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11枚のとらんぷ*泡坂妻夫

  • 2013/06/30(日) 13:39:05

11枚のとらんぷ (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)11枚のとらんぷ (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
(1993/05)
泡坂 妻夫

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奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって発見される。しかも死体の周囲には、奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使われている小道具が、壊されて散乱していた。この本の著者鹿川は、自著を手掛かりにして真相を追うが…。奇術師としても高名な著者が、華麗なる手捌きのトリックで観客=読者を魅了する泡坂ミステリの長編第1弾。


面白い趣向である。マジシャン仲間が殺され、その周りに作中作にゆかりの品々が壊されて配置されている。読者は、アマチュアのマジックショーを愉しみながら、作中作のミステリをも愉しみ、しかも殺人事件の真相に想いを巡らせるという幾重にも愉しめる趣向である。そして、探偵役であり作中作の作者でもある鹿川の穴がないと思われた推理は、思わぬ人物によってひっくり返される。いろんな意味でスリリングな一冊である。

何者*朝井リョウ

  • 2013/06/28(金) 20:59:18

何者何者
(2012/11/30)
朝井 リョウ

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「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。


五人の就活生の日常に、Twitterでのつぶやきという現代を象徴する要素を取り入れて、就活生の生態を描いた物語。と単純に考えていたら、それだけではなかった。ラスト近く、理香の爆発で、もしやと思っていたあれこれに納得する。タイトルの意味にも。それにしても、ここまで自分自身のことを考え見つめられる時期は、就活中以外にそうはないだろうとも思う。そのこと自体がたぶん恵まれているのだ。がんばれ若者、と言いたくなる一冊である。

密室蒐集家*大山誠一郎

  • 2013/06/26(水) 16:48:41

密室蒐集家 (ミステリー・リーグ)密室蒐集家 (ミステリー・リーグ)
(2012/10/18)
大山 誠一郎

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目撃された殺人と消えた犯人、そして目の前を落下する女、鍵を飲み込んだ被害者に雪の足跡…いつの間にか現れた「彼」の前に開かない「扉」はない。


「柳の園 1937年」 「少年と少女の密室 1953年」 「死者はなぜ落ちる 1965年」 「理由ありの密室 1985年」 「佳也子の屋根に雪ふりつむ 2001年」

警察が真相を掴みかねている密室殺人事件があると、どこからともなく現われて、状況を聴いただけでいとも簡単にしかも鮮やかに謎を解き、いつの間にか煙のように消えてしまう密室蒐集家の物語である。最後にはその正体が明らかにされるのかと思えば、さにあらず。最後まで彼が何者なのかは謎のままなのである。物語の中で唯一解かれない謎がそれである。ファンタジーのような設定だが、れっきとした密室物であり、密室蒐集家に見破られたとはいえ、トリックを考え出した犯人も見事であると思ってしまう。短編集なのだが、緩い連作のようでもある一冊である。

わたしたちが少女と呼ばれていた頃*石持浅海

  • 2013/06/24(月) 16:43:03

わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)
(2013/05/16)
石持 浅海

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新学期、横浜にある女子高の特進クラスで上杉小春は碓氷優佳という美少女に出会う。おしゃべりな小春とクールな優佳はやがて親友に―。二学期の中間試験で、東海林奈美絵が成績を急上昇させた。どうやら、夏休み中にできた彼氏に理由があるらしい。だが校則では男女交際は停学処分だ。気をもむ小春をよそに平然とする優佳。奈美絵のひと夏の恋の結末を優佳は見切ったようで…(「夏休み」)。教室のどこかで、生まれ続ける秘密。少女と大人の間を揺れ動きながら成長していくきらめきに満ちた3年間を描く青春ミステリー。


碓氷優佳の高校生時代の物語がいま読めるなんて、思ってもいなかった。そして高校生と言えどもやはり、優佳は優佳で、ちょっと鳥肌が立ってしまった。もちろん女子高生なので、女子高生らしい友だちづきあいもしているし、たわいのないおしゃべりもしているのだが、そんな日常生活の中でさえ、友人たちの誰も気づかないような些細な違和感を見つけてしまうのである。ラストの小春の慄きがとてもよくわかって、そんな風に産まてついてしまった優佳が可哀想になる。それはそれとして、ちょっぴり得したような一冊である。

この国。*石持浅海

  • 2013/06/23(日) 16:53:00

この国。 (ミステリー・リーグ)この国。 (ミステリー・リーグ)
(2010/06/10)
石持 浅海

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一党独裁の管理国家であるこの国では国家に対する反逆はもっとも罪が重く、人材育成をなにより重要視するこの国では小学校卒業時に児童の将来が決められ、非戦平和を掲げるこの国では士官学校はたんなる公務員養成所となり、経済の豊かなこの国では多くの女性が売春婦としておとずれ、文化を愛するこの国では「カワイイ」をテーマに博覧会が開かれる。そこで起こる「事件」の真の犯人は、やはりこの国自身なのかもしれない―。


治安警察の番匠少佐と、反政府組織の首謀者・松浦との命とメンツを賭けた戦いがキーになった連作短編集である。
裏をかき合う戦略の応酬は見応えがあるし、番匠のタフさにも目を瞠るのだが、それぞれの物語のラストに救いがないのがいささか辛くもある。2010年の作品だが、2013年のいま読むと、そこはかとなく厭な感じがするのはわたしだけだろうか。この国が我が国とイコールにならないことを祈りたい一冊である。

ときぐすり*畠中恵

  • 2013/06/21(金) 18:13:14

ときぐすりときぐすり
(2013/05/29)
畠中 恵

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やんちゃ二人に堅物ひとり。麻之助・清十郎・吉五郎が江戸は神田で活躍する。傷心のなか、町名主名代のお役目はどうにか務めている麻之助。揉めごと諍い悩みの相談、いつもの裁定の仕事をするうちに、過ぎた時間がいつしか薬となってゆく…。新展開の『まんまこと』ワールド、感動の第四弾!


麻之助、清十郎、吉五郎トリオもすっかりお馴染みになった四作目である。今回の麻之助は、なにやらばかに忙しそうである。あとからあとから厄介事が舞い込み、しかも、なんだかんだと言いながら、躰を張って解決へと努力しているのである。それでもまだお気楽だ、いい加減だと言われるのだから可哀想な気さえしてくる。麻之助の忙しさの理由のひとつは、愛妻・お寿ずと愛娘・お咲を亡くした空虚を埋めようという町名主である父の計らいもあるのだが、麻之介も口には出さないが、きっとわかっていることだろう。幼馴染三人の絆の強さも相変わらずで――それ故の行き違いなどもあるが――何よりも心強い。高利貸しの丸三がいい味を出していた一冊でもある。

カード・ウォッチャー*石持浅海

  • 2013/06/19(水) 21:08:36

カード・ウォッチャーカード・ウォッチャー
(2013/03/13)
石持 浅海

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ある日、遅くまでサービス残業をしていた研究員・下村が起こした小さな事故が呼び水となり、塚原ゴムに臨検が入ることになった。突然決まった立入検査に、研究総務・小野は大慌て。早急に対応準備を進めるが、その際倉庫で研究所職員の死体を発見してしまい…。現役サラリーマンが描く、新感覚ロジカルミステリー。


きっかけは、サービス残業に疲れて椅子の背もたれに寄りかかって伸びをした下村が、背もたれが壊れて右手首に怪我をしたこと。すべてがここから始まる物語である。労働基準監督署の臨検が入ることになった塚原ゴム。担当官が来社する直前に、さらに思ってもいないことが起こり、労働基準監督署の担当官・北川と塚原ゴム側の担当者・米田と小野の一見穏やかな戦いの幕が切って落とされるのだった。物語は、ある会社の臨検の様子を描いているだけとも言えるのだが、北川の調査姿勢がただの仕事熱心とはひと味違い、違和感をひとつずつ拾い上げて検証する探偵のようでもあって、ちゃんとミステリになっているのが不思議である。人の心の動きと、それを見逃がさない怜悧な目。面白くてページを繰る手が止まらない一冊である。

シャーロック・ホームズたちの冒険*田中啓文

  • 2013/06/19(水) 16:44:06

シャーロック・ホームズたちの冒険シャーロック・ホームズたちの冒険
(2013/05/30)
田中 啓文

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シャーロック・ホームズ&アルセーヌ・ルパン、ミステリ界が誇る両巨頭の新たなる冒険譚。赤穂浪士討ちいりのさなか吉良邸で起こった雪の密室殺人。あのアドルフ・ヒトラーがじつは大変なシャーロキアンで…。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が日本に来た本当の理由とは。著名人の名推理に酔いしれる、連作短編集。奇才・田中啓文が贈る、ミステリ五番勝負!


ホームズやルパンはただでさえ謎に包まていて、あれこれと想像したりもしたし、名前を聞いただけでわくわくするが、それをこんな風に展開して見せるとは、著者もきっと想像たくましくあれこれと思い描いたのだろう。そして、それがここに結実したのだろう。当然のことながら、わたしなどの想像よりも何倍もぶっ飛んだ内容である。そうだったのか、と危うく信じそうにもなる(こともある)。想像力をかきたてられる一冊である。

フロム・ミー・トゥー・ユー 東京バンドワゴン8*小路幸也

  • 2013/06/16(日) 16:44:25

フロム・ミー・トゥ・ユー (8) (東京バンドワゴン)フロム・ミー・トゥ・ユー (8) (東京バンドワゴン)
(2013/04/26)
小路 幸也

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堀田家随一のイケメン、青の出生の秘密とは?(「紺に交われば青くなる」)、藤島社長と堀田家の初めての出会いとは?(「縁もたけなわ味なもの」)、地味な紺が、亜美を射止めたきっかけは?(「愛の花咲くこともある」)。老舗古書店「東京バンドワゴン」に舞い込む謎を、大家族の堀田家があふれる人情で解決する人気シリーズ第8弾、番外編。知られざるエピソードが満載。書き下ろし3編を含む全11編。


いつものように春夏秋冬ひと巡りの堀田家ではなく、堀田家とその関係者たちの目線で各人にまつわるエピソードが語られている。すっかりお馴染みの面々ではあるのだが、改めて個人個人にスポットが当てられると、印象が深まりより親しみが湧く。こうしてみると、それぞれにいろいろ複雑なものを抱えてもいるのだなぁという感慨もある。それでも日々和気藹々としあわせに穏やかに暮らしている堀田家である。誰もが人を思いやる心を持っているということがすべての基本にあるからだろう。永遠に続いてほしいシリーズである。

アンジャーネ*吉永南央

  • 2013/06/14(金) 21:08:14

アンジャーネアンジャーネ
(2011/01/27)
吉永 南央

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祖母・梅の危篤の知らせを受けた瑞輝は、北関東のとある町にやってきた。ひとまず持ち直し、親族一同ほっとして囲んだランチの席で、無職で閑人の瑞輝に、梅が経営する外国人向けアパート「ランタン楼」の大家という、面倒な仕事が押し付けられる。昔から入居者のトラブルが続き、近隣から迷惑がられているランタン楼だが、細くても背が高い瑞輝なら見劣りしないから大丈夫、と軽い調子で。喧嘩や夜逃げは当たり前、警察沙汰も珍しくないランタン楼の歴史に怯えつつ、慣れない大家業をはじめた瑞輝だが…。異国の地で懸命に生きる入居者たちと交流し、その窮状に知恵と度胸で関わるうちに、瑞輝の心にも大きな変化が訪れる。ランタンのともる古い洋館風のアパートを舞台に、気鋭の著者が優しい眼差しで綴った、国際色豊かな連作短編集。


北関東のとある町の外国人向け安アパートが舞台、という設定にまず興味を惹かれる。時に警察のご厄介にもなり、近所の住民とのいざこざも多々。そしてなによりランタン楼の中でのトラブルも日常茶飯事なのだという。そんな厄介なアパートの管理人なんて、何が哀しくて引き受けなくてはならないのか、と思うが、瑞樹は当然のように――しっかりした覚悟があったわけではないが――引き受け、頼りなく覚束ないながらも、なるべく平穏に暮らせるように心を砕くのである。そんな一風変わった日常に挟みこまれる謎も一風変わってはいるが、成り行きとは言え曲がりなりにも大家である瑞樹の店子を思う気持ちと、周りの助けによって解決へと導かれるのである。日本であって日本ではないようなエキゾチックさが漂う一冊でもある。
タイトルは以外にも外国語ではなく、関東北西部などで使われる方言「あんじゃあねえ」(案ずることはない、大丈夫だの意)なのだとか。それさえもが物語の雰囲気を表していると言ってもいいかもしれない。

ダリの繭*有栖川有栖

  • 2013/06/12(水) 16:42:13

ダリの繭ダリの繭
(1999/12)
有栖川 有栖

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幻想を愛し、奇行で知られたシュールレアリズムの巨人―サルバドール・ダリ。宝飾デザインも手掛けたこの天才に心酔してやまない宝石チェーン社長が、神戸の別邸で殺された。現代の繭とも言うべきフロートカプセルの中で発見されたその死体は、彼のトレードマークであったダリ髭がない。そして他にも多くの不可解な点が…。事件解決に立ち上がった推理作家・有栖川有栖と犯罪社会学者・火村英生が辿り着いた意外な真実とは?!都市を舞台に、そこに生きる様々な人間たちの思惑を巧みな筆致と見事な理論で解き明かした、有栖川ミステリの真髄。


火村&アリスシリーズ二作目だそうである。すでにコンビの持ち味がいかんなく発揮されていて素晴らしい。物語自体も、設定と言い登場人物の相関図と言い、かなり特殊なのにもかかわらず、無理なく仕立てられていて惹きこまれる。永遠のコンビだと確信するシリーズである。

幸福トラベラー*山本幸久

  • 2013/06/10(月) 19:33:09

幸福トラベラー (一般書)幸福トラベラー (一般書)
(2013/02/13)
山本 幸久

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新聞部部長、だけどダメでさえない“ぼく”が、上野で出会った、謎めいた少女。修学旅行で東京に来たという彼女には、何か隠している目的があるようで…。突然はじまった秘密の旅は幸せな未来にむかうのか!?携帯番号も知らない、住んでいる場所も知らない。お互いの名前しか知らないふたりがたどる、奇跡の物語。東京の下町・上野を舞台に、ダメな中2男子が頑張る、リトルラブストーリー。


やっぱり山本さんはいいなぁ。きゅんとして、ほっとして、じんとして、前向きになって、ちょっぴり奇跡を信じてもいいかな、と思わせてくれる物語である。アヒルバスのデコさんが出てきたり、カキツバタ文具が野球大会をしていたり、物語の本筋ではないところでもにやり、とさせてくれる。小美濃くんも行方さんも、未来にたくさんの幸福を持っていると読者にも思わせてくれる幸福な一冊である。

愛の夢とか*川上未映子

  • 2013/06/09(日) 16:41:56

愛の夢とか愛の夢とか
(2013/03/29)
川上 未映子

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あのとき、ふたりが世界のすべてになった。なにげない日常がゆらいで光を放つ瞬間をとらえた、心ゆさぶる7ストーリーズ。


表題作のほか、「アイスクリーム熱」 「いちご畑が永遠につづいてゆくのだから」 「日曜日はどこへ」 「三月の毛糸」 「お花畑自身」 「十三月怪談」

決してわかりやすい物語ではないのだが、前の読書がわかりにく過ぎたので、どことなく同じ匂いを感じないではないが、何となくほっとした気分で読めた。少なくとも同じ地平に立っていると思える物語たちである。誰かにとって大切なもの、自分にとっての譲れないもの、そしてそれらとのかかわり方、すれ違い方。そんなことごとが、さまざまな場面で描かれているように思う。同じ地平に立っているとは言え、ほんの5ミリくらい浮いた場所から眺めるような一冊である。

コップとコッペパンとペン*福永信

  • 2013/06/08(土) 17:05:31

コップとコッペパンとペンコップとコッペパンとペン
(2007/04)
福永 信

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1行先も予測できない! 母から娘へ、娘から息子へ…。赤い糸がつなぐ現代家族の非人情物語を描いた表題作を含む、短篇3本に書き下ろしを加えた小説集。


一行先も予測できない、という帯文は当たっている。だが、その予測できなさにも、裏切られ方にも、展開の唐突さにも、わたしは着いて行けなかった。読んでいる間中気持ちの休まる間がなく、ささくれ立った壁に手を這わせて歩いているような、逃げ出したい感じに囚われるようだった。好きな人は好きなのかもしれないな、という一冊である。

三姉妹とその友達*福永信

  • 2013/06/07(金) 17:05:54

三姉妹とその友達三姉妹とその友達
(2013/02/22)
福永 信

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高度なコミュニケーション社会の発達の行く末に失望し、失われた人間性を取り戻すため、立ちあがった四兄弟。大舞台の幕が今、上がる…夢想家の長男、実務肌の次男、兄に忠実な三男、ミステリアスな四男―彼らが語るのは、脱力と失笑を誘う、ただの世迷い言か?それとも、人と人とが本当につながる夢のような世界なのか?戯曲を模した小説、その小説のノベライズという、まさかの手法で生み出した、二つのトゥルーストーリー。隠れた名作「この世の、ほとんどすべてのことを」も友情収録。


この世の不条理とか理想の世界とか、著者には思惑があるのかもしれないが、わたしにはよく解らなかった。好き嫌いが分かれる趣向の作品かもしれない。他人によってさまざまに読み解くことができる、とも言えるかもしれないが、わたしはもっとストレートな物語の方が好みである。著者はきっと頭がいいのだろうな、と思わされる一冊である。

花のあと*藤沢周平

  • 2013/06/06(木) 19:38:27

花のあと (文春文庫)花のあと (文春文庫)
(1989/03)
藤沢 周平

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娘ざかりを剣の道に生きたある武家の娘。色白で細面、けして醜女ではないのだが父に似て口がいささか大きすぎる。そんな以登女にもほのかに想いをよせる男がいた。部屋住みながら道場随一の遣い手江口孫四郎である。老女の昔語りとして端正にえがかれる異色の表題武家物語のほか、この作家円熟期の秀作7篇。


表題作のほか、「鬼ごっこ」 「雪間草」 「寒い灯」 「疑惑」 「旅の誘い」 「冬の日」 「悪癖」

実は著者作品初読みである。移動の車中で読むために文庫を借りてみたのである。なんとなく手が出ずにこれまできて、作品数の多さになおさら手をつけられずにいたので、ちょうどよい機会だった。
町人が主人公のものあり、武家が主人公のものあり、それぞれだが、どちらにしても人情の機微と、背景の描写が濃やかで魅力的である。ことに女性の心の動きの細やかさがリアルで驚かされる。時代物でありながら、現代にも通ずるところがたくさんある一冊である。

楽天屋*岡崎祥久

  • 2013/06/02(日) 06:03:02

楽天屋楽天屋
(2000/07)
岡崎 祥久

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漂泊の魂が声を放つのだ―ここではないどこかへ!と。30過ぎ、臍の緒つき。無為徒食のクズ男といかれた女たちのさすらい。独自のユーモアと繊細なセンスで時代の空気を映すあたらしい文学。


表題作のほか、「なゆた」 「孤独のみちかけ」

内容紹介の通り、さすらい漂っているような人々ばかりが出てくる物語である。誰もが何かを求め、求めながらゆらゆらと揺らぎ、見つけ出せないままなおも求め続けているような一冊である。