秘密の花園*三浦しをん

  • 2010/06/30(水) 18:38:54

秘密の花園 (新潮文庫)秘密の花園 (新潮文庫)
(2007/02)
三浦 しをん

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私は、なにをしているんだろう。どうしたら「私」でいられるんだろう?カトリック系女子高校に通う、三人の少女、那由多、淑子、翠。性格の異なる三人の「私」は、家族、学校、男たちの中にあって、それぞれが遠いはるかを、しずかに深くみつめている。「秘めごと」をかかえる彼女たちの微笑の裏側の自由。甘やかな痛みの底に眠る潔くも強靱な魂。自分を生き抜いていくために「私」が求めていたことは―。記念碑的青春小説。


  洪水のあとに
  地下を照らす光
  廃園の花守りは唄う



章ごとにそれぞれ、那由多、淑子、翠(すい)が主人公である。カトリック系女子高と聞けば、女同士のどろどろした日常を想像される向きもあろうかと思うが、本作は集団としての女子というよりも、そのなかにある個としてのそれぞれを描いている。幼いころのトラウマや、自分自身の存在に対する自信のなさ、プライドの裏返しの劣等感など、さまざまなものを抱えた彼女たちが、誰をどのように信頼し、どのように繋がっていくのかが興味深い。そして、大人にもなりきれていないが子どもというには知りすぎている彼女たちの怜悧な残酷さにもドキリとさせられる。目を離せない心持ちにさせられる一冊である。

薔薇を拒む*近藤史恵

  • 2010/06/29(火) 21:47:54

薔薇を拒む薔薇を拒む
(2010/05/27)
近藤 史恵

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施設で育った内気な少年・博人は、進学への援助を得るため、同い年の樋野と陸の孤島にある屋敷で働き始めた。整った容姿の樋野には壮絶な過去が。博人は令嬢の小夜に恋心を抱くが、陰惨な事件で穏やかだった生活は一変する。それは悪意が渦巻く屋敷で始まる、悲劇の序章に過ぎなかった―。


  第一章  湖畔の館
  第二章  過去
  第三章  アルビノ
  第四章  亀裂
  第五章  苦い記憶
  第六章  栗毛の小馬
  第七章  喪失
  第八章  供物


17歳の博人が好条件に惹かれて引き受けた仕事は、なさぬ仲の母娘が暮らす人里離れた湖畔の洋館で庭仕事や家の中の雑用をこなすことだった。自分ひとりの部屋を与えられ、衣食住の不安のない暮らしは、はじめの内はこれ以上なく快適に思われたが、次第に内情がわかってくると腑に落ちないことも出てくるのだった。そんな折、洋館のすべてを取り仕切っていると言ってもいい中瀬が湖に浮かぶボートの中で殺されていた。それをきっかけにするように、事態は闇へと転がりだすのだった。奥様である琴子と中瀬と家庭教師のコウ。お嬢さまの小夜と博人と彼と同じ立場の樋野。最後の章で企てのすべてが明らかになり、それだけではなく思いもしなかった結末を見ることになるのである。最後の最後まで気を抜けない一冊である。

おじさんとおばさん*平安寿子

  • 2010/06/28(月) 21:37:01

おじさんとおばさんおじさんとおばさん
(2010/04/07)
平 安寿子

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ひさかたぶりの同窓会に集まった男女たち。みんなもうおじさんとおばさんで、体力気力は落ち気味、介護や子供たちの就職にと心配の種もつきない。しかし、初恋の人に会えば胸がきゅんとし、同時代のテレビ番組、漫画、流行歌を思い出すと懐かしさに気持ちが温かくなる。幾つか新たな同級生カップルもできたが、その恋の行方は?熟年こその「希望」を求める50歳を過ぎた人々に、愛をこめて贈る同窓会小説。


  第一話  愛のプレリュード
  第二話  男の子女の子
  第三話  プレイバックPart2
  第四話  愛なき世界
  第五話  HELP!
  第六話  希望


50代も後半になれば、それぞれに立場上や健康上の問題を抱えるようになるのは当然である。そんなさまざまな屈託を抱えた六年三組の元同級生が四十年以上の時を経て再会した。駆け引きや損得勘定も歳相応に上手くなったが、同級生というのは浮世の人間関係とはいささか違う近しさがある。そこで純情が蘇えったりもするのである。本作に自分を重ねる対象は残念ながら見あたらなかったが、自分とダブらせる読者もおそらく多いことだろう。各章にこのタイトルがつけられた意味が第六話で判る。還暦を目の前にして、力いっぱい歌うのだ!

オリーブ*吉永南央

  • 2010/06/27(日) 16:35:21

オリーブオリーブ
(2010/02)
吉永 南央

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街中で喪服姿の妻を見かけ不審を抱いた慎一は、弔われた故人の名が、結婚前の妻と同じ「斉藤響子」だったことを知る。葬儀の翌日、彼女は姿を消した。慎一は響子の跡をたどろうとするが、手がかりは持ち去られるか処分され、唯一の肉親である母親とも連絡が取れない。さらに、そもそも二人の婚姻届すら提出されていなかったことが判明する。彼女は何者だったのか、そして何の目的で慎一と結婚したのか―。(『オリーブ』)。


表題作のほか、「カナカナの庭で」 「指」 「不在」 「欠けた月の夜に」

逆転劇をみているような五編である。満ち足りていたのにある日裏切りを知る。信じあっていると信じていたのに信じられていなかった事実を突きつけられる、ある日を境に愛だと思っていたものが損得にとって変わる。そんな衝撃を味わう一冊である。そうであるのに、読後感がさほど悪くないのは、逆転劇で暗い場所に立たされた者が落ち込んだきりでいないからだろうか。それとも、他人の不幸を密の味と感じる読み手の性格の悪さゆえだろうか。

ボクは坊さん。*白川密成

  • 2010/06/26(土) 13:47:59

ボクは坊さん。ボクは坊さん。
(2010/01/28)
白川密成

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24歳、突然、住職に。
仏教は「坊さん」だけが独占するには、あまりにもったいない!
笑いあり、涙あり、学びあり!
大師の言葉とともに贈る、ポップソングみたいな坊さん生活。


お寺の孫として生まれはしたが、そして幼いころからお坊さんに可能性を感じてはいたが、ある日住職である祖父が病を得、亡くなって、24歳という若さで栄福寺の住職になることになった。Tシャツにジーパンの白川歩くんが、法衣を実につけ白川密成として、生きることになったのである。とはいえ、そこは24歳の若者、伝統を踏まえつつ新しい可能性も探りはじめる。戸惑いためらいながらも、興奮し生きがいを感じる密成さんの気持ちが漲る一冊である。
読みながら、日本に生まれ日本人として生きている自分には、ことさら仏教だとか宗教だとか考えなくても、自然にそのことが根底にある行いをして入ることが少なからずあるように思われて、それもまた素敵なことなのではないかと思えたのだった。


栄福寺のホームページ「山歌う」はこちらです。→ http://www.eifukuji.jp/

太陽のパスタ、豆のスープ*宮下奈都

  • 2010/06/23(水) 18:33:50

太陽のパスタ、豆のスープ太陽のパスタ、豆のスープ
(2010/01/26)
宮下 奈都

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暗闇をさまよう明日羽に、叔母のロッカさんは“リスト”を作るよう勧める。溺れる者が掴むワラのごとき、「漂流者のリスト」だという。明日羽は岸辺にたどり着けるのか?そこで、何を見つけるのか?ささやかだけれど、確かにそこでキラキラと輝いている、大切なもの。読めば世界が色づきはじめる…“宮下マジック”にハマる人続出中。


1 漂流者  2 引っ越し  3 鍋を買う  4 サルヴァトーレ  5 青空マーケット  6 ホットケーキにビール  7 お見舞い  8 ふりだしを越えて  9 不可能リスト  10 豆とピン  11 一切れのパン  最終章 今日のごはん


式場の予約も済ませ、仲人も依頼したあとで婚約を破棄された明日羽(あすわ)は、なにをする意欲もしない元気もなにもかもを失ってただずぶずぶと沈んでいた。そんなとき母の妹六花(ロッカ)に、ドリフターズリスト(漂流者のリスト)を作ることを薦められた。そして半ば以上自棄で、やりたいことをリストアップしてみたのだった。
あすわの葛藤が胸が痛くなるほどよくわかる。そしてその情けないほど打ちひしがれた姿に、読者は見守り応援せずにはいられなくなるのである。叔母のロッカさん、両親と兄、会社の同僚の郁ちゃん、そして幼なじみの京。周りの人たちのキャラクターもとてもいい。みな素晴らしいが、それぞれに屈託を抱えているのが伝わってきて共感を覚える。毎日ちゃんとごはんを作って食べること、そんなささやかなことがなによりも大切なのだと思わせてくれるあたたかな一冊だった。

シアター!*有川浩

  • 2010/06/22(火) 19:34:14

シアター! (メディアワークス文庫)シアター! (メディアワークス文庫)
(2009/12/16)
有川 浩

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小劇団「シアターフラッグ」―ファンも多いが、解散の危機が迫っていた…そう、お金がないのだ!!その負債額なんと300万円!悩んだ主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。司は巧にお金を貸す代わりに「2年間で劇団の収益からこの300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」と厳しい条件を出した。新星プロ声優・羽田千歳が加わり一癖も二癖もある劇団員は十名に。そして鉄血宰相・春川司も迎え入れ、新たな「シアターフラッグ」は旗揚げされるのだが…。


学生のサークル乗りで、丼勘定のアマチュア小劇団・シアターフラッグの物語。しっかり者の兄・司といじめられっ子体質で甘えん坊の弟・巧のキャラクターが、お約束のようだがとてもいい。大方の予想通り、司という鉄拳宰相を得たシアターフラッグは、上手くいくかに見えたところで危機に直面し…、、という涙あり笑いありの物語なのだが、それに有川テイストが織り込まれていてとにかくいい。無条件で愉しめる一冊である。

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小さいおうち*中島京子

  • 2010/06/20(日) 20:52:31

小さいおうち小さいおうち
(2010/05)
中島 京子

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赤い三角屋根の家で美しい奥様と過ごした女中奉公の日々を振り返るタキ。そして60年以上の時を超えて、語られなかった想いは現代によみがえる。


  第一章  赤い三角屋根の洋館
  第二章  東京モダン
  第三章  ブリキの玩具
  第四章  祝典序曲
  第五章  開戦
  第六章  秘策もなく
  第七章  故郷の日々
  最終章  小さいおうち


タキが、女中奉公をしていたころのことを手記にしながら思い出している、という形で語られる物語である。そしてそれを包むようにあるのは、タキ亡きあとその手記を託された甥の健史が伯母・タキが女中として奉公していた赤い屋根の家のことを知ろうとする姿である。思いで物語が入れ子になっているとでも言えばいいだろうか。
タキの思い出話は、キラキラと輝いていて、それがたとえ戦争中のことであってもとても幸福そうに見受けられる。タキ自身がきっと輝いていたひとときであったのだろうと察せられる。女中としての気働きや、物が豊富にない時代の食卓の工夫といったことごとが、物のあふれた現代よりもずっと豊かに思えるほどである。タキの控えめな語り口もまた味わい深さを増している。最終章をも含めて、とても贅沢で味わい深い一冊だった。

主よ、永遠の休息を*誉田哲也

  • 2010/06/19(土) 16:46:13

主よ、永遠の休息を主よ、永遠の休息を
(2010/03/20)
誉田 哲也

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通信社の東京支社社会部に勤務、池袋警察署の記者クラブに詰める鶴田吉郎。コンビニ強盗現場に居合わせて犯人逮捕をスクープし、店員芳賀桐江と知り合う。逮捕に協力して立ち去った男から、暴力団の事務所が襲撃された事件を知らないか、という奇妙な問い合わせが。襲撃の有無を調べる過程で吉郎は、14年前に起きた女児誘拐殺人事件の「犯行現場と思しき実録映像」がネット上で配信されていたことを突き止める。犯人は殺害を自供したが、精神鑑定によって無罪となり…。


通信社の若手記者・鶴田と、コンビニ店員の桐江が交互に語る形である。初めは単なるコンビニ店員と常連客だったのが、桐江がレジに立つときに起こったコンビニ強盗の現場に偶然鶴田が居合わせたことから、思わぬ方項に物語が動きはじめるのである。本人たちにもその時点ではまったく自覚がないままに、である。桐江が抱えるトラウマと、鶴田が追う事件との関連はかなり早い時点で想像でき、読者も真実に近づけるのだが、それはあくまでも近づいただけであって、真実はさらに想像を絶するおそましさであり、痛ましさである。桐江があまりにも哀しすぎる。胸が痛む一冊である。

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蝦蟇倉市事件2

  • 2010/06/17(木) 18:26:43

蝦蟇倉市事件2 (ミステリ・フロンティア)蝦蟇倉市事件2 (ミステリ・フロンティア)
(2010/02/24)
秋月 涼介北山 猛邦

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海と山に囲まれた、風光明媚な街、蝦蟇倉。この街ではなぜか年間平均十五件もの不可能犯罪が起こるという。マンション、レストラン、港に神社、美術館。卒業間近の大学生、春休みを迎えた高校生、会食中の社会人、休日を過ごす教師。舞台も人も選ばずに、事件はいつでも起こっている―。様々な不可思議に包まれた街・蝦蟇倉へようこそ!今注目の作家たちが、全員で作り上げた架空の街を舞台に描く、超豪華競作アンソロジー第二弾。


  さくら炎上  北山猛邦
  毒入りローストビーフ事件  桜坂洋
  個室の本・・・真知博士 五十番目の事件  村崎友
  観客席からの眺め  越谷オサム
  消えた左腕事件  秋月涼介
  ナイフを失われた思い出の中に  米澤穂信


『蝦蟇倉市事件1』の第二弾である。前作同様作家のみなさんが愉しんで蝦蟇倉市を作り上げているのが、それぞれの物語から感じ取れて読者もさらにわくわくする。仕掛けや構成にも工夫がみられる。蝦蟇倉市民の一員になったつもりで、おののき愉しめる一冊である。

「悪」と戦う*高橋源一郎

  • 2010/06/16(水) 09:52:49

「悪」と戦う「悪」と戦う
(2010/05/17)
高橋 源一郎

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少年は旅立った。サヨウナラ、「世界」――衝撃のデビュー作『さようなら、ギャングたち』から29年。著者自身「いまの自分には、これ以上の小説は書けない」と語った傑作がついに刊行!


平易な言葉で、ときにフォントの大きさを変えてインパクトを与えて書かれているので、厚さの割りに読みやすいが、内容について解ったか、と問われれば、即座に解ったとは応えられない。自分の奥底のどこかがこの物語のなにかに感応していることは判る。ただそのなにかがはっきりと像を結ばないのである。だが、なぜか誘われるように涙がでるのである。だれしもが、「悪」と戦いながらそれぞれの人生を生きていくのだとしたら、「悪」もあながち不必要なだけのものではないのではないか、とぼんやり思う。

そんなはずない*朝倉かすみ

  • 2010/06/15(火) 16:57:54

そんなはずないそんなはずない
(2007/07)
朝倉 かすみ

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松村鳩子は、30歳の誕生日を挟んで、ふたつの大災難に見舞われる。婚約者に逃げられ、勤め先が破綻。自分を高く売ることを考え、抜け目なく生きてきたのに。失業保険が切れる頃、変りものの妹・塔子を介し年下の男、午来と知り合う。そして、心ならずも自分の過去の男たちとつぎつぎに合う羽目に。さらに、新しい職場である図書館の同僚たちに探偵がつきまとい、鳩子の男関係を嗅ぎまわっている、らしい。果して依頼人は?目的は―。


  第一章  大丈夫
  第二章  午後に来た青年
  第三章  滑坂
  第四章  運針
  第五章  嘘つきは誰だ
  第六章  裏切ったのは誰だ
  第七章  三つ合わせろ
  第八章  時にこの青年は


恋愛小説でもあり、姉妹の物語でもあり、鳩子の胸の裡の物語でもある。如才なく生きてきたつもりの鳩子は、相手の両親に挨拶に行く予定のその日に恋人に逃げられ、さらに勤めていた信用組合が倒産し、まるでそれがきっかけのようになにもかもが上手くいかなくなっていく。恋愛関係においても、家族との関わりにおいても、妹との距離感においても、職場でもアルバイト先でも、鳩子の胸には常に「そんなはずない」というもやもやとした思いが渦巻いている。全編、そんなはずない感にひたひたと侵されて、鳩子に未来はないのだろうか、と思いはじめたラストでやっと吹っ切れかけたようで、ほっと胸をなでおろす。そんな一冊。

るり姉*椰月美智子

  • 2010/06/14(月) 10:39:50

るり姉るり姉
(2009/04)
椰月 美智子

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今この瞬間が、こうして過ごす毎日が、奇跡なのかもしれない。幸せのそばには、いつも「るり姉」がいた―。傑作『しずかな日々』(野間児童文芸賞&坪田譲治文学賞受賞)の感動が新たな魅力でふたたび!注目の著者が贈る、家族小説最新刊。


  第一章  さつき――夏
  第二章  けい子――その春
  第三章  みやこ――去年の冬
  第四章  開人――去年の秋
  第五章  みのり――四年後春


さつき、みやこ、みのり三姉妹は、母・けい子の妹である るり姉のことをそれぞれの思いでとても慕っている。そんなるり姉に病気が見つかり、日に日に輪郭を曖昧にしてゆく。日常ならざるそんな事態の前後を描くことで、何気ない日常のありがた味やしあわせが浮き彫りにされる一冊である。登場人物の誰もが現実感あふれる描かれ方で、物語の中で生きている。

道徳という名の少年*桜庭一樹

  • 2010/06/13(日) 06:39:33

道徳という名の少年道徳という名の少年
(2010/05/11)
桜庭 一樹

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「愛してるわ!ずっと昔から…。子供の頃から、愛していたわ!」町でいちばん美しい、娼婦の四姉妹が遺したものは?(1、2、3,悠久!)、黄色い目の父子と、彼らを愛した少女の背徳の夜(ジャングリン・パパの愛撫の手)、死にかけた伝説のロック・スターに会うため、少女たちは旅立つ(地球で最後の日)、 ―桜庭一樹のゴージャスな毒気とかなしい甘さにアーティスト野田仁美が共振してうまれた、極上のヴィジュアルストーリー集。


「1,2,3、悠久!」 「ジャングリン・パパの愛撫の手」 「プラスチックの恋人」 「ぼくの代わりに歌ってくれ」 「地球で最後の日」

野田仁美さんの装画と一体になった大人びた童話のような一冊である。本の作りもそうだし、物語の内容もまた然りである。どこか遠い異国で起きているどこか遠い感覚の物語。夢と知りながら、覚めないでと願いつつ見つづける夢のような心地でもある。かなりショッキングな出来事ながら現実感がないような。幸福の裏側は間違いなく不幸なのだと思わせられる一冊でもある。

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Invitation

  • 2010/06/12(土) 16:50:51

InvitationInvitation
(2010/01)
江國 香織川上 弘美

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八人のミューズがささやく八つの物語。とてつもなく甘美で、けっこう怖い…絶品短篇小説館。


  江國香織  蛾
  小川洋子  巨人の接待
  川上弘美  「天にまします吾らが父ヨ、世界人類ガ、幸福デ、ありますヨウニ」
  桐野夏生  告白
  小池真理子  捨てる
  高樹のぶ子  夕陽と珊瑚
  高村薫  カワイイ、アナタ
  林真理子  リハーサル


うれしくなってしまうような豪華な顔ぶれである。それぞれがそれぞれらしく上手い。気だるさ、ちょっとした捻れ、しんとした恐怖、官能・・・。それぞれの著者のエッセンスが効いた一冊である。

もう二度と食べたくないあまいもの*井上荒野

  • 2010/06/11(金) 18:09:33

もう二度と食べたくないあまいものもう二度と食べたくないあまいもの
(2010/04/10)
井上荒野

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気がつかないふりをしていた。もう愛していないこと。もう愛されていないこと。直木賞作家が美しくも儚い恋の終わりを描いた傑作。


「幽霊」 「手紙」 「奥さん」 「自伝」 「犬」 「金」 「朗読会」 「オークション」 「裸婦」 「古本」

恋の終わりにもさまざまあるものだと思わされる。夫婦の終わり、恋人の終わり、不倫の終わり。状況もさまざまである。どれも両者が同時にそうなるものではなく、どちらかが先に冷めるのである。ぎくしゃくした温度差がなんとも気詰まりでやるせない。気づいていても、気づかない振りをしていても、一度そうなってしまうと加速度的に終わりに向かって進むしかないのである。もう二度と恋なんかしない、と思いもするだろう。だが、もう二度と食べたくない、とそのときは思っていても、しばらく時がたてば求めてしまうのがあまいものである。この物語の登場人物たちも、きっとまたあまいものを求めるのだろうと思わされもする一冊なのだった。

ガミガミ女とスーダラ男*椰月美智子

  • 2010/06/10(木) 18:59:25

ガミガミ女とスーダラ男ガミガミ女とスーダラ男
(2009/09)
椰月 美智子

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おちゃらけ者でシモネタ好きの夫。妻のイライラはつのるばかり。日常的に激しいバトルを繰り返すが、なぜか赤ん坊も生まれて…。夫婦という不可思議な関係をユーモラスに綴った、風変わりな「愛」の物語。


内容紹介にもあるが、まったくもって風変わりな愛情表現である。物語、とあるが、これはエッセイですよね?それとも限りなくエッセイに近いフィクションなのだろうか。もうほんとうに毎日がバトルの夫婦である。しかも、妻の側のストレスが大きすぎるように見える。傍からそう見えるだけで、実際はきっとより愛を育んでいるのだろうと思うが、DV一歩手前という苛烈な愛情表現である。あまりな毎日にこっそり覗きに行ってみたくなる。

ぜんぜんたいへんじゃないです。*朝倉かすみ

  • 2010/06/10(木) 10:42:53

ぜんぜんたいへんじゃないです。ぜんぜんたいへんじゃないです。
(2010/03/19)
朝倉 かすみ

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『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞し、今いちばん注目される若手作家(だが今年50歳)の人生前向き初エッセイ。掃除をずーっとしてなくても締め切り地獄にハマってもオットと喧嘩しても「ぜんぜんたいへんじゃない」日々のあれこれを綴る。


小説家の書くエッセイには、わたしとしては、小説だけ書いていていただきたい、と思わせられるものも少なくないのだが、これはとても好みだった。著者のとても近くまでいけたように感じられるのがその理由だろう。そして、地味に共感することが多々あって、しかもそれがマイナスポイントばかりだったりするのが情けないのかうれしいのかよくわからない。でもやはりうれしい。本作を読んで勝手に親近感を抱いてしまい、いつかどこかでお会いすることがあったら、なれなれしく声をかけてしまいそうである。

同期*今野敏

  • 2010/06/09(水) 16:38:37

同期同期
(2009/07/17)
今野 敏

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懲戒免職になった同期の公安刑事が、連続殺人の容疑者に。「教えてくれ。おまえはいったい何者なんだ」男たちの前に立ちはだかる最も高い壁―組織の論理。その壁を突破するのは、刑事たちの誇りと絆。現時点での集大成ともいえる最新警察小説、登場。


389ページ。三日くらいかかるかと思って読み始めたのだが、一気に読み終えてしまった。主人公の刑事・宇田川亮太が、はじまりとラストではまったく別人のようである。事件とその裏でうごめくもの、そして上司や先輩の刑事たちの上辺だけでは判らない情熱のようなものに触れて成長した証である。刑事というのはひとつの職業だが、ある種職人技でもあるのだと思わされる。刑事仲間や上司、相方刑事に抱く宇田川の印象が、短期間に二転三転するのも、現実味があって好感した。止まらなくなる一冊だった。

竜の涙――ばんざい屋の夜*柴田よしき

  • 2010/06/08(火) 19:49:48

竜の涙 ばんざい屋の夜竜の涙 ばんざい屋の夜
(2010/02/09)
柴田 よしき

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東京丸の内、古びた雑居ビルの「ばんざい屋」に一人の男が訪ねてくる。
ばんざい屋と立ち退き交渉をするためだった。一等地にある古いビルは建て替えられることになっていた。ばんざい屋の女将・吉永は、立ち退くか、高額なテナント料を払い新しくなるビルにはいるか決断しかねていた。そんななか、常連客・進藤が女性の客を連れてきた。一見、洗練されたキャリアウーマン風、だが、疲れていた。その女性・川上有美が「竜の涙」という奇妙な言葉を発した。死んだ祖母が、これさえ飲めば、医者も薬もいらなかったという。客の誰もが不思議がるなかで、女将が推理した「竜の涙」の正体とは? そして、有美が心に秘めた想いとは?


表題作のほか、「霧のおりてゆくところ」 「気の弱い脅迫者」 「届かなかったもの」 「氷雨と大根」 「お願いクッキー」

京のおばんざい、というよりももはや女将のおばんざいと言ってもいいような気持ちの篭った料理の数々が並ぶ、ばんざい屋が舞台である。そして、女将の吉永が、常連客の話の中にでてくる引っかかりを彼女なりに解きほぐしてみせ、客たちをほっとさせるのである。禍々しい事件など一切起こらないが、いわゆる安楽椅子探偵物語といったところだろう。どうしても北森鴻氏の香菜里屋シリーズを思い出さずにはいられないが、本作も同じように店に集う人々をしあわせな心地にしてくれる。カウンターの端に客のひとりとして座り、おいしい料理に舌鼓を打ちながら、菊とはなしに女将とほかの客の話を聞いているような心地にさせてくれる一冊である。

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キケン*有川浩

  • 2010/06/07(月) 19:12:21

キケンキケン
(2010/01/21)
有川 浩

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成南電気工科大学機械制御研究部略称「機研」。彼らの巻き起こす、およそ人間の所行とは思えない数々の事件から、周りからは畏怖と慄きをもって、キケン= 危険、と呼び恐れられていた。これは、その伝説的黄金時代を描いた物語である。


「部長・上野直也という男」 「副部長・大神宏明の悲劇」 「三倍にしろ!前編」 「三倍にしろ!後編」 「勝たんまでも負けん!」 「落ち着け、俺たちは今、」

キケン=機械制御研究部。であるが、キケン=機械制御研究部=危険!!が正解なのである。上野という男、小学生のころから自宅で爆弾を作って、自室の天井をぶち抜きそうになり、自宅出入り禁止になり、庭のプレハブで暮らしている男である。その上野が部長なのだから、推して知るべし機械制御研究部の実態、である。
各章の最後に夫婦らしき男女がキケン時代を懐かしんでいるような会話が挟まれているのだが、これがだれなのかは最後になるまで明かされない。そして、この会話があるからこそ、はちゃめちゃだったキケン時代が一層引き立ってもいるのである。なにか屈託が感じられて妙に切ないのだ。そのわけもラストで腑に落ち、そして落涙。こんな破天荒なサークル物語で泣かされるとは!文句なく面白い一冊である。

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廃墟に乞う*佐々木譲

  • 2010/06/05(土) 17:18:49

廃墟に乞う廃墟に乞う
(2009/07/15)
佐々木 譲

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13年前に札幌で起きた娼婦殺害事件と、同じ手口で風俗嬢が殺された。心の痛手を癒すため休職中の仙道は、犯人の故郷である北海道の旧炭鉱町へ向かう。犯人と捜査員、二人の傷ついた心が響きあう、そのとき…。感激、感動の連作小説集。


表題作のほか、「オージー好みの村」 「兄の想い」 「消えた娘」 「博労沢の殺人」 「復帰する朝」

初動捜査のミスから被害者を出し、犯人も生きて逮捕することができなかった事件のPTSDによる抑鬱症状の治療のために休職中の刑事・仙道孝司が主人公の連作である。捜査権のない仙道に、知人やかつての捜査で知り合いになった人たちからの頼みが次々と舞いこみ、手助けのつもりで事件の近くに寄るうちに解決への糸口を掴み、警察の捜査の助けにもなっていく。引いてはそれが、仙道自身のリハビリにもなっているようである。地味で淡々とした語り口であるものの、仙道の真面目な人柄が垣間見られて(痛々しくもあるが)好ましい。終章では、現場復帰への希望も見え、読者も共にほっとする。

密室殺人ゲーム2.0*歌野晶午

  • 2010/06/03(木) 17:23:19

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)
(2009/08/07)
歌野 晶午

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<頭狂人><044APD><ザンギャ君><伴道全教授>。
奇妙すぎるニックネームの5人が、日夜チャット上で「とびきりのトリック」を出題しあう推理合戦!
ただし、このゲームが特殊なのは各々の参加者が トリックを披露するため、殺人を実行するということ。
究極の推理ゲームが行き着く衝撃の結末とは!?


『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の続編である。
前作のハンドルのままの登場人物たちであるが、さて、中身はどうなのだろうか、というところは作中で明らかにされている。前作に増して、想像したくない展開になっていて、いささかげんなりする。実際にこんなことが日常的に行われる世の中にはなって欲しくないものである。その一点を除けば、四人のやりとりもそれなりの役割分担があって興味深いし、トリックはその手があったか、という新しいものであり、それが解かれていく過程もたのしめる。ついつい肩入れしたくなる人物が出てきたりもするのである。だからこそ余計に、小説の中だけのことにしておいてもらいたいものである。