七十歳死亡法案、可決*垣谷美雨

  • 2013/03/31(日) 11:09:55

七十歳死亡法案、可決七十歳死亡法案、可決
(2012/01/27)
垣谷 美雨

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2年後、お義母さんが死んでくれる。
「家族」の本音を、生々しくリアルに描く新・家族小説。

≪家族って一体なんだろう?≫2020年、65歳以上の高齢者が国民の3割を超えた日本。社会保障費は過去最高を更新し続け、国家財政は破綻寸前まで追い詰められていた。そこでついに政府は大きな決断を下す。「日本国籍を有する七十歳以上の国民は誕生日から30日以内に死ななければならない」という七十歳死亡法案を可決したのだ。2年後に法律の施行を控えたある日、ごくありふれた家庭の宝田家にも小さな変化が起こり始めていた。義母の介護から解放されようとしている妻、家のことはすべて妻に任せきりの能天気な夫、超一流大学を卒業しながら就職に失敗し引きこもっている息子、ひび割れかけた家族から逃げ出した娘、寝たきりでわがまま放題の祖母。一番身近で誰よりも分かってほしい家族なのに、どうして誰もこの痛みを分かってくれないんだろう。究極の法律が、浮びあがらせた本当の「家族」とは?大注目の作家が、生々しくリアルに描き出す、新・家族小説。


なんとも衝撃的なタイトルである。そして、第一印象の衝撃のままに物語は進んでいく。仕事にかこつけて実母の介護はもちろん家庭を顧みようとしない夫、自分のことばかり考えて家を出て行った娘、プライドばかり高く打たれ弱くて引き篭もっている息子。家事も介護も妻である東洋子の肩にすべてかかっている。そして家族は何の疑問も持たずに当然のこととしている。介護されている姑も、感謝の言葉ひとつなく居丈高な態度である。そんな時に出てきた七十歳死亡法案である。「あと二年でお義母さんが死んでくれる」と東洋子が思ってしまうのをだれが責められるだろう。それぞれの年代、それぞれの立場や思惑によって賛否両論が世間を賑わせ、さまざまな反応を生む中、二年を待てずに東洋子の忍耐は限界を超え、家を出ることを選ぶ。それによって宝田家は変わらざるを得なくなる。七十歳死亡法案の日本全国に及ぼす影響を宝田家に集約した物語だが、結末は悲惨なものではなく、救われる。現実的には過激すぎると思うが、これくらいの爆弾施策でしか対応できないところまで来ているのではないかという危惧もある。我が身に引き比べていろいろと考えさせられる一冊だった。

世界の果ての庭*西崎憲

  • 2013/03/30(土) 16:56:36

世界の果ての庭―ショート・ストーリーズ世界の果ての庭―ショート・ストーリーズ
(2002/12)
西崎 憲

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イギリスの庭園と江戸の辻斬りと脱走兵と若くなる病気にかかった母と大人の恋と謎の言葉…。前代未聞の仕掛けに、選考委員の椎名誠氏は「ハメラレタ」と、小谷真理氏は「アヴァンポップでお洒落な現代小説の誕生」と絶讃。幻想怪奇小説の翻訳・紹介で知られる著者の満を持しての創作デビュー!第14回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。


イギリスの庭園が好きな作家・リコのひとり語りかと思っていると、そのかけらたちが、それぞれ全く別の物語になって、奔放に進んでいってしまうので、初めはいささか面食らう。すべてがリコの創造――あるいは想像――なのか、はたまた時空を超えた現実なのかも判然とせず、それぞれがそれぞれなりに独立した流れを作り、どこだかわからないところを流れていく。差し当たってはリコの物語を中心に据えてみるが、そんな読み方が正解なのかどうかもよく判らない。ここにいたと思ったら瞬時にあそこにいるような、よりどころのない心もとなさと、不思議な身軽さを感じさせる一冊である。

孤独な放火魔*夏木静子

  • 2013/03/27(水) 16:55:36

孤独な放火魔孤独な放火魔
(2013/01/19)
夏樹 静子

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幼馴染みに長年抱いていた恨みが発端の、すぐ解決すると思われた放火事件。夫をアイロンで殴打した主婦が、自分はDVを受けていたと主張。夫の愛人が出産した子供に、虐待の痕を見つけた妻がとった行動とは?左陪席をつとめる新米裁判官・久保珠実は、かつて裁判長にいわれた「裁判は最後まで何が起こるかわからない」の言葉を何度も反芻する―。現代の日本を象徴するかのような三つの事件。悩み議論する裁判員たちをリアルに描く著者迫真のミステリー。


表題作のほか、「DVのゆくえ」 「二人の母」

裁判員裁判が舞台である。裁判官たち、とりわけ裁判官になりたての新人・珠実の、いまだに一般人の感覚を忘れていない判断や、裁判員たちの緊張感や戸惑い、責任の重さを実感する様子など、裁判員裁判の裏表がよくわかる。三つの物語の題材となった事件は、どれも判断が難しく、どこからどう考えていけばいいのか一般人には見当もつかないが、裁判官たちが上手く個人個人の考えを引き出しているのも印象的である。判決シーンまで描かれていないのがもやもやさせられるが、だからこそなおさら考えさせられる一冊になっていることも確かである。

あの日、君と Boys

  • 2013/03/27(水) 13:51:00

あの日、君と Boys (あの日、君と)あの日、君と Boys (あの日、君と)
(2012/05/18)
ナツイチ製作委員会

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あの日、君との出会いで、僕の人生は少しだけ変わった。不思議な聡明さで、教室に流れるいじめの空気を変えた君。風変わりな振る舞いで、僕のコンプレックスをほんの少し溶かしてくれた君。誰よりもがむしゃらに、夢を追いかけていた君―。人気作家8人がこの一冊のために描いた、不器用で、ナイーブで、ひたむきな「少年たち」の物語。胸をわしづかみにする青春が、ぎゅっと詰まっています。


「逆ソクラテス」伊坂幸太郎 「骨」井上荒野 「夏のアルバム」奥田英朗 「四本のラケット」佐川光晴 「さよなら、ミネオ」中村航 「ちょうどいい木切れ」西加奈子 「すーぱー・すたじあむ」柳広司 「マニアの受難」山本幸久

少年というのは、いい題材になるものだ、というのが第一印象である。大人になりきっていない男の子というものは、自分はとげとげなのに傷つきやすくて、そのくせ妙に無防備だったりする。自分のことが好きなのか嫌いなのかさっぱりわからないし、おそらくそのときどきでころころ変化するのだろう。そんなさまざまな――だが根底は同じのような気もする――男の子たちの物語集である。愛すべき一冊。

届け物はまだ手の中に*石持浅海

  • 2013/03/25(月) 17:04:35

届け物はまだ手の中に届け物はまだ手の中に
(2013/02/16)
石持 浅海

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楡井和樹は恩師・益子の仇である江藤を殺した。しかし、まだ終わっていない。裏切り者であるかつての親友・設楽宏一にこの事実を突きつけなければ、復讐は完結しないのだ。設楽邸に向かった楡井は、設楽の妻、妹、秘書という三人の美女に迎えられる。息子の誕生パーティーだというのに、設楽は急な仕事で書斎にいるという。歓待される楡井だが、肝心の設楽はいつまで経っても姿を見せない。書斎で何が起こっているのか―。石持浅海が放つ、静かなる本格。


著者らしい一冊である。クールビューティもちゃんと登場する。復讐を果たし、途中で裏切ったかつての親友に事実を見せつけるために、偶然を装って自宅を訪ねた楡井が、なかなか姿を現さない旧友と、彼の妻・妹・秘書の振る舞いの不自然さから、状況を分析し、推理し、事実にたどり着くという趣向である。読者は自然に楡井と一緒に推理しながら読み進めることになり、興味が増す。さまざまな想像をしながら読んだが、事実は全く違うところにあり、しかも充分すぎるほど納得できるものであった。そうきたか、という感じ。しかし女は――というか守るべきものがある女は――強い、と改めて思わされる一冊でもある。

展覧会いまだ準備中*山本幸久

  • 2013/03/23(土) 17:06:06

展覧会いまだ準備中展覧会いまだ準備中
(2012/12/18)
山本 幸久

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学生時代は応援団に在籍していた変わり種学芸員の今田弾吉。東京郊外の公立美術館に勤める彼は、職員の中で一番下っ端。個性豊かな先輩たちにコキ使われながらも、「上の命令は絶対」という応援団精神を発揮して、目の前の仕事に追われる日々を送っていた。自ら企画立案した美術展の実現なんて遠い夢。しかし美術品専門運送会社の美人社員・サクラとの出会いと、応援団の大先輩からある一枚の絵を鑑定依頼されたことが、弾吉の心に、何かのスイッチを入れたのだった。


お仕事物語、学芸員編である。数いる応募者を結果的に押しのけて、やりたかったことを仕事にしている弾吉だが、自分のやりたいことをやれているかと問われると、答えに窮するのが実情の毎日である。いちばん下っ端なので、上から言われたことをこなすのが精いっぱい。そんな日々に、楔を打ち込んだのは、学生時代の先輩に見せられた一枚の絵だった。一朝一夕に変わるものではないが、少しずつ一歩ずつ弾吉は自分の企画を実現させるために動き出す。いまだ準備中の展覧会がどれほどたくさんあるのだろうか、ということを想うと、気が遠くなるようでもあり、わくわくするようでもある。いつの日か、思わずニンマリしてしまうような羊や駱駝や鰐の絵を野猿美術館で観てみたいと思わされる一冊である。

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蜂蜜秘密*小路幸也

  • 2013/03/21(木) 18:26:00

蜂蜜秘密蜂蜜秘密
(2013/02/14)
小路 幸也

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古くから〈奇跡の蜂蜜〉として大切に伝えてきた蜂蜜を守るため、自動車も使わず、火薬
も制限し、今でも様々な掟に従って暮らしている〈ポロウ村〉。
村の名家であり、〈ポロウの蜂蜜〉を採るために必要な〈キングサリー〉の花を代々栽培しているロウゼ家の一人娘サリーは、遠い国からの転校生としてやって来た少年レオと仲良くなる。深い山あいの、絵画のように美しい自然に囲まれた村の農学校で、少年少女は園芸や養蜂を勉強しながら日々を過ごす。だが、レオが来たのと時を同じくして、村には何かと異変が起こるようになる。森や泉で不思議な現象が続いたり、〈ポロウの蜂蜜〉をつくる〈ポロウミツバチ〉がぱったりと姿を消したり……。村の謎にレオが深く関わっていることにサリーが気づくのと同時に、村人たちもまたレオの正体を疑い始める。そして激しい嵐の晩、行方不明となったレオを探すサリーは〈ポロウの蜂蜜〉にまつわる古い古い秘密を知ることになる……。
ファンタジックな村を舞台にしながら、人が文明を進化させること、自然のなかで暮らすこと、大きな時の流れに否応なく変化していくこと、に静かな問いかけを投げる物語。


タイトルも装丁も、文字の大きさも、一見高学年向けの児童書のようである。実際ファンタジーのような物語も高学年くらいからのめりこんで読めそうである。だが、少年少女だけのものにするのはいかにももったいない一冊である。不老不死の効果があるとも言われて珍重されている「ポロウの蜂蜜」の秘密、と聞いただけで大人でもわくわくする。外界から閉ざされたと言ってもいいほど、蜂蜜のために守られた村に、外界から転校生がやってくるところから始まる物語は、まるで夢物語のようなのだが、切ない事実があればこそなのだということがやがて明らかになってくる。確信犯的な不純な心が滅ぼそうとしたものを、命をかけて守ろうとする者がいる。そしてその未来がきちんと続いていて、さらになお続いていくと思えるのが著者の物語である。囚われすぎずに守ってほしいと願わずにいられない一冊である。

誘う森*吉永南央

  • 2013/03/19(火) 17:08:24

誘う森 (ミステリ・フロンティア)誘う森 (ミステリ・フロンティア)
(2008/06)
吉永 南央

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一年前のあの日、香映は自殺してしまった。何の前触れもなく。未だに妻の死を受け入れられない洋介。不眠症を患った洋介は歩くことで、この状態から脱しようと試みる。しかし、彼女の過去の断片が、町のあちこちに散らばっている―。謎に満ちた妻の過去から、死の真相を探る決意を固める洋介。自殺の名所と呼ばれる森で、自殺防止のボランティア活動をしていた彼女に、いったい何が起きたのか。少しずつ暴かれる真実は、かの森へと洋介を導く。期待の新鋭が描く精緻なミステリ。


腑に落ちない妻の自殺が洋介に残したものは、あまりにも常識から外れた――しかし当事者にとっては死活問題である―― 一族の真実と、それに利用された人たちの歪んだ事実だった。驚愕の事実!とでも言いたくなるような驚くべき内容が次々に明らかになるのだが、なんとなく冗漫な物語の運びで集中しきれないのがもったいないように思われる。物語が終わっても何も解決せず、後味が悪いのも残念な一冊である。

名もなき花の*吉永南央

  • 2013/03/15(金) 17:15:03

名もなき花の 紅雲町珈琲屋こよみ名もなき花の 紅雲町珈琲屋こよみ
(2012/12/09)
吉永 南央

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北関東のとある地方都市の一角、観音さまが見下ろす街、紅雲町で、コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営む気丈なおばあさん、杉浦草。人々を温かく見守り続ける彼女は、無料のコーヒーを目当てに訪れる常連たちとの会話がきっかけで、街で起きた小さな事件の存在に気づいていく人気シリーズ第三弾。今回は、お草さんが、コーヒーを仕入れるミトモ珈琲商会が、紅雲町のある街に出店を計画。ミトモでは、二代目の若手女性社長・令が紅雲町をリサーチしていた。珈琲豆の仕入れに不安を感じたお草さんは、懇意であるミトモ初代社長に相談へ行くが、社長になった娘の令と、彼女をサポートする井(い)との対応で、逆に三友から相談されてしまう(「長月、ひと雨ごとに」)。紅雲町の青果店に持ち上がった産地偽装問題を記事にしようと、意欲に燃えている新聞記者の萩尾。だが、事件の背景には、意外な事情があった。萩尾の元の雇い主で、お草さんのコーヒーの師匠であるレストラン「ポンヌフアン」であるバクサンこと寺田博三は、正義感が先行し、ややあぶなかったしい萩尾を心配して、青果店と同じ町に住むお草にお目付け役を依頼する(「霜月の虹」)。お草は、この事件を通して、草の友人である由紀乃のいとこのかつての夫で、萩尾の民俗学の師匠である勅使河原先生と、その娘の美容師・ミナホとも関わることになる。草から見る、萩尾とミナホの関係は、どこかギクシャクとした不思議な関係だった。そんななか、勅使河原先生に論文盗用の疑惑が持ちあがる。そして、論文盗用疑惑をきっかけに、三人の止まっていた時が動き出そうとしていた……。「萩を揺らす雨」でブレイクした著者が、お草さんと彼女をとりまく街の人々の生活を通して、四季を描きつつ、お草さんならではの機転と、ささやかな気配り、そして豊富な人生経験から、小さなトラブルを解決していく滋味あふれる短編連作小説集。


ご近所のあれこれをあるときは親身になって、またあるときは自分の都合で解きほぐし明らかにするお草さんである。他人の問題は解決するものの、お草さん自身にも胸に抱え込んだものがあり、ときにふっと考え込んだりもする。そんな姿になおさら親しみが湧くのである。完璧人間ではないところが人間らしくて魅力的なのだ。今回も、勝手に息子のように思う萩尾から目が離せない。ますます小蔵屋にコーヒーを飲みに行きたくなる一冊である。

輝天炎上*海堂尊

  • 2013/03/15(金) 17:05:40

輝天炎上輝天炎上
(2013/02/01)
海堂 尊

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桜宮市の終末医療を担っていた碧翠院桜宮病院の炎上事件から1年後。東城大学医学生・天馬大吉は学校の課題で「日本の死因究明制度」を調査することに。同級生の冷泉と関係者への取材を重ねるうちに、制度自体の矛盾に気づき始める。そして、碧翠院の跡地にAiセンターが設立され、センター長に不定愁訴外来の田口医師が任命されたことを知る。時を同じくして、碧翠院を経営していた桜宮一族の生き残りが活動を開始する。東城大への復讐を果たすために―。


桜宮一族と東城医大の因縁の対決、という様相の物語である。それを、Aiと解剖の対立に絡め、万年留年医大生・天馬と(なぜか)彼を取り巻く美女たちの鞘当ても絡め、東城医大の伝説の面々のエピソードまで絡めて、飽きさせない一冊に仕立て上げている。もうこの桜宮一族と東城医大の闘いは何がどうなっても終わることはないのだと思えてくる。まだまだ何かが起こりそうな含みを持たせて幕を閉じた一冊である。

いちばん長い夜に*乃南アサ

  • 2013/03/10(日) 20:10:10

いちばん長い夜にいちばん長い夜に
(2013/01/31)
乃南 アサ

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わたしは、まだやり直せるのだろうか? 幸せになって、いいのだろうか? 刑務所で知合った前科持ちの芭子と綾香は、東京下町で肩を寄せ合うように暮らし始めたが――。健気に生きる彼女たちのサスペンスフルな日常は、やがて大震災によって激しく変化していく。二人は、新しい人生の扉を見つけられるのだろうか?


前半と後半でがらっと様相が変わる。前半は前作『いつか陽のあたる場所で』に引き続き、芭子と綾香が身を寄せ合ってひっそりと生きている日々の出来事が、それぞれの性格や境遇のの違いを織り込みながら描かれている。家族のことをかたくなに語ろうとしなかった綾香が手放さざるを得なかった我が子のことを胸の中でこれ以上ないほど大切にしていると気づいた芭子が、綾香の故郷仙台に子どものその後を調べに出かけたまさにその日、あの大地震に遭い、大変な思いをして東京に戻ってからの後半は、ふたりの――ことに綾香の――心の持ちようや生き方がこれまでとはがらっと変わり、生命の尊さや償うということと真正面から向き合うことになるのである。芭子が思い描いた未来とは違うが、綾香も芭子もそれぞれが、前向きに生きていくだろうということがうかがい知れるラストで救われる思いになった。震災の描写は、偶然にも著者の実体験ということで、より生々しく圧倒的である。どんな暮らしをしようと、芭子と綾香の絆は切れることはないだろう、いつまでも姉妹のようにいてほしい、と思わされる一冊である。

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あの日、君と Girls

  • 2013/03/09(土) 17:02:45

あの日、君と Girls (あの日、君と)あの日、君と Girls (あの日、君と)
(2012/05/18)
ナツイチ製作委員会

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あの日、君と一緒に見た光景を、私はきっと忘れない。夜の公園で身体を寄せ合いながら、秘密を打ち明けてくれた君。大切な人を捜すため、学校を抜け出して海を目指した君。無邪気に私を慕う子どもだったのに、ふいに男の子の顔を見せた君―。人気作家7人がこの一冊のために描いた、爽やかで切ない「少女たち」の物語。きらきら輝くあの頃の記憶を閉じ込めた、この上なくいとおしい作品集。


「下野原光一くんについて」あさのあつこ 「空は今日もスカイ」荻原浩 「haircut17」加藤千恵 「モーガン」中島京子 「エースナンバー」本多孝好 「やさしい風の道」道尾秀介 「イエスタデイズ」村山由佳

いろんなあの日、いろんな少女、彼女を見つめるいろんなまなざし。あの日があったからいまがある。そんな懐かしく切ない思いが胸によみがえるような一冊である。

和菓子のアンソロジー*坂木司リクエスト!

  • 2013/03/08(金) 18:45:38

坂木司リクエスト!  和菓子のアンソロジー坂木司リクエスト! 和菓子のアンソロジー
(2013/01/18)
坂木 司

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甘くてやさしくて、でもそれだけじゃない。想い出に似ている。
「和菓子をモチーフに忘れがたい作品を」というリクエストに応えてくれたのは、小川一水、木地雅映子、北村薫、近藤史恵、柴田よしき、日明恩、恒川光太郎、畠中恵、牧野修の各氏。
坂木さんの新作ももちろん収録。


「空の春告鳥」坂木司 「トマどら」日明恩 「チチとクズの国」牧野修 「迷宮の松露」近藤史恵 「融雪」柴田よしき 「糖質な彼女」木地雅映子 「時じくの実の宮古へ」小川一水 「古入道きたりて」恒川光太郎 「しりとり」北村薫 「甘き織姫」畠中恵

和菓子というテーマで、よくぞここまで違うテイストの物語が集まったものだ、と感心する。リアルな物語からファンタジックなものまで、甘いテイストからほろ苦いテイストまで、さまざまなのだが、どの物語のなかでもきっちり和菓子が生きている。坂木さんの『和菓子のアン』の後日談とも言える物語はもちろん、ほかのどの物語に出てくる和菓子も、読みながら口の中がほのかに甘くなる心地である。満足間違いなしの一冊である。

その日まで*吉永南央

  • 2013/03/06(水) 17:02:25

その日まで―紅雲町珈琲屋こよみその日まで―紅雲町珈琲屋こよみ
(2011/05)
吉永 南央

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小蔵屋を営む老女・お草は、最近くさくさしている。近所に安さと豊富な品揃えが売りの和雑貨店・つづらが開店し、露骨な営業妨害を仕掛けてくるからだ。しかもつづら出店の裏には詐欺まがいの不動産売買の噂があって、草はほうっておけなくなるが…。コーヒー豆と和食器の店を舞台に、老女が街で起きるもめ事を解決するコージー・ミステリー。


お草さんシリーズの二作目。如月、卯月、水無月、葉月、神無月、師走、とひと月おきに一年が描かれた物語である。小蔵屋の商売敵が現れたり、性質の悪い不動産売買に騙された人を目の当たりにしたり、お草さんの放っておけない性格が、ついつい事件に深入りさせるのだった。一作目よりもさらにお草さんに親しみが湧いてくるのは、お草さんが完璧でもなんでもなく、足りないところを充分に自覚しつつ、悩んだり落ち込んだり迷ったりしながら、相手のことを思い、自分の納得のために行動する人だということがより分かったからかもしれない。とても人間らしいのである。そして、何もかもひとりで背負い込まず、頼れる人にはちゃんと頼るのが好ましい。人はひとりでは生きていけないものだし、自分のためだけには生きていけないものだと改めて思わされる一冊でもある。

おとぎ菓子*和田はつ子

  • 2013/03/05(火) 07:36:14

おとぎ菓子―料理人季蔵捕物控 (時代小説文庫)おとぎ菓子―料理人季蔵捕物控 (時代小説文庫)
(2010/06)
和田 はつ子

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日本橋は木原店にある一膳飯屋・塩梅屋。主の季蔵が、先代が書き遺した春の献立「春卵」を試行錯誤しているさ中、香の店酔香堂から、梅見の出張料理の依頼が来た。常連客の噂によると、粋香堂では、若旦那の放蕩に、ほとほと手を焼いているという…(「春卵」より)。四篇を収録。季蔵が市井の人々のささやかな幸せを守るため、活躍する大人気シリーズ、待望の第七弾。


表題作のほか、「春卵」 「鰯の子」 「あけぼの薬膳」

初読みなのだが、シリーズ七作目のようである。長寿シリーズなのだなぁ。だが、一話完結なので、細かい事情はわからないながら、想像力で補えないほどではないので、途中からでも充分愉しめる。江戸と食べものとミステリは相性がいいのだろうか。同じような組み合わせの作品はかなりいろいろあるように思う。そしてたいていどれも面白い。江戸の暮らしの季節感を愉しむ風情と、工夫しながら創り出し作り上げる料理と、謎を解き明かして悪を懲らしめる爽快感が、それぞれを高め合うのかもしれない。そこに人情や恋事情が絡めば、もう惹かれないわけがない。やさしくあたたかく、スリルのある一冊である。

ちょうちんそで*江國香織

  • 2013/03/04(月) 16:38:54

ちょうちんそでちょうちんそで
(2013/01/31)
江國 香織

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取り戻そうと思えば、いつでも取り返せる――闇の扉を開く新しい長編。いい匂い。あの街の夕方の匂い――人生の黄昏時を迎え、一人で暮らす雛子の元を訪れる様々な人々。息子たちと幸福な家族、怪しげな隣室の男と友人たち、そして誰よりも言葉を交わすある大切な人。人々の秘密が解かれる時、雛子の謎も解かれてゆく。人と人との関わりの不思議さ、切なさと歓びを芳しく描き上げる長編。記憶と愛を巡る物語。


高齢者マンションで一人暮らす54歳の雛子が主人公である。自ら周囲の人たちとかかわることをせず、かと言ってまったく人を寄せつけないわけでもなく、周りからは、なんとなくとらえどころのない存在とみなされている。現在(いま)を生きているというより、過去(むかし)を漂っているような印象である。場面を変えて語られる人たちと雛子とのつながりが、章を追うごとに少しずつ明らかになっていき、だからと言って雛子のしあわせな日々が見えてくるわけでもない。物語の本筋には関係のないような細かい描写がとても濃やかで、それこそがいちばん大切なことなのかもしれないと思わされるほどである。殺風景ながらも濃やかな気配に満ちた雛子の部屋が目に浮かぶような一冊である。

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笑うハーレキン*道尾秀介

  • 2013/03/03(日) 16:43:33

笑うハーレキン笑うハーレキン
(2013/01/09)
道尾 秀介

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経営していた会社も家族も失い、川辺の空き地に住みついた家具職人・東口。仲間と肩を寄せ合い、日銭を稼ぐ生活。そこへ飛び込んでくる、謎の女・奈々恵。川底の哀しい人影。そして、奇妙な修理依頼と、迫りくる危険―!たくらみとエールに満ちた、エンターテインメント長篇。


息子を失い、妻が出て行き、会社も倒産して家を失くし、出張家具職人として細々と生きている東口が主人公である。ホームレス仲間との気楽を装いながらも最後の寄る辺を失くすまいとするギリギリの暮らし。家具職人としての誇り。失ったと思っていたものは、思いたがっていただけで、ほんとうは初めから持とうとしていなかったものではなかったのか、ということをわかっていながら必死に気づかないふりをする苦しさ。誰でもが素顔で生きている振りをして、実は仮面をかぶっているのかもしれない。そして、ホームレス仲間の突然の死、それに続く奇妙な家具修理の依頼。守りたいものができたときの、あすへの希望が見えたときの、人間の力。仮面を完全に取り去ることはないとしても、哀しすぎる仮面は剥ぎ取りたい、と思わされる一冊である。

その場小説*いしいしんじ「

  • 2013/03/02(土) 16:46:37

その場小説その場小説
(2012/11/09)
いしい しんじ

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54の「その場」で生まれた即興短編集。

2007年12月、それは六本木ではじまった。六本木のアートカフェイベントで自作の朗読を頼まれたいしいしんじは、"既に自分が知っている話をもう一度読んでも面白くない"と思った。そして、その場でちょっと、小説を書きながら声に出して読んでみた。楽しかった。それから、鉛筆だけを持って、呼ばれたらどこにでも出かけていき、「その場」で小説を書き、読むという独自のスタイルで執筆活動をするように。2012年9月の金沢、そして駒場にいたるまで54の物語を生み出してきた。東京の書店、京都のお寺、大阪の銭湯、神奈川のギャラリー、長野のカフェ、高知の植物園、瀬戸内海の小さな島、茨城の公園、大分のストリップ劇場、沖縄の市場、北海道のカフェ……その場の人々、その場の空気、その場の風景からインスピレーションを得て紡がれた風変わりで心温まる54の物語。


その場その場の「気」を読んで物語を紡ぎだす。そんな臨場感あふれる小さな物語がぎっしり詰まった一冊である。ひとつひとつの物語は、そのときその場で生み出されたものでありながら、同じ場所で生まれた物語同士は繋がっているようであり、まったく別の場所で生まれた物語同士も、どこか深い深いところで繋がっているように思われる。ときにあたたかくすべてを包み込むようであり、ときにチクリと胸を刺す。たくさんのちいさな光の粒が寄り集まって、形を変えながら生き続けているような心地のする一冊でもある。