閻魔の世直し*西條奈加

  • 2013/04/30(火) 07:09:18

閻魔の世直し: 善人長屋閻魔の世直し: 善人長屋
(2013/03/22)
西條 奈加

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正義を騙った殺しを許すな! 裏の手管で悪を討つ「善人長屋」ふたたび。表は堅気のお人好し、裏は差配も店子も悪党が揃う「善人長屋」。天誅を気取り、裏街道の頭衆を血祭りに上げる「閻魔組」の暗躍は、他人事として見過ごせない。長屋を探る同心の目を潜り、裏稼業の技を尽くした探索は、奴らの正体を暴けるか。中山義秀賞受賞で注目の気鋭がおくる、待望のシリーズ第二弾。書下ろし長編!


善人長屋シリーズの二作目である。
加助の正真正銘の善人ぶりも相変わらずである。初っ端からその善人さゆえの厄介ごとを持ち込んでいる。そしてそれが、この物語のそもそもの始まりにもなるのである。今回は、江戸の悪を成敗するという閻魔組の出現で、善人長屋の面々も他人事とは言っていられない事態であり、新顔の定回り・白坂長門も絡んで、ややこしいことになっていく。だが、ぎすぎすした殺し合いばかりではなく、江戸の風物や恋模様、人情話もちゃんと盛り込まれ、読み応えのある一冊である。

ガソリン生活*伊坂幸太郎

  • 2013/04/28(日) 13:39:41

ガソリン生活ガソリン生活
(2013/03/07)
伊坂 幸太郎

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実のところ、日々、車同士は排出ガスの届く距離で会話している。本作語り手デミオの持ち主・望月家は、母兄姉弟の四人家族(ただし一番大人なのは弟)。兄・良夫がある女性を愛車デミオに乗せた日から物語は始まる。強面の芸能記者。不倫の噂。脅迫と、いじめの影―?大小の謎に、仲良し望月ファミリーは巻き込まれて、さあ大変。凸凹コンビの望月兄弟が巻き込まれたのは元女優とパパラッチの追走事故でした―。謎がひしめく会心の長編ミステリーにして幸福感の結晶たる、チャーミングな家族小説。


語るのは、緑のデミオ。デミオに乗るのは、望月家の長男で免許取りたての普通の二十歳の良夫、歳の離れた秀でた弟の亨、良夫の妹で亨の姉のまどか、母の郁子さん。緑デミが隣人細見さんのマイカーザッパや、道ですれ違ったり駐車場で隣り合った車と情報交換したり、自分に乗っている人の会話からあれこれ想像したりする設定は、絵本のようだが、結構シリアスでハラハラドキドキさせられる。車同士のネットワークによって、車しか知らない真実があっても、人間に知らせるすべはなく、それがまたもどかしいながらも納得できるのである。事実に見える物事にも、表面に出ない真実があるのかもしれない、と思わせてくれる一冊でもある。最後の最後にじんわり胸が熱くなった。亨、なかなかやるな!

禁断の魔術 ガリレオ8*東野圭吾

  • 2013/04/25(木) 20:28:22

禁断の魔術 ガリレオ8禁断の魔術 ガリレオ8
(2012/10/13)
東野 圭吾

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湯川が殺人を?「自業自得だ。教え子に正しく科学を教えてやれなかったことに対する罰だ」。ガリレオシリーズ初の完全書き下ろし。

『虚像の道化師 ガリレオ7』を書き終えた時点で、今後ガリレオの短編を書くことはもうない、ラストを飾るにふさわしい出来映えだ、と思っていた著者が、「小説の神様というやつは、私が想像していた以上に気まぐれのようです。そのことをたっぷりと思い知らされた結果が、『禁断の魔術』ということになります」と語る最新刊。
「透視す」「曲球る」「念波る」「猛射つ」の4編収録。ガリレオ短編の最高峰登場。


上記タイトルの読みは「みとおす」「まがる」「おくる」「うつ」と、ガリレオシリーズ独特のものである。だが、タイトルだけでこれからどんな物語が始まるのかなんとなくだが想像できる。最後の「猛射る」はなかなか想像がつかなかったが、哀しくもあり苦しくもある物語だった。湯川にとっても、犯人にとっても、そして読者にとっても。湯川先生に関しては、思うことがいろいろあるが、もうこうなったらこの湯川像を受け入れるしかないのだろう。また神さまが下りてきて、今作を超える湯川先生の活躍が見られることを願わずにはいられないシリーズである。

リセット*垣谷美雨

  • 2013/04/23(火) 21:43:03

リセットリセット
(2008/02/13)
垣谷 美雨

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現在40代後半の専業主婦とキャリアウーマン、水商売あがりの三人は、それぞれ今の生活に不満を抱えていた。ある日、彼女たちは何者かの手によって高校時代にタイムスリップさせられてしまう。今度こそ理想の人生を!と願う三人の運命は!?考えさせられつつも読んだ後、元気がもらえる作品。


現在の暮らしにうんざりしている47歳の心のままで30年前にタイムスリップし、そのころ諦めた人生を送り直す。それは彼女たちにとってとても魅力的なことだった。そして実際、17歳の高校生に戻り、自らの手で自らの運命を選び取って生き直すことになったのである。だが、二度目の人生も、当然だがいいことばかりではない。理不尽な目に遭い、思うようにならないジレンマに苦しむこともある。そんなときに、待ちに待った二度目のチャンス到来である。そこで彼女たちが選んだのは…。要するに、文句ばかり言って諦めてしまっては、物事は何も変わらず、悪循環に陥るだけだということだろう。実際に過去に戻れるわけはないが、たまにはタイムスリップしたつもりになって、現在を見つめ直すのもいいことかもしれないと思わされる一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖4~栞子さんと二つの顔~*三上延

  • 2013/04/22(月) 17:13:30

ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)
(2013/02/22)
三上 延

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珍しい古書に関係する、特別な相談―謎めいた依頼に、ビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その家には驚くべきものが待っていた。稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりに、ある人物が残した精巧な金庫を開けてほしいと持ち主は言う。金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが―。


ドラマを先に観てしまったせいで、謎解きのわくわく感はまったくなかったが、ドラマでは描かれなかったところに、ほんのちょっとしたどきどきがあったりもして、やはり原作は想像力をかきたてられていいものである。大輔も、少しずつ長く本を読めるようになっているようだし、栞子さんとの距離もじりじりと縮まってもきていることだし、次作辺りでそろそろ母とも決着がつくのだろうか。ドラマがなかったらもっと愉しめた一冊である。

ニュータウンは黄昏て*垣谷美雨

  • 2013/04/21(日) 14:07:16

ニュータウンは黄昏れてニュータウンは黄昏れて
(2013/01/22)
垣谷 美雨

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バブル崩壊前夜、4LDKの分譲団地を購入した織部家。都心から1時間、広大な敷地には緑があふれ、「ニュータウン」と持て囃されたが、築30年を過ぎ、母の頼子は理事会で建替え問題に直面。が、議論は住民エゴの衝突で紛糾、娘の琴里は資産家の息子と出会い、一家は泥沼からの脱出を夢見る…。


第一章 住宅ローン地獄/ 第二章 オールドタウンの憂鬱/ 第三章 資産家に生まれて/ 第四章 再生への期待/ 第五章 居住権/ 第六章 現在地

高額のローンを組んで買った郊外のニュータウンの共同住宅。築三十年を過ぎ、大規模修繕か建て替えかという問題を突き付けられた理事会の苦悩が描かれる織部家の主婦・頼子の目線と、新卒で内定をもらった会社が倒産したせいで、教育ローン返済のためにアルバイトの日々を過ごさざるを得なくなり、お金の工面に追われながら資産家にあこがれる娘・琴里の恋愛事情という二本の流れで物語は進んでいく。出口がないどころか、どんどん深みにはまっていくような展開に、読者の気分も暗くなるようである。どちらの問題にも万能薬はないが、ちょっとしたきっかけと気の持ちようで、事態が変化することはあるのである。冷静な目の持ち主と、客観的な視点の大切さも思い知らされる。普段は岡山で一人暮らしをしている頼子の母の上京も良いスパイスになったに違いない。憂い、嘆き、羨むだけでは物事は何も変わらないし先にも進まないと。物語が終わった後、織部一家がしあわせを感じていきているといいな、と思わされる一冊である。

トッカン the 3rd おばけなんてないさ*高殿円

  • 2013/04/20(土) 17:04:13

トッカン the 3rd: おばけなんてないさトッカン the 3rd: おばけなんてないさ
(2012/06/22)
高殿 円

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お金の警察とも言われる税務署。しかし税金滞納者の取り立てをする徴収官は、誰からも嫌われがちな存在―― ぐー子こと鈴宮深樹は、京橋中央税務署で、とくに悪質な滞納を扱う特別国税徴収官(略してトッカン)の鏡雅愛の下で働く若手徴収官だ。鬼上司・鏡とのコンビも2年目に入り、ぐー子自身もスキルアップ、鏡の罵詈雑言にもちょっぴり口答えできるようになってきた。だが、調子にのりすぎて鏡の故郷・栃木に対する無知をさらし、鏡の怒りを買ったところ、よりによって栃木への出張命令が。徴税対象の登記が管区内にあれば事業実態が遠方でも管区税務署の仕事だ。つまり、出張してでも状況を調べ、場合によっては差し押さえに赴かねばならない。今回の対象は鹿沼にある運送会社と日光の霊水を使った霊感商法。けれど、思わぬところで鏡の元嫁や地元の同級生などが現われて、波乱含みの旅の予感に……少し成長したぐー子の活躍と、気になる鏡の心の内が明らかに! 人とお金の謎に迫る、話題沸騰の税務署エンターテインメント『トッカン』シリーズ第3弾。


鏡特官と涼宮が、どうしても有川さんの堂上教官と笠原郁と重なってしまうのだが、この設定は嫌いじゃないので、それはそれこれはこれということで、堂上・笠原甘々コンビのことはなるべく頭から追い出すようにして読む。鏡特官とぐー子はあれほど甘々になれるかどうかもまだ皆目判らないことでもあるし。ぐー子は三作目にしてかなりいろいろな面で学習してきており、鏡特官にやりこめられるばかりではなく、言い返すこともできるようになり、仕事面でも順調に独り立ちできるようになりつつあって――それがいいのか悪いのかはさておき――、彼女の仕事ぶりも愉しみになってきた。鏡の同級生たちのキャラがあまりに独特なのは笑えるが、普段疎遠にしていても何となく奥の奥で繋がっているような心強さを感じられるのがぐっとくる。良いお金と悪いお金のことを考えると、頭の中がグルグルしてしい、大見謝家の場合は堪らない思いもなくはない。次も愉しみなシリーズである。

45°*長野まゆみ

  • 2013/04/19(金) 08:51:15

45°45°
(2013/03/29)
長野 まゆみ

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ビルから転落し、一時記憶喪失となった経験を持つ男。自らの事故の理由を知るため、その目撃者を捜し出したが……。謎が響きあう九つの物語。日常の風景に潜む不条理を描き、著者の新境地を示すスタイリッシュでミステリアスな最新連作短篇集。


表題作のほか、「11:55」 「/Y」 「●」 「+-」 「W.C.」 「2°」 「×」 「P.」

タイトルを一見しただけで、すでに狐につままれた心地である。これからどんな物語の中に連れて行かれるのか、そこはかとなく不安にもなる。そして、そんな気分を裏切られない物語たちだった。不思議、内向的、マイペース、運命、逆転、転換。そんなあれこれが渦巻いている。ラストに驚かされることも多い。そこはかとなく胸にもやもやが残る一冊でもある。

狭小邸宅*新庄耕

  • 2013/04/18(木) 07:08:30

狭小邸宅狭小邸宅
(2013/02/05)
新庄 耕

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戸建物件を売る不動産会社に勤める「僕」。ノルマ、容赦ない上司の罵声。そこは売上という結果以外、評価されない過酷な職場だった。戦力 外通告を受けた異動先の営業所でも辞職を迫られるが、ある日幸いにもひとつの物件が売れ、周囲からも徐々に認められ、自身も変わっていく のだが……。


不動産業界が――多少の誇張はあるかもしれないが――まことにリアルに描かれているらしい。まずは、我が子が不動産業界に就職しなくてよかった、と胸をなでおろしてしまった。優秀な大学を卒業しているが、なかなか実績を出せずにいる松尾が主人公。上司に罵られ、殴られ蹴られ、ねちねちと嫌みばかり言われながらも、なぜか辞めずに家を売ろうとし続けている。人間性を根こそぎ否定されるような毎日はまさに地獄のようである。それが変わったのは、辞めるのも仕方がないと腹をくくった最後の一か月に焦げ付いている物件を売ったことがきっかけだった。それからは、優秀な部長の個人指導の下、どんどん不動産屋になり切っていく松尾であった。営業は実績がすべて、とは言え、あんまりな職場環境だなぁ、と思うのは甘いのだろうか。他人事として読むには面白い一冊である。

桜ほうさら*宮部みゆき

  • 2013/04/17(水) 16:55:24

桜ほうさら桜ほうさら
(2013/02/27)
宮部 みゆき

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舞台は江戸深川。
主人公は、22歳の古橋笙之介。上総国搗根藩で小納戸役を仰せつかる古橋家の次男坊。
大好きだった父が賄賂を受け取った疑いをかけられて自刃。兄が蟄居の身となったため、江戸へやって来た笙之介は、父の汚名をそそぎたい、という思いを胸に秘め、深川の富勘長屋に住み、写本の仕事で生計をたてながら事件の真相究明にあたる。父の自刃には搗根藩の御家騒動がからんでいた。
ミステリアスな事件が次々と起きるなか、傷ついた笙之介は思いを遂げることができるのか。「家族は万能薬ではありません」と語る著者が用意した思いがけない結末とは。
厳しい現実を心の奥底にしまい、貸本屋・治兵衛が持ってきたくれた仕事に目を開かれ、「桜の精」との淡い恋にやきもきする笙之介の姿が微笑ましく、思わず応援したくなる人も多いはず。
人生の切なさ、ほろ苦さ、そして長屋の人々の温かさが心に沁みる物語。


とにかく登場人物がみないい。すべてが善人というわけではなく、悪人も、ずるがしこい奴も、ろくでなしも様々いるのだが、どの人物もいまこの時を生きているように見える。主人公の笙之介ももちろんである。武士でありながら剣術の腕はイマイチで、ある目的のために貧乏長屋で貸本屋の治兵衛の頼まれ仕事をしながら暮らしているが、芯には揺るがない強さを持っている。長屋やその周りの人間関係も、つかず離れずありがたい。笙之介自身は、大きな想いに抱かれて操られたようにも見えるが、だからこそそこから前へ進むことができるのだろう。周囲の想いを受け止めた笙之介の明日が穏やかでありますように、と願わずにはいられない一冊である。

のろのろ歩け*中島京子

  • 2013/04/14(日) 07:15:58

のろのろ歩けのろのろ歩け
(2012/09/27)
中島 京子

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北京、台湾、上海――刻々と変わりゆくアジアの街で、変わりゆくことを強いられる年頃の日本の女性たちは何を見つけるのか。時の流れに移ろうものとそうでないものを、主人公の心の機微に沿いながら丁寧に、どこかユーモア漂うタッチで描き出す三篇。
「北京の春の白い服」の舞台は、自由経済化が女性のおしゃれにも波及し、ついに中国国内でのファッション誌創刊が許された1999年の北京。日本でフリー編集者をしている夏美は中国の出版社からの招へいに応じて雑誌創刊準備のため働くことになる。アメリカ人の恋人ジェイソンは「君の価値観は受け入れられないだろう」と渋い顔だが、年齢的にも国内でのキャリア的にも微妙なところに差し掛かっている夏美には必要な変化に思えた。だが、いざ始まった北京での春物ファッション撮影は想像以上に過酷。大陸ならではの厳寒ロケ、流行の白い服はあっというまに黄砂で汚れ、現地スタッフとは一から十まで意見が食い違う。そこに追い打ちをかけるような「ほら、僕は正しかっただろう?」と上から目線の彼氏からのメール……。こんなはずじゃなかった。追い詰められた夏美の前に開けた道は? 実際に女性誌編集者として中国に赴いた著者の経験が活かされた一篇ほか、失恋したばかりの娘が、かつて台湾に留学していた母の恋の手がかりを追って現地の青年と旅をする「天燈幸福」、夫の転勤についてしぶしぶ上海に移った妻の異国の地での戸惑いと発見を描く「時間の向こうの一週間」。異国の風景の中を、不器用ながら飄々と明るく旅をするヒロインたちの姿が、静かな共感を呼ぶ中篇集です。


舞台は中国。主人公は日本人女性。年齢や立場はそれぞれだが、単身中国へやってきて、戸惑い、反発し、もどかしさを感じ、ためらいを覚えながらも、その大らかさに溶け込んでいく――というか取り込まれていく――姿が描かれている。日本とのギャップのみならず、中国国内にも存在するギャップ――過去と現在とか、貧富の差とか――に目を瞠りつつも、抱き留められるような安心感と心細さを感じさせられる一冊である。

竜巻ガール*垣谷美雨

  • 2013/04/12(金) 21:13:48

竜巻ガール竜巻ガール
(2006/10)
垣谷 美雨

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2005年・第27回小説推理新人賞受賞者の初短編集。父親の再婚相手の連れ子と同居することになった高校二年生の哲夫。なんと義妹は同学年のガングロ娘だった!その日から破天荒で過激な彼女に翻弄される日々が始まった。


表題作のほか、「旋風マザー」 「渦潮ウーマン」 「霧中ワイフ」

どの物語も、結構強烈なシチュエーションであり、劇的な出来事の連続である。それなのに、ゆるさを感じてしまうのは著者の意図なのだろうか。面白くないわけではないのだが、共感できる部分があまりに少なくて、上滑りしているような手応えなのである。現実から遠い物語――物語なのだが――を読んでいるような感覚の一冊。

心配しないで、モンスター*平安寿子

  • 2013/04/11(木) 21:17:41

心配しないで、モンスター心配しないで、モンスター
(2013/02/27)
平 安寿子

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宇宙人? モンスター? それでもいいよ。 そういってくれる人は、きっといる。

下で何が起こっていても超然としている丘の上の馬鹿のように老いたいのに、結局じたばたしてしまう金森カナエ(50)。「舟唄」をテキストに不倫を楽しんでいる、桑原カオル(32)。彼はスーパーギタリスト。10コ下のストリート・ミュージシャンだけど。徳永早紀子(33)。パン屋の女主人にコンサートチケットを渡したい駐車場係員、楠本英智(69)。ピンクレディーのコスプレにはまってしまった、落合光弘(26)----。
……さえない毎日にうんざりして、うまくやれない自分にがっかりして、孤独や不安に苛まれてどんよりする、そんなときこそ、鳴らせ、自分のテーマソングを!
9つの音楽に乗って、少しだけ前に進む9人の物語。シニカルでありながら温かく、たくましい。今回の平節は、「どれもラブソングを1曲聞いたようで、実に心地よい」(池上冬樹氏)!


「丘の上の馬鹿になりたい」 「わけあって、舟唄」 「黒魔術の女とお呼び」 「夢路はどこにあるの」 「夕星に歌う」 「UFOに乗ってモンスターが行くぞ」 「わたしだって、いつかはプリキュア」 「真夏の果実はかじりかけ」 「心配しないでベイビー、やっていけるから」

登場人物がバトンタッチする形のゆるい連作である。だが、だれが主人公になったとしても、何かしらの悩みや屈託があるわけで、そんなあれこれを胸に秘め、日々を生きて――あるいは闘って――いるのである。そこに寄り添う一曲があり、折れそうなときによりどころにする一曲があれば、なんとかあしたもやっていけそうな気持になるのである。他人と比べることなどない、自分がいいと思った道を、自分なりのペースで歩いていけばいいのだ、と――半分開き直るような勢いであっても――思わせてくれる一冊である。

小説乃湯*有栖川有栖 編

  • 2013/04/09(火) 21:18:45

小説乃湯  お風呂小説アンソロジー (角川文庫)小説乃湯 お風呂小説アンソロジー (角川文庫)
(2013/03/23)
有栖川 有栖

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古今東西、お風呂にまつわる傑作短編を集めました。滑稽話に純文学、ミステリにファンタジー、さらにSF、幻想、現代小説と各種取り揃えております。お風呂の種類も内風呂、銭湯、サウナ、温泉とよりどりみどり。一入浴につき一話分、お風呂のお供に小説浴はいかがですか?熱読しすぎて湯あたり注意。お風呂好きに贈るお風呂オンリーアンソロジー。お風呂小説の面白さについて熱く語る!?編者あとがきつき。


「浮世風呂」式亭三馬 「柳湯の事件」谷崎潤一郎 「泥濘」梶井基次郎 「電気風呂の怪死事件」海野十三 「玄関風呂」尾崎一雄 「美少女」太宰治 「エロチック街道」筒井康孝 「あの世は夢かサウナの汗か」辻真先 「秘湯中の秘湯」清水義範 「水に眠る」北村薫 「花も嵐も春のうち」長野まゆみ 「旅をあきらめた友と、その母への手紙」原田マハ

お風呂小説と言ってもさまざまである。おどろおどろしいものから、艶めいたものから、ファンタジーまで、色とりどりの世界である。お風呂という本来極プライベートで、鎧を脱ぎ捨てて素に戻る空間がテーマだからか、ちょっとした油断や隙を突いてするりと物語が身の裡に滑り込んでくるような心地に何度かなった。のんびり浸かるだけでは済まない一冊である。

サクラ秘密基地*朱川湊人

  • 2013/04/08(月) 16:58:43

サクラ秘密基地サクラ秘密基地
(2013/03/13)
朱川 湊人

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直木賞受賞作『花まんま』や、涙腺崩壊のキャッチフレーズ『かたみ歌』で、読者の涙を誘った短編の名手・朱川湊人が、家族と写真にまつわるちょっぴり不思議で哀しいお話をお贈りします。二〇一二年秋に、三十九年の長期連載が幕を閉じたミステリ界の巨人・佐野洋氏の連載「推理日記」で、設定の妙を大絶賛された、UFOをでっち上げた同級生の美人の女の子の身の上話「飛行物体ルルー」、とある事故をきっかけにして、優しかった近所のおねえさんの意外な一面を見てしまった少年の淡い慕情の末「コスモス書簡」、ぶっきらぼうで、口より手が先に出る不器用な父と、その父に寄り添うように暮らす聡い男の子、そして同じボロアパートに、とある事情で身を隠すように暮らすことになった私との心の交流を描いた「スズメ鈴松」、ほのかな想いを寄せながら亡くなった同級生の想いが、不思議なカメラに乗り移ってもたらされた写真にまつわる奇妙な出来事「黄昏アルバム」、小学生の男子四人でつくった秘密基地にまつわる哀しい過去を巡る表題作「サクラ秘密基地」など、夕焼けを見るような郷愁と、乾いた心に切ない涙を誘う、短編を六本を収録。


どの物語もどこか秘密めいていて、ちょっぴりうしろめたく、自分の胸の中だけにしまっておきたいようでありながら、思い出すたび、なんともいえない懐かしさに包まれ、甘酸っぱい感情で満たされるような気がする。主人公たちにとっては、自分を語る上で避けては通れないあれこれであるが、写真という形で切り取られた思い出は、それらをいつの間にか美化していたりすることもある。不思議で切なく懐かしい一冊である。

福家警部補の報告*大倉崇裕

  • 2013/04/07(日) 19:28:56

福家警部補の報告 (創元クライム・クラブ)福家警部補の報告 (創元クライム・クラブ)
(2013/02/21)
大倉 崇裕

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実力派漫画家と辣腕営業部長、もと同人が迎えた不幸な結末(「禁断の筋書」)、少女が目撃証言を拒むのはヤクザの一徹に絆されたからか(「少女の沈黙」)、老夫婦が爆弾で吹き飛ばした三人は銀行を襲う直前だった(「女神の微笑」)。『福家警部補の挨拶』『福家警部補の再訪』に続く、倒叙形式の本格ミステリ第三集。「こんな気分久しぶりだわ。ワクワクする」福家警部補の攻勢に犯人も発奮!活殺自在の名刑事、今日も徹夜で捜査する。


待ってました!福家警部補。相変わらず警察手帳はなかなか見つからないし、携帯電話の電源は入れ忘れるし、忙しすぎて家にも帰れず徹夜続きで、お金も下ろせずに部下に借りるし、現場では刑事には見られず追い払われそうになっている福家警部補である。そんな憎めない天然キャラなのだが、やることは半端ではない。一度睨まれたら逃げることなど不可能なのである。小さなシミさえ見逃さず、犯人の盲点に切り込んでくる。しかも淡々と、平然と。カッコイイ!でも、福家警部補の母はさぞや心配だろうと、物語には全く出てこない彼女の個人的なことまで想像してしまうのである。ちゃんと寝てちゃんと食べて、またカッコイイ姿を見せてほしいと思わずにはいられないシリーズである。

ハピネス*桐野夏生

  • 2013/04/06(土) 18:35:15

ハピネスハピネス
(2013/02/07)
桐野 夏生

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三十三歳の岩見有紗は、東京の湾岸地区にそびえ立つタワーマンションに、三歳二カ月の娘と暮らしている。結婚前からの憧れのタワマンだ。
おしゃれなママたちのグループにも入った。そのリーダー的な存在は、才色兼備の元キャビンアテンダントで、夫は一流出版社に勤めるいぶママ。
他に、同じく一流会社に勤める夫を持つ真恋ママ、芽玖ママ。その三人とも分譲の部屋。しかし有紗は賃貸。そしてもう一人、駅前の普通のマンションに住む美雨ママ。
彼女は垢抜けない格好をしているが、顔やスタイルがいいのでいぶママに気に入られたようだ。
ある日の集まりの後、有紗は美雨ママに飲みに行こうと誘われる。有紗はほかのママたちのことが気になるが、美雨ママは、あっちはあっちで遊んでいる、自分たちはただの公園要員だと言われる。
有紗は、みんなには夫は海外勤務と話しているが、隠していることがいくつもあった。
そして、美雨ママは、有紗がのけぞるような衝撃の告白をするのだった……。
「VERY」大好評連載に、新たな衝撃の結 末を大幅加筆!


どこに住んでも、大なり小なりあるのではないかと思われる、ママ友づきあいのむずかしさを、ママ友仲間の経済格差や境遇を絡めて描いた物語である。自分の身に降りかからない限り、興味津々で首を伸ばしてしまいそうな題材でもある。ママ友間の力関係や夫や実家の地位、生活レベル、などなど、身の丈以上を望むと窮屈なことこの上ない。それでも子どものため、自分のために多少の無理には目を瞑って周りに合わせる。そのうちに、必ずどこかにひずみが出てくる。上辺と本音、虚飾と現実。なにが本当のしあわせなのか。自分の心の持ちようで、しあわせの価値も変わるのだと思わされる一冊でもある。

望郷*湊かなえ

  • 2013/04/06(土) 07:12:11

望郷望郷
(2013/01/30)
湊 かなえ

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島に生まれ育った人々の、島を愛し島を憎む複雑な心模様が生み出すさまざまな事件。推協賞短編部門受賞作「海の星」ほか傑作全六編。


「みかんの花」 「海の星」 「夢の国」 「雲の糸」 「石の十字架」 「光の航路」

瀬戸内の小さな島、白綱島が舞台で、一話ごとに語り手を替える連作短編集である。島ならではの人間関係の濃密さや閉塞感、都会への憧れと途切れなく続く日々の暮らし。そんな環境だからこそ起こった数々の出来事や事件、そして、時を隔てたからこそ明らかにすることのできる隠されていた真実。世界の縮図とも、ひとりの人間の縮図とも言えそうな、さまざまな思惑のせめぎ合いは、ときにに切なく恐ろしいが、読み応えがある。凪いだ水面をかき乱すような心地にさせられる一冊である。

赤猫異聞*浅田次郎

  • 2013/04/05(金) 07:06:52

赤猫異聞赤猫異聞
(2012/08/30)
浅田 次郎

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鎮火後、三人共に戻れば無罪、一人でも逃げれば全員死罪。「江戸最後の大火」は天佑か、それとも――。火事と解き放ちは江戸の華! 江戸から明治へ、混乱の世を襲った大火事。火の手が迫る小伝馬町牢屋敷から、曰くつきの三人の囚人が解放された。千載一遇の自由を得て、命がけの意趣返しに向かった先で目にしたものは――。数奇な運命に翻弄されつつも、時代の濁流に抗う人間たち。激変の時をいかに生きるかを問う、傑作長編時代小説!


江戸から明治に移り変わる騒乱のなかで起こった火事騒ぎ。解き放たれた400の囚人たちの中に、いわくつきの三人がいた。繁松・お仙・七之丞、それぞれ重罪人でありながら、理不尽に絡め取られてもいる。鎮火後、三人ともに戻れば無罪、ひとりでも戻らなければ全員死罪、誰も戻らなければ鍵同心の小兵衛が腹を切る。鎮火の半鐘が鳴るまでの間の劇的な出来事がスリリングである。そして、時をおき、別々に違う人物があのときのことについて訊問される。そこで新たに明るみに出たことは、思いもよらない真実であった。涙あり、義理人情あり、憤りあり。ぞくぞくさせられる一冊だった。

役たたず、*石田千

  • 2013/04/03(水) 16:55:01

役たたず、 (光文社新書)役たたず、 (光文社新書)
(2013/03/15)
石田 千

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だいじなことは、役にたたない。そして一見、役にたっているようにみえるものも、ひと皮むけば役たたず。役にたつことばかりしていると、暮らしも人も、痩せていく―。古風な下町感覚の文章を書きファンの多いエッセイストで、ここ最近は小説家としても頭角を現している石田千が、日常のなかで綴った「役たたず」の視点からの風景。二年あまりにわたる連載の途中では、大震災が起き、そのときの空気感も文章としてリアルに切り取られている。相撲好き、競馬好き、ビール好きの「町内一のへそまげちゃん」が、だいじにしたいもの。へなちょこまじめ日常記。


タイトルの最後の「、」が味わい深い。役たたずと自認していても、どんな些細なことでも、何かしらことを起こせば、まわりまわって何かしらの役に立つことになる、という含みが「、」に込められているように思えてならない。いつも通りの決して優等生ではない、むしろ同じ場所で足踏みしてばかりいるような親しさで、ぽつりぽつりと語られることに真実が感じられる。震災後のあれやこれやに、珍しく憤りをあらわにする様にも頷きたくなる。隣にいるような体温を感じられる心地の一冊である。

ぼくとユーレイの占いな日々*柴田よしき

  • 2013/04/03(水) 07:42:57

ぼくとユーレイの占いな日々 (石狩くんと株式会社魔泉洞) (創元推理文庫)ぼくとユーレイの占いな日々 (石狩くんと株式会社魔泉洞) (創元推理文庫)
(2013/02/21)
柴田 よしき

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徹夜のアルバイトを終えた石狩くんが出逢った。冗談みたいな厚化粧の女。彼の過去の行動を当てる彼女は大人気占い師、摩耶優麗だった!石狩くんはある事件をきっかけに優麗が率いる占いの館・魔泉洞に就職してしまう。次々に持ち込まれる不思議な事件を鮮やかに解くユーレイの名推理と、超個性的な面々に振りまわされる石狩くんの受難の日々を描いた、ユーモアミステリ短編集。


「時をかける熟女」 「まぼろしのパンフレンド」 「謎の転倒犬」 「狙われた学割」 「七セットふたたび」

以前ミステリーズに掲載されたものに書き下ろし一篇を加えた一冊、ということである。
卒業に必要な単位は取れたものの、就活にてこずる大学四年生の石狩くんが、ひょんなことからアルバイトとして雇われることになった占いの館・魔泉洞での、社長で人気霊媒師である摩耶優麗(まや ゆうれ)との一風変わった毎日の物語である。ユーレイ(優麗)の占いの真偽はともかくとして、ほんの小さなヒントから真実を引き出す観察力と推理力は見事であり、石狩くんは探偵としての彼女のアシスタントのようである。事件の謎は解けたものの、優麗自身やその他もろもろにはまだまだ謎の部分が多く、それらが明らかにされることはあるのだろうか、とちょっぴり気になる一冊である。

沈黙の町で*奥田英朗

  • 2013/04/02(火) 07:30:04

沈黙の町で沈黙の町で
(2013/02/07)
奥田英朗

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中学二年生の名倉祐一が部室の屋上から転落し、死亡した。屋上には五人の足跡が残されていた。事故か?自殺か?それとも…。やがて祐一がいじめを受けていたことが明らかになり、同級生二人が逮捕、二人が補導される。閑静な地方都市で起きた一人の中学生の死をめぐり、静かな波紋がひろがっていく。被害者家族や加害者とされる少年とその親、学校、警察などさまざまな視点から描き出される傑作長篇サスペンス。


ひとりの中学生の転落死が、周りに広げる波紋と、渦中の大波が見事に描かれている。気負うところも煽るところもなく、淡々と現実そのままが描かれているような印象である。当事者である中学生たちも、教師の反応、家族の心情、警察・検察関係者の思惑、遺族の感情も、現実とそう遠くはないのだろうと容易に想像できる。ことに中学生たちの心の動きが興味深い。名倉祐一の転落死のあとである現在と、そこに至る過去とを交互に見せる手法も、興味を増すのに効果的である。いつ隣で起こってもおかしくないように思える出来事の積み重ねが悲惨な結果を生んでしまうということを、肝に銘じなければいけないと思わされる一冊である。

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