しあわせなミステリー

  • 2012/04/30(月) 19:46:01

しあわせなミステリーしあわせなミステリー
(2012/04/09)
伊坂 幸太郎、中山 七里 他

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伊坂幸太郎(第5回本屋大賞受賞/第21回山本周五郎賞受賞)、中山七里(第8回『このミス』大賞受賞)、柚月裕子(第7回『このミス』大賞受賞)、吉川英梨(第3回日本ラブストーリー大賞特別賞受賞)ら大人気作家が、“人の死なない"幸せなミステリーをお届けします。伊坂節全開、決して期待を裏切らない超絶人気作家の書き下ろし短篇「Bee」。ラストで想定外の巧妙な仕掛けが炸裂する中山七里の新境地「二百十日の風」、新たな高みに到達した検事・佐方シリーズ、感動の新作「心を掬う」。ドラマ化の女性秘匿捜査官・原麻希シリーズからは子供探偵・原菜月(6歳)が大活躍の「18番テーブルの幽霊」。以上四篇を収録。


死体がごろごろ転がる物語よりも、リラックスして読める一冊である。とは言え、はらはらどきどきは充分に愉しめる。伊坂さんは、一瞬、また壮絶な殺し合い?と思わされるが、今回はさにあらず、である。微笑ましくさえある。ほかはみな初読みの作家さんだったが、どの物語も平穏とは言えないが人は殺されず、ラストに微笑が残るような物語で、心がほんわかする一冊である。

短編復活

  • 2012/04/30(月) 08:02:01

短編復活 (集英社文庫)短編復活 (集英社文庫)
(2002/11/20)
赤川 次郎、浅田 次郎 他

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「小説すばる」に掲載されてきた、膨大な数の短編小説を厳選してお届けするアンソロジー。ミステリから恋愛小説、はたまた爆笑ユーモア小説まで、とっておきの16編を集めました。


赤川次郎、浅田次郎、綾辻行人、伊集院静、北方謙三、椎名誠、篠田節子、志水辰夫、清水義範、高橋克彦、坂東眞砂子、東野圭吾、宮部みゆき、群ようこ、山本文緒、唯川恵

圧巻である。著者名を見ただけで、ジャンルも作風も色とりどりで読書欲をそそられる。そしてもちろん、読み始めても予想を裏切られることはない。短編集なので隙間時間に読めるのに、こんなに愉しめていいのだろうか、という一冊である。

キングを探せ*法月綸太郎

  • 2012/04/27(金) 17:23:53

キングを探せ (特別書き下ろし)キングを探せ (特別書き下ろし)
(2011/12/08)
法月 綸太郎

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奇妙なニックネームで呼び合う4人の男たち。なんの縁もなかった彼らの共通項は“殺意”。どうしても殺したい相手がいる、それだけで結託した彼らは、交換殺人を目論む。誰が誰のターゲットを殺すのか。それを決めるのはたった4枚のカード。粛々と進められる計画に、法月警視と綸太郎のコンビが挑む。


法月警視&綸太郎親子シリーズ。
交換殺人の謎を解く物語である。やたらと順調な滑り出しで、こんなに早くからくりに気づいてしまっていいのだろうか、と思ってしまうほどである。ターゲットを決める際のカードの組み合わせも綸太郎の読みのとおりだったし、全面解決は時間の問題、と思われたが、それほどすんなりと解決には至らないのだった。犯人たちにとっての番狂わせが起きると、、途端に先行きが読めなくなり、物語は俄然おもしろさを増す。父と子の語らいのなかで、謎を解くヒントがアンテナに引っかかるのも微笑ましく興味深い。ずっと続いて欲しいシリーズである。

三匹のおっさん ふたたび*有川浩

  • 2012/04/26(木) 14:12:21

三匹のおっさん ふたたび三匹のおっさん ふたたび
(2012/03/28)
有川 浩

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剣道の達人・キヨ、柔道の達人・シゲ、機械をいじらせたら右に出る者なしのノリ。「還暦ぐらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか!」と、ご近所の悪を斬るあの三人が帰ってきた! 書店万引き、不法投棄、お祭りの資金繰りなど、日本中に転がっている、身近だからこそ厄介な問題に、今回も三匹が立ち上がります。ノリのお見合い話や、息子世代の活躍、キヨの孫・祐希とノリの娘・早苗の初々しいラブ要素も見逃せません。漫画家・須藤真澄さんとの最強タッグももちろん健在。カバーからおまけカットまでお楽しみ満載の一冊です。


三匹のおっさん、相変わらずカッコイイ。三人三様の個性を的確に活かし、でしゃばりすぎず目立ちすぎず、分をわきまえて悪を斬る。おっさんたちの活躍はもちろんだが、彼らの家族の悩みやトラブルが次の行動のきっかけになったり、思いやりが人の心を救ったり。再婚話あり、若者の恋あり、過去の恋心あり、明日を生きる希望あり。人はひとりで生きているわけではない、ということを実感させてくれる一冊である。

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ある一日*いしいしんじ

  • 2012/04/26(木) 08:23:25

ある一日ある一日
(2012/02/29)
いしい しんじ

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こんどこそ生まれてきてくれる――。赤ん坊の誕生という紛れもない奇跡。京都、鴨川にほどちかい古い町屋に暮らす四十代の夫婦のもとに、待ちに待った赤ん坊が誕生する。産みの苦しみに塗りこめられる妻に寄り添いながら、夫の思いは、産院から西マリアナ海嶺、地球の裏側のチリの坑道まで、遠のいてはまた還ってくる。陣痛から出産まで、人生最大の一日を克明に描きだす、胸をゆすぶられる物語。


ある夫婦のある一日がつぶさに描かれている、それだけの物語である。ただ、その一日というのは、やっと授かり、待ちに待った我が子誕生のその日なのである。ほかのどの一日とも際立って違う一日なのである。産む者と生まれ出る者、そしてつきっきりで立ち会う者それぞれの存在のありようが、くっきり別のことではあるのだが、ひとつのことを成し遂げようとする一体感を持って胸に迫るのである。この物語は、この夫婦と生まれる子どもだけのものなのだが、読む者それぞれが、我が身のそのときのことを胸によみがえらせながら、特別な気持ちを抱きつつページを捲る一冊である。

聖女の救済*東野圭吾

  • 2012/04/23(月) 19:36:39

聖女の救済聖女の救済
(2008/10/23)
東野 圭吾

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男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は―虚数解。理論的には考えられても、現実的にはありえない。


ガリレオシリーズである。
ドラマの、湯川=福山がどうも腑に落ちなくて、それを想定して書かれているような後続作品を読む気になれずにいたのだが、やはり手が出てしまったのだった。福山、柴咲コンビに見えてしまうのは仕方がないとしても、それ以外はさすが東野さんだった。よくこんなトリックを考えついたものである。読み進めるほどに、新たな局面がちらちらと姿を現すので、目が離せなくなる。内海の動物的勘や、草薙の恋(?)心も、物語に面白みを増すスパイスになっている。タイトルも秀逸な一冊である。

迷宮*清水義範

  • 2012/04/22(日) 16:50:56

迷宮迷宮
(1999/06)
清水 義範

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一人暮らしの24歳OLが、自宅マンションで殺された。事件は被害者の性器が切除され、アイスクリームの中に埋められていたことで世間を震撼させる…。この猟奇殺人をめぐる週刊誌報道、取材記録、供述調書、手記、手紙、そしてモデル小説―。ひとつの事実をめぐるさまざまな言葉は、果たして真相を明らかにすることに成功するのか。ことば、言葉、コトバに溢れる現代社会の病的日常を照らし出すスリリングな問題小説。


まさにスリリングな物語である。記憶喪失にかかったと思われる男が、治療と称してある猟奇的な犯罪にまつわるさまざまな文章を読まされる場面が物語の大半を占めるのだが、何のために治療者は男にこの文章を読ませるのか、男は一体だれなのか、そしてそもそも治療者はだれなのか、という疑問がどんどん湧き起こり、犯罪の異様さと相まって読者を迷宮へと誘いこむのである。治療するものとされる者の果たしてどちらが正気なのか、読むほどに判らなくなり、居心地の悪い読後感の一冊でもある。

中途半端な密室*東川篤哉

  • 2012/04/19(木) 19:42:05

中途半端な密室 (光文社文庫)中途半端な密室 (光文社文庫)
(2012/02/14)
東川 篤哉

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テニスコートで、ナイフで刺された男の死体が発見された。コートには内側から鍵が掛かり、周囲には高さ四メートルの金網が。犯人が内側から鍵をかけ、わざわざ金網をよじのぼって逃げた!?そんなバカな!不可解な事件の真相を、名探偵・十川一人が鮮やかに解明する。(表題作)謎解きの楽しさとゆるーいユーモアがたっぷり詰め込まれた、デビュー作を含む初期傑作五編。


表題作のほか、「南の島の殺人」 「竹と死体と」 「十年の密室・十分の消失」 「有馬記念の冒険」

正直、「謎解き~」シリーズは、これ以上追いかけなくてもいいかな、という感じだったのだけれど、この短編集は、初期の頃の作品ということで、コミカルなタッチではあるものの、「謎解き~」シリーズほどぶっとんでいないからか、期待以上におもしろかった。ミステリ部分がしっかり立ち上がっているので、個人的にはこちらの方が好みである。表題作だけが十川一人が探偵役で、ほかは探偵役の山根敏とワトソン的な七尾幹夫のコンビが主役なのだが、彼らのシリーズならもっと読んでみたいと思わされる一冊だった。

だれかの木琴*井上荒野

  • 2012/04/18(水) 20:29:02

だれかの木琴だれかの木琴
(2011/12/09)
井上 荒野

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どうしてわかってくれないのだろう。私はあなたが大好きなだけなのに。
主婦の小さな失望が、日常を静かに歪めていく。直木賞作家の待望の最新長編小説!

「またお店でお会いできるのを楽しみにしています」平凡な主婦・小夜子が、ふと立ち寄った美容室で担当してもらったスタイリスト・海斗から受け取った一本の営業メール。ビジネスライクなメールのやりとりは、やがて小夜子に自分でも理解できない感情を生んだ。どうしたら、彼のメールを取り返せるのだろう。だんだんと海斗への執着をエスカレートさせる小夜子。だが、自分が欲しいのは本当に海斗なのだろうか……。明らかに常軌を逸していく妻を、夫である光太郎は正視できない。小夜子のグロテスクな行動は、やがて、娘や海斗の恋人も巻き込んでゆくが――。


胸のなかにヒューヒューと風が吹き抜けるような読後感である。何かがすっぽりと抜け落ち、それがあった場所が埋めようもなく寒々としているような。偶然担当してもらった美容師からの一通のお礼メールが、見ないようにしていた穴の存在に光を当ててしまったのかもしれない。小夜子の行動は明らかに常軌を逸しており、その向かう先は海斗なのだが、実は彼を素通りしてその向こうにいるだれかに助けを求めているように思えてならない。そしてそのだれかは、小夜子の変化に気づかない振り、見ない振りをしているのだ。やるせなく救われない一冊である。

居心地の悪い部屋*岸本佐知子・翻訳

  • 2012/04/17(火) 08:20:39

居心地の悪い部屋居心地の悪い部屋
(2012/03/27)
岸本 佐知子

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不条理な暴力の影に見え隠れする計り知れない大きな感情、耐えがたい緊迫感、うっすらと不安になる奇想などなど。編者のダークサイドのアンテナが強烈に反応した異形の作品だけを選りすぐったとっておきの短編集。


十一の居心地の悪い物語が並んでいる。どれも読後の爽やかさとは程遠い。ものすごく厭な気分と言うほどではないのだが、なんとなくどんよりとしてしまう感じなのである。こんな物語ばかりを集めた岸本さんを、お見事!と言っていいのだろうか。体調が悪いときには悪い方に作用しそうな一冊である。

PK*伊坂幸太郎

  • 2012/04/16(月) 17:00:00

PKPK
(2012/03/08)
伊坂 幸太郎

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その決断が未来を変える。連鎖して、三つの世界を変動させる。こだわりとたくらみに満ちた三中篇を貫く、伊坂幸太郎が見ている未来とは―。未来三部作。


表題作のほか、「超人」 「密使」

中篇三作なのだが、大きく見ると長篇一作としても読めるような仕掛けが著者らしい。デビュー以来、神様のレシピ的な大いなるなにかを書きつづけられているが、今回もその思いは根底に流れている。運命と言ってしまうには、もう少し流動的で、自らの働きかけで微妙に流れが変わっていくのが、前向きな未来を感じさせられて好ましい。表紙のドミノ倒しが象徴的である。SFのようでもあり、人生訓のようでもあり、哲学的にも感じられる一冊である。

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荻窪シェアハウス小助川*小路幸也

  • 2012/04/15(日) 08:11:19

荻窪 シェアハウス小助川荻窪 シェアハウス小助川
(2012/02/22)
小路 幸也

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やりたいこと、夢、特になし。自慢は家事の腕前だけ。そんな佳人が背中を押されて始めたのは、見ず知らずの男女6人+管理人のタカ先生での共同生活。“シェアハウス小助川”という名前の医院を改築した大きな“家”で―。優しすぎて生きづらい、不器用な若者たちの成長を温かい視線で描ききった長編エンタメ。


小路さんらしいやさしくあたたかい物語である。だが、ただふんわりと甘くやさしいだけでなく、シェアハウスの住人たちそれぞれが抱えているものを、それぞれにとっていちばんいいと思える形で明らかにし、解きほぐしていくので、ときに仄かな苦味や酸味もあったりするのである。底に流れるものがお互いに対する思いやりなので、暴露趣味にならずに最良の形になるのだろう。小助川医師、佳人はじめ、住人ひとりひとりがきちんと自分の役割を担いつつ、自分自身を大切に生きている姿が好ましい一冊である。数年後のシェアハウス小助川の様子が目に浮かぶようである。

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高原のフーダニット*有栖川有栖

  • 2012/04/14(土) 08:14:30

高原のフーダニット高原のフーダニット
(2012/03/16)
有栖川 有栖

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「オノコロ島ラプソディ」容疑者には鉄壁のアリバイ。国産み神話の淡路島で、火村を待ち受ける奇天烈な事件。「ミステリ夢十夜」有栖川有栖は近ごろ怪夢を見る。火村と彼を次々と不可思議が襲う夢だ。今夜もきっと…。「高原のフーダニット」弟を手にかけました…美しい高原を朱に染めた双子殺人事件は、一本の電話から始まった。透徹したロジックで犯人に迫る、これぞ本格=フーダニットの陶酔。ミステリ界の名手、初の中編集。


火村英生&アリスシリーズ。
間に挟まっている「夢十夜」が十の掌編のようで、ちょっとおもしろい構成の一冊である。アリスが見る夢が、火村に対する深層心理が表れているようで興味深い。そして、ほかの二作では、いつもアリスがいい加減に思いつきを口にしているように見えていたことが、実は火村の推理に役立っていたことも判って、勝手に胸をなでおろしたのであった。アリス本人に自覚がないところがまたいい。火村先生、もっともっと引っ張り出して欲しいと思わせられる一冊である。

Happy Box

  • 2012/04/12(木) 19:02:38

Happy BoxHappy Box
(2012/03/08)
伊坂 幸太郎、小路 幸也 他

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東日本大震災から一年、「幸せ」について、人々の関心が高まっている――。本書はその「幸せ」をテーマに、ペンネームに「幸」が付く5名の人気作家が書き下ろした短篇小説集。
「weather」(伊坂幸太郎著)は、結婚披露宴を舞台に、伊坂ワールドが展開する作品。主人公の大友は、親友・清水の披露宴に出席することになったが、新婦から、女性関係が派手な清水の調査を頼まれる。最近、不審な言動が多いというのだ。司会の女性、ウエディングケーキ、キャンドルサービス。どこもかしこも怪しげに思えてくる披露宴。そして宴もたけなわとなった時、大友はあることに気づくのだが……。
他、おばあちゃん掏摸師を主人公にした「天使」(山本幸久著)、SFテイストの「ふりだしにすすむ」(中山智幸著)、搦め手から“幸せ”に迫った「ハッピーエンドの掟」(真梨幸子著)と「幸せな死神」(小路幸也著)を収録。
思いも形も色とりどりの、五つの“幸せ”を堪能できる作品集。


解説を読んで初めて気づいた。五人の作家さんのお名前すべてに「幸」が入っているのである。そしてテーマは「幸せ」。なんとしあわせな企画であることか。一見するとしあわせいっぱいではない物語もある――というかそちらの方が多い――が、描かれているのはそれぞれのしあわせの形である。そして、最後の解説を読むと、それぞれの作家さんの、このテーマを前にしての取り組み方がわかって、そのお人柄まで見えてくるようで嬉しい限りである。まさにHappy Boxな一冊である。

紙の月*角田光代

  • 2012/04/12(木) 14:22:15

紙の月紙の月
(2012/03/15)
角田 光代

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わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が約1億円を横領した。梨花は発覚する前に、海外へ逃亡する。梨花は果たして逃げ切れるのか?―--自分にあまり興味を抱かない会社員の夫と安定した生活を送っていた、正義感の強い平凡な主婦。年下の大学生・光太と出会ったことから、金銭感覚と日常が少しずつ少しずつ歪んでいき、「私には、ほしいものは、みな手に入る」と思いはじめる。夫とつましい生活をしながら、一方光太とはホテルのスイートに連泊し、高級寿司店で食事をし、高価な買い物をし・・・・・・。そしてついには顧客のお金に手をつけてゆく。


梅澤梨花は逃げている。タイのチェンマイで、影のようにどこかに身を滑りこませたいとさまよっている。どうしてそんなことになったかが、それに続く章で明かされていく。主に梨花の語りで物語りは進むが、中学高校の同級生・岡崎木綿子、かつて梨花と付き合ったことのある山田和貴、同じ料理教室に通う中條亜紀らの語る当時の梨花と自分のこと、現在の自分のことなどから、梨花という人間の輪郭が少しずつ描かれていくのが興味深い。そしてまた、梨花を含めて彼らのだれもが、自分というもののありようを見失い、どこに重心を置いたらいいのか判らなくなって迷っている。お金はそんな人間たちにとって麻薬のようなものなのかもしれない。みな一様に正気を失ってふらふらと寄っていってしまうのである。物語の中で梨花が逃げ切れるかどうかはまったく重要視されてはいず、いまに至る過程のひとつひとつが部外者にとっては容易に予想できる判りやすさで、当事者にとってはどこで間違ったのか永遠に判らない心もとなさと共に丁寧に描かれているのである。ある意味怖い一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖*三上延

  • 2012/04/10(火) 18:26:09

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
(2011/03/25)
三上 延

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鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大低ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも、彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは“古書と秘密”の物語。


 プロローグ
 第一話 夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)
 第二話 小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)
 第三話 ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)
 第四話 太宰治『晩年』(砂子屋書房)
 エピローグ

ビブリア古書堂シリーズ一作目。物語は一話完結の連作形式なので、どこから読んでも愉しめるが、二作目から先に読んでしまったので、想像するしかなかった詳しい事情がやっとわかっていろいろと納得できた。それにしても栞子さんの本に対する愛情の深さの並大抵でなさを、またまた思い知らされた。そして、今回は骨折して病院のベッドにいるので、比喩でもなんでもなく動くことができないので、まさに安楽椅子探偵なのである。ほんの少しの手がかりから事件の背景や当事者の心の動きまで推理してしまうのには、舌を巻くしかない。人が出会い、心酔し、強い絆で結ばれるようになるというのはこういうことなのだと思わせてくれる一冊でもある。

無菌病棟より愛をこめて*加納朋子

  • 2012/04/09(月) 22:00:36

無菌病棟より愛をこめて無菌病棟より愛をこめて
(2012/03)
加納 朋子

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2010年6月、私は急性白血病だと告知された。愛してくれる人たちがいるから、なるべく死なないように頑張ろう。たくさんの愛と勇気、あたたかな涙と笑いに満ちた壮絶な闘病記。


著者初のノンフィクションである。ご本人の闘病記なのだ。冗談を交えて軽い調子で書かれているのだが、だからこそご苦労の程が察せられて辛くなる。日記形式で書かれているのだが、その時期のご夫君の様子をtwitterで拝見していたので、あのお忙しそうで大変なときに、我々の見えないところではまったく別の大変な思いをなさっていたのだと知って驚きを隠せない。表に見えることだけではほんとうのことはなにもわからないのだと改めて思い知らされもする。告知を受けたときはどれほどの衝撃だったことかと思うが、身体も心もお辛い中で、見事に自己管理に努めていらっしゃることに感動する。愛する人たちのために、まだまだ死んでなどいられないという強い気持ちが壮絶な治療に立ち向かう力になっているのだろう。これほど早い段階で本になり読者の手元に届いたということにも、著者の生きようというパワーを感じさせられる。一日も早く発病以前の暮らしに戻れますように、そしてまた新しい作品をたくさん読めますように、と祈らずにはいられない一冊である。

凍雨*大倉崇裕

  • 2012/04/09(月) 07:31:51

凍雨凍雨
(2012/03/16)
大倉崇裕

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凍雨―。降られると、雪より辛い、冷たい雨。地元のタクシー運転手の声が、深江の脳裡にこだまする。標高一九二二メートル。福島県北部に位置する単独峰、嶺雲岳。この山を久しぶりに訪れた深江信二郎は、亡き親友植村の妻真弓と、遺児佳子の姿を垣間見る。一方、無頼の男たちを束ねる遠藤達也も入山。彼らを追う中国人組織も現れ、激烈な銃撃戦が開始された。深江と母娘は、その争いに巻き込まれてしまう。山が血で染まっていく…。奴らの正体は?深江と母娘の過去の因縁とは?気鋭が冒険小説に新境地を拓いた、傑作長篇。


山が丸ごと戦場と化したような凄絶な物語である。植村の命日に事故現場に参るために山を登り始めた妻・真弓と娘・佳子、そして(別行動だが)親友の深江だった。これをひと区切りとし、新しい毎日に踏み出すはずだったのだが、それはそう簡単なことではなくなってしまったのだった。中国マフィアと遠藤たちのグループの死闘に巻き込まれ、結果的には両グループ対深江、という構図になってしまう。深江の群を抜く思慮深さと山を知悉した行動力の的確さとその勇気に舌を巻き、遠藤たちの統一感はないが人を殺すことに躊躇いのない行動にいらいらさせられ、一瞬一瞬の判断にはらはらさせられ続ける。肩に力が入り、気の抜けない一冊だった。

玉村警部補の災難*海堂尊

  • 2012/04/07(土) 16:51:54

玉村警部補の災難玉村警部補の災難
(2012/02/10)
海堂 尊

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田口&白鳥シリーズでおなじみの、桜宮市警察署の玉村警部補とキレ者・加納警視正が活躍する、ミステリー短編集です。ずさんな検死体制の盲点を突く「東京都二十三区内外殺人事件」、密室空間で起きた不可能犯罪に挑む「青空迷宮」、最新の科学鑑定に切り込んだ「四兆七千億分の一の憂鬱」、闇の歯医者を描く「エナメルの証言」――2007年より『このミステリーがすごい!』に掲載してきた4編をまとめた、著者初の短編集です。


デジタル・ハウンドドッグのコードネーム通り、加納警視正の嗅覚は並の鋭さではない。その嗅覚が嗅ぎつけた正しくない臭いの元に、超法規的な越権行為で食い込み、真相を明らかにしてしまうのだから、正義の味方のような存在であると言ってもいいはずである。だが、そう手放しで褒め称えられないのは、その強引なキャラクターと、手足のように使われる玉村警部補の情けなくもの哀しい表情が目に浮かぶようだからというのも理由のひとつかもしれない。それでも、事件は解決し、ときには警察の捜査の杜撰さも露呈され、玉村警部補は田口先生のところへ愚痴をこぼしにやってくるのである。短篇集ということもあり、大きな事件の隙間的事件の数々でもあるが、玉村警部補の人柄も手伝って、愉しめる一冊になっている。タマちゃんファンが増えるかもしれない。

眺望絶佳*中島京子

  • 2012/04/05(木) 17:00:34

眺望絶佳眺望絶佳
(2012/02/01)
中島 京子

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自分らしさにもがく人々の、ちょっとだけ奇矯な日々。客に共感メールを送る女性社員、倉庫で自分だけの本を作る男、夫になってほしいと依頼してきた老女。中島ワールドの真骨頂!


「眺望良し。【往信】」 「アフリカハゲコウの唄」 「倉庫の男」 「よろず化けます」 「亀のギデアと土偶のふとっちょくん」 「今日はなんだか特別な日」 「金粉」 「おさななじみ」 「キッズのための英会話教室」 「眺望良し。【復信】」

八つの物語を挟み込むように配された、スカイツリーと東京タワーのやりとりにじんわり泣ける。ことに東京タワーの気持ちがよくわかって、愛おしくなる。そして、東京タワーからスカイツリーへのバトンタッチに象徴される時代の移り変わりが、そのほかの物語にはそれとなく織り込まれている。どこにでもありそうな日常の風景から、ほんのわずか視線をずらしたところにありそうな、アスファルトの割れ目から芽を吹いた小さな緑のような、目立たないがふと目を引かれる風景が詰まった物語である。なんとなく物悲しい気分にもなる一冊である。

味なしクッキー*岸田るり子

  • 2012/04/04(水) 07:38:33

味なしクッキー味なしクッキー
(2011/10/07)
岸田 るり子

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別れを決意して「最後の晩餐」の仕度をする女
高校時代の友人の自殺の真相を知りたがる女
不倫相手にクッキーを焼く女。
気鋭の描く「無垢と悪意」の後味は・・・・・


表題作のほか、「パリの壁」 「決して忘れられない夜」 「愚かな決断」 「父親はだれ?」 「生命の電話」

これは怖い。日常のなかに狂気が潜んでいるようなじわりと外堀から埋められていくような怖さである。後味は決してよくない。甘いと思って食べたら味なしクッキーだったときよりも、おそらく苦味が強い。思わず顔が歪んでしまう物語もある。それでも、次の物語の扉を開けずにはいられない一冊である。

クロス・ファイヤー*柴田よしき

  • 2012/04/02(月) 16:59:58

クロス・ファイヤークロス・ファイヤー
(2012/02/17)
柴田よしき

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天才ピッチャーでスターの麻由とくらべたら、わたしは等級の劣る地味な星。でもそんなわたしの方が、素質が上だなんて…。日本プロ野球のチームに、女性選手が入団。東京レオパーズ所属の楠田栞は、左腕でアンダースローの中継ぎ投手。客寄せパンダと陰で囁かれつつも、同僚で親友の早蕨麻由と励まし合いながら、プレイに、恋に、奮闘中。プロ野球は、才能と運、その両方を掴んだ者だけが成功できる過酷な世界。時にはくじけそうになりながらも、女であることも「幸運」のひとつなのだと、栞は自らに言い聞かせている。そんなある日、栞は臨時投手コーチの雲野と出会う。雲野は言う。おまえの恵まれた体と素質を活かせ、一流になれ、と。そして、とある目標のための特別指導が始まった…。


大のプロ野球好きで知られている著者のプロ野球物語である。ただひと味違うのは、主役が女子選手だということである。レオパーズに入団した早蕨麻由と楠田栞にスポットライトが当てられている。プロ野球の物語でありながら、生き生きとした女性のお仕事物語でもあるところが本作のいちばんの魅力だろう。タイプの違う二人の女性を登場させることで、それぞれの違った悩みや葛藤を浮かび上がらせ、客寄せパンダ的存在としてのジレンマや、野球選手としての体力のことや、恋愛の悩みまで、ひとりの女性としての揺れや悩みがリアルに描かれていて、彼女たちが実際存在するかのような錯覚さえ抱かされる。そして、球界の改革という将来的なことまで背負うことの覚悟を突きつけられたときの、それでも揺れる乙女心も女性作家ならではの細やかで著者自身が見つめているようなやさしさを感じさせられる。いまは夢物語だが、夢ではなくなる日が来るかもしれないという期待を抱かされる一冊でもある。

幸せになる百通りの方法*荻原浩

  • 2012/04/01(日) 08:41:18

幸せになる百通りの方法幸せになる百通りの方法
(2012/02)
荻原 浩

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このムズカシイ時代を、滑稽だけど懸命に生きる人たち―。短篇の名手が贈るユーモア&ビターテイスト溢れる七つの物語。


表題作のほか、「原発がともす灯の下で」 「俺だよ、俺。」 「今日もみんなつながっている。」 「出逢いのジャングル」 「ベンチマン」 「歴史がいっぱい」

どれもそれぞれ、くすりと笑わされた後にしんみりしてしまうような物語たちである。さまざまな環境、立場の人々が登場するが、読者は多かれ少なかれ我が身に引き比べて読んでしまうのではないだろうか。そんななか、最初の物語のおばあちゃんの逆襲(?)を思わず応援したくなったり、オレオレ詐欺を自然体でやっつける大阪のオバチャンの潜在能力に笑いながらも感嘆したり、生きている人間の底力のようなものを感じさせてくれる一冊でもあった。荻原さん、上手いなぁ。

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