やなりいなり*畠中恵

  • 2011/08/30(火) 17:04:21

やなりいなりやなりいなり
(2011/07/29)
畠中 恵

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いつも大賑わいの長崎屋に、史上最高の千客万来!? 大人気「しゃばけ」シリーズ第十弾は、新キャラクターがてんこもり! 全話に「レシピ」も付いてます!


「こいしくて」・・・小豆粥(塩味、砂糖味) 「やなりいなり」・・・やなり稲荷 「からかみなり」・・・栄吉の煠出しいも 「長崎屋のたまご」・・・長崎屋特製、ゆでたまご 「あましょう」・・・お酒大好き妖の、味噌漬け豆腐

若だんな・一太郎や妖たちが食べているあれこれのレシピが冒頭で紹介され、物語の中にも実際に登場するので愉しいことこのうえない。鳴家たちと争って食べてみたくなる。
長崎屋の主・藤兵衛がなにも言わずに三日も帰ってこなかったり、通町に恋の病が流行ったり、親友を気遣うあまり喧嘩腰になったり、青い玉を追って鳴家が飛び回ったりと、今回もなにかと忙しい。そんななかで、相変わらず兄やたちに甘やかされ、はなれで臥せりがちな一太郎であるが、小さな引っ掛かりから見事ことの真相を解き明かすのである。外出もままならない若だんなが謎を解き明かせるのは、当事者たちのことを親身に思いやるやさしい心の為せる技だろう。おいしそうなものがたくさん出てきてよだれが止まらない一冊である。

鉄の骨*池井戸潤

  • 2011/08/29(月) 16:47:29

鉄の骨鉄の骨
(2009/10/08)
池井戸 潤

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談合。謎の日本的システムを問う感動大作!
建設現場から“花の談合課”へ。若きゼネコンマン富島平太は、会社倒産の危機に役立てるか。大物フィクサーとの出会いの真相は――この一番札だけは、譲れない。


官製談合の物語である。日々さまざまな場所で動いている建設現場の裏側では、ゼネコンや政治家の身勝手な思惑が蠢いている。実際に入札に関わる社員にはどうしようもない闇の力が厳然とあるのである。抵抗しようとしても空しくなるばかりだが、そんな流れに巻き込まれながら悶々とする者もいる。本作は勧善懲悪とは言えず、だれがほんとうの悪でだれが善かなどと決めることはできない。言えるのはだれひとりとして善ではないということだろう。一松建設の業務課(人呼んで談合課)に配属された平太と、大学の同級生で銀行に勤めた恋人の萌との関係を絡めながら、上手くいかないもどかしさを巧く描いている。もろ手を挙げて喜べない一冊である。

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空飛ぶタイヤ*池井戸潤

  • 2011/08/27(土) 16:53:54

空飛ぶタイヤ空飛ぶタイヤ
(2006/09/15)
池井戸 潤

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トレーラーの走行中に外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。タイヤが飛んだ原因は「整備不良」なのか、それとも…。自動車会社、銀行、警察、週刊誌記者、被害者の家族…事故に関わった人それぞれの思惑と苦悩。そして「容疑者」と目された運送会社の社長が、家族・仲間とともにたったひとつの事故の真相に迫る、果てなき試練と格闘の数か月。


物語の中では、空飛ぶタイヤなどというどこかメルヘンチックなタイトルからは想像できない壮絶な日々が繰り広げられていた。ホープグループ傘下の自動車会社・ホープ自動車製のトレーラーが事故を起こした。突然タイヤが外れ歩行者の母子を襲い、母は命を落としたのである。物語はここからはじまるのだが、実はこれはほんとうの意味のはじまりではなかったのだということが追々判ってくる。大手企業の傲慢さや保身にかける見当違いの熱意、弱小企業を客とも思わぬ不遜な態度、などなど、はらわたが煮えくり返る思いである。加害者にされた赤松運送の社長・赤松の心意気と社員たちの後押しがなかったら、ホープ自動車になんの制裁も加えられなかったのかと思うと、赤松社長を抱きしめたくすらなる。だが、逮捕された幹部たちも反省しているようには見えず、結局会社の体質は変わっていないように見えるのが腹立たしい。翻って、ラストの朗報は赤松運送の行く手を暗示しているようで嬉しい限りである。面白すぎる一冊である。

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偉大なる、しゅららぼん*万城目学

  • 2011/08/25(木) 16:42:28

偉大なる、しゅららぼん偉大なる、しゅららぼん
(2011/04/26)
万城目 学

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琵琶湖畔の街・石走に住み続ける日出家と棗家には、代々受け継がれてきた「力」があった。高校に入学した日出涼介、日出淡十郎、棗広海が偶然同じクラスになった時、力で力を洗う戦いの幕が上がった!


「しゅららぼん」とは一体何か。気になるのはまずそこである。ただ万城目作品なので、理論的な説明はないだろうと思いつつ読みはじめる。前提として日出家と棗家が代々受け継いできた力があるという設定があり、冒頭から完全に万城目ワールドである。それ以外は――ほとんどそれなのだが――、恋心あり、部活あり、中間試験あり、友情ありの普通の学園青春物語であるとも言える。あり得ない凄まじさでありながら、なんとなく爽やかで懐かしい心地になるのはわたしだけだろうか。ともかくほかにない一冊である。

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刑事さん、さようなら*樋口有介

  • 2011/08/22(月) 17:04:57

刑事さん、さようなら刑事さん、さようなら
(2011/02/24)
樋口 有介

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――この手が汚れても、かまわないと思った。―― 首を吊った警官、河原で殺された風俗ライター。 二人をつなぐ“女A”を追い続ける警部補が行き着いたのは、 寂れた歓楽街の焼き肉屋だった。 「善人の罪科」と「悪人の正義」が交錯する、美しくも哀しき愛の物語。 警察組織の歪みに迫る最新書き下ろしミステリー


警察組織の歪みに迫る、と紹介文にはあるが、それほどのものではないのではないかと思いながら読んでいた。馴れ合いと隠蔽体質と裏金の問題を並べて見せただけのように思えたのだ。だが、ラスト近くで事件の根っこにあるものが次々に判ってくると、そんな印象は一気に消し飛んだ。警察官の自殺、殺された風俗ライター、焼肉点竹林(トリム)、風俗嬢たち。まさに瞬く間に思ってもみなかったつながり方をするのである。タイトルの意味もここにきて腑に落ちる。やるせなさ過ぎる。いぶし銀のような一冊である。

乱心タウン*山田宗樹

  • 2011/08/21(日) 14:28:20

乱心タウン乱心タウン
(2010/03)
山田 宗樹

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超高級住宅街の警備員・紀ノ川康樹、26歳。薄給にもめげず、最上級のセキュリティのために、ゲートの監視と防犯カメラのチェック、1時間に1回の敷地内パトロールを行う。住人たちは、資産はあるだろうが、クセもある人ばかり。だが、康樹は今の仕事に誇りを持っている。ある日、パトロール中に発見した死体を契機に、康樹は住人たちの欲望と妄想に巻き込まれていく―。


複雑な読後である。空想物語と笑って愉しむには人間の自我の醜さがリアルすぎる。それになにより初めから不気味に隠密裏に進められている陰謀の内容が、2011年の現在では冗談では済まされない現実味を帯びてしまっているからでもある。(本作が出版されたのは2010年3月である。)著者も驚いていることだろう。某知事の震災後の天罰発言を思い出させられもして――著者の意図するところではまったくないだろうが――、なんとも言えない重い気持ちにさせられるのである。ただ、大多数の一般庶民にしてみれば、胸のすく展開であることも間違いいない。ガードマンの康樹に肩入れしながら、庶民の心意気を満足させるのである。本作では超高級住宅街・マナトキオは3mの壁に囲まれているのでわかりやすいが、物理的な壁がないところでも実際にありそうなことである。壁が目に見えないだけかえって始末が悪いかもしれない。康樹と景子のこれからだけが唯一の救いである。刊行直後に読めば感想も違ったと思うが、現在だからこそ読後どんよりとしてしまう一冊。

純愛モラトリアム*椰月美智子

  • 2011/08/19(金) 18:13:36

純愛モラトリアム純愛モラトリアム
(2011/03/15)
椰月美智子

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恋人の娘を誘拐する男、ストーカーに恋する女、 いつも禁断の恋を妄想する教師…… ちょっと度が過ぎているけれど、本人たちは大真面目。 “恋”することはできるけれど、“愛”にはまだ早すぎる!? 不器用な人たちの可笑しくも切ないラブストーリー


「西小原さんの誘拐計画」 「やさしい太陽」 「オケタニくんの不覚」 「スーパーマリオ」 「妄想ソラニン」 「1Fヒナドル」 「アマリリス洋子」 「菊ちゃんの涙」

登場人物でつながる連作短篇集である。そしてもうひとつ共通しているのは、どの物語の主人公も恋愛においては不器用だということである。ときにいきすぎや理解不能な行動やひとりよがりがあるのも、ひとえに不器用ながら真剣に恋する故なのである。愛すべき人物たちである(ちょっと怖くもあるが)。満たされたいのに満たされず、思わぬ方向へ進んでしまうもどかしさに悶々とする恋する者たちがとてもリアルに描かれていて感心する一冊である。

下町ロケット*池井戸潤

  • 2011/08/19(金) 07:03:26

下町ロケット下町ロケット
(2010/11/24)
池井戸 潤

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「その特許がなければロケットは飛ばない――。
大田区の町工場が取得した最先端特許をめぐる、中小企業vs大企業の熱い戦い!
かつて研究者としてロケット開発に携わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任を取って研究者の道を辞し、いまは親の跡を継いで従業員200人の小さな会社、佃製作所を経営していた。
下請けいじめ、資金繰り難――。
ご多分に洩れず中小企業の悲哀を味わいつつも、日々奮闘している佃のもとに、ある日一通の訴状が届く。
相手は、容赦無い法廷戦略を駆使し、ライバル企業を叩き潰すことで知られるナカシマ工業だ。
否応なく法廷闘争に巻き込まれる佃製作所は、社会的信用を失い、会社存亡に危機に立たされる。
そんな中、佃製作所が取得した特許技術が、日本を代表する大企業、帝国重工に大きな衝撃を与えていた――。
会社は小さくても技術は負けない――。
モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの矜恃と卑劣な企業戦略の息詰まるガチンコ勝負。
さらに日本を代表する大企業との特許技術(知財)を巡る駆け引きの中で、佃が見出したものは――?
夢と現実。社員と家族。かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いがここにある。」


ぐいぐいと惹き込まれた読書タイムだった。喜ばせては突き放し、持ち上げては落とし、踏んだり蹴ったりの目に遭いながら、弱小町工場はどんどん打たれ強くなっていくように見える。一時は社員たちの日ごろの鬱憤が噴き出して、ばらばらになりかけるも、「佃プライド」が再び彼らを結びつける様はぞくぞくするほど興奮させられる。佃社長、しっかり!佃製作所、プライドを守り抜け!と思わず応援したくなる。まことに日本人的なカタルシスを得られる一冊である。

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円卓*西加奈子

  • 2011/08/17(水) 16:47:45

円卓円卓
(2011/03/05)
西 加奈子

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世間の“当然”に立ち止まり、悩み考え成長する物語。うるさいぼけ。なにがおもろいねん。平凡やしあわせに反発する琴子、小学3年生。好きな言葉は、「孤独」。


小学三年の琴子は、3LDKの公団に祖父母・両親・14歳の三つ子の姉と八人で暮らしている。茶の間には、中華料理屋からもらい受けた大きく深紅の円卓がでんと幅をきかせ、一家はぎゅうぎゅう詰めで食事をするのである。琴子は孤独にあこがれた。
同級生の眼帯や吃音や国籍の違いや境遇の違いに憧れを抱き、頭のなかにはいつも文字が渦巻いている。そして幼馴染のぽっさんは人とは少しばかり変わっている琴子のことをだれよりもよく解っていてくれるのだった。登場人物がみな個性的なのは、琴子の目を通して見るからだろうか。ひとりひとりがその人としてしか生きられないように生きているように見えて、はっとさせられる。大人の世界では生きにくそうである琴子も、家族やぽっさんというかけがえのない存在に守られているようである。ごつごつとあちこちにぶつかって痛く、だがあたたかく安心な心地になれる一冊である。

貴族探偵*麻耶雄嵩

  • 2011/08/16(火) 17:08:48

貴族探偵貴族探偵
(2010/05/26)
麻耶 雄嵩

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本格愛好家へ贈る、ディテクティブ・ミステリーの傑作!!

自らは推理をしない「貴族」探偵、登場。

推理などという〈雑事〉はすべて、使用人任せ…。
「趣味」探偵の謎の青年が、生真面目な執事や可愛いメイド、巨漢の運転手などを使い、難事件を解決する。
知的スリルに満ちた本格ミステリー!

麻耶雄嵩5年ぶりの最新刊。

――著者コメント――
『貴族探偵』は一作目から足かけ十年を要して完成した短編集です。
十年の間に本格ミステリーに対する作者の考えや嗜好もいくらか変わり、結果的に様々な傾向を持った作品集になりました。
そんな変わった部分、逆に何も変わっていない部分を楽しんでいただけたらと思います。


さるやんごとないお家柄の青年が趣味で探偵をし、自らを「貴族探偵」と名乗って箔押しの名詞まで持っており、自らは麗しい女性の相手をするばかりで推理はすべて使用人任せ、という設定だけ見るとコメディのようであるが、実際は本格ミステリなのである。そして使用人たちの推理の腕前は見事なもので、充分愉しめる。この貴族探偵のキャラクターが鼻につかないのは、やはり育ちのよさということなのだろうか。ときどき現実的に鋭いことをつぶやいたりもするのが魅力的でもあるのだ。いささか煙に巻かれたような気分にならないでもないが、愉しい趣向の一冊である。

パパは今日、運動会*山本幸久

  • 2011/08/14(日) 06:50:35

パパは今日、運動会パパは今日、運動会
(2011/07/09)
山本 幸久

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嘘っぽく晴れ渡った青空の下、来年五十周年を迎えるカキツバタ文具の史上初の社内運動会が開かれた。ごますり男も泣き虫も、不倫男もアイドルも、強面もお調子者も、みんないつもとちょっと違う。いや、ちょっとどころか、え?こんな人だった?いろんな笑いがぎっしり詰まった会社小説の真骨頂。


運動会のプログラムがそのまま目次になっているのも面白い。しかも時間入りなので、一日の流れがよくわかる。
キャラクターがとても巧く描かれていて、読みはじめたとたんに頭のなかに映像として展開されるので、面白さ倍増である。普段の仕事中には大人として巧みにお腹のなかに仕舞い込まれているあれこれが、運動会という特別な場で空々しい青空の下に曝されて思わぬ化学変化を起こすようでもある。上司と部下、同僚、オフィスラブ、家族、親子。一社員としてだけでなく、彼らに付随するさまざまなしがらみが入り乱れこんがらがって子どもだましのような競技で競い合っているようでもある。本人たちの必死さを眺める読者にとってこれほど愉しいことはない。笑いと涙の一冊である。

感染遊戯*誉田哲也

  • 2011/08/13(土) 13:24:50

感染遊戯感染遊戯
(2011/03/19)
誉田哲也

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捜査一課殺人犯捜査係のガンテツこと勝俣健作が手がけた、製薬会社サラリーマンの殺人事件。息子の起こした殺人事件によって刑事の職を追われる直前、倉田修二がかかわることになった、二人の男女を襲った路上殺傷事件。姫川玲子班解体直前、殺人犯捜査第十係に所属していた葉山則之が担当した、世田谷の老人同士の小競り合い。事件の規模も様相もさまざまだが、共通している点が、ひとつあった。それは、被害者の個人情報を、犯人は何らかの手段で手に入れているらしきこと。事件の背後には何があるのか!?―。


場所も時期も手口もまったく別の事件の数々。関係性など微塵も問題にされずに別々に処理されていたかもしれないそれらの共通項の端緒を見つけてしまったら、もう後へは引けない。ガンテツこと勝俣の独走が、倉田や葉山を巻き込んで真相に迫る。それぞれの殺人事件の犯人は紛れもなく実行犯として裁かれねばならないが、では辻内はどうなのだろう。未必の故意にはどんな罪がふさわしいのだろう、と考え込んでしまう一冊だった。殺意の元をたどった先で明らかになった真実は目を覆いたくなるものばかりで、心情的には犯人たちに肩入れしたくなってしまうのも事実である。権力の横暴と、やり場のない怒りと哀しみ、そして熾火のようにくすぶりつづける怨念の凄まじさに圧倒されるのである。
勝俣と姫川。相変わらず互いを天敵のように思っているようだが、そこに愛を感じてしまうのはわたしだけだろうか。

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輝跡*柴田よしき

  • 2011/08/10(水) 06:59:57

輝跡 (100周年書き下ろし)輝跡 (100周年書き下ろし)
(2010/09/29)
柴田 よしき

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野球の才能に恵まれ、中学生で「怪物」と呼ばれた北澤宏太。家庭の事情で一度はあきらめた夢を追い、プロ野球選手になった彼を取り巻く女たち。故郷の元恋人、妻となった女子アナ、ファン、愛人…。女性の視点からプロ野球を描く切なさあふれる物語。


プロ野球好きで知られている著者ならではの切り口である。ひとりの野球選手を、彼の周りの女性たちを描くことで浮かび上がらせている。ただ、核となる野球選手・北澤宏太のことがわたしには最後までよく判らなかった。生真面目で不器用で朴訥、実力はあるのにもうひとつ運に恵まれなかった、だが最後まで野球はあきらめない男。自分の頭の中にあるそんな人物像に当てはめようとすると微妙に裏切られるのである。それでこそ生身の人間、と言えるのかもしれないが。そして彼に関わる女性たちの人生もまさにそれぞれで、生々しい現実感にあふれていて興味深い。彼女たちにもそれぞれの価値観があり、北澤というひとりの男とまったく違う関わり方をしているのである。人生なにが起こるかわからない、と痛切に思わされる。すっきりはしないが、現実を教えられたような一冊である。

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みなも*石田千

  • 2011/08/08(月) 16:38:36

みなもみなも
(2011/07/01)
石田 千

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ついえてゆく愛、さざなみたつ心―。とめどなく寄せては返す想いに目をこらし、愛の蜜から毒までをあまさず舐めつくしたうつろいの日々の物語。


投げ入れれば大きな、小さな波が立ち、水底の泥をかき回して濁らせる。見る、聴く、触れる、身を取り巻くありとあらゆることが心の内側へと向かっていく。そんな一冊である。実らない、苦しい人の想いが静かでありながら狂おしく書き切られていて身悶えする心地で読んだ。投げ入れたものが静まれば、水面は光を映す。

こめぐら―倉知淳作品集―*倉知淳

  • 2011/08/07(日) 13:47:12

こめぐら (倉知淳作品集)こめぐら (倉知淳作品集)
(2010/09/29)
倉知 淳

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密やかなオフ会で発生した謎。男たちが真剣に探し求めるのは、とんでもないものの鍵だった!?キツネさん殺害事件の容疑者は当然ながら(?)どうぶつばかり。“非本格推理童話”の結末は?1994年の本格的作家デビュー以来、コミカルで上質なミステリの執筆に取り組んでいる著者が、16年のあいだに発表したノンシリーズ作品を集成。ボーナス・トラックとして、猫丸先輩探偵譚を一編収録。


「Aカップの男たち」 「「真犯人を探せ(仮題)」」 「さむらい探偵血風録 風雲立志編」 「偏在」 「どうぶつの森殺人(獣?)じけん」 「毒と饗宴の殺人」

最後の最後に猫丸先輩登場である。思わず、「猫丸先輩!」と声を出してしまった。家でよかった。表紙を見た時点で気づくべきだったと読後表紙を見返して思ったのだった。どの作品も一風変わった捻りがあって好きだが、やはり猫丸先輩が出てくるとわくわくする。改めて猫丸先輩への愛を確認した一冊である。

私のミトンさん*東直子

  • 2011/08/06(土) 07:02:52

私のミトンさん私のミトンさん
(2011/07/12)
東 直子

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身長50センチのミトンさんは、アカネの秘密の同居人。わがままで謎の深いミトンさんと、そこに集うどこまでも優しく独創的な人々を描いたほの甘い長編小説。


ミトンさんありきの物語である。アカネが引っ越した先――ミキヒコ叔父さんの家――の床下に、ミトンさんはいたのである。ひと目見た時からわたしの頭のなかではミトンさんはムーミンのミイである。赤い服といい、その小ささといい。果物好きでわがままで、害を為すわけではないがいいことを運んできてくれるわけでもない。恋人は浮気をして離れていくし、間違って電話してしまった友人のベイビーちゃんは眠ったままだし、ミキヒコ叔父さんとはなかなか電話がつながらない。それでもミトンさんがいるからこその巡り合わせのような毎日のなかで、アカネはだんだんミトンさんに心を移していくのだった。あちこちに散らばっている点と点と点と点を――ときにあっちへこっちへ飛んでいくようでありながら――ひと針ひと針縫い進め、気づいてみたらいびつながらも「〇」になっていた、としみじみ思う読後である。ミトンさんのようなものはだれの心のなかにでもいるのではないかと思える一冊。

ラプソディ・イン・ラブ*小路幸也

  • 2011/08/05(金) 11:14:54

ラプソディ・イン・ラブラプソディ・イン・ラブ
(2010/10/21)
小路 幸也

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ろくでなしでも、世間は名優と呼んでくれる。役者とはそういう職業だ。山と海に囲まれた、とある町の古い日本家屋。かつてそこは、日本の映画界を支えてきた笠松市朗が、愛する家族と過ごした家だった。笠松の息子、俳優・園田準一、笠松の前妻であり女優だった園田睦子、そして人気俳優で、笠松の二番目の妻との間に生まれた岡本裕。岡本の恋人である、人気女優の二品真里。バラバラになっていた彼ら五人が笠松の家に集まった。彼らの葛藤と思いが交錯するドラマの幕がいま開く。みな役者という彼らが、ひとつ屋根の下展開していくドラマ。「ラプソディ・イン・ラブ」――監督、紺田がつけたタイトルだ。彼らの言葉は、台詞か、真実か……。「東京バンドワゴン」シリーズの著者が描く家族の肖像。


映画なのである。物語を通していつもカメラが回っているわけではないが、久しぶりに集まった家族――のようなもの――の普段の暮らしをそのまま撮っているのである。それでもこれは単なる記録映画ではない。そんな味気ないものではないのである。監督から唯一要求された「それぞれが爆弾を持つこと――投下するかしないかは別として」という課題を抱え、それぞれが家族の中での自分の役割を果たすべく演技をしているのである。どれほど自然に見えたとしても、カメラが回っている限りそれは演技なのだ。なぜなら彼らは俳優だから。そして、演技だからこそ滲み出てくる本音も本質もそこにはあって、家族――のようなもの――でありながらだんだんと家族になっていく様子がカメラに収められていくのである。俳優でもなんでもない普通の家族も実は同じように作られていくのではないかと、ふと思わされる。意識するしないに関わらず家族のなかの自分の立場という演技をするうちに自ずと家族になっていくのではないだろうか。不思議な設定だが、心温まるひとときを過ごせる一冊である。

トッカンVS勤労商工会*高殿円

  • 2011/08/04(木) 13:13:41

トッカンvs勤労商工会トッカンvs勤労商工会
(2011/05/20)
高殿 円

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7月の人事異動を経て、新メンバーも加わった京橋中央税務署を揺るがす大事件が発生した。あの、悪質な滞納者から隠し財産を差し押さえまくり、顔がハスキー犬のように怖くて、“京橋中央署の死に神”と恐れられる、特別国税徴収官(略してトッカン)――鏡が、担当の滞納者を恫喝して自殺に追い込んだとして、遺族に訴えられるかもしれないのだ。しかも原告の背後には、税務署の天敵・勤労商工会がついているという。勤商の弁護士・吹雪敦は、正義の名のもと、ぐー子たちをあからさまに挑発。鬼上司のピンチにぐー子(トッカン付き徴収官)は真相究明に立ち上がる。しかし当の鏡は何もするなといつになく消極的。ぐー子自身も計画倒産に関する別の案件でにわかに忙しくなり、八方ふさがりのところへ、思わぬ助っ人――鏡の過去を知る人物が現われた……! 面白くって、ためになって(ぐー子の活躍と税金情報当社比1.5倍盛り)、明日への希望と感動が熱く胸に広がる、大好評の職業エンターテインメント『トッカン―特別国税徴収官―』続篇。


シリーズ二作目である。もうすっかり惹きつけられている。ぐー子こと涼宮深樹は、ひとり立ちできない自己嫌悪に苛まれながらも鏡特官の出張中に何とかかんとかひとりで業務をこなし、急に振られた事案に辛うじて欠損を出すことなく切り抜けるまでに成長している。そして、一作目に比べて「ぐ」と言葉を詰まらせる回数が格段に減っているのも見どころである。鏡の旧友たちの登場によって、少しずつ彼の素顔も弱点も露になりつつあり、ますます目が離せない。ラスト近くで鏡の元妻らしき女性もちらりと登場することから、次があることは確実だろう。長くつづいて欲しいシリーズである。

天頂より少し下って*川上弘美

  • 2011/08/02(火) 16:51:44

天頂より少し下って天頂より少し下って
(2011/05/23)
川上 弘美

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奇妙な味とやわらかな幸福感の恋愛小説集

<収録作品>
☆「一実ちゃんのこと」一実ちゃんは、「私、クローンだから」と言う。父がクローン研究に携わっていて、19年前亡くなった母を「母株」にして一実ちゃんは誕生したらしい。
☆「ユモレスク」17歳のハナのイイダアユムに対するコイゴコロは見事に破れた。「私、玉砕?」。
☆「エイコちゃんのしっぽ」「しっぽがあるんだ」とエイコちゃんは言った。エイコちゃんは女だけのガソリンスタンド、あたしは市場調査の会社で働いている。
☆「壁を登る」母はときどき「妙なもの」を連れてくる。最初はおばさんとその息子。次におじいさん。三番目に五朗が来た。「何者?」と聞いたら「わたしの弟」と母は言う。
☆「金と銀」治樹さんは泣き虫でのんびりしていた。彼とばったり出くわしたのは大学生のときだ。治樹さんは絵描きになっていた。
☆「夜のドライブ」40歳のわたしは、ある日、母を誘って車で温泉に出かけた。旅館に泊り、真夜中、母がわたしを呼んだ。「ねえ、夜のドライブに行きたいの」。
☆「天頂より少し下って」45歳の今まで、真琴は何人かの男と恋をした。今つきあっている10歳年下の涼は柔らかげな子だ。涼は真琴のことを「猛々しい」と言う。


著者の書く恋愛小説は、どうしてこうも一筋縄ではいかないのだろう。別の誰かが書けばよくある恋愛物語になるかもしれない心の動きを、ごく普通の日常を背景に微妙にずれた役者たちが見事に溶け込んで描かれているような印象である。なんの違和感もなく、怪訝な顔でも見せれば、どこかに問題でも?、とかえって問われそうな心地になる。ゆるくゆるくなんとなく幸福な一冊である。

よなかの散歩*角田光代

  • 2011/08/01(月) 16:46:13

よなかの散歩 (ORANGE PAGE BOOKS)よなかの散歩 (ORANGE PAGE BOOKS)
(2011/03/25)
角田 光代

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雑誌『オレンジページ』で連載中の人気エッセイが、待望の単行本化!
大好きな食べ物や料理の話、新しい家族への愛、旅行への熱い思い……などなど。
日々のことを、やわらかで、軽やかな視点で見つめたエッセイ集。


 食(一) 運命の出会いというものは、たしかにあると思う。
 人 人は否応なく変化する
 暮 年相応の格好が、できない
 食(二) つまるところ愛なんじゃないかと思う
 季 私は自分の誕生日が好きである
 旅 感情というより、もっと細胞的に好きなのだ

オレンジページの料理本をいまでも何冊も大切に使っているという著者にぴったりのエッセイである。食べもの以外の章も、結局はすべて食べものがらみのあれこれで埋め尽くされている。料理が好きで、食べることが大好きなことがじゅわじゅわと伝わってきて思わずよだれが垂れそうになること再三である。読み終えるとお腹がすいている一冊である。