もらい泣き*冲方丁

  • 2012/09/29(土) 13:40:22

もらい泣きもらい泣き
(2012/08/03)
冲方 丁

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一族みんなに恐れられていた厳格な祖母が亡くなった。遺品の金庫の中に入っていた意外な中身は?「金庫と花丸」。東日本大震災の後、福島空港で車がなく途方にくれる著者に「乗りますか」と声をかけてくれた人の思い出。「インドと豆腐」。視力薄弱の子供を抱えた父親。奮闘する彼を救った感動のプレゼントとは。「ぬいぐるみ」。思わず、ホロリ。冲方丁が実話を元に創作した、33話のショートストーリー&エッセイ集。


純然たる小説ではなく、実話を元に創作した物語だったが、なかなか良かった。実話が下敷きになっているだけあって、「小説より奇なり」とも言えるような話もあるが、それが人知の及ばない大きな力を感じさせて胸に迫る。え?こんなところで?と思うような箇所で目の前がぼやけてくることがたびたびあり、自覚していなかった泣きのツボを発見したりもしたのである。振り返って自分の身に起きた泣かせる話を思い出そうとしてみたが、自分が泣くことはあっても人を泣かせる話などそうないのだということに改めて気づかされたのだった。ひと粒の涙によってあしたも生きていける、ということがほんとうにあるのだなぁと実感させられた一冊でもある。

逃亡者*折原一

  • 2012/09/27(木) 20:04:47

逃亡者逃亡者
(2009/08)
折原 一

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持ちかけられた交換殺人に乗ってしまい、知人の夫を殺した罪で逮捕された友竹智恵子だが、警察の不手際で脱走に成功。顔を変え、身分を偽り、日本全国を逃亡し続ける。智恵子を追いかける警察の執念。時効の壁は15年。逃亡劇は驚愕の結末へ突き進む。


518ページというボリュームを感じさせず一気に読ませる一冊である。友竹智恵子の逃亡生活が物語のほとんどを占めるが、緊張感と咄嗟の判断で紙一重のところで追手(警察と夫)から逃れるのを見続けると、なにやら逃亡を応援したい心持ちになってくるから不思議である。智恵子の人好きのする憎めないキャラクターによるところも大きいのかもしれないが。このまま逃げ切って時効を迎えるのか、それとも最後の最後につかまってしまうのか、と読者を緊迫した気分にしておいて、そこには思ってもいなかったどんでん返しが準備されているのだった。思い返せば、ところどころで「ん?」と思った箇所がなくはなかったのだが、深く突き詰めることなく読み流してしまっていたのだった。それこそがヒントだったというのに。思い込みは怖いと知っているつもりなのに、まんまと騙されてしまって、うれしくもある。読み応えのある一冊だった。

鍵のない夢を見る*辻村深月

  • 2012/09/25(火) 17:20:46

鍵のない夢を見る鍵のない夢を見る
(2012/05/16)
辻村 深月

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普通の町に生きる、ありふれた人々がふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる5篇。現代の地方の姿を鋭く衝く短篇集


「仁志野町の泥棒」 「石蕗南地区の放火」 「美弥谷団地の逃亡者」 「芹葉大学の夢と殺人」 「君本家の誘拐」

普通の町で暮らす、ありふれた人々が主人公だが、語られていることは決して普通とは言えないことばかりである。心の昏い部分をわずかな隙間から偶然垣間見てしまったような、居心地の悪いうしろめたさが後に残る物語である。ラスト近くできゅっと捻られ、物語が様相を変えるのも興味深い。読後どんよりしてしまう一冊でもある。

晴天の迷いクジラ*窪美澄

  • 2012/09/24(月) 17:13:19

晴天の迷いクジラ晴天の迷いクジラ
(2012/02/22)
窪 美澄

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壊れかけた三人が転がるように行きついた、その果ては?人生の転機に何度も読み返したくなる、感涙の物語。


生まれたときはおなじひとつの命なのに、どこでどう道が分かれていくのだろう。間違いに気づかずに、あるいは間違っていると判っていながら改めることができなかったり、正しいと信じている尺度がほかの人とは違っていたり。苦しみながらもがきながら、いま歩いている道から逃れようとのた打ち回るさなかに、出会った三人の物語である。自分では見えないことも、他人を見てわかることがある。ほかの人に望むことがある。「ただ生きていてくれればそれでいい」そのことが大切に思えるようになる一冊である。

天地明察*冲方丁

  • 2012/09/22(土) 20:22:08

天地明察天地明察
(2009/12/01)
冲方 丁

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江戸、四代将軍家綱の御代。ある「プロジェクト」が立ちあがった。即ち、日本独自の太陰暦を作り上げること--日本文化を変えた大いなる計画を、個の成長物語としてみずみずしくも重厚に描く傑作時代小説!!


天文学にも算学にも囲碁にも全く明るくはないが、それでも震えるような使命感や喜びや興奮が伝わってきて、いつしか物語にのめりこむように読んでいた。若い晴海の力だけでは何ともしがたい難題だが、彼の熱意と謙虚さ素直さが、自ずと協力者を引き寄せ、事をうまく運ばせたのだろう。そして、上に立つ者の度量の大きさも印象的である。とりわけ保科正之の働きは、現代の日本にとって宝とも言えるのではないだろうか。治政の現状に目をやると、嘆かわしさが倍増する心地である。壮大で感動的な一冊である。

転がる空に雨は降らない*小野寺史宜

  • 2012/09/19(水) 17:04:27

転がる空に雨は降らない転がる空に雨は降らない
(2012/07/20)
小野寺 史宜

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「パパ、思いっきり蹴ってみて!」と息子は言った。もしもあの日に戻れるなら、おれは何だってするだろう。ミスキックが奪った、ふたつの生命。誰かのせいに、できればいいのに――。ベテランGKの「被害者の父」は、後悔に押しつぶされ堕落する。プロになった「加害者の息子」は、もっとがんばってくれと、願う。いつか試合でぶつかりあうために。残された者たちの祈りが導いた、ささやかだけど美しい、運命と奇跡の物語。


一瞬の行動が運命を左右する。その一瞬に戻れたら、と渇望しても決してそれは叶わない。ボールを追って公園から飛び出してきた子ども、たまたま通りかかった車。たったそれだけのことだったのに、その一瞬から関係者全員の運命が決定的に変わってしまった。法的な加害者ははっきりしているが、実際には関係する誰もが被害者のように思われてならない。幾人もの人々の一生が、その一瞬の前に戻ることがないという残酷さが胸に重く迫ってくる。サッカーというスポーツに絡めて、それぞれの葛藤と苦しみが丁寧に描かれていて好ましい。重い物語だが、爽やかさも明日への希望も垣間見られて、じんと胸を打つ一冊である。

かっこうの親もずの子ども*椰月美智子

  • 2012/09/17(月) 13:24:33

かっこうの親 もずの子どもかっこうの親 もずの子ども
(2012/08/18)
椰月 美智子

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すべてのお母さん、お父さんと、大人になった子どもたちへ――
命とは、愛とは、絆とは……子育ての今、子育てのすべてを描く感動の家族小説。

幼児向け雑誌の編集部で働く、シングルマザーの統子。
子どもを保育園に預け、シッターの協力を得ながら、仕事と育児を両立させている。
4歳の息子・智康は、夫・阿川の希望もあり、不妊治療の末に授かった子どもだ。
産後、すべてが順調かにみえたが、ささいな喧嘩をきっかけに、阿川と統子は離婚に至った。
予定通りには進まない仕事、智康の突然の病気、実母との気持ちのすれ違い、
園でのママ友との人間関係など、統子に悩みは尽きないが、日々を全力で過ごしている。
そんなある日、統子は旅雑誌のグラビアページに智康とそっくりの、双子の少年が載っているのを見つけた。
それをきっかけに、統子と智康は、五島列島・中通島へ向かう……。
生殖医療、保育園問題など、出産と育児にまつわるテーマに切り込みながら、子どもへの愛と命の尊さを描ききる。


子育てで煮詰まっているお母さんにまずいちばんに読んでほしい一冊である。だが、そんな時期には落ち着いて本を読むことすらできなかったなぁ、と我が身を振り返ってそう思うので、親になる前の若い人たちにぜひ読んでもらいたい。ちっとも実感は持てないと思うが、やがて親になったときに、「ああこのことか」と膝を打つに違いない。我が子たちはすっかり育ちあがってしまったが、生まれてきてくれたことのありがたさを伝えるのに遅いということはないと思うので、死ぬまで何らかの形で伝え続けたいと改めて思わされた。この子らがいるからこその我が人生である。母とは強くて弱い生き物だといまさらながらに思わされる一冊でもある。

相田家のグッドバイ*森博嗣

  • 2012/09/16(日) 16:38:50

相田家のグッドバイ相田家のグッドバイ
(2012/02/24)
森 博嗣

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普通の家庭だったけれど、ちょっと変わった両親。
最後に息子がしたことは破壊か、それとも供養だったのか?

彼の母の第一の特徴は、ものを整理して収納することだった。それくらいのこと、綺麗好き整頓好きなら誰でもする。が、彼女の場合、完全に度を越していた。母は、父と結婚して以来、燃えるゴミ以外のゴミを一度も出したことがない。たとえば瓶、プラスティックの容器、ビニルの袋、空き箱、缶、紐に至るまでけっして捨てない。きちんと分別をし収納した。包装紙はテープを取りアイロンをかけて皺を伸ばし正確に折り畳み、輪ゴム一本でさえ太さ別にそれぞれ仕舞った。空き箱の蓋を開けると少し小さい箱が中に収まっていて、その蓋を取るとさらに小さな箱が幾重にも現われた。円筒形のお茶や海苔の缶も同様。家の至るところにそういったものが高密度で収納されていた。七歳年長の無口な父はときどき「こんなものは捨てれば良い」と言ったが、基本的に妻の収納癖に感心していた。平凡な家庭の、60年に及ぶ、ちょっと変わった秘密と真実とは? 森博嗣の家族小説!


小説というよりも、家族史とでも呼びたいような淡々とした調子で終始する一冊である。そしてこれは、親類縁者との付き合いが希薄で、語り手である相田家の息子・紀彦の祖父母とさえ頻繁に交流を持たなかった相田家の在り方の特徴と、両親の考え方によるところが大きいのだろうとも思われる。そうした生い立ちの中から、紀彦自身が感じ、学び取り、考えて自らの自立やその後の生活に役立てようとした様子は、一見薄情のようにも見えて、実のところは両親の影響力が強く及んでいる証しでもありそうだ。ひとりの人間の生き方の模索であり、親離れ、子離れの一例でもあり、連綿と続いてゆく家族の形の在りようということをも考えさせられる一冊でもある。

空飛ぶ広報室*有川浩

  • 2012/09/14(金) 22:04:40

空飛ぶ広報室空飛ぶ広報室
(2012/07/27)
有川 浩

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不慮の事故でP免になった戦闘機パイロット空井大祐29歳が転勤した先は防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。待ち受けるのは、ミーハー室長の鷺坂(またの名を詐欺師鷺坂)をはじめ、尻を掻く紅一点のべらんめえ美人・柚木や、鷺坂ファンクラブ1号で「風紀委員by柚木」の槙博己、鷺坂ファンクラブ2号の気儘なオレ様・片山、ベテラン広報官で空井の指導役・比嘉など、ひと癖もふた癖もある先輩たちだった……。有川浩、渾身のドラマティック長篇小説。


キャラクターのわかりやすさも、甘々でもどかしい恋のはじまりも、鉄壁の有川ワールドである。ただいつもと少し違うように見えるのは、執筆中にあの震災があったために、物語の重みも伝えたい思いもさらに増したからなのかもしれない。そこここに著者からのメッセージを感じ取れるのである。だからといって、重苦しいわけではなく、そこはいつものテンポのよいラブコメでもある。思わず惹きこまれ、胸を熱くしたり、なでおろしたりしているうちに、あっという間に最後のページになってしまうような一冊である。

嵐のピクニック*本谷有希子

  • 2012/09/12(水) 19:42:18

嵐のピクニック嵐のピクニック
(2012/06/29)
本谷 有希子

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優しいピアノ教師が見せた一瞬の狂気を描く「アウトサイド」、ボディビルにのめりこむ主婦の隠された想い(「哀しみのウェイトトレーニー」)、カーテンの膨らみから広がる妄想(「私は名前で呼んでる」)、動物園の猿たちが起こす奇跡をユーモラスに綴る「マゴッチギャオの夜、いつも通り」、読んだ女性すべてが大爆笑&大共感の「Q&A」、大衆の面前で起こった悲劇の一幕「亡霊病」…などなど、めくるめく奇想ワールドが怒涛のように展開する、著者初にして超傑作短篇集。


どうしたらこんな物語が生まれ出てくるのだろう、とその着想力――というか想像力、あるいは創造力――に驚かされる。ほんの短い物語の中に、いま自分が立っている場所とは似ても似つかない、とんでもない異世界が完結しているのである。とにかくシュールだ。タイトルと表紙に騙されてはいけないと思う一冊である。

流れ星が消えないうちに*橋本紡

  • 2012/09/12(水) 14:16:50

流れ星が消えないうちに流れ星が消えないうちに
(2006/02/20)
橋本 紡

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高校時代から付き合っていた恋人・加地君が自分の知らない女の子と旅先の事故で死んでから、1年半。奈緒子は、加地の親友だった巧と新しい恋をし、ようやく「日常」を取り戻しつつあった。ただひとつ、玄関でしか眠れなくなってしまったことを除いては――。
深い悲しみの後に訪れる静かな愛と赦しの物語。


泣けたらいいのに、と思いながら読み進んだ。声を上げて、だれかれ構わず思いをぶつけることができたなら、奈緒子の重荷もほんの少しは軽くなるだろうに、と。だが、そうせずに裡へ裡へと潜り込み、膝を抱えて丸くなって蹲りつづけたからこそ熟成したものもあったのかもしれない。加地君が小学生のころ落ちた溝を見た途端、堰を切ったように溢れ出た涙は、それらを浄化するとともに、受け止めてくれる巧君の存在の大きさがあったからこそのものだろう。あまりにも悲しく、哀しく、閉じた物語だが、ラストに向かってほんの小さな隙間ができたように思えて胸をなでおろした。流れ星マシンのスリットのようなほんの少しの隙間がこんなにも希望を与えてくれるのかと思わされた一冊である。

千年ジュリエット*初野晴

  • 2012/09/09(日) 19:04:15

千年ジュリエット千年ジュリエット
(2012/03/23)
初野 晴

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こんどの舞台は文化祭。アメリカ民謡クラブ、演劇部、そして吹奏楽部…おかしなキャラクターたちがひき起こす難問題とは?青春ミステリ“ハルチカ”シリーズ第4弾。


第三弾を飛び越えてシリーズ第四弾を読んでしまったが、まぁ、ほぼ問題はないだろう。登場人物のキャラクターは、個性がさらにくっきりと際立ってパワーアップしているように思うが、反面ぶっとび娘・チカのぶっとびぶりはやや控えめだったかもしれない。そして、今回は文化祭が舞台ということで、キャスト総登場という趣でもあり愉しめる。まだまだ謎を残している部分もあるので、まだまだ続いてくれることだろう。どうなるのか知りたいことがあれこれあって、次が愉しみなシリーズである。

天岩屋戸の研究*田中啓文

  • 2012/09/05(水) 20:38:15

天岩屋戸の研究 (講談社ノベルス)天岩屋戸の研究 (講談社ノベルス)
(2005/02)
田中 啓文

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<最後の審判>がいま、始まる!国史の嘘は暴かれるのか!?
“常世の森”に天岩屋戸が存在している……!?
<最後の審判>後の世界について書かれているという幻の預言書『伊邪耶(いざや)による黙示録』によると、伝奇学園の敷地内に広がる“常世(とこよ)の森”のある洞窟を開けば、世界はよきものへと一変するという。森に近づく者は容赦なく殺されていた。日本神話の根幹を揺るがす秘密に保志野(ほしの)・比夏留(ひかる)ら民俗学研究会が迫る伝奇ノベルス!


シリーズを締め括る一冊だからか、単にこのシリーズに慣れたからなのか、前二作に比べるときちんと納まるところに納まっている印象である。バラバラに見えた民俗学研究会の面々にもまとまりが見られ、顧問の薮田の正体も判明し、その目論見も明らかになる。規模としては実に壮大な物語なのだが、それが却ってばかばかしい可笑しさを盛り上げている。だがもしかしてもしかすると、これが真実の世の成り立ちだったりしてね、などと思わされるような思わされないような、ちょっとだけ思ってみてもいいかな、というような一冊である。ふふ。

邪馬台洞の研究*田中啓文

  • 2012/09/02(日) 21:51:03

邪馬台洞の研究―私立伝奇学園高等学校民俗学研究会〈その2〉 (講談社ノベルス)邪馬台洞の研究―私立伝奇学園高等学校民俗学研究会〈その2〉 (講談社ノベルス)
(2003/11)
田中 啓文

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私立伝奇学園の敷地内に拡がる立入禁止の“常世(とこよ)の森”には、卑弥呼の財宝が眠り、巨大な昆虫が生息しているという。仮面の男の出現、洞窟の地面から突き出した死体の手。近づく者は命を落とす!? 民俗学研究会のお荷物、諸星比夏留(ひかる)と、天才高校生保志野春信(ほしのはるのぶ)が事件を究明し、日本神話の根底を覆す異説に迫る!


シリーズ二作目も、パワー全開である。歴史の真相が思いもかけない駄洒落だったり、こじつけの謎解きだったり、まさにドタバタ劇である。が、ときにほろりとさせられるエピソードが織り込まれていたり、ロマンスの予感が挟み込まれていたりするので、飽きさせない。民俗学研究会の顧問・藪爺の真実は三作目で判るのだろうか。あまりの可笑しさにときどきガクッと気が抜けるような一冊である。