長い廊下がある家*有栖川有栖

  • 2011/02/27(日) 16:42:00

長い廊下がある家長い廊下がある家
(2010/11/19)
有栖川有栖

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廃村に踏み迷った大学生の青年は、夜も更けて、ようやく明かりのついた家に辿り着く。そこもやはり廃屋だったが、三人の雑誌取材チームが訪れていた。この家には幽霊が出るというのだ―。思い違い、錯誤、言い逃れに悪巧み。それぞれに歪んだ手掛かりから、臨床犯罪学者・火村英生が導き出す真相とは!?悪意ある者の奸計に、火村英生の怜悧な頭脳が挑む。切れ味抜群の本格ミステリ傑作集。


表題作のほか、「雪と金婚式」 「天空の眼」 「ロジカル・デスゲーム」

火村&アリスシリーズの新作短編集。
なんと「天空の眼」では、いつもはどうしようもないことを言っている――火村の推理の助けになっているようだが――だけのアリスが、単独で事件の真相を暴いてしまうという二度と見られないかもしれないような愉しみもある。アリスにとっては喜んでばかりもいられないのかもしれない展開になっているところもこのシリーズらしくていい。他の事件でも二人の名コンビ振りは、漫才師のボケと突っ込みのように安心してみていられるのだが、事件そのものはいつも新鮮なので、いつでも新たな醍醐味を味わわせてくれるシリーズである。

暗闇を見よ*日本推理作家協会編

  • 2011/02/26(土) 14:30:48

最新ベストミステリー 暗闇を見よ (カッパ・ノベルス)最新ベストミステリー 暗闇を見よ (カッパ・ノベルス)
(2010/11/19)
日本推理作家協会

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稀代の作家たちが催す恐怖と幻想の饗宴! すべてのミステリーファンに贈る、三年に一度刊行される大好評アンソロジーの第三弾。三カ月連続刊行の掉尾を飾るに相応しい当代きっての作家たちが集結。ミステリーとホラー、ジャンルの間を自由自在に越境する才能が、謎の奥に潜む狂気と恐怖を抉り出す。ミステリーファン必携の豪華な一冊!


赤川次郎「隣の四畳半」 飴村行「ゲバルトX」 乾ルカ「ちゃーちゃん」 歌野晶午「おねえちゃん」 北村薫「三つ、惚れられ」 倉知淳「猫と死の街」 柴田よしき「雪を待つ朝」 辻村深月「十円参り」 法月綸太郎「引き立て役倶楽部の陰謀」 平山夢明「吉原首代売女御免帳」 道尾秀介「ろくろ首」 米澤穂信「身内に不幸がありまして」

怖い。何かがほんの少しズレ、その隙間に得体の知れないものにいつの間にか入り込まれていたことに、しばらくしてから気づかされたような怖さである。身の内の収まりが悪い心地である。みなさん上手い、と唸らずにはいられない一冊である。

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隻眼の少女*麻耶雄嵩

  • 2011/02/24(木) 06:58:14

隻眼の少女隻眼の少女
(2010/09)
麻耶 雄嵩

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古式ゆかしき装束を身にまとい、美少女探偵・御陵みかげ降臨!因習深き寒村で発生した連続殺人。名探偵だった母の跡を継ぎ、みかげは事件の捜査に乗り出した―。


  第一部 1985年・冬  第二部 2003年・冬

スガル様が龍の首を切り村を救った、という古来からの言い伝えによって崇められている「スガル」の継承に絡んだ連続殺人事件。自殺しにきた種田静馬はたまたまそのときに居合わせ、同じ宿にいた探偵・御陵(みささぎ)みかげの助手見習いとして事件の解決に立ち会うことになったのだった。第一部だけでミステリとしては充分完結しているのである。第二部がなければごく普通の新本格ミステリなのである。が、18年後を描いた第二部が後ろに置かれたことによって、おそらく誰も想像だにしなかったとんでもないことになっている。「そんな…」と絶句する一冊である。

アンハッピードッグズ*近藤史恵

  • 2011/02/21(月) 16:53:44

アンハッピードッグズアンハッピードッグズ
(1999/10)
近藤 史恵

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なんだろう。壊してしまうとなんとなく安心するの―要するにわたしはまだ、子供なのかしら。ことばや約束事を重ねることで築き上げてきた関係。気鋭が挑む、邪悪な恋愛小説。


ホテルで働いている岳(ガク)の飼い犬・弁慶の世話係として日本から呼びつけられて、真緒はパリにやってきた。岳と真緒は恋人同士と呼ぶにはつきあいが長すぎるほど幼馴染で腐れ縁である。そんなある日、空港で置き引きに遭って途方に暮れている日本人の新婚旅行カップルを部屋に泊めることになったのだった。それからふた組の男女の関係が微妙に捻じれていくのである。
情熱で結ばれているようにはまったく見えない岳と真緒だが、きっと似た者同士なのだ。ページの裏と表のように、背中合わせになっていなければ成り立たないようなつながり方をしているのではないだろうか。危ういのになぜか安定してもいる一冊だった。

妃は船を沈める*有栖川有栖

  • 2011/02/20(日) 17:39:27

妃は船を沈める妃は船を沈める
(2008/07/18)
有栖川 有栖

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所有者の願い事を3つだけ、かなえてくれる「猿の手」。“妃”と綽名される女と、彼女のまわりに集う男たち。危うく震える不穏な揺り篭に抱かれて、彼らの船はどこへ向かうのだろう。―何を願って眠るのだろう。臨床犯罪学者・火村英生が挑む、倫理と論理が奇妙にねじれた難事件。


 はしがき
 第一部 猿の手
     幕間
 第二部 残酷な揺り籠


三つの願い事を叶えてくれる代わりによくないことをも引き寄せる、と言われる猿の手にまつわる殺人事件と、地震という大きな揺り籠に思惑を狂わされることになる殺人事件。ふたつの事件はどちらも妃こと三松(設楽)妃沙子の身近で起きたものなのだった。犯罪心理学者・火村英生と助手兼語り手の有栖川有栖のコンビがどちらの事件にも借り出され、ああでもないこうでもないとろくでもない思いつきを言うアリスを置いて、火村先生の推理と謎解きが冴えるのである。物語の中でもすっかり有名になったこのコンビであるが、アリスの判りやすさに比べ、樋村先生の真実がなかなか見えてこないのがもどかしくもある。彼を犯罪現場に駆り立てるのはいったい何なのだろう。それが明かされるのはシリーズが終わるときのようにも思うので、知りたいようなまだ知らなくていいような、複雑な気持ちである。今回の事件では、真相をまず誰に話そうか悩んだ火村先生がいつもに似合わず揺れていたのも気になるところである。妖しく不思議な設定だがいつもながらに見事な一冊である。

冠・婚・葬・祭*中島京子

  • 2011/02/19(土) 16:43:45

冠・婚・葬・祭冠・婚・葬・祭
(2007/09)
中島 京子

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人生の節目節目で、起こった出来事、出会った人、考えたこと。
いろいろあるけど、ちゃんと生きよう。そんな気持ちになる4つの「今」を切り取る物語。
冠...地方新聞の新米記者が成人式を取材。そこから事件が始まる。
婚...引退したお見合いおばさんに持ち込まれた2枚の写真の行末。
葬...社命で葬式に連れて行ったおばあちゃん。その人生とは。
祭...取り壊しを決めた田舎家で姉妹は最後のお盆をする。


「空に、ディアボロを高く」 「この方と、この方」 「葬式ドライブ」 「最後のお盆」

冠婚葬祭と聞けば、人生の節目とか、浮世の義理とかいう言葉が思い浮かんだりして、なにやら儀式ばった印象がなくもない。だが、本作の冠・婚・葬・祭の四つの物語は、極個人的なそれぞれの冠であり、婚であり、葬であり、祭であるので読者が我が身に引き寄せてその場の空気を感じることができるように思う。二十歳の物語の斜めから切り取った設定が好きだった。じんとしてしんとさせる一冊である

平日*石田千

  • 2011/02/18(金) 16:53:03

平日平日
(2009/10)
石田 千

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百の視点で写した街の顔、裏の表情、朝と昼と夕暮れ。東京の名所と穴場を文章で撮った本。


「反射する平日/上野」 「とどまる平日/十条」 「尻ふる平日/早稲田」 「飛ばない平日/羽田」 「迷える平日/吉祥寺」 「決起の平日/泉岳寺」 「甘い平日/大手町」 「島の平日/平和島」 「指さきの平日/円山町」 「渦まく平日/柴又」 「聖なる平日/バス観光」

本作で取り上げられている街はどこも人でにぎわう場所である。だが、有名な観光地であるほど休日とは違う顔をしている平日の街である。賑わいもどこかのんびりしているような気がする(平和島はたぶん違うと思うが)。そんな平日の人の中にまぎれて、著者は辺りを人々を観察し、ぼんやりし、味わい、立ち尽くし、面白がり、ひとりぼっちになっている。視線の先にあるものを――そしてさらにその先を――読者は著者とともに眺める心地になる。なんでもない人が、場所が、できごとが、石田千という人のからだをひとめぐりすると特別ななにかになり、文字になって並んでいるのがとても愉しい。平日を旅する一冊である。

四畳半王国見聞録*森見登美彦

  • 2011/02/16(水) 18:53:23

四畳半王国見聞録四畳半王国見聞録
(2011/01/28)
森見 登美彦

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数式による恋人の存在証明に挑む阿呆。桃色映像のモザイクを自由自在に操る阿呆。心が凹むと空間まで凹ませる阿呆。否!彼らを阿呆と呼ぶなかれ!狭小な正方形に立て篭もる彼らの妄想は壮大な王国を築き上げ、やがて世界に通じる扉となり…。徹底して純粋な阿呆たち。7つの宇宙規模的妄想が、京の都を跋扈する。


ひとつ前の読書とのこのかけ離れ具合はどうだろう。あまりの落差で思考もきっちり切り替えることができたが。著者の四畳半世界の妄想が凝縮されたような一冊である。いままですでにこの世界のあちこちで見かけた人物たちの姿やアイテム(?)も見られ、彼らがやっていることはといえば平凡であるようで非凡なことごとである。京都という街に抱く印象は男臭く変えられること必至でもある。だが、以前にも書いたような気がするが、物語の中身に比してこの挿画はさわやか過ぎやしないだろうか。挿画のさわやかさで騙して物語に引っ張り込もうという魂胆であろうか。森見ワールド全開の一冊である。

抱擁、あるいはライスには塩を*江國香織

  • 2011/02/15(火) 13:31:15

抱擁、あるいはライスには塩を抱擁、あるいはライスには塩を
(2010/11/05)
江國 香織

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三世代、百年にわたる「風変りな家族」の秘密

東京・神谷町にある、大正期に建築された洋館に暮らす柳島家。1981年、次女の陸子は貿易商の祖父、ロシア革命の亡命貴族である祖母、変わり者の両親と叔父叔母、姉兄弟(うち2人は父か母が違う)の10人で、世間ばなれしつつも充実した毎日を過ごしていた。柳島家では「子供は大学入学まで自宅学習」という方針だったが、父の愛人(弟の母親)の提案で、陸子は兄、弟と一緒に小学校に入学。学校に馴染めず、三ヶ月もたたずに退学する。陸子は解放されたことに安堵しつつ、小さな敗北感をおぼえる。そもそも独特の価値観と美意識を持つ柳島家の面々は世間に飛び出しては、気高く敗北する歴史を繰り返してきた。母、菊乃には23歳で家出し8年後に帰ってきた過去が、叔母の百合にも嫁ぎ先から実家に連れ戻された過去がある。時代、場所、語り手をかえて重層的に綴られる、一見、「幸福な家族」の物語。しかし、隠れていた過去が、語り手の視点を通して多様な形で垣間見え――。


とても型破りでありながらとても懐かしく、ものすごく遠い世界のようでいて驚くほど近しくも思われる不思議な物語である。家――というか家系――というもののこと、血というもののこと、そして個人というもののことなどを全身に血がめぐるように考えさせられもする。たいそう窮屈であり、それでいて何ものよりも自由、だがしかしやはり何かに囚われている感じ。それこそが家族と言えるのかもしれないとも思う。柳島家全体にただよう匂いと、この時代にそこに集ったこの家の人々の輪郭がくっきりと浮かび上がって秀逸である。風変わりで懐かしい一冊だった。

プラチナデータ*東野圭吾

  • 2011/02/13(日) 11:31:20

プラチナデータプラチナデータ
(2010/07/01)
東野 圭吾

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犯罪防止を目的としたDNA法案が国会で可決し、検挙率が飛躍的に上がるなか、科学捜査を嘲笑うかのような連続殺人事件が発生した。警察の捜査は難航を極め、警察庁特殊解析研究所の神楽龍平が操るDNA捜査システムの検索結果は「NOT FOUND」。犯人はこの世に存在しないのか?時を同じくして、システムの開発者までが殺害される。現場に残された毛髪から解析された結果は… 「RYUHEI KAGURA 適合率99.99%」。犯人は、神楽自身であることを示していた―。確信は疑念に、追う者は追われる者に。すべての謎は、DNAが解決する。数々の名作を生み出してきた著者が、究極の謎「人間の心」に迫る。


現在のDNA捜査の上をいく遺伝子捜査を題材にした物語である。究極の個人情報とそれを犯罪捜査に生かすプログラムの開発、そしてそれを利用しようとする権力。一般大衆はいつも蚊帳の外である。話の流れも展開も息をつかせずとても面白いのだが、ラスト近くいよいよ核心に迫るという山場、浅間刑事がモーグルを解析しようとする場面での偶然の展開や、やはり浅間が襲われる場面での奇跡的な蹴りの命中などは、どうしても少しばかり都合がよすぎるように思えてしまう。著者ならもっと理詰めで納得させてくれることもできるのではないか、という期待値にもよるのだろうが。そこに目を瞑ればとても面白い一冊だった。

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1Q84 BOOK3<10月-12月>*村上春樹

  • 2011/02/11(金) 11:28:20

1Q84 BOOK 31Q84 BOOK 3
(2010/04/16)
村上 春樹

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そこは世界にただひとつの完結した場所だった。どこまでも孤立しながら、孤独に染まることのない場所だった。


青豆と天吾の章に牛河の章が加わって物語りは進む。前仁作よりは、どこかにあるはずの着地点を目指して進んでいるように見える。ミステリのなぞが解き明かされるときに向かうような高揚感もある。だがいつしかそれさえも錯覚だったのかと思わされるようにもなるのだった。さきがけとはなんだったのか、老婦人の思惑とはなんだったのか、そんなあれこれがことごとく霧消してしまうような結末であると感じたのはわたしだけだろうか。言ってみればこれはただの、長い長い再会までの物語である。わたしにとっては、コースターに乗り込みじりじりと上昇したが頂上の先にはレールがなかったような心地の一冊である。

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シューマンの指*奥泉光

  • 2011/02/09(水) 14:16:11

シューマンの指 (100周年書き下ろし)シューマンの指 (100周年書き下ろし)
(2010/07/23)
奥泉 光

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シューマンの音楽は、甘美で、鮮烈で、豊かで、そして、血なまぐさい――。

シューマンに憑かれた天才美少年ピアニスト、永嶺修人。彼に焦がれる音大受験生の「わたし」。卒業式の夜、彼らが通う高校で女子生徒が殺害された。現場に居合わせた修人はその後、ピアニストとして致命的な怪我を指に負い、事件は未解決のまま30余年の年月が流れる。そんなある日「わたし」の元に、修人が外国でシューマンを弾いていたいう「ありえない」噂が伝わる。修人の指にいったいなにが起きたのか――。

野間文学賞受賞後初の鮮やかな手さばきで奏でる書き下ろし長編小説。


冒頭に置かれた手紙で、指を失って音楽活動の道を断たれたかつての天才ピアニスト永嶺修人が聴衆の前でピアノを弾いているという情報が「私」にもたらされる。そこからは、「私」の回想の形で永嶺修人と過ごした時間のことが語られる。その中には永嶺が敬愛していたシューマンの音楽への想いがたっぷりと織り交ぜられている。それは、途中に起こる女子高生殺人事件の謎解きさえ霞ませてしまうほどの熱情である。最後に置かれた「私」の妹から吾妻先生への手紙で、――正否は明らかにされないながらも――永嶺が指を失った事件も含め、事の真相がつまびらかにされるのだが、やはりそうだったか、という思いと、そうかそうだったのかという思いが交錯する。熱情に取り込まれるような、正気を保っていられないような心地にさせられる一冊でもある。

メロディ・フェア*宮下奈都

  • 2011/02/08(火) 17:04:47

メロディ・フェアメロディ・フェア
(2011/01/14)
宮下 奈都

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私はこの世界の小さいところから歩いていくよ

大学を卒業した私は、田舎に戻り「ひとをきれいにする仕事」を選んだ。けれども、お客は思うように来ず、家では化粧嫌いの妹との溝がなかなか埋まらない。そんなある日、いつもは世間話しかしない女性が真剣な顔で化粧品カウンターを訪れて――いま注目の著者が、瑞々しさと温かさを兼ね備えた文体で、まっすぐに生きる女の子を描く、ささやかだけど確かな“しあわせ”の物語。


小宮山結乃は家族や田舎の閉塞感を嫌って家を出たが、田舎に戻って美容部員として就職する道を選んだのだった。職場の先輩、マネージャー、前任者、お客さま、幼なじみ、そしていちばん近いはずなのにある事情で隔たりを感じつづけている妹との日々の関係に悩んだり戸惑ったりする結乃の姿に好感が持てる。停滞したり後戻りしたりしていると思う日々も、顔を前に向けて歩こうとしていれば少しずつでも前に向かっているのだと思わせてくれる。変わり映えがしないようでも、きのうと同じきょうはないし、あしたはきょうよりよくなるのだ、としみじみと思える一冊である。

ピースメーカー*小路幸也

  • 2011/02/07(月) 07:33:24

ピースメーカー (文芸)ピースメーカー (文芸)
(2011/01/14)
小路 幸也

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僕らが通う、中高一貫教育で知られた伝統ある〈赤星学園中等部・高等部〉は、今は〈赤星中学校〉と〈赤星高校〉という名前になってる。
赤い星っていうのは火星のことで、戦いの神様らしい。そのせいじゃないだろうけど、何故か伝統的に文化部と運動部の戦いが続いているんだ。
放送部の顧問の先生、コウモリは言う。
「放送部が唯一、運動部と文化部を結び付けられる平和の使者〈ピースメーカー〉になれると僕は思ってる。部の活動を把握して、取材から現場の仕切りから放送まで、すべてにおいて彼らを結べるのが、放送部だ」
運動部と文化部を繋ぐ架け橋となって平和をもたらすもの。
まさしく、ピースメーカー――


 1974年の<ロミオとジュリエット>
 1974年の<サウンド・オブ・サイレンス>
 1974年の<スモーク・オン・ザ・ウォーター>
 1974年の<ブートレグ>
 1974年の<愛の休日>
 1975年の<マイ・ファニー・バレンタイン>
 ボーナストラック


アンソロジー『ぼくの歌がきみに届きますように』の良平とケンちゃんにまた会えた、という感じ。すっかりなじみの少年たちを見ている気分である。学校生活の中で起こるちょっとしたトラブルを機転と愛で解決していくのだが、解決に結びつくひらめきがすばらしい。ほんの少し視点を変えただけで事態は鮮やかに好転するのである。胸がすく快感である。伝説の初代ピースメーカーで良平の姉でもある林田みさきと放送部顧問・コウモリこと中山先生のこれからも見てみたいし、ボーナストラックの話のつづきもとても気になる。文句なく愉しめる一冊である。

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海に沈んだ町*三崎亜記

  • 2011/02/06(日) 11:17:28

海に沈んだ町海に沈んだ町
(2011/01)
三崎 亜記、白石 ちえこ 他

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数千人の人々を乗せて海を漂う“団地船”、永遠に朝が訪れない町、“生態保存”された最後のニュータウン…喪失、絶望、再生―もう一人の“私”が紡いでゆく、滑稽で哀しくて、少しだけ切ない九つの物語。『失われた町』『刻まれない明日』に連なる“町”を、気鋭の写真家との奇跡的なコラボレーションで描く連作短篇集。


表題作のほか、「遊園地の幽霊」 「団地船」 「四時八分」 「彼の影」 「ペア」 「橋」 「巣箱」 「ニュータウン」

挟み込まれた白石ちえこさんの写真が物語の雰囲気をそのまま視覚に訴えてくるので三崎流のほんの少しズレて歪んだ世界に丸ごと取り込まれてしまうかのような一冊である。
それぞれの物語には表に見えるものだけでなく、それに連なる深いところに別の混沌が潜んでいるようでくらくらする。不思議愉しい読書タイムだった。

白馬館九号室 挑戦篇Ⅱ*鮎川哲也

  • 2011/02/05(土) 16:45:49

白馬館九号室―鮎川哲也コレクション 挑戦篇〈2〉 (鮎川哲也コレクション (挑戦篇2))白馬館九号室―鮎川哲也コレクション 挑戦篇〈2〉 (鮎川哲也コレクション (挑戦篇2))
(2006/08)
鮎川 哲也

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この「謎」が解けますか?解決篇の前に挑戦状が挿まれた中・短篇を集大成!幻のアンソロジー『私だけが知っている』の作品群も完全収録!ある旅館で起こった迷宮入り事件、その犯人とは?「白馬館九号室」。愛人と企てた完全犯罪、一体どこにミスが?「尾行」。死体にかぶせられたお面…奇妙奇天烈な連続殺人事件の驚くべき真相「おかめ・ひょっとこ・般若の面」等、全八篇。


表題作のほか、「ふり向かぬ冴子」 「鼻と星」 「貨客船殺人事件」 「尾行」 「茜荘事件」 「悪魔の灰」 「おかめ・ひょっとこ・般若の面」

まず八篇の挑戦がつづき、巻末にまとめて解決篇が配されるという趣向である。作品がものされたのはいまから四十年ほども前のことなので、時代背景が現在とはずいぶん異なり、犯罪も心なしかおっとりしているように思える。解決篇を読むまでもなく謎が解けたものも多かったが、何とはなしに微笑ましい感じがするのも、あの時代ならではのものだろうか。懐かしい趣の一冊である。

モルフェウスの領域*海堂尊

  • 2011/02/04(金) 14:32:51

モルフェウスの領域モルフェウスの領域
(2010/12/16)
海堂 尊

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日比野涼子は桜宮市にある未来医学探究センターで働いている。東城大学医学部から委託された資料整理の傍ら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために五年間の “凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が立ちはだかることに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する―“バチスタ”シリーズに連なる最先端医療ミステリー。


ミステリと言えるかどうかはともかく、新しい桜宮市シリーズである。主役は――ほとんどの部分が凍眠(とうみん)状態なのだが――佐々木アツシ。実質的な主役は、モルフェウスと名づけたアツシの維持管理をする日比野涼子と言っていいだろう。描かれているのはほんとうにすぐそこの未来である。医療――というか医療機器のシステムだろうか――は格段に進歩しているようだが、お役所仕事は相変わらずのようで、医療現場との温度差が見え隠れし、医療の側の歯がゆさが見て取れる。そして枝葉はさまざまあるが、最も印象深かったのは母性ということについてである。日比野涼子の決断は母性愛以外で説明はできないのではないだろうか。涼子の未来が気になる一冊である。

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ほかに誰がいる*朝倉かすみ

  • 2011/02/02(水) 14:27:47

ほかに誰がいるほかに誰がいる
(2006/09)
朝倉 かすみ

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あのひと=天鵞絨からのメールを読み返した。耳をすませた。細く、高めで、わずかに鼻にかかり、語尾に余韻を残す声。それが、あの人の声。ほかに誰がいる? 私の心をこんなに強くしめつける存在が…。書き下ろし長編小説。


読みはじめは普通の恋愛小説だと思った。だが、すぐにそうではないとわかる。えりがこれほどまでに強く想い執着するのは同級生の少女・れいこ(=天鵞絨)なのだった。純粋すぎる想いはときとして人から理性を奪い常識をないものにする。えりの日々はすべて天鵞絨のためにあり、天鵞絨のほかに価値を見出すことができないほどなのだった。冷静に見れば家族や周囲の人々をどれほど哀しませていることか、とも思うが、この物語はそんなことさえ超越しているようである。一歩間違えれば、いやもう完全にストーカーと言ってしまっていいようなえりの執着ぶりであるが、眉を顰める代わりにそっと応援している自分に気づくのもまた怖いものである。一途で不穏な一冊である。

地のはてから 下*乃南アサ

  • 2011/02/01(火) 17:16:01

地のはてから(下) (100周年書き下ろし)地のはてから(下) (100周年書き下ろし)
(2010/11/16)
乃南 アサ

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小樽での奉公を終え、知床に帰った少女は、かつて家族を救ってくれたアイヌの青年と再会する。一度きりのかなわぬ恋。そのとき少女ははじめて思う。人は自分の人生を、どこまで選び、決められるのか、と。厳しく美しい知床の自然に翻弄されながら、ひたすら大正から昭和の時代を生き抜く。感動の最終章。


戦争の気配が濃くなるとともに小樽の奉公先にも影が差しはじめ、とわは暇を出されて家族の元へ帰る。小樽の現代的な暮らしに比べ、知床の暮らしはなにひとつ変わらぬ不便さだらけだった。戦争はいよいよこの辺境の地からも男たちを奪いはじめ、とわは知人に勧められるままに見も知らぬ男の元へ嫁いだのだった。だがそれで苦労がなくなったわけではなかった。理不尽なものを感じながらも国の言いなりに戦争の波に呑みこまれ、さまざまな苦労をすることになり、母が昔言った「お国の言うことをそのまま信じると馬鹿を見る」という言葉を実感するのだった。昭和の前半の物語だが、なんだか現代の国政のことを言っているようでもあり、いつの世も国というものは身勝手なものなのか、とため息が出る。とわ一家や開拓移民たちの苦労は報われたといえるのだろうか。個々の苦労やがんばりは胸に沁み、感動的で、とわや周りの人たちにはぜひしあわせになって欲しいと願うのだが、国に騙されたという思いは拭えず、やるせなさでいっぱいになる。国を動かす人たちにもぜひ読んでいただきたい一冊である。

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