ホテル・コンシェルジュ*門井慶喜

  • 2013/02/27(水) 17:00:32

ホテル・コンシェルジュホテル・コンシェルジュ
(2013/02/07)
門井 慶喜

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盗まれた金の仏像をとり返して、駐日アメリカ大使の暗殺計画を阻止せよ、失踪した訪問販売員を捜してくれ。「たしかに、うけたまわりました」大規模ではないけれど、お客様にきわめて上質の時間を提供していると評判の「ホテルポラリス京都」。ベテランコンシェルジュの九鬼銀平が、新人フロント係の坂名麻奈を助手代わりに、持ち込まれる難題を次々に解決していく。


大学をなかなか卒業できずに6年目になり、伯母の手で母の元を強引に引きずり出されて、ホテルポラリスのエグゼクティブスイートに長期逗留する大富豪のろくでなしのイケメンぼんぼん・桜小路清長によってもたらされる厄介ごとが主であるが、ベテランコンシェルジュの九鬼銀平がさらりと解決してしまう様は、まことに見事である。しかも、さりげなくお客さまを立て、いい気分にさせてしまうのは、コンシェルジュの鑑である。そんな九鬼にあこがれ、尊敬し、自分もいつかコンシェルジュになりたいと、九鬼の助手のように動く新人フロントマンの坂名麻奈も、まだまだ未熟ながらなかなか魅力的である。九鬼・坂名コンビと桜小路清長で一風変わったチームのようでもある。九鬼さんの手腕をもっと見たくなる一冊である。

スタンダップダブル!*小路幸也

  • 2013/02/26(火) 07:21:26

スタンダップダブル!スタンダップダブル!
(2012/11/15)
小路 幸也

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弱小だった神別高校野球部が、北海道の旭川支部予選を勝ち抜いていく―。彼らの不思議な強さの「秘密」に興味を持った全国紙スポーツ記者の前橋絵里は、やがて、ナインが甲子園を目指す特別な「理由」を知ることになる。その「秘密」と「理由」の中心には、見た目はそっくりながら性格は対照的な、エースピッチャーの青山康一とセンターの健一という双子の存在が…。少年たちのひたむきさに惹かれつつ、その強さの謎に迫る、ハートフル・エンターテインメント。


ピッチャーとセンターの双子の不思議な――DNAレベルのシンクロニシティのようなものだろうか――能力と、キャッチャーの並外れた瞬発的な判断力、それに加えて部員全員の甲子園で優勝するという目的意識の高さと強さ。さらに加えて陰ながら応援する親の深い愛とそれを支える友情。さまざまなあたたかさがつながり合い積み重なってパワーを発揮しているような物語である。爽やかで健やかで熱くて泣ける一冊である。が、ラスト近くで登場する監督の元チームメイトの存在が、不穏な影を落としたままなのが気になる。続編があるのだろうか。

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リカーシブル*米澤穂信

  • 2013/02/24(日) 16:56:24

リカーシブルリカーシブル
(2013/01/22)
米澤 穂信

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父が失踪し、母の故郷に引越してきた姉ハルカと弟サトル。弟は急に予知能力を発揮し始め、姉は「タマナヒメ」なる伝説上の女が、この町に実在することを知る―。血の繋がらない姉と弟が、ほろ苦い家族の過去を乗り越えて地方都市のミステリーに迫る。


半分死んだような活気のない狭い田舎町。余所者がすんなりと馴染むのは難しい。母の故郷であるこの町に見つかった貸家で暮らすことになった中学生のハルカと血の繋がらない弟のサトル。サトルは、初めてみたはずのことを、以前にも見たことがあると言ったり、これから起こることがわかると言ったりするようになる。ハルカは社会の教師からタマナヒメの話を聞き、サトルに結びつけて興味を惹かれ、もっと知りたいと思う。タマナヒメの伝説と、高速道路誘致計画にまつわる事情が思ってもみなかったつながりを露わになったとき、切ない真実が明らかになる。大がかりなんだか、いじましいのかわからなくてやりきれない心地になる一冊である。

紅雲町ものがたり*吉永南央

  • 2013/02/22(金) 21:34:20

紅雲町ものがたり紅雲町ものがたり
(2008/01)
吉永 南央

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離婚や息子との死別を乗り越え、老いても自分の夢にかけた大正生まれのお草。知的で小粋な彼女が、街の噂や事件の先に見た人生の“真実”とは―。オール讀物推理小説新人賞受賞作を含む連作短編集。


「紅雲町のお草」 「クワバラ、クワバラ」 「0と1の間」 「悪い男」 「萩を濡らす雨」

還暦を過ぎてから、和食器とおいしいコーヒーのお店「小蔵屋」をはじめたお草さんが主人公であり、いわゆる探偵役でもある。ただ、探偵と言っても、本格的に推理して謎を解き明かすというよりは、自分や小蔵屋に多少でもかかわりのある出来事や事件に興味を持ち、放っておけない心持ちで目配り気配りをするうちに、事の真相が見えてくる、ということのようでもある。お草さんの来し方や、自覚せざるを得ない老いの気配も加わって、元気溌剌というわけにはいかないが、だからこそ見えてくるものもあるに違いない。小蔵屋を訪ね、おいしいコーヒーを味わってみたいと思わされる一冊である。

狛犬ジョンの軌跡*垣根涼介

  • 2013/02/21(木) 19:49:52

狛犬ジョンの軌跡狛犬ジョンの軌跡
(2012/12/15)
垣根 涼介

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太刀川要は、深夜、山のなかをドライブ中に黒い大きな犬をはねてしまう。あわてて犬のもとにかけよると、車との接触でできたとは思えない大きな切り傷からの出血で、半死半生の状態だった。動物病院での治療の甲斐あって黒犬は助かったのだが、ペットたちが激しく怯えて困っている、と獣医から連絡が入る―。こいつはいったい何者なんだ?あんな時間にあんな場所で、いったい何をしていたのか?奇妙な共同生活を始めた要と黒犬を待ち受ける現実とは―。


タイトルを一見して、どんな物語だろう、と思いつつ読み始めたが、タイトル通りの物語であった。建築設計士の太刀川と大きな黒犬の物語。ただ普通でないのは、黒犬の正体である。奇想天外な設定なのだが、なぜか心情はとてもよく解り、このまま何事もなく太刀川とジョンと名づけられた黒犬が、仲好く暮らしていければいいのに、と応援したくなる。だがやはりそう簡単なことではないのだった。面白くなかったわけではないが、著者の意図――狛犬の復讐心を描きたかったのか、犬と人間の心の通い合いを描きたかったのか、警察の捜査力の素晴らしさを言いたかったのか、などなど…――が、もうひとつよく判らなかったのが残念な一冊でもある。

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なんらかの事情*岸本佐知子

  • 2013/02/20(水) 07:17:57

なんらかの事情なんらかの事情
(2012/11/08)
岸本 佐知子

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「ああもう駄目だ今度こそ本当にやばい、というとき、いつも頭の片隅で思うことがある」第23回講談社エッセイ賞受賞『ねにもつタイプ』より6年。待望の最新エッセイ集。


おそらく普通の大人の真面目な顔をしているのだろう。人と会っていたり、電車の座席に座っていたりする著者は。だがその頭の中は、めまぐるしく活動し、世の中で起きていること――あるいは著者の頭の中だけで起きていること――を絶妙なおもしろさにしているのである。そのことを想像すると、くすり、と笑いがこみあげてくる。クラフトエヴィング商會に通じる部分もあるような気がする。大好きなテイストの一冊である。

キミトピア*舞城王太郎

  • 2013/02/19(火) 13:30:34

キミトピアキミトピア
(2013/01/31)
舞城 王太郎

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夫の「優しさ」を耐えられない私(「やさしナリン」)、進路とBITCHで悩む俺(「すっとこどっこいしょ」。)、卑猥な渾名に抗う私(「ンポ先輩」)、“作日の僕”と対峙する僕―(「あまりぼっち」)。出会いと別離のディストピアで個を貫こうともがく七人の「私」たちが真実のYOUTOPIAを求めて歩く小説集。第148回芥川賞候補作「美味しいシャワーヘッド」収録。


上記のほか、「添木添太郎」 真夜中のブラブラ蜂」 「美味しいシャワーヘッド」

疲れる読書だった。出てくる人出てくる人がみな一様に生き辛そうで、それが、生真面目さゆえなのか、偏屈だからなのか、純粋すぎるのか、あるいはそのすべてなのかがよく判らず、出口のない屁理屈に付き合わされて、つい納得しかけてしまいそうになる心地なのである。それぞれの物語の主人公にうなずけることもなくはないのだが、すべてが極端すぎるというかなんというか、なのである。結局は自分の主張ばかりで、他人の気持ちを慮ることが欠けているからだろうか。誰もが一歩間違っちゃった感じで疲れるのである。自分も気をつけようと我が身を省みた一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖3~栞子さんと消えない絆~*三上延

  • 2013/02/16(土) 17:09:30

ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)
(2012/06/21)
三上 延

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鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない―。これは“古書と絆”の物語。


 第一話/ロバート・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)
 第二話/『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』
 第三話/宮澤賢治『春と修羅』(関根書店)

シリーズ三作目にして、栞子さんが胸の裡に押し込めていた母をめぐる何かが動き出したようである。プロローグとエピローグでは、妹の文香の母に対する思いも垣間見られ、姉妹それぞれの屈託が少しずつ明るみに出てくる予感もある。そして、篠川家の問題だけでなく、ビブリア古書堂の客の家庭でもさまざまな本に関する厄介ごとが持ち上がり、栞子さんが静かに、ある時は熱くそれを解き明かし、家族の絆を再確認することになるのである。放映中のドラマに、『春と修羅』がもう登場してしまい、先に映像を観てしまったが、さほど違和感はなかった。姉妹と母、栞子さんと大輔の関係は、次の作品で何らかの展開を見せるのだろうか。そちらも愉しみなシリーズである。

こちら弁天通りラッキーロード商店街*五十嵐貴久

  • 2013/02/15(金) 17:16:33

こちら弁天通りラッキーロード商店街こちら弁天通りラッキーロード商店街
(2013/01/18)
五十嵐 貴久

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印刷工場を経営していた笠井武は、友人の連帯保証人になったことから莫大な借金を抱えてしまった。苛烈な取り立てから逃げた先の無人の寺で一夜を過ごし、首をくくろうかと考えていた彼は、町の老人たちに新しい住職と勘違いされる。「ポックリ逝かせてほしい」と懇願された笠井が事情を尋ねると、彼らはシャッター商店街の老店主たちで、もう生きていても仕方ないと言うのだが―。老店主たちに頼られたニセ坊主の思いつきは、町と人々を再生できるのか!?読んだら希望が湧いてくる、痛快エンターテインメント。


紹介文の通り、愉快痛快な物語なのは間違いない。どうしても荻原さんのユニバーサル広告社を思い出してしまうとしても。ただ、もはや死に体とも言えるラッキーロード商店街を、ほんの思いつきの提案で蘇えらせてしまうのは、午前様こと笠井武の力だけでなく、商店主たちの働いて誰かの役に立ちたいという、長いこと胸の底でくすぶっていた思いの発露の結果なのだろう。午前様のアドバイスがたぶん消えていた導火線に火をつけたのだ。地の果てまでも追ってくるはずの貸金業者が、あの提案をあっさり受け入れてしまうのも、まぁいいとしよう。愉しく前向きに読める一冊である。

ペットのアンソロジー*近藤史恵リクエスト!

  • 2013/02/14(木) 18:23:56

近藤史恵リクエスト!  ペットのアンソロジー近藤史恵リクエスト! ペットのアンソロジー
(2013/01/18)
近藤 史恵

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読書家としても知られる近藤史恵が、今いちばん読みたいテーマを、いちばん読みたい作家たちに「お願い」して作った、夢のようなアンソロジー。十人の人気作家によるペットモチーフの新作短編集。


「ババアと駄犬と私」森奈津子 「最も賢い鳥」大倉崇裕 「灰色のエルミー」大崎梢 「里親面接」安孫子武丸 「ネコの時間」柄刀一 「パッチワーク・ジャングル」汀こるもの 「パステト」井上夢人 「子犬のワルツ」太田忠明 「『希望』」皆川博子 「シャルロットの憂鬱」近藤史恵

実はペットにはあまり興味がない。なので、愉しめるかどうか自信のないまま読み始めたのだが、まったくの杞憂だった。ひと口にペットと言っても実にさまざまで、犬や猫はもちろん、鳥から爬虫類まで多岐にわたる。そしてペットとして一番一般的であろう犬や猫も、一筋縄ではいかない描かれ方をしているのである。そしてやはり説かれるべき謎も満載。ペットにメロメロの人もそうでない人も愉しめる一冊である。

本屋さんのアンソロジー*大崎梢リクエスト!

  • 2013/02/13(水) 16:58:30

大崎梢リクエスト!  本屋さんのアンソロジー大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー
(2013/01/18)
大崎 梢

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読書家としても知られる大崎梢が、今いちばん読みたいテーマを、いちばん読みたい作家たちに「お願い」して作った、夢のようなアンソロジー。十人の人気作家による書店モチーフの新作短編集。


「本と謎の日々」有栖川有栖 「国会図書館のボルト」坂木司 「夫のお弁当箱に石をつめた奥さんの話」門井慶喜 「モブ君」乾ルカ 「ロバのサイン会」吉野万理子 「彼女のいたカフェ」誉田哲也 「ショップtoショップ」大崎梢 「7冊で海を越えられる」似鳥鶏 「なつかしいひと」宮下奈都 「空の上、空の下」飛鳥井千砂

本屋さんが舞台のアンソロジーだなんて、聞いただけでわくわくする。しかも解かれるべき謎も満載である。さらにこのラインナップである。どなたがどんな風に料理するのだろうと、目次を眺めるだけでもしばらく愉しめるくらいである。そして、読み始めればさらにさらに愉しめる。うれしくて贅沢な一冊である。

十二単衣を着た悪魔*内館牧子

  • 2013/02/12(火) 13:14:22

十二単衣を着た悪魔十二単衣を着た悪魔
(2012/05/11)
内館 牧子

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日本では、千年前から男は情けなく、そして女は強かだった……。
本家本元よりもリアルで面白い、もう一つの『源氏物語』

就職試験を五十八社続けて落ち、彼女にも振られた二流大学出身の雷。そんな時、弟の水が京大医学部に現役合格したとの知らせが入る。水は容姿端麗、頭脳明晰、しかもいい奴と、非の打ち所がない。雷はアルバイトで「源氏物語」の世界を模したイベントの設営を終え、足取り重く家に帰ろうとするが、突然巨大な火の玉に教われる。気が付けば、なんとそこは「源氏物語」の世界だった。
雷は、アルバイト先で配られた『源氏物語』のあらすじ本を持っていたため、次々と未来を予測し、比類なき陰陽師として、その世界で自分の存在価値を見出す事に成功する。光源氏という超一流の弟を持ち、いつもその栄光の影に隠れてしまう凡人の帝に己を重ねた雷は、帝に肩入れするようになるが、その母親・弘徽殿女御は、現代のキャリアウーマン顔負けの強さと野心を持っていて……。
人間の本質を描き続けてきた内館牧子が描く、本家本元よりも面白い、もう一つの「源氏物語」。


タイムトリップ物は数々あるが、これほど唐突に、似合わない時代にトリップすることもそうないのではないだろうか。何ひとつといっていいほど取り柄のない就職浪人ほぼ決定の覇気のない若者が飛び込むには、平安時代はあまりにも別世界である。だが、郷に入れば郷に従え、成せば成る、などさまざまなことわざが思い浮かぶが、必死になれば何とかなり、あまつさえ重用されてしまったりさえするのである。しかも雷の頼りは、トリップする前の派遣仕事先でもらった薬のサンプルと源氏物語のあらすじ本のみ。運には見放されなかったということだろうか。タイムトリップの定石で、歴史を変えることはなくとも、関係した人々の心に何かを残したことは確かだろう。そして、二十六年の源氏物語世界暮らしで雷の得たものは計り知れない。設定は無茶苦茶だが、共感するところは多い一冊である。

仇敵*池井戸潤

  • 2013/02/09(土) 21:50:32

仇敵仇敵
(2003/01)
池井戸 潤

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大手都市銀行の次長職から地方銀行の庶務行員となった恋窪商太郎。駐車場の整理とフロア案内の傍ら、融資に悩む後輩社員へアドバイスする…そんな日々に、以前より「人間らしさ」を取り戻した恋窪だったが―。「正義」を求めたばかりに組織を弾き出された男が、大銀行の闇に再び立ち向かう!メガバンクの内幕と、地方銀行の実情を描ききる銀行ミステリーの傑作。


善悪が判りやすく、お約束のような勧善懲悪だが、そこがいい。いわれなき汚名を着せられて大銀行を追われ、地銀の庶務行員に甘んじている恋窪商太郎が、探偵役となって銀行がらみの事件を解き明かし、結果的に仇敵を追いつめるという設定には、おそらく誰もがカタルシスを感じるのではないだろうか。そしてそれを可能にするのは、やはり人脈なのである。池井戸作品では、毎回人脈のありがたみとパワーを見せつけられ、百人力を得た心地になる。恋窪の後継者がどんどん育ってくれるといいと願ってしまう一冊である。

残り全部バケーション*伊坂幸太郎

  • 2013/02/08(金) 17:19:42

残り全部バケーション残り全部バケーション
(2012/12/05)
伊坂 幸太郎

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人生の<小さな奇跡>の物語
夫の浮気が原因で離婚する夫婦と、その一人娘。ひょんなことから、「家族解散前の思い出」として〈岡田〉と名乗る男とドライブすることに──(第一章「残り全部バケーション」)他、五章構成の連作集。


表題作のほか、「タキオン作戦」 「検問」 「小さな兵隊」 「飛べても8分」

毒島の恐ろしさに、命じられた危ない仕事を命じられるままにこなす溝口とその手下の岡田のコンビの掛け合いが絶妙で、小悪党ながらわくわくする。伊坂さん上手い。そして、それぞれの物語が微妙に重なり合い、繋がり合ってくるりと元に戻るところも伊坂さんらしくてうれしくなる。岡田のスイーツブログのハンドル、サキって、あの沙希ちゃん、ですよね。罪を憎んで人を憎まず、ワルたちのキャラクターが愛おしすぎる一冊である。

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土井徹先生の診療事件簿*五十嵐貴久

  • 2013/02/07(木) 16:58:38

土井徹先生の診療事件簿土井徹先生の診療事件簿
(2008/11)
五十嵐 貴久

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殉職警官を父に持つ令子は、24歳にして南武蔵野署の副署長。毎日暇にしていたら、「命を狙われている」と訴えるノイローゼ気味の偏屈な老人を訪ねることに。その老人宅で出会ったのが、病気のダックスフントを往診していた獣医の土井徹先生とその孫・桃子。ダックスフントと「話した」先生は、驚きの真実を令子に告げる…(「老人と犬」)。いつでも暇な副署長・令子、「動物と話せる」獣医・土井先生、おしゃまな先生の孫・桃子。動物にまつわるフシギな事件を、オカシなトリオが解決。心温まるミステリー。


「老人と犬」 「奇妙な痕跡」 「かえるのうたが、きこえてくるよ」 「笑う猫」 「おそるべき子供たち」 「トゥルーカラー」 「警官殺し」

井の頭公園を管轄内に持つ、南武蔵野署が舞台である。主人公は、ノンキャリアながら絶大な人望があったのに殉職した父を持つ、バリバリのキャリアの立花令子、24歳。父のおかげで大事にされ過ぎ、いわばお飾りのような存在になっているのだが、たまたま声がかかった事件で偶然に知り合った獣医の土井先生の力を(全面的に)借りて、曲がりなりにも事件を解決してしまったりする。真の主役は土井先生と言ってもいいだろう。最後の事件は、未解決のようなものなので、ぜひ続編を書いてほしい。土井先生と桃子ちゃんの活躍ももっと見たいし。土井徹先生のファンになってしまった一冊である。

終電へ三〇歩*赤川次郎

  • 2013/02/06(水) 16:46:26

終電へ三〇歩終電へ三〇歩
(2011/03)
赤川 次郎

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リストラされた係長、夫の暴力に悩む主婦、駆け落ちした高校生カップル、心中の相手を探す女優、愛人を殺して逃走中の男…。すれ違う他人同士の思惑がもつれて絡んで、転がってまた、事件が起きる。


終電に乗り遅れたために始まった物語である。互いに無関係だった人々が、ふとしたきっかけで深く、あるいは刹那的につながり、連鎖するように事件が起こる。リストラされたばかりの柴田が、直属の上司だった絢子と常務の黒木の不倫現場を目撃し、ふらふらと後をつけて行かなければ、その後に起こることがどんな風に変わったのだろうか、と思わされる。起こる事柄はかなり凶悪なものであるにもかかわらず、なぜかさらっと軽いのは、著者の特性だろうか。高校生の駆け落ちカップルの未来が明るそうなのが救いである。いまがあるのは、ほんのちょっとした運命のいたずらなのかもしれない、と思わされる一冊である。

桐島、部活やめるってよ*朝井リョウ

  • 2013/02/05(火) 17:00:48

桐島、部活やめるってよ桐島、部活やめるってよ
(2010/02/05)
朝井 リョウ

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バレー部の「頼れるキャプテン」桐島が、突然部活をやめた。それがきっかけで、田舎の県立高校に通う5人の生活に、小さな波紋が広がっていく…。野球部、バレー部、ブラスバンド部、女子ソフトボール部、映画部。部活をキーワードに、至るところでリンクする5人の物語。第22回小説すばる新人賞受賞作。


「桐島、部活やめるってよ」というタイトルなのに、桐島は人の話にしか出てこない。桐島が部活をやめたことで始まる物語なのだが、主人公は桐島ではなく、別の五人の同級生たちなのである。桐島が部活をやめたからと言って、彼が属していたバレー部以外の生徒の何かが変わるわけではないのだが、部長として輝いていた桐島の突然の退部は、ほかの者たちの心にも小さな波紋を広げ、考えるきっかけを与えたように思われる。流行やカッコよさの基準はわたしの時代とは違うが、生徒間の歴然としたランク付けやクラスのなかでのアイデンティティに悩む様子は、おそらく不変のものではないだろうか。ばかばかしくて一生懸命で、自分のなかだけでもがいている高校時代が懐かしくなる一冊である。

ふる*西加奈子

  • 2013/02/04(月) 16:57:06

ふるふる
(2012/12/06)
西加奈子

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池井戸花しす、28歳。職業はAVへのモザイクがけ。誰にも嫌われないよう、常に周囲の人間の「癒し」である事に、ひっそり全力を注ぐ毎日。だが、彼女にはポケットにしのばせているICレコーダーで、日常の会話を隠し録るという、ちょっと変わった趣味があった―。


現在と過去を行ったり来たりしながら、花しすの輪郭を浮かび上がらせるような物語である。何の関係もないように見える、現在の職業と、初潮を迎えるころ見ていた祖母を介護する母と介護される祖母の姿のシンクロ。それは生きるということの根源でもあるように思える。癒しの存在であり、やさしい人である花しすの一風変わった趣味である会話の録音は、心の奥に秘めている本当の気持ちに気づかせてくれる。意識せずにやっているさまざまなことが、あちこちでつながって一本の流れになるような一冊である。

財布のつぶやき*群ようこ

  • 2013/02/02(土) 20:49:28

財布のつぶやき      (角川文庫)財布のつぶやき     (角川文庫)
(2011/02/25)
群 ようこ

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50歳をすぎてようやく考えるようになったこと、それは老後の経済―。蓄えは実家の住宅ローンで消える運命にある。毎年の税金も悩みの種。老後に必要なお金を計置して愕然とし、家計簿をつけてはみたけれど、挫折の繰り返し。スーパーで小さな節約をしたのに、その直後に大散財。どんぶり勘定から脱却し、堅実な生活を送れるのはいつの日か?誰もが直面する「お金」の問題を、率直かつユーモラスに綴ったエッセイ集。


ある程度以上の年齢になると、財布のつぶやきも切実になる。それがよくわかるので、共感できる部分がたくさんあって、友人とお茶飲み話をしているような心地であった。ずぼら料理も楽チンながらおいしそうで、試してみたくなる。切実ながら愉しい一冊。

起終点駅(ターミナル)*桜木柴乃

  • 2013/02/01(金) 21:44:11

起終点駅(ターミナル)起終点駅(ターミナル)
(2012/04/16)
桜木 紫乃

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生きて行きさえすれば、いいことがある。

笹野真理子が函館の神父・角田吾朗から「竹原基樹の納骨式に出席してほしい」という手紙を受け取ったのは、先月のことだった。十年前、国内最大手の化粧品会社華清堂で幹部を約束されていた竹原は、突然会社を辞め、東京を引き払った。当時深い仲だった真理子には、何の説明もなかった。竹原は、自分が亡くなったあとのために戸籍謄本を、三ヶ月ごとに取り直しながら暮らしていたという――(「かたちないもの」)。
道報新聞釧路支社の新人記者・山岸里和は、釧路西港の防波堤で石崎という男と知り合う。石崎は六十歳の一人暮らし、現在失業中だという。「西港防波堤で釣り人転落死」の一報が入ったのは、九月初めのことだった。亡くなったのは和田博嗣、六十歳。住んでいたアパートのちゃぶ台には、里和の名刺が置かれていた――(海鳥の行方」)。
雑誌「STORY BOX」掲載した全六話で構成予定です。


表題作のほか、「かたちないもの」 「海鳥の行方」 「スクラップ・ロード」 「たたかいにやぶれて咲けよ」 「潮風の家」

生と死を扱っているせいもあり、舞台が北の地であるということもあるのかもしれないが、全体に雨雲が厚く垂れ込める空模様のような雰囲気である。決してカラッと明るくはないし、元気いっぱいでもない。それでも後ろ向きな感じではなく、それなりに一歩ずつでも前に進んで行こうという気持ちが感じられて、読後感は存外重苦しくはない。入場行進のようにはつらつと進まなくても、たとえすり足でも前を向く気持ちに生かされているのだと思わせてくれる一冊である。