らくだこぶ書房|21世紀古書目録*クラフト・エヴィング商會

  • 2011/05/29(日) 17:22:21

らくだこぶ書房21世紀古書目録らくだこぶ書房21世紀古書目録
(2000/12)
クラフト・エヴィング商會、坂本 真典 他

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ある日、未来の古書目録が届いた。半信半疑で注文してみると、摩訶不思議な本が次々と目の前に現れた。想像力と創造力を駆使して、書物の世界に遊ぶ、空前絶後の奇書。


2052年のらくだこぶ書房から1999年のクラフト・エヴィング商會に宛てて「SAND MAIL」という砂にまみれた荷物が届いたことがすべてのはじまりだった。開けてみると、2000年から50年の間に刊行された(2052年からみた)古書の目録だった。一か月に一度、一冊ずつ注文ができるという。そうして気長に取り寄せた未来の古書の書映や解説を一冊にまとめたのが本書である。
なんという奇想天外な着想だろう。まだ見ぬ古書が取り寄せられるなんて。そして最後の最後にさらにぞくぞくするような仕掛けが用意されているのである。これはもうたまらない。子どものころにタイムマシンで未来にいくことを想像したときのぞくぞく感を久しぶりに味わったような一冊である。

Vintage '06

  • 2011/05/29(日) 13:58:51

vintage '06 (ヴィンテージ・シックス)vintage '06 (ヴィンテージ・シックス)
(2006/06/09)
石田 衣良、角田 光代 他

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6人の直木賞作家が贈る、芳醇、至高のアンソロジー。
ワインは愛をはぐくみ、愛は物語を生む。
●石田衣良
「父の手」……岩の原ワイン(上越市、岩の原葡萄園)
●角田光代
「トカイ行き」……TOKAJI ASZU HETSZOLO 1995 6put(ハンガリー、トカイ)
●重松清
「ひとしずく」……CHATEAU BEYCHEVELLE 1962(フランス、ボルドー)
●篠田節子
「天使の分け前」……CHEVALIERMONTRACHET 1990(フランス、ブルゴーニュ)
●藤田宜永
「腕枕」……CHATEAU HAUT BRION 1971(フランス、ボルドー)
●唯川恵
「浅間情話」……登美(甲斐市、登美の丘ワイナリー)


サントリー株式会社 ワイン事業部の協力により、小説現代に連載された作品をまとめたものだそうである。
実在するワインが必ず登場し、それが物語の重要な要素になっている。すべて恋愛小説になっているのは、そういう決まりごとがあったのだろうか、それともワインが恋愛に結びつきやすいということなのだろうか。感動的だったり哀しかったり切なかったりと状況はさまざまだが、ビールでもウイスキーでも日本酒でもなく、恋愛の一場面にはやはりワインが似合っている。わたしはまったく飲めないのだが、ワイン好きな人が読めばまた違った愉しみ方もできるのだろう。芳醇な一冊である。

午前三時のルースター*垣根涼介

  • 2011/05/28(土) 13:44:08

午前三時のルースター午前三時のルースター
(2000/04)
垣根 涼介

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旅行代理店勤務の俺は失踪した父親を探す少年に同行しベトナムを訪れる。現地の娼婦や運転手の協力で俺達が知った切ない真実とは


ジュエリー・ナカニシの娘婿である父が失踪し、その後ベトナムでビデオに写った父を見た息子・慎一郎は、高校進学のご褒美としてベトナムへいかせてもらう約束を祖父から取り付けた。プライベートな添乗員として白羽の矢が立ったのが旅行代理店勤務の長瀬だった。ちゃっかり同行することになった長瀬の友人源内と三人でベトナムに着いたとたん、前途が多難なことを重い知らされる。ホテルやガイドの予約がすべて何者かによってキャンセルされていたのだった。
現地で運転手やガイド役を探す長瀬の手腕がまず見事である。結局最後まで彼らに助けられたとも言える。追いつ追われつのカーチェイスもあり、追っ手をかわす作戦の妙もあり、また中西家のお家事情も絡み、なかなか愉しめる一冊である。

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リスの窒息*石持浅海

  • 2011/05/26(木) 17:06:33

リスの窒息リスの窒息
(2010/02/05)
石持 浅海

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昼どきの秋津新聞社投稿課に届いた一通のメール。添付ファイルに写るのは、拘束された女子中学生だった。その後、メールが届くたびに、彼女は服を剥ぎ取られていく。見ず知らずの少女を救うため、新聞社は身代金を支払うべきなのか?前代未聞の要求を前に、必死に活路を見いだそうとする元社会部記者の細川と犯人との息をもつかせぬ攻防が始まる。


秋津新聞に届いた名門私立女子中学生が拘束された写真つきの身代金要求メールはCcでライバルの週刊道標にも送られていた。警察に通報することに関して互いに牽制し合わせることが狙いか。新たな指示メールが届くたびに秋津新聞投稿課の一室に集まった幹部を含む関係者たちの反応や行動が興味深い。人質の無事が最優先と言いながらも、上司にへつらう者、社に対する世間の反応ばかり気にする者、そして過去のトラウマもあり心を壊してしまう者。投稿課の若い舞原馨の目を通して事件を見ながら、読者もまさに窒息しそうな心地である。動機といい、シナリオといい、結着といい、信じられないことばかりの誘拐事件であり、やりきれない苦い後味ばかりが残る。哀しくやるせない一冊である。

佳代のキッチン*原宏一

  • 2011/05/24(火) 17:02:17

佳代のキッチン佳代のキッチン
(2010/12/01)
原 宏一

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失踪した両親を捜すため、お客さんが持ってくる食材で料理を作る「移動調理屋」を始めた佳代。キッチンワゴンで両親ゆかりの地を巡るうちに、一風変わった注文や、ちょっとした事件も舞い込んで…。すべての答えは美味しい料理の中にある?そして謎だらけの両親の行方とは。風味絶佳なロードノベル。美味しいハートフル・ミステリー。


佳代は三十歳になった。中学卒業直前に両親が突然いなくなり、その後軽ワゴンを厨房車に改装して移動調理屋――お客さんが持ち込んだ食材で注文の料理を作る。一食五百円――「佳代のキッチン」をはじめたのだった。サイドミラーに『いかようにも調理します』という札を下げたら開店である。両親に縁がありそうな土地を巡って若かりしころの写真を見せて聞き込みをしながらの暮らしである。それぞれの土地のお客さんの持ち込む食材で作る料理の丁寧でおいしそうなこと。思わずお腹が鳴りそうである。また、土地土地で出会った人たちの抱えるあれこれに巻き込まれたり、両親の意外な軌跡を知ることができたり、東京で新聞記者をしている弟の和馬との電話で元気を回復したり。佳代と一緒にあれこれ考えながら読んでしまうのだった。そして、少しずつ両親に近づいていくにつれ、佳代と一緒にどきどきするのだが、その両親は……。いつかどこかで佳代のキッチンを見かけたら、ぜひなにか注文したい、と待ちわびる心地の一冊である。

おかしな本棚*クラフト・エヴィング商會

  • 2011/05/23(月) 16:54:49

おかしな本棚おかしな本棚
(2011/04/20)
クラフト・エヴィング商會

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多くの本好きやデザイナーが注目するクラフト・エヴィング商會、6年振りの描き下ろし。不可思議な本をつくり続ける同商會の書庫を初公開! 「頭を真っ白にするための本棚」「波打ち際の本棚」「金曜日の夜の本棚」……書棚の写真を眺めているだけでも楽しく、本文を読むと実物を手に取りたくなる、そんな古今東西の奇書・稀書・偽書がたっぷり。創作の秘密が垣間見られる異色のブックガイド。
本棚についての、本棚をめぐる、本棚のあれこれを考える本。背中が語るとっておきの本の話。


大好きなクラフト・エヴィング商會のとてもとても興味深い本棚の本である。魅力的な名前をつけられた魅力的な本棚の写真と、その本棚にまつわるあれこれがしたためられている。とはいえ、本棚に並んだ本の解説というわけではなく、言ってみれば著者の思い入れ語りのようなものであり、それがまたたまらない。食い入るように見入ってしまう一冊である。

女中譚*中島京子

  • 2011/05/21(土) 21:09:53

女中譚女中譚
(2009/08/07)
中島 京子

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昭和初期の林芙美子、吉屋信子、永井荷風による女中小説があの『FUTON』の気鋭作家によって現代に甦る。失業男とカフェメイドの悪だくみ、麹町の洋館で独逸帰りのお嬢様につかえる女中、麻布の変人文士先生をお世話しながら舞踏練習所に通った踊り子……。レトロでリアルな時代風俗を背景に、うらぶれた老婆が女中奉公のウラオモテを懐かしく物語る連作小説集。


「ヒモの手紙」 「すみの話」 「文士のはなし」

それぞれ、林芙美子、吉屋信子、永井荷風に捧げられた物語であり、かつ、いまは年老いた「すみ」が自分語りをするという趣向の連作になっている。すみが若かりしころの東京の風物に、それを語っている現代の東京の風物や事件が入り交じっているところに妙なリアル感がある。歴然と階級の差があったころの日本(東京)の閉塞感と未熟さ、その時代を生きる人びとの意識などが「すみ」の語り口から伝わってきて思わず惹きこまれる。日本がまだまだどうにでもなれる可能性を持っていたよき時代を感じさせられる一冊である。

民宿雪国*樋口毅宏

  • 2011/05/21(土) 16:55:20

民宿雪国民宿雪国
(2010/12/01)
樋口毅宏

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梁石日氏絶賛!「なみなみならぬ筆力に感服した。人間の底知れぬ業を描き切る」  2012年8月、国民的画家・丹生雄武郎氏が亡くなった。享年97歳。  80年代のバブル時に突如衆目を集め、華やかな時代を背景に一躍美術界の新星として脚光を浴びる。しかし、各方面からの称賛の声をよそに、けして表舞台には出ようとせず、新潟県T町にて日本海を見下ろす寂れた「民宿雪国」を経営、亡くなるまで創作に没頭した。「芸術はなんというなれの果てまで私を連れてきたのだろう……」 大正4年生まれ、使用人との間に生まれ、病弱で不遇な少年時代を過ごし、第二次大戦ではニューギニアに応召、敗戦後はシベリアに抑留される。復員すると愛妻は疎開先で亡くなっており、彼は終生「遺された者の不幸」と「戦争で死ねなかった負い目」に苛まれたと推測される。 しかし一方で、丹生氏の過去にはいささか不明瞭な部分もあった。 かつて「民宿雪国」に宿泊、丹生氏によって人生を左右されたと明言するジャーナリスト・矢島博美氏がその死後に丹生氏の過去を掘り下げたところ、以外な事実が明るみに出たのだった。 彼はなぜその経歴を詐称したのか。 やがて彼の破天荒な生涯が、かくされた昭和史を炙り出したのだった――。 あらゆるジャンルを越境する文芸界の最終兵器・樋口毅宏が贈る、本年度最高のエンタテインメント・ピカレスク・ロマン!


まるでドキュメンタリーを読んでいるようにさまざまな場面を思い浮かべることができる一冊である。と同時に、幾度も幾度も表と裏が反転し、どちらが裏でどちらが表か判別がつかなくなる心地にさせられもする。読み終えてもまだまだ真の素顔はどこか別のところに押し込められているのではないかと疑いさえしてしまう。絶妙に織り込まれた昭和史や世間を騒がせた人々でさえ著者の手にかかると丹生雄武郎の人生の一部になってしまうようで舌を巻く。途轍もないものを読んだという後味の一冊である。

さよならのためだけに*我孫子武丸

  • 2011/05/18(水) 20:13:24

さよならのためだけにさよならのためだけに
(2010/03/18)
我孫子 武丸

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ハネムーンから戻るなり、水元と月は“さよなら”を決めた。二人はまったくそりが合わなかったから。けれど…少子晩婚化に悩む先進諸国はグローバル国策会社、結婚仲介業のPM社を創りだしていた。その独創的相性判定で男女は結ばれ、結婚を維持しなければならない。しかもこの二人、判定は特Aで夫ときたらPM社員。強大な敵が繰りだす妨害に対し、ついに“別れるための共闘”が始まった。


水元と月(ルナ)それぞれの視点で語られる離婚に向けた闘いの物語。なのだが、実にさまざまな要素を含んでいて興味深い。たとえば少子晩婚化、たとえば個人情報、またたとえば遺伝子ビジネス、などなど…。男女の出会いとは、恋愛とは、結婚とは、といういつの時代にもただひとつの正解などない問題を、近未来という舞台設定で取り上げて答えを出そうとするが(PM社)やはり答えなど出るはずもない、人間にとっての永遠の命題なのだと思わされるのである。水元と月のお互いに対する印象や感情の推移も期待どおりでうれしくなるし、最後の決断も潔いもので好感が持てる。これからの二人がどうなっていくかは未知数だが、PM社の得A判定はまったく間違っていなかったと思えるラストである。それなら本作丸ごと何の意味もなかったようだが、タイトルのとおりさよならのためだけに共闘した二人だからこそ得たものが大きいのだろう。はらはらどきどき面白い一冊だった。

オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2011/05/16(月) 17:20:11

オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ 東京バンドワゴンオブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ 東京バンドワゴン
(2011/04/26)
小路 幸也

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人生はまだつづく・・・あの大家族の新しい物語
下町の老舗古書店〈東京バンドワゴン〉に舞い込む謎を、大家族・堀田家が家訓に従い解決する、大人気ラブ&ピース小説の第6弾! 未来を夢見る年頃になった子どもたちを中心に、不思議な事件が・・・。


東京バンドワゴンにまた新しい春がめぐってきた。嬉しいことである。相変わらずの面々に、成長著しいかんなちゃんと鈴花ちゃんをはじめとする子どもたち。事件などなにも起こらなくても、堀田一家の朝食風景や何気ない日常を見ているだけで満足である。だが、トラブルはちゃんと(?)季節ごとにやってくるのである。それを解き明かし丸く収める堀田家の人たちには、やはり愛があってほっとさせられる。
このシリーズ、もちろん小説なのだが、ページを開いたとたんにすでに東京バンドワゴンの店の前に自分自身が立っているような心地なのである。サチさんの目になって実際に目にしたできごとのようにリアルに感じられるのである。みんな健康に気をつけて長生きしてくださいね、と言いたくなる一冊である。

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逆想コンチェルト 奏の2

  • 2011/05/14(土) 19:46:18

逆想コンチェルト 奏の2 イラスト先行・競作小説アンソロジー Inspired by Yoshimi Moriyama’s Illustrations逆想コンチェルト 奏の2 イラスト先行・競作小説アンソロジー Inspired by Yoshimi Moriyama’s Illustrations
(2010/08/26)
井上雅彦、橋元淳一郎 他

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イラストレーター森山由海(別名フジワラヨウコウ)氏のオリジナル・イラスト二点を渡された三人の小説家が、そのイラストが扉絵・挿絵になるような短篇小説を執筆。森山氏はそれぞれにあらためて三点目のイラストを描き下ろす―。人気作家が集結し腕を揮った前代未聞の競作企画第2弾。


井上雅彦/橋元淳一郎/瀬名秀明/石持浅海/谷甲州/小林泰三/森奈津子/倉坂鬼一郎/牧野修/我孫子武丸/森岡浩之/新城カズマ

第二弾もさらにまたグロテスクなものが多くて、途中でやめたくなった一冊である。

逆想コンチェルト 奏の1

  • 2011/05/12(木) 20:30:49

逆想コンチェルト 奏の1 イラスト先行・競作アンソロジー Inspired by Yoshimi Moriyama's Illustrations逆想コンチェルト 奏の1 イラスト先行・競作アンソロジー Inspired by Yoshimi Moriyama's Illustrations
(2010/06/17)
神林 長平、山田 正紀 他

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イラストレーター森山由海(別名フジワラヨウコウ)氏のオリジナル・イラスト二点を渡された三人の小説家が、そのイラストが扉絵・挿絵になるような短篇小説を執筆。森山氏はそれぞれにあらためて三点目のイラストを描き下ろす―。「SF Japan」と「問題小説」の二誌にまたがって、三年間連載。二十四名の人気作家が集結し腕を揮った前代未聞の競作企画が遂に単行本化。まずは第一弾、「奏の1」の開演。


神林長平/山田正紀/田中啓文/久美沙織/林譲治/梶尾真治/新井素子/図子慧/篠田真由美/菊池秀行/浅暮三文/飯野文彦

イラストのイメージで物語を作るというのが興味深い。が、まずイラストが明るいイメージではないので、物語も勢いさわやかさとはほど遠いものになっている。元々の掲載誌の性格によるところも大きいとは思うが、どちらかというと苦手なタイプの物語が多く、いささか読むのに疲れた一冊でもある。

片思いレシピ*樋口有介

  • 2011/05/11(水) 17:19:49

片思いレシピ片思いレシピ
(2011/04/21)
樋口 有介

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学習塾内での殺人、巨大猫とカラス軍団の決闘!?そして淡い恋。あの柚木草平の愛娘・加奈子ちゃんのほほ笑ましくも、爽やかな探偵行。娘を持つすべての父親に贈る、著者渾身のミステリ。柚木草平シリーズ番外編。


番外編、愉しい。柚木草平の娘の加奈子ちゃんの大人を評する的確さに目を瞠る。とても小学生とは思えない。あの親だからこうなってしまったのかと思えば、いじらしくもある。今回柚木は加奈子ちゃんとの電話での会話と裏方でしか登場しないが、締めるところはしっかり締めているようで、ちょっぴり頼もしくも思える。そして何より印象的なのは、登場人物たちのキャラクターが少しずつ標準からずれていて、しかもそのずれ方がそれぞれ少しずつ別の方向に向いているということである。それなのに全体として見ると妙にしっくり調和してしまうのだからなんとも不思議なのである。柚木草平シリーズとは別に、加奈子ちゃんシリーズをぜひつづけていただきたいと思わされる一冊である。

県庁おもてなし課*有川浩

  • 2011/05/08(日) 20:56:20

県庁おもてなし課県庁おもてなし課
(2011/03/29)
有川 浩

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地方には、光がある―物語が元気にする、町、人、恋。とある県庁に突如生まれた新部署“おもてなし課”。観光立県を目指すべく、若手職員の掛水は、振興企画の一環として、地元出身の人気作家に観光特使就任を打診するが…。「バカか、あんたらは」。いきなり浴びせかけられる言葉に掛水は思い悩む―いったい何がダメなんだ!?掛水とおもてなし課の、地方活性化にかける苦しくも輝かしい日々が始まった。


著者ご自身の体験がネタ元になっているらしい物語なのである。観光特使を依頼され、引き受けたにもかかわらず、ひと月以上もなんの進展も連絡さえもなく、話が流れたのかと思って問い合わせれば、特使名詞の印刷も、デザインすらもまだこれからだというグダグダのお役所体質に半ばあきれたのと、「おもてなし課」というネーミングセンスに興味を持ったのが本作が生まれるきっかけだそうである。
高知県庁おもてなし課の職員・掛水と多紀ちゃんは、自転車置き場での出会いの時点でほとんど展開が読めてしまうが、それはそれでアリである。掛水の煮え切らなさにじりじりと気を揉ませられるのもまた一興である。今回は、吉門と佐和というもう一組のじりじりにもつきあうことになるのだが。物語の本筋は、町起こしならぬ県起こしであり、お役所体質丸出しでグダグダだった出だしから、吉門や清遠の啓発によって実践力をつけてくるおもてなし課の面々の姿が清々しい。中でも掛水の上司・下元課長が地味ながらいい味を出していてグッとくる。おもてなし課主導ではじまった観光事業自体にはまだなんの目途もついていないが、目的意識がはっきりしたおもてなし課の面々を見ていると、未来はきっと明るいと思える。興味深い一冊だった。

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短篇集*柴田元幸 編

  • 2011/05/07(土) 11:36:20

短篇集短篇集
(2010/04/20)
クラフトエヴィング商會、石川美南 他

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この人に書いてもらえたら最高、と思った9人が書いてくれました。

僕はこれまで何冊か、英米の小説のアンソロジーを編んできていて、
そのたびに内容には自信があったが、今回もまったく同じ自信とともに、
この本を世に送り出すことができる。柴田元幸


クラフト・エヴィング商會  「誰もが何か隠しごとを持っている、私と私の猿以外は」
戌井昭人  「植木鉢」 
栗田有起  「ぱこ」
石川美南  「物語集」
Comes in a Box  「朝の記憶」
小池昌代  「箱」
円城塔  「祖母の記録」
柴崎友香  「海沿いの道」
小川洋子  「物理の館物語」

独特の趣の一冊である。どの作品からもなにやら不穏なものが匂いたち、心にざわざわと波をたたせる。目にしてはいけないものをうっかり見てしまったような、知ってはいけない世界をたまたま覗いてしまったような、うしろめたさのようなものを感じさせるなにかがあるのである。しかし、読むのを止められない。最後まで知りたいと思う。そうしなければ気が済まない。そんな秘密めいた一冊である。

ちなつのハワイ*大島真寿美

  • 2011/05/05(木) 17:25:05

ちなつのハワイちなつのハワイ
(2004/07)
大島 真寿美

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せっかく家族でハワイに来たのに、兄は機嫌が悪いし、両親はケンカばかり。うんざりするちなつの前に、なぜか日本にいるはずのおばあちゃんが現れた。一緒に家族の絆を取り戻そうとするのだが----。うまくいかない現実も、ささくれだった心も、ハワイはやさしく包み込み、解き放ってくれる。家族の再生、かけがえのない存在との別れを通して、しなやかに成長する少女の物語。


喧嘩ばかりの両親が半ばやけくそのように決めて夏休みに家族でやってきたハワイ。出発するときから気分はどんよりである。ハワイに着いても懸命に愉しさを装うばかりで心底愉しめない。挿絵のハワイの空の明るさも海の広さもゆったりした雰囲気もむなしいばかりである。どうなるのだろうと読者が心配になるころ、おばあちゃん――ちなつにしか見えない――が現れいろんな話をしてくれて心強さを感じるのだった。と同時に、管沢(地名)にいるはずのおばあちゃんがこうしてハワイにいるということは…、ちなつにもうすうす想像がついているのだった。目に見えないおばあちゃんの気配がそうさせたのか、両親の気持ちも次第に和んでいくのだった。家族の中でいちばんちいさいちなつが気を揉んで心配で心をいっぱいにしている姿がいじらしくてたまらない。次に家族でハワイにやってくるときには目いっぱい明るくゆるゆるな雰囲気を愉しめるといいな、と思わされる一冊である。きっと大丈夫だろう。

作家の口福

  • 2011/05/05(木) 16:48:09

作家の口福 (朝日文庫)作家の口福 (朝日文庫)
(2011/02/04)
恩田 陸

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贄沢なチーズ鱈、卵の黄身をとろっと絡めたトースト、はんぺんのオイルフォンデュ、白砂糖入りの七草粥、ハーブティーで淹れたココア、モンゴルのいのちを頂くヤギのシチュー…20人の作家が自分だけの“ご馳走”を明かす。読めば「美味しい!」を共感できる極上のエッセイ集。


恩田陸/ 絲山秋子/古川日出男/村山由佳/井上荒野/山本文緒/藤野千夜/川上未映子/森絵都/津村記久子/三浦しをん/江國香織/朱川湊人/磯崎憲一郎/角田光代/道尾秀介/池井戸潤/中村文則/内田春菊/中島京子

なんと贅沢なラインナップであることか。しかもそれぞれが、好きな食べものやそれらにまつわるエピソードをいくつか披露しているのである。いやでも興味が湧くというものである。作家というもの、接待されたり取材旅行だったりお祝いだったりとさぞおいしいものをたくさんお召し上がりで、庶民には手の届かないものがずらっと並んでいたらどうしよう、などといささか心配もしたが、意外に庶民的な食べものたちが並んだので安心して読めたのだった。文句なく愉しい一冊である。

さみしさの周波数*乙一

  • 2011/05/04(水) 18:40:33

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)
(2002/12)
乙一

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「お前ら、いつか結婚するぜ」そんな未来を予言されたのは小学生のころ。それきり僕は彼女と眼を合わせることができなくなった。しかし、やりたいことが見つからず、高校を出ても迷走するばかりの僕にとって、彼女を思う時間だけが灯火になった…“未来予報”。ちょっとした金を盗むため、旅館の壁に穴を開けて手を入れた男は、とんでもないものを掴んでしまう“手を握る泥棒の物語”。他2篇を収録した、短編の名手・乙一の傑作集。


「未来予報 あした、晴れればいい」 「手を握る泥棒の物語」 「フィルムの中の少女」 「失はれた物語」

読者の隙をついてちょっとしたミスリードを仕掛けるのがとても巧みである。場面の並べ方を少しだけ入れ替えたり、ひと言語らなかったりすることで生まれる勘違いや思い込みは、物語の展開を一層スリルに満ちたものにしてくれる。さみしく切なく想いに満ちた一冊である。

ぼくの宝物絵本*穂村弘

  • 2011/05/04(水) 11:16:17

ぼくの宝物絵本 (MOE BOOKS)ぼくの宝物絵本 (MOE BOOKS)
(2010/04)
穂村 弘

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国内外の名作絵本、約70冊をオールカラーで解説・収録。


名作絵本であるのは間違いないだろうが、ことに穂村さんのお気に入りの絵本紹介、といった趣の一冊である。
目を留める箇所や惹かれる点に穂村テイストたっぷりなのが嬉しくもある。そうかそうか、こんなところに、と思いながら読み、ときにくすりと笑い、ときにふぅむと感心してうなずく。絵本マニアらしい一冊である。

ヒトリシズカ*誉田哲也

  • 2011/05/03(火) 20:05:28

ヒトリシズカヒトリシズカ
(2008/10)
誉田 哲也

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5つの殺人事件。果たして刑事は真実を見たのか?果たして女は幸せだったのか?今、注目を浴びる著者の連作警察小説。
木を見て森を見ず――。細部に注意しすぎ、肝心の全体を見失うことのたとえで、事件捜査において、最も避けなければならないことである。この小説に登場する刑事は皆、これを徹底し犯人を逮捕していく。だが、彼らは気づかなかった。その森が想像以上に大きく深いということに……。今、注目を浴びる著者の連作警察小説。


「闇一重」 「蛍蜘蛛」 「腐死蝶」 「罪時雨」 「死舞盃」 「独静加」

ひとつひとつは違う場所で起きた別々の事件であり、時系列に並んでいるわけでもない。だがそこに、不幸な生い立ちに絡め取られたひとりの女が別々の布を縫い合わせる針の目のように見え隠れしているのである。ひとつひとつの物語は殺人事件の捜査という形になっているが、全体を通して見るときそれは、静加の闇をたどる物語のようである。恐ろしい罪をいくつも犯した静加は非情な人間なのだろうか。否、そうではないだろう。幼い頃のあまりに不幸な体験が彼女を歪めてしまったのだ。静加もまた――というか静加こそがいちばんの――被害者だったのかもしれない。そんな気がする。残忍で冷酷で、とても寂しい一冊である。

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崩れる--結婚にまつわる八つの風景*貫井徳郎

  • 2011/05/02(月) 19:00:05

崩れる 結婚にまつわる八つの風景 (角川文庫)崩れる 結婚にまつわる八つの風景 (角川文庫)
(2011/03/25)
貫井 徳郎

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仕事もしない無責任な夫と身勝手な息子にストレスを抱えていた芳恵。ついに我慢の限界に達し、取った行動は…(「崩れる」)。30代独身を貫いていた翻訳家の聖美。ある日高校の同級生だった真砂子から結婚報告の電話があり、お祝いの食事会に招待されるが…(「憑かれる」)。家族崩壊、ストーカー、DV、公園デビューなど、現代の社会問題を「結婚」というテーマで描き出す、狂気と企みに満ちた8つの傑作ミステリ短編集。


表題作のほか、「怯える」 「憑かれる」 「追われる」 「壊れる」 「誘われる」 「腐れる」 「見られる」

結婚にまつわる物語なのだが、明るくもなくしあわわせいっぱいでもなく、薄い影が差していてどの話もじんわりと怖い。そして、出てくる女性がみな立体的なのでびっくりする。ページからふと目をあげると、斜め後ろに実際にいそうである。荻原浩氏も実はおばさんではないかと思わせるほど中年女性を描いて見事だが、著者は荻原氏とはテイストは違うが、若い女性を見事に描いていて唸らせられる。八つの物語はどれも絶妙に捻じれたりはぐらかされたり裏切られたりして、ラストまで目が離せない。贅沢な一冊である。

耳うらの星*東直子

  • 2011/05/01(日) 16:43:33

耳うらの星耳うらの星
(2011/02)
東 直子

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明日、世界が終わるときに食べたいもののことを考える。干しいちじくをかじりつつ、とろとろと世界が終わりになるなら、悪くない。心に沁みこむエッセイ。


短歌のこと、短歌にからめた日常のことが深く静かに語られている。時に足元が頼りなく思えたり、また時にここではないどこかへ身体ごと運ばれたようだったりもするが、ふと戻ってはこつこつと現実を生きているひとりの女性の姿が鮮やかに浮かび上がってくるような一冊である。憧れと親しみを等しく感じながらの読書タイムだった。