リライブ*小路幸也

  • 2010/02/28(日) 16:57:02

リライブリライブ
(2009/12/22)
小路 幸也

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生きることは、選ぶこと。選ぶことは、悔やむこと?命の灯火が消える瞬間、“バク”が囁きかける。運命の恋人を失った夜。いまの仕事を選んだあの日―頭に浮かぶ、人生の分岐点。そこからもう一度、やり直させてあげましょう。ただし、ひとつだけ条件がありますが―。かれらが何を選んだのか?あなたの予感は、覆される。


「輝子の恋」 「最後から二番目の恋」 「彼女が来た」 「J」 「生きること」 「あらざるもの」 「すばらしきせかい」という七編の連作短編集。
まさに命の灯火を消そうというそのときに、「バク」に思い出を差し出し、引き換えにある時点から先の人生を生き直す物語である。簡単に言えば、選ばなかった未来を生きるということである。どこに戻るか、どうやり直したくてそこに戻るかは人それぞれである。だが、等しく第一の人生よりもよく生きたいと思ってそこへ戻る決意をするのである。その人生を終えて再びバクと出会うとき、その人は概ね満足しているように見える。そしてさらにそれだけでは終わらず、もうひと回り大きなものに包まれた物語なのである。「愛」なのかもしれない。
自分だったら、どの時点に、なにを変えるために戻るだろうか、あるいは戻らずにそのまま命の灯火を消すだろうか、と考えさせられる一冊だった。

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極北クレイマー*海堂尊

  • 2010/02/27(土) 17:13:30

極北クレイマー極北クレイマー
(2009/04/07)
海堂 尊

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『週刊朝日』大好評連載小説の単行本化。現役医師で医療エンターテインメント街道を驀進する著者の最新作。赤字5つ星の極北市民病院に赴任した外科医・今中を数々の難局が待っていた。不衛生でカルテ記載もずさん、研修医・後藤はぐーたらだし、院長と事務長は対立している。厚生労働省からの派遣女医・姫宮は活躍するが、良心的な産婦人科医はついに医療事故で逮捕された。日本全国各地で起きている地域医療の破綻を救えるのは誰か?


現実の事件や出来事を下敷きにした物語なのだが、実際に、病院がこれに近い状況に陥いることがあるというのが信じられないし、信じたくない。自治体の破綻も然りである。
小説としては、姫宮の活躍――に見えないとしても――は胸がすくし、志を捨てずに懸命に自分の職務を全うする意志の姿は清々しい。同じ時期に桜ノ宮市ではバチスタ裁判が行われ、速水部長は、救急救命センターで自分を貫いていると思うと、感慨もひとしおである。
海堂尊氏と言えば医療ミステリ、と思っていたのだが、内容紹介にあるように、医療エンターテインメントだと思うと、バチスタ以来のミステリ色のなさにも頷ける。

私の家では何も起こらない*恩田陸

  • 2010/02/25(木) 07:09:25

私の家では何も起こらない (幽BOOKS)私の家では何も起こらない (幽BOOKS)
(2010/01/06)
恩田 陸

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この家、あたししかいないのに、人がいっぱいいるような気がする・・・・・・
ようこそ、丘の上の幽霊屋敷へ。恩田陸が描く、美しく不穏なゴーストストーリー。
小さな丘の上に建つ二階建ての古い家。この家は、時がゆっくり流れている。幽霊屋敷と噂されるその家にすむ女流作家は居心地のよいこの家を愛している。
血の海となった台所、床下の収納庫のマリネにされた子どもたち・・・・・・いったいこの家にはどんな記憶が潜んでいるのだろう。幽霊屋敷に魅了された人々の美しくて優雅なゴーストストーリー。恩田陸が描く幽霊屋敷の物語。ラストには驚愕の書き下ろし短編が!


表題作のほか、「私は風の音に耳を澄ます」 「我々は失敗しつつある」 「あたしたちは互いの影を踏む」 「僕の可愛いお気に入り」 「奴らは夜に這ってくる」 「素敵なあなた」 「俺と彼らと彼女たち」 「私の家へようこそ」という連作物語。そして 「付記・われらの時代」

「私」――それが誰であるにしろ――しかいない家のはずなのに、蓮作それぞれにつけられたタイトルの人の多さはどうしたことだろう。そこからしてまず不穏である。物語はとても静かに穏やかに流れていく。語り口調も、激することなどこれっぽっちもなく、極めて落ち着いて淡々としている。それなのにこの身震いするような気配。時間を遡り、進み、気配のわけが解き明かされるが、それは何の解決でもない。積もり積もった人々の気配。その内語られているのがいつなのか、語るのが誰なのかさえあやふやになってくる。これからも必ず同じことがここで繰り返され続けるだろうという、ぞくりとするような予感だけが残る。不穏で不安で、しかしどこかうつくしい一冊である。

星降る楽園でおやすみ*青井夏海

  • 2010/02/24(水) 14:00:27

星降る楽園でおやすみ星降る楽園でおやすみ
(2006/08)
青井 夏海

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無認可保育室に二人組の男が籠城、五人の子どもが人質に。身代金はひとり五百万円という微妙な額だった。身内に犯人を手引きした人物がいる?疑心暗鬼の園長。そして人質家族の人間模様。


無認可保育園・アイリスキッズホーム。経済に余裕がある人が高い保育量を払って利用するのだろう。普段なら、園児の親同士でさえ深い交流などなく、互いのことをそう思っている。園児と職員を人質に取った籠城事件が起こって初めて、それぞれの家庭の事情が明らかにされていくに連れ、それぞれが抱えている問題が表に出てくるのが興味深い。そして、園長の早紀は、身内に内通者がいるのでは、と疑う。彼女の思考を追うのもスリリングであり、いちいち納得させられてしまう。事件は、思わぬ決着を見るが、決して解決されたとは言えないのである。人質に取られた園児たちそれぞれの家庭では、建前が崩れて本音が露わになり、悲喜こもごもといった様相である。救いは、誰も死ななかったこと。そして、園長の早紀と、姪の淑子の間の壁が取り払われたことだろう。

赤ちゃんがいっぱい*青井夏海

  • 2010/02/22(月) 16:58:24

赤ちゃんがいっぱい (創元推理文庫)赤ちゃんがいっぱい (創元推理文庫)
(2003/04)
青井 夏海

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アルバイト先の助産院をリストラされた陽奈は、急場をしのぐために〈ハローベイビー研究所〉に就職するが、そこでは価値のないものばかり消え失せる目的不明の盗難が続発し、さらには十八年前を再現したかのような赤ちゃん置き去り騒ぎが起きた。いったい研究所内で何が進行しているのか? 安楽椅子探偵の推理が冴えるシリーズ初長編!


助産師シリーズ第二弾。今回は長編である。
天才児を産むための胎児教育の大切さを謳って設立された、なにやら胡散臭い研究所に再就職することになってしまった陽奈である。そして、研究所の広告塔とも言うべき初代天才児・奥園時夫と出会い、胡散臭さの中に飛び込むことになってしまうのだった。
先輩助産師・聡子さんとご主人の宝田さんの喧嘩のような夫婦の会話には、愛が感じられ、息子・優樹くんの聡明さは、天才児でなくとも生きていく上で大切なものに思われる。そして、明楽先生の安楽探偵ぶりにも磨きがかかる。ハローベイビー研究所の胡散臭さはもちろん、天才児を産み育てながら離散してしまった奥園家の問題までも解決してしまうのだから、さすがである。まだまだ続くシリーズがたのしみである。

ミミズクとオリーブ*芦原すなお

  • 2010/02/20(土) 14:03:12

ミミズクとオリーブミミズクとオリーブ
(1996/04)
芦原 すなお

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美味しい郷土料理を給仕しながら、夫の友人が持ち込んだ問題を次々と解決してしまう新しい型の安楽椅子探偵――八王子の郊外に住む作家の奥さんが、その名探偵だ。優れた人間観察から生まれる名推理、それに勝るとも劣らない、美味しそうな手料理の数数。随所に語り口の見事さがうかがえる、直木賞受賞作家の筆の冴え。


表題作のほか、「紅い珊瑚の耳飾」 「おとといのおとふ」 「梅見月」 「姫鏡台」 「寿留女」 「ずずばな」

主人公は八王子の山の中に住む作家。だが、ほんとうの主役は、家で着物の仕立ての頼まれ仕事をする作家の妻である。彼女は、作家の友人の警察官から持ち込まれる事件の相談を聞き、夫に現場を検分してもらい、関係者から話を聞いてもらって、見事に謎を解き明かしてしまうのだった。折々に出されるおふくろの味的な料理の数々がどれもこれもとても美味しそうで、作家の友人の警察官と一緒に、毎回たのしみにしてしまう。料理も、妻の人柄も、夫婦の毎日も、とてもやわらかくて穏やかで心地好い。ずっといつまでも浸っていたくなる一冊だった。

いつか響く足音*柴田よしき

  • 2010/02/18(木) 19:34:00

いつか響く足音いつか響く足音
(2009/11/20)
柴田 よしき

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「家族」のかたちが見えればいいのに。壊れはじめたら、すぐに分かるから。借金まみれのキャバクラ嬢。猫の集会を探し求めるカメラマン。夫が死んだ日のことを忘れられない未亡人…ひとりぼっちの人生がはじまった、それぞれの分岐点。著者会心の傑作連作集。


表題作のほか、「最後のブルガリ」 「黒猫と団子」 「遠い遠い隣町」 「闇の集会」 「戦いは始まる」 「エピローグ」という連作短編集。

高度成長期に建てられた郊外のニュータウン。いまは寂れて四角い箱が無機質に並ぶ、かつての夢のなれの果てのような場所で、家族の温もりにはぐれた人々がそれぞれに懸命に明日をさがして生きているのだった。寂しいから人懐っこい。面倒だがありがたい。六つの物語を束ねるエピローグには、何かを失ったからこそ身につけられた強さのようなものが感じられた。

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床屋さんへちょっと*山本幸久

  • 2010/02/18(木) 07:06:08

床屋さんへちょっと床屋さんへちょっと
(2009/08)
山本 幸久

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宍倉勲は二十代半ばで父が興した会社を引き継いだが、十五年後に敢えなく倒産させてしまった。罪悪感をぬぐえないまま再就職し定年まで働き、もうすぐ「人生の定年」も迎えようとしている。だが、そんな勲の働く姿こそが、娘の香を「会社」の面白さに目覚めさせて―「仕事」によって繋がった父と娘を、時間をさかのぼって描く連作長編。


表題作のほか、「桜」 「梳き鋏」 「マスターと呼ばれた男」 「丈夫な藁」 「テクノカットの里」 「ひさしぶりの日」 「万能ナイフ」という八つの連作短編集。

一話ごとに時を遡り、最後の一話は、初話より少し進んだ時に運ばれる。最終話の切なさと温もりと充実感は、この構成ならではだろう。まさに構成の妙である。そして、一話一話がそれぞれとてもいい。床屋という、至極個人的で無防備な場所が、そこここでキーになり、床屋さんの思い出と、そこから引き出される来し方のあれこれが、自然に撚り合わされていて、読者をほのぼのとさせたり、涙を誘ったりするのである。ほろっと切なく、あたたかい一冊だった。

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イノセント・ゲリラの祝祭*海堂尊

  • 2010/02/17(水) 06:53:38

イノセント・ゲリラの祝祭イノセント・ゲリラの祝祭
(2008/11/07)
海堂 尊

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映画化、テレビドラマ化もされた第4回『このミス』大賞受賞作の『チーム・バチスタの栄光』は累計320万部突破、続編の『ナイチンゲールの沈黙』も 140万部を突破し、驚異の新人と謳われる海堂尊。彼の原点でもある「田口・白鳥シリーズ」の最新刊がいよいよ登場です! 今回の舞台は厚生労働省。なんと、窓際医師の田口が、ロジカルモンスター白鳥の本丸・医療事故調査委員会に殴り込み!? グズグズな医療行政を田口・白鳥コンビは変えることができるのか……。1年半ぶりに戻ってきた彼らの活躍にご期待ください。


海堂尊氏と言えば医療ミステリ、という先入観があるが、本作はミステリではない。日本の医療にまつわる問題提起小説とでも言えばいいだろうか。単純に誰かと誰か、どこかとどこかの対決という図式ではなく、医療現場、更生労働省、法医学会等が入り乱れて、それぞれの主張を声高に叫んでいるようである。本作は、医療を次の段階へと動かす物語の導入のような印象を受ける。登場人物のアクの強さは、さらに増強されているようである。

フリーター、家を買う。*有川浩

  • 2010/02/15(月) 11:11:23

フリーター、家を買う。フリーター、家を買う。
(2009/08)
有川 浩

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「母さん死ぬな―」へなちょこ25歳がいざ一念発起!?崩壊しかかった家族の再生と「カッコ悪すぎな俺」の成長を描く、勇気と希望の結晶。


結構重い要素がぎっしり詰まった一冊だった。だが、読後感はほのぼのすっきりである。いつもの著者の甘々な恋愛の要素も、ほんの薬味程度に振りかけられているが、大筋は崩壊しかけた家族の再生と、駄目ダメな主人公・誠治の立ち直りと成長の物語である。初めのうちこそ、せっかく入社した会社を短期間で辞め、アルバイトも続かず、ぶらぶらだらだらと日々をやり過ごしていた、どうしようもなく甘えた誠治だったが、一度切り替えてからの彼の成長振りは、見ていて清々しい。それも、ひとりではなかったから、家族や仲間たちがいたからこそであり、それをちゃんと理解できたからこその現在の誠治なのである。明るい気持ちにさせてくれる一冊だった。

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マンボウ最後の大バクチ*北杜夫

  • 2010/02/12(金) 16:53:33

マンボウ最後の大バクチマンボウ最後の大バクチ
(2009/03)
北 杜夫

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まさかの「老年躁病」が突然発症!杖にすがっての珍道中が始まった!ギャンブル行脚は、競馬、競艇、カジノに及び、一喜一憂の日々が続く。しかしそれもつかの間の狂乱バブル。再び腰痛と鬱の後期高齢者に逆戻り…。爆笑最新エッセイ集。


80歳を過ぎて、長年の鬱から躁に転じた著者の、痛快エッセイである。子ども返りして駄々をこねてみたり、ギャンブルツアーに出かけてみたり。娘さんに操られているかに見えて、大喜びで同道するマンボウ先生の姿が目に浮かぶようである。腰は曲がり、腰痛もひどく、よろよろしている、などとおっしゃるが、まだまだお元気で読者を愉しませていただきたいものである。

赤い病院の惨劇*川田弥一郎

  • 2010/02/11(木) 18:44:34

赤い病院の惨劇 (ノン・ポシェット)赤い病院の惨劇 (ノン・ポシェット)
(1998/06)
川田 弥一郎

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東京近郊にある赤修台第一病院の中庭で准看護婦の堀川映子が死体で発見された。折しも周辺では“ナースの敵”と呼ばれる痴漢強盗魔が出没していたが、死体に性的暴行の痕跡はなかった。院内の准看護婦学校に働きながら通う飯沢めぐみが、同級生の小西京子とともに犯人探しを始めた矢先、第二の殺人が!現役医でもある著者が贈る、長編本格推理の傑作。


事件が起こるまでの導入部の、看護学生と病院の日常は、ミステリを離れても興味深い。看護学生も遊び盛りの若い女性であるという当たり前のことが改めて思われもする。そして事件。その後の謎解きは、看護学生ふたりが探偵役として活躍するのだが、医療に携わる者ならではの発想も活かされていて、なるほどと思わされる。ラストはあまりに哀しいが、犯人もその動機も、医療現場ならではであり、現場をよく知る医師作家ならではの一冊である。

パラドックス13*東野圭吾

  • 2010/02/09(火) 16:57:53

パラドックス13パラドックス13
(2009/04/15)
東野 圭吾

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「世界が変われば善悪も変わる。
人殺しが善になることもある。
これはそういうお話です」東野圭吾

運命の13秒。人々はどこへ消えたのか?
13 時13分、突如、想像を絶する過酷な世界が出現した。陥没する道路。炎を上げる車両。崩れ落ちるビルディング。破壊されていく東京に残されたのはわずか 13人。なぜ彼らだけがここにいるのか。彼らを襲った“P-13 現象”とは何か。生き延びていくために、今、この世界の数学的矛盾(パラドックス)を読み解かなければならない!
張りめぐらされた壮大なトリック。論理と倫理の狭間でくり広げられる、究極の人間ドラマ。“奇跡”のラストまで1秒も目が離せない、東野圭吾エンターテインメントの最高傑作!


ブラックホールの影響により、13秒が消える現象(P-13)が起こるという。だが、それが起こると現実に何がどうなるのかは皆目見当もつかないのである。ただその13秒間に何も起こらないことを祈るだけなのだ。情報を公にしても混乱を招くだけなので、この情報を把握するのは、政府の上層部、ほんの僅かの人間だけである。
そしてその瞬間、人々が消えた。いや、実際にはここに残っている13人の方が消えたのだ。そこからサバイバルが始まるのだが・・・・・。
一ヶ月後に逆パラドックスが起こり、元の世界と軸がひとつになったラストは、あまりにあっけなく肩透かしを食らった感じでもあったのだが、そのあっけない無自覚さ故に、かえって背筋が寒くなる心地もするのである。それは、気づかないうちに、いままでもどこかに消えた何秒間があるのではないか、という怖さでもある。

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製鉄天使*桜庭一樹

  • 2010/02/07(日) 16:34:50

製鉄天使製鉄天使
(2009/10/29)
桜庭 一樹

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辺境の地、東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレディース“製鉄天使”の初代総長として、中国地方全土の制圧に乗り出す―あたしら暴走女愚連隊は、走ることでしか命の花、燃やせねぇ!中国地方にその名を轟かせた伝説の少女の、唖然呆然の一代記。里程標的傑作『赤朽葉家の伝説』から三年、遂に全貌を現した仰天の快作。一九八×年、灼熱の魂が駆け抜ける。


『赤朽葉家の伝説』と同じテイストの物語かと思ったら、共通するのは山陰と製鉄所のみであった。製鉄を生業とする町での、製鉄所のオーナーの娘と町の人々との係わり合いの物語、を想像するとことごとく裏切られる。
主人公・赤緑豆小豆は、15歳にして女暴走族――レディースと呼ぶのか――「製鉄天使」の総長となり、猛り狂う青春の炎と責任感に突き動かされ、次々と山陰を、そして中国地方を制覇して、その名を轟かす。あまりに破天荒な青春小説、というのか、やはり赤緑豆小豆の一代記と呼ぶのが適当なのだろう。だがしかし、何故、どうして、赤城山へ――?

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探偵映画*我孫子武丸

  • 2010/02/05(金) 17:02:45

探偵映画 (文春文庫)探偵映画 (文春文庫)
(2009/12/04)
我孫子 武丸

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新作の撮影中に謎の失踪を遂げた鬼才の映画監督・大柳登志蔵。すでにラッシュは完成、予告編も流れているが、実はこの時点で作品の結末を知るのは監督のみ。残されたスタッフは、撮影済みのシーンからスクリーン上の「犯人」を推理しようとするが…。『探偵映画』というタイトルの映画をめぐる本格推理小説。


スタッフにもキャストにも結末を教えずに行方をくらました大柳登志蔵監督。自信たっぷりの様子から、確信犯的な匂いはしていたが、こんな結末が用意されていたとは!
大半は映画の撮影風景と、その裏側が描かれていて、小説と映画撮影と両方一度に愉しめるのも不思議な気分である。この映画を観てみたい、と思わされる一冊だった。

うつくしい人*西加奈子

  • 2010/02/03(水) 19:19:46

うつくしい人うつくしい人
(2009/02)
西 加奈子

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他人の苛立ちに怯え、細心の注意を払いながら重ねていた日々を自らぶちこわしにした百合。会社を辞め、「ただの旅行」で訪れた島のリゾートホテルのバーにいたのは、冴えないがゆえに百合を安心させるバーテンダー坂崎と、暇を持て余す金髪のドイツ人、マティアスだった。美しい瀬戸内海の離島、そこしかないホテルで不思議に近づく三人の距離。地下には、宿泊客が置いていく様々な本が収められた図書室がある。本に挟まっていたという一枚の写真を探すため、ある夜、三人は図書室の本をかたっぱしから開き始める―。会社を逃げ出した女、丁寧な日本語を話す美しい外国人、冴えないバーテンダー。非日常な離島のリゾートホテルで出会った三人を動かす、圧倒的な日常の奇跡。


他人の目にどう映るかを気にしすぎるあまり自分を見失い、重く重くなってしまった蒔田百合。重さから逃れるために、四泊五日の一人旅に出かけ、雑誌で見て気に入った島のホテルで贅沢に過ごすはずだった。だが、ほんとうにいちばん気にしているのは、現在は引きこもり中の姉にどう思われるかなのだと気づく。近すぎる故に逃れられない家族という呪縛は、比類ないほど鬱陶しく、だが、なんと大切なものだったのか。ホテルのバーの冴えない中年バーテンダー、お金と時間が有り余る流暢な日本語を話す白人青年。惹かれ合うように出会った、やはり胸に重さを抱える彼らと過ごすうち、吸収するだけではなく置いていってもいいのだ、ぱんぱんになったらあふれ出させてもいいのだ、ということが身をもってわかり、少しだけ軽くなって帰途につく百合に、こちらもほっとさせられる。張り詰めていたものがほぐれる心地好さを味わえる一冊である。

明日、アリゼの浜辺で*秦建日子

  • 2010/02/03(水) 07:42:31

明日、アリゼの浜辺で明日、アリゼの浜辺で
(2009/12/22)
秦 建日子

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出会うはずのなかった人々を繋ぐのは、ニューカレドニアの青い海!足先をくすぐるさざ波が、固く閉ざした心を柔らかく解してくれる連作短編集。


「エレベーター」 「犯人はニューカレドニア」 「ニュー彼トニー」 「「きょう」は「ひきょう」の「きょう」」 「「ハッピーエンド」」

ニューカレドニアをキーワードにつながる短編集。
「天国にいちばん近い島」と言われるニューカレドニア。沈みがちなとき、人は光を与えてくれる何かを求めるのだろうか。一見突拍子もないように見える理由でニューカレドニアを求める人たちがつながっていくのが微笑ましくもある。
アリゼとは、ニューカレドニアで一年中、西から東へと適度な強さで吹く貿易風のことだそうである。最後には、そんなアリゼが吹く浜にゆるくつながった人々がなぜか集まってしまうのだが、それぞれ胸に抱くものは違っても、同じ風に吹かれるしあわせは誰もが感じているのだろう。とてもしあわせな光景である。
ただ、彰男にとって妻や家族の存在はなんなのだろう、というところに引っかかるものもある。

東と西 1

  • 2010/02/02(火) 07:19:28

東と西 1東と西 1
(2009/12/01)
いしい しんじ西 加奈子

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デザイナー池田進吾発による、いしいしんじ、森絵都、栗田有起、西加奈子ら人気作家読み切り小説集。「場所」に特化した全く新しい小説集です(今後、半年に1回ずつ、全10回の刊行を予定)


  

  いしいしんじ  「T」
  西加奈子  「猿に会う」
  栗田有起  「極楽」
  池田進吾  「赤、青、王子」
  藤谷治  「すみだ川」
  森絵都  「東の果つるところ」


どの物語も一風変わっている。昔話のようでもあり、近未来の話のようでもあり、現代のようでもあり、全くいつでもないようでもある。「場所」に特化した、と内容紹介にはあるが、その場所でさえ存在する場所そのものとは思えず、どこにもない場所のようである。胸の裡がざわざわとざわめくような一冊だった。