東京日記3 ナマズの幸運。*川上弘美

  • 2011/03/30(水) 17:02:34

東京日記3 ナマズの幸運。東京日記3 ナマズの幸運。
(2011/01/26)
川上 弘美

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おおむね楽しい、ちょっぴりさみしい。カラダ半分、ずれている――。カワカミ・ワールドが詰まった、日記シリーズ最新作。2008~2010年までの3年分を収録。「WEB平凡」の人気連載を単行本化。


ほんとうのこと率が、以前は五分の四くらいだったのが、今回は十分の九くらいにあがっているそうである。読者としては一層素の著者に近づけたと思っていいのだろうか。相変わらず著者が引っかかる場面やことごとがいちいち興味深い。視線の角度や捉え方が著者ならではで、にやりとしてしまう。川上さんにあとをつけられるような人間になりたいものだと思わされる一冊である。

ピエタ*大島真寿美

  • 2011/03/30(水) 13:42:12

ピエタピエタ
(2011/02/09)
大島真寿美

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18世紀、爛熟の時を迎えた水の都ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で“合奏・合唱の娘たち”を指導していた。ある日、教え子のエミーリアのもとに、恩師の訃報が届く。一枚の楽譜の謎に導かれ、物語の扉が開かれる―聖と俗、生と死、男と女、真実と虚構、絶望と希望、名声と孤独…あらゆる対比がたくみに溶け合った、“調和の霊感”。今最も注目すべき書き手が、史実を基に豊かに紡ぎだした傑作長編。


あっというまにいまいる場所から連れ去られ、18世紀のヴェネツィアに迷い込んだような心地の読書であった。理由はさまざまだろうが、一様に親に捨てられた子どもたちが暮らすピエタ慈善院の音楽に囲まれて愉しげでありながら深い悲しみがひたひたと流れているような空気が印象的である。そして、アントニオ・ヴィヴァルディを師と仰ぐかつての少女たちにその訃報がもたらされたとき、ピエタの娘・エミーリアを語り手として物語は謎を秘めて動き出したのだった。現代日本では考えられない力関係やつながりに思わぬ助けを借りて、点在していた要素がつながっていく様子に不思議なわくわく感を煽られる。時代も場所も超えて旅をするような一冊である。

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カササギたちの四季*道尾秀介

  • 2011/03/29(火) 11:44:05

カササギたちの四季カササギたちの四季
(2011/02/19)
道尾秀介

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リサイクルショップ・カササギは、店員二人の小さな店だ。店長の華沙々木は謎めいた事件に商売そっちのけで首をつっこむし、副店長の日暮はガラクタを高く買い取らされてばかり。でも、この店には、少しの秘密があるのだ――。あなたが素直に笑えるよう、真実をつくりかえてみせよう。再注目の俊英による忘れ得ぬ物語。


春 鵲の橋 / 夏 蜩の川 / 秋 南の絆 / 冬 橘の寺

華沙々木と日暮のコンビネーション――華沙々木に自覚があるかどうかは謎だが――が絶妙である。リサイクルショップ・カササギの唯一の店員で、付け入られる隙だらけの頼りない日暮の菜美を思うやさしさが、華沙々木をフォローせずにはいられなくさせるのだろう。そして当の華沙々木だって、能天気なだけではなく充分いいやつなのだ。読者は華沙々木が示すヒントから彼が解き明かした謎を推理し、さらに日暮が内緒で施した仕掛けを知って溜飲を下げる、という仕組みで二度愉しめるのである。このリサイクルショップ、まだまだネタが転がっていそうである。つづきをもっと読みたい一冊である。

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世界でいちばん長い写真*誉田哲也

  • 2011/03/27(日) 16:56:50

世界でいちばん長い写真世界でいちばん長い写真
(2010/08/19)
誉田 哲也

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内藤宏伸は中学三年生。去年まで大の仲良しだった洋輔が転校したことで、すっかり塞ぎ込んでいた。やりたいことも、話したい相手もみつからず、すべてがつまらない。写真部にはいちおう籍をおいているけれど、同級生で部長の三好奈々恵に厳しく作品提出を迫られ、けれど、撮りたいものもみつからない。そんなある日、宏伸は、祖父の経営する古道具屋で、一台の奇妙なカメラを見つける。それは、台座が一回転して、三六〇度すべてを一枚の長い写真に納められるという風変わりなものだった。カメラとの出会いをきっかけに、宏伸は「世界で一番長い写真」を撮りたいという思いを抱き始める。でも、それだけの長さ、撮りたいと思える被写体って、なんだろう?!


洋輔が転校して、改めて洋輔がどれほど毎日を明るくしてくれていたかを実感する宏伸だったが、ある日祖父のリサイクルショップで出会ったちょっと変わったカメラを手にしてから、少しずつ目に映る世界が変わってきたのだった。そして、カメラの持ち主のカメラマン・松本さんの世界でいちばん長い写真を撮るという夢を叶えるために、同級生たちに背中を押されバックアップされて、曲がりなりにも先頭に立ってイベントを成功させるまでになったのだった。美人なのに口の悪い従姉のあっちゃんや厳しすぎる写真部部長の三好さんが、きついことを言いながらも落ち込んでいる宏伸を支えているようでとてもいい。ラストの宏伸はとても充実しているだろうが、しばらく時が経って思い返したときには、きっともっといろいろなことがわかったり気づいたりして胸を熱くするのだろう。この目で360゜のパノラマ写真を見てみたいと思わされる一冊である。

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十九歳の地図*中上健次

  • 2011/03/26(土) 13:50:36

十九歳の地図 (河出文庫 102B)十九歳の地図 (河出文庫 102B)
(1981/06)
中上 健次

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閉ざされた現代の文学に、巨大な可能性を切り拓いた第一創作集。
森の奥に秘密の塔を建てようとする少年たちを描く処女作「一番はじめての出来事」、映画化の衝撃的表題作など四篇を収める。新文学世代の誕生を告知した出発の書!


表題作のほか、「一番はじめの出来事」 「蝸牛」 「補蛇落」

初版は1981年発行である。当時は表題作の主人公からさほど遠くない年齢だったので、そのときに読んでいたらしばらくは自分の内側ばかり見つめるようになり、ずどんと落ちていただろうと思われる。それほど生々しい十九歳を生きる少年の姿がページの隅々まで満ちていた。現代の若者とは何かが違うような気がするのは、自分の年齢ゆえだろうか。それとも時代のせいだろうか。久々に鬱々とした一冊である。

チーズと塩と豆と

  • 2011/03/24(木) 16:57:04

チーズと塩と豆とチーズと塩と豆と
(2010/10/05)
井上 荒野、江國 香織 他

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10月放送の、NHK・BSハイビジョン紀行番組「プレミアム8」に登場する4人の女性作家が、それぞれヨーロッパのスローフードやソウルフードを求めて旅をし、その土地を舞台に書かれる短編小説アンソロジー。その小説は、ドラマ化され、番組に挿入される。井上荒野はピエモンテ州(イタリア)、江國香織はアレンテージョ地方(ポルトガル)、角田光代はバスク地方(スペイン)、森絵都はブルターニュ地方(フランス)。


「神さまの庭」角田光代 「理由」井上荒野 「ブレノワール」森絵都 「アレンテージョ」江國香織

ヨーロッパのそれぞれの国や地方の風土と土地の食べものがそこに住む人を作っているのだと思わされる。そしてものを食べるということがからだに栄養をいきわたらせるというだけでなく、人と人との関係や明日がくることを信じられる力までもを育むのだとわかる。たぶんおろそかにすればいつか自分に返ってくるのだろう。同じものを食べたい人がいるしあわせを噛み締めるような一冊である。

ハニーズと八つの秘めごと*井上荒野

  • 2011/03/22(火) 16:56:12

ハニーズと八つの秘めごとハニーズと八つの秘めごと
(2011/02/25)
井上 荒野

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直木賞作家・井上荒野氏の短編小説集。アラフォー世代を迎えた、大学時代の同級生である4人の女性たちの微妙な人間関係を描く書き下ろし短編「ハニーズ」をはじめ、思いを寄せる同僚の既婚男性が住んでいる島を訪ねていく、惣菜工場で働く女性の淡い恋心と、やはり同僚のブラジル人との友情を描いた「他人の島」、ゲイカップルの別れを描く「きっとね。」、幼稚園時代の父への回想を描き、著者の父・井上光晴氏との思い出が重なる私小説的短編「泣かなくなった物語」など著者がこれまでに発表した作品のなかから選りすぐった全9篇。


「ブーツ」 「泣かなくなった物語」 「粉」 「虫歯の薬みたいなもの」 「犬と椎茸」 「他人の島」 「きっとね。」 「ダッチオーブン」 「ハニーズ」

どんなに近い関係だとしても、秘めごとのひとつもないということはおそらくないだろう。そして秘めごとというのは、とてもとても個人的なことで、誰かに知らせたからといってどうということもないものなのかもしれない。知らせるか知らせないかということを決めるのも自分ひとりで、そこからしてきわめて個人的な問題なのである。そんな知られざる決意のもとの九つの秘めごとが、切なく胸に迫ってくる一冊である。

十階―短歌日記2007*東直子

  • 2011/03/22(火) 06:51:35

十階―短歌日記2007十階―短歌日記2007
(2011/01)
東 直子

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2007年1月1日から、12月31日まで、ふらんす堂のホームページで「短歌日記」として毎日掲載されたものをまとめたもの。


日記部分、その日その日のエピソードからしてすでに詩のようである。書かれすぎていないのがとてもいい。想像力をかきたてられて。わたしには真似できないのでなおさらである。歌はもちろん東直子である。歌だけが並んでいるのもいいけれど、ほんの数行の日記に添えられているだけで、瞬くうちに運ばれてゆく心地がする。その場所は作者がいた場所とは違うかもしれない――いや違うだろう――けれど、そのことがまたきゅんとうれしい。一首の歌のなかに読む人の数だけの世界が広がるのだろう。胸にぎゅっと抱きしめていたい一冊である。

ちなみにわたしの誕生日に詠まれた歌はこちら
 「この街が廃墟になっても後ろ手に空を見上げたままなのでしょう」

たぶらかし*安田依央

  • 2011/03/20(日) 16:58:41

たぶらかしたぶらかし
(2011/02/04)
安田 依央

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39歳のマキは、市井の人々の中で、誰かの「代役」を演ずる役者。ワケあり葬儀での死体役、多忙なセレブ社長の子息の母親役、夫の親戚との付き合いを厭う新妻役など、役柄は多岐にわたる。依頼人たちの身勝手さに苛立ちながらも、プロとして淡々と仕事をこなす日々。ある日、ニセの依頼をしてきた謎の男・モンゾウに、無理やり弟子入りされて…。第23回小説すばる新人賞受賞作。


依頼者のその場しのぎの身勝手さには苛々させられるが、代役請負会社・OR社の面々――全容を窺い知ることはできないが――の仕事に際するプロ根性は感嘆するところである。主人公・マキの役者ぶりと、これでいいのかと常に煩悶する姿も生々しく、だからこそ好感が持てる。気持ちの深いところにじわりと働きかけてくるような一冊である。

無花果の実のなるころに*西條奈加

  • 2011/03/18(金) 16:58:20

無花果の実のなるころに無花果の実のなるころに
(2011/02/24)
西條 奈加

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父の転勤に同行せず、神楽坂の祖母と暮らすことを決めた中学二年生の望。包丁も持てない祖母は面倒くさがりで、気が強くて、決して世話好きには見えない。でも「お蔦さん、お蔦さん」と誰からも頼られるような、不思議な吸引力を持っている。そんなお蔦さん目当てに人が集まってくるから望も何かと忙しくて…。お蔦さんや学校のみんなに振り回されつつも少しずつ成長していく望の、あたたかくて少しだけ波乱のある爽やかな日常。表題作を含む六編収録の短編集。


表題作のほか、「罪かぶりの夜」 「蝉の赤」 「酸っぱい遺産」 「果てしのない嘘」 「シナガワ戦争」

お蔦さんが探偵役のミステリでもあり、中二の望(のぞむ)の成長物語でもある。登場人物が大人も子どももみんないい。ほっと安心し、あたたかな気持ちになれるのも嬉しい。著者には珍しいタッチの現代物の一冊。

小暮荘物語*三浦しをん

  • 2011/03/15(火) 16:58:10

木暮荘物語木暮荘物語
(2010/10/29)
三浦しをん

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小田急線・世田谷代田駅から徒歩五分、築ウン十年、安普請極まりない全六室のぼろアパート・木暮荘。現在の住人は四人。一階には、死ぬ前のセックスを果たすために恋を求める老大家・木暮と、ある事情から刹那的な恋にのめり込む女子大生・光子。二階には、光子の日常を覗くことに生き甲斐を見いだすサラリーマン・神崎と、3年前に突然姿を消した恋人を想いながらも半年前に別の男性からの愛を受け入れた繭。その周りには、夫の浮気に悩む花屋の女主人・佐伯や、かつて犯した罪にとらわれつづけるトリマー・美禰、繭を見守る謎の美女・ニジコたちが。一見平穏に見える木暮荘の日常。しかし、一旦「愛」を求めたとき、それぞれが抱える懊悩が痛烈な哀しみとしてにじみ出す。それを和らげ、癒すのは、安普請であるがゆえに感じられる人のぬくもりと、ぼろアパートだからこそ生まれる他人との繋がりだった……。


「シンプリーヘブン」 「心身」 「柱の実り」 「黒い飲み物」 「穴」 「ピース」 「嘘の味」

おんぼろアパート木暮荘とその住人をめぐる七つの連作物語。
薄っぺらい壁一枚で隔てられた木暮荘の住人たちの生活音――要するに艶っぽい声とかテレビの音などである――からほかの住人のことを思う人がいたり、まったく無関心だったのにある日大家の爺さんと親しく話す人がいたり、悩みを抱えながらも恋人と過ごす人がいたり、ごく普通の人たちの物語なのだが、木暮荘という場所ゆえにつながる何かがあるようにも思えてくる。住人たちとそれぞれの周りの人々とのかかわりがまたなんともいえない味わいを醸しだしている。木暮荘の前までいって覗き込んでみたくなる一冊である。

タソガレ*沢村稟

  • 2011/03/13(日) 16:54:29

タソガレタソガレ
(2010/11/25)
沢村 凛

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パリ旅行中に明かされた里美の“特別な感覚”とは!?彼女の無意識の所作が呼ぶストーカーと誘拐殺人の行方は!?何でも屋の祐児の愛は障碍だらけ。大胆な展開を支える繊細な文章!注目の女性作家が『あやまち』『カタブツ』『さざなみ』に続いて贈る好評4文字シリーズ最新刊は、恋人たちの危機を救うハートウォーミングな物語。


ある日彼女の部屋で/恩知らずな彼女/憶測の彼方に/チャンスの後ろ髪/テストの顛末/別の日、彼女の部屋で

人の顔を憶えることのできない「相貌失認」という病気があることを本作で初めて知った。生まれつき相貌失認の主人公・里美の健気な処し方を知り、普段何気なく接している人の中にももしかすると苦しんでいる人がいるかもしれない、と思わせられた。病気そのものももちろんだが、人に解ってもらえないということがなにより辛いだろうと察せられる。里美には解ってくれる十年来の親友がおり、もうひとりの主人公である恋人・祐児にも、冒頭の行き違いのあとは理解してもらえたのが苦しい中でも救いである。そんな相貌失認ゆえに身の回りに起こる事件を、祐児が解決していくようなゆるい縛りのミステリになっている。謎を解きながら、相貌失認について読者も少しずつ理解を深めていくようになるのである。祐児の親身さがあたたかく、少しずつ里美が甘えられるようになるのがうれしくもある。胸の中がしみじみあたたかくなる一冊だった。

生還--・山岳捜査官・釜谷亮二*大倉崇裕

  • 2011/03/12(土) 10:48:39

生還 山岳捜査官・釜谷亮二生還 山岳捜査官・釜谷亮二
(2008/08/29)
大倉 崇裕

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山岳捜査官とは、いわば「山の鑑識係」である。遭難救助隊が不審な点のある遺体を山で発見したときに登場し、残された微細な証拠や聞き込みから、その死の真実を突き止める。四月中旬、北アルプス黒門岳で見つかった女性の遺体。彼女は、右手に握りしめた折りたたみナイフで、黄色のダウンジャケットを雪面に刺し貫いた状態で死んでいた。彼女の死の真相、そしてダウンジャケットのもつ意味とは―。(第一話「生還」)『山と溪谷』連載時から話題を呼んだ山岳短編小説に、書き下ろし一編を加え、全四話を収録した傑作集。


第一話 生還  第二話 誤解  第三話 捜索  第四話 英雄

山岳捜査官という職業を初めて知ったが、大変な仕事である。登山技術はもちろんのこと、ただでさえ悪条件である場合が多い山の事故現場へいち早く入り、過酷な条件下で捜索しなければならないので、体力や精神力も相当鍛えられていることが要求される。ベテラン捜査官・釜谷の捜査の様子を、新人の原田の目線で見つめる連作である。釜谷の捜査にかける真摯さと、いささかの違和感も見逃さない生真面目さが、真実を白日の下にさらす様子が興味深い。最後の物語だけは趣が他とは違い、ざらざらとした嫌な後味が残るが、却って現実感を感じられもする。鬼気迫る一冊である。

人生相談始めました*蒼井上鷹

  • 2011/03/10(木) 09:04:46

人生相談始めました人生相談始めました
(2010/11/27)
蒼井 上鷹

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モーさんの店は小さなショットバーで、繁華街から少し外れた雑居ビルの2階にある。バーテンダーという職業柄、常連客の身の上話の相手になることが多いモーさん。いつしかなしくずし的に「人生相談業」を始めるはめになったのだが、そのアドバイスがおかしな波紋を巻き起こしていくことに…。持ち込まれた相談の数々に、バーのマスターが出す答えとは?ちょっぴり苦い読後感が後を引く、連作ユーモア・ミステリー。


 第一話 妻が新型インフルエンザ恐怖症になってしまって困っています
 第二話 貸したお金を返してもらえず困っています
 第三話 カレシがいるのに他にも気になる男の人ができてしまいました
 第四話 子供が何を考えているのかさっぱり判りません
 第五話 キャバクラのコとつきあいたいんです
 第六話 ネットでデマを流され、迷惑しています
 第七話 妻が子供を産んでから、すっかり太ってしまいました
 最終話 前の恋人から貰ったものを捨てずに使っていたら、今の恋人と喧嘩になりました

目次を眺めただけで、モーさんが相談事にどんな回答を出すのか興味津々である。回答は、亡き父の日記を参考に、モーさん自身のアレンジを加えてなされるのだが、これが名回答というよりも迷回答と言った方が当たっていることが多いので、相談者やモーさん自身にもさまざまな波紋を広げる。そしてまたその波紋が連作中のそこかしこに漂っているのである。ブラックと言うほどには強烈ではないが、ちょっぴりバランスを崩すだけでとんでもないことになりそうな緊張感をはらんだユーモアに満たされた一冊である。

ブックストア・ウォーズ*碧野圭

  • 2011/03/09(水) 17:10:08

ブックストア・ウォーズブックストア・ウォーズ
(2007/10)
碧野 圭

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27歳の亜紀は、大手出版社の編集者と結婚して幸せいっぱい、仕事も楽しくてたまらない。文芸書はもちろん、コミック、ライトノベル、ボーイズラブにも気を配り、売り場改革案や人気漫画家のサイン会など、ユニークな企画を次々打ち出している。ところが、40歳の独身副店長・理子とは、ことごとく衝突続きの日々。その理子が店長に昇進した直後、6ヵ月後に店が閉鎖されると知った二人は…。恋愛、失恋、結婚、離婚、たまには嫉妬や喧嘩だってある。ワーキングガールズの世界は、幸せ色のピンクや涙色のブルーで彩られたビックリ箱。この本は、働く女性たちへのリアルな応援歌。


書店に限らずおそらくどこの職場にも大なり小なりあるだろうと思われる、女同士のやっかみや張り合い、それに加えて男の嫉妬や裏切り、そして追い落としなど、女性が思い切り仕事を仕様とすると必ずと言っていいほど悩まされることごとが盛りだくさんである。仕事のやり甲斐や職場への愛とは裏腹に、派閥争いや妬み中傷は嫌でもついてくるのである。亜記と理子という二人の主人公も、前半ではどちらも性格にいささか問題ありという感じで、二人の確執の行方が興味深かったが、個人的な利害を超えて手を結んだ後半は、スカッと気持ちよくさえあった。お定まりの筋立てとも言えるが、胸のすく一冊だった。

末裔* 絲山秋子

  • 2011/03/08(火) 17:23:31

末裔末裔
(2011/02/16)
絲山 秋子

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家族であることとはいったい何なのか。父や伯父の持っていた教養、亡き妻との日々、全ては豊かな家族の思い出。懐かしさが胸にしみる著者初の長篇家族小説。


不思議な物語である。家族小説といわれれば確かにそうなのかもしれない。代々続いてきた一族の中の自分の役割を省みたり、家族の一員としての自分を振り返ったりしながら、自分の足場を確認する公務員の中年男・省三が主人公である。ただ、物語の世界は、確固として揺るぎない現実から、境界線もあいまいなまま薄紙一枚隔てた異世界のような場所へと入り込んでしまう。物語のはじまりからして、ある日家に帰ったら家のドアに鍵穴がなかった――鍵を失くしたとか、鍵が壊れたとかではない――というのだから、はじめから現実の世界などどこにもなかったのだと言われれば、それはそれで納得してしまう。そして省三にとって、彼に起こったことはすべて彼にとって必要なことだったのだと無条件に思えてしまうのも不思議である。夢うつつの心地の内に遠くへ旅をしてきたような一冊である。

夜行観覧車*湊かなえ

  • 2011/03/08(火) 06:53:58

夜行観覧車夜行観覧車
(2010/06/02)
湊 かなえ

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父親が被害者で母親が加害者--。高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。その家族と向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。『告白』の著者が描く、衝撃の「家族」小説。


高級住宅地ひばりヶ丘でいちばん小さな家に暮らす遠藤家。中学生の娘・彩花はたびたび癇癪を起こし母・真弓を罵り暴れる。向かいの高橋家の夫は医者であり、三人の子どもたちもみな優秀で人も羨むような一家である。遠藤家の隣に古くから住む小島さと子は、夫は忙しく、息子夫婦は海外にいて、ひばりヶ丘の住人であることに誇りを持ち、新参者たちによい感情を持っていない。そんななか、事件は起きたのだった。
物語は、遠藤家、高橋家、そして小島さと子、とそれぞれの立場で描かれながら進んでいく。家の中でなにが起こっているのか、そして家の外ではどうなのか。周りはそれをどう見ているのか。当事者はどう感じているのか。著者の作品はどれも、気持ちが沈みこむような内容で、物語自体は好きとは言えないのだが、なぜか引きずり込まれるように読み進んでしまう。知れば知るほどやりきれなくなると判っていても、最後まで見届けずにはいられない心地にさせられるのである。ラストに辿り着いたからと言って明るい未来がぱっと開けるわけではない。それでもひと筋の光の気配を何とかして見つけようとしてしまうのである。昏く重くやりきれない一冊である。

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よそ見津々*柴崎友香

  • 2011/03/06(日) 08:20:35

よそ見津々よそ見津々
(2010/09/23)
柴崎 友香

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ここ5年の間に発表された90篇余りで編んだ初の本格エッセイ集。
東京の木、空の色、おいしいもの、洋服……透き通ったのびやかなまなざしが、ふだんの日々のくらしをいとおしいものに変えてくれます。そして注目は本の話。読めば必ず小説が好きになります。


1 東京の木/ 2 希望の場所/ 3 料理は、てきとうに塩梅に/ 4 ファッションの、なんとなく/ 5 本と映画と/ 6 小説を書くこと

六つの大枠のなかに、こまごまとしたあれこれが詰まっている。西の大都市大阪から東の大都市東京にやってきて、ふと感じたいろいろな場面での違いや、ひとり暮らしの日々のあれこれ、書評や映画評などなど。著者の小説の登場人物がそのまま街を歩いている目線を感じることができる心地になれる一冊である。愉しい。

Nのために*湊かなえ

  • 2011/03/05(土) 07:24:26

NのためにNのために
(2010/01/27)
湊 かなえ

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「N」と出会う時、悲劇は起こる―。大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水がきっかけで、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれにトラウマと屈折があり、夢を抱く三人は、やがてある計画に手を染めた。すべては「N」のために―。タワーマンションで起きた悲劇的な殺人事件。そして、その真実をモノローグ形式で抒情的に解き明かす、著者渾身の連作長編。『告白』『少女』『贖罪』に続く、新たなるステージ。


冒頭に描かれている事件を読んだ段階では、単なる痴情のもつれが引き起こした事件のようであったのが、読み進むにつれてどんどん様相を変えていくのに驚かされる。目に見える事実と真実が必ずしも一致しないということを再認識させられもする。登場人物たちの隠したい欲求と読者の知りたい欲求とのせめぎあいのような読書であった。心の最奥に抱えるものの深さと昏さを見せられた一冊だった。

あの頃の誰か*東野圭吾

  • 2011/03/04(金) 07:15:00

あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)
(2011/01/12)
東野 圭吾

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メッシー、アッシー、ミツグ君、長方形の箱のような携帯電話、クリスマスイブのホテル争奪戦。あの頃、誰もが騒がしくも華やかな好景気に躍っていました。時が経ち、歳を取った今こそ振り返ってみませんか。東野圭吾が多彩な技巧を駆使して描く、あなただったかもしれない誰かの物語。名作『秘密』の原型となった「さよなら『お父さん』」ほか全8篇収録。


「シャレードがいっぱい」 「レイコと玲子」 「再生魔術の女」 「さよなら『お父さん』」 「名探偵退場」 「女も虎も」 「眠りたい死にたくない」 「二十年目の約束」

著者曰く、「あとがきと言うより言い訳」には、「過去に何らかの形で発表されながら、どの短編集にも収録されなかったもの。早い話がいわゆるわけあり物件なのだ。」と書かれている。他の作品の元になったものを読むという愉しみはあったが、読者としても、物足りなさを感じてしまう一冊でもあった。掘り下げ方に物足りなさが目立ち、著者の重厚さが目立たない。ただそれは、東野圭吾の作品として、という但し書きがついてのことである。人気ミステリ作家とはつくづく大変な職業だと思う。

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ちあき電脳探偵社*北森鴻

  • 2011/03/02(水) 17:01:59

ちあき電脳探偵社 (PHP文芸文庫)ちあき電脳探偵社 (PHP文芸文庫)
(2011/01)
北森 鴻

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桜町小学校に転校してきた鷹坂ちあきは、サラサラ髪にえくぼがかわいい女の子。でも、不思議な事件に遭遇すると大変身!鋭い推理力とアクティブさで謎に挑んでいく。学校の前の桜の花が一夜にして消えた謎に迫る「桜並木とUFO事件」。あかずの創庫に出没する幽霊の正体を暴く「幽霊教室の怪人事件」ほか、ミステリーの名手が贈る、謎解きの魅力に満ちた連作推理短編集。


「桜並木とUFO事件」 「幽霊教室の怪人事件」 「ちあき誘拐事件」 「マジカルパーティー」 「雪だるまは知っている」 「ちあきフォーエバー」

1996年から97年にかけて雑誌「小学校三年生」で連載されていたものをまとめたものということで、著者唯一のジュブナイルである。
三年生向けということで、設定もキャラクターもわかりやすく、謎も小学生が身近に感じるようなものであるが、どれもきちんとミステリなので微笑ましく愉しめる。貴重な一冊である。

こちらあみ子*今村夏子

  • 2011/03/02(水) 07:04:10

こちらあみ子こちらあみ子
(2011/01/10)
今村 夏子

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少女の目に映る世界を鮮やかに描いた第26回太宰治賞受賞作。書き下ろし作品『ピクニック』を収録。


大人になったあみ子が近所の子ども・さきちゃんのためにすみれを掘りにいく場面から物語ははじまる。それから、あみ子の子どものころのことが語られるのである。両親や兄との関係、同級生とのかかわりが。それは予備知識なしに眺めた大人のあみ子の様子からは想像できなかったことごとであり、けれどもあみ子だけが子どものころからなにも変わっていないのだとも思えるのである。そして竹馬に乗ってコツコツと15分の道のりをあみ子の家に向かってやってくるさきちゃんの姿が、子どものころのあみ子と重なり、いつになったら辿り着くか判らないさきちゃんを待つあみ子の落ち着いた様子にしみじみとした感慨が胸に押し寄せてもくるのである。純粋で残酷で切ない一冊である。

小暮写眞館*宮部みゆき

  • 2011/03/01(火) 13:36:08

小暮写眞館 (100周年書き下ろし)小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
(2010/05/14)
宮部 みゆき

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物語のすべてが詰まった700ページの宝箱著者3年ぶり現代エンターテインメント長編。


第一話 小暮写眞館  第二話 世界の縁側  第三話 カモメの名前  第四話 鉄路の春

700ページを超える大作である。だが、厚さを感じさせない面白さでぐいぐい読ませる、ミステリ要素のあるファンタジーとでもいうような物語である。
舞台は、亡くなった小暮さんがやっていた写眞館を買い取ってそのまま住んでいる花菱家。そして、語り手である花菱家の長男・英一が通う都立三雲高校や花菱家に小暮写眞館を売った不動産屋やその周辺である。鍵になるのは幽霊、そして心霊写真。並べると妖しげな物語のようだが、物語自体にはまやかしも妖しさも怪しさも微塵もなく、高校生が主体となって行動する微笑ましくもあるものである。登場人物がそれぞれ個性的だが、誰もがみないい味を出していて生きて動いている姿が容易く想像できるのがいい。みんなが心やさしく責任感と思いやりを持っていて、それゆえに行き違ったりもするのだが、そのときの切なさもたまらない。ぽっかり雲が浮かぶ大空を心行くまで眺めながら、いまごろみんなどうしているだろうとときどき思い出したくなるような一冊である。