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感応連鎖*朝倉かすみ

  • 2010/10/30(土) 21:25:31

感応連鎖感応連鎖
(2010/02/20)
朝倉 かすみ

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女たちの内側で、何かが蠢く。

肥満を異形とする節子か、他人の心が読める絵理香か、自意識に悩む由希子か。
交錯する視点、ぶつかり合う思惑。
真実を語っているのは誰?──魅惑の長編小説


夢の少女という母の理想を吸収するように対極を成す巨漢に育ち、それを異形と思わせようと腐心する墨川節子。幼いころに受けたセクハラ紛いの行為によって強迫観念的に負のシミュレーションを重ねていく数学教師の妻・秋澤初美。少しばかり綺麗な元モデル似で、幼いころから人の負の感情を言葉にしてしまうという特性を持つ佐藤絵里香。節子と絵里香のクラスメイトで節子の母の理想とする夢の少女を具現化したような新村由季子(旧姓島田)。出会った瞬間から外側からではわからない部分で感応し合う三人の少女は、それぞれのやり方で自分の感情をコントロールし、そ知らぬ顔で影響を与え合っているように見える。容姿に特徴があるこの三人なので、ものすごく特別なことのようにも見えてしまうが、この年頃の少女が集まれば多かれ少なかれ起こることだとも思われる。からっぽならからっぽなりに、不安定なら不安定なりに、自意識過剰なら自意識過剰なりに自分自身の輪郭を侵されないように防御態勢を固めつつも、少しずつ互いの毒に染まり合って自己というものを作り上げていくのだろう。三人の少女を冷静にみつめる温度のない目が常に意識されるような一冊でもある。

株式会社 家族*山田かおり 山田まき・絵

  • 2010/10/28(木) 17:05:08

株式会社 家族株式会社 家族
(2010/02/10)
山田 かおり山田 まき

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これぞ現代の「幸福論」か!?

尼崎出身のファッションデザイナー、アヴァンギャルドな家族の日々を綴る!

もしかすると、あなたのとなりの家で繰り広げられているかもしれない!?
嘘みたいだけど、本当の家族の話。家族という組織の絶妙なバランス、
面倒だけど憎めない父、母。ニヒルな妹(本書ではイラストを担当)。
誰にでも家族がいる。その全てに、些細だけど愛すべき物語がある。
全国から笑い声、続々!愉快痛快請け合います!


何気ない、というには面白すぎる家族の日常のあれこれを綴った日記のような一冊である。常識の規格からはずれたような父や、おおらかな母、根暗な妹やペットたちのことがときには揶揄するように、また苦笑いを我慢するようにして描かれているのだが、そこからこちらに向かって流れてくるのは、あふれんばかりの愛情なのである。愉快痛快、そしてあたたかな家族の理想である。

ラブコメ今昔*有川浩

  • 2010/10/28(木) 13:25:05

ラブコメ今昔ラブコメ今昔
(2008/07/01)
有川 浩

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突っ走り系広報自衛官の女子が鬼の上官に情報開示を迫るのは、「奥様のナレソメ」。双方一歩もひかない攻防戦の行方は?(『ラブコメ今昔』)。出張中新幹線の中で釣り上げた、超かわいい年下の彼は自衛官。遠距離も恋する二人にはトキメキの促進剤。けれど…(『軍事とオタクと彼』)。「広報官には女たらしが向いている」と言われつつも彼女のいない政屋一尉が、仕事先で出会ったいい感じの女子。だが現場はトラブル続きで…(『広報官、走る!』)。旦那がかっこいいのはいいことだ。旦那がモテるのもまあまあ赦せる。しかし今度ばかりは洒落にならない事態が(『青い衝撃』)。よりによって上官の愛娘と恋に落ちてしまった俺。彼女への思いは真剣なのに、最後の一歩が踏み出せない(『秘め事』)。「ラブコメ今昔」では攻めに回った元気自衛官、千尋ちゃんも自分の恋はいっこうにままならず…(『ダンディ・ライオン―またはラブコメ今昔イマドキ編』)。


もう何も言うことはない。有川浩全開である。一話目のラストからやられっぱなしの一冊である。もちろん一話目のナレソメの話もぐっとくるが、静かに胸のうちがあたたまったところで終わるかと思いきや、の展開である。タイトルの意味が一気に腑に落ちる。そして最終話、もう一段階腑に落ちたのだった。

白戸修の狼狽*大倉崇裕

  • 2010/10/26(火) 16:58:46

白戸修の狼狽白戸修の狼狽
(2010/04/06)
大倉 崇裕

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社会人になったばかりの白戸修。アルバイト先や、落とし物を拾ったところで事件に巻き込まれる。人の頼みを断れない、困っている人を見過ごせない、そんなお人好し青年だけど、いつの間にか事件を解決。サクッと読めてクスッと笑える癒し系ミステリー。


『ツール&ストール』のちに『白戸修の事件簿』に改題の続編である。
「ウォールアート」 「ベストスタッフ」 「タップ」 「ラリー」 「ベストスタッフ2 オリキ」という六編の連作短編集。

世界堂出版に就職し社会人になった白戸くん、お人好し体質は相変わらずのようで、一歩歩くたびに用事を言いつけられ、電話に出るたびに無理難題を頼みこまれる。しかもなんだかんだで引き受けることになり、厄介ごとに巻き込まれるのも前作と同じ。頼りになるかと言えばそんなことはまったくなく、腕っ節が強いわけでもないのに、なぜか渦中でふと閃き厄介ごとを解決に導いてしまうのである。白戸くんにとってはいいのか悪いのかさっぱりわからない体質だが、曲がりなりにも人様の役にたっていることは間違いないだろう。情けないやら愉しいやらの一冊である。

すれ違う背中を*乃南アサ

  • 2010/10/24(日) 16:39:05

すれ違う背中をすれ違う背中を
(2010/04)
乃南 アサ

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「過去」の背中に怯える芭子。「堀の中」の体験をいまだ不用意に口走る綾香。しかしやっと、第二の人生が、ここ谷中で見えてきた二人だった。コトが起こったのはちょうどそんな頃。二つの心臓は、すれ違った彼らにしばし高鳴り、しばし止まりかけた。ムショ帰りコンビのシリーズ、大好評につき第二弾。


「梅雨の晴れ間に」 「毛糸玉を買って」 「かぜのひと」 「コスモスのゆくえ」

『いつか陽のあたる場所で』の続編である。芭子も綾香もなんとか職を見つけ順調に谷中での居場所を固めつつあるようでひと安心するが、反面この穏やかな暮らしを続けていくために強いられる負い目や緊張感もひしひしと伝わってきて切なくなる。犯した罪を忘れてしまっていいとは思わないが、しっかりと反省し罪を償ったからには、彼女たちにも充実した明日を生きさせてあげたいものだとも思う。個人的には、巡査の高木聖大に頼ったら絶対に力になってくれると思うのだが、彼女たちにとってはただのおまわりさんなのだから仕方がない。切なくじんとする一冊である。

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ゆんでめて*畠中恵

  • 2010/10/23(土) 16:59:46

ゆんでめてゆんでめて
(2010/07)
畠中 恵

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身体は弱いが知恵に溢れる若だんなの、史上最大の後悔。ズレてはいるけど頼りになる妖たちも、今度ばかりは、助けられない?「しゃばけ」シリーズ第九弾。


表題作のほか、「こいやこい」 「花の下にて合戦したる」 「雨の日の客」 「始まりの日」

ゆんでとは弓手=左のこと。めてとは馬手=右のこと。
はじめは弓手に向かうつもりでいた若だんな・一太郎はふとした気がかりゆえに馬手に進んでしまったのだった。この一冊はそこからはじまる物語なのである。
物語のなかの時間は一話ごとに一年ずつ過去に戻り、そもそものはじまりである一太郎が馬手に進んだその時へと帰っていく。読者は時を遡りながら一太郎が選んでしまった道の先に待ち受けていた困難を嘆き憂えながら一太郎と共に巻き戻されていくのである。戻った場所になにがあるのかは読んでのお愉しみだが、一太郎は今回もずいぶんたくましくなり――すぐに寝つくのは変わらないが――やさしさと勇気を兼ね備えた若者になっているのがなんともうれしい。

天才探偵Sen3-呪いだらけの礼拝堂*大崎梢

  • 2010/10/21(木) 17:01:26

天才探偵Sen〈3〉呪いだらけの礼拝堂 (ポプラポケット文庫)天才探偵Sen〈3〉呪いだらけの礼拝堂 (ポプラポケット文庫)
(2009/02)
大崎 梢

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十年に一度、名画公開の日には、悲劇が起こる―聖クロス学園の噂の日がやってきた!あやしい魔方陣に黒魔術、不安にかられた生徒たちを名探偵の鋭い推理が突く。人気シリーズ第三巻。


千くんシリーズ三作目は、小学部から高等部まである近所の私立聖クロス学園の学園祭で活躍する千・香奈・新太郎トリオである。新聞部の取材だと香奈に言われて訪れたクロ学(聖クロス学園)で、不穏な悪魔騒動に巻き込まれ、謎を解き明かすのだった。千くんが謎に関わることになったのは、保健室の万希先生がらみで相変わらず不順な動機だし、怪しいグループ・白バラ会の面々に向かって、謎は自分が解き明かすと宣言してしまう辺り生意気ぶりは健在なのだが、実際解いてしまうのだから文句は言えない。

天才探偵Sen2-オルゴール屋敷の罠*大崎梢

  • 2010/10/20(水) 18:17:51

天才探偵Sen〈2〉オルゴール屋敷の罠 (ポプラポケット文庫)天才探偵Sen〈2〉オルゴール屋敷の罠 (ポプラポケット文庫)
(2008/07)
大崎 梢

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とびきりの秀才探偵、怪奇現象に挑戦!?だれもいないはずのお屋敷で、物音と人影が―。謎をしらべるうちに、屋敷にしかけられた、大きなからくりが明らかに…!


千くんシリーズの二作目。
とびきり頭はいいが協調性がなく変わり者、という小学六年の千くん(渋井千)だが、新太郎と香奈と今回は転校してきたばかりで謎の持ち込み主でもある麻美と一緒に行動しているのを見ると、それほどの変人でもない気がする。子どもらしいとは言えないが…。
麻美の亡くなったひいおばあさんが住んでいたお屋敷で夜ごとオルゴールの音色が聞こえ、誰もいないはずの屋敷の中でふわっと白い影が動くのが見えた、という麻美からの相談を受けて調査に乗り出した千くんたちである。調べるうちに、ひいおばあさんの絹子さんの貴重なオルゴールのコレクションに関するよからぬ噂についても知り、屋敷全体のからくりや、オルゴールにまつわる想いも解き明かすことになる。謎解きとオルゴールの知識と両方愉しめる一冊である。

ドリーマーズ*柴崎友香

  • 2010/10/20(水) 10:58:20

ドリーマーズドリーマーズ
(2009/08/21)
柴崎 友香

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目の前にある世界が、夢のように思える瞬間がある。いくつもの風景からあふれ出す、大切な誰かへのたしかな想い。現実と夢のあわいを流れる時間を絶妙に描く表題作ほか、ゆるやかな日常からふと外れた瞬間をヴィヴィッドに映し出す、読むたびに味わい深まる連作短篇集。


表題作のほか、「ハイポジション」 「クラップ・ユア・ハンズ!」 「夢見がち」 「束の間」 「寝ても覚めても」

関西から東京に出てきて働いている女の子の何気ない暮らしぶりが描かれていてとてもリアルに感じられる。舞台は大阪・京都だったり新宿だったりする。強い主張があるわけでもなく、かといって雰囲気だけに流されているわけでもない、著者の作品に流れる時間のゆるやかな動きが、関西弁の可愛らしさも手伝ってとても心地好い。読者の方が夢の世界にたゆたっていきそうな一冊である。

禁猟区*乃南アサ

  • 2010/10/19(火) 18:19:35

禁猟区禁猟区
(2010/08)
乃南 アサ

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捜査情報が漏れている!?刑事が立場を利用して金を動かしている!?警察内部の犯罪を追う監察官はあくまで陰の存在。隠密行動を貫いて「密猟者」を狩り出してゆく。尾行される刑事は意外にも無防備。獣道に沿って仕掛けられた罠に気づきもしない。プロとしての自負が邪魔するのだろうか。監察チームの頭脳プレーを描く本邦初の警察インテリジェンス小説、ここに誕生。


表題作のほか、「免疫力」 「秋霖」 「見つめないで」

警察官の非行を暴く監察チームを要とする連作中篇。背信行為に手を染めるきっかけはさまざまである。魔が差して、あるいは確信犯的に、警察官という特殊な身分であるからこそ堕ちていった者たちを身内の冷静な目が追う。泥沼とも言える物語を監査室の紅一点・いくみの明るい若さと未熟さが救っている。そのいくみが巻き込まれる事案には情けなくやるせなくなるが、明るさは失わずにいて欲しいものである。新たな切り口の一冊。

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優しいおとな*桐野夏生

  • 2010/10/18(月) 09:28:02

優しいおとな優しいおとな
(2010/09)
桐野 夏生

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家族をもたず、信じることを知らない少年イオンの孤独な魂はどこへ行くのか―。


スープ・キッチン→シブヤパレス→バトルフィールド→鉄と銅と錫と→世界は苦難に満ちている→優しいおとな

ホームレスであふれる渋谷が舞台。ほんの少しだけいまよりも先に行った渋谷のようである。他人を敵視し、群れずに生き延びようとする少年・イオンは幼いころ一緒に暮らした鉄と銅という双子の兄弟を想いながらいつしかアンダーグラウンドに呑み込まれていく。そんなイオンだが、知らず知らずのうちに数少ないが頼れる人に出会い、とうとう鉄との再会も果たす。ラストの安心感がこれほど哀しい物語もなかなかないだろう。救いようのない胸苦しさと切なさを伴う一冊である。

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砂漠の悪魔*近藤史恵

  • 2010/10/17(日) 14:06:12

砂漠の悪魔砂漠の悪魔
(2010/09/30)
近藤 史恵

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親友を裏切った報いがこの過酷な人生なのか親友を自殺に追い込んだ広太は、ヤクザに脅されて厳寒の北京へ旅立つ。第十回大藪春彦賞受賞者の近藤史恵が、日本と中国を舞台に描く渾身のロードノベル!


著者のこれまでの作風とはまったく違う広大で凄絶な一冊だった。日本で起こった至って個人的な事件と、それが元で広太が連鎖的に転がるように巻き込まれていく出来事の落差にまず目眩のようなものを覚える。中国という広大な国のそのまた辺境に置かれると、こうまで価値感が変わるのかという驚きもある。そして、日本にいるときには言い訳と我が身可愛さが先立っていた広太は、辺境の地での凄絶な体験を通して次第に逞しく変わっていくようである。帰国した彼を待っているのも安閑としたことではないのだが、なぜか光が感じられるようなラストである。立ち向かう勇気を身につけた広太を応援したい。

11人のトラップミス*蒼井上鷹

  • 2010/10/16(土) 16:46:44

11人のトラップミス (FUTABA NOVELS)11人のトラップミス (FUTABA NOVELS)
(2010/05/18)
蒼井 上鷹

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叔父の家に借金を頼みに行ったら、叔父の妻を殺すと脅迫する、犯人からの身代金要求電話を代わりに受けちゃって……「トラップミス」などなど、あいかわらず間の悪い、不運な男がどしどし登場し、蒼井節は今回も健在! 短編5本、間にショートショート6本、充実のミステリー・イレブン!


「イエローカード」 「トラップミス」 「ハンド」 「オウンゴール」 「インターセプト」「アシスト」 「フリーキック」 「ヘディング」 「ロスタイム」 「レッドカード」 「マノン」

サッカー用語になぞらえられたタイトルからわかるように、11の物語はなにかしらサッカーに関連する事柄が登場する。がしかし、サッカーファンが喜ぶようななにかが書かれているわけではまったくなく、著者の私用とでもいうような理由から選ばれたテーマなのである。ということになっている。蒼井作品、相変わらず回りくどく面倒である。11の物語の内容はどれもシリアスなのだが、なんとなく間抜けな感じがしてしまうのはそれぞれの主人公のキャラクターによるものだろうか。ともかく、間の悪い男たちの一冊である。

背表紙は歌う*大崎梢

  • 2010/10/15(金) 06:35:22

背表紙は歌う (創元クライム・クラブ)背表紙は歌う (創元クライム・クラブ)
(2010/09/11)
大崎 梢

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地方の書店の動向をなぜか必要以上に気にする営業マン、訪問予定の作家を気にする曰くありげな書店員……。愉快な他社の営業マンたちに助けられながらも、出版社営業の新人・井辻智紀は奮闘する。《出版社営業・井辻智紀の業務日誌》第二弾!


表題作のほか「ビターな挑戦者」 「新刊ナイト」 「君とぼくの待機会」 「プロモーション・クイズ」

井辻くんシリーズ第二弾。
すでに読み終えた方々が「えーっ!?」と叫ぶ理由がわかった。受賞者は一体???知りたい。そして今回も成風堂が要所で登場したのもうれしい。井辻くんは相変わらず他所の出版者の営業さんたちに「ひつじくん」と呼ばれるたびに「井辻です」と言い直しているが、悩みどころも対応もすっかり一人前の営業さん振りである。そんな井辻くんの親身で実のこもったやさしさが絡まった糸を解きほぐす一助になっているのだと思う。いいとこだらけの吉野先輩を越える日もきっと近い、と思わされる一冊である。長くつづいて欲しいシリーズである。

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キャンセルされた街の案内*吉田修一

  • 2010/10/14(木) 06:35:46

キャンセルされた街の案内キャンセルされた街の案内
(2009/08/22)
吉田 修一

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東京、大阪、ソウル、そして記憶の中にしか存在しない街―戸惑い、憂い、懼れ、怒り、それでもどこかにある希望と安らぎ。あらゆる予感が息づく「街」へと誘う全十篇。


表題作のほか、「日々の春」 「零下五度」 「台風一過」 「深夜二時の男」 「乳歯」 「奴ら」 「大阪ほのか」 「24 Pieces」 「灯台」

どこかの街で流れるきわめて個人的な時間、というゆるいつながりの短編集である。物語のテイストは清々しかったりやるせなかったりとさまざまなのだが、底に流れる気分というようなものがどこか似通っていて、ゆるいつながりを違和感なく読み進められる。
カバーをきっちり貼り付けてしまう図書館で借りたので、小窓からのぞく地図を見られなかったのが残念。

殴られた話*平田俊子

  • 2010/10/12(火) 16:38:07

殴られた話殴られた話
(2008/11/05)
平田 俊子

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こんなに痛いのは、殴られたからじゃない! ピアニストの椎名と不倫関係にある「わたし」だが、彼には他にも女がいる・・。息が詰まるほどのディテール。一人称ならではの効果が、作品の完成度を高めている。


表題作のほか、「キャミ」 「亀と学問のブルース」

ぐだぐだぐずぐずと重い話である。それなのになぜか厭な気分にさせられることはない。女は哀しい。それに比してこれらの物語に出てくる男は一様に不甲斐ない。ご都合主義のいいとこ取りでいつも逃げ腰である。どうして彼女たちはこんな男に、とだれもが思うのだろうが、男と女というのはことほどさように厄介なものなのである。という一冊である。

朝のこどもの玩具箱*あさのあつこ

  • 2010/10/11(月) 18:25:55

朝のこどもの玩具箱(おもちゃばこ)朝のこどもの玩具箱(おもちゃばこ)
(2009/06)
あさの あつこ

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父を亡くし、若い継母とふたり年を越す高校生。目が覚めたら魔法のしっぽが生えていたイジメられっ子。頑固な老女の説得を押し付けられた気弱な女子職員。人類の存亡をかけ森の再生目指し宇宙に飛び立つ少年たち。青春小説、ファンタジー、SFと幅広く活躍する著者ならではの色とりどりの六篇がぎゅっと詰まった小説の玩具箱。


「謹賀新年」 「ぼくの神さま」 「がんじっこ」 「孫の恋愛」 「しっぽ」 「この大樹の傍らで」

まさに玩具箱のように、さまざまテイストの物語が詰まった一冊である。どきどきはらはらさせられたり、じんわりと目頭が熱くなったり、胸にあたたかいものが満ちてきたり、切なく残酷だったり。少しずつあさのあつこ風味を味わえるのがうれしい。

パロール・ジュレと紙屑の都*吉田篤弘

  • 2010/10/11(月) 16:46:59

パロール・ジュレと紙屑の都パロール・ジュレと紙屑の都
(2010/03/27)
吉田 篤弘

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キノフという町では、言葉が凍りついてパロール・ジュレと呼ばれる結晶になるという…。その神秘を古書の紙魚となって追究する諜報員、謎を追う刑事、言葉の解凍士。言葉を巡る壮大なマジカルファンタジー。


紙魚となって本から本を渡り歩き、目的の地までいき、誰かになり変わって諜報活動をするフィッシュと呼ばれる諜報員。言葉が凍るというキノフの町で繰り広げられるパロール・ジュレをめぐる腹の探り合い。それらがみな、どこか遠い夢のようでもあり、すぐ近くの町で起きていることのようでもある。読み終えてみれば、ひどく遠回りをして元の場所に戻ってきたようでもあり、狐につままれた心地がしなくもないが、ものごととは得てしてそういうものなのだろうとも思って腑に落ちる一冊である。

炎上する君*西加奈子

  • 2010/10/08(金) 16:44:13

炎上する君炎上する君
(2010/04/29)
西 加奈子

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私たちは足が炎上している男の噂話ばかりしていた。ある日、銭湯にその男が現れて…。何かにとらわれ動けなくなってしまった私たちに訪れる、小さいけれど大きな変化。奔放な想像力がつむぎだす不穏で愛らしい物語。


表題作のほか「太陽の上」 「空を待つ」 「甘い果実」 「トロフィーワイフ」 「私のお尻」 「船の街」 「ある風船の落花」

一瞬にして意識がどこかへ飛んでいってしまうような唐突さを交え、物語はゆるりと捻れながら進む。とりたてて口にするほどでもない日常が、ある一瞬で別世界となる不思議と不穏、頭もからだも裏返るような心許なさ。それが恋であり、それを巧みに捉え物語にした一冊ではないだろうか。

愚者のエンドロール*米澤穂信

  • 2010/10/07(木) 16:58:54

愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫)愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫)
(2002/07)
米澤 穂信

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君しか、解けない――〈スニーカー・ミステリ倶楽部〉第4弾!

文化祭の準備に追われる古典部のメンバーが、先輩から見せられた自主映画。廃屋で起きたショッキングな殺人シーンで途切れたその映像に隠された真意とは!?ちょっぴりホロ苦系青春ミステリの傑作登場!


古典部シリーズ二作目。最初と最後にチャットのログが配されているのだが、読み終えてから初めに戻ると一気に力が抜ける。ホータローはやはり姉の掌からは逃れられないようである。
今回は、千反田が持ち込んだ2年F組の文化祭の出し物である映画の試写からことが始まる。そして、はじまったときにはすでに、ホータローが巻き込まれる運命は決まっていたのだった(古典部の面々は知る由もないが)。そのうえ今作のホータローの解決は古典部の面々の腑に落ちず、ホータロー自身も消化不良気味なのである。しかもそれさえもが初めから仕組まれていたことだとは。面白い趣向の一冊である。

七人の敵がいる*加納朋子

  • 2010/10/06(水) 16:48:41

七人の敵がいる七人の敵がいる
(2010/06/25)
加納 朋子

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ワーキングマザーのPTA奮闘小説

育児と仕事を何とか両立してきた、ワーキングマザーの陽子。息子の小学校入学で少しはラクになるかと思いきや、PTA・学童父母会・地域子供会などに悲鳴を上げる、想像以上に大変な日々が幕を開けた……。
●入学早々、初の保護者会はPTA役員決めの修羅場に。空気を読めない陽子は、早速敵を作ってしまう。ああ、永遠に埋まらぬ専業主婦と兼業主婦の溝…「女は女の敵である」
●仕事と子育ての両立に不可欠な、義母のサポート。“孫のためなら”の影に押しやられた本音は不満だらけ!?「義母義家族は敵である」
●夫は結局、家事も育児も“他人事”。保護者会も母親の姿ばかり。働く母親にできて働く父親にできないことなんて、ないはずなのに…「当然夫も敵である」
その他、わが子や先生、さらにはPTA会長に戦いを挑む!?笑いあり、涙あり、前代未聞の痛快ノンストップ・エンターテインメント!


女、義母義家族、男、夫、我が子、先生、PTA会長という七人の敵に立ち向かうやり手編集者・陽子の奮闘記である。痛快でありながらも、ほろりとさせられたり、あきれたり、憤ったり、落ち込んだり、さまざまな感情を味わうことができる一冊でもある。お気楽専業主婦の自分としては、保護者会で陽子さんのような女性を目の前にしたら怯み、俯いて目を合わせないようにしてしまいそうだが、役員の経験がないわけでもないので、両方の状況や気持ちが判って興味深い。役員を引き受けている人にも逃げている人にもそれぞれに事情があり、各人の事情を慮っていては役員決めなどできないという理不尽さに深くうなずき、声をあげてしまう陽子さんの不器用さに思わず苦笑しつつも尊敬の念を抱きもするのである。息子の陽介(ここにもある事情があるのだが)を思う気持ちと正義との板ばさみになって悩む様は、陽介をどれだけ愛しているかが見て取れて微笑ましい。これからも、少々の駆け引きを身につけながら、ぜひブルドーザーの陽子さんで突き進んでいって欲しいものである。

月と蟹*道尾秀介

  • 2010/10/05(火) 16:42:07

月と蟹月と蟹
(2010/09)
道尾 秀介

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「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる―やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。


転校生の慎一と春也。ふたりはそれぞれにクラスに溶け込めない理由を抱えていた。そしてなぜかふたりに普通に接してくれた鳴海。三人はいつしか一緒に行動するようになる。実は鳴海の母は、慎一の祖父が乗る漁船の事故で亡くなっており、鳴海は屈折した思いを胸に秘めているのだった。子どもたちには子どもたちなりの屈託があり、周りの大人たちにも抱えるものがある。子ども同士も大人と子どもも、それぞれが互いを気遣いながら傷ついていく。哀しく切なくやりきれない一冊である。

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あんじゅう-三島屋変調百物語事続*宮部みゆき

  • 2010/10/03(日) 16:24:06

あんじゅう―三島屋変調百物語事続あんじゅう―三島屋変調百物語事続
(2010/07)
宮部 みゆき

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さあ、おはなしを続けましょう。三島屋の行儀見習い、おちかのもとにやってくるお客さまは、みんな胸の内に「不思議」をしまっているのです。ほっこり温かく、ちょっと奇妙で、ぞおっと怖い、百物語のはじまり、はじまり。


『おそろし』の続編。三島屋の姪・おちかはまだ過去の哀しみから抜け切ったわけではないが、三島屋の黒白の間で不思議話を聞くことは続けている。今回も「逃げ水」「藪から千本」「暗獣」「吠える仏」という不思議話を聞くことになる。前作よりも、聞き手としての振る舞いが堂に入っていて傍で見ていても安心感がある。また、二話で登場したお勝が守り役を兼ねて女中として三島屋で奉公することになったこともなおさら安定感を増している。ラスト近くでは、過去の哀しみから抜け出して、これからの人生を開いていけそうなほのかな光もみられ、この先のおちかの生き様がたのしみでもある。

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