オレたち花のバブル組*池井戸潤

  • 2011/09/28(水) 20:12:09

オレたち花のバブル組オレたち花のバブル組
(2008/06/13)
池井戸 潤

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東京中央銀行営業第二部次長の半沢は、巨額損失を出した老舗のホテルの再建を押し付けられる。おまけに、近々、金融庁検査が入るという噂が。金融庁には、史上最強の“ボスキャラ”が、手ぐすねひいて待ち構えている。一方、出向先で、執拗ないびりにあう近藤。また、精神のバランスを崩してしまうのか……。空前絶後の貧乏くじをひいた男たち。そのはずれくじを当りに変えるのは自分次第。絶対に負けられない男たちの闘いの結末は?!

前作の「オレたちバブル入行組」から、責任もピンチもパワーアップして帰ってきました。連載時とは結末もキャラクターもがらりと変わり、ほろ苦さも加わったバブル組をお楽しみください。

すべての働く人にエールをおくる等身大サラリーマン小説


前作につづき、半沢節炸裂である。佳境に入った時の言葉遣いが相変わらず好きにはなれないのだが、それが半沢のキャラクターなのだと思い切ることにする。バブル入行組の同期たちの力も借り、銀行にとっての厄介の種であり、被害者のようでもある伊勢島ホテルの社長に意気を買われ、金融庁のオネエ言葉の担当者には徹底的に嫌われる。だが半沢は、苦境に立たされるほどに銀行員魂が燃え上がるようであり、次はどんな証拠を見つけ出してどんな風に追い詰めるのかと、はらはらどきどきしながら見守るのである。味方につけると頼もしいが、敵に回すと途方もなく厄介な人物ということだろう。半沢の妻の花さんの金融庁に対する啖呵もなかなかのもので、拍手したくなった。それぞれの道を歩んでいるバブル入行組だが、これからどうなっていくのだろう、と興味が尽きない。さらにつづきを読みたくなる一冊である。

葉桜*橋本紡

  • 2011/09/25(日) 21:40:16

葉桜葉桜
(2011/08/26)
橋本 紡

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高校生の佳奈は、書道教室の継野先生へ思いを寄せてきた。けれど、先生には由季子さんという奥さんがいて…。美人で天才、自由奔放な妹の紗英が背負っている、命の不安。他の教室からやってきた津田君の、真摯に書道に打ち込む姿。周囲の思いに背中を押されるように、佳奈のなかで何かが大きく変わろうとしていた―。春から夏へ、少女から大人へ。まぶしく切ない青春恋愛小説。


精神集中が必要とされる書道というものを介することによって、櫻井佳奈の恋心は心をこめて墨をするのに似た趣を帯びているように思える。静かに見えて、その実内側に熱いものを秘めているようである。あまりにも長い恋心を胸に抱えながらも、櫻井家に言い伝えられる哀しい運命に翻弄される妹の紗英のことも日々気にかかる。そして、書道塾の継野先生と知り合いの書家の関係や、その弟子で、継野先生の教室に特別に習いにきた津田君のことも気になる佳奈なのだった。さまざまな想いを自分の胸に問いただし、あるべき場所に収めるために書道の一連の所作がとても象徴的な一冊である。

モップの精と二匹のアルマジロ*近藤史恵

  • 2011/09/25(日) 08:59:45

モップの精と二匹のアルマジロ (ジョイ・ノベルス)モップの精と二匹のアルマジロ (ジョイ・ノベルス)
(2011/02/18)
近藤 史恵

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大人気本格ミステリー、「女性清掃人探偵キリコ」シリーズ第4弾!
ポップなファッションで清掃作業員として働くキリコが、今回も鮮やかに事件を解決、となるか――
事の始まりは、キリコがたまたま、夫・大介が通うオフィスビルの清掃を受け持ったことだった。
ある日キリコは、見知らぬ女性から「夫の浮気を調査してほしい」と頼まれる。
ところが思いがけない事件が発生して――。地味な妻と目が覚めるほど美形の夫、どこか不釣り合いな
夫婦に秘められた謎に、キリコ&大介の名コンビが迫る、心があたたまる本格ミステリー。


シリーズ初の長編であり、キリコと大介が協力して真実に迫るという趣向になっている。物語は根が深く苦しみや哀しみにあふれているのだが、出会って間がない依頼者(?)・真琴や夫の友也のことを親身に考えてあれこれ手を尽くすキリコと大介の姿が重く苦しい気持ちを和らげてもくれる。キリコと大介、真琴と友也、どちらにとっても後味のいい事件ではなかったが、中身は違っても絆はそれぞれ深まったのだと思えば、ハッピーエンドと言えるのかもしれない。キリコと大介をますます好きにさせてくれる一冊である。

闇の喇叭*有栖川有栖

  • 2011/09/24(土) 17:17:58

闇の喇叭 (ミステリーYA!)闇の喇叭 (ミステリーYA!)
(2010/06/21)
有栖川 有栖

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平世21年の日本。第二次世界大戦後、ソ連の支配下におかれた北海道は日本から独立。北のスパイが日本で暗躍しているのは周知の事実だ。敵は外だけとはかぎらない。地方の独立を叫ぶ組織や、徴兵忌避をする者もいる。政府は国内外に監視の目を光らせ、警察は犯罪検挙率100%を目標に掲げる。探偵行為は禁じられ、探偵狩りも激しさを増した。そんな中、謎めいた殺人事件が起きる。すべてを禁じられ、存在意義を否定された探偵に、何ができるのか。何をすべきなのか?


冒頭、戦争の話で、ちょっと苦手だなぁと思ったが、それは前振りだけでそれにつづく物語は一応平和な世界の物語である。だが、戦争中から現実とは少しずつずれて、わたしたちが過ごしている日本とは少しずつ道を別っていったのだった。領土のこと然り、法律のこと然り、言葉遣いのこと然り、である。こちらの世界のわたしたちから見るとなんとも不自由なことである。そんななかでも高校生たちは恋をし、未来の夢を語らうのである。物語の世界では私立探偵は罪であり、その探偵を父に持つ「ソラ」こと空閑(そらしず)純が主人公である。大阪から逃げるようにしてやってきた奥多岐野で、殺人事件が起き、友人の母親が疑われたのをきっかけにソラは事件の謎を解こうとし始めた。両親譲りの推理力で真相に肉薄するのだが、中央警察の刑事に監視されていることにはまったく気づかなかったのだった。謎解きも興味深いが、青春物語としても愉しめる。だが、この結末はあまりにも切な過ぎる。有栖川さん、YAなのにこの結末ですか、と泣きつきたい一冊でもある。

花の鎖*湊かなえ

  • 2011/09/21(水) 19:34:32

花の鎖花の鎖
(2011/03/08)
湊 かなえ

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毎年届く謎の花束。差出人のイニシャルは「K」。女たちが紡ぐ感動のミステリ。


英語教室の元講師・梨花、なかなか子どもに恵まれないが夫婦ふたり仲良く暮らす深雪、アカシア商店街の人気者で絵画教室の講師の紗月。地方の町に暮らす三人の女性を軸に、きんつばが名物の和菓子屋・梅光堂や山本生花店、そしてさまざまな花を鎖のように繋いで物語りは進んでいく。半ば過ぎまではなんの疑念もなく平面として物語を愉しみ、どんな風にひとつになっていくのだろうと思っていたが、ふとした表現からそれまでの思い込みが覆され、物語が急に陰影を持った立体として浮かび上がってきたのだった。そこから先は、ひたすら真実を知りたくてページを捲った。哀しくやるせないけれど、強く揺るがない愛を湛えた一冊でもある。

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虹色と幸運*柴崎友香

  • 2011/09/19(月) 16:41:42

虹色と幸運虹色と幸運
(2011/07/09)
柴崎 友香

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どうするかなー、今後の人生。そろそろなにか決めなきゃいけないかも。そんな年頃の同級生3人。明日に向かって一歩ずつ。三人三様の一年間。


大学の学務課に勤める本田かおり、大学の同級生でイラストを描いている水島珠子、かおりの高校の同級生で雑貨屋を始め、三児の母でもある春日井夏美。家庭環境も育った境遇も、現在の立場も暮らしもまったくと言っていいほど違っている三人の三月から翌年の二月までの物語である。待ち合わせて会ったときのそれぞれの印象や服装の描写、何気ない場面で交わされる何気ない会話、誰かが言ったことに対する感じ方などなど。とりとめなく並べられているようで、そのひとつひとつが重なり合い積み重なってそのときどきの輪郭が浮き上がってくる。着ている服の手触りやそのときの空気の匂いまで感じられるようなこまやかさである。著者の得意とするところだろう。三人三様の生き様とその距離感が好ましい一冊である。

月は怒らない*垣根涼介

  • 2011/09/17(土) 16:41:56

月は怒らない月は怒らない
(2011/06/03)
垣根 涼介

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梶原33歳●仕事は多重債務者の借財の整理。謄本の代理人申請のために訪れた市役所の戸籍係の女を一目見た瞬間、声を失った。弘樹20歳●バーで女がチンピラに絡まれて目の前で転んだ。助け起こした瞬間、女の顔に釘付けになった。和田34歳●勤務先の交番の前の市役所に自転車で通う女。既婚者のくせに俺はいつもその女を探している――。化粧もしない。服も地味。美人でもないその女・恭子に3人の男たちは、どうしようもなく魅かれていく。一方恭子は男たちの求愛を受け、3人と付き合い始める。接点のない3人だが、それぞれに思う、恭子は不思議な女だ。決してモノを欲しがらない。故郷や家族のことは話さない。会っている時間以外のことは未知。でも魅かれる。理由は何だ、いったいこの女の過去には何があるのか……。3人の男たちの視点を通して、恭子というなぞの女の正体が焙り出されていく。人と人との繋がりの意味を問う著者渾身の挑戦作


三谷恭子という女のことがとにかくよくわからなくて、次のページでは何かわかるかも、という思いで読み進む。彼女のスタンスや価値観、人との関わりのありようがどうにも胸にすとんと落ちないのである。彼女と関わる三人の男たちもおそらく大なり小なりそうだったのではないだろうか。彼らの目を通して描かれる恭子像からは、親しくなっても決して侵すことのできない他人との距離感が感じとれる。井の頭公園のベンチで日曜日ごとに顔を合わせる記憶障害の老人は、そんな恭子の屈託を結果的に解きほぐしてくれたのだろう。恭子の選択と選ばれた者・捨てられた者の反応も興味深い。底知れない深い傷と踏み込み過ぎない深い愛を感じられる一冊である。

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夏草のフーガ*ほしおさなえ

  • 2011/09/15(木) 17:19:32

夏草のフーガ夏草のフーガ
(2011/07/07)
ほしおさなえ

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母親とふたりで暮らす夏草は、祖母と同じ私立中学に通うことが憧れだった。願いはかない合格したものの、喜んでくれるはずの祖母は突然倒れ、目を覚ますと、自分を中学一年生だと言い張るようになる。一方、クラス内の事件をきっかけに学校を休みがちになった夏草は、中学生になりきった祖母と過ごす時間が増え、ふと、祖母が以前、口にした「わたしは罪をおかした」という言葉を思い出す。いつもやさしかった祖母の罪とはなんだったのか…?互いのなかに見知らぬ闇を見たあと、家族は再び信じ合えるのか?注目作家の書き下ろし感動長編ミステリー。


おばあちゃんとお母さんと中学一年の女の子・夏草。三世代のつながりが時間軸を超えてあたたかく新鮮である。おばあちゃんもお母さんも、そして夏草にとっても、中学一年は特別な時だったのだ。おばあちゃんの心が中学一年に戻ってしまい、夏草も母もいままで見えなかったことについてさまざま考えるようになる。大切な人のことを知りたいという切実な思いが、ヒンメリというライ麦の麦わらで作るフィンランドの手仕事をおばあちゃんがはじめたきっかけに辿りつかせたのだった。信仰や愛、おもいやり、家族、さまざまなことを想わされる。切なく苦しく、思いやりに満ちてあたたかい一冊である。

放浪探偵と七つの殺人 増補版*歌野晶午

  • 2011/09/14(水) 11:10:20

増補版 放浪探偵と七つの殺人 (講談社文庫)増補版 放浪探偵と七つの殺人 (講談社文庫)
(2011/05/13)
歌野 晶午

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なぜ死体は動いたのか?殺人者が犯した、たった一つの過ちとは?「家シリーズ」の名探偵
信濃譲二が奇想天外な難事件の謎を見事な推理で解決する七つの短編に、幻の未収録作品「マルムシ」を加えた試みと驚きに満ちた傑作ミステリー八編。


いつも違う職業、違う身分で事件関係者の近くにいる、まさに神出鬼没の信濃譲二である。黄色いタンクトップにビーチサンダルという格好でどこにでもいつの季節にも現れるのも彼らしい(のか?)。本質というか実体がなかなかつかめない信濃譲二であるが、その観察眼と着目、そして想像力と推理力は折り紙付である。それぞれまったく異なる趣の殺人事件だが、信濃譲二の手にかかればなにほどのこともない、ように見える。あとがきに書かれているようにある理由によりいままで発表されなかった「マルムシ」もあれこれ動機を想いながら読んだ。中身の詰まった一冊である。

ポリティコン 上下*桐野夏生

  • 2011/09/12(月) 06:59:19

ポリティコン 上ポリティコン 上
(2011/02/15)
桐野 夏生

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大正時代、東北の寒村に芸術家たちが創ったユートピア「唯腕村」。1997年3月、村の後継者・東一はこの村で美少女マヤと出会った。父親は失踪、母親は中国で行方不明になったマヤは、母親の恋人だった北田という謎の人物の「娘」として、外国人妻とともにこの村に流れ着いたのだった。自らの王国「唯腕村」に囚われた男と、家族もなく国と国の狭間からこぼれ落ちた女は、愛し合い憎み合い、運命を交錯させる。過疎、高齢化、農業破綻、食品偽装、外国人妻、脱北者、国境…東アジアをこの十数年間に襲った波は、いやおうなく日本の片隅の村を呑み込んでいった。ユートピアはいつしかディストピアへ。今の日本のありのままの姿を、著者が5年の歳月をかけて猫き尽くした渾身の長編小説。


理想の共同体を目指して作られた唯腕村(イワン村)にも高齢化の波が押し寄せ、ただひとり村に残った理事長・素一の息子・東一は葛藤しつつもなんとかしなければ、と苦悩する。だが、若さゆえの浅慮や短絡的な行いもあって村人たちの心を繋ぎ止めることも叶わない。一度は村を離れ東京の実母の下に転がり込んだ東一だったが、その間に父・素一が急死し、村へ帰りはしたが、雪崩れるように人びとの心は離れていくのだった。平等を謳った共同体の危うさと人心掌握の難しさを思い知らされるような一冊である。下巻でどう展開していくのかたのしみである。


ポリティコン 下ポリティコン 下
(2011/02/15)
桐野 夏生

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唯腕村理事長となった東一は、村を立て直すために怪しげな男からカネを借りて新ビジネスを始める。しかし、村人の理解は得られず、東一の孤独は深まる一方だった。女に逃げ場を求める東一は、大学進学の費用提供を条件に高校生のマヤと愛人契約を結んでしまう。金銭でつながった二人だが、東一の心の渇きは一層激しくなり、思いがけない行為で関係を断ち切る。それから10年、横浜の野毛で暮らしていたマヤのもとに、父親代わりだった北田が危篤状態だという連絡が入る。帰郷したマヤは、農業ビジネスマンとして成功した東一と運命の再会をした。満たされぬ二つの魂に待ち受けるのは、破滅か、新天地か。週刊文春と別冊文藝春秋の連載が融合されて生まれた傑作小説、堂々の完結。


上巻は主に東一の視線で綴られていたが、下巻は主にマヤの視線で綴られている。東一の慰み者になる代わりに大学進学の費用を出してもらう契約をし、夏休みに進学セミナーに参加したまま唯腕村に帰らず、怪しげな小杉の店でホステスのアルバイトをしていた。そこで東一と出くわし、学費の形に売られて東京にやられ、唯腕村とは縁が切れたかに思われたのだったが、北田の危篤を知らされて村に帰り、一見生まれ変わった村の内実を目の当たりにし、しかも、長年親代わりと慕ってきた北田やスオンの存在に疑いを持ち始め、逃げるように唯腕村を後にするのだった。
元はと言えば母の理想と命がけの仕事に振り回され、逃げるように唯腕村に入村してからは、東一の理想と強引さと身勝手に振り回され、運命の過酷さと非情さに振り回され続けたマヤだったが、最後の最後に自分として心からの選択ができたのだとしたらそれが唯一の光だろう。まさにこの国の縮図のような一冊である。

並木印象*石田千

  • 2011/09/08(木) 17:09:59

並木印象並木印象
(2011/04/26)
石田 千

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帰りそびれた春の夜、戻らない夏の時間、校庭で膝を抱えていた秋……思い出の背景にはいつも並木がいてくれた。さくら、けやき、いちょう……季節ごとに想起する20篇の物語。


1 さくら けやき すずかけ いちょう まつ とち ふう やなぎ
2 ヒマラヤスギ メタセコイヤ こぶし はなみずき とねりこ 白樺 フェニックス えんじゅ さるすべり しいのき きんもくせい くすのき

さまざまな時、さまざまな場所、ときどきに高く低く心持ちを抱いて並木道を歩く。一本一本の木に心を止め、木肌に触れて、そのときそのときの自らのありように想いを馳せる。
わたしの勝手な印象だが、著者は自分ルールをしっかりと持っていらっしゃるように思う。控えめながら芯のしっかりした女の人なのだろうと想像する。それでいていつもどこかに心細さを感じさせられるのだが、今作ではその心細さが際立っているように思われる。体調の不安のせいかもしれない。お節介とは判りつつ、木肌にそっと手のひらを当てるようにそばにいてあげたいと思ってしまう。ところどころで著者の振れ幅に共鳴して泣いてしまうような一冊である。

オレたちバブル入行組*池井戸潤

  • 2011/09/06(火) 06:59:32

オレたちバブル入行組オレたちバブル入行組
(2004/12/10)
池井戸 潤

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崩壊した銀行不倒神話。給料もポストも減り、逆境にさらされても―銀行員(バンカー)よ、顔を上げろ!融資課長・半沢直樹の意地と挑戦を描く痛快長篇。


88年、バブル真っ盛り。引く手あまたの売り手市場で優秀な人材は極端な話拉致されるようにして内定を取っていた時代に、望まれて入行した男たちの物語である。主人公は反骨精神旺盛な融資課の半沢である。
上司に無理やり稟議を通されて融資をした先の会社が倒産し、五億円の損害を被ることになった。その後の上司の責任逃れの態度と、いじめとも言える処遇に発奮し、半沢は調査に乗り出す。同期の仲間や同じく被害を受けた会社の社長らの協力もあって、倒産した会社の社長・東田の居場所をつきとめ、計画倒産の実体を暴く。だがその過程でとんでもない事実が判明するのである。
自分の立場や将来、銀行員としての誇り、正義感、さまざまなことを勝ち取った半沢だが、態度や選んだ道が個人的にはあまり好きになれないのがちょっぴり残念でもある。
バブルの時代に入行したかどうかにかかわらず、家族を背中に感じながら自負と慣習の狭間で闘う男たちの熱さが伝わる一冊である。

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隅の風景*恩田陸

  • 2011/09/03(土) 16:52:25

隅の風景隅の風景
(2011/05)
恩田 陸

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プラハで飲む黄金のビール、高所恐怖症の韓国登山、スモッグの向こうに霞む北京の太陽。出会えるかもしれない物語のかけらを求めて、今日も作家は旅に出る。身体の隅に今も残る旅のイメージをくっきりと映し出す紀行集。


飛行機嫌いの著者が勇を鼓して出かけた海外の国々、そしてもちろん日本のあちこちで、求めて触れたもの、あるいは偶然の出会いによって結びつけられたさまざまな場所や物や事々が語られていて興味深い。不思議な物事に触れるたびに「、この題材でだれかミステリを書いてくれないかしら」とおっしゃるが、そのたびに胸の中で「恩田さん書いてください」と思いながら読んだ。これらの旅のなにかしらがいつの日にか新しい物語のどこかに練りこまれることになるのかもしれないと思うと、心なしかわくわくしてくるのである。しかしよく飲むなぁ、とも思う一冊である。

民王*池井戸潤

  • 2011/09/02(金) 13:27:01

民王民王
(2010/05/25)
池井戸 潤

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企業小説を変革し続けてきた乱歩賞作家・池井戸潤が、
ついに政治の世界に踏み込んだ!

ある日突然、首相・武藤泰山と、武藤の大学生のドラ息子・翔の中身が入れ替わってしまう。
原因もわからないまま、やむなく泰山の変わり身となって国会に出ることになった翔。
遊んでばかりの日常を送ってきた翔には、国会でおこなわれる討論や質疑応答など、到底理解できない。
幼稚な発言を繰り返す上、首相だというのに文書に書かれた漢字すら読めず誤読を繰り返すという状況に……。
首相と息子の入れ替わりなど夢にも思わない世間では、一国の代表とは言いがたい言動に対する厳しい批判が渦巻く。
またそれと時を同じくして、泰山のまわりでは、閣僚の酔っ払い発言やスキャンダル、献金問題などが相次ぐ。
国を背負うはずの大人たちに、一体何が起こったのか―。

本物の大人とは、国を動かす政治とは何か。

胸がスカッとする、痛快エンタメ政治小説!


登場人物の名前を変えただけでノンフィクション的な展開を見せるのかと思わせる冒頭部分を過ぎると、途端にとんでもない設定になって、あっと驚かされる。そうだったのか、あの総理の情けなさもあの大臣の失態もこういうことだったのか、それなら納得もできよう、と当時を振り返ってひとりくすくすと笑ってしまうのである。設定はとんでもないのだが、内容は至ってまっすぐなのも本作の特徴的なところである。政治の世界が舞台ではあるが、総理・武藤泰山の政治家的立場とお気楽大学生である息子の翔の就職活動を絡め、親子の関係も描かれていて、後半は思わずほろりとさせられる。これまでの作風とはひと味違うが、面白さでは引けを取らない一冊である。

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玉子 ふわふわ*早川茉莉編

  • 2011/09/01(木) 16:39:22

玉子ふわふわ (ちくま文庫)玉子ふわふわ (ちくま文庫)
(2011/02/08)
早川 茉莉

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玉子についてのアンソロジー。37人の作家による「玉子饗宴」。深尾須磨子、森茉莉、石井好子、福島慶子、三宅艶子、森田たま、中里恒子、住井すゑ、武田百合子、林芙美子、網野菊、池波正太郎、東海林さだお、伊丹十三、吉田健一、嵐山光三郎、山本精一、池田満寿夫、北大路魯山人、向田邦子、色川武大、田村隆一、神吉拓郎、細馬宏通、犬養裕美子、堀井和子、津田晴美、田中英一、熊井明子、田辺聖子、松浦弥太郎、室生朝子、筒井ともみ、辰巳芳子、林望、村井弦斎、宇江佐真理。


読めば読むほど玉子の完璧さが胸に沁みる一冊である。形・色・手触りはもちろん、どんな風に料理してもこんなに人をしあわせにするものが果たしてほかにあるだろうか。そんな玉子にまつわるあれこれがこれだけ見事に並んでいるのである。しあわせとしか言いようがない。どの玉子も語られるエピソードを含めてとてもおいしそうで、ありありとその場面を思い浮かべることができる。バターたっぷりのオムレツも、卵かけご飯も、玉子焼きも目玉焼きもいますぐにでも食べたくなるのだが、津田晴美さんの「風邪ひきの湯豆腐卵」にことに惹かれたのだった。今回はこれだったが、読むたびに別の卵料理の虜になりそうである。うっとりしあわせな一冊。