クローバー・レイン*大崎梢

  • 2012/06/30(土) 17:01:25

クローバー・レイン (一般書)クローバー・レイン (一般書)
(2012/06/07)
大崎梢

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作家=小説を書く人。
文芸編集者=小説のためになんでもする人。

老舗の大手出版社に勤める彰彦は、過去の人と目されていた作家の
素晴らしい原稿を偶然手にして、どうしても本にしたいと願う。
けれど会社では企画にGOサインが出なくて――。
いくつものハードルを越え、本を届けるために、奔走する彰彦。
その思いは、出版社内の人々に加えて、作家やその娘をも巻き込んでいく。
本に携わる人たちのまっすぐな思いに胸が熱くなる一作。


学生時代から、進路に関する挫折を知らずにここまできた編集者・工藤くんの熱意の物語である。たまたま読ませてもらったいまは注目されていない作家の原稿の素晴らしさに惚れ込み、なんとしても自社から出版したいと、さまざまな壁に立ち向かう姿が描かれており、熱い思いが伝わってきてそれだけでも感動的なのだが、この物語はそれだけではない。原稿に込められた思い、伝えたい言葉、会いたい人。作家だけでなく工藤自身の思いも絡めて描かれている切なくも強い気持ちが胸にしっかりと届いてくる。慈雨のようにしっとりと沁みこむ一冊である。

私の夢は*小川糸

  • 2012/06/28(木) 14:22:09

私の夢は (幻冬舎文庫)私の夢は (幻冬舎文庫)
(2012/04/12)
小川 糸

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カナダのカフェで食べたふわふわのワッフル。モンゴルの青空の下、遊牧民と調理した羊のドラム缶蒸し。旅の最終日にバーテンダーが作ってくれたコーヒー味のオリジナルカクテル。石垣島での真夜中の潮干狩りや、ベスト・オブ・クラムチャウダーを決めるべく決行した飲み歩き。旅先で出会った忘れられない味と人々。美味しい旅の記録満載のエッセイ。


ほんとうにおいしそうな旅の数々である。おいしいだけでなく、困難に立ち向かったり、産みの苦しみ(物語のであるが)も記されているのだが、それらを凌いでやはりおいしそうなのである。たぶん著者の直観と嗅覚がおいしいものに吸い寄せられるのだろうとわたしには思えてならない。掌編とも言えない指編くらいのたくさんのエッセイである。愉しい読書タイムになること請け合いの一猿。

楽園のカンヴァス*原田マハ

  • 2012/06/27(水) 18:35:22

楽園のカンヴァス楽園のカンヴァス
(2012/01/20)
原田 マハ

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ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にしていた。MoMAが所蔵する、素朴派の巨匠アンリ・ルソーの大作『夢』。その名作とほぼ同じ構図、同じタッチの作が目の前にある。持ち主の大富豪は、真贋を正しく判定した者に作品を譲ると宣言、ヒントとして謎の古書を手渡した。好敵手は日本人研究者の早川織絵。リミットは七日間―。ピカソとルソー。二人の天才画家が生涯抱えた秘密が、いま、明かされる。


アンリ・ルソーとその作品をめぐる物語である。だがそれだけではない。画家を、絵画を、美術を愛する人たちの深い愛の物語でもある。個人的には美術には全く造詣が深くないので、読みはじめは、苦労するのではないか、とちらっと思ったが、それは全くの杞憂だった。あっという間に物語に惹きこまれ、わくわくしながら読み進んだ。冒頭の平穏な現在の描写から、わくわくと胸躍る過去の体験へと遡り、すべての事情を知ったうえでまた現在に戻ってくるという構成も効果的だと思う。そして過去の結末の驚きは、衝撃的だった。表紙の「夢」のモデルであるヤドヴィガの夫・ジョゼフが後々何らかの形でキーマンになるだろうとは思っていたが、まさかこんな風にかかわってくるとは。お見事である。ルソーやピカソが生身の人間として身近に感じられるようになる一冊である。

シフォン・リボン・シフォン*近藤史恵

  • 2012/06/24(日) 16:39:47

シフォン・リボン・シフォンシフォン・リボン・シフォン
(2012/06/07)
近藤 史恵

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下着が人の気持ちを変える? 弾ませる? 東京のファッションビルの一角でランジェリーショップ「シフォン・リボン・シフォン」を成功させた水橋かなえは、母の介護のため、活気をうしないつつある地方都市に戻ってきた。まだ30代の彼女は、通信販売で固定客を得ていたこともあって、この街でも店を開く。機能的な下着から自由でチャーミングなものまで、いろいろ勢ぞろい。さびれた商店街にできたこのちょっと気になるお店に、やがて人々は引き寄せられる。かなえと同様に介護生活をおくる32歳の佐菜子、米穀商店の女装する若い息子、旧家の時代を忘れられない年配の女性……。レースやリボン、小さい花柄をあしらった下着が、彼らの人生をほのかに弾ませる。母と娘の屈託、息子と父の反目、嫁と姑の気詰まりをなぜかほどいていく。小さな人生模様がえがかれ、摩訶不思議でほのぼのとした小説集。


寂れつつある地方都市の商店街にオープンしたランジェリーショップ、「シフォン・リボン・シフォン」が繋ぐ、四つの連作短編集である。
たかが下着、されど下着である。誰に見せるわけでなくても、身体に合った機能的で美しい下着を身につければ、それだけで身体が軽く感じられ、気持ちまで軽やかになるのである。女性ならたぶん誰でもうなずくことだろう。ことさら表立って語られることがない分、下着に関する悩みもおそらく十人十色、様々であることだろう。そんな下着に関する憧れや思い入れが随所に感じられ、ほほえましくなると同時に、気分がしゃきっとするような心地にもなる。あたたかい気持ちにさせてくれる一冊でもある。

勝ち逃げの女王--君たちに明日はない4*垣根涼介

  • 2012/06/24(日) 14:14:04

勝ち逃げの女王: 君たちに明日はない4勝ち逃げの女王: 君たちに明日はない4
(2012/05/22)
垣根 涼介

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どんなに時代が悪くても、仕事のデキる奴はいる──大ヒット痛快お仕事小説第四弾! 業績の悪さを、景気のせいにしていませんか? リストラ請負人・村上真介が、そんなサラリーマンの甘えをぶった斬る! 今回のターゲットは“団塊の世代”の定年組から、バブルを謳歌した40代、そして「ロスジェネ」世代まで。様々な時代を生きる彼らにとっての仕事とは? そして人生とは……読めば元気がわいてくる大ヒットシリーズ最新刊。


表題作のほか、「ノー・エクスキューズ」 「永遠のディーバ」 「リヴ・フォー・トゥデイ」

真介のリストラ請負人という仕事もすっかり馴染みのものとなった今作であるが、いままでとはいささか趣が違い、ただ辞めさせるだけではなく、引き留め、他部署への転籍を促すという役割も担うことになる。労働基準法違反にならないように、話の誘導の仕方にも技が要る。そんな事情もあってか、真介の面接を受ける面々の個性も際立っているように思われる。辞めさせる側、辞めさせられる側、元リストラ組、どのキャラクターも味があっていい。一生懸命に自分の人生を生きているのがよくわかり、思わず背筋を伸ばしてしまうような一冊である。次も愉しみ。

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作家の放課後

  • 2012/06/22(金) 17:07:49

作家の放課後 (新潮文庫)作家の放課後 (新潮文庫)
(2012/02/27)
「yomyom」編集部

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人間だから、得手不得手はある。出来ない、やりたくないと決め付けて、今まで目を背けてきたこともある。大人になった今だからこそ、勇気を出してチャレンジしてみようじゃない! 現代を代表する人気作家が、時に及び腰になりながらも、持ち前の情熱と根性で未経験の分野に挑む。その貴重な体験を克明に記した、雑誌「yomyom」連載の爆笑エッセイアンソロジー。


放課後こそがまさに授業、という一冊である。常の仕事である文章を書くことから離れ、それぞれの興味の赴くままに――あるいは編集者に乗せられて――別のジャンルのことに挑んでいる。顔ぶれも豪華だが、挑む内容も様々で文句なく愉しめる。知らなかったことをいろいろ知ることもできて、自分の興味も満たされる。製本用語の「花布(はなぎれ)」を初めて知り、本を見る目も変わりそうである。

赤ちゃんはまだ夢の中*青井夏海

  • 2012/06/21(木) 16:53:18

赤ちゃんはまだ夢の中 (創元推理文庫)赤ちゃんはまだ夢の中 (創元推理文庫)
(2012/04/21)
青井 夏海

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もうすぐ新しい家族が加わるというのに、「新しい恋人のもとへ行きたい」「居候が多すぎる」「借金取りがやって来る」「上の子に厳しすぎる」と、どうしてどこのお宅も問題ばかりなのっ。自宅出産専門の助産師コンビが遭遇した家庭のトラブルに、伝説のカリスマ助産婦・明楽先生の推理がますます冴え渡る。様々な家族の“謎”と“愛”を温かく描いた「助産師探偵シリーズ」最新作。


 第一話 別れてください
 第二話 帰ってください
 第三話 払ってください
 第四話 守ってください

聡子さんと陽奈ちゃんは、今回もちょっとしたトラブルを抱える妊婦さんのもとへ妊婦健診に通っている。健やかなお産とその後の育児のために、解決しなければならない問題がどうしても目につき、それぞれの家庭の事情に首を突っ込むことになるのである。陽奈ちゃんのパワーは前作よりもさらにアップしているようで、頼もしいやら危なっかしいやら、思わず微笑んでしまうが、彼女なしにはこの物語が成り立たないのも事実である。そして明楽せんせいもますますお元気で、目のつけどころが素晴らしく的を射ている。聡子さんのプライベートも少しだけ覗けて、次回作がますます愉しみになる一冊である。

とうへんぼくで、ばかったれ*朝倉かすみ

  • 2012/06/19(火) 17:06:15

とうへんぼくで、ばかったれとうへんぼくで、ばかったれ
(2012/05/22)
朝倉 かすみ

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札幌のデパートに勤務する吉田は、中年の男性にひとめぼれしました。あとは、まっしぐらです。張り込み、尾行と地道な活動で情報収集をはかり、やがて男を追いかけ上京、拠点を池袋周辺に移します。ストーカー?いえ、違います。「会いたい」と「知りたい」と「欲しい」で胸がいっぱい、男のことを、ただ「好き」なだけです。問題は、男が吉田の存在すら知らない、ということ―。


ひと目会ったその日から、その人のことが頭から離れなくて――というか、その人に魂がくっついて行ってしまったかのようになって――寝ても覚めてもその人その人、となってしまう吉田であった。その人の名は、エノマタさん。取り立ててどうということのない、職場では影が薄いと言われる独身四十男である。だが、仕方がないのである。恋なのだから。彼のことは何から何まで知りたくて、こっそりあとをつけてみたり、行動を見張ってしまったりするのも、決してストーカーなどではないのである。恋なのだから。彼の転居とともに引っ越してしまうあたりの行動力には少々驚かされるが、そうまでしても知りたいのである。恋なのだから。片思いの切なさとこの上ない幸福感が見事に描かれていて惹きこまれる。この物語の、恋が実るまでの張りつめた幸福感が好きである。実った後の幸福は、もはやつけたしのようなものであると言ってしまいたくなる。吉田を応援したくなる一冊である。

トマト・ケチャップ・ス*東直子

  • 2012/06/16(土) 19:34:47

トマト・ケチャップ・ストマト・ケチャップ・ス
(2012/03/22)
東 直子

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さえない女子高生・連翹ゆなは、同級生の漆原依理と山口葉から漫才トリオに誘われる。学校で1、2を争う美人で、しかも成績優秀なふたりからの唐突な勧誘に、ゆなは戸惑う。それぞれ家庭に事情を抱える三人のトリオ「トマト・ケチャップ・ス」はどうなるのか?そして、彼女たちのこれからは?―“あの頃”を一生懸命生きていた少女たちの青春グラフィティー。


女子高生の漫才トリオ、と聞くと、お気楽なイメージであるが、イリもヨウもゆなもそれぞれに抱えるものがあり、それが胸に痛い。ぬくぬくと自分のことだけ考えて我儘放題できるのが特権ともいえる学生時代に、屈託を裡に秘める彼女たちは、それでも漫才で人を笑わせようとするのだ。そんな前半は、まだしあわせなのかもしれない。後半はあまりにも思いがけない展開で、どうして?と何度も彼女たちに問いかけてしまう。前半とは違う胸の痛みである。これほど波乱万丈なのに、彼女たちはまだ高校生なのだ。その未来に穏やかなしあわせがあればいいと心から祈らずにはいられない一冊である。

それもまたちいさな光*角田光代

  • 2012/06/16(土) 07:55:44

それもまたちいさな光 (文春文庫)それもまたちいさな光 (文春文庫)
(2012/05/10)
角田 光代

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デザイン会社に勤める悠木仁絵は35歳独身。いまの生活に不満はないが、結婚しないまま一人で歳をとっていくのか悩みはじめていた。そんな彼女に思いを寄せる幼馴染の駒場雄大。だが仁絵には雄大と宙ぶらりんな関係のまま恋愛に踏み込めない理由があった。二人の関係はかわるのか。人生の岐路にたつ大人たちのラブストーリー。


特別付録として「小島慶子(タレント・エッセイスト)とラジオ対談」が収録されている。
TBS開局六十周年を記念して、著者が書き下ろしたラジオ小説をTBSラジオでドラマ化する(放送は2011年12月)、というコラボ企画だったそうである。
対談によると、ラジオは滅多に聴かないということだが、そんなことは微塵も感じさせない見事な描きっぷりである。物語の中でモチーフとしてのラジオ番組が絶妙に作用していくつもの人生をつなげていく様は、それは見事である。そしてタイトルのさりげなさにも泣かされる。「も」であり「ちいさな」なのである。めくるめく光の渦の中にいるよりも、闇に灯るちいさな光を大切に生きていきたいと思わされる一冊である。

サファイア*湊かなえ

  • 2012/06/15(金) 07:36:07

サファイアサファイア
(2012/04)
湊 かなえ

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7つの宝石に込められたそれぞれの想い。あなたに返し忘れたもの。それは・・・・・。
湊かなえの新境地。


真珠、ルビー、ダイヤモンド、猫目石、ムーンストーン、サファイア、ガーネットと、宝石の名がタイトルになっており、その宝石にまつわるエピソードが綴られた短編集である。
石の持つ力、というわけではなく、それぞれの主人公の時どきの気持ちが石に対する思い入れになっていたりする。短編なので、黒く冷酷な部分はさほど強調されてはいないが、物語によってはピリッとブラックなスパイスが効いているものもあって、やはり、と思う。ただそれだけではなく、胸が温まる場面もあって、そのあたりが新境地と言われるのか、とも思う。プチブラックな一冊である。

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ナミヤ雑貨店の奇蹟*東野圭吾

  • 2012/06/13(水) 21:33:54

ナミヤ雑貨店の奇蹟ナミヤ雑貨店の奇蹟
(2012/03/28)
東野 圭吾

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夢をとるか、愛をとるか。現実をとるか、理想をとるか。人情をとるか、道理をとるか。家族をとるか、将来をとるか。野望をとるか、幸せをとるか。あらゆる悩みの相談に乗る、不思議な雑貨店。しかしその正体は…。物語が完結するとき、人知を超えた真実が明らかになる。


 第一章 回答は牛乳箱に
 第二章 夜更けにハーモニカを
 第三章 シビックで朝まで
 第四章 黙祷はビートルズで
 第五章 空の上から祈りを

ナミヤ雑貨店のシャッターの郵便受けと牛乳箱は未来と過去に繋がっている。不思議な設定だが、すんなり納得できてしまうのは、さまざまな点がどんどんつながり、ひとつの輪になっていく見事さゆえだろうか。登場人物の誰ひとりとしてその輪の中に入っていない人はいなく、ひとつひとつの小さな出来事がすべて別の出来事とつながっている。時間と空間を超えて、人が人のことを深く真剣に考える真摯さと熱意、それに対する感謝と恩返しの心の温かさが、いたるところにあふれている。
著者には珍しいファンタジーである。こういう東野さんも好きだと思わされる一冊である。

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屋上ミサイル*山下貴光

  • 2012/06/13(水) 11:26:52

屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)
(2009/01/10)
山下 貴光

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第7回『このミス』大賞は大紛糾! 選考委員がまっぷたつに分かれ、喧々諤々の議論の末、大賞のダブル受賞となりました。本作は、高校生が結成した「屋上部」が、屋上の平和を守るため、難事件に挑む青春ミステリーです。選考委員のコメントは次の通り。「読みはじめてすぐ、今回の大賞はこれだ!と確信した。キャラと会話は抜群。文章のセンスもいい。自信をもって推薦します。私も屋上部に入りたい」大森望(翻訳家・評論家)「前半の複線が綺麗にはまってくる後半に随所で感心。口当たりのいい青春活劇に仕上がっている」香山二三郎(コラムニスト)


のどかな屋上と青空の表紙をまくると、いきなり世界で一番偉い人が拉致されて五日目という物騒な一文に出会うことになる。このこととタイトルから、テロリストの物語か、と一瞬思うが、そのあとに続くのは表紙のままの雰囲気の学園ドラマである。そのミスマッチがいいのかもしれない。物語中の会話に出てくる、「でもさ、今ってそんな時代なんだよね。危険はすぐそばに転がってる」という言葉がすべてを言い表しているような気がする。だが、それならば、学園ドラマは徹底的にのどかであってもよかったのではないかとも思う。愚にもつかないことで悩んだり、些細なことで舞い上がったり、どこにでもある高校生活とミサイル攻撃の危機が実際に隣り合っている落差が描かれていたら、個人的にはもっと惹きこまれたかもしれないとも思う。もっと知りたい著者の一冊ではある。

GO!GO!アリゲーターズ*山本幸久

  • 2012/06/10(日) 16:59:48

GO! GO! アリゲーターズGO! GO! アリゲーターズ
(2012/04/26)
山本 幸久

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再就職先は、超弱小野球チーム。アラサー×バツイチ×シングルマザー。人生に遭難中の茜が拾われたのは、成績も経営も低迷する地方球団アリゲーターズだった。日々奮闘するすべての人へ贈る、最高のお仕事小説。


人生最悪のときに拾ってもらったから働いているが、茜は野球に何の思い入れもなかったのである。しかもチームは弱小地方チームであり、メンバーさえ片手間気分が抜けない有り様なのである。さらに茜は、アルバイトが辞めたからという理由で、チームのマスコット・ワニの着ぐるみアリーちゃんに入ることになってしまった。それがいつの間にか、なんだか熱くなっているのである。茜もアリゲーターズの面々も。そこに至るひとつひとつの出来事やひとりひとりの気持ちの動きが絶妙である。憎まれ役も情けない選手もみんなが物語の中で生きて悩んでいるのが伝わってくる一冊である。山本さんパワー全開である。

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トラップ・ハウス*石持浅海

  • 2012/06/09(土) 07:22:32

トラップ・ハウストラップ・ハウス
(2012/05/18)
石持浅海

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大学卒業を間近に控えた本橋大和は、級友たちと車2台に分乗し、郊外のキャンプ場に出かけた。先乗りしたはずの幹事の姿は見えないが、チェックイン済みのトレーラーハウスに向かう。見慣れない宿泊施設に興奮した九人全員が中に入って、そのドアが閉まったとき、復讐劇の幕が開いた―。はたして彼らは、生きてここから出られるのか!?―。


密室である。出入り口は閉めたら最後開けることはできず、窓の鍵も壊されている。しかもあちこちに画鋲が置かれ、針が仕込まれている。一時間ごとにあちこちで鳴る目覚まし時計を止めると、彼らに向けた陰湿なメッセージが見つかる。犯人はだれで、彼らに何をさせたいのか。ひとりが死に、怪我人も出て、水もガスも止められ、携帯の電波が妨害される中、パニックに陥りそうになりながら、前提条件や思い込みに邪魔されながらも、見つけたヒントからひとつずつ謎を読み解いていく過程が興味深い。些細な引っ掛かりを見逃さない本橋と、冷静で思慮深い広瀬、派手さはないがいいコンビだと思う。著者らしい一冊である。

レディ・マドンナ--東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2012/06/07(木) 20:15:28

レディ・マドンナ 東京バンドワゴンレディ・マドンナ 東京バンドワゴン
(2012/04/26)
小路 幸也

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東京バンドワゴンシリーズ第七弾。
齢八十を越えてもなお堀田家の大黒柱として、古書店“東京バンドワゴン”を切り盛りする勘一。そんな勘一をお目当てに通ってくる女性が現れて、一家は色めき立つ。しかし、その出会いが思わぬ家族の秘密を連れてくる…。さらに、蔵から大事な稀覯本が盗み出されて、店は大混乱。次々に新たな謎が舞い込む堀田家を救うキーワードは「母の愛」。女性のパワーで家族の絆を結び直す、待望の最新作。


冬から秋までの一年間の物語。勘一は八十歳、花陽は高校受験、研人はギターに夢中の中学二年生、かんなちゃんと鈴花ちゃんは三歳になるところである。物語の登場人物たちの隣で、自分も年を重ねている心地になる。季節感に富み、人情味あふれ、押しつけがましくない思いやりに満ち満ちている。そしてやはり朝食風景は大好きな場面のひとつである。勘一の一風変わった取り合わせはともかく、気取らない普段の食事にも季節の彩りがきちんと見て取れて、それだけでしあわせな気分になれる。この食卓に紛れ込みたいものである。かんなちゃんと鈴花ちゃんにお箸を預けておきたくなってしまう。我南人の「LOVEだねぇ」がいつまでも聞けますように、と願わずにはいられない一冊である。

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天才探偵Sen7――テレビ局ハプニング・ツアー*大崎梢

  • 2012/06/05(火) 16:53:07

天才探偵Sen⑦ テレビ局ハプニング・ツアー (ポプラポケット文庫 児童文学・上級?)天才探偵Sen⑦ テレビ局ハプニング・ツアー (ポプラポケット文庫 児童文学・上級?)
(2012/02/08)
大崎梢

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信太郎のペットがテレビ番組にでることになり、おともについてきた千たち。
しかし、名探偵のいくところに事件あり!
局内の事件にまきこまれて……。あかずのスタジオの謎にいどみます!


千くんたち小学生トリオがテレビ局で巻き込まれる事件と謎とわくわくの物語。テレビの世界の内側をちょっぴり覗けるわくわくと、怪談話に絡んだ謎解きで、対象年齢の小学校高学年には愉しい一冊だろう。ただ大人にはさすがにちょっと物足りないか。

新月譚*貫井徳郎

  • 2012/06/04(月) 18:37:00

新月譚新月譚
(2012/04)
貫井 徳郎

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八年前に突然絶筆した作家・咲良怜花は、若い編集者の熱心な復活のアプローチに、自らの半生を語り始める。そこで明かされたのは、ある男性との凄絶な恋愛の顛末だった―。


突然筆を折り、いまは静かに暮らしている作家・咲良怜花に新作を書いてもらうべく、若い編集者が彼女のもとを訪ねるところから物語は始まるが、物語の主な部分は、咲良怜花が編集者に向けて語る絶筆に至る真実の吐露である。語られる内容は常識に当てはめられない彼女の恋愛事情であり、それに絡まる小説の執筆と数々の受賞の事実である。よくある話と言ってしまえばそれまでだし、劇的な作風の変化が現実的かどうかは素人のわたしには判断がつかないが、それらを置いておいても、彼女が語り終えた後の着地点が想像できなくてページをまくる手が止まらなくなる。登場人物の誰かに感情移入できるわけでもなく、誰かに肩入れするわけでもないにもかかわらず、先を知りたくてたまらなくなる何かを秘めている。そして待ちに待った着地点は、全く想像もできないものだった。肩透かしを食った気がしなくもないが、それ以外には考えられないようにも思われる。咲良怜花の生涯は小説が認められたことで意味を成したかもしれないが、本名の後藤和子の一生は木之内に振り回されただけで、しあわせだったのだろうか、と思ってしまう。560ページというボリュームを感じさせない一冊である。

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玩具店の英雄――座間味くんの推理*石持浅海

  • 2012/06/01(金) 12:58:35

玩具店の英雄 座間味くんの推理玩具店の英雄 座間味くんの推理
(2012/04/18)
石持 浅海

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科学警察研究所の職員・津久井操は、事件を未然に防げるかどうか、の「分かれ目」について研究をしている。難題を前に行き詰まった操が、大学の大先輩でもある大迫警視正にこぼすと、ひとりの民間人を紹介された。「警察官の愚痴を聞かせたら日本一」と紹介された彼は、あの『月の扉』事件で活躍した“座間味くん”だった―。


座間味くん、今作でもたぐいまれなる洞察力&推理力である。しかも甲走ったところも気負ったところもなく、いつもあくまでマイペースでいながらさりげなくちゃんと他人のことに気を配れるというできた人物なのである。なんていい人なんだ、座間味くん。酒の席での愚痴のような話――話す方は何らかのサジェスチョンを期待しているのだが――から、目のつけどころの間違いや、思い込みによる勘違い、見過ごされた真実をさらりと暴露し、しかも、渦中の人物の立場や心情まで慮って対応策を考えてしまうのである。座間味くんについ見とれてしまうが、語り手の津久井や大迫の存在があればこその一冊であるのも間違いない。