舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵*歌野晶午

  • 2013/01/30(水) 16:52:36

舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (カッパ・ノベルス)舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (カッパ・ノベルス)
(2010/10/20)
歌野 晶午

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ゲームとダンスが大好きで、勉強と父親は嫌い。生意気盛りの中学二年生・舞田ひとみが、小学校時代の同級生・高梨愛美璃と再会したのは、愛美璃が友人たちと、募金詐欺を繰り返す胡散臭い女を尾行していた時だった。数日後、女は死体で発見されて―。驚きのひらめきと無限の想像力で、ひとみは難事件に挑む!14歳の少女たちの日常と、彼女たちの周りで起こる不思議な事件をいきいきと描いた異色の本格ミステリ、シリーズ第二弾。


舞田ひとみシリーズ第二弾。
語るのはひとみの小学生時代の同級生で、いまは私立の森海学園中学に通う高梨愛美璃だが、もちろん主役である探偵役は舞田ひとみである。「私」という一人称を使うのがひとみではなく愛美璃なので、ときどき軽く混乱するが、次第に慣れてくる。中学生にしてこの観察力と洞察力はお見事というしかないが、なんとなく恵まれない境遇っぽいのに、あっけらかんとして見えるキャラクタのおかげか、切れ者という雰囲気が全くないのが同年代に反感を抱かれない秘訣――本人は意図していないと思うが――だろうか。なんだかんだと面倒見のいいところがあるのが苦労人っぽくもある。がんばれひとみ、と応援したくなる一冊である。

佐渡の三人*長嶋有

  • 2013/01/29(火) 07:20:15

佐渡の三人佐渡の三人
(2012/09/26)
長嶋 有

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「佐渡の三人」―佐渡行その1。おばちゃん(大叔父の奥さん)が亡くなった。儀礼嫌いの大叔父に代わり、なぜか私と弟、父の三人が佐渡にある一族の墓へお骨を納めに行くことに。「戒名」―ワンマンな祖母は生前に自分で戒名を決めてしまった。問題は字数が足りないことだ、と寝たきりの祖父母を世話する、ひきこもりの弟がいう。「スリーナインで大往生」―佐渡行その2。祖父が亡くなった。享年99歳9カ月。「惜しい!」「スリーナインだ」と家族は盛り上がって…。「旅人」―佐渡行その3。大叔父が亡くなった。祖母との「ダブル納骨」のため、父の後妻を含め一族7人が佐渡に集まった。…そして、「納骨」の旅はまだまだつづく。


ちょっぴり変わった――と、少なくとも物書きの私=道子には自覚のある―― 一族の納骨の物語である。長らく訪れることもなかった一族の出身地佐渡の寺へ亡くなった人のお骨を納めに行くという、ただそれだけが目的の旅である。旅の都度、もちろん納める骨の主は違い、旅の様子も心構えも少しずつ違う。世間体とか儀礼とかに構わない一族の、それでもなんとなく学習し、進化――なのか後退なのか――する旅のあれこれが哀しくも面白い。決しておちゃらけているわけではなく、それでもウケることを第一義とする彼らの、真面目さゆえのある種の照れに頷けもする。行き当たりばったりに見えて、実はなにより心がこもっているような気もする一冊である。

真夜中のパン屋さん--午前2時の転校生*大沼紀子

  • 2013/01/27(日) 16:41:42

真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生 (ポプラ文庫 日本文学)真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生 (ポプラ文庫 日本文学)
(2012/12/05)
大沼 紀子

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夜が深まる頃、暗闇に温かい灯りをともすように「真夜中のパン屋さん」はオープンする。今回のお客様は希実につきまとう、少々変わった転校生。彼が企む“計画”によりパン屋の面々は、またもや事件に巻き込まれていく。重く切なく、でも優しい、大人気シリーズ第3弾。


今回のキーは転校生である。希実のクラスにやってきた腹話術が得意な美作孝太郎は、どういうわけか希実にすり寄ってくる。そしてもうひとつ挟みこまれている、将来は魔法使いになりたいという転校生のエピソードは誰のものなのか。こだまの実父や、こだまの母・織江さんが再婚するかもしれないと思われた男、そして転校生を取り巻く出来事に希実たちも巻き込まれることになる。希実を大切に思う、暮林や弘樹の熱い気持ちはいままで以上で、ほのぼのとさせられるが、その一方で、希実の過去の真実に近づいているようで、ハラハラさせられる。次作で希実が不幸にならなければいいのだが、と願わずにはいられない一冊である。

けさくしゃ*畠中恵

  • 2013/01/25(金) 21:32:11

けさくしゃけさくしゃ
(2012/11/22)
畠中 恵

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版元の山青堂です。超超超目利きな、今で言う編集者です。旗本のお殿様・高屋彦四郎様(通称彦さん)を戯作者にスカウトしたのは、このあたし。最初は渋っていたけど、彦さん、どんどん戯作の虜になっていきました。けど、人の心を強く動かすものには、お上が目をつけるのが世のならい。命をおびやかされるかもしれぬ。しかし、戯作を止められないのだ。なんて、かっこいいこと言ってる場合じゃありませんから、彦さん。はて、この顛末や如何に!?―お江戸の大ベストセラー作家の正体は、イケメン旗本だった!?「しゃばけ」シリーズ著者によるニューヒーロー誕生。


いつもの畠中ワールドとはいささか趣を異にするせいか、物語に馴染むのに時間がかかったように思う。しかも、肝心の主人公・彦さんのキャラクターがいまひとつスッキリと頭のなかに立ち上がってこないのである。妻の勝子命で病弱なイケメン、なのだが、どちらの方向にも中途半端な気がしてしまうのは、わたしだけだろうか。彦さんが巻き込まれた事件を劇作(けさく)に仕立てる内に謎を解き明かすという趣向は目新しく、興味を惹くが、もう少しインパクトが欲しい気がしてしまってもったいない。彦さんに愛着が湧けばのめりこめそうな一冊ではある。

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聞く力*阿川佐和子

  • 2013/01/23(水) 16:57:58

聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書)聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書)
(2012/01)
阿川 佐和子

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頑固オヤジから普通の小学生まで、つい本音を語ってしまうのはなぜか。インタビューが苦手だったアガワが、1000人ちかい出会い、30回以上のお見合いで掴んだコミュニケーション術を初めて披露する―。


多くのレビューで見かけることだが、タイトルから想像する内容とは少しばかり違っているように思う。そして、このタイトルだからこそ手に取る人が多かったのだろうな、とも思う。人の話を聞くことの大切さは、――自分が苦手だからこそ――とてもよくわかる。聞き上手には心底あこがれるし、少しでも近づきたいと日ごろから思っている。だが、本書は聞き方の指南書というわけではなく、著者のインタビュー時の心構えや、成功あるいは失敗例とその反省、といったものである。なので、すべての場合に当てはまるものではないかもしれないが、人の話を聞く際の心構えと臨み方のような点で参考になることは多い。それよりなにより、著者がインタビューするゲストとのエピソードが面白いので、インタビューエッセイと思って読めばいいのだと思う。改めて聞き上手になりたいと思わされる一冊である。

シロシロクビハダ*椰月美智子

  • 2013/01/23(水) 14:05:24

シロシロクビハダシロシロクビハダ
(2012/11/27)
椰月 美智子

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化粧品メーカーの研究部に勤める秋山箱理の肩には、目に見えないゆでだこの「タコリ」が乗っている。子供のころ世の中とうまく折り合えなかった箱理をいつも助けてくれたタコリが、17年ぶりに再来したのだ。それとともに、平和だった箱理の家族と仕事に波乱が生じはじめて・・・。なぜか完璧な白塗り化粧で素顔を隠しつづける祖母・ヨシエ、奔放なライターの姉・今理、熱血漢の弟・万理とその恋人、化粧品開発に賭ける同僚ら個性豊かな登場人物の織り成すドラマを温かく、ときに切なく描く魅力作。


箱理は空想の産物(?)のゆでだこのタコリを肩にのせているちょっと変わった子どもだった。大人になったいまは、化粧品メーカーの研究部に勤めている。相変わらず浮世離れしてはいるが、仕事はやりがいがあり、まあなんとなく職場の人間関係もうまくいっている風である。そんな折、しばらく現れなかったタコリが姿を現した。姉の今理、弟の万理とのあれこれ、祖母ヨシエさんの白塗り化粧の秘密、職場の同僚とのやり取りや仕事の達成感、そして工場での仄かな恋心など、箱理の日常は平穏なんだか波乱万丈なんだかよくわからない。でも、何があっても箱理は箱理でいてほしいと思わされる一冊である。

コモリと子守り*歌野晶午

  • 2013/01/22(火) 07:27:50

コモリと子守りコモリと子守り
(2012/12/15)
歌野 晶午

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巧緻きわまりない本格ミステリーにして、誘拐ミステリーの傑作!!

引きこもりの友人の窮地を救うため、17歳の舞田ひとみは幼児誘拐事件の謎を追うのだが……。
ひとつの事件の解決は、あらたな事件の始まりだった!
勉強に育児に忙しいひとみが、前代未聞の難事件に挑む!!


舞田ひとみシリーズ第三弾。二作目、読んでいなかったかも…。
語り手が引きこもり(コモリ)の馬場由宇なので、初めのうちは舞田ひとみシリーズとは気づかなかったが、由宇はひとみに厄介ごとを持ちかけ、その手を煩わせるばかりで、やはり、事件を解き明かすのはひとみなのである。高校生の探偵ごっこと言うには、幼児虐待あり、身代金誘拐あり、殺人ありと、事件は本格的すぎるのだが、ひとみの観察眼と洞察力、推理力がものを言うのである。身代金誘拐の顛末は、とてもあの夫婦が考え出したとは思えないのがリアリティに欠けると言えなくもないが、どうしようもないヤツというのはどうしようもない知恵は働くものなのかもしれない。しかしこの動機と結果は痛ましすぎる。まだまだ続いてほしいシリーズである。

はぶらし*近藤史恵

  • 2013/01/20(日) 08:30:46

はぶらしはぶらし
(2012/09/27)
近藤 史恵

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10年ぶりに会った友達を、
どこまで助けたらいい?
揺れる心が生み出した傑作ミステリー!

脚本家の鈴音は高校時代の友達・水絵と突然再会した。子連れの水絵は離婚して、リストラに遭ったことを打ち明け、1週間だけ泊めて欲しいと泣きつく。鈴音は戸惑いながらも受け入れた。だが、一緒に暮らし始めると、生活習慣の違いもあり、鈴音と水絵の関係が段々とギクシャクしてくる。マンションの鍵が壊されたり、鈴音が原因不明の体調不良を起こしたり、不審な出来事も次々と起こる。水絵の就職先はなかなか決まらない。約束の1週間を迎えようとしたとき、水絵の子供が高熱を出した。水絵は鈴音に居候を続けさせて欲しいと訴えるのだが……。人は人にどれほど優しくなれるのか。救いの手を差し伸べるのは善意からか、それとも偽善か。揺れる心が生む傑作ミステリー!


ミステリではないのでは?とは思うが。人間の心の揺れや、さほど親しかったわけではない旧友との駆け引き、損得勘定、微妙な罪悪感などがとても見事に描かれていてうならされる。他人事として客観的に見れば、なんとでも言えるが、いざ我が身に降りかかったときに鈴音と同じ選択をしないとは言い切れない。いや、おそらく同じ選択をしてしまう人が多いことだろう。どちらの道を選ぶかの岐路に立たされた時の揺れ方が絶妙でドキドキさせられる一冊である。タイトルでもある「はぶらし」のエピソードがすべてを表していて秀逸である。

論理爆弾*有栖川有栖

  • 2013/01/19(土) 20:30:57

論理爆弾論理爆弾
(2012/12/20)
有栖川 有栖

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南北に分断され、探偵行為が禁じられた日本。空閑純は探偵を目指していた。彼女の両親は名探偵として活躍していたが、母は事件を追い行方不明となり、父は殺人事件の推理をした罪で逮捕され、裁判を待つ身となっている。失踪した母の足跡をたどり、純は九州の山奥にある深影村を訪れた。だが、テロにより村に通じる唯一のトンネルが破壊され、連続殺人事件が発生!暗躍する特殊部隊、蠢く陰謀、蔓延るコンピュータウイルス―論理爆弾!少女は探偵の業をその身に刻み、真実と対峙する。


『闇の喇叭』『真夜中の探偵』につづく空閑純(そらしず じゅん)シリーズの三作目。
友人たちともきっぱりと別れ、空閑純は探偵・ソラとして、わずかな手掛かりで母を探しに深影村へやってきた。舞台は、現実とほんの少しずれたパラレルワールドであり、北海道は日ノ本共和国となり、休戦しているとは言え、日本国とは敵対関係にある。純が深影村に着くとまもなく、北(日ノ本共和国)によってトンネルが破壊され、連続殺人事件が起こる。母の痕跡と行方の手掛りを求めて歩き回る純も、否応なく事件に巻き込まれることになるのである。ただでさえ、探偵が違法とされ、それ以外にも現実と違って不自由なことが多々あるのに、さらに人里離れた村に閉じ込められるといったマイナス条件ばかりのなか、それでも頼れる味方を得て事件を推理し、母の手掛りをも見つけようとする純の真摯さには頭が下がる。やはり探偵の素質と一緒に暮らしていたころの両親の教えによるところが大きいのだろう。母が無事でいる希望が湧いたいま、次に考えるのは父の裁判のことだろうか。一家が一緒に暮らせるようになるまで見守り続けたいシリーズである。

噂の女*奥田英朗

  • 2013/01/18(金) 14:07:16

噂の女噂の女
(2012/11/30)
奥田 英朗

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中古車店に毎晩クレームをつけに通う3人組、麻雀に明け暮れるしがないサラリーマン、パチンコで時間をつぶす失業保険受給中の女、寺への寄進に文句たらたらの檀家たち―。鬱屈した日々を送る彼らの前に現れた謎の女・美幸。愛と悲哀と欲望渦巻く連作長編小説。


「中古車販売店の女」 「麻雀荘の女」 「料理教室の女」 「マンションの女」 「パチンコの女」 「柳ケ瀬の女」 「和服の女」 「檀家の女」 「内偵の女」 「スカイツリーの女」

現実で世間を騒がせたあの女やこの女を思い出させるような物語である。タイトルを見るとそれぞれ別の女の短編集のように見えるが、実は糸井美幸というひとりの女の物語である。連作なのだが、話が変わるたびに別の環境で別の生き方をしており、だが雰囲気や彼女にまつわる噂はいつも変わらない。完全に噂だけで本人の人となりを組み立てていくというものではなく、本人もちゃんと登場するのだが、そのときその場では、反感を買うことも多いものの、決して悪くない評判もあり、本心は彼女の胸の内なので、なかなかとらえどころがないのである。それにしてもこのラスト、まだまだ被害者が増えそうで恐ろしい。美幸の本心だけで続編を書いてほしいと思ってしまう一冊である。

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猿の悲しみ*樋口有介

  • 2013/01/17(木) 07:30:39

猿の悲しみ猿の悲しみ
(2012/09/24)
樋口 有介

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殺人罪で服役8年、独身、16歳不登校の息子あり。職業:弁護士事務所の美脚調査員風町サエ32歳。ついでに命じられた殺人事件の調査。歪んだ愛の発端は34年前に遡る―口は悪いが情に厚い。著者渾身の長編ハードボイルド。


美人で美脚の前科持ちシングルウーマンの主人公で、それが弁護士事務所の裏仕事を請け負う調査員だなんて、すぐにでもドラマになりそうな設定である。かなりきわどい調査もこなす主人公・風町サエであるが、息子・聖也に向ける愛情は半端ではない。無理難題をこなしながらもいつも聖也の元に早く帰りたいと思い、一緒に食べる夕食のことを考えるのである。ハードボイルド一辺倒ではない、甘々の母の顔がそこここに覗くギャップもまた魅力なのである。ぜひシリーズにしてほしい一冊である。二丁目のうらぶれたバーの片隅にいた草介さんは、もしかするとあの柚木草介だろうか。

ことり*小川洋子

  • 2013/01/15(火) 17:07:36

ことりことり
(2012/11/07)
小川 洋子

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12年ぶり、待望の書き下ろし長編小説。
親や他人とは会話ができないけれど、小鳥のさえずりはよく理解する兄、
そして彼の言葉をただ一人世の中でわかるのは弟だけだ。
小鳥たちは兄弟の前で、競って歌を披露し、息継ぎを惜しむくらいに、一所懸命歌った。
兄はあらゆる医療的な試みにもかかわらず、人間の言葉を話せない。
青空薬局で棒つきキャンディーを買って、その包み紙で小鳥ブローチをつくって過ごす。
やがて両親は死に、兄は幼稚園の鳥小屋を見学しながら、そのさえずりを聴く。
弟は働きながら、夜はラジオに耳を傾ける。
静かで、温かな二人の生活が続いた。小さな、ひたむきな幸せ……。
そして時は過ぎゆき、兄は亡くなり、 弟は図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて持ち歩く老人、文鳥の耳飾りの少女と出会いながら、「小鳥の小父さん」になってゆく。
世の片隅で、小鳥たちの声だけに耳を澄ます兄弟のつつしみ深い一生が、やさしくせつない会心作。


人知れずひっそりと――鳥籠を両腕で抱くように――亡くなっていた「小鳥の小父さん」の描写で物語は静かに幕を開ける。その後に続くのは、5歳のときから、家族と暮らし、ポーポー語と彼が名づけた言葉でしか話さない七歳年上のお兄さんと暮らし、小鳥の小父さんと呼ばれるようになり、静かであたたかな生を終えるその日までのあれこれが、丁寧に語られているのである。それは、お兄さんが毎週水曜日に決まって買っていたポーポーキャンディーの包み紙を、一枚一枚根気よく糊付けして作った小鳥のブローチのように、さまざまな色の層が重なり合ってできたひとつの形のようにも思われる。こんなしあわせの形があってもいいな、と一抹の寂しさ哀しさとともに、ほっと安堵の息をつくような一冊である。

私と踊って*恩田陸

  • 2013/01/15(火) 07:44:29

私と踊って私と踊って
(2012/12/21)
恩田 陸

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この世の終わりに踊る時も、きっと私を見ていてね。ダンサーの幸福は、踊れること。ダンサーの不幸は、いつか踊れなくなること――稀代の舞踏家ピナ・バウシュをモチーフに、舞台を見る者と見られる者の抜き差しならない関係をロマンティックに描いた表題作をはじめ、ミステリからSF、ショートショート、ホラーまで、物語に愛された作家の脳内を映しだす全十九編の万華鏡。


表題作のほか、「心変わり」 「骰子の七の目」 「忠告」 「弁明」 「少女界曼荼羅」 「協力」 「思い違い」 「台北小夜曲」 「理由」 「死者の季節」 「火星の運河」 「劇場を出て」 「二人でお茶を」 「聖なる氾濫」 「海の泡より生まれて」 「茜さす」 あとがき 「東京の日記」 「交信--表紙」

ホラーは苦手だけれど、こうしてさまざまなテイストの恩田さんのなかにあると、自然に受け入れられるから不思議である。上に記した目次からも察せられると思うが、構成にも遊び心があって、ちょっと愉しい。私事ではあるが、ちょうど体調を崩していたので、短くぎゅっと詰まったこの本は、手軽に著者を愉しめる一冊なのもベストタイミングだった。

鍋奉行犯科帳*田中啓文

  • 2013/01/14(月) 15:27:54

鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)
(2012/12/14)
田中 啓文

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大坂西町奉行所に型破りな奉行が赴任してきた。名は大邉久右衛門。大食漢で美食家で、酒は一斗を軽く干す。ついたあだ名が「大鍋食う衛門」。三度の御膳が最優先で、やる気なしの奉行に、与力や同心たちはてんてこ舞い。ところが事件が起こるや、意外なヒラメキを見せたりする。ズボラなのか有能なのか、果たしてその裁きは!?食欲をかきたてる、食いだおれ時代小説。


大阪が舞台の時代小説(?)である。時代小説なので、西町奉行とか与力などという役職名がたくさん出てくるし、奉行の名には背けないという縛りもあるが、それ以外はいつの世にも通ずるコメディである(言い切ってしまっていいのだろうかあ)。だが、ただのドタバタで終わっているわけではなく、そこは著者であるので、ちゃんとミステリにもなっていて、胸のすくラストも用意されている。事件を解決すべく走り回っているのは西町奉行所の同心・村越勇太郎のたちようなきがしなくもないが、肝心要のところでの奉行・大邊久右衛門の裁きが実に見事なものなので、日ごろの食い意地に関わる我儘も許せてしまうのかもしれない。掛け値なく面白い一冊である。

七つの会議*池井戸潤

  • 2013/01/12(土) 13:53:51

七つの会議七つの会議
(2012/11/02)
池井戸 潤

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トップセールスマンだったエリート課長・坂戸を“パワハラ”で社内委員会に訴えたのは、歳上の万年係長・八角だった―。いったい、坂戸と八角の間に何があったのか?パワハラ委員会での裁定、そして役員会が下した不可解な人事。急転する事態収束のため、役員会が指名したのは、万年二番手に甘んじてきた男、原島であった。どこにでもありそうな中堅メーカー・東京建電とその取引先を舞台に繰り広げられる生きるための戦い。だが、そこには誰も知らない秘密があった。筋書きのない会議がいま、始まる―。“働くこと”の意味に迫る、クライム・ノベル。


善人と悪人が初めからはっきり判ってしまう水戸黄門的な物語もそれはそれで違う愉しみがあって面白いのだが、本作は、悪い奴と思った人がさらに別の人物の意志で動かされていたり、と会社人間の悲哀と罪とも言うべき、会社と個人の葛藤の様がより面白い物語だったように思う。どこからが間違いだったのか、諸悪の根源は誰なのか、はっきりと突き詰めるのが難しい、そのときどきのちょっとした判断ミスや義理や隙が、積もり積もって大変なことになっていく様は、組織とその中の人の資質が問われているようで空恐ろしくなる。いつもに増してページを繰る手が止まらない一冊だった。

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神様のカルテ3*夏川草介

  • 2013/01/11(金) 17:01:43

神様のカルテ 3神様のカルテ 3
(2012/08/08)
夏川 草介

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医者にとって大事なことは、続けることだ。

栗原一止は、信州にある「24時間365日対応」の本庄病院で働く内科医である。医師不足による激務で忙殺される日々は、妻・ハルの支えなくしては成り立たない。昨年度末、信濃大学医局からの誘いを断り、本庄病院残留を決めた一止だったが、初夏には恩師である古狐先生をガンで失ってしまう。落ち込んでいても患者の数が減るわけではない。夏、新しい内科医として本庄病院にやってきた小幡先生は、内科部長である板垣(大狸)先生の元教え子であり、経験も腕も確かで研究熱心。一止も学ぶべき点の多い医師だ。
しかし彼女は治ろうとする意思を持たない患者については、急患であっても受診しないのだった。抗議する一止に、小幡先生は「あの板垣先生が一目置いているっていうから、どんな人かって楽しみにしてたけど、ちょっとフットワークが軽くて、ちょっと内視鏡がうまいだけの、どこにでもいる偽善者タイプの医者じゃない」と言い放つ。彼女の覚悟を知った一止は、自分の医師としてのスキルに疑問を持ち始める。そして、より良い医者となるために、本庄病院を離れる決意をするのだった。


イチさんの古めかしいとも言えるたたずまいにはすっかり慣れた。御嶽荘の個性的な住人たちにも愛着さえ感じるようになった。さらに本庄病院の面々もずいぶんと親しい存在になっている。そして、相変わらずの引きの栗原ぶりにも苦笑するしかない。だが騒然と息つく暇もない最前線の医療現場にあっても、栗原一止はいつでも静かな雰囲気を漂わせている。慌てていてさえ、悩んでいてさえである。それがなによりも心地好い。真面目すぎるのだろうが、それがとても好ましい。いまできる最善を尽くしつつも、自らの在りように疑問を持つ一止のこれからが、大きなものに守られますように、と祈らずにはいられない。しんと心が静まる一冊である。

ここは退屈迎えに来て*山内マリコ

  • 2013/01/08(火) 21:30:53

ここは退屈迎えに来てここは退屈迎えに来て
(2012/08/24)
山内 マリコ

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地方都市に生まれた女の子たちが、ため息と希望を落とした8つの物語。フレッシュな感性と技が冴えわたるデビュー作は、「R‐18文学賞」読者賞受賞作「十六歳はセックスの齢」を含む連作小説集。


「私たちがすごかった栄光の話」 「やがて哀しき女の子」 「地方都市のタラ・リビンスキー」 「君がどこにも行けないのは車持ってないから」 「アメリカ人とリセエンヌ」 「東京、二十歳。」 「ローファー娘は体なんか売らない」 「十六歳はセックスの歳」

さまざまな年代の<女の子>の恋や青春や日常の、夢や希望とその叶わなさの狭間で身悶えするような一冊。
なぜか椎名一樹が楔のようにどの物語にも入り込んでいるが、だからと言って主役というわけでもなく、時系列でもないのがちょっと面白くもある。

君と過ごす季節 秋から冬へ、12の暦物語

  • 2013/01/07(月) 21:12:04

君と過ごす季節 秋から冬へ、12の暦物語 (ポプラ文庫 日本文学)君と過ごす季節 秋から冬へ、12の暦物語 (ポプラ文庫 日本文学)
(2012/12/05)
飛鳥井千砂、小川糸 他

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雲ひとつない秋空が広がる日、彼に手紙を書いた。クリスマスの飾りつけが目立ち始めたころ、僕はあることを決意した―。一年を二十四の季節で分ける、二十四節気。人気作家たちが、立秋、秋分、冬至など、移りゆく季節のドラマを紡ぐ、極上のアンソロジー秋冬篇。


立秋/内田春菊 処暑/平松洋子 白露/柚木麻子 秋分/山崎ナオコーラ 寒露/小野寺史宣 霜降/小川糸 立冬/東直子 小雪/東山彰良 大雪/小澤征良 冬至/蜂飼耳 小寒/飛鳥井千砂 大寒/穂高明

秋から冬に向かう物語は、春から夏に向かうのとはいささか違う趣がある、と思うのは気のせいだろうか。温もりが欲しくなる、というか、誰かにいっしょにいてもらいたいという思いが強くなる季節ではないだろうか。そんな季節の雰囲気を濃く感じさせられる物語たちである。早くなった夕暮れ時にぽっとともる灯りに胸がぬくもる。そんな感じの一冊である。

大きな音が聞こえるか*坂木司

  • 2013/01/06(日) 17:04:06

大きな音が聞こえるか大きな音が聞こえるか
(2012/12/01)
坂木 司

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八田泳、高校一年生。そこそこ裕福でいわゆる幸せな家庭の息子。帰宅部。唯一の趣味はサーフィン。凪のように平坦な生活に自分を持て余している。だがそんな矢先、泳は製薬会社に勤める叔父がブラジル奥地へ行くと知らされた。さらにアマゾン川の逆流現象=ポロロッカで波に乗れるという情報を聞いて―小さな一滴が大きな波紋を生んでいく、等身大の成長物語。


温い毎日をなんとなく生きている泳は、それでもなんとなくは、いまのままではいけないような気分を抱えていた。いつもサーフィンをしに行く海には、仙人と呼ばれる人がいて、終わらない波に乗ったことがあるという。そんなとき、製薬会社に勤める母の弟の剛がブラジルに赴任し、アマゾンの奥地へ行くという。アマゾンには川を遡る巨大な波=ポロロッカがあるということを初めて知る。そのとき、泳のスイッチが入ったのだった。ポロロッカに乗りに行くために、バイトをして旅費を稼ぎ、両親を説得するところから、泳の新しい日々は始まった。友人の二階堂や、バイト先の人たちとの交流、家族の在りよう、クラスでの在り方。普通の生ぬるい高校生としての泳と、目的に向かって遮二無二進む泳とのギャップが微笑ましい。そしてアマゾンに行ってからの泳と、夢を叶えて帰国してからの泳の違いも著しく、その成長ぶりが頼もしくもある。それぞれの場所でそのときそのときで頑張る姿がとてもいい一冊である。

64(ロクヨン)*横山秀夫

  • 2013/01/03(木) 13:49:30

64(ロクヨン)64(ロクヨン)
(2012/10/26)
横山 秀夫

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警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。


わずか8日の昭和64年に起きた誘拐殺害事件。14年経った現在も未だ犯人逮捕には至っていない。そんなD県警史上最悪で痛恨の「64ロクヨン」と符牒で呼ばれる事件を軸に、警察内部の確執と、広報官・三上のプライベートを絡め、緊張感あふれる濃く深い横山ワールドが展開されている。647ページというボリュームを感じさせない面白さである。最後は人間の職人魂とも言えるプロ意識がものを言うのだと思い知らされる一冊でもある。