ウィンター・ホリデー*坂木司

  • 2012/02/29(水) 17:15:19

ウィンター・ホリデーウィンター・ホリデー
(2012/01)
坂木 司

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届けたい。間に合わないものなんてないから。一人から二人、そして…。父子の絆の先にある、家族の物語。父親は元ヤン・元ホスト・現宅配便ドライバー、息子はしっかり者だけど所帯じみてるのが玉にきずの小学生。冬休み、期間限定父子ふたたび。


前作『ワーキング・ホリデー』は夏休みだったが、今回は冬休み前からはじまる。大和はもうすっかり夏休みに突然現れた息子・進を待ちわびる父親である。今回も、場当たり的な大和としっかりものの進の好対照に苦笑いし、まだまだ回り道をしているようなところのある距離感をもどかしく思いつつ、父子の絆の深まりに胸を熱くするのだった。そしてなにより今回は、進の母・由希子との関係にも前回とはひと味違う進展――と言ってしまっていいであろう――があって、今後に期待が持てるのだった。大和や進を囲む個性は揃いの面々のあたたかな気持ちも変わらずにあって、読者もその一員になった心地で応援してしまうのである。まだまだもっともっと続きを読みたい一冊である。

プリティが多すぎる*大崎梢

  • 2012/02/26(日) 17:09:00

プリティが多すぎるプリティが多すぎる
(2012/01)
大崎 梢

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「なんで俺がこんな仕事を!」女の子雑誌で孤軍奮闘する新米編集者の爽快お仕事小説。


新見佳孝は四月の移動でローティーンむけのファッション誌「ピピン」の編集部に配属になった。文芸志望の佳孝は、これ以上ないほど腐り落ち込む。「なんで俺がこんな仕事を!」というわけである。編集の現場も勝手が違いすぎ、なにをどうしたらいいのかさっぱり判らず、もちろんやる気も起きない。新美南吉にちなんでかいきなり「南吉くん」と呼ばれるようになり、それにさえ閉口するばかりである。そんな南吉が、十代のモデルたちの悲喜交々の事情や健気さ、スタッフの真剣さなどを目の当たりにし、失敗を繰り返しながら、知らず知らずの内にその仕事や場に愛着を感じはじめる様子が、感動的である。南吉くん、元来真面目なのである。モデルとして活動を始めると輝きを放つ十代の女の子のように、南吉くんも見事に輝く日が来るかもしれない。いまはまだ未熟者だが、そんな期待も感じさせられる一冊である。

金米糖の降るところ*江國香織

  • 2012/02/25(土) 17:08:23

金米糖の降るところ金米糖の降るところ
(2011/09/28)
江國 香織

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ブエノスアイレス近郊の日系人の町で育った佐和子とミカエラの姉妹は、少女の頃からボーイフレンドを“共有すること”をルールにしていた。留学のため来日したふたりだったが、誰からも好かれる笑顔の男・達哉に好意を抱く。しかし達哉は佐和子との交際を望み、彼女は初めて姉妹のルールを破り、日本で達哉と結婚。ミカエラは新しい命を宿してアルゼンチンに帰国する。20年後、佐和子は突然、達哉に離婚届を残して、不倫の恋人とともにブエノスアイレスに戻る。一方、妹のミカエラは多感な娘に成長したアジェレンと暮らしていたが、達哉が佐和子を追いかけ、アルゼンチンにやってくると…。東京とアルゼンチン・ブエノスアイレス、華麗なるスケールで描く恋愛小説。


日本とアルゼンチンの首都ブエノスアイレスを舞台にした恋愛物語である。日本だけでは成り立たなかっただろうし、ブエノスアイレスだけでもまたこの物語にはならなかっただろうと思われる。場の力と、血ではなく育ちの及ぼす影響力のようなものも滲み出てくる。いくつかの恋愛が出てくるが、どれもまっすぐなものであるにもかかわらず、どこか屈折した何かを秘めていて、しかも一対一の関係はひとつも出てこないところが著者らしい。タイトルの金米糖は、佐和子とミカエラ姉妹が子どものころ、土に埋めたら地球の裏側の子どもたちに星が見えるかもしれないと思ってせっせと埋めた、というエピソードからきているのだが、いくつもの三角関係が複雑に重なり合う様をなぞらえているようにも見える。美しい風景とあいまって、なにが真実なのか見失いそうになる一冊である。

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きなりの雲*石田千

  • 2012/02/22(水) 17:04:34

きなりの雲きなりの雲
(2012/02/01)
石田 千

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古びたアパートの住人たち。編みもの教室に通う仲間たち。大切にしていた恋を失くし、すさんだ気持ちから、ようやく顔を上げたとき、もっと、大切なものが見つかった。傷ついた心だけが見えるほんとうの景色。愛おしい人たちとのかけがえのない日々を描き、「群像」発表時から話題を集める著者初の長篇小説。第146回芥川賞候補作。


傷心のあまり体調を崩し、殻の内側に篭もるように過ごした日々から、少しずつ外に目を向けられるようになり、人の暖かさや縁の不思議、すくすくと育つ植物の生命力に助けられ見守られて、生きることを取り戻してゆく物語である。アパートの管理人や住人、編み物教室の生徒たちなどの想いに触れ、幾度も熱いものがこみあげてくる。人はひとりきりでは生きられない、そして、助けを求めるのは忌むべきことでもなんでもないのだと、あたたかさと共に思わせてくれる一冊である。

スウィート・ヒアアフター*よしもとばなな

  • 2012/02/19(日) 17:39:09

スウィート・ヒアアフタースウィート・ヒアアフター
(2011/11/23)
よしもと ばなな

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命の輝きが、残酷で平等な世界の中で光を増していく――。
今、生きていること。その畏れと歓びを描き切った渾身の書き下ろし長編小説!

「とてもとてもわかりにくいとは思いますが、この小説は今回の大震災をあらゆる場所で経験した人、生きている人死んだ人、全てに向けて書いたものです。」――よしもとばなな

ある日、小夜子を襲った自動車事故。同乗していた恋人は亡くなり、自身はお腹に鉄の棒が刺さりながらも死の淵から生還するが、それを機に小夜子には、なぜか人には視えないものたちが見えるようになってしまった。行きつけのバーに行くと、いつもカウンターの端にいる髪の長い女性に気付いたり、取り壊し寸前のアパート「かなやま荘」の前を通ると、二階の角部屋でにこにこと楽しそうにしている小柄な女性がいたり……。その「かなやま荘」の前で出会った一人の青年・アタルと言葉を交わすうちに、小夜子の中で止まっていた時間がゆっくりと動き始める。事故で喪ってしまった最愛の人。元通りにならない傷を残した頭と体。そして、戻ってこない自分の魂。それでも、小夜子は生き続ける。命の輝きが、残酷で平等な世界の中で光を増していく。今、生きていること。その畏れと歓びを描き切った渾身の書き下ろし。


震災のことは物語の中にそれと判るようには触れられていないが、不慮の事故で亡くなった恋人を、同じ事故で生き残った小夜子がどう弔い、これからどう生きていくか、ということを描くなかに著者の気持ちがこめられているのだろう。ある日突然愛する人を喪った心は、単純に悲しみ――あるいは哀しみ――に覆い尽くされるだけでなく、名づけられない空白部分も多く、それこそが扱い辛く宥め難いのだと想像することはできる。そんな名づけられない気持ちの動きが、著者らしいスピリチュアルな感じで語られているので、読者も小夜子と一緒に、いまある事々を受け容れていけるようになるのではないだろうか。やりきれなくはあるが、生きる力も感じられる一冊である。

口紅のとき*角田光代 上田義彦(写真)

  • 2012/02/18(土) 16:54:38

口紅のとき口紅のとき
(2011/12)
角田 光代、上田 義彦 他

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初恋、結婚、別離…ドラマはいつも口紅とともに。角田光代書き下ろし短編小説。


2007年に東京・銀座のハウス オブ シセイドウで開催された展覧会<「口紅のとき」上田義彦・角田光代+時代の口紅たち>で発表された撮り下ろし写真、「色をまとう」と代され発表された書き下ろし小説、だそうである。
6歳、12歳、18歳、29歳、38歳、47歳、とひとりの女性を追いながら、節目節目で印象的な口紅にまつわるできごとが語られている。そして、上田氏のやはり口紅とさまざまな年代の女性をモチーフにした写真が挟み込まれ、物語のイメージをくっきり際立たせるスパイスになっている。その後また、65歳、79歳と物語が続くのである。女性の生き様だけでなく、口紅のありようもさまざまであり、唇に紅を差すという行為にいろんな思いがこめられていることに改めて気づかされる一冊でもある。

空色バトン*笹生陽子

  • 2012/02/18(土) 07:43:45

空色バトン空色バトン
(2011/06)
笹生 陽子

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母親の死によりひもとかれた25年前の同人誌。あのころの想いは、時代を、場所を、性別を越えてつながっていく―児童文学の旗手が少女期の想いを瑞々しくつなぐ連作短篇集。


「サドルブラウンの犬」 「青の女王」 「茜色図鑑」 「ぼくらのパーマネントイエロー」 「パステル・ストーリー」 「マゼンタで行こう」

色でつなぎ、人でつながる、六つの連作短篇集。
中学時代漫画の同好会を作り、たった一度同人誌らしきものを作った仲間たちとその家族が、次々にバトンを手渡しながら、時間を行き来しながら現在に戻ってくる。結婚し二人の子どもがいるショーコが亡くなったところからはじまり、葬儀に参列した現在の仲間たちをさらりと紹介する形になっているので、その後時代を遡ってもイメージが掴みやすい。人の縁や、出会いのタイミング、予測できない人生のことを思わされる一冊である。

ロコモーション*朝倉かすみ

  • 2012/02/17(金) 07:50:53

ロコモーションロコモーション
(2009/01/21)
朝倉 かすみ

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小さなまちで、男の目を引く「いいからだ」を持て余しつつ大人になった地味な性格のアカリ。色目を使われたり「むんむんちゃん」などのあだ名をつけられたりしない静かな生活を送りたくて、大きなまちに引っ越し、美容関係の仕事を見つけた。しかし、新しくできた屈託のない親友、奇妙な客、奇妙な彼氏との交流が、アカリの心の殻を壊していく―。読む者の心をからめ取る、あやうくて繊細でどこか気になる女のひとの物語。


登場人物の誰にも――それがいいことかどうかはともかく――自分を投影しながら読むことはできないのだが、こんな風にしか生きられない女の人もいるのだろうな、というのはやるせなさと共に伝わってくる。もしもアカリのからだつきが性格と同じくらいに地味で目立たないものだったとしたら、彼女の人生はおそらくまったく別のものになっていたのだろう。 それでもアカリに、抗う術はなかったのだろうか、とやりきれなさと共に思う一冊である。物語のその後、アカリはしあわせになれるのだろうか。

夜叉桜*あさのあつこ

  • 2012/02/15(水) 18:59:54

夜叉桜夜叉桜
(2007/09/21)
あさの あつこ

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「生きるという、ただそれだけのことが何故にこうも不自由なのかと、思うことがございます」江戸の町で、女郎が次々と殺されていく。誰が、何のために?切れ者ゆえに世にいらだつ若き同心・信次郎は、被害者の一人が挿していた簪が、元暗殺者の小間物問屋主人・清之介の店『遠野屋』で売られていたことを知る。因縁ある二人が交差したとき、市井の人々が各々隠し抱えていた過去が徐々に明かされていく。生き抜く哀しさを、人は歓びに変えることが出来るのか。


遠野屋清之介シリーズ――と言っていいのか、同心・信次郎シリーズと言うべきか――、読むのがすっかり逆順になってしまったが、これが二作目である。『木練柿』で黒田屋の事件と言っていたのがこれであったのだ。おぞましい一連の事件である。人間の成せる業とは思えない血も涙もないやり口ではあるが、裏には紛れもない人間の懊悩が蠢いているのである。信次郎と清之介がまみえる際の緊張感、岡っ引きの伊佐次の思い入れや穏やかさ、清之介の迷いや希望といったものが、複雑に絡み合って、興味深い一枚の織物になっていくようである。人の心の闇を見せつけられたような一冊でもある。

極北ラプソディ*海堂尊

  • 2012/02/11(土) 16:49:39

極北ラプソディ極北ラプソディ
(2011/12/07)
海堂 尊

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『極北クレイマー』につぐ、週刊朝日連載の迫力満点の第2弾。崩壊した地域医療に未来はあるのか?「夕張希望の杜」の医師である村上智彦氏は朝日文庫判『極北クレイマー』の解説で、「ここで起こった事は将来の日本全体の縮図である」と書いた。
『極北ラプソディ』は閉鎖の危機にある極北市民病院に、赤字建て直しのために世良院長がやって来たところから始まる。彼は再生のために、訪問介護の拡充、人員削減、投薬抑制をかかげた。
また世良院長は雪見市の極北救命救急センターに外科医・今中をレンタル移籍した。瀕死の地域医療でもっとも厳しい局面にたつ救急医療。速水センター長の指示をあおぐことになった。移籍から3日目には、速水が指揮をとる「将軍の日」で、入れ替わり立ち替わり救急患者が訪れる一日になった。文字通りの救急医療の修羅場に遭遇する今中。
一方、極北救命救急センター長の桃倉は息子が出場したスキー大会を見学していたが、雪崩に巻き込まれ、命が危険な状態に。速水はドクターヘリの出動を宣言した。医療と行政の根深い対立をえがき、地域医療の未来を探る渾身のメディカル・エンターテイメント。
目次・ 第一部極北の架橋 1章通り過ぎるサイレン 2章テレビ先生の三つの宣言 3章赤鼻課長の訪問 4章世界は孤立していない 5章古巣探訪 6章極北市を治療しましょう 7章市長懇談会 8章監察医務院の闇 9章救急車の静寂……第二部雪見の夏空 第三部光のヘリポート 第四部オホーツクの真珠


破綻した極北市と隣の健全な雪見市を舞台に繰り広げられる医療現場再生への取り組みの物語。再生へ向けてもがく医療現場と行政の埋められない溝が読んでいるだけでもどかしい。だが、自分の領域で力を尽くしている姿は、それが脚光を浴びるか浴びないかに関係なく輝いて見え、胸を打たれる。世良しかり、速水しかり、そのほかの登場人物たちもみなそれぞれの力を尽くしていてカッコイイのである。そして、科学の最先端の医療現場であっても、全力で心を傾けていれば神は降りてくるのだ、と信じられる。手に汗握り、胸を熱くし、ほろりとさせられる一冊である。ラストの速水は少しばかり切なかったが。

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銀河に口笛*朱川湊人

  • 2012/02/08(水) 19:26:45

銀河に口笛銀河に口笛
(2010/03/05)
朱川 湊人

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昭和40年代――。小学3年生の僕らは、身の回りに起こる不思議な事件を解決する「ウルトラマリン隊」を結成した。やがて僕らの小学校に不思議な力を持つ少年リンダが転校してきた……。ノスタルジックな雰囲気満載の連作長編小説。


時代の雰囲気を、主人公の少年たちとほぼ同年代として体験しているだけに、その場に流れる空気がとてもよくわかり懐かしい。大人になったモッチがいまはもう会えないキミ=リンダに語りかけながら回想するという手法をとっているのでなおさらノスタルジックな趣になるのかもしれない。子どもたちを取り巻く大人の世界ではさまざまな出来事が起こり、その影響は、子どもたちの世界にも大人が思うよりも色濃く及ぶ。子どもなりに頭を悩ませ、自分たちで解決していることも意外に多いのである。流れ星が落ちた日に出会った少年リンダは、少し不思議な力を持ち、彼らの日常に小さな波紋を広げ、虹色の夢を見せたのかもしれない。読みながらときどき小路さんを読んでいるような心地になった。悪人の出てこない、切なく胸に沁みる一冊である。

傷痕*桜庭一樹

  • 2012/02/07(火) 17:07:07

傷痕傷痕
(2012/01/12)
桜庭 一樹

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この国が20世紀に産み落とした偉大なるポップスターがとつぜん死んだ夜、報道が世界中を黒い光のように飛びまわった。彼は51歳で、娘らしき、11歳の子どもが一人残された。彼女がどうやって、誰から生を受けたのか、誰も知らなかった。凄腕のイエロー・ジャーナリズムさえも、決定的な真実を捕まえることができないままだった。娘の名前は、傷痕。多くの人が彼について語り、その真相に迫ろうとする。偉大すぎるスターの真の姿とは?そして彼が世界に遺したものとは?―。


舞台は日本であり、登場人物ももちろん日本人であるが、どこをどう見てもマイケル・ジャクソンである。だが、そうとわかって読んでもなお、これはまぎれもなく著者の世界なのである。我国が誇るキング・オブ・ポップの弾け輝く一生と、併せ持つ寂しさ哀しさが胸に迫る。突然どこからか現れた彼の娘・傷痕も、彼と二人だけのときの委ね切った子どもらしさと、表に晒されるときの痛々しさが裏腹で切ない。彼亡きあとの傷痕のしあわせを祈らずにはいられない。強すぎる光の一歩外がいちばん深い闇であるような寂しい印象が強く胸に残る一冊である。

漂流家族*池永陽

  • 2012/02/06(月) 11:03:00

漂流家族漂流家族
(2011/03/16)
池永 陽

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様々な家族の情景を切り取った短編集。娘を嫁に出す父親、自身の再婚と息子の問題で揺れる女性、不倫を清算したい会社員、食堂を切り盛りする女将と従業員の微妙な関係など、背筋が凍るような物語から心温まる物語まで8編を収録。


「父の遺言」 「いやな鏡」 「若い愛人」 「紅の記憶」 「不鈴」 「十年愛」 「薄いカツレツ」 「バツイチ」

胸を熱くする物語、チクリと刺しこむような物語、薄ら寒くなる心地の物語、と趣はさまざまだがどれも見えているようで見ていない家族の情景を描き出していて見事である。テイストにかかわらず、最後の最後でひと捻りされているのも心憎い。家族のことを心をこめて考えてみようと思わされる一冊でもある。

アイム・ファイン!*浅田次郎

  • 2012/02/05(日) 16:59:38

アイム・ファイン! (小学館文庫)アイム・ファイン! (小学館文庫)
(2011/09/06)
浅田 次郎

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「鉄道員」で直木賞を受賞したベストセラー作家によるエッセイ集。
JAL機内誌「SKYWARD」人気連載中の旅エッセイ「つばさよつばさ」の単行本化第2弾です。
第1弾は2007年に単行本『つばさよつばさ』として刊行し、2009年10月に同名タイトルで小学館文庫より刊行。好評を博しています。
今作品も前作に引き続き旅をテーマにした一冊。ベストセラー作品『蒼穹の昴』の中国ロケで起きたこととは?(『西太后の遺産』)、
熊本で出会った""しろくま""の正体とは?(『しろくま綺譚』)など笑いあり、涙ありの浅田節が存分に描かれています。


その風貌から想像されるよりも、恥ずかしがり屋で小心で律儀な様子が微笑ましくもある。サービス精神も旺盛なようで、旅の企画はとても興味深い。どこを取っても浅田次郎がぎっしり、といった趣の一冊である。愉しい。

曽根崎心中*角田光代

  • 2012/02/03(金) 18:58:43

曾根崎心中曾根崎心中
(2011/12/22)
角田 光代、近松 門左衛門 他

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著者初の時代小説
300年の時を超え、究極の恋物語がふたたび始まる。

============
愛し方も死に方も、自分で決める。

ーー
江戸時代、元禄期の大坂で実際に起きた、醤油屋の手代・徳兵衛と、
堂島新地の遊女・初の心中事件をもとに書かれた、
人形浄瑠璃の古典演目『曾根崎心中』の小説化に、角田光代が挑みました。

原作の世界を踏襲しながら、初の心情に重きを置き、
運命の恋に出会う女の高揚、苦しみ、切迫、その他すべての感情を、
細やかな心理描写で描ききり、新たな物語として昇華させました。

運命の恋をまっとうする男女の生きざまは、
時代を超えて、美しく残酷に、立ち上がる―
この物語は、いまふたたび、わたしたちの心を掻きたてます。


恋を知らない小娘のころから、運命の人と出会ってしまい、一瞬にして離れがたくなり、愛しい人と手に手をとって逃げ出すまでのお初の気持ちの移り変わりが丁寧に生き生きと描かれている。読者は知らず知らずお初に寄り添って読み進めてしまう。あまりにも切ないお初の恋であり、その胸の裡が手に取るように読み取れる。ほかにしあわせになる方法はなかったのだろうか、と時代と状況とを度外視して思わされる一冊である。

きれいごと*大道珠貴

  • 2012/02/02(木) 16:48:35

きれいごときれいごと
(2011/12)
大道 珠貴

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平尾美々(びび)、44歳・独身。逗子に家を買った。これからは何でも一人でするのだ。でも、妊娠することを妄想してみたり、親戚のお爺さんが転がりこんできたり。気楽だけれど、楽じゃない。独身・家持ち女の静かな暮らしを描く、芥川賞作家の長篇小説。


帯にある「静かな暮らし」を描いている、というよりも、そこへ行き着くまでの紆余曲折が描かれていると言った方が当たっているかもしれない。しかも、表向きに現れる美々の状態が、「静か」と言えるときであっても、胸の裡で膨らませる妄想はにぎやかなことこのうえない。なかなか独特な世界に生きる女の人である。美々のことを深く知るのは無理かもしれない、と思わされる一冊である。