人生教習所*垣根涼介

  • 2011/10/30(日) 14:27:29

人生教習所 (2011-09-30T00:00:00.000)人生教習所 (2011-09-30T00:00:00.000)
(2011/09/30)
垣根 涼介

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ひきこもりの休学中東大生、南米へ逃亡していた元ヤクザ、何をやってもダメな女性フリーライターなど―人生に落ちこぼれた人間たちが目にした「人間再生セミナー 小笠原塾」の募集広告。錚々たる団体・企業が後援し、最終合格者には100%就職斡旋。一体、主催者の目的は何なのか?遙かなる小笠原諸島で、彼らを待ち受けていたのは、自分たちが知らなかった日本と世界、そして美しい自然。今、彼らの中の「なにか」が変わりはじめた…。清々しい読後感へと誘う物語。


ひと言で言ってしまえば、人生の落ちこぼれたちが、「人間再生セミナー」によって自分の生き方を見直して再出発する、という物語である。お約束どおり、初めはけん制し合っていたメンバーが次第に歩み寄り、胸のうちをある程度さらけ出して連帯感を抱くまでになる、という筋でもある。だが、それだけにまとめてしまえない枝葉や隙間のあれこれ、メンバーそれぞれの人となりやそれまで生きてきた感興に由来する挙動など、些細な部分にこそ面白みがたっぷり詰まっているのである。ひと言で落ちこぼれと言っても、さまざまな落ちこぼれ方であり、セミナーへの参加動機も人それぞれである。人間の多面性を思わされもする。小笠原の風景や歴史、住民たちの様子と併せて、とても興味深い一冊だった。

涅槃の雪*西條奈加

  • 2011/10/25(火) 17:18:41

涅槃の雪涅槃の雪
(2011/09/17)
西條奈加

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新任の北町奉行・遠山景元の信頼厚い吟味方与力・高安門佑は、ある事件をきっかけに、お卯乃という元女郎を屋敷に引き取ることになる。口のきき方も知らず家事もできないお卯乃だが、話し相手としては悪くない。そう思いはじめた矢先、天保の改革が発布され、江戸の世情は一変した。遠山は南町奉行・矢部定謙とともに、改革を主導する老中首座・水野忠邦と対立する。そんな両奉行と門佑たちの前に、冷酷非情と恐れられる目付・鳥居耀蔵が立ちふさがった。厳しい締め付けに生気を奪われた江戸、そして、門佑とお卯乃の行く末は―。改革の嵐が吹き荒れるなか、お上の苛烈な締め付けに立ち向かう気骨ある与力の姿を通じて、市井の人々の意地と気概をいきいきと描き上げた傑作。


ご存知遠山の金さんに仕える吟味方与力・高安門佑(通称・鷹門)が主人公の江戸物語である。南北奉行所の関わりや無理難題を次々と吹っかける老中・水野忠邦との駆け引きは、気を揉み苛々させられながらも興味深い。そしてわけあって面倒をみることになったお卯乃と門佑の成り行きからも目が離せない。おしまい近くになって、きついばかりと思っていた門佑の出戻りの姉・園江の粋な計らいに、思わず胸が熱くなったのだった。江戸を堪能できる一冊。

キャベツ炒めに捧ぐ*井上荒野

  • 2011/10/23(日) 16:40:31

キャベツ炒めに捧ぐキャベツ炒めに捧ぐ
(2011/09)
井上 荒野

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東京の私鉄沿線の、小さな町のささやかな商店街の中に「ここ家」がある。こだわりのご飯に、ロールキャベツ、肉じゃが、コロッケ、ひじき煮、がんも、あさりのフライ、茄子の揚げ煮、鰺のフライ・・・・・・、「ここ家」のお総菜は、どれもおいしい。オーナーの江子は61歳。友だちとダンナが恋仲になってしまい、離婚。麻津子は、60歳。ずっと想いつづけている幼ななじみの年下の彼がいる。一番新入りの郁子は、子どもにもダンナにも死に別れた60歳過ぎ。3人は、それぞれ、悲しい過去や切ない想いを抱きながらも、季節ごとの野菜や魚などを使い、おいしいお総菜を沢山つくり、お酒を呑み、しゃべって、笑って、楽しく暮らしています。


同年代だがそれぞれ違う屈託を持つ江子・麻津子・郁子の三人がとてもいい。一見気が合うようには見えないながら、食べものという人が生きる上での根源的なところでつながっているような安心感がある。長く生きてくると屈託もあれこれと形を変え、なにもかも放り出したくなることもあるだろうが、「ここ家」の厨房で、旬の食材を前にして、あれを作ろう、これにしよう、と言い合う三人のやり取りが、それでも前を見て生きていくんだと教えてくれるような気がする。進くんがほどよいスパイスになっている一冊である。

ROMMY 越境者の夢*歌野晶午

  • 2011/10/22(土) 18:44:22

新装版 ROMMY 越境者の夢 (講談社文庫)新装版 ROMMY 越境者の夢 (講談社文庫)
(2011/01/14)
歌野 晶午

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人気絶頂の歌手ROMMYが、絞殺死体となって発見された。ROMMYの音楽に惚れ込み、支え続けた中村がとる奇妙な行動。一瞬目を離した隙に、ROMMYの死体は何者かに切り刻まれ、奇妙な装飾を施されていた―。一体誰が何のために?天才歌手に隠された驚愕の真相とは。新本格の雄、歌野晶午の真髄がここに。


ROMMYが殺された当日と、過去とを行ったり来たりしながら物語りは進み、読者はROMMYに対する理解を少しずつ深めていくことになる。それと共に、事件当日スタジオに集まっていた人びとのROMMYに対するスタンスも明らかになっていく。過去語りの部分では、ROMMYになる前の杉下裕美が描かれ、裕美と共にROMMYを生み出した中村茂が語られる。不遇な時代を乗り越えて絶頂に達したところでの事件だったことがよくわかる。歌野氏なので、どこかに仕掛けがないわけがないと目を凝らして読み進んだが、やはり意表を突かれることになった。ROMMYのパフォーマンスのわけは、そして中村のあの行動のほんとうの理由はそういうことだったのか、と頷かされるのだった。哀しく切ないが、深い深い愛の物語でもあると思わされる一冊である。

鍵のかかった部屋*貴志祐介

  • 2011/10/20(木) 21:09:53

鍵のかかった部屋鍵のかかった部屋
(2011/07/26)
貴志 祐介

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自称・防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)榎本と、美人弁護士(実は天然!?)純子のコンビが、超絶トリックに挑む!貴志祐介にしか考えつけない、驚天動地の密室トリック4連発!密室ミステリの金字塔、ついに登場。


表題作のほか、「佇む男」 「歪んだ箱」 「密室劇場」

密室好き(?)の弁護士・青砥純子と怪しげな防犯コンサルタント・榎本が関わった四つの事件の物語である。純子が乗り出した事件の調査に榎本が助っ人に入り(あるいは偶然出くわし)、結局は榎本が、全面的に推理力と腕に覚えのある技術を駆使して謎を解き明かす、という趣向である。榎本が着目する真犯人の性格と密室トリックの必然性の関係には注目すべきところがある。だが、最後の物語にはちょっと物足りなさを感じてしまった。息が合っているのかいないのかよくわからないコンビだが、純子の天然振りがアクセントにもなっているのかな、という一冊である。

虚言少年*京極夏彦

  • 2011/10/19(水) 14:05:12

虚言少年虚言少年
(2011/07/26)
京極 夏彦

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僕は、まあやる気のない、モテない、冴えない子供だ。かといって憤懣やるかたないわけでもなく鬱々と陰に篭っているわけでもなく、人気者でもなければイジメっ子でもなく嫌われ者でもなければイジメられっ子でもない。毎日がそこそこ楽しくて、そこそこ幸福であり、なのにそれを自覚していないことが多いので不平不満を垂れたりして、面白ければ笑うし悲しければ泣くし好きなことはやりたいし嫌いなことはやりたくなくて、学校も好きでも嫌いでもないという、まあべたっとしたどうでもいい子供なのである。ただ、まあ特徴を一つ挙げるなら。僕は―嘘吐きなのだ。


ソノ一・三万メートル  ソノ二・たった一票  ソノ三・月にほえろ!  ソノ四・団結よせ  ソノ五・けんぽう  ソノ六・ひょっこりさん  ソノ七・屁の大事件

主役の僕・内本健吾は小学校六年生である。そして学校ではそ知らぬ顔をしてつるまないが、下校時はいつも行動を共にし、似たり寄ったりの馬鹿さ加減を競い合う友人たち・京野達彦と矢島誉が準主役という役どころである。内容は・・・、と言って語ることはこれといってない気もするが、要するに毒にも薬にもならない小学生男子のどうしようもない頭のなかを覗き見しているような一冊なのである。427ページという厚みのある本であるが、読んでも読まなくても世間の動向になんら影響を与えない類のものであろう。だからといって面白くないわけではない。馬鹿らしい面白さ満載なので、ツボにはまれば笑いが止まらなくなるかもしれない、ということもあるかもしれない。名前の似かより具合から、京野達彦には著者が投影されているのだろうか、などと思い巡らしながら読むのもまた興味深いものである。忙しく慌しいときは避け、ゆったりと時間のあるときに読むといい一冊である。

ナニワ・モンスター*海堂尊

  • 2011/10/16(日) 11:34:37

ナニワ・モンスターナニワ・モンスター
(2011/04/21)
海堂 尊

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新型インフルエンザ「キャメル」患者が発生した浪速府。経済封鎖による壊滅的打撃、やがて仄見える巨大な陰謀。ナニワの風雲児・村雨府知事は、危機を打開できるのか?村雨が目論む、この国を破滅から救うための秘策とは―。


実際の事件や実在の人物を彷彿させる設定で、興味をそそられるのは確かである。われわれ一般人が知らされる事実――と思われることごと――の裏に、現実にはなにが蠢いているかわからないという点において、まさに絶妙に描かれている。だが、著者の主張は決してそれだけではない。初めから一貫して書かれつづけている「AI」導入論に本作でも最後には行きつくのである。結局それか、と鼻白む思いもなくはない。読むたびに刷り込まれているような気にもなるが、嫌なら読まなければいいのに読んでいるのだから仕方がない。いまや高橋克典と化した斑鳩や、仲村トオルと化した白鳥も登場する。時間の流れの扱い方が相変わらず巧みな一冊である。

緑の毒*桐野夏生

  • 2011/10/14(金) 17:11:29

緑の毒緑の毒
(2011/08/31)
桐野 夏生

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妻あり子なし、39歳、開業医。趣味、ヴィンテージ・スニーカー。連続レイプ犯。。水曜の夜ごと、川辺は暗い衝動に突き動かされる。救命救急医と浮気する妻に対する、嫉妬。邪悪な心が、無関心に付け込む時――。


まともじゃない。登場人物のだれもがやり場のない不満や不安を抱えながら日々を送っている。普通はなんとか宥めすかして帳尻を合わせながら暮らすのだろうが、それができなかったのが、主人公の開業医・川辺である。勤務医の妻・カオルの浮気に嫉妬し、鬱憤を晴らすように昏睡レイプに及ぶのだから、これはもう病んでいるとしか言えない。川辺の人格には一片も共感できるところがないし、妻・カオルにしても同じようなものである。毒にまみれたような夫婦で、同情の余地もない。最後の一章のドタバタはコメディのようでもあるが、あまりにも情けなく哀しい結末である。題材の重さに比べてさらさらと読める一冊である。

マスカレード・ホテル*東野圭吾

  • 2011/10/13(木) 16:55:32

マスカレード・ホテルマスカレード・ホテル
(2011/09/09)
東野 圭吾

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待望の新ヒーロー誕生! 極上の長編ミステリ
都内で起きた不可解な連続殺人事件。次の犯行現場は、超一流ホテル・コルテシア東京らしい。殺人を阻止するため、警察は潜入捜査を開始し・・・。1行たりとも読み飛ばせない、東野ミステリの最高峰。


Amazonではあまり評価されていないようだが、わたしは面白かった。現場に不可解な数列が残された連続殺人事件。数列の謎解きもパズルのようで愉しめたし、ホテルマンとして一流ホテルに潜入している刑事、ことにフロントに配された新田と、その教育係を仰せつかった山岸尚美の描かれ方、そしてホテルを利用する「お客様」たちとホテルマンの対応も興味深く、それらの要素のひとつひとつが、事件解決のピースとなっているのがさらに面白さを増している。真犯人の予想外な動機が明らかになったときの驚きとやるせなさ、伏線の見事さもさすがである。そして、主役にはなれなかったが、能勢刑事の存在がとてもいい。ホテルマンを見る目が変わりそうな一冊でもある。

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あめりかむら*石田千

  • 2011/10/12(水) 14:13:08

あめりかむらあめりかむら
(2011/08)
石田 千

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病再発の不安を消そうと出た旅先で、体の異変に襲われた道子。その瞬間脳裏に現われたのは、あれほど嫌っていた青年の姿だった―。エリートビジネスマンへの道をまっしぐらに進み、周囲の誰からも煙たがられた友人との心の絆を描き、芥川賞候補作となった表題作。下町の、古本屋を兼ねた居酒屋で繰り広げられる人情ドラマ「大踏切書店のこと」。いじめにあう幼な子と、犬との心の交流を描いた「クリ」など五篇を収録。著者初の小説集。


表題作のほか、「「クリ」 カーネーション」 「夏の温室」 「大踏切書店のこと」

初の小説集とのこと。だが、これほどエッセイと小説の手触りが変わらない作家も珍しいのではないだろうか。そのままエッセイであると言われても少しの違和感もないだろう。「大踏切書店のこと」の主人公が男性だと判ったときに少なからず驚かされたくらいで。どの物語も「病」というキーワードでゆるくつながるので、もの哀しさと切実さが漂い流れている。最後に配された「大踏切書店のこと」だけがほんの少し異質で、そしてわたしはこれがいちばん好きだった。それでも日々は流れていくのだと思わされる一冊である。

NOVA5―書き下ろし日本SFコレクション

  • 2011/10/11(火) 17:14:19

NOVA 5---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)NOVA 5---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)
(2011/08/05)
東 浩紀、伊坂 幸太郎 他

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話題の完全新作アンソロジー・シリーズ最新刊! 豪華8作家の饗宴。
参加作家:東浩紀、伊坂幸太郎、石持浅海、上田早夕里、須賀しのぶ、図子慧、友成純一、宮内悠介
「オリジナル・アンソロジー《NOVA》は、日本SFの新作短編だけを掲載する唯一の専門媒体です。今回は、昨年デビューした新人から作家歴四半世紀を超えるベテランまで、8人の作家による競作。海洋SF、未来SF、時間SFなどそれぞれに趣向を凝らした8編、じっくりお楽しみください」(大森望)


序 大森望 「ナイト・ブルーの記録」上田早夕里 「愛は、こぼれるqの音色」図子慧 「凍て蝶」須賀しのぶ 「三階に止まる」石持浅海 「アサムラール」友成純一 「スペース金融道」宮内悠介 「火星のプリンセス」東浩紀 「密使」伊坂幸太郎

どちらかというとSFは得意なジャンルではないが、本書に収められた物語りはわたしの想像力が追いつく範囲のものが多かったので、結構愉しめた。伊坂さんのSFというのがなかなか興味深い。石持さんの「三階で止まる」は背筋がぞっとするが、面白かった。ちょっと先を行く一冊である。

漁港の肉子ちゃん*西加奈子

  • 2011/10/09(日) 17:07:11

漁港の肉子ちゃん漁港の肉子ちゃん
(2011/09)
西 加奈子

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みんな、それぞれで生きている。それでいい。圧倒的な肯定を綴る、西加奈子の柔らかで強靱な最新長編。


ふたりきりで漁港に暮らす見須子(みすじ)母娘――ほんとうは菊子という名前なのに、その容姿から「肉子ちゃん」と呼ばれている母と、その娘だが、母にはまるで似ずにかわいらしい容姿のキクりんこと喜久子――の物語。寂れた漁港の焼き肉店「うをがし」で働く肉子ちゃんは波乱万丈の人生を送ってきたが、いまはキクりんとふたりしあわせである。キクりんは、学校で陰湿に繰り広げられる女子同士のあれこれを思い煩ったり、遠くから視線を送ってくる男子たちには無関心なのに、いつもその後ろにいてときどき変な顔をする二宮のことは気になったりしながら、小学五年生の日々を送っている。何気なく見えるが互いに互いを思いやっているのがよくわかって、あたたかい気持ちにさせられる。最後に衝撃の――キクりんにとってはそんなこともなかったようだが――真実が明らかにされて、どうなることかと思ったが、どうにもならず、しあわせな母娘はさらにお互いを大切に思うようになったのだろう、とわかったのも嬉しかった。物悲しくあたたかく、安心させられる一冊である。

Fantasy Seller--もうひとつの世界、売ります。

  • 2011/10/08(土) 16:20:07

Fantasy Seller (新潮文庫)Fantasy Seller (新潮文庫)
(2011/05/28)
新潮社ファンタジーセラー編集部

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大好評アンソロジー『Story Seller』番外編の登場です。江戸時代を舞台に河童や妖が活躍する畠中氏の力作、仁木氏の大人気僕僕先生スピンオフ、森見氏が綴る四畳半王国秘話、そして宇月原氏が満を持してお届けする、竹取物語に想を得た「赫夜島」など。気鋭の新人から、濃密な異世界を生み出してきたベテランまで8人の豪華競演をお楽しみ下さい。全く新しい大人のためのファンタジー小説集。


畠中恵「太郎君、東へ」 仁木英之「雷のお届けもの」 森見登美彦「四畳半世界放浪記」 堀川アサコ「暗いバス」 遠田潤子「水鏡の虜」 紫野貴李「哭く戦艦」 石野晶「スミス氏の箱庭」 宇月原晴明「赫夜島」

着想がそれぞれお見事である。畠中さんの物語など河童や妖が登場するが、若だんなシリーズとはまったく趣を異にし、恋物語と絡めて日本地図さえ変えてしまう壮大さである。愉しい。ほかの物語のどれもが興味深い。「スミス氏の箱庭」がほろ苦く切なくあたたかくて好きだった。まさにもうひとつの世界を愉しめる一冊。

緑ヶ丘小学校大運動会*森谷明子

  • 2011/10/06(木) 19:19:54

緑ヶ丘小学校大運動会緑ヶ丘小学校大運動会
(2011/07/20)
森谷 明子

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運動会の朝、マサルは学校で薬のパッケージを見つける。殺人の証拠だと考え、それを隠しておくことに。一方、父親はドラッグが出回っていることを嗅ぎつける。プログラムが進行するにつれ、明らかになる大人の思惑と、膨らんでゆく子供たちの想像。そして意外な真実! 運動会の一日を舞台にした技巧冴え渡る長編ミステリー。


運動会のプログラムがそのまま目次になっているところは、山本幸久さんの『パパは今日、運動会』を思い出させるが、内容はもちろんまったく違う。こちらは小学校の運動会を舞台にしたどうにも不穏な物語である。狭い校庭にぎゅう詰めの保護者たち、事なかれ主義の学校側、想像力も好奇心も旺盛な小学生たち、この三拍子が揃ってはじめて成り立つ設定である。運動会という健全な行事の裏側で秘密裏に動き回る大人たちの思惑にはやりきれなさを覚えるし、さらにラスト近くに明かされるそもそもの真実には目を疑いたくなる。子どもたちが先輩や仲間のために知恵を絞っているのに対して、対面や我が身のことばかり考えて行動する大人たちの浅ましさが哀れにさえ思われる。子どもたちに教えられるような心地の一冊である。

東京観光*中島京子

  • 2011/10/05(水) 17:01:54

東京観光東京観光
(2011/08/05)
中島 京子

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恋情、妄想、孤独、諧謔…中島京子ワールドへようこそ
女の部屋の水漏れが、下に住む男の部屋の天井を濡らした。女が詫びに訪れたのをきっかけに二人は付き合い出し、やがて男は不思議な提案をするが・・・。(「天井の刺青」)。直木賞作家が紡ぐ珠玉の7篇。


表題作のほか、「植物園の鰐」 「シンガポールでタクシーを拾うのは難しい」 「ゴセイト」 「天井の刺青」 「ポジョとユウちゃんとなぎさドライブウェイ」 「コワリョーフの鼻」

どの物語の主人公もとても真っ当な人たちである。その主人公に近づいてくるのが少しばかり一般の尺度に当てはまらない人たちだというだけである。だが、それだけで物語りは思ってもみない展開を見せるので目を瞠ったりわくわくしたりさせられる。もしかすると主人公たちにちょっと変わったものを引き寄せる何かがあるのかもしれない、いやきっとそうなのだ、という思いが確信めいてくる。日本のどこかできっと毎日同じようなことが繰り広げられているのだろうな、と人知れずにんまりしてしまう一冊である。

かばん屋の相続*池井戸潤

  • 2011/10/04(火) 17:02:29

かばん屋の相続 (文春文庫)かばん屋の相続 (文春文庫)
(2011/04/08)
池井戸 潤

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池上信用金庫に勤める小倉太郎。その取引先「松田かばん」の社長が急逝した。残された二人の兄弟。会社を手伝っていた次男に生前、「相続を放棄しろ」と語り、遺言には会社の株全てを大手銀行に勤めていた長男に譲ると書かれていた。乗り込んできた長男と対峙する小倉太郎。父の想いはどこに?表題作他五編収録。


表題作のほか、「十年目のクリスマス」 「セールストーク」 「手形の行方」 「芥のごとく」 「妻の元カレ」

どの物語も、銀行と中小企業の関係を描いたものである。銀行員や企業が違っても、両者にとって生き残るかやられるかの駆け引きであり、だがそれだけではない思い入れや熱い思いがあることが見て取れる。それぞれの感情の機微や立場による葛藤、そして真剣さが伝わってくる一冊である。

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コンニャク屋漂流記*星野博美

  • 2011/10/02(日) 16:59:37

コンニャク屋漂流記コンニャク屋漂流記
(2011/07/20)
星野 博美

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返還時の香港に密着した骨太なルポルタージュや、ネコと暮らす日常を淡々と描いたエッセイなど、独特な作風が支持されている星野さん。最新作は、「コンニャク屋」と呼ばれる漁師だった自身の一族の歴史がテーマです。祖父が残した手記を手がかりに、五反田から千葉・御宿、そして和歌山へ、ルーツ探しの珍道中が始まります。笑いと涙のなかに、家族や血族の意味を静かに問い直す作品です。


著者自らのルーツをたどる旅のような一冊である。現在と過去、五反田から岩和田、そして紀州へと――文献や長老の話、祖父の手記などから――時間を、――実際にその場に立って――場所を行き来して、謎解きをするように少しずつ糸を手繰り解き明かしていく作業を、著者と一緒にしているような心地になる。コンニャク屋の人たちが愛おしくなり、いま自分がここに在るということに感謝したくなる一冊である。