植物図鑑*有川浩

  • 2010/05/31(月) 16:37:16

植物図鑑植物図鑑
(2009/07/01)
有川 浩

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ある日、道ばたに落ちていた彼。「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか?咬みません。躾のできたよい子です」「―あらやだ。けっこういい男」楽しくて美味しい道草が、やがて二人の恋になる―。書き下ろし番外編に加え、イツキ特製“道草料理レシピ”も掲載。


ああまさに、これは植物図鑑である。そして、道草料理のレシピ図鑑であり、甘あま恋愛図鑑なのである。有川さんなのだから。行き倒れている見知らぬ男を拾ってしまうというところからして、現実にはあり得ないし、たとえあったとしても、背筋も凍る展開になること必至の世の中だが、そんなことは構わないのである。拾った男はイケメンで礼儀正しく、雑草――という名前の草はないのだが――のことにやけに詳しく、料理の腕も家事能力も確かで、言うことなしなのである。それが有川浩なのだから、どっぷりそのせかいに浸って、読む者誰もがしばし乙女になればいいのである。という一冊。

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空白の研究*逢坂剛

  • 2010/05/30(日) 10:52:55

空白の研究 (集英社文庫)空白の研究 (集英社文庫)
(1987/03/20)
逢坂 剛

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季子が自白した夫の愛人殺し。証拠も揃っている。だが供述に不審な点が浮かび、精神鑑定にまわされる…。犯行時の一瞬の空白を探る表題作他、心理分析を背景にした4編。


表題作のほか、「真実の証明」 「美醜の探求」 「嫌悪の条件」 「不安の分析」

警察や検察による取り調べの調書の内容が並べられ、読者は事件の概要や被告人の供述、証人の証言などを知ることになる。そして、それらの間に挟みこまれる警察の捜査や精神分析医による鑑定などによって、犯罪の真実に迫るのである。さらに、五つの犯罪のどれもが、ラスト近くになってがらっと様相を変えるのである。ことに表題作は、最後の数行で、一転した犯罪の真実が覆されかねない事態になるのである。見事である。

煙の殺意*泡坂妻夫

  • 2010/05/28(金) 16:52:02

煙の殺意 (創元推理文庫)煙の殺意 (創元推理文庫)
(2001/11)
泡坂 妻夫

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捜査そっちのけの警部と美女の死体に張り切る鑑識官コンビの殺人現場リポート「煙の殺意」を表題に、知る人ぞ知る愛すべき傑作「紳士の園」や、往復書簡で綴る地中海のシンデレラストーリー「閏の花嫁」など、問答無用に面白い八編を収める。

●収録作品
「赤の追想」
「椛山訪雪図」
「紳士の園」
「閏の花嫁」
「煙の殺意」
「狐の面」
「歯と胴」
「開橋式次第」


まるで騙し絵を見ているような物語たちである。見る者の立つ位置によって、光の差す加減によって、同じ絵がこれほどまでに表情を変えるのである。さらりとした描写の中に、巧妙に隠されたものに気づくとき、描かれたものにはまったく別の意味が現れるのである。

夜よ鼠たちのために*蓮城三紀彦

  • 2010/05/25(火) 20:30:21

夜よ鼠たちのために (新潮文庫)夜よ鼠たちのために (新潮文庫)
(1986/04)
連城 三紀彦

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脅泊電話に呼び出されて出かけた総合病院の院長が殺され、続いて、同じ病院の内科部長の死体が発見された。見つかった二人の死体は、首に針金を二重に巻きつけられ、白衣を着せられていた。何故二人がこんな姿で殺されたのか?そして、「妻の復讐のために殺した」という犯人の電話の意味は?執拗な復讐者の姿を追う表題作ほか、人間の心の奥に潜む闇を描くサスペンス6編。


表題作のほか、「二つの顔」 「過去からの声」 「化石の鍵」 「奇妙な依頼」 「二重生活」

どれもとてもよくできた物語である。極自然にまっすぐに流れていた流れが、ある時点を境にもつれ絡まり合い逆流するように、がらっと様相を変える。その変わり様が見事である。真実がわかるとそれまで見逃していた些細な点が、浮かび上がるように見えてくるのが不思議である。どこでどうひっくり返されるかわくわくする一冊だった。

スコーレNo.4*宮下奈都

  • 2010/05/24(月) 10:20:09

スコーレNo.4スコーレNo.4
(2007/01/20)
宮下 奈都

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どうしても忘れられないもの、拘ってしまうもの、深く愛してしまうもの。そういうものこそが扉になる―。ひとりの女性への道のりを描く書下ろし長編小説。


古道具屋の三姉妹の長女として生まれた麻子の物語である。美しく生まれ、自分の思ったままを自然に口にできる次女七葉(なのは)、年離れて生まれたお豆さん(みそっかす)の紗英は屈託がない。麻子はと言えば、いつもその先を考えてしまい、思ったままに行動することができず、自分に自信を持てずにいる。そんな麻子が麻子のままでいていいのだと思えるようになるまでの道筋に――ひとつひとつには劇的な要素はなにもないのだが――静かに胸打たれる。七葉は七葉で、紗英は紗英でもがく様子も垣間見えるのだが、これはあくまでも麻子の物語であり、麻子の目を通して見る七葉であり紗英なのだ。その人なりにありようは違うだろうが、おそらく誰もが大人になるために通らなくてはならない道なのだろう。それが激することなく淡々と描かれているのが、その道をかつて歩いたことのある身には心地好い一冊だった。

オール・マイ・ラビング 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2010/05/22(土) 17:39:43

オール・マイ・ラビング 東京バンドワゴンオール・マイ・ラビング 東京バンドワゴン
(2010/04/26)
小路 幸也

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下町の老舗古書店“東京バンドワゴン”に舞い込む古本と謎を、四世代のワケあり大家族・堀田家が家訓に従い解決する。ページが増える百物語の和とじ本、店の前に置き去りにされた捨て猫ならぬ猫の本…。不可思議な事件に潜む「あの人の想い」とは?笑いと涙の下町ラブ&ピース小説、待望の第5弾。


今回も中身がぎっしり詰まった一冊だった。これほど登場人物が多いのに、混乱せずに人間関係を把握できる小説は、ほかに思い浮かばない。この堀田家の物語は、すでに身内のような感覚で読めてしまうのが不思議でもあり、当然のようでもある。我南人の縁の下での活躍は相変わらずであり、やるときはやるロックな魂が格好いいことこの上ない。だが、ドキッと心配させられるようなこともあり、それがまたラストにしっかり繋がっていくところがなんとも憎い。まだまだ続いて欲しいシリーズである。

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スタートライン 始まりを巡る19の物語

  • 2010/05/19(水) 16:56:03

スタートライン―始まりをめぐる19の物語 (幻冬舎文庫)スタートライン―始まりをめぐる19の物語 (幻冬舎文庫)
(2010/04)
小川 糸万城目 学

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彼の浮気に気づいた花嫁、急に大人になった少女、別れ話をされた女、妻を置いて旅に出た男…。何かが終わっても「始まり」は再びやってくる。「変わりたい」「やり直したい」と思った瞬間、それがあなたのスタートライン。恋の予感、家族の再生、衝撃の出会い、人生の再出発―。日常に訪れる小さな“始まり” の場面を掬った、希望に溢れる掌編集。


「帰省」光原百合 「1620」三羽省吾 「柔らかな女の記憶」金原ひとみ 「海辺の別荘で」恒川光太郎 「街の記憶」三崎亜記 「恋する交差点」中田永一 「花嫁の悪い癖」伊藤たかみ 「ココア」島本理生 「風が持っていった」橋本紡 「会心幕張」宮木あや子 「終わりと始まりのあいだの木曜日」柴崎友香 「バンドTシャツと日差しと水分の日」津村記久子 「おしるこ」中島たい子 「とっぴんぱらりのぷう」朝倉かすみ 「その男と私」藤谷治 「トロフィー」西加奈子 「はじまりのものがたり」中島桃果子 「魔コごろし」万城目学 「パパミルク」小川糸


10ページほどの掌編が19も並んでいると、それだけでわくわくする。著者名を見ればなおさらである。そして期待に違わず、著者それぞれが持ち味を発揮して、一作一作はあっという間に読めてしまうが、読み応えのある一冊になっている。

虚報*堂場瞬一

  • 2010/05/18(火) 16:57:44

虚報虚報
(2010/01)
堂場 瞬一

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東日新聞長野支局から東京本社社会部へ異動してきた長妻厚樹は、「ビニール袋集団自殺」を取材していた。何人か集まり、睡眠薬を飲んだ上にビニール袋をかぶって窒息するという手口の自殺が全国で頻発していたのだ。この自殺に有名大学教授のサイトが影響していると週刊誌がスクープ。さらに、この大学教授が記者会見を開いたことで報道は過熱する。社会部キャップの市川博史の指示で取材に駆け回る長妻。しかし、東日新聞は他紙がスクープ記事を出す中、常に遅れをとっていた。追い込まれる市川と長妻。そんなとき、一本の電話が―。守りのミスと攻めのミス、若き記者に降りかかる迷いの一瞬。警察小説の旗手の新境地。


  第一章  発端
  第二章  持論
  第三章  対決
  第四章  冷雨
  第五章  逆襲
  第六章  虚報


新聞記者が毎日どれほど神経をすり減らして取材し、それを記事にしているのかということが現場の空気と共に伝わってくる。そして、そこにも否応なく人間関係のしがらみやら出世欲やらがまとわりついてくるということも。大学教授が殺人教唆(幇助)、に問われるかもしれないという一件は、インターネットの煽りもあってセンセーショナルな展開になり、新聞各社や週刊誌がスクープ合戦を繰り広げるのは当然である。東日新聞は、ことごとく週刊誌に出し抜かれ焦っていたこともあり、若手記者・長妻の功徳欲もあって、裏づけが充分でない記事を載せてしまう。これがタイトルの虚報であるのだが、なにが虚報なのだろうと興味をそそられるのだが、そこにたどり着くまでが長く、その後が尻切れとんぼのようであり、辻褄合わせ的でもあっていささか消化不良といった感じでもある。

オー!ファーザー*伊坂幸太郎

  • 2010/05/15(土) 17:07:47

オー!ファーザーオー!ファーザー
(2010/03)
伊坂 幸太郎

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みんな、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、六人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母一人、子一人なのはいいとして、父親が四人もいるんだよ。しかも、みんなどこか変わっていて。俺は普通の高校生で、ごく普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて―。


2006年に新聞連載していたものだそうである。そして伊坂幸太郎作品の「第一期最後」という位置づけの一冊だそうである。
母ひとり子ひとりに父親が四人、という奇抜な設定ながら、どの父親も自分こそが高校生の由紀夫の本当の父親だと信じており、一般的な父親とは比べものにならないくらいの愛情を注いでいる。変則的すぎる家族だが、理想の親子と言ってしまっても間違いではないだろう。疎ましいほどの愛情表現は羨ましいほどである。そして、性格のまったく違う四人の父親が語る言葉がどれもいい。とてもいい。常識的ではなかったり、ひとりよがりだったりもするのだが、その言葉が口に上るまでの心情を思うと、胸にぐっとくるのである。そんな父親たちと暮らしている由紀夫はきっと、ひとりで四人前のいい男になるだろう。物語は、がちがちのミステリではないが、ミステリ要素も折り込まれており、ポツリポツリとちりばめられたパーツがどんどんつながっていくのが小気味よい。伊坂流のテンポである。
「ミステリ」を期待して読むと、物足りなさもあるかもしれないが、愉しめる一冊だった。

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夜の空の星の*まさき としか

  • 2010/05/12(水) 17:17:25

夜の空の星の夜の空の星の
(2008/05/16)
まさき としか

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第41回北海道新聞文学賞受賞作「散る咲く巡る」ほか、現代を生きる女性の目に見えず手に取れないものへの思いを巧みなストーリーで描いた傑作。―ヒロインに寄せる作者のおもいが全篇をつらぬいている。感受性に富む、ファンタジックな佳篇―選考委員・原田康子氏。


表題作のほか、「天国日和」 「散る咲く巡る」

なんというか不思議な物語たちである。いずれも女性である主人公たちには、生きるうえでの確固とした根っこがないように見える。どう生きていいのか手探りするように、ゆらりふわりと漂っているような、ほんの少しだけ浮かんだまま歩いているような、頼りなさを感じるのである。なにも求めていないようでもあり、奥底には求めてやまない何かを抱え、渇きを癒すことができないもどかしさに、打ちひしがれているようでもある。魂とか、霊とか、業とか、そんな言葉も思い浮かぶ、やるせなく切なく哀しくあたたかい一冊である。

堂場警部補の挑戦*蒼井上鷹

  • 2010/05/11(火) 13:32:13

堂場警部補の挑戦 (創元推理文庫)堂場警部補の挑戦 (創元推理文庫)
(2010/02/28)
蒼井 上鷹

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玄関のチャイムが鳴った時、まだ死体は寝袋に入れられ寝室の床の上に横たわっていた。液晶画面を見ると、緑色のジャージを着た若い男が映っていた。「おはようございます、ドーバです。電話でパントマイムのレッスンをお願いしていた―」招かれざる客の闖入により、すべてがややこしい方向へ転がり始める「堂場刑事の多難な休日」など、当代一のへそ曲がり作家による力作四編。


  第一話  堂場警部補とこぼれたミルク
  第二話  堂場巡査部長最大の事件
  第三話  堂場刑事の多難な休日
  第四話  堂場Ⅳ/切実


なんと言おうか、まったく蒼井上鷹である。ひとことで言ってしまえば、面倒臭い構成である。一冊の本のなかで道に迷い、立ち眩んでうんざりしている自分がいる。そしてまたそれを高みから見下ろして愉しんでいる自分もいるのである。へそ曲がりに振り回されるのが愉しい一冊なのである。

天使の屍*貫井徳郎

  • 2010/05/10(月) 13:43:13

天使の屍 (角川文庫)天使の屍 (角川文庫)
(2000/05)
貫井 徳郎

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思慮深かった中学二年の息子・優馬がマンションから飛び降り、自殺を遂げた。動機を見出せなかった父親の青木は、真相を追うべく、同級生たちに話を聞き始めるが…。“子供の論理”を身にまとい、決して本心を明かさない子供たち。そして、さらに同級生が一人、また一人とビルから身を投げた。「14歳」という年代特有の不可解な少年の世界と心理をあぶり出し、衝撃の真相へと読者を導く、気鋭による力作長編ミステリー。


中学二年生・14歳を扱った一冊。何かと問題になる年頃である。子どもたちには、大人の論理とはまったく別の「その年代特有の論理」があり、大人たちが自分の尺度で物事を捉えている限り、とても彼らを理解できるものではない、ということがよくわかり、うなずけもする。実際にこの物語のように踏み外す少年たちがどのくらいいるのかは見当もつかないが、仕掛けられた穴に落ちたあとの彼らの行動心理は、やはり大人からみれば信じられないと言うほかないものなのである。それでもこれが、彼らなりの論理に従った結果だとすれば、大人は愕然とするしかないのである。恐ろしい、とひとことで片づけてしまえない苦しさが胸に残る。

せせらぎの迷宮*青井夏海

  • 2010/05/09(日) 11:39:14

せせらぎの迷宮 (ハルキ文庫)せせらぎの迷宮 (ハルキ文庫)
(2008/09)
青井 夏海

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大学図書館に勤める斎藤史は、小学校の同級生の大村生夫に呼び出され、二十年ぶりに再会することになった。担任だった杉本先生が定年を迎えるにあたり、かつてクラスで作成した文集を揃えて贈ろうというのだ。だが、肝心の文集が見当たらない。途方にくれ、かつてのクラスメイトたちに連絡を取り始めるのだが、文集の存在は彼女たちの記憶からも消えていた―。当時の思い出と記憶をたどり、史は消えてしまった文集の謎を追うが…。爽やかな感動を呼ぶ、書き下ろし長篇ミステリー。


『陽だまりの迷宮』の続編。前作では主役だった生夫が、今回の主役・斉藤史に文集探しを頼むことによって、小学五年生の時のことを思い出させるきっかけとなる同級生のひとりとして登場する。
小学校五年生という難しい年頃の女の子たちの屈託や残酷さ、潔癖さなどの繊細な心理と行動が、実態のあるもののように丁寧に描かれている。おそらく小五の女子ってこんな感じだ、と通り過ぎてきた人ならば誰でもがいささかの苦さと切なさと共に思うのではないだろうか。文集をさがす現在の史と、二十年前の史と同級生の女の子たち、そして、一行文集の言葉とが交互に配されているのも巧みである。
最後に出てきた保育園はもしかするとあの・・・?違う?

5/9、17:00追記
ラストの園は、息子さんが通われていた保育園のイメージだそうです。アイリスキッズホームではなかったようです。

よろこびの歌*宮下奈都

  • 2010/05/07(金) 18:52:47

よろこびの歌よろこびの歌
(2009/10/17)
宮下 奈都

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御木元玲は著名なヴァイオリニストを母に持ち、声楽を志していたが、受かると思い込んでいた音大附属高校の受験に失敗、新設女子校の普通科に進む。挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる――。あきらめ、孤独、嫉妬……見えない未来に惑う少女たちの願いが重なりあったときにあふれ出す希望の調べ。いま最も注目すべき作家が鮮烈に描く、青春小説の記念碑!


  do 12月1日 よろこびの歌――御木元玲
  re 12月22日 カレーうどん――原千夏
  mi 1月13日 No.1――中溝早希
  fa 1月27日 サンダーロード――牧野史香
  sol 2月19日 バームクーヘン――里中桂子
  la 2月26日 夏なんだな――佐々木ひかり
  si 3月4日 千年メダル――御木元玲


きっと読む者誰でもに自分の高校生時代を思い起こさせることだろう。というよりも、その時代の自分に帰っていくような心地にさせられることだろう。なぜかといえば、自分というものの存在意義とか、夢とか希望とか諦めとか、さまざまな思いに揺れ動く年代をすごす彼女たちの心情が、とても繊細に丁寧に描かれているからだろう。
ひとりひとりが何かを抱えて集まった2Bというクラスで、つかず離れずの関係をなんとなくつづける毎日に、風穴を開けたのは玲であり、またその玲の背中を押したのはクラスメイトたちだった。自らの内側だけをみつめてきた彼女たちが、他人の心の内側にも自分と似たものがあることに気づき、ほんとうのつながりを持てるようになったことが心底喜ばしかった。主人公は御木元玲だが、登場人物のだれもが主役の一冊である。

カラーひよことコーヒー豆*小川洋子

  • 2010/05/06(木) 16:39:34

カラーひよことコーヒー豆カラーひよことコーヒー豆
(2009/11/26)
小川 洋子

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連載分24本+書き下ろし5本から一貫して伝わってくるのは、スポットライトが当たる人の周縁で密やかに、でもしっかりと生きる人々への、深い愛と感謝の気持ち。装丁・装画は『ミーナの行進』も手がけた寺田順三氏


とてもやさしい一冊だった。著者のお人柄と心持ちのやさしさが、ページのいたるところからゆらゆらと立ちのぼってきて、何度もじんわりと目頭を熱くさせられた。はしっこで生きる者のひとりとしてもたいそう励まされる一冊でもある。

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DAWN TOWN ダウンタウン*小路幸也

  • 2010/05/05(水) 18:41:21

DOWN TOWN/ダウン タウンDOWN TOWN/ダウン タウン
(2010/02/19)
小路 幸也

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高校生の僕と年上の女性ばかりが集うこの場所で繰り広げられた、「未来」という言葉が素直に信じられたあの頃の物語。大人になるってことを、僕はこの喫茶店で学んだんだ。温かくて懐かしい「喫茶店×青春」小説。


時代は1977年、場所は旭川、主人公は軽音楽部でピアノを弾く高校生のショーゴ。久しぶりに再会した先輩のユーミさんに誘われて行ったコーヒーショップ<ぶろっく>が主な舞台である。そこにはなぜか、女性ばかりが集まり、男性はたまに入ってきてもいたたまれずに二度と来なくなるようなのだった。ショーゴはどういうわけか<ぶろっく>の常連客の女性たちにかわいがられ、彼にとって<ぶろっく>は放課後の居場所になっていくのだった。常連客の女性たちは、それぞれに事情を抱えながらも店では和やかに過ごし、互いに支えあっているようにも見える。ショーゴはそんな彼女らのことを気にしながらも、深く詮索することはせず、その中にいることの心地好さに身を委ねている。
性根の曲がった人物はひとりとして登場せず、みんなが一生懸命で、それぞれが互いを思いやる関係に安心感を覚える。辛く哀しいことがたくさんあったとしても、<ぶろっく>とそこに集う人たちがいる限り、集っていた時間を忘れない限り、前向きに生きていけるのだろうと思わせてくれる一冊だった。

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夢うつつ*あさのあつこ

  • 2010/05/04(火) 16:37:24

夢うつつ夢うつつ
(2009/08/28)
あさの あつこ

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霧で視界が見えない中,異界を走るようにタクシーで帰宅の途に着いた。が,その運転手は死んだはずの幼馴染だった…。ごく普通の日常生活の一場面から,一転して現実と空想が交錯する物語が展開される,書き下ろし連作短編集。


  プロローグ
  くじら坂で
  まぁちゃんの白い花
  レンゲ畑の空
  森くん
  どっちだ?
  生姜湯のお味は?


著者の日常に起こったあれこれがエッセイとしてまず語られ、後半で、その出来事が下敷きにされた、タイトルの物語が語られる、という一風変わった趣向の一冊。
著者の素顔を垣間見られるしあわせと、物語が生まれる過程をほんの少し覗けるしあわせを併せて愉しめる。

君がいなくても平気*石持浅海

  • 2010/05/04(火) 13:41:19

君がいなくても平気 (カッパ・ノベルス)君がいなくても平気 (カッパ・ノベルス)
(2009/12/17)
石持浅海

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携帯関連会社ディーウィとベビー用品メーカーのベイビーハンド。業務提携によって結成された共同開発チームは、いきなりヒット商品を生み出した。しかし、祝勝会の翌日、チームリーダーだった粕谷が、社内で不審死を遂げる。死因はニコチン中毒。殺人なのか?犯人は?疑心暗鬼のなか、共同開発チームに所属する水野勝は、同僚で、恋人でもある北見早智恵が犯人である決定的証拠を掴んでしまう…。保身と欺瞞と欲望と。つきつけられるエゴイズムとサスペンスが目をそらすことを許さない、迫真の傑作。


  序章
  第一章  君が殺した
  第二章  君と別れることにした
  第三章  君がまた殺した
  第四章  君の罪について考えた
  第五章  君はなぜ殺した
  第六章  君がいなくても平気
  終章 


会社の同じ開発チーム内で続けて二人、ニコチン中毒で殺された。犯人はチーム内にいると思わざるを得ない。水野は恋人の早智恵の部屋で、犯行を想像させるものを偶然見つけてしまい、以来疑いの目を持って早智恵を見続けている。早智恵との始まりは、多分に惰性的なものだったので、自分の身を守るために早く別れなければ、とばかり考えるようにもなっていた。
実は犯人は早智恵以外のだれかなのではないか、いつか急になにもかもが覆されるのではないか、と思わせるような展開で、どんどん読み進むが、意外さは別のところに現れたのだった。序章が、すべてのはじまりだったのだ。

自白 刑事・土門功太朗*乃南アサ

  • 2010/05/02(日) 16:45:13

自白―刑事・土門功太朗自白―刑事・土門功太朗
(2010/03)
乃南 アサ

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「落としの達人」といわれた男
事件解決の鍵は刑事の情熱と勘と経験だ。
地道な捜査で容疑者を追いつめる男の迫真の事件簿。
著者渾身の新シリーズ!


「アメリカ淵」 「渋うちわ」 「また逢う日まで」 「どんぶり捜査」

シリーズ一作目ということもあるのだろうが、刑事としての土門はもちろん、夫として、父親としての土門も描かれており、土門という人間に好感が持てる。そして、懐かしい昭和の出来事や風物がそこここに折り込まれており、その時代を生きた者としては、懐かしいことこの上ない。
事件がらみの部分には、いささか物足りなさも感じたが、今後の展開をたのしみに待ちたいと思わせる一冊だった。

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