きことわ*朝吹真理子

  • 2011/04/30(土) 16:58:07

きことわきことわ
(2011/01/26)
朝吹 真理子

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永遠子は夢をみる。貴子は夢をみない。葉山の高台にある別荘で、幼い日をともに過ごした貴子と永遠子。ある夏、突然断ち切られたふたりの親密な時間が、25年後、別荘の解体を前にして、ふたたび流れはじめる―。第144回芥川賞受賞。


どうしても小路幸也さんの『キサトア』を思い出してしまうので、貴子と永遠子は双子と勝手に思っていたのだが、七歳も歳の差があるのだった。しかもまったくの他人同士である。物語は簡単に言ってしまうと、少女時代のひとときを仲睦まじく過ごした二人が、二十五年の隔たりのあとある理由で再会し、幼いときのことを懐かしむというものである。だがそこには、なにか現実を生きていない頼りなさのようなものが窺われ、過去と現在とが時折入り交じって不思議な心地にさせられる。著者がお若い方だということは知っているが、ひとたびページを開くと言葉の選び方からも文章からも古風な趣が感じられて、著者の年齢を忘れさせられるのだった。最後まで読み終えてプロフィールを見るとき、改めてその若さと物語の雰囲気の落差に驚かされるのである。いまいる場所をふと見失いそうになる一冊でもあった。

花桃実桃*中島京子

  • 2011/04/29(金) 16:56:30

花桃実桃花桃実桃
(2011/02)
中島 京子

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40代シングル女子まさかの転機に直面す。昭和の香り漂うアパートでへんてこな住人に面食らい来し方をふり返っては赤面。行く末を案ずればきりもなし…ほのぼの笑えてどこか懐かしい直木賞作家の最新小説。


幽霊でも出そうな――実際に出るという話も――おんぼろアパートを残し、ほとんど行き来がなかった父が逝った。仕事でもちょうど転機に差しかかったこともあり、花村茜はアパートの一室を改装して住み込みの管理人になることにしたのだった。どうやら父の愛人だった様子の老婦人や整形オタクの女性、にぎやかな父子家庭、根暗なウクレレ弾きの青年、探偵を名乗るハンチングの男、クロアチア人夫婦、そして管理を任せていた太陽不動産の親父や元同級生のバーテンダーなど。一癖も二癖もある人びとと否応なくかかわることで、茜自身に見えてくることもあるのだった。それぞれのキャラクターがまず面白い。これだけ濃い人たちがよくぞ集まったものだという気もするが、存外その辺にいそうなキャラなのかもしれない。ラストはちょっぴりじんとさせられ、あしたもいい日になるかもしれない、という希望を抱かせてもくれる。じわじわと味わい深い一冊である。

人質の朗読会*小川洋子

  • 2011/04/27(水) 18:36:16

人質の朗読会人質の朗読会
(2011/02)
小川 洋子

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遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。


何より設定が突飛である。地球の反対側のとある国で遺跡めぐりをしていた日本人観光客が反政府ゲリラの襲撃を受け人質になった。救出作戦もむなしく人質は全員犯人が仕掛けたダイナマイトの爆発によって死亡した。そんな哀しい事件のあとで公開された、人質たちが自ら書いた話を朗読する声による彼らの物語なのである。年齢も性別も立場もばらばらな人質たちの語る話は、ごく個人的なことでありながら静かで深いところへと分け入るような共通の雰囲気を持ち、聴く者の胸にまっすぐに入ってくるのである。語られる題材も語り口もさまざまなのに、人質であるという運命の下で語られるからなのかどれもとても大切なことのように思われて、胸がしんとするのである。静かで厳かで滋味深い一冊である。

やわらかなレタス*江國香織

  • 2011/04/26(火) 16:53:37

やわらかなレタスやわらかなレタス
(2011/02)
江國 香織

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ここにあるのは幸福な魂の食事。食べものをめぐる言葉と、小説、旅、そして日々のよしなしごと。


さまざまな食べものにまつわるあれこれが、親しみ深く書かれていて好感が持てる一冊である。オーガンジーの向こう側にいる妖精的な存在ではなく、著者がとても身近に、自分と同じ人間であると感じられて、ふふふ、と思う。そして、こんなのを待っていたのよ、とも思う。愉しい読書タイムだった。

砂の王国 下*荻原浩

  • 2011/04/24(日) 19:19:55

砂の王国(下)砂の王国(下)
(2010/11/16)
荻原 浩

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奇跡のような成功の中、私は思う。
誰かに救ってほしいと。

作りだされた虚像の上に見る間に膨れ上がってゆく「大地の会」。
会員たちの熱狂は創設者の思惑をも越え、
やがて手に負えないものになった。

ホームレス生活からの劇的な生還。
だが多くを手に入れ、ふと振り返ると
そこにあるのは空虚な祝祭と、不協和音だった。

人の心を惹きつけ、操り、そして--壮大な賭けが迎える結末は。

人間の底知れぬ強さとかぎりない脆さ。
傑作長編小説、衝撃のラスト!


途中までは上巻を読みながら想像していた通りの成り行きだった。勢いづいた大地の会は、創始者である山崎遼一の思惑をはるかに超えて入会者を増やし、ひとり歩きをはじめたのである。ここまでは容易に想像できる話である。だが、ラストに向かって風向きがいささか怪しくなってくる。教祖に祭りあげられた仲村の行動も、最後の最後で意外だった。山崎の人生、いったいどこからが間違いだったのだろう、と彼と一緒に考え込みたくなる一冊だった。

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砂の王国 上*荻原浩

  • 2011/04/23(土) 11:03:38

砂の王国(上)砂の王国(上)
(2010/11/16)
荻原 浩

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俺はまだ自分の運というやつに貸しがある。
さぁ、勝負だ。

全財産は、3円。転落はほんの少しのきっかけで起きた。
大手証券会社勤務からホームレスになり、
寒さと飢えと人々の侮蔑の目中で閃く--「宗教を興す」

段ボールハウスの設置場所を求めて辿り着いた公園で
出会ったのは、怪しい辻占い師と若い美形のホームレス。
世間の端に追いやられた3人が手を組み、
究極の逆襲が始まる--

驚愕のリアリティで描かれる極貧の日々と宗教創設計画。

『明日の記憶』から6年。人間の業(ごう)を描き出す
新たなる代表作の誕生!


ほんのしばらく前まで大手証券マンだった山崎遼一は、自分がホームレスだとなかなか認められなかったが、プライドを捨てて認めてしまえば生きる術はあれこれとあるのだった。潜入取材でもしたのかと思わせる過酷なその日暮らしの様子は薄ら寒くもあるが、一匹狼では生きていけない過酷さもよくわかる。そして山崎が、ねぐらに決めた公園で知り合った二人の男を巻き込み、証券会社時代に培ったビジネスのノウハウを生かして最低限の元手を蓄え、宗教団体「大地の会」を起こして活動をはじめたところまでがこの上巻で描かれている。
ここまでは、山崎のもくろみは成功しているように見える。このタイトルなので先はある程度想像できるが、「大地の会」がどうなっていくのかに興味津々である。下巻が愉しみ。

純平、考え直せ*奥田英朗

  • 2011/04/21(木) 11:47:08

純平、考え直せ純平、考え直せ
(2011/01/20)
奥田 英朗

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坂本純平、21歳。新宿・歌舞伎町のチンピラにして人気者。心酔する気風のいい兄貴分の命令は何でも聞くし、しゃべり方の真似もする。女は苦手だが、困っている人はほうっておけない。そんな純平が組長から受けた指令、それは鉄砲玉(暗殺)。決行までの三日間、純平は自由時間を与えられ、羽を伸ばし、様々な人びとと出会う。その間、ふらちなことに、ネット掲示版では純平ネタで盛り上がる連中が…。約一年半ぶりの滑稽で哀しい最新作。


不遇な生い立ちのせいにして極道の道を歩くことになった純平、21歳。生きる目的などなにもない。せめてこの道で名をあげてやりたいものだ。そう考えていたところに組長から直に声がかかり、鉄砲玉として働くことになる。ついては、三日間最後の娑婆を愉しんでこい、ということで小遣いを与えられしばし自由の身になった純平だった。三日の間に鉄砲玉としての下見や準備をしながら、歌舞伎町のたくさんの人たちと改めて出会うのを感じる純平だったが、出会いはそれだけではなかった。たまたま拾った女・カオリが純平のことを書き込んだ掲示板では、純平をネタに勝手にさまざまに盛り上がっていたのである。そんなネットの彼らが大挙して純平を止めに来る展開になるのか、と思いきや、ネットの盛り上がりは所詮ネット上だけであり、純平の日常にかかわってくることはなかった。これもまたリアルでいい。ラストのあとのことは読者の想像に任された格好になっているが、真実を知りたいような知りたくないような心地である。純平の思いが報われた方がいいのか報われない方がいいのか、悩ましいが面白い一冊である。

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白虹*大倉崇裕

  • 2011/04/19(火) 14:45:41

白虹白虹
(2010/12)
大倉 崇裕

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仕組まれた謎、驚愕の真相。北アルプスの山小屋で働く元警官の五木健司はある遭難者を救助したことがきっかけで殺人事件の真相を追うことに…傑作長篇ミステリー。


なにか過去を背負っているような五木が主人公。その過去の経緯も気になり、はじめから惹きこまれる。そして普通の人なら見過ごしてしまうようなちょっとした違和感をそのままにしない五木の性格ゆえに、ひとりの登山者の命を救うことになるのである。それがまさに物語のはじまりなのだった。五木が自分を責めながらも巻き込まれることになる事件でも、やはり違和感を捨てておけない性格がさまざまな真実を白日の元に晒すことになり興味深い。そしてラスト近く、あとは五木の身の振り方だけが気がかりだな、と思った辺りから様相はガラッと変わるのである。パズルのピースが次々にはまっていくように信じたくない真実が明るみに出てくるのは、やりきれなくもあるが、腑に落ちる感じもあってとても面白かった。読み応えのある一冊である。

春を嫌いになった理由(わけ)*誉田哲也

  • 2011/04/16(土) 16:50:33

春を嫌いになった理由(わけ)春を嫌いになった理由(わけ)
(2005/01)
誉田 哲也

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フリーターの瑞希は、テレビ番組「解決!超能力捜査班」のプロデューサーである叔母の織江から、霊能力者・エステラの通訳を任された。収録日、エステラの霊視通りに行動した番組スタッフは、廃墟ビルから白骨死体を発見する。過去のトラウマから霊能力を毛嫌いしている瑞希は「霊視も死体もヤラセなのでは?」と疑いを抱きつつ、生放送本番に臨むが…。第4回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞第一作。


物語は二本の流れが交互に語られることによって進んでいく。瑞希が霊能力者・エステラの通訳としてテレビ番組作りにかかわるというのがひとつ目の流れであり、もうひとつの流れでは、中国からの密航者・林 守敬(リン ソウチン)と妹の玉娟(ウージェン)の日本での境遇が描かれている。初めはまったく次元の違うふたつの別物語を読んでいるようなのだが、ラスト近くになって見事に一本の流れに収束するのである。そうだったのか。序章の前に置かれた場面を読んだときは筋金入りのホラーかと身構えたが、内容はそれほど強烈なものではなくてよかった。兄弟愛の強さと思わぬ霊能力を見せられた一冊だった。

人生の使い方*平安寿子

  • 2011/04/13(水) 17:09:16

人生の使い方人生の使い方
(2010/10/14)
平 安寿子

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「あなたには趣味って、ないの」。妻の一言から始まった中年夫婦の趣味探し。スポーツジムにカルチャーセンターの講座めぐり、自分にぴったりの趣味はいずこに。そんな中、ある異変が……。趣味探しを通じて、新たな生き方を見つける夫婦の姿をユーモラスかつシリアスに描く長編小説。


他人事だと思って読むとクスリと笑ってしまうが、まったく他人事などではないのである。おそらく世間の多くの夫婦が同じようなことで悩み、あれこれと試行錯誤してきたのだろうと思われる。介護問題や自らの健康問題を絡めながら、定年後の夫の、妻の、そして夫婦の暮らし方を考えさせられる。ユーモラスながら身につまされるシリアスさを含んだ一冊である。

箱庭図書館*乙一

  • 2011/04/12(火) 17:04:30

箱庭図書館箱庭図書館
(2011/03/25)
乙一

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少年が小説家になった理由。コンビニ強盗との奇妙な共同作業。ふたりぼっちの文芸部員の青くてイタいやりとり。謎の鍵にあう鍵穴をさがす冒険。ふと迷いこんだ子どもたちだけの夜の王国。雪の上の靴跡からはじまる不思議な出会い。集英社WEB文芸「RENZ ABURO」の人気企画「オツイチ小説再生工場」から生まれた6つの物語。


「小説家のつくり方」 「コンビニ日和!」 「青春絶縁体」 「ワンダーランド」 「王国の旗」 「ホワイトステップ」

タイトルからしてとても心惹かれる。そしてどの物語もとても面白い。投稿作品のボツ原稿を著者がリメイクした物語だそうである。素直にまっすぐに進んでいるかと思いきや、ラスト近くのほんのひと捻りでさらっとかわされてくらっとする。元は別々の作者が書いた物語が、連作になっているのもすばらしい。潮音さんに興味津々である。とても魅力的な一冊である。

かがみのもり*大崎梢

  • 2011/04/09(土) 21:12:00

かがみのもり (BOOK WITH YOU)かがみのもり (BOOK WITH YOU)
(2011/03/19)
大崎梢

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新任の中学教師・片野厚介のもとに、担任クラスのお騒がせ男子生徒コンビによって持ち込まれた、金色に輝くお宮の写真。それは立ち入り禁止になっている神社の裏山にあったという。お宮の在処をめぐって接触してくる、怪しい組織や謎の美少女中学生。降りかかるピンチの連続のなかで、三人は幻のお宮を守れるのか!?


実家が神社で参拝の所作が美しい新任中学教師・片野厚介が主役である。先輩教師からは「なめられず、なれ合いにならず、生徒にはぴしっとのぞめ」と言われているにもかかわらず、お調子者の男子・笹井と勝又のペースにまんまと巻き込まれてしまうのだった。神社の威信、怪しい新興宗教、行方不明の信者を探す興信所の調査員、隣の中学の可愛い女子生徒、などの思惑が絡み合い、恐ろしい目に遭いながらも厚介と二人の男子は真相を見極め、いちばんいいと思われる解決へと導くのだった。途中どうなることかとはらはらさせられたが、厚介の機転がナイスだった。教師としては先が思いやられる気もするが、愉しそうな中学生活である。神聖さとお調子者の中学生とのミスマッチが絶妙な一冊でもあった。

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エイジ*重松清

  • 2011/04/08(金) 17:19:28

エイジエイジ
(1999/01)
重松 清

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舞台は東京郊外のニュータウン。孤高の秀才・タモツくん、お調子者で悪ガキのツカちゃん、ちょっと気になる相沢志穂、シカトされるバスケ仲間・岡野、ぼくを好きな本条めぐみ、優しい家族に囲まれマジメなぼく…。そんな日常のなか、ぼくらの街で起こった連続通り魔事件の犯人は、クラスメートのタカやんだった。事件に揺れる中学校生活のなかでみつめる、ほんとうの自分とは?14歳、思春期に揺れるいまどきの「中学生」をリアルに描く90年代最後の少年文学。


町中を震撼させる連続通り魔事件の犯人が同級生だったら、14歳の少年たちはどれほどショックだろう。あまりにも重過ぎる気持ちをどこに持っていけばいいのか途方にくれることだろう。そしてさまざまな形になって外に表れるのだろう。被害者に寄り添って考える、クラスメイトである加害者の気持ちになって考える、考えないようにする、などなど。どれもきっと重過ぎるショックを必死に和らげようとする当然の反応なのだと思う。どれが良いとか悪いとかではない。そんな14歳たちの姿がとてもリアルに描かれていて胸を突かれる。センセーショナルに煽り立てるようには書かれていない。むしろ淡々と事実だけが書かれているのだが、それが却って真実味を帯びて苦しくなる。他人事と思って読み過ごすことのできない一冊である。

19分25秒*引間徹

  • 2011/04/06(水) 16:55:23

19分25秒19分25秒
(1994/01)
引間 徹

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埋立地に誕生した人工の街を舞台に、夜な夜などこからともなくあらわれては消えていく謎の競歩選手と主人公を軸に、小気味よいテンポで、読む者を駆り立てる爽快な物語。


就職も決まった大学四年生男子が主人公である。ある日公園で、ものすごい速さで歩いている男と出会った。男の左膝から下はサイボーグのような義足だった。それが主人公と競歩の出会いだった。彼は、どういうわけか目が離せない男と張り合うように競歩にのめりこんでいくのだった。得たものよりも失ったものの方が多いことを自覚しながらも、止められない衝動によってトレーニングを重ねる姿は、まるで何かに取り憑かれたようにも見えるが、清々しくもある。出会いの妙と静かな衝動を感じさせられる一冊である。

流跡*朝吹真理子

  • 2011/04/05(火) 17:13:11

流跡流跡
(2010/10)
朝吹 真理子

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第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を最年少で受賞した大型新人の鮮烈なデビュー作。


いつなのか、どこなのか、だれなのか。三人なのか、転生する一人なのか。現実なのか夢なのか。読み進めるごとにわからなくなる一冊である。なにかについて書かれているのか、それともなにかがなにかをわからなくさせるために書かれているのか。それさえもわからなくなるようである。形作っては崩れ、寄り集まっては散り散りになり、流れにたゆたっているような一冊である。

ハブテトル ハブテトラン*中島京子

  • 2011/04/04(月) 19:09:25

ハブテトル ハブテトランハブテトル ハブテトラン
(2008/12)
中島 京子

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広島県・松永を舞台に、はずむような備後弁でつづられた物語。


タイトルは呪文かなにかかと思ったら、【「ハブテトル」とは備後弁で「すねている、むくれている」という意味。「ハブテトラン」は否定形。】とのことである。
東京の小学校で居心地の悪い思いをし、ストレスから体調を崩したダイスケは、二学期をママの両親が住む松永で過ごすことになる。その二学期の物語である。やわらかで大らかな備後弁が松永の年中行事や級友たちとのやりとりすべてを包み込んで、読者をものんびりとした気持ちにしてくれる。辛いものを抱えたダイスケだが、松永の暮らしに否応なく巻き込まれていくうちに、少しずつ自分を取り戻し、強くもなったように見える。三学期、東京に戻ってからのことは描かれていないが、きっと一学期よりも上手くやれることだろう。備後弁のリズムと懸命に漕ぐ自転車が切る風が心地好い一冊である。

アクセス*誉田哲也

  • 2011/04/04(月) 06:50:29

アクセスアクセス
(2004/01/16)
誉田 哲也

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イケメン高校生の翔矢と雪乃、従姉妹の可奈子が謎のプロバイダに登録してから、次々と奇怪な事件が発生する。同級生の自殺、日本刀に取り憑かれる男、電源を切っても着信するケータイ、連続殺人、忍び寄る幽鬼の手。彼らが堕ちた魔界の連鎖とは?第4回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。


ホラーとは知らずに読み始め、途中まではちょっと危うい感じの十七歳たちの物語として読んでいたのだが、スイッチが入ったかのように異世界に引きずり込まれてしまったのだった。こちらサイドの誉田作品だったのかと気づいたときはときすでに遅し。グロテスクな混沌の中を進むしかない。ただ、主人公の十七歳たちが光の方へと進んでいることだけが救いである。個人的には、ミステリ仕立てで読みたい一冊だった。

いとま申して―『童話』の人びと*北村薫

  • 2011/04/02(土) 16:51:34

いとま申して―『童話』の人びといとま申して―『童話』の人びと
(2011/02)
北村 薫

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若者たちの思いが集められた雑誌「童話」には、金子みすゞ、淀川長治と並んで父の名が記されていた―。創作と投稿に夢を追う昭和の青春 父の遺した日記が語る“時代”の物語。


父の残した日記が下敷きにはなっているが、単なる日記紹介とか人物伝などというものとはまったく違った一冊である。大正から昭和にかけての時代背景やその時代特有の空気、そして作家を目指す人びとのもたらす熱風のようなものを、単に息子という視点に留まらず、同じ作家として、またその後の時代を生きる者としての視点を持ってみつめているように思われる。静かながら熱い風を感じる一冊である。

おしまいのデート*瀬尾まいこ

  • 2011/04/01(金) 17:09:02

おしまいのデートおしまいのデート
(2011/01/26)
瀬尾 まいこ

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いろんな形の「デート」、あります。
祖父と孫、元不良と老教師、特に仲良くもない同じクラスの男子同士、協力して一緒に公園で犬を飼うOLと男子学生。何気ないのに温かい人と人のつながりを軽やかに描く、5編収録の作品集。


表題作のほか、「ランクアップ丼」 「ファーストラブ」 「ドッグシェア」 「デートまでの道のり」

ほんとうにいろいろなデートがあるものである。男女だけでなく、祖父と孫、元教師と教え子、級友同士、見知らぬ他人。それぞれに胸の中があたたかくなるようであり、ちらりと切なく鼻の奥がつんとするような物語である。「ランクアップ丼」がわたしはいちばん好きだった。やさしい気持ちになれる一冊。

麒麟の翼*東野圭吾

  • 2011/04/01(金) 07:44:03

麒麟の翼 (特別書き下ろし)麒麟の翼 (特別書き下ろし)
(2011/03/03)
東野 圭吾

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東野圭吾作家生活25周年特別刊行、第1弾ここから夢に羽ばたいていく、はずだった。大切な人を守りたい、それだけだった。誰も信じなくても、自分だけは信じよう――加賀シリーズ最高傑作、書き下ろし!
寒い夜、日本橋の欄干にもたれかかる男に声をかけた巡査が見たのは、胸に刺さったナイフだった。大都会の真ん中で発生した事件の真相に、加賀恭一郎が挑む。


しかし、すっかり阿部寛である、加賀恭一郎。良いのか悪いのか、映像の力は強烈である。ふらふらひとりで歩き回っているように見える捜査手法だが、ほかの刑事が思い至らない被害者や容疑者の心中にまでも思いを致し、並の捜査では思いもよらない角度から地道に聞き込みをつづける姿には相変わらずであり安心させられる。事件の根っこがこんなところにあったとは、よもや想像もしなかったが、わかってみれば見事につながるのだった。心なしか上司や同僚刑事たちの理解も深まったように見えるのは気のせいだろうか。人を想う気持ちが胸に沁みる一冊である。

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