つむじダブル*小路幸也 宮下奈都

  • 2012/10/29(月) 16:52:22

つむじダブル (一般書)つむじダブル (一般書)
(2012/09/15)
小路幸也、宮下奈都 他

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本邦初!? 人気作家二人がつむぐ話題の合作!
小路幸也が兄の視点、宮下奈都が妹の視点で描く、家族の「ひみつ」の物語

小学生のまどかと高校生の由一は、年の離れた仲のよい兄妹。ふたりとも、つむじがふたつあり、お母さんは「つむじダブルは幸運の証」と子どもたちに話している。ある日、まどかがひとりで留守番をしていると、ひとりの女性から電話がかかってきた。お母さんは知らないひとだと言うのだけど、なんとなく様子がおかしくて――兄妹それぞれの想いが胸に響く、やさしい家族の物語。

僕も宮下さんも、地方で暮らす普通の親です。
二人で描いた<家族の物語>、一生の宝物になりました。――小路幸也

自分ひとりだったら決していかない方向へ物語が広がりました。
妹まどかと兄ユイチのパートを合わせると、わくわくが溢れ出します。――宮下奈都


これはもう、Twitterで、生まれることが決まった瞬間を見ていたので、たいそう愉しみにしていたのである。タイトルまでそのときに決まり、どんな物語が生み出されるのだろうと思ったら、兄と妹、そして小宮家の物語だった。17歳の兄・由一と10歳の妹・まどか。多感な年ごろの兄と日一日と大人に近づく年ごろの妹。それぞれが自分をみつめ、家族のメンバーのことを想い、小宮家というかけがえのない家族のことを愛している。あたたかく愉しく安らかで、ちょっぴり切なくほろ苦くもあり、それでもやはりぎゅっと抱きしめたくなる一冊である。

真夜中のパン屋さん--午前1時の恋泥棒*大沼紀子

  • 2012/10/28(日) 11:30:36

真夜中のパン屋さん 午前1時の恋泥棒 (ポプラ文庫)真夜中のパン屋さん 午前1時の恋泥棒 (ポプラ文庫)
(2012/02/03)
大沼 紀子

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真夜中にだけ開く不思議なパン屋さん「ブランジェリークレバヤシ」に現れたのは、美人で妖しい恋泥棒―。謎だらけの彼女がもたらすのは、チョコレートのように甘くてほろ苦い事件だった…。不器用な人たちの、切なく愛おしい恋愛模様を描き出す“まよパン”シリーズ第2弾。


「生地を捏ねる」から「焼成」まで、パン作りの工程が目次になっている。パンを作る過程に事件の成り行き――言うなれば物語の起承転結である――を絡ませている、のである。前作はキャラクターの紹介的要素もかなりあったが、今作はそれは定着し、ブランジェリー・クレバヤシ自体も、駆け込み寺的存在というよりは、前作で助けられた人たちの憩いの場のような役割になっている。突っ張っていた希実も次第に笑を取り戻し、店の欠かせないメンバーになり、事件解決にもひと役買うようになっていて、なんだか安心してしまう。「誰かの傘になりたい」という美和子の残した店のコンセプトに少しずつ近づいているようで、あたたかい気持ちにもなる。そして何よりパン大好き人間としては、思わずパン屋さんに走りたくなる一冊でもある。チョコクロワッサンラスク、食べてみたいなぁ。

攪乱者*石持浅海

  • 2012/10/26(金) 19:20:27

攪乱者 (ジョイ・ノベルス)攪乱者 (ジョイ・ノベルス)
(2010/04/15)
石持 浅海

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コードネーム『久米』『輪島』『宮古』のテロリスト三人。彼らは一般人の仮面をかぶりながら、政府転覆をめざすテロ組織の一員である。組織は、暴力や流血によらない方法で現政府への不信感を国民に抱かせようとしていた。彼らに下された任務は、組織が用意したレモン三個をスーパーのレモン売り場に置いてくるなど、一見奇妙なものであった。任務の真の目的とは何か。優秀な三人の遂行ぶりが引き起こす思わぬ結果とは。テロ組織の正体は。そして彼らの運命を翻弄していく第四の人物の正体は―。


先日読んだ『扇動者』の先に立つ一冊である。テロリストシリーズとでも言うのだろうか。
無血で現政府から政権を奪取するために、理由や効果を知らされることなく一見子どもじみたミッションを遂行していく、ある細胞(テロ組織の活動の単位)の物語である。冷酷非道なイメージのテロリストだが、ひとりひとりは血も涙もある普通の人間だということがよくわかる。そして、暴力に訴えないテロというものの恐ろしさがじわじわと背筋を這い登ってくる心地でもある。組織の正体がわからないのでなおさら厭な感じがぬぐえないということもある。『扇動者』とは、組織そのものはもちろん、串本つながりでもある。面白く恐ろしい一冊である。

犬とハモニカ*江國香織

  • 2012/10/23(火) 18:43:36

犬とハモニカ犬とハモニカ
(2012/09/28)
江國 香織

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絶賛された受賞作に、著者の最新最高の作品を合わせた花束のような短編集! 空港の国際線到着ロビーを舞台に、渦のように生まれるドラマを、軽やかにすくい取り、「人生の意味を感得させる」、「偶然のぬくもりがながく心に残る」などと絶賛された、川端賞受賞作。恋の始まりと終わり、その思いがけなさを鮮やかに描く「寝室」など、美しい文章で、なつかしく色濃い時間を切り取る魅惑の6篇。


表題作のほか、「寝室」 「おそ夏のゆうぐれ」 「ピクニック」 「夕顔」 「アレンテージョ」

登場人物のほとんどは、取り立ててどうということのない普通の人、と括られるような人々である。とはいえ、それぞれにその人なりのこだわりや特別や譲れない事々があり、誰もがそれぞれにとって特別な人生を生きているのである。わかりきったことなのだが、改めてそのことに気づかされるような一冊である。

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ガレキノシタ*山下貴光

  • 2012/10/22(月) 17:04:11

ガレキノシタガレキノシタ
(2012/07/19)
山下 貴光

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私たちは閉じ込められている。夢じゃないぞ。友情、恋愛、いじめ、家族…それぞれに問題を抱えた生徒や教師が生と死のはざまで見つけたものは―!?亙礫の下で何かが生まれる―感動の傑作サバイバル小説。

「……きっかけは一九九五年に韓国で起きた三豊百貨店崩壊事故だ。(中略)
瓦礫に閉じ込められ、悲劇に見舞われた彼らではあるが、
そこで先ほどまでつづいていた生活がなくなってしまうわけではない。(中略)
彼らは悲劇の象徴ともいえる巨大な瓦礫と向き合いながらも生活をつづけ、
抱えたままの問題や自分自身とも向き合ったのではないか。
…そして、そういう物語を書きたくなった。
――山下貴光(月刊J-novel2012年8月号より)」


ある日の高校の休み時間、突然校舎が倒壊し、教師や生徒が瓦礫の下敷きになった。我に返り置かれた状況を把握したとき、彼らの胸に去来したものは、そして彼らがとった行動は何だったのか。何人かの生徒、教師のそのときが描かれているが、どれも涙なしには読むことができない。それぞれが、どんな風に生きてきたか、どんな心構えを持っていたかという本性の部分が現れ、それはこれからどんな風に生きていくか、ということにもつながっていくように思われる。なにができるか、どう生きるか、を考えさせられる一冊でもある。

満月ケチャップライス*朱川湊人

  • 2012/10/20(土) 16:50:52

満月ケチャップライス満月ケチャップライス
(2012/10/05)
朱川 湊人

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―あれ以上においしくて元気の出る食べ物は、きっと、この世に存在しない。
ある朝、中学一年生の進也は、妹の亜由美に起こされた。台所を見に行くと、知らない男の人が体育坐りで眠っている。夜の仕事をしている母が連れて帰ってきた人らしい。進也はあまり気にせず、いつものように目玉焼きを作りはじめると…「あ、そろそろ水を入れた方が、いいんじゃないですか?」
3人家族と謎の男チキさんの、忘れられない物語が始まる。


ある年齢以上の人ならだれでも一度は真似したことがあると思われる超能力のこととか、世の中を戦慄させるテロ事件を起こした宗教団体のことなどを織り込みながら、これほど切なく身近で、哀しくてしあわせにあふれている物語がほかにあるだろうか。人と人との出会いと心の結びつきの運命的な不思議さと、別れの理不尽さに涙を誘われる。チキさん・・・と思わずつぶやいてしまいそうになる一冊である。そして、チキさんの作ってくれるごはんが、簡単なのにどれもとてもとてもおいしそうで、素敵。

蒼林堂古書店へようこそ*乾くるみ

  • 2012/10/19(金) 07:14:10

蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)
(2010/05/07)
乾 くるみ

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書評家の林雅賀が店長の蒼林堂古書店は、ミステリファンのパラダイス。バツイチの大村龍雄、高校生の柴田五葉、小学校教師の茅原しのぶ―いつもの面々が日曜になるとこの店にやってきて、ささやかな謎解きを楽しんでいく。かたわらには珈琲と猫、至福の十四か月が過ぎたとき…。乾くるみがかつてなく優しい筆致で描くピュアハート・ミステリ。


林四兄弟シリーズ。今回登場するのは次男の林雅賀(はやしまさよし)。彼はカフェ付古書店のマスターで探偵役でありながら、主役ではなく、目線は常連客で高校の同級生の大村龍雄である。100円以上の売買をした客にコーヒーを振舞う、という独自のサービス目当てにやってくる常連客たちが持ち込むちょっとした引っ掛かりを解き明かす、という趣向である。北森鴻氏の香菜里屋シリーズに趣向は似ているが、数段こぢんまりさせたような感じではある。探偵役の林雅賀が――答えがあらかじめわかっているとは言え――インターネットで検索してみせる、というのはいまの時代ならでは、なのか、なぁ。気軽に愉しめる一冊ではある。

獅子真鍮の虫*田中啓文

  • 2012/10/17(水) 16:45:11

獅子真鍮の虫 (永見緋太郎の事件簿) (創元クライム・クラブ)獅子真鍮の虫 (永見緋太郎の事件簿) (創元クライム・クラブ)
(2011/03/24)
田中 啓文

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クインテットでの活動を休止にして海外に旅立つ唐島に、同行すると言いだした永見。ニューヨーク、シカゴ、ニューオリンズでふたりが出合った、ジャズと不思議な出来事。“日常の謎”的ジャズミステリーシリーズ、第三弾。あこがれのミュージシャンが遺した楽器を手に入れた唐島を襲った災難、ニューヨークで管楽器の盗難事件に巻きこまれた永見が見いだした真相、シカゴで仲良くなった老人が行方不明になっていた伝説のジャズマンだったことに端を発した騒動の顛末…、など全七編を収録。田中啓文おすすめのジャズレコード、CD情報付。


表題作のほか、「塞翁が馬」 「犬猿の仲」 「虎は死して皮を残す」 「サギをカラスと」 「ザリガニで鯛を釣る」 「狐につままれる」

アメリカのジャズシーンめぐりのような趣である。そして、どこにいてもふらっといなくなったり、さらっと謎を解いたりする永見緋太郎である。マイペースなのはいつものことながら、音楽に関しては強い衝撃を受け、本場の洗礼をも受け、大きな影響を受けて成長もしたようである。相変わらず彼の中心は音楽なのである。ジャズにはまるで疎いが、お腹に響くような圧倒的な音に包まれた心地にもなった。永見緋太郎シリーズはこれをもって一旦おしまい、というのが残念な一冊である。

煽動者*石持浅海

  • 2012/10/15(月) 19:35:50

煽動者煽動者
(2012/09/20)
石持 浅海

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そのテロ組織の名は「V(ブイ)」。
目的は、流血によらず現政府への不信感を国民に抱かせること。
メンバーは平日、一般人を装い、週末だけミッションを実行。
各人はコードネームを用い、メンバーはお互い、本名も素性も知らない。
週末、兵器製造のため軽井沢の施設に招集されたのは八人。
ところが作戦会議終了後、一人が謀殺された。施設は部外者の侵入は不可能、犯人はメンバーの誰か。
兵器製造命令は絶対、週明けには一般人に戻らなければならない刻限下、犯人推理の頭脳戦が始まった――。


冒頭からがっちりと掴まれた。普段はありふれた社会人でありながら、週末は国をよくするための反政府的ミッションに参加する人々。なんてミステリアスでスリリングなのだろう。メンバーがごく普通の人たちだからこそなおさらぞくぞくする。だが、ミッション遂行中の厳重なセキュリティの中でメンバーの一人が殺される。犯人は?同機は?自分たちの身の危険は?ミッションの行方は?たくさんの「?」のなかで、彼らは考え、行動する。誰もがさすがは選ばれた者だと思わされる推理力であり、洞察力であり、記憶力である。わくわくする。現実だったらいささかぞっとしない設定ではあるが、惹きこまれる一冊である。

林真紅郎と五つの謎*乾くるみ

  • 2012/10/13(土) 16:58:14

林真紅郎と五つの謎 (カッパ・ノベルス)林真紅郎と五つの謎 (カッパ・ノベルス)
(2003/08/21)
乾 くるみ

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複雑な波形が脳裏で重なるとき、林真紅郎の前にもはや謎はない!
林真紅郎は35歳の元法医学者。妻を事故で亡くしたことがきっかけで大学を辞めてからは、「隠居」生活を送っている。そんな彼が出会う不思議な5つの事件。バラバラに見える謎すべてが脳裏でシンクロした時に見える真相とは?


「いちばん奥の個室」 「ひいらぎ駅の怪事件」 「陽炎のように」 「過去から来た暗号」 「雪とボウガンのパズル」

林四兄弟シリーズの一作目。探偵役は四男・真紅郞。190cmを超える長身が特徴で、一年半前に妻を亡くして以来、三十五歳の若さで隠居暮らしである。だがなぜか、彼が赴くところに事件があり、謎を解きほぐさんと思考をめぐらすうちに、パズルの最後のピースがカチッとはまるようにシンクロして謎を解き明かすのである。だから真紅郞というのはどうかと思わなくもないが、まぁ、お遊びと言ったところか。三男の茶父とは全く違うキャラクターだが、どことなくとらえどころがないところは似ていると言えるかもしれない。謎解きにさして一生懸命ではないように見受けられるし、ときに見当違いだったりもするし、人任せだったりもするが、なぜか憎めないキャラクターではある。林四兄弟の揃い踏みを見たいシリーズである。

おさがしの本は*門井慶喜

  • 2012/10/12(金) 17:54:02

おさがしの本はおさがしの本は
(2009/07/18)
門井 慶喜

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簡単には、みつかりません。この迷宮は、深いのです。生まじめでカタブツの図書館員が、お手伝いいたします。極上の探書ミステリー。


「図書館ではお静かに」 「赤い富士山」 「図書館滅ぶべし」 「ハヤカワの本」 「最後の仕事」

市立図書館のレファレンス・カウンターで働く和久山隆彦が、ほかの図書館員たちにも知恵を借りながら探偵役として図書館に持ち込まれる謎を解き明かす連作短編集である。
レポートの資料探し、思い出の本探し、図書館廃止派の新任副館長との勝負、今際の際の言葉からの本探しなどなど、難題に挑む隆彦が、熱血過ぎないところにも親近感が湧く。ロマンスの香りもほのかにするものの、くどすぎないのも好感が持てる。本に対する愛を感じられる一冊である。

ウィンディ・ガール--サキソフォンに棲む狐 Ⅰ*田中啓文

  • 2012/10/11(木) 17:01:30

ウィンディ・ガール サキソフォンに棲む狐I (サキソフォンに棲む狐 1)ウィンディ・ガール サキソフォンに棲む狐I (サキソフォンに棲む狐 1)
(2012/09/15)
田中 啓文

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永見典子は須賀瀬高校一年生。吹奏楽部でアルトサックスを吹いている。父・光太郎は二年前に新宿で不審な死を遂げ、母の瑤子と二人暮らしだ。彼女の行動に異常に口出しする母に、反発する典子。そんな典子の秘密の親友は、彼女のサックスに棲みつくクダギツネのチコだ。譜面が絶対で、部員に命令を強制する顧問の高垣、いやな先輩・柿沢、厳しい練習、理不尽な説教、でも典子は仲間たちとレギュラー・オーディションやコンテストの準備に部活を頑張っていた。ところが、そんな吹奏楽部に、不思議で不吉なトラブルが次々に起こる。典子はチコの力を借りながら、トラブルを解決していく。一方、典子は父の最期の様子を知ろうと新宿に行き、ふと入ったライヴハウスでミュージシャン・坂木新のステージを観る。力強くさまざまなものを自由に表現するその演奏に強い衝撃を受け、典子は未知の音楽の魅力に導かれていく…。事件に、人に、音楽に、出会い、ぶつかり、悩みながら進む少女を描く連作小説。


うわぁ、ここで終わるの!?と思わず叫びたくなるラストである。一体自作ではどんな展開になるのやら。
永見典子は質屋でどこのメーカーのものとも知れぬ手作りらしいサックスと巡り合い、なんとか手に入れるが、そこには地狐(チコ)が棲みついていた。典子の父は永見光太郎。そしてサックス、と言えば、永見緋太郎と無関係とは思えないが、本作では関係性は明らかにされていない。そのうち明らかにされるのだろうか。一作目は、典子がジャズと出会うための導入篇のようだが、典子がどうジャズサックスとかかわっていくのかとか、父の死の真相とか、緋太郎との関係とか、二作目以降への期待がいやが上にも高まる一冊である。

微笑む人*貫井徳郎

  • 2012/10/10(水) 07:10:15

微笑む人微笑む人
(2012/08/18)
貫井 徳郎

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エリート銀行員の仁藤俊実が、意外な理由で妻子を殺害、逮捕・拘留された安治川事件。
犯人の仁藤は世間を騒がせ、ワイドショーでも連日報道された。
この事件に興味をもった小説家の「私」は、ノンフィクションとしてまとめるべく関係者の取材を始める。
周辺の人物は一様に「仁藤はいい人」と語るが、一方で冷酷な一面もあるようだ。
さらに、仁藤の元同僚、大学の同級生らが不審な死を遂げていることが判明し……。
仁藤は本当に殺人を犯しているのか、そしてその理由とは!?

貫井氏が「ぼくのミステリーの最高到達点」と語る傑作。
読者を待つのは、予想しえない戦慄のラスト。


最初から最後までリアルである。ノンフィクションだと言われれば、何の疑いも抱かずに納得してしまいそうだ。ある殺人事件の被疑者(仁藤)のことを、彼の物語を書こうとする小説家が、彼を知る人々に取材し、真実の仁藤を浮かび上がらせようとするのである。少しずつ仁藤の真の姿が明らかになり、事件の隠された真実が暴かれる、というストーリーを、つい期待してしまうが、現実はなかなかそう思い通りにはいかないものである。そして本作も、そんな期待には全くと言っていいほど応えてくれない。それがもどかしくもあり、どうしようもない現実を見せつけられるようでもあって、見事である。著者自身も執筆しながら、スッキリ真相を解明したい欲求に駆られなかっただろうか、と思わず想像してしまうような一冊である。

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道警刑事サダの事件簿*菊池貞幸

  • 2012/10/08(月) 14:13:03

道警刑事(デカ)サダの事件簿 (徳間文庫)道警刑事(デカ)サダの事件簿 (徳間文庫)
(2012/08/03)
菊池 貞幸

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サダは走る。ひったくり犯を追って。車泥棒のヤクザを追って。北海道江別署の駅前交番を振り出しに、機動捜査隊や銃器対策課などで刑事として活躍後、熱血ゆえの左遷もなんのその、真っ直ぐに正義を貫いた42年間の警官人生!サダの熱い心が、逮捕した自販機破損の高校生を改心させ、ヤクザが隠匿していた大量の拳銃や機関銃押収の糸口を掴んだ。事実の迫力が小説やドラマを越える。


警察小説ではなく、なんの捻りもないただの事件簿?と思ったら、ほんとうにただのサダの事件簿なのだった。退官後の元警察官が著者なのである。だが、フィクションよりもずっと信じられないような展開もあり、被疑者や被害者との情の通い合いもあり、著者だからこそとも思われる無謀さもある。それを、熱意を胸に秘めつつ淡々と事件簿として綴っている姿に、警察官という職業への愛を感じて胸が熱くなる。読後に改めて表紙を見るとしみじみとありがたくなる一冊である。

若桜鉄道うぐいす駅*門井慶喜

  • 2012/10/07(日) 20:04:32

若桜鉄道うぐいす駅若桜鉄道うぐいす駅
(2012/09/13)
門井慶喜

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おんぼろ駅舎が文化財だって!?保存か、建て替えか?おまけに村長選挙まで!村をあげての大騒動に…。


フランク・ロイド・ライトが設計したと言われる、若桜(わかさ)鉄道うぐいす駅の駅舎が取り壊されそうだというので、反対運動が起こっている。取り壊し派の代表の村長・豪造と、反対派の代表・重次郎は幼馴染だった。両者から別々に逆の理由でうぐいす駅舎のことについて調べてくれと頼まれた村長の孫・涼太が調べたところ、とんでもない事実が発覚したのだった。そして、いくつかの事情が重なり、涼太が村長選に臨むことになり、これまた意外な結果になるのだが、その種明かしには胸がすく心地だった。こんな選挙戦もあっていい。というかこれこそが住民のことを考えた選挙戦なのでは…と思う。ローカル線の何もない駅にも濃い歴史があるのだと胸にぽっと灯がともるような一冊だった。

六つの手掛り*乾くるみ

  • 2012/10/07(日) 10:05:32

六つの手掛り六つの手掛り
(2009/04/15)
乾 くるみ

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雪野原に立つ民家で、初めて会った者同士が一夜を過ごし、翌朝、死体発見(『六つの玉』)。姪に話して聞かせる、十五年前の「大学生・卒業研究チーム」爆死事件の真相(『五つのプレゼント』)。大学の補講中、マジック好きな外国人教授が死んだ、ESPカード殺人事件(『四枚のカード』)。中味を間違えた手紙と残された留守電が、エリート会社員殺害の真相を暴く(『三通の手紙』)。特注の掛軸は、凝ったイタズラが大好きな、地方の名士がが殺された謎を知っている(『二枚舌の掛軸』)。決定的な証拠がありありとそこに存在した、ベテラン作家邸殺人事件(『一巻の終わり』)。見た目は「太ったチャップリン」!?林茶父が、今日もどこかで事件解決。


「六つの玉」 「五つのプレゼント」 「四枚のカード」 「三通の手紙」 「二枚舌の掛け軸」 「一巻の終わり」

林茶父(サブ)を探偵役とした連作である。ただ、探偵役ではあるものの、林茶父自身が主役になることはなく、物語の目となるのはいつも別の人物である。それでも、マジックが好きだからということもあるのか、茶父の目のつけどころは、トリックを見破るのに秀でていて、どの謎解きもなるほどと思わされる。本作は、林四兄弟シリーズ中の一作のようだが、林茶父のことをもっと知りたくなる一冊である。そして残る三兄弟の物語もぜひ読んでみよう。

空想オルガン*初野晴

  • 2012/10/05(金) 16:53:09

空想オルガン空想オルガン
(2010/09/01)
初野 晴

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吹奏楽の“甲子園”普門館を目指すハルタとチカ。ついに吹奏楽コンクール地区大会が始まった。だが、二人の前に難題がふりかかる。会場で出会った稀少犬の持ち主をめぐる暗号、ハルタの新居候補のアパートにまつわる幽霊の謎、県大会で遭遇したライバル女子校の秘密、そして不思議なオルガンリサイタル…。容姿端麗、頭脳明晰のハルタと、天然少女チカが織りなす迷推理、そしてコンクールの行方は?『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』に続く“ハルチカ”シリーズ第3弾。青春×本格ミステリの決定版。


表題作のほか、「序章」 「ジャバウォックの鑑札」 「ヴァナキュラー・モダニズム」 「十の秘密」

ハルタとチカのシリーズ第三弾。先に四作目を読んでしまったが、まぁ、問題なし。
吹奏楽コンクールの地区大会の緊張感という縦糸に、ハルタの怪しい行動や、大会のライバル女子高の秘密や、それを解き明かすハルタとチカ――主にハルタだが――の名(迷?)コンビの活躍を横糸にしてからませた一冊である。ハルタや吹奏楽部員たちの事情や、謎多き草壁先生の過去の影のせいで、単純明快な青春物語というわけではなく、チカのぶっ飛んだキャラクターで明るさを保っているようなところもあるが、あれもこれも気になることがなかなか明かされないので、次の展開が気になるのである。

ゼラニウムの庭*大島真寿美

  • 2012/10/04(木) 17:04:14

ゼラニウムの庭 (一般書)ゼラニウムの庭 (一般書)
(2012/09/15)
大島真寿美

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わたしの家には、謎がある―双子の妹は、その存在を隠して育てられた。家族の秘密を辿ることで浮かび上がる、人生の意味、時の流れの不可思議。生きることの孤独と無常、そして尊さを描き出す、大島真寿美の次なる傑作。


作家になったが、それとは別にきわめて個人的な忘備録として書かれたるみ子(るるちゃん)の記録がそのままこの物語である。俄かには信じられないような事情を抱え、長い間隠し続けてきたるみ子の家のこと。亡くなる前の祖母がるみ子に語ってくれた真実や、気取られないようにるみ子自身が父母から聞き出した事情が、ときどきのるみ子の思いとともに語られている。そのあとには、嘉栄さん自身がるみ子の記録を読んで付け加えたことが、附記として載せられている。切なさ、逞しさ、哀しみ、尊厳、うしろめたさ、そして時間の流れというものの不思議さや理不尽さが渦巻く一冊である。

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ふくわらい*西加奈子

  • 2012/10/03(水) 13:12:33

ふくわらいふくわらい
(2012/08/07)
西加奈子

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マルキ・ド・サドをもじって名づけられた、書籍編集者の鳴木戸定。
彼女は幼い頃、紀行作家の父に連れられていった旅先で、誰もが目を覆うような特異な体験をした。
その時から、定は、世間と自分を隔てる壁を強く意識するようになる。
日常を機械的に送る定だったが、ある日、心の奥底にしまいこんでいた、自分でも忘れていたはずの思いに気づいてしまう。
その瞬間、彼女の心の壁は崩れ去り、熱い思いが止めどなく溢れ出すのだった――。


上記の紹介文のように、幼いころに特殊な体験をしたことが定(サダ)の人となりにかなりの影響を及ぼしたことは確かだとは思うが、それ以前に、生まれ持った感性がすでに周りの子どもとはひと味違っていたからこその彼女であっただろうと思うのである。興味のツボというのか、揺り動かされる点が、それはもう独特である。長じて編集者になった――どうして採用されたのか不思議でもあるが、それは置いておくとして――定だが、担当作家に真剣に寄り添おうとする定に、癖のある作家もいつしか心を開き、定もただならぬ影響を受けてゆく。思えば定という女性は、拒否するということをしないのだなぁ。儀礼的でなく、丸ごと相手のすべてをまず受け入れ、自分の中に取り込んで彼女なりに咀嚼しようとするのである。なかなかできないことだが、それを自然としてしまうのが定の特徴なのである。それでいて、自分というものを失くさずにいるのも定ならばこそだろう。社会では生きにくいかもしれないが、いつの間にか社会の方が歩み寄ってきそうにも思え、ふふふ、と笑いたくなる一冊である。

幸せの条件*誉田哲也

  • 2012/10/02(火) 16:52:41

幸せの条件幸せの条件
(2012/08/24)
誉田 哲也

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新燃料・バイオエタノール用にコメを作れる農家を探してこい!突然の社長命令を受け、片山製作所・伝票整理担当の梢恵は、縁もゆかりもない長野の農村へ。ところが行く先々で「コメは食うために作るもんだ。燃やすために作れるか」と門前払い。さらには農業法人「あぐもぐ」の社長・安岡に、「まずは体で一から農業を知れ」と一喝され、これまで興味も知識も皆無だった農業に取り組むことに。そこで初めて農家が抱える現実を思い知るが…。彼氏にも、会社にも見放された24歳女子。果たして、日本の未来を救う、新しいエネルギーは獲得できるのか?農業、震災、そしてエネルギー問題に挑む感動の物語。


お気楽に行き当たりばったりで生きてきた24歳の女の子のお仕事成長物語、と言ってしまえばそうなのだが、それだけではない奥の深さがこの物語にはあるように思う。東日本大震災と、福島第一原発の事故の波紋、そこから注目されるようになった燃料問題。日本の農業の現状とも絡め、これからの日本人の進む道、ということまで考えさせられる物語になっている。片山社長が、バイオエタノールを作る機械を結構簡単に作ってしまい、改良まで短時間でやってしまうのは、あまりの早業の気がしなくもないが、自分のことをも将来のあれこれをも真剣に考えることの大切さと、人と人との信頼の力強さが感じられ、思わず下腹に力が入るような一冊だった。