声に従うことが自分を大切にすることであるということ、惜しみない愛は強いということ。さまざまな教訓が含まれているのだが、説教臭いわけではなく、自分を見つめ直してみようという心地にさせられる一冊である。

新参者*東野圭吾

  • 2009/12/20(日) 21:30:16

新参者新参者
(2009/09/18)
東野 圭吾

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立ちはだかるのは、人情という名の謎
日本橋の片隅で発見された四十代女性の絞殺死体。「なぜ、あんなにいい人が」と周囲は声を重ねる。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、未知の土地を歩き回る。

「この町のことを思い浮かべるだけで、忽ち様々な人間が動きだした。そのうちの一人を描こうとすると、そばにいる人々の姿も描かざるをえなくなった。まるでドミノ倒しのように、次々とドラマが繋がっていった。同時に謎も。最後のドミノを倒した時の達成感は、作家として初めて味わうものだった」――東野圭吾


 第一章 煎餅屋の娘
 第二章 料亭の小僧
 第三章 瀬戸物屋の嫁
 第四章 時計屋の犬
 第五章 洋菓子屋の店員
 第六章 翻訳家の友
 第七章 清掃屋の社長
 第八章 民芸品屋の客
 第九章 日本橋の刑事


加賀恭一郎のシリーズ。連作短編集の形をとっているが、内容は長編という作りの物語である。
日本橋小伝馬町のマンションで、四十代のひとり暮らしの女性・三井峯子(独身・子どもあり)が絞殺された。最初に現場に駆けつけたのが、所轄の加賀だった。殺人事件なのでもちろん犯人を捜すための捜査が行われるのだが、物語は、加賀が歩き回り、聴きこみに行った先の関係者に事件とは無関係であることを証明して回ることに費やされている。これでどうやって犯人に辿り着くのかと訝しみはじめる頃、予てから目をつけていた人物にちゃんと辿り着くのである。
著者が「ドミノ倒しのように」と書いているように、ひとつの小さな手がかりは、それを見落としさえしなければ次の手がかりへとつながり、ひとつひとつを確実に倒していくことで、まっさらなところに事件の解決という一枚の絵を描き出すのである。さすが東野さん、巧いものである。

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球体の蛇*道尾秀介

  • 2009/12/19(土) 11:28:28

球体の蛇球体の蛇
(2009/11/19)
道尾 秀介

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1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない―。青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。


冒頭に、『星の王子さま』の中のゾウを呑み込んだウワバミの逸話が載せられており、それがこの物語を象徴している。呑み込んだものの真実は、ウワバミ自身にしかわからない。
乙太郎さんの葬儀に向かう現在の友彦が、十六年前の少年時代を思い出すという形の物語である。その思い出は、高校生という輝かしい時代であるにもかかわらず、どうにもならない哀しさにあふれていて読む者の胸の裡を切なさで満たす。思いやりから出た嘘が、勘違いから出た嘘が、人をこうまで縛るのか。一度狂った歯車は、二度と元に戻せはしないのか・・・。ラストの明るい未来にさえ、嘘の影が寄り添っているのか。影を消すほどの光が、ふたりに降り注ぐことを祈らずにいられない。

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扉守*光原百合

  • 2009/12/17(木) 19:26:49

扉守(とびらもり)扉守(とびらもり)
(2009/11/25)
光原 百合

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瀬戸の海と山に囲まれた懐かしいまち・潮ノ道にはちいさな奇跡があふれている。こころ優しい人間たちとやんちゃな客人が大活躍。待望の、煌めく光原百合ワールド。


表題作のほか、「帰去来の井戸」 「天の音、地の声」 「桜絵師」 「写想家」 「旅の編み人」 「ピアニシモより小さな祈り」

著者の故郷・尾の道を舞台にしたちょっと不思議な物語である。三つの山と海に囲まれた弓形の土地・潮の道は、古の昔から、不思議な力が集まる場所と言われていたらしい。現代になってもそれは変わらず、さまざまな不思議な力を持つ人々が惹き寄せられるようにやってくるのだった。持福寺の住職・了斎は、普段は住職らしからぬさばけたオジサンなのだが、どういうわけかいろんな人と繋がりがあって、潮の道に呼び寄せるのである。実は、潮の道の要のような人物なのである。不思議な現象を毛嫌いして排除するのではなく、あるがままに受け止めて日常にしてしまう潮の道の人々の懐の深さが素敵であり、そんな土地に暮らしていることが羨ましくなる一冊である。
どうやらシリーズ化しそうである。次作も愉しみ。

IN*桐野夏生

  • 2009/12/15(火) 16:50:09

ININ
(2009/05/26)
桐野 夏生

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小説は悪魔ですか。それとも、作家が悪魔ですか?
かつて小説家の緑川未来男は、
愛人の存在に嫉妬した妻の狂乱を
『無垢人』という小説で赤裸々に書いた。
そして今、小説家の鈴木タマキは、
己自身の恋愛の狂乱と抹殺を
『淫』という小説に書こうとしていた。
『無垢人』と『淫』を繋ぐ、「○子」とは誰か?
やがて「○子」は、書く人と書かれた人と書かれなかった人々の蠢く
小説の此岸の涯へ、タマキを誘っていく。


作品に登場する作家・緑川未来男の小説『無垢人』が半ばに挿入されてはいるが、章ごとのタイトルはすべて「イン」である。「淫」「隠」「因」「陰」「姻」そしてタイトルの「IN」。
作家・鈴木タマキが自分の小説を書くために、緑川未来男の『無垢人』に登場する愛人・○子を探し出し、恋愛の抹殺を解き明かそうという物語なのだが、タマキ自らのW不倫である恋愛の抹殺も絡みあって、ときとして現実と虚構を行きつ戻りつするような感覚である。小説というものの性質を考えると、すべてが作者・緑川未来男によって生み出されたものかもしれず、本人亡きいまとなっては真実はだれにも判らず、周りの人々がそれぞれに想像することしかできないのかもしれない。読者としては、そんな正解のない旅をタマキと共に歩んだ心地である。もどかしさの残る一冊と言えるかもしれない。

星間商事株式会社社史編纂室*三浦しをん

  • 2009/12/12(土) 16:46:37

星間商事株式会社社史編纂室星間商事株式会社社史編纂室
(2009/07/11)
三浦 しをん

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川田幸代。29歳。独身。腐女子(自称したことはない)。社史編纂室勤務。彼氏あり(たぶん)。仕事をきっちり定時内にこなし、趣味のサークル活動に邁進する日々を送っていた彼女は、ある日、気づいてしまった。この会社の過去には、なにか大きな秘密がある!……気づいてしまったんだからしょうがない。走り出してしまったオタク魂は止まらない。この秘密、暴かずにはおくものか。社史編纂室の不思議な面々、高校時代からのサークル仲間、そして彼氏との関係など、すべてが絡まり合って、怒濤の物語が進行する。涙と笑いの、著者渾身のエンターテインメント小説。幸代作の小説内小説も、楽しめます!


社史と同人誌とを同列に並べてしまったところが著者らしい一冊である。そこに、50年代後半から60年代初頭の日本のめざましい経済発展期における、星間商事株式会社の歴史の穴の謎解きを絡め、社史編纂室のメンバーたちの独特のキャラクターと出自来歴の秘密(?)を絡めて、愉しい一冊に仕立てられている。

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亜愛一郎の逃亡*泡坂妻夫

  • 2009/12/10(木) 16:59:27

亜愛一郎の逃亡 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)亜愛一郎の逃亡 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
(1997/07)
泡坂 妻夫

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長身で二枚目、行動は些か心許ないが、虫や雲を撮ることにかけては右に出る者のない実力派カメラマン、亜愛一郎。だが、彼の行くところ、必ず怪事件が勃発する。そして愛一郎が白眼をむいたときは、決まって事の真相を言い当てるのだ。快調の連作第3弾。愛一郎の行く先に必ず現れる不思議な人物の正体も、遂に解き明かされる時がきた。愛すべき名探偵、亜愛一郎最後の事件簿。


表題作のほか、「赤島砂上」 「球形の楽園」 「歯痛の思い出」 「双頭の蛸」 「飯鉢山山腹」 「赤の賛歌」 「火事酒屋」

あり得ないだろう、と思われる奇抜なトリックもなくはなかったが、ほとんどは正当なミステリである。ただ、主役の亜愛一郎を筆頭に、登場人物たちがいささか間が抜けているというか愛すべき人々なので、コメディのようにするすると読めてしまうのである。回文で遊んでみたり、登場人物の名前で遊んでみたりと、著者も愉しんでいるようである。
どこにでも登場する謎の人物・三角形の顔をした様相の老婦人は誰なのか、の謎も解け、亜愛一郎自身の素性も明らかにされる表題作は、いちばんありそうもないが、いちばんこのシリーズらしくもあるかもしれない。

ひまわり事件*荻原浩

  • 2009/12/08(火) 19:11:54

ひまわり事件ひまわり事件
(2009/11/13)
荻原 浩

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実行犯は、ジジババと幼稚園児?隣接する有料老人ホーム「ひまわり苑」と「ひまわり幼稚園」。老人とガキどもの不思議な交流、やがて起こるカゲキな「事件」とは?荻原浩渾身の熱血幼老小説!―。


101の章から成るが、101章目(現在)が冒頭に置かれ、そのあとに1章(13年前)以降がつづく。
隣り合った、経営者を同じくする老人ホームと幼稚園。経営者側の勝手な思惑に降りまわされながら、甘んじている老人たちと、そんなことは関知せずに無邪気にはしゃぐ園児たち。そんな中、ホームの待遇など姿勢のあり方に疑問を投げかける人物が現れ、落ちこぼれ園児たちを巻き込んで、権力闘争へと発展するのである。
普段交流のない老人と園児が、いきなり苑園合同行事をつきつけられ、はじめは戸惑い、恐る恐る様子を伺うが、次第に自然に振舞えるようになって行く過程が無理なく描かれていて微笑ましい。老人も子どもも、それぞれが自分の身に引き比べて相手のことを考える様も興味深い。重いテーマがいくつも盛り込まれているのだが、園児の奔放な行動力や無邪気なのか生意気なのかわからない生態を交えて、重苦しくなくコメディタッチで描かれているので、難なく読めるのだが、考えさせられることは意外に多い一冊だった。

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龍神の雨*道尾秀介

  • 2009/12/04(金) 17:22:58

龍神の雨龍神の雨
(2009/05)
道尾 秀介

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人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。最注目の新鋭が描く、慟哭と贖罪の最新長編。


全編雨である。鬱陶しく憂鬱な雨。その雨が、ふたつの家族の運命を変えたのかもしれない。
血の繋がらない親と子として、ぎこちない家族を作らなければならなかったことは、親にとっても子等にとっても不幸である。血が繋がらないが故に無条件に信頼し愛することができず、疑心に駆られる。たとえその思いが間違いであったとしても、最初に選択肢を間違えたとしたら、後戻りすることは叶わないのである。
あることをきっかけにいままで見えていた景色がガラッと様相を変えたとき、背筋に寒気が走った。

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不安な産声*土屋隆夫

  • 2009/12/03(木) 13:51:48

不安な産声[新装版] (光文社文庫)不安な産声[新装版] (光文社文庫)
(2003/05/13)
土屋 隆夫

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大手薬品メーカー社長宅の庭で、お手伝いが強姦・絞殺された。容疑者として医大教授・久保伸也の名が挙がり、犯行を自供する。名誉も地位もある男がなぜ? しかも、久保にはアリバイがあり殺害動機もなければ証拠もない。担当検事・千草がみた、理解を超える事件の裏に隠された衝撃の真相とは…?斬新な手法を駆使した日本推理小説史上に残る記念碑的作品。


強姦殺人事件の犯人として拘留中の産婦人科医師・久保が担当検事・千草に宛てた上申書、という形体を取る物語である。早い時点で犯行を自供した久保であったが、たまたま殺人事件が起きて間もない現場を通りかかった千草の職業的な勘によって、久保が隠しとおしたかった真の動機を述懐させることに成功したのだが、最後には、真犯人の久保でさえ想像もしなかった驚愕の真実が待ち構えているのである。
人工授精という厳粛な問題をテーマに据え、人の弱さとしたたかさ、幸福の絶頂と裏腹な罪の意識を描いて見事である。読み応えのある一冊だった。

カリスマ 上下*新堂冬樹

  • 2009/12/01(火) 19:00:39

カリスマ (上)カリスマ (上)
(2001/03)
新堂 冬樹

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カリスマ (下)カリスマ (下)
(2001/03)
新堂 冬樹

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人間はなぜ、カリスマとなることができるのか? 新興宗教とその最高幹部、そして魅入られたように入信する女性。その夫をめぐり究極の人間ドラマが展開される。これ以上ない程リアルに描かれる洗脳・プロパガンダ・覚醒…。


新興宗教の教祖への盲信によって、目の前で父を殺し自殺した母を求めるあまりに、自らも神の郷の教祖となった男・神郷宝仙。彼は、心理学の理に叶ったシステムで悩める人々を洗脳し、カリスマになることを目指した。洗脳の様子には鬼気迫るものがあり、間違ってもこんなところに参加してはならないという思いを新たにさせられる。神の郷の教えのほとんどは荒唐無稽のたわごとなのだが、ほんのひと握りの真理が混ぜ込まれているのがかえって恐ろしい。
ただ、子どものころのトラウマによって、自らをカリスマに仕立て上げるようになる動機が、もうひとつ納得できなくて、唐突にも思えた。さらに、母の無償の愛を求める、いわばマザコンであり、自らの欲求を制御できない俗物である神郷を描くのに都合が良くもあったのだろうが、性欲にまつわる描写が多用されるのにはいささかうんざりであった。途中で本を閉じたくなったほどである。
ラストで二転三転する展開には、息をつかせぬものがあったが、あまりにも急転直下という感じで、説明的でもあったような気がする。後味がいい一冊とは言いがたい。