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あつあつを召し上がれ*小川糸

  • 2012/05/30(水) 18:26:09

あつあつを召し上がれあつあつを召し上がれ
(2011/10)
小川 糸

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一緒にご飯を食べる、その時間さえあれば、悲しいことも乗り越えられる――
幸福な食卓、運命の料理とのふいの出会いを描き、深い感動を誘う、7つの物語


「バーバのかき氷」 「親父のぶたばら飯」 「さよなら松茸」 「こーちゃんのおみそ汁」 「いとしのハートコロリット」 「ポルクの晩餐」 「季節はずれのきりたんぽ」

思い出の食卓、別れの食卓、決心の食卓、さまざまな状況で食べる、さまざまな料理。けれどそのひとつひとつが、当人にとっては何物にも代えがたいいものなのだろう。丁寧に作られた料理を、心を込めていただくことのかけがえのなさを改めて教えられるような一冊である。そして、大切にいただくことができれば、あしたもまた生きていけるときっと思えるだろう。

ブレイズメス 1990*海堂尊

  • 2012/05/29(火) 17:00:17

ブレイズメス1990ブレイズメス1990
(2010/07/16)
海堂 尊

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バチスタの原点を追ってついに海外へ!  おなじみの大学病院を舞台にシリーズ中もっとも派手な手術が登場。富国モナコも絡み日本医療を考える小説はさらにエキサイト!「ブラックペアン」につづく第2弾


内容紹介の通り、なんとも派手な手術が繰り広げられる。だが、そこに至る経緯こそが興味深くもある。佐伯病院長の思惑と、天城医師の思惑が一致しているかと言えばそうでもなく、東城医大のそうそうたる面々はやはり各々の体面や地位に固執しているようにしか見えず、旧態依然とした枠の中でしか物事を考えられないようである。とはいえ、天城のような考え方は世界中探しても珍しいのではないかとは思うが。手技の素晴らしさを見せつけられ、資金の算段をつけられては、すべてを呑みこんで見守るしかない、といったところであろうか。手技の素晴らしさは認めるとしても、命を任せるには一抹の不安を覚える人物でもある。わくわく感とあきらめ感がないまぜになったような読後感の一冊だった。

殺気!*雫井脩介

  • 2012/05/27(日) 17:04:56

殺気!(トクマ・ノベルズ)殺気!(トクマ・ノベルズ)
(2012/01/18)
雫井脩介

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エスカレーターで上るにつれ、急に回りの温度が変わったような、不快な熱気を肌に感じとっていた。「下りよ。何か、嫌な予感がする…」女子大生の佐々木ましろは、十二歳のとき、何者かに拉致監禁された経験がある。無事に保護されたが犯人は不明のまま。今、その記憶はない。ひどいPTSDを抑えるため、催眠療法で封じ込めてしまったからだった。そのためなのか、ましろには特異な能力―周囲の「殺気」を感じ取る力が身についている。アルバイト先の自然食品店では、その能力のおかげで難を逃れたこともある。タウン誌記者の丸山次美はましろに興味を持ち、過去の事件を調べ始める。失われた過去とともに現れたのは、驚愕の事実と、幼き友情の再生であった。青春ミステリーの傑作。


気軽に読める一冊ではある。主人公の少女・ましろの殺気を感じる能力のことや、拉致監禁され、PTSD治療のために記憶を封じられたいきさつのことや、かつての親友・理美子の父の死のことなど、興味を惹かれる要素が盛りだくさんで、それらがどんな風に一本の流れになっていくのか知りたくてぐんぐん読める。ただなんというか、ひとつひとつのエピソードに上滑り感もあるような気がして、読み方も表面的になってしまうのが少し残念だったかもしれない。

クレイジー・クレーマー*黒田研二

  • 2012/05/24(木) 07:10:47

クレイジー・クレーマー (ジョイ・ノベルス)クレイジー・クレーマー (ジョイ・ノベルス)
(2003/04)
黒田 研二

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騙しのテクニックを駆使した大どんでん返しミステリ!

大型スーパー<デイリータウン>のマネージャー袖山剛史は、クレーマー・岬圭祐、
万引き常習犯「マンビー」という二人の敵と闘っていた。
激化する岬との対立関係といやがらせに限界を感じ始めた袖山の前で、ついに殺人事件が発生する……。
最終章で物語は突如変貌! あなたは伏線を見破り、真相に辿り着けるか?


どこから騙されていたのだろう、と読み終えて振り返ってみたが、よく判らない。まんまと誘導されてしまったのだった。それにしても、この結末を想像できる人はいるのだろうか。「サイコ・ミステリ」と銘打たれている意味が、最後の最後でやっと判った。驚愕の一冊である。

こころ*夏目漱石

  • 2012/05/22(火) 11:07:46

こころ (新潮文庫)こころ (新潮文庫)
(2004/03)
夏目 漱石

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「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の三部からなる、夏目漱石の長編小説。拭い去れない過去の罪悪感を背負ったまま、世間の目から隠れるように暮らす“先生”と“私”との交流を通して、人の「こころ」の奥底を、漱石が鋭い洞察と筆力によって描いた不朽の名作。学生だった私は鎌倉の海岸で“先生”に出会い、その超然とした姿に強く惹かれていく。しかし、交流を深めていく中で、“先生”の過去が触れてはいけない暗部として引っかかり続ける。他人を信用できず、自分自身さえも信用できなくなった“先生”に対し、私はその過去を問う。そしてその答えを“先生”は遺書という形によって明らかにする。遺された手紙には、罪の意識により自己否定に生きてきた“先生”の苦悩が克明に記されていた。己の人生に向き合い、誠実であろうとすればするほど、苦しみは深くなり、自分自身を許すことができなくなる…。過去に縛られ、悔やみ、激しい葛藤のなかで身動きのとれなくなった“先生”の人生の様はあなたに何を訴えかけるだろうか。人は弱いものなのか…、シンプルでもありまた不可解でもある人の「こころ」のありようを夏目漱石が問いかける。人はどのように救われるのか?


小路幸也さんの来月発売予定の新刊が、本作を読んでいないと判りづらいところがあると知って、40年ぶりくらいに読み返してみた。なにやら沈鬱な印象しか憶えていなかったが、長い年月を経て読んでみると、先生が心に負った痛手や重荷が胸に圧し掛かるように思われる。「先生と私」で客観的に外側から見た先生の姿が描かれているだけに、「先生と遺書」の先生自らの述懐がなおさら胸に詰まるのである。中断の「両親と私」があることによって、人と人とのかかわりがより鮮明に浮かび上がってくるようにも思われる。小路さんの新作のなかでどう扱われるのかも愉しみである。

雲をつかむ話*多和田葉子

  • 2012/05/19(土) 19:36:04

雲をつかむ話雲をつかむ話
(2012/04/21)
多和田 葉子

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人は一生のうち何度くらい犯人と出遭うのだろう――。
わたしの二ヵ国語詩集を買いたいと、若い男がエルベ川のほとりに建つ家をたずねてきた。彼女へのプレゼントにしたいので、日本的な模様の紙に包んで、リボンをかけてほしいという。わたしが包装紙を捜しているうちに、男は消えてしまった。
それから一年が過ぎ、わたしは一通の手紙を受け取る。
それがこの物語の始まりだった。


なんだか不思議な感触の物語だった。物語というよりも、エッセイのような語り口で、長い長い日記を読んでいるようでもある。語り手の「私」の心の底でいつもうごめいているのは、「禁固刑」とか「犯人」とかで、人生で何人の犯人に出会ったかと考えてみたり、狭い独房に入れられる自分を想像してみたりしている。そのせいか、そんな話題や出来事を引き寄せ、引き寄せられたりもするのである。夢と現の境目もあいまいなことがあり、現実のことかと思って読んでいると夢の中の話だったりして驚かされながらもほっとさせられることが幾度となくある。実際のところ雲をつかむような一冊である。

僕らのごはんは明日で待ってる*瀬尾まいこ

  • 2012/05/17(木) 16:48:57

僕らのご飯は明日で待ってる僕らのご飯は明日で待ってる
(2012/04/25)
瀬尾まいこ

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体育祭の競技“米袋ジャンプ”をきっかけに付き合うことになった葉山と上村。大学に行っても淡々とした関係の二人だが、一つだけ信じられることがあった。それは、互いが互いを必要としていること。でも人生は、いつも思わぬ方向に進んでいき…。読んだあと、必ず笑顔になれる、著者の魅力がぎゅっと詰まった優しい恋の物語。


高校時代は屈託の塊。暗くて孤独で誰からも嫌われていた葉山。そんな彼を中学時代からひそかに好きだった上村。つきあうようになった二人だが、情熱的な恋人同士とは程遠い淡々とした関係が続き…。
失ってみて初めて気づくことがあり、離れてみてやっと解る大切さがある。回り道をしたとしても、それに気づいた二人には、きっとしあわせな明日が積み重なっていくことだろう。いまを大切にしたいと思わせてくれる一冊である。

ゆくとしくるとし*大沼紀子

  • 2012/05/16(水) 16:53:08

ゆくとし くるとしゆくとし くるとし
(2006/11/22)
大沼 紀子

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年末、久しぶりに帰省すると、そこには母と、オカマがいた。そんな予想を覆す我が家の風景に違和感を覚えながらも、閉じこもりがちな感情が、明るくたくましいオカマのお姉さんと、母のいつもと変わらぬ愛で、少しずつ開いていく・・・。第9回坊ちゃん文学賞大賞受賞作。


表題作のほか、「「僕らのパレード」

大沼さんの紡ぎだす物語は、とりたてて派手な出来事はないが、日々の暮らしの些細な引っ掛かりや、胸に抱え込んで凝ってしまった事々をじんわりと温めて溶かすような物語なのだと、この二編を読んで改めて思う。そしてやはり、足りないもののことを嘆くより、手の中にあるものを慈しむ方がずっとずっと満ち足りた心持ちになれるんだよ、と語りかけられているような一冊である。

てのひらの父*大沼紀子

  • 2012/05/15(火) 17:08:20

てのひらの父てのひらの父
(2011/11/16)
大沼紀子

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世田谷区、松陰神社前駅から徒歩15分。女性専用の下宿「タマヨハウス」には、年ごろの三人の女が暮らしていた。弁護士を目指す涼子、アパレルのデザイナーとして働く撫子、そして不条理なリストラに遭い、人生にも道にも迷い続ける柊子。幸せでも不幸せでもない日常を過ごしていた彼女たちだが、春の訪れとともに現れた真面目だけが取り柄の臨時管理人の過干渉によって、少しずつそれぞれの「足りない何か」が浮き彫りになっていく。


表紙は父の葬儀の日の幼い柊子である。わけもわからず黒ずくめの服を着せられ、手近にあった赤い傘を持たされた柊子。父はとっくに家を出ていて、柊子には父の思い出などひとつもないのだった。成長して一見明るく誰とでもうまくやっていける柊子だが、幼い日の境遇から、知らず知らず他人との間に見えない壁を築いてしまうようになったのかもしれない。彼女が暮らす女性だけの下宿・タマヨハウスに、ある事情で管理人のいとこのトモミさんがやってきてから、三人の下宿人たちの日常が少しずつ変わり始める。そして心のなかもわずかずつだが変化していくのだった。強ばったものがほどけるように、冷たく凍ったものが少しずつ溶けるように。足りないものを嘆くのではなく、持っているものにしあわせを見つけることが大切だと気づかせてくれるような一冊である。

仙台ぐらし*伊坂幸太郎

  • 2012/05/09(水) 17:08:00

仙台ぐらし仙台ぐらし
(2012/02/18)
伊坂 幸太郎

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タクシーが多すぎる、見知らぬ知人が多すぎる、ずうずうしい猫が多すぎる…。仙台在住の作家・伊坂幸太郎が日々の暮らしを綴る。『仙台学』掲載を中心に書籍化。書き下ろし短編「ブックモビール」も収録。


伊坂さんの普段の様子が垣間見られるようで、うれしい一冊である。震災の前に書いていたもの、それ以後のもの、その時に何を感じたか、どうしたか。飾らない思いがつづられているように思われる。伊坂さんはエッセイもいい。

コバルトブルーのパンフレット*赤川次郎

  • 2012/05/09(水) 07:28:09

コバルトブルーのパンフレット―杉原爽香三十七歳の夏 (光文社文庫)コバルトブルーのパンフレット―杉原爽香三十七歳の夏 (光文社文庫)
(2010/09/09)
赤川 次郎

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カルチャースクールの再建を任された爽香は、トーク番組の司会で人気の高須雄太郎に講師を依頼。このとき爽香はビル清掃係の笠木京子と係りを持つ。彼女の息子、達人が交際相手を殺害。そのとき親子が取った行動とは!?高須、笠木、そして爽香の兄―。問題を抱えたそれぞれの家庭の行く末は…。主人公・杉原爽香が読者とともに年齢を重ねる大人気シリーズ。文庫オリジナル/長編青春ミステリー。


久々に読んだ杉原爽香シリーズである。爽香も37歳になっていたとは、ちょっと驚きである。それにしても、なんて波乱の多い人生なのだろう。しかも、プライベートでもそれ以外でもどこでもいつでも何かしらのトラブルに巻き込まれ続けている。爽香に安らぎの日々は来るのか、それが心配になってしまうほどである。今回も、舞い込んで来たり、自分から首を突っ込んだりして、いくつかのトラブルに巻き込まれながらもなんとか切り抜けるが、人徳に負う部分もかなりあるように思われる。走り続けるといつかパタッと倒れるよ、と爽香に言ってあげたい一冊でもある。

風が笑えば*俵万智 著  奥宮誠次 写真

  • 2012/05/06(日) 19:41:52

風が笑えば風が笑えば
(2012/02/24)
俵 万智

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『サラダ記念日』から25年、人生の秋を迎えた俵万智が女性として母としての今を歌う。東日本大震災後を綴る書き下ろしエッセイも収録。


写真がまずあり、そこから著者がイメージを膨らませて歌を詠む、という趣向の一冊である。日本や海外の子どもや自然の写真を通して著者が見たもの、著者の心のフィルターを通して広がる世界を堪能できる。歌にまつわる思いもエッセイとして綴られていて興味深い。著者の大切なものの一端に触れた心地の一冊である。

真夜中のパン屋さん--午前0時のレシピ*大沼紀子

  • 2012/05/05(土) 07:16:35

真夜中のパン屋さん (ポプラ文庫)真夜中のパン屋さん (ポプラ文庫)
(2011/06/03)
大沼紀子

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都会の片隅に、真夜中にだけオープンする不思議なパン屋さんがあった。あたたかい食卓がなくても、パンは誰にでも平等に美味しい。心地良い居場所を見つける物語。

謎多き笑顔のオーナー・暮林と、口の悪いイケメンパン職人・弘基が働くこの店には、
パンの香りに誘われて、なぜか珍客ばかりが訪れる……。
夜の街を徘徊する小学生、ワケありなオカマ、ひきこもりの脚本家。
夜な夜な都会のはぐれ者たちが集まり、次々と困った事件を巻き起こすのだった。  

家庭の事情により親元を離れ、「ブランジェリークレバヤシ」の2階に居候することになった
女子高生・希実は、“焼きたてパン万引き事件”に端を発した失踪騒動へと巻き込まれていく…。
期待の新鋭が描く、ほろ苦さと甘酸っぱさに心が満ちる物語。
人気漫画家の山中ヒコ氏が装画を担当


真夜中は得意ではないが、パンは大好きなので、タイトルにまず惹かれた。真夜中、という時点ですでになにやら訳あり感が漂っているが、オーナー・暮林陽介、パン職人・柳弘基をはじめ、ブランジェリークレバヤシに引き寄せられるようにやってくる人たちがみな、ちょっと普通ではない屈託を抱えながらも宥めなだめ生きているのだった。苦く切なくやりきれないことばかりなのだが、弘基――のちには暮林も、そしてこだまも――が作るパンの香ばしい匂いとふっくらとしたあたたかさ、頬張ったときのしあわせ感が、胸に凝るものをほろほろと解かしてくれるのである。独りぼっちで尖っていないで、誰かに頼っていいのだと思わせてくれる一冊である。そして確実においしいパンを食べたくなる。

東雲の途*あさのあつこ

  • 2012/05/03(木) 10:49:56

東雲(しののめ)の途(みち)東雲(しののめ)の途(みち)
(2012/02/18)
あさの あつこ

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「弥勒の月」「夜叉桜」「木練柿」に続くシリーズ第4弾! 小間物問屋遠野屋清之介、同心木暮信次郎、そして、二人が引き寄せる事件を「人っていうのはおもしれえ」と眺める岡っ引きの伊佐治。突出した個性を持つ三人が織りなす江戸の巷の闇の物語。川から引き揚げられた侍の屍体には謎の瑠璃石が隠されていた。江戸で起きた無残な事件が清之介をかつて捨てた故郷へと誘う。特異なキャラクターと痺れるキャラクターとが読者を魅了した、ファン待望の「弥勒シリーズ」、興奮の最新作!


今回は、岡っ引き・伊佐治親分の視線で語られる部分が多い。遠野屋と木暮という並の尺度では計れない二人の間にあって、仕える身ながら包み込むような存在である伊佐治の役割は、物語のなかで大きなものだと改めて思わされる。味のある存在である。そして遠野屋清之介が、どうしようもなく背負っている昏い過去とどう折り合いをつけていくかの明るい兆しが見えたような一冊でもある。これからの商人としての清之介と木暮や伊佐治との関係も気になるところである。