ドルチェ*誉田哲也

  • 2011/11/30(水) 18:31:19

ドルチェドルチェ
(2011/10)
誉田 哲也

商品詳細を見る

彼女が捜査一課に戻らない理由。それは、人が殺されて始まる捜査より、誰かが死ぬ前の事件に係わりたいから。誰かが生きていてくれることが喜びだから。警視庁本部への復帰の誘いを断り続け、所轄を渡って十年が過ぎた。組織内でも人生でも、なぜか少しだけ脇道を歩いてしまう女刑事・魚住久江が主人公の全6編。


表題作のほか、「袋の金魚」 「バスストップ」 「誰かのために」 「ブルードパラサイト」 「愛したのが百年目」

魚住久江、42歳、独身。禁煙は続かない。捜査一課からの復帰の誘いを断り続けるには理由があるが、ことさらだれかに伝えたことはない。誰かが死ぬのを未然に防ぎたいという思いが、捜査のやり方にも垣間見える。被害者の立場に立ち、加害者の立場にも立ち、家族の心情も慮る。そこから真実が見えてくることもあるのである。決して華々しい存在ではないが、そんな風に事件の当事者たちに寄り添いながら、きっちり解決してみせるのである。なかなか魅力的なキャラクターである。シリーズ化されるのだろうか。ぜひ次も読んでみたいと思わされる一冊である。

金融探偵*池井戸潤

  • 2011/11/29(火) 14:12:48

金融探偵金融探偵
(2004/06/20)
池井戸 潤

商品詳細を見る

雨の昼下がり、大原次郎は和装の女性を車で跳ねてしまう。急いで病院に運ぶが、女性の身元がわからない…。融資の専門家が、経験と知識を生かしてミステリアスな怪事件に挑む金融ミステリー。


「銀行はやめたけど」 「プラスチックス」 「眼」 「誰のノート?」 「藤村の家計簿」 「人事を尽くして」 「常連客」

銀行をリストラされて求職中の大原次郎が、思わぬ成り行きから金融に関する調査を専門にする「金融探偵」を始めることになった。求職活動をしながらの探偵仕事ではあるが、銀行員時代に培った知恵や知識を総動員し、アパートの大家の娘や、同じようにリストラされた元同僚、大家に紹介されて常連になった鍼灸治療院の院長ら、周りの人たちの手にも助けられて依頼を解決していく。次郎の人柄や脇を固めるキャラクターのよさもあり、もっと読みたくなる一冊である。

サヴァイヴ*近藤史恵

  • 2011/11/28(月) 08:07:16

サヴァイヴサヴァイヴ
(2011/06)
近藤 史恵

商品詳細を見る

他人の勝利のために犠牲になる喜びも、常に追われる勝者の絶望も、きっと誰にも理解できない。ペダルをまわし続ける、俺たち以外には―。日本・フランス・ポルトガルを走り抜け、瞬間の駆け引きが交錯する。ゴールの先に、スピードの果てに、彼らは何を失い何を得るのか。


シリーズ三作目。
日本を出、ヨーロッパ各地でペダルを回す白石誓、かつてのチームメイトの伊庭、先輩の赤城の物語が六つの短篇として語られる。チーム内の軋轢、他チームとの駆け引き、自分自身の精神状態、元チームメイトの不祥事。さまざまな壁を乗り越え、突き崩し、それでもゴールをそしてその先を見つめる男たちの苦悩や悦びや闘志が迫力を持って訴えかけてくるような一冊である。

境遇*湊かなえ

  • 2011/11/27(日) 17:07:38

境遇境遇
(2011/10/05)
湊 かなえ

商品詳細を見る

主人公は36歳のふたりの女性。
政治家の夫と幸せな家庭を築き、さらに絵本作家としても注目を浴びる主婦の陽子。
家族のいない天涯孤独な新聞記者の晴美。ふたりは親友同士であるが、共に生まれてすぐ親に捨てられた過去を持つ。
ある日、「世間に真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状と共に、陽子の5歳になる息子が誘拐された。
真実とは一体何なのか ……。
晴美と共に「真実」を求め奔走する陽子。すると、陽子の絵本のファンだという一人の女性の存在が浮上する。
犯人はその女性なのか、それとも……。
人 は生まれる環境を選べない。しかし、その後の人生は自分の意思で選び、自分の手で築いていくことができる。
犯人の示す「真実」が明らかになるとき、ふたりの歩んできた境遇 =人生の意味が改めて浮き彫りになっていく。


この設定にしては、心がどんよりと重くて仕方がなくなるような物語ではなかったが、誰にも気を許せない不幸を感じられる物語ではある。登場人物の描き方もいささかわかり易すぎと言ってもいいかもしれない。陽子さんも夫の正紀さんも、いい人過ぎる。面白かったが、著者にはもっと上を期待してしまう。裕太くんが傷つかなくてよかった、と思わされる一冊。

オルゴォル*朱川湊人

  • 2011/11/26(土) 07:51:00

オルゴォルオルゴォル
(2010/10/08)
朱川 湊人

商品詳細を見る

「実は前から、ハヤ坊に頼みたいことがあってなぁ」東京に住む小学生のハヤトは、トンダじいさんの“一生に一度のお願い”を預かり、旅に出る。福知山線の事故現場、父さんの再婚と新しい生命、そして広島の原爆ドーム。見るものすべてに価値観を揺さぶられながら、トンダじいさんの想い出のオルゴールを届けるため、ハヤトは一路、鹿児島を目指す。奇跡の、そして感動のクライマックス!直木賞作家による感動の成長物語。


長いものには巻かれろ的な行動パターンの小学四年生のハヤトが主人公である。積極的に悪さをするタイプではないけれど、巻き込まれれば消極的には加担する、という感じの、いささか情けない印象の少年でもある。そんな彼にくっついてくるクラスで浮いているシンジロウ。正直鬱陶しいと思っていたハヤトだったが、彼と出会ったことが大きく見るとハヤトを変えたのかもしれない。母のヒトミさんとの関係、遠くで暮らす父との関係、父の新しい奥さんとの出会い、そして電撃ガール・サエさんとの出会いが、ハヤトに自分で考えることの大切さを気づかせたのだろう。奇跡のようなクライマックスではあるが、出会いとタイミングの妙を思わされる一冊である。

白椿はなぜ散った*岸田るり子

  • 2011/11/23(水) 19:54:19

白椿はなぜ散った白椿はなぜ散った
(2011/08)
岸田 るり子

商品詳細を見る

望川貴は幼稚園で出会った日仏混血の少女・万里枝プティに心を奪われ、二人は永遠の絆で結ばれていると確信する。小中高大学と同じ学校で過ごし、大学でも同じ文学サークルへ入会するが、そこで出会った大財閥の御曹司が万里枝に急接近する。貴は凡庸な容姿の自分とは違い、驚くほどの美貌を誇る異父兄・木村晴彦に、万里枝を誘惑するよう依頼する。貴の計画は成功するかに見えたが―。錯綜する愛憎。はたして真実の絆はどこに。


幼稚園のときに出会ってひと目で惹かれあったタカと万里枝。小・中・高・大と同じ学校で過ごし、大学でも同じサークルに入ったが、そこには万里枝に視線を送る大財閥の御曹司がいた。自分に自信のないタカは、美形の異父兄・晴彦にある計画を持ちかける。まさにそこが間違った道の分岐点だったのである。微笑ましかった幼稚園時代から、歳を重ねるごとに拘りが生まれ、執着が強まり、妄想が膨らんで、現実をそのままに見ることができなくなっているようなタカの姿には哀れみさえ感じさせられる。その彼の純粋すぎる愛情が周囲に広げた波紋の大きさは、彼自身の想像をもはるかに超えるものだった。殺人事件の容疑者にされそうになっている作家の恋人を助けたい一心で奔走する香里がたどり着いた真実を知ったとき、読者はどうしようもない空しさに胸をかきむしりたくなる。タカもおそらく同じだっただろう。救われない物語である。一途さが恐ろしい一冊である。

本日、サービスデー*朱川湊人

  • 2011/11/21(月) 17:03:56

本日、サービスデー本日、サービスデー
(2009/01/21)
朱川湊人

商品詳細を見る

世界中の人間には、それぞれに一日だけ、すべての願いが叶う日がある。それが、サービスデー。神様が与えてくれた、特別な一日。本来は教えてもらえないその日を、思いがけず知ることになったら。直木賞作家の幸運を呼ぶ小説。


表題作のほか、「東京しあわせクラブ」 「あおぞら怪談」 「気合入門」 「蒼い岸辺にて」

どの物語もいささかブラックである。であるが、どこかブラックに徹しきれずあたたか味が滲み出ていたりもして、それがまたいい味を出している。「東京しあわせクラブ」だけはあまり好きになれなかったが、それでも主人公の心の中のあたたか味には触れることができるのである。毎日を、きょうこそがサービスデーだと思って過ごしてみようか、と思わされる一冊である。

> more >>>

不愉快な本の続編* 絲山秋子

  • 2011/11/20(日) 17:19:35

不愉快な本の続編不愉快な本の続編
(2011/09)
絲山 秋子

商品詳細を見る

女と暮らす東京を逃げ出した乾。新潟で人を好きになり、富山のジャコメッティと邂逅し、そして故郷・呉から見上げる、永遠の太陽―。不愉快な本を握りしめ彷徨する「異邦人」を描き、文学の極点へ挑む最新小説。


富山では地元民ではない人のことを――たとえそこに住んでいても――「たびの人」というらしい。そしてこの物語の主人公・乾は、まさにたびの人である。どこへ行っても誰と暮らしてもそこは彼の居場所ではなく、常に逃げ腰の人生である。嘘しかないいい加減な男だという自覚はあるのに、そんな自分をどこか覚めた目で嘲笑しながら自虐的に生きているようにも見える。典型的なろくでなしなのだが憎みきれないのはなぜだろう。不愉快な本から抜け出したというのに、結局はその続編に封じ込められてしまったような一冊である。

千年ごはん*東直子

  • 2011/11/19(土) 17:26:39

千年ごはん (-)千年ごはん (-)
(2011/09/22)
東 直子

商品詳細を見る

山手線の中で出会ったおじさんのクリームパンに思いを馳せ、徳島ではすだちを大人買い。これまでも、これからも、連綿と続く日常のひと皿に短歌を添えて。日々のおだやかな風景を歌人が鋭い感性で切り取る食物エッセイ。


その家庭、その人のそのときどきのひと皿というものは、なんと魅力的でときめかされるものなのだろう。その人にとっては日常的、あるいは母から受け継いだ特別の日の食卓の料理の一部なのだが、読者は人さまのプライベートな部分をそっと覗き見するような心地になりもする。どのひと皿にも著者やご家族のそのときにしかない気持ちが宿っていて、料理がどれもおいしそうなのはもちろんなのだが、その周りにいる人のことを思い浮かべてあれこれ想像をめぐらしたりもしてしまう。食べるということの本能的な貪欲さをも感じられるのである。一首が添えてあることで艶かしさ――あくまでも健全な――が更に増す一冊である。

お月さん*桐江キミコ

  • 2011/11/18(金) 19:39:12

お月さんお月さん
(2007/02/16)
桐江 キミコ

商品詳細を見る

あまりにも小さくて、かなしくて、さびしい。でも、泣きたくなるほど、いとおしい。こんなふうでも、人は生きたいものなのだ。淡い人生の味がつまった珠のような短編集。


表題作のほか、「モーニングセット」 「クリームソーダ」 「金平糖のダンス」 「キツネノカミソリ」 「薔薇の咲く家」 「葬式まんじゅう」 「愛玉子ゼリー」 「デンデンムシと桜の日」 「寒天くらげ」 「アメリカン・ダイナー」 「三月うさぎ」

取り立ててなんということもないことごとが、至極穏やかに綴られている。ほんの少し世間が考える標準からずれていたりもするが、だからといってどうということもない、ああこんな人がいたなぁと、誰にでも思い当たるような人びとが主人公である。そして、表題作はもちろん、どの物語の中にもいろんな形の月が出てくるのが一興である。ちょっぴりもの哀しくてやさしく、それでいてなにか後ろめたいような気持ちにさせられるのはどうしてだろう。小さくても大切な人びとに会える一冊である。

春から夏、やがて冬*歌野晶午

  • 2011/11/17(木) 07:38:57

春から夏、やがて冬春から夏、やがて冬
(2011/10)
歌野 晶午

商品詳細を見る

スーパーの保安責任者の男と、万引き犯の女。偶然の出会いは神の思い召しか、悪魔の罠か?これは“絶望”と“救済”のミステリーだ。


「ラスト5ページで世界が反転する!」という帯文はない方がより愉しめたのではないか、と思う。確かに惹きつけられるフレーズではある。だがそれ故に半分読者の愉しみを奪っていると言えなくもない。心に傷を負ったスーパーの保安責任者の男・平田と、居場所を見つけられずに自分から傷ついている若い女・末永ますみの、ひとときの心の通い合いを描きながら、それぞれが傷ついたわけを探るような物語である。やさしさなのか、哀れみなのか、自己満足なのか。おそらくそれらすべてが入り交じったひとときだったのだろう。誰も救われず、なにも解決せず、空しさとやるせなさばかりが残る一冊だった。

人面屋敷の惨劇*石持浅海

  • 2011/11/16(水) 07:35:53

人面屋敷の惨劇 (講談社ノベルス)人面屋敷の惨劇 (講談社ノベルス)
(2011/08/04)
石持 浅海

商品詳細を見る

東京都西部で起きた連続幼児失踪事件。我が子を失った美菜子はじめ6人の被害者家族は、積年の悲嘆の果てに、かつて犯人と目された投資家、土佐が暮らす通称「人面屋敷」へと乗り込む。屋敷の中で「人面」の忌まわしき真相を知った親たちの激情は、抑えがたい殺意へと変容。さらに謎の美少女が突然現れたことで、誰もが予想すらしなかった悲劇をも招き寄せていく。論理(ロジック)×狂気(マッドネス)。気鋭のミステリー2011年進化型。


「綾辻館」ならぬ「石持館」、と扉に著者の言葉が載っているが、たしかに綾辻氏のおどろおどろしさとはいささか趣を異にする「館もの」である。綾辻氏の館が、そこだけで完結し、外の世界を寄せつけない感があるのに対し、石持氏の館は外の世界を連れて入り込んでいる感じがする。美菜子という、夫を亡くしたあとひとり息子を内心疎んじた負い目を抱え、それでも息子を探す女性の複雑な心理描写を交えながら彼女の目で事件を語らせたことで、読者にさまざまな展開を期待させる効果があったように思う。実際にわたしも、いなくなった子どもたちがこっそり現れて親たちに復讐する場面などを想像したりしたのだった。人それぞれに愉しみ方があるような一冊である。

こなもん屋馬子*田中啓文

  • 2011/11/14(月) 18:53:25

こなもん屋馬子こなもん屋馬子
(2011/10/20)
田中 啓文

商品詳細を見る

大阪の「こなもん」料理でお悩み解決!

悩みを抱えた人々が、吸い寄せられるように入った店には、「コナモン全般」と書かれた
看板と、でぶっと太った、どの方向から見ても文句無しの「大阪のおばはん」が……。
お好み焼き、たこ焼き、うどん、ピザ、焼きそば、豚まん、ラーメン…
蘇我家馬子(そがのやうまこ)がつくるどういうわけか絶品のひと皿と、店で展開される
ドタバタ大騒動が、来る客みんなをなぜか幸せな気分にしてしまいます。
読んだら無性に食べたくなる、やみつき必至の爆笑B級グルメ・ミステリー!


「豚玉のジョー」 「たこ焼きのジュン」 「おうどんのリュウ」 『焼きそばのケン」 「マルゲリータのジンペイ」 「豚まんのコーザブロー」 「ラーメンの喝瑛」

建物と建物の隙間から滲み出てきたようなちっぽけで汚い店構えのこなもん屋「馬子屋」が舞台である。とはいっても、この店、決まった場所にあるわけではない。それぞれのタイトルにもなっている迷える男が、酔った挙句に迷い込むようにして見つけ、その味にほれ込んでしばらく通う内に、ほかの客の持ち込んだ厄介ごとを解き明かし、それに連れて男の抱えている問題まですっきり解決してしまうと、いつのまにか跡形もなくなっているのである。店主の蘇我家馬子もただひとりの店員・イルカも果たして実在するのだろうか、と関係者全員が疑うのだが、あるときまたどこかで、酔って迷い込む男がいるのである。見るからに大阪のおばちゃん然としているが、料理の腕前といい、腕っ節といい、鋭すぎる洞察力や推理力といい、ただ者ではない。きょうも大阪のどこかでおいしそうな湯気を立てながら他人の厄介ごとを解決しているのだろうな、と思わされる一冊である。

四色の藍*西條奈加

  • 2011/11/13(日) 16:45:07

四色(よしき)の藍(あい)四色(よしき)の藍(あい)
(2011/05/14)
西條 奈加

商品詳細を見る

夫を何者かに殺された藍染屋の女将は、同じような事情を抱える女たちと出会い……。女四人の活躍と心情を、気鋭が描く痛快時代小説。


女たちが主役の物語である。しかもそれぞれに表裏一体の愛憎を抱え自らの気持ちの落としどころを定められずにいる女たちである。ひとつの目的に向かって心をひとつにしていると思われた彼女たちだが、それぞれが抱えているものは胸の深みの更にもっと深いところにあったのだった。心というものはどうにも一筋縄ではいかない。信じることの強さと、居場所があることの安心感を改めて思わされる一冊である。

誰かが足りない*宮下奈都

  • 2011/11/12(土) 14:24:45

誰かが足りない誰かが足りない
(2011/10/19)
宮下 奈都

商品詳細を見る

足りないことを哀しまないで、足りないことで充たされてみる。注目の「心の掬い手」が、しなやかに紡ぐ渾身作。偶然、同じ時間に人気レストランの客となった人々の、来店に至るまでのエピソードと前向きの決心。


とてもおいしくて感じがよくて、予約を取るのも難しいレストラン「ハライ」(晴れの日という意味だそうである)の場面ではじまり、同じ日の同じ場所で終わる物語。その日その時間に席を予約するに至ったさまざまな事情や気持ちや気づきや決意がひとつずつ丁寧に語られている。切なかったり悲しみにあふれていたり、ほんの少し希望が見えたり、それぞれの事情はまったく違うが、ハライで誰かと一緒に食事をしようと思えたとき、その人はきっとなにかに救われ、明日のことを少しでも信じることができたということなのだろう。もしいま誰かが足りないとしても、その人をしばらく待ってみようと思わせてくれる一冊である。

ニコニコ時給800円*海猫沢めろん

  • 2011/11/11(金) 17:15:49

ニコニコ時給800円ニコニコ時給800円
(2011/07/26)
海猫沢 めろん

商品詳細を見る

仕事と人間の関係が変わる時、新しい世界への扉が開く。この日本の下流社会のさらに最下層で生きる。


その1 マンが喫茶の悪魔  その2 洋服屋のいばら姫  その3 パチンコ屋の亡霊たち  その4 野菜畑のピーターパン  最終話 ネットワークの王子様

前作の登場人物の誰かが次作のどこかに出てくる、というゆるいつながり方の連作である。そして最低賃金で働いているというキーワードでもつながっている。さまざまな職種で、さまざまな理由でそこに働く人びとの在りようが、ユーモアを交えて描かれているのだが、そこからは苦味や哀しみも立ち上ってくる。間違っても社会派と呼ぶような物語ではないのだが、現代社会に対する皮肉のようなものも感じられる一冊になっているように思う。

水底フェスタ*辻村深月

  • 2011/11/10(木) 21:40:58

水底フェスタ水底フェスタ
(2011/08/24)
辻村 深月

商品詳細を見る

村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き“村を売る”ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあった―。辻村深月が描く一生に一度の恋。


プライバシーなどあってないような狭い村の暮らしの閉塞感に倦んでいた湧谷広海と、村を捨てて東京でモデルになり映画にも出たのに、どういうわけか帰ってきている織場由貴美は、村を会場とするロックフェス「ムツシロック」の夜に出会う。その日から少しずつ何かが変わっていったのだった。広海の想いと真実を胸に秘めた由貴美の想いは重なることがあるのか。真実に近づくにつれ、やり場のない憤りを覚え、村の代々続く隠蔽体質に虫唾が走る。信じられるのは一体誰なのか。出口のない物語のように思える一冊である。

放課後はミステリーとともに*東川篤哉

  • 2011/11/10(木) 07:42:50

放課後はミステリーとともに放課後はミステリーとともに
(2011/02/18)
東川 篤哉

商品詳細を見る

鯉ケ窪学園高校探偵部副部長・霧ケ峰涼の周辺には、なぜか事件が多い。
校舎から消えた泥棒、クラスメ-トと毒入り珈琲一族との関わり、校外学習のUFO騒動――
解決へ意気込む涼だが、ギャグが冴えるばかりで推理は発展途上。
名推理を披露するのは探偵部副部長なのかそれとも? ユーモア学園推理の結末は?


タイトルどおりの高校が舞台の学園物である。探偵役は霧ケ峰涼。探偵部の副部長である。だが、積極的に推理し、謎解きをしているというよりは、いつも巻き込まれ、誰かが披露した推理の穴を上手い具合に塞いでいるように見えなくもない。切れ者というよりも、愛すべき探偵役といったところだろうか。それにしても事件が多い高校である。という一冊。

まゆみのマーチ 自選短篇集 女子編*重松清

  • 2011/11/09(水) 07:32:16

まゆみのマーチ―自選短編集・女子編 (新潮文庫)まゆみのマーチ―自選短編集・女子編 (新潮文庫)
(2011/08/28)
重松 清

商品詳細を見る

まゆみは、歌が大好きな女の子だった。小学校の授業中も歌を口ずさむ娘を、母は決して叱らなかった。だが、担任教師の指導がきっかけで、まゆみは学校に通えなくなってしまう。そのとき母が伝えたことは―表題作のほか、いじめに巻き込まれた少女の孤独な闘いを描く「ワニとハブとひょうたん池で」などを含む著者自身が選んだ重松清入門の一冊。新作「また次の春へ」を特別収録。


表題作のほか、「ワニとハブとひょうたん池で」 「セッちゃん」 「カーネーション」 「かさぶたまぶた」 「また次ぎの春へ――おまじない」

東日本大震災で親を亡くした子どもたちを支援するために編まれた一冊である。どの物語も、躓いたり、心のなかのなにかが欠けてしまったりした人が主人公である。動けずにじっとうずくまっているだけのときを過ぎ、いまという場所からそっと思い返すようなものが多いのは、著者の心に宿る希望の表れのようなものだろうか。ほんの何気ないひと言が突然胸に深く刺さってきたりもし、またさりげなくその傷に手を当てられているようなあたたかな心地にも包まれる。力を抜いて時の流れに身を任せるのがいちばんいいこともあるのだと思わされる一冊でもある。

僕は、そして僕たちはどう生きるか*梨木香歩

  • 2011/11/08(火) 17:06:11

僕は、そして僕たちはどう生きるか僕は、そして僕たちはどう生きるか
(2011/04)
梨木 香歩

商品詳細を見る

やあ。よかったら、ここにおいでよ。気に入ったら、ここが君の席だよ。コペル君14歳、考える。春の朝、近所の公園で、叔父のノボちゃんにばったり会った。そこから思いもよらぬ一日がはじまり…。少年の日の感情と思考を描く青春小説。


大人も、少年も少女も、出てくる人々の誰もが自分に正直で――あるいは正直であろうとして――、自分たちが生きている世界と自分自身のことを考えて、考えて、考えている。そして悔やんだり、悲しんだり、自分を嫌いになったり、喜んだり、満たされたり、さまざまな感情に翻弄され包まれている。無秩序で有無を言わさぬ開発という名の破壊に抵抗しながら亡くなったユージンのおばあちゃんの庭の野放図のように見える植生のなかで描かれることによって、繁っていこうとする年頃の少年たちの心の柔軟さが際立つように思われる。自分の頭と心で考えることの大切さが深く伝わってくる一冊である。

野川*長野まゆみ

  • 2011/11/06(日) 17:00:49

野川野川
(2010/07/14)
長野 まゆみ

商品詳細を見る

両親の離婚により転校することになった音和。野川の近くで、彼と父との二人暮らしがはじまる。新しい中学校で新聞部に入った音和は、伝書鳩を育てる仲間たちと出逢う。そこで変わり者の教師・河合の言葉に刺激された音和は、鳥の目で見た世界を意識するようになり…。ほんとうに大切な風景は、自分でつくりだすものなんだ。もし鳥の目で世界を見ることが、かなうなら…伝書鳩を育てる少年たちの感動の物語。


とても好きな一冊である。期待以上に――と言ったら失礼極まりないが――素晴らしかった。著者の作品は好きなものが多いのだが、これはその中でもいちばんと言っていいほど心に添う物語だった。両親の離婚に伴う新生活に、表面上はともかく不安定に揺れ動く中学生の音和。転向先の中学で出会った国語教師・河井の型にはまらない親身の教えは音和の心をどれほど安定させ、未来を明るいものにしたことだろう。そして、新聞部のメンバーや鳩たち、ことに世話を任された飛べない鳩・コマメが、どれほど音和の助けになったことだろう。野川やその周辺の成り立ちや植生を淡々と描きながら、この物語はどれほど大切なことを伝えてくれるのだろう。しみじみと深く胸に届く一冊である。

密室殺人ゲーム・マニアックス*歌野晶午

  • 2011/11/06(日) 14:22:35

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)
(2011/09/07)
歌野 晶午

商品詳細を見る

“頭狂人”“044APD”“aXe”“ザンギャ君”“伴道全教授”。奇妙なハンドルネームを持つ5人がネット上で日夜行う推理バトル。出題者は自ら殺人を犯しそのトリックを解いてみろ、とチャット上で挑発を繰り返す!ゲームに勝つため、凄惨な手段で人を殺しまくる奴らの命運はいつ尽きる!?


シリーズ第三弾。
今回はゲーム自体が密室を抜け出してインターネット上に曝け出され、さらに厭な感じになっている。いままでどおりの殺人ゲームはもとより、それを見ながら推理を愉しむ観客的な第三者が描かれ、しかも、思ってもみない終わり方で、著者の上手さとは別に、ますます眉を顰めたくなる一冊でもある。

真夜中の探偵*有栖川有栖

  • 2011/11/05(土) 07:45:19

真夜中の探偵 (特別書き下ろし)真夜中の探偵 (特別書き下ろし)
(2011/09/15)
有栖川 有栖

商品詳細を見る

〈もう一つの日本〉で探偵は何ができるのか第二次世界大戦後、南北に分断された日本ではすべての探偵行為が禁じられていた。父を逮捕された空閑純は、行方不明の母を捜し、自ら探偵になる決意を固める。


『闇の喇叭』につづく空閑純(そらしず じゅん)シリーズの二作目。
前作の最後に父が逮捕され、純は一時叔父の元に身を寄せたが、現在は高校へも行かずアルバイトを掛け持ちして自活している。父とは面会もできないまま、探偵だった両親に仕事を斡旋していた仲介者とも接触し、純はいよいよ探偵になって母を探す決意を強くするのだが、それほど容易いことではない。探偵としての名を「ソラ」とした純だが、今作は探偵ソラの初めての腕試しというところだろうか。誰が味方で誰が敵かさえも判然としない状況の中、否応なく大きな渦に巻き込まれていくことが予想されるソラの運命に興味津々である。2012年春に刊行が予定されている次回作『論理爆弾』を愉しみに待ちたい。探偵ソラ誕生の一冊。

それでも彼女は歩きつづける*大島真寿美

  • 2011/11/03(木) 17:00:51

それでも彼女は歩きつづけるそれでも彼女は歩きつづける
(2011/10/03)
大島 真寿美

商品詳細を見る

女性映画監督に翻弄された6人の女性の物語

映画監督・柚木真喜子が海外の映画祭で賞に輝いた。OLを辞めてまで柚木と一緒に映画の脚本を書いていた志保。柚木の友人の後輩で当時柚木の彼氏だった男性を奪い結婚したさつき。地元のラジオ番組の電話取材を受けることになった年の離れた実の妹の七恵。柚木が出入りしていた画家の家で柚木と特別な時間を過ごしたことがある亜紀美。息子がどうやら柚木に気があるらしいと気を揉む柚木が所属する芸能事務所の女社長である登志子。柚木に気に入られ彼女の映画「アコースティック」で主演を演じた十和。柚木に翻弄された6人の女性たちのそれぞれの視点で描かれた連作短編小説。ラストにはシナリオを配した構成の、著者渾身の最新作!


「転がる石」 「トウベエ」 「チューリップ・ガーデン」 「光」 「伸びやかな芽」 「流れる風」 「リフレクション」

柚木真喜子が鍵となる連作であり、彼女のことが語られているのだが、柚木真喜子自身の主観はまったくと言っていいほど判らない。語るのは柚木真喜子の周囲にいて彼女の行動や作品に深く関わった女性ばかりである。すぐ近くで接しており、柚木真喜子をよく知っているはずなのだが、しかし柚木真喜子の核心はほぼわからない。映画監督として海外の賞を取ったが、メジャーというわけでも華やかさがあるわけでもなく、その作品もよくわからないと評されるようなものである。だが映画に掛ける熱は並大抵ではないものがある。という風に表面的なことはわかっても、柚木真喜子という人の内面はまったく見えてこないのが不思議なほどである。読者は痒いところの遠くばかり掻かれているようで、どんどん柚木真喜子のことを知りたくなって自分から手を伸ばして掴もうとするのである。不思議な読み心地の一冊である。柚木真喜子が一人称の物語を読んでみたくなる。

> more >>>

神様 2011*川上弘美

  • 2011/11/03(木) 07:33:02

神様 2011神様 2011
(2011/09/21)
川上 弘美

商品詳細を見る

くまにさそわれて散歩に出る。「あのこと」以来、初めて―。1993年に書かれたデビュー作「神様」が、2011年の福島原発事故を受け、新たに生まれ変わった―。「群像」発表時より注目を集める話題の書。


「あのこと」の前も後も変わらないことがある。その一方で、どうやっても取り戻せない数え切れないことごとがある。変わらないことを描くことで、変わってしまった多くのことに否応なく直面してしまうやりきれなさをこれほどまでに切なくもどかしく苦しく伝えることができるのか、と思わされる一冊である。「あのこと」がなければ一生知らずにいられたであろう単語やその持つ意味が重い。

こいわすれ*畠中恵

  • 2011/11/03(木) 07:15:18

こいわすれこいわすれ
(2011/09/28)
畠中 恵

商品詳細を見る

江戸町名主の跡取り息子・高橋麻之助が親友とともに様々な謎と揉め事に立ち向かう好評シリーズ第3弾。麻之助もとうとう人の親に?


表題作のほか、「おさかなばなし」 「お江戸の一番」 「御身の名は」 「おとこだて」 「鬼神のお告げ」

きょうもきょうとてなんだかんだとつるんでいる幼馴染三人組の麻之助・清十郎・吉五郎である。お気楽者と言われている麻之助なのだが、違和感を放っておけない性質によって面倒ごとを引き寄せている感もあり、その都度真面目に解決に尽力する姿に好感が持てる。性格の違う三人がそれぞれの立場や気性を活かして助け合うのもいい眺めである。ただ今作にはどうにもならない切ないことも多く、読んでいて辛くなることもあった。これからどうなっていくのか案じながら次作を愉しみにしたい一冊である。

> more >>>

ハナシがうごく!*田中啓文

  • 2011/11/01(火) 16:58:25

ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺 4 (笑酔亭梅寿謎解噺)ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺 4 (笑酔亭梅寿謎解噺)
(2010/02/26)
田中 啓文

商品詳細を見る

笑いと涙の青春落語ミステリー第4弾!
ツッパリ落語家・竜二にCDリリースのオファーが!? 師匠の梅寿はついに人間国宝に!? 芸人としての大きな迷いに直面し、それでも落語という芸の奥深さに魅了されていく竜二の、感動の成長譚。


梅寿はじめ笑酔亭一門の面々は相変わらずである。竜二も少しは成長したかと思えば相変わらず芸に迷っているようである。そして、これもいつものことだが、とんでもない事態に陥り、大博打を打つように臨むのであるが、なぜかいつも最後には――ずいぶんひどい目にあるのではあるが――運命が味方してくれる、ようでもある。梅寿のちゃらんぽらんさから垣間見える弟子思いで芸に打ち込む姿は、楽さが大きく滅多に見せないだけに胸打たれるが、いつもそうあってくれたらどんなにか、と思わなくもない。そうなったらちっとも面白くはないが。竜二も行きつ戻りつしながらじりじりと成長しているようだし、次も愉しみなシリーズである。