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蝦蟇倉市事件1

  • 2010/04/30(金) 17:29:05

蝦蟇倉市事件1 (ミステリ・フロンティア)蝦蟇倉市事件1 (ミステリ・フロンティア)
(2010/01/27)
道尾 秀介伊坂 幸太郎

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海と山に囲まれた、風光明媚な街、蝦蟇倉。この街ではなぜか年間平均十五件もの不可能犯罪が起こるという。自殺の名所に、怪しげな新興宗教や謎の相談屋。不可能犯罪専門の刑事や、とんでもない市長、そして無価値な置物を要求する脅迫者―。様々な不可思議に包まれた街・蝦蟇倉へようこそ!今注目の作家たちが、全員で作り上げた架空の街を舞台に描く、超豪華競作アンソロジー第一弾。


  弓投げの崖を見てはいけない  道尾秀介
  浜田青年ホントスカ  伊坂幸太郎
  不可能犯罪係自身の事件  大山誠一郎
  大黒天  福田栄一
  Gカップ・フェイント  伯方雪日


東京創元社の特設ページに、蝦蟇倉市の地図がある。ここで事件が起こるのである。
『まほろ市殺人事件』と似た企てだが、本作はリレー方式ではなく、話し合いで舞台設定を煮詰めたようである。70年代生まれの作家たちは、このアンソロジーを作ることをずいぶん愉しんだようだ。それは、それぞれの物語を読んでも伝わってくる。物語はそれぞれがひとつの作品であるのだが、全体として蝦蟇倉市の日常を作り上げていて、そういう意味では全体でひとつの物語とも言えるのかもしれない。一年に十五件もの不可能犯罪が起こる市・蝦蟇倉、なんと物騒で、ミステリ的には魅力的な市であることだろう。

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光媒の花*道尾秀介

  • 2010/04/28(水) 16:46:34

光媒の花光媒の花
(2010/03/26)
道尾 秀介

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印章店を細々と営み、認知症の母と二人、静かな生活を送る中年男性。ようやく介護にも慣れたある日、幼い子供のように無邪気に絵を描いて遊んでいた母が、「決して知るはずのないもの」を描いていることに気付く……。三十年前、父が自殺したあの日、母は何を見たのだろうか?(隠れ鬼)/共働きの両親が帰ってくるまでの間、内緒で河原に出かけ、虫捕りをするのが楽しみの小学生の兄妹は、ある恐怖からホームレス殺害に手を染めてしまう。(虫送り)/20年前、淡い思いを通い合わせた同級生の少女は、悲しい嘘をつき続けていた。彼女を覆う非情な現実、救えなかった無力な自分に絶望し、「世界を閉じ込めて」生きるホームレスの男。(冬の蝶)など、6章からなる群像劇。大切な何かを必死に守るためにつく悲しい嘘、絶望の果てに見える光を優しく描き出す、感動作。


  第一章  隠れ鬼
  第二章  虫送り
  第三章  冬の蝶
  第四章  春の蝶
  第五章  風媒花
  第六章  遠い光


しりとりのように、前章からなにかを掬いとって展開していく連作物語である。どの物語も切なく哀しく寂しく、そして頬を濡らす涙のようにあたたかい。
ひとつの風景のなかに、物語は決してひとつだけではなく、そこにもここにもちりばめられているのだということを改めて思わされた。誰かの物語の背景にも、次の物語の主役になるものが映りこんでいるのである。そして、その物語の背景にもまた同じように、別の物語の主役になるものが映りこんでいるはずなのである。

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インビジブルレイン*誉田哲也

  • 2010/04/26(月) 10:55:15

インビジブルレインインビジブルレイン
(2009/11/19)
誉田 哲也

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姫川玲子が新しく捜査本部に加わることになったのは、ひとりのチンピラの惨殺事件。被害者が指定暴力団の下部組織構成員だったことから、組同士の抗争が疑われたが、決定的な証拠が出ず、捜査は膠着状態に。そんななか、玲子たちは、上層部から奇妙な指示を受ける。捜査線上に「柳井健斗」という名前が浮かんでも、決して追及してはならない、というのだが…。幾重にも隠蔽され、複雑に絡まった事件。姫川玲子は、この結末に耐えられるのか。


『ストロベリーナイト』『ソウルケイジ』『シンメトリー』につづく姫川玲子シリーズ第四弾。
暴力団関係者のチンピラが殺され、組の若頭が殺され、九年前の殺人事件の被害者遺族の影がちらつく。事件は九年前の傷が尾を引く一連のものなのか。警察の威信と現場の捜査陣の思惑が絡み、姫川の独走がまた始まる。
また今回は、警察内部あるいは姫川と警察内部の誰かとの確執というよりも、姫川個人の心情が深く描かれているのが興味深い。自ら傷を増やしている感がなくもないが、拠りどころを求めているひとりの女性としての姫川玲子の姿を垣間見ることができる。いつの日か、安心しきった満面の笑みを見てみたいものだ、と思う。

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SOSの猿*伊坂幸太郎

  • 2010/04/23(金) 18:30:57

SOSの猿SOSの猿
(2009/11/26)
伊坂 幸太郎

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ひきこもりの青年の「悪魔祓い」を依頼された男と、一瞬にして300億円を損失した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・孫悟空ーー。物語は、彼らがつくる。伊坂幸太郎最新長編小説。


交互に出てくる「私の話」と「猿の話」で物語は作られている。電気販売店の店員で、かつてイタリアでエクソシスト(悪魔祓い)をやっていたことがあり、帰国してからも何件か手がけている遠藤二郎。証券会社で品質管理の仕事をしている五十嵐真。引きこもりの青年・辺見眞人。そして、西遊記のあの有名な猿。彼らと彼らを取り巻く人々や事々が、初めはばらばらに見えていながら、だんだんとひとつにまとまってきて、真実の物語を作り上げていく。
ただ、物語の構成も思想も、なかなかに難しく、引っかからずにするすると読めるものではない。夢のなかの出来事であるような、心の裡の葛藤であるような、心理学的で哲学的なものであるような、不思議な読後感の一冊でもある。

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雲の上の青い空*青井夏海

  • 2010/04/20(火) 18:21:55

雲の上の青い空雲の上の青い空
(2007/07/24)
青井 夏海

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登校班から一人遅れて歩く女の子、忽然と姿を消した銀幕のスター、ひきこもりの青年…。ささいな気持ちのすれ違いに悩み、互いに傷つく人たち。心が曇る日があっても大丈夫。真実を見つめる素直な瞳があれば、いつだって青空は広がっている。日常の謎を描く名手が贈るハートウォーミング・ミステリ。


  第一話  みどりのおじさん
  第二話  銀幕の恋人
  第三話  三色すみれによろしく
  第四話  透明な面影
  最終話  ウサギたちの明日


元探偵で、いまはシロヤギ宅配便のドライバーの寺坂脩二が探偵役の連作物語である。
殺伐とした事件とはほど遠い、ありふれた日常に紛れ込んだような謎を、脩二がもつれた毛糸玉をほぐすように解き明かす。ほんのわずか視点を変えると、見えていることも様相を変え、謎を解く鍵に手が届くようになる。さすが元探偵、というところだろうか、ポイントははずさない。読後に明るい青空が頭の中に広がるような一冊である。

彼女らは雪の迷宮に*芦辺拓

  • 2010/04/17(土) 19:40:39

彼女らは雪の迷宮に彼女らは雪の迷宮に
(2008/10/23)
芦辺拓

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このホテル、なにかがおかしい招待客が消えていく……
雪深い山間の一軒のホテルで女たちに狂気が忍び寄る。本格ミステリの名手が仕掛ける壮大なトリック――


  既視感のあるプロローグ
  第一章  ある都市の屋根の下で
  第二章  招かれた彼女たち・招かれざる彼女
  第三章  七番目の客または新島ともかの憂鬱
  第四章  6+1イコールやっぱり6
  第五章  消えゆく宿泊客と増えゆく訪問者
  第六章  新島ともかの出現もしくは消失
  第七章  彼らは雪の迷宮へ
  第八章  彼女らは雪の迷宮に
  あとがき――あるいは好事家のためのノート


松尾たいこ氏の装画を見て、物語の世界にはいった。読み終えたときには、装画にまったく別の世界が見えた。物語自体も同様である。プロローグで描かれた切迫した事態が、読者に否応なくこれから起こることを想わせ、緊張を強いる。そして、閉ざされた雪の山荘では予想通りの展開が待っているのである。だが、最終章でデジャヴのように描かれる場面は、プロローグのそれと同じ場面であっても、まったく別の見られ方をすることになるのである。なんと大掛かりなトリックだろう。弁護士でありながら、探偵役で登場する森江春策と、雪の山荘の招待客のひとりになった秘書の新島ともかの関係、そして森江の飼い犬、ゴールデンレトリバーの金獅子の陰ながらの活躍も興味深い。

スロープ*平田俊子

  • 2010/04/16(金) 11:10:45

スロープスロープ
(2010/01/30)
平田 俊子

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心の深みから湧き上がる言葉で紡がれた物語さかをのぼるように、さかのぼる時と心。「言葉」と「言葉」が繋がり、重なり、踊りながら、物語を紡いでいく。詩人ならではのリズムを底に秘めた絶好小説世界。


独特の雰囲気を持つ一冊である。物語だと思って読んでいると、エッセイのようでもあり、また覚書のようでもあり、読み進むうちにまた物語に戻り、エッセイにつづく。坂道を下っていたらいつのまにか上っていたような、無意識のうちに騙されたような心地にさせられもする。いろんなところに坂はあり、傾斜がついていればそれは坂である。物理的に、心情的に、さまざまな坂のことが書かれているのは確かである。

田村はまだか*朝倉かすみ

  • 2010/04/15(木) 17:21:52

田村はまだか田村はまだか
(2008/02/21)
朝倉 かすみ

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2009年吉川英治文学新人賞受賞作。
 かつて「孤高の小学六年生」と言われた男を待つ、軽妙で感動の物語。

深夜のバー。小学校のクラス会の三次会。四十歳になる男女五人が友を待つ。
 大雪で列車が遅れ、クラス会同窓会に参加できなかった「田村」を待つ。
「田村」は小学校での「有名人」だった。有名人といっても人気者という意味ではない。その年にしてすでに「孤高」の存在であった。
 貧乏な家庭に育ち、小学生にして、すでに大人のような風格があった。

 そんな「田村」を待つ各人の脳裏に浮かぶのは、過去に触れ合った印象深き人物たち。
 今の自分がこのような人間になったのは、誰の影響なのだろう----。
 四十歳になった彼らは、自問自答する。

 それにつけても田村はまだか? 来いよ、田村。

 酔いつぶれるメンバーが出るなか、彼らはひたすら田村を待ち続ける。

 そして......。

 自分の人生、持て余し気味な世代の冬の一夜を、軽快な文体で描きながらも、ラストには怒濤の感動が待ち受ける傑作の誕生。


  第一話  田村はまだか
  第二話  パンダ全速力
  第三話  グッナイ・ベイビー
  第四話  きみとぼくとかれの
  第五話  ミドリ同盟
  最終話  話は明日にしてくれないか


「田村はまだか」と誰もが待つものの、田村はなかなか現れない。そのうち、「孤高の小学六年生」と言われた田村の思い出話になり、田村を待つ彼らのエピソードが語られ、それぞれが自分の裡に来し方行く末を問いかけることになる。そして話にひと区切りつくたびに、「田村はまだか」と誰かが言うが、それでも田村は現れない。一体田村はこの物語に登場するのだろうか、最後まで登場せずに終わるのではないのか、と読者が危ぶむころ、交通事故に遭い、重症だと連絡が入る。
田村はどんなやつかと問われ、田村は田村でしかない、と言われる田村に会いたい。札幌・ススキノのスナック・バー・「チャオ!」のマスター花輪春彦でなくともそう思う。最終話のタイトルにもなっている田村のつぶやきが泣ける。そう、最終話になってやっと登場するのである。そしてその後も、それぞれの日常を過ごす彼らだが、田村を待った夜を境に、きっとなにかが変わったのだろう。

Another*綾辻行人

  • 2010/04/13(火) 19:08:55

AnotherAnother
(2009/10/30)
綾辻 行人

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その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた―。1998年、春。夜見山北中学に転校してきた榊原恒一(15歳)は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた!この“世界”ではいったい、何が起こっているのか?秘密を探るべく動きはじめた恒一を、さらなる謎と恐怖が待ち受ける…。


ホラーは正直言ってあまり得意ではないのだが、本作は、たくさん人が死ぬ割にはおどろおどろしさが少なく、舞台が夜見山という地方都市の公立中学校だということもあるだろうが、ある種爽やかな青春ドラマのようなのである。語り口も、いつもの著者とはひと味違っていて、軽いタッチで読み易い。
どこの学校にもあるだろう学校の七不思議とは、明らかに趣を異にする不穏な出来事が、新学期に机がひとつ足りない年には、夜見山中学三年三組で起こるのである。それは、ほんとうはいない誰かが紛れ込んでいるからだという。家庭の事情でひとり母方の祖父母の家に世話になり、中学三年の一年間を夜見山で過ごすことになった榊原恒一も、否応なく渦中に呑みこまれていくのである。病院で出会い、のちに同級生とわかった少女・見崎鳴(ミサキメイ)の不思議な雰囲気や、クラスメイトの腑に落ちない行動。そして著者によって仕掛けられた見事な罠。恒一の目線で、少しずつ明らかになる三年三組の秘密にドキドキしていたと思ったら、ある時急に現れた全貌は、想像もしていなかったものであり、一瞬にしてあれもこれもが腑に落ちたのだった。原稿用紙1000枚という長さをまったく感じさせない一冊だった。

つくも神さん、お茶ください*畠中恵

  • 2010/04/10(土) 16:55:11

つくも神さん、お茶くださいつくも神さん、お茶ください
(2009/12/22)
畠中 恵

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戯作者の日々、是好日なり!人生初のエッセイ、日本ファンタジーノベル大賞優秀賞“受賞の言葉”。愛する本や映画、音楽のこと。お江戸散歩に中国爆食珍道中。修業時代の苦労話、亡き師匠の思い出、創作秘話。あっと驚く意外な趣味。さらに、ここでしか読めないスペシャル書き下ろし随筆を5編収録。


まず、鳴家や つくも神たちに見守られながら執筆する著者のうしろ姿の装画がいい。著者のお人柄を表わしているようで、とてもいい。
そして、初エッセイとして、さまざまな試み(文体や構成など)が盛り込まれているのも愉しめていい。今様お江戸にいながら、江戸の暮らしに思いを馳せ、妖たちを身近なものとする心根がにじみ出ているようで、親しみが持てる。作家のエッセイはあまり好きになれないものが多いのだが、本作は、ほのぼのとして好きな一冊である。

失踪症候群*貫井徳郎

  • 2010/04/09(金) 11:05:37

失踪症候群 (双葉文庫)失踪症候群 (双葉文庫)
(1998/03)
貫井 徳郎

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「真梨子が緊急入院したのよ、自殺未遂かもしれないって…」 原田は呼んでも一向に応えない娘に強く語りかけた。何でこんなことを…。ミステリファン待望の長篇・第3作。


最後になってしまったが、症候群シリーズ一作目である。
タイトルに「症候群」とつけられた理由が読んで初めて判った。これらの失踪には仕掛け人がいたのである。だが本作は、それぞれの失踪について、深く掘り下げようというものではない。たまたまその内のひとりと繋がる者たちが引き起こす、目を覆いたくなる無頼ぶりが描かれ、翻って、誇りを持った人間としてどう生きるかということを問われているように思う。思わず目を逸らしたくなる暴力的な描写もあったが、人間ドラマでもあり、はらはらどきどきさせられるエンターテインメントでもある一冊である。

誘拐症候群*貫井徳郎

  • 2010/04/06(火) 18:33:21

誘拐症候群 (双葉文庫)誘拐症候群 (双葉文庫)
(2001/05)
貫井 徳郎

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警視庁人事二課の環敬吾が率いる影の特殊工作チーム。そのメンバーのある者は私立探偵であり、托鉢僧であり、また肉体労働者である。今回の彼らの任務は、警察組織が解明し得なかった、自称・ジーニアスが企てた巧妙な誘拐事件。『症候群シリーズ』第二弾。再び現代の必殺仕置人が鮮やかに悪を葬る。


シリーズを逆順で読むことになってしまった。本作は、症候群シリーズ二作目である。
単行本出版は、1998年、インターネット接続がまだダイヤルアップだった時代である。インターネットの匿名性を悪用した犯罪を描くという本作の試みは、当時としてはかなり最先端をいっていたのではないだろうか。いまとなっては、懐かしい描写もあるが、そのことで興がそがれることはまったくない。ふたつの流れの誘拐事件を同時に描き、他方の事件を利用することによってもう一方の犯人を追いつめる。環ならではの絶妙な作戦に、次の展開が待ちきれない心地にさせられる。キャラクターも彼らの心の動きも見事な一冊である。

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女ともだち

  • 2010/04/05(月) 11:12:19

女ともだち女ともだち
(2010/03/18)
井上 荒野栗田 有起

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人気女性作家による「派遣社員」作品集!

角田光代、井上荒野、栗田有起、唯野未歩子、川上弘美さんら人気作家5人が描く「女ともだち」の物語。共通テーマは「派遣」。
派遣先で出会った仲間たちの「その後」、派遣社員としてやって来た謎めいた人、30歳を迎えた派遣女子の「正念場」、憧れのキャリア社員の秘密を知った派遣、派遣先で知り合った男性から逃げた「あたし」……。
5人5様の「職場と人間模様」が女性作家らしい繊細さと大胆さで魅力たっぷりに描かれた小説集。


 

  海まであとどのくらい?  角田光代
  野江さんと蒟蒻  井上荒野
  その角を左に曲がって  栗田有起
  握られたくて  唯野美歩子
  エイコちゃんのしっぽ  川上弘美


「派遣」という確固としているとは言えない仕事の日々を真面目に過ごす女たち。不安や不満はあるが、正社員よりもしっかり働いているという自負もある。そんな彼女たちの姿を、いちばんちゃんとわかってくれるのは、上司でも恋人でもなく、女ともだちなのかもしれない。肩肘張った心が、ほっと和み、あしたもちゃんと生きていこうと思わせてくれる一冊。

太陽の村*朱川湊

  • 2010/04/04(日) 16:25:15

太陽の村太陽の村
(2010/01/28)
朱川 湊人

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父親の定年を祝うハワイ旅行に出かけた坂木一家は、帰りの飛行機で事故に遭う。
意識を取り戻した主人公・龍馬は、自分がタイムスリップして過去の世界に来てしまった事を悟る。
どうする俺??? おたくで引きこもりの龍馬は、やがて農作業や素朴な村民との触れあいにより、
現代とは正反対の生活に喜びを見出していくのだが…。
「都市と田舎」、「過去と未来」、「バーチャルとリアル」、「文明と未開」の狭間に揺れる青年の葛藤と成長を直木賞作家が描く。
著者新境地のタイムスリップ・エンタテインメント!


飛行機の墜落事故をきっかけに、過去の世界にタイムスリップしてしまったオタク青年の物語。――と、単に言ってしまえない不思議さ満載の一冊である。無論、恐ろしい事故に遭い、意識を取り戻したら、平成の常識が通用しない世界にいたオタク青年・坂木龍馬は戸惑いつつも真剣である。そして、彼を取り巻く村人たちや、世話をしてくれる村長夫妻の反応もさもありなんと思わされるものなのであるが、細かいところになにやら不自然さがちらつくのである。それもそのはずとわかるのは、ラスト近くなってからなのだが、ある意味、タイムスリップよりも荒唐無稽な感がするのはわたしだけだろうか。そして、哀しいのは、飛行機事故は現実で、助かったのは龍馬ひとりらしいということである。

神様のカルテ*夏川草介

  • 2010/04/03(土) 16:34:51

神様のカルテ神様のカルテ
(2009/08/27)
夏川 草介

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神の手を持つ医者はいなくても、この病院では奇蹟が起きる。夏目漱石を敬愛し、ハルさんを愛する青年は、信州にある「24時間、365日対応」の病院で、今日も勤務中。読んだ人すべての心を温かくする、新たなベストセラー。第十回小学館文庫小説賞受賞。


  

  第一話  満天の星
  第二話  門出の桜
  第三話  月下の雪


無類の漱石好きの主人公の、若さに似合わぬ――だが妙にしっくりと馴染んでもいる――古めかしい語り口が、物語に流れる雰囲気を和らげている。医者不足の地域の病院にあって、不眠不休と言っても過言ではない日々を送り、重病患者を送り、アル中患者のたわごとを聞く。ある意味殺伐とした日常を、この語り口が和ませているのである。時にじんとさせられ、またほろりとさせられ、しみじみとした読書タイムをすごせる一冊だった。

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深夜零時に鐘が鳴る*朝倉かすみ

  • 2010/04/02(金) 16:50:26

深夜零時に鐘が鳴る深夜零時に鐘が鳴る
(2009/11/26)
朝倉 かすみ

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ひとりで過ごす年の瀬もすっかり板についた匂坂展子は29歳彼氏なし。いつもと変わらない新しい年をむかえようとしていた。そんなテンコの前に次々と現れる過去からの来訪者……。
すねっかじりの元ヘビメタ男“根上くん”むっちり足のウェイトレス “そら豆さん”パン屋で働いていたはずの“ミヤコちゃん”
たしかデパートのカリスマ社員?“えぐっちゃん”
……そして?
雪降る札幌の街を舞台に加速していく、この冬いちばんのロマンチックストーリー。


学生時代よく行ったハンバーガーショップで店員をしていたリコ。親しい友人とは言えないものの、なんとはなしに気になる女の子だったが、ある日不意にいなくなり、その後どうしているのかも判らない。29歳の展子は、ひとりにも慣れ、いつもと同じ年末年始を迎えるはずだったのだが、どうしたことか、次々とリコつながりの人たちと出会い、リコを追うことになる。そしてなんと『タイム屋文庫』ともつながっていくのである。嬉しいサプライズ。リコ、リス、リンコ。時々に呼び名は変わっても、変わらずに周りの人たちをやさしい気持ちにさせる女の子と、周りの人たちが共有する想いが、ゆるゆるとあたたかい一冊だった。