掏摸*中村文則

  • 2013/07/30(火) 16:41:05

掏摸(スリ)掏摸(スリ)
(2009/10/10)
中村 文則

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東京を仕事場にする天才スリ師。
ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎かつて一度だけ、仕事をともにした闇社会に生きる男。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前が死ぬ。逃げれば、あの子供が死ぬ……」
運命とはなにか。他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の想い、その切なる祈りとは。
芥川賞作家がジャンルの壁を越えて描き切った、著者最高傑作にして称賛の声続出の話題作!


主人公は天才掏摸師。お金持ちしか狙わない。そう聞くと、鼠小僧的義賊を思い浮かべるが、そういうわけでもない。どうも中毒のように、躰が掏り取る行為を欲しているようにも見えるのだが、その辺りは掘り下げられていないのでいまひとつよく判らない。根っからの悪人には思えないのだが、ここにたどり着くまでの経緯が描きこまれていないので、これもまたよく判らないのが少々物足りない気もする。知りたい欲求をもう少し満たしてくれたらもっとよかったのに、と思わされる一冊である。

Cの福音*楡周平

  • 2013/07/29(月) 16:41:26

Cの福音 (宝島社文庫)Cの福音 (宝島社文庫)
(1998/07)
楡 周平

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航空機事故で両親を失い、異郷アメリカで天涯孤独となった朝倉恭介は、おのれの全知力と肉体を賭けて「悪」の世界に生きることを決心する。NYマフィアのボスの後ろ盾を得て恭介が作り上げたのは、日本の関税法の盲点をつき、コンピュータ・ネットワークを駆使したコカイン密輸の完璧なシステムだった。驚くべき完全犯罪…しかし…。国際派ハードボイルド作家楡周平の記念碑的デビュー作品。


何不自由ない家庭に生まれ、優秀な頭脳を持ち、まっすぐに生きていくはずだった朝倉恭介だが、航空機事故で両親を一度に失い、その人生は悪の道へと一直線に進むことになるのだった。優秀な頭脳を駆使して法の盲点をかいくぐり、コカインの密輸に手を染める恭介は、悪以外の何物でもないのだが、なぜか憎む気持ちにはなれず、彼の側に立って成り行きを見守ってしまうのである。悪以外の何かが彼の中に眠っていると期待するからだろうか。ハードな一冊である。

バージンパンケーキ国分寺*雪舟えま

  • 2013/07/28(日) 17:03:12

バージンパンケーキ国分寺バージンパンケーキ国分寺
(2013/05/10)
雪舟 えま

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女子高生のみほは、おさななじみの男子・明日太郎が、親友の久美と付き合い始めたことに、経験したことのない想いを抱く。そんなとき、町で不思議なパンケーキ屋さんに出逢う。店主のまぶさんが魔法のように作り出すパンケーキを食べ、みほはある決意をかため…。女子高生、白髪あたまの雲の写真家、旅行中の外国人女性ふたり組、訪れたすべての人が幸せに。ここは三百種類ものパンケーキと、温かな笑顔が集う場所。「バージンパンケーキ国分寺」へようこそ。


パンケーキと聞くだけでしあわせな気分になるのはなぜだろう。それだけでもう否応なく吸い寄せられてしまう。そしてそのまま物語の世界に浸りこんでしまうのだった。それぞれに由来のある独特のパンケーキは、店主のまぶさんによって、来店した人に寄り添うように作りだされていく。みほと久美と明日太郎のあれこれや、常連客の来し方のこと、そして店主のまぶさんの歩んできた道。なんでもないようにバージンパンケーキ国分寺に集まっている人たちにも、それぞれが主役になる物語があるのだと改めて気づかされる。夢のような希望のようなちょっぴり切なくしあわせな一冊である。

いつも彼らはどこかに*小川洋子

  • 2013/07/27(土) 16:45:30

いつも彼らはどこかにいつも彼らはどこかに
(2013/05/31)
小川 洋子

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この世界が素晴らしいのは動物たちがいるから――震えるような感動を呼び起こす連作小説。たてがみはたっぷりとして瑞々しく、温かい――ディープインパクトの凱旋門賞への旅に帯同することになる一頭の馬、森の彼方此方に不思議な気配を残すビーバー、村のシンボルの兎、美しいティアーズラインを持つチーター、万華鏡のように発色する蝸牛……。人の孤独を包み込むかのような気高い動物たちの美しさ、優しさを、新鮮な物語に描く小説集。


「帯同馬」 「ビーバーの小枝」 「ハモニカ兎」 「目隠しされた小鷺」 「愛犬ベネディクト」 「チーター準備中」 「断食蝸牛」 「竜の子幼稚園」

動物でつなぐ連作短編集。どんなふうにどんな動物が登場するのか、ちょっぴりどきどきする。なにせ、著者の世界に棲む動物たちなのだから。生身の動物とは限らず、動物が主体であるわけでもないのだが、それは見事に、まさに「いつも彼らはどこかに」圧倒的な存在感を持っているのである。懐かしいような、切ないような、愛しいような、哀しいような、近しいような、理解しがたいような、不思議な感覚とともにある一冊である。

リボン*小川糸

  • 2013/07/26(金) 21:35:33

リボン (一般書)リボン (一般書)
(2013/04/11)
小川糸

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宝物は、一緒に過ごした時間のすべて。

ある日、なかよしのおばあさんと少女が小さな鳥の卵を見つけ、ふたりで大切にあたためはじめる。
少女のてのひらの上で生まれたのは、一羽のオカメインコ。
黄色い小鳥は、羽ばたきとともに人々をやさしく結びつけていくのだった。
懸命に生きる人々の再生を描く物語。

この作品から生まれた小さな物語『つばさのおくりもの』も同時刊行。


リボンはバナナになり、スエヒロになり、スー坊になり、そしてまたリボンになる。人の手で慈しまれて生まれ出た一羽の黄色いオカメインコは、呼び名は違っても、そのときどきにそれぞれの場所で出会った人々をほんのりしあわせにして、また旅立つのである。人が胸の中に大切にしまってある宝物が形を持って現れたような心温まる一冊である。

工場*小山田浩子

  • 2013/07/25(木) 06:57:25

工場工場
(2013/03/29)
小山田 浩子

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何を作っているのかわからない、巨大な工場。敷地には謎の動物たちが棲んでいる――。不可思議な工場での日々を三人の従業員の視点から語る新潮新人賞受賞作のほか、熱帯魚飼育に没頭する大金持ちの息子とその若い妻を描く「ディスカス忌」、心身の失調の末に様々な虫を幻視する女性会社員の物語「いこぼれのむし」を収録。働くこと、生きることの不安と不条理を、とてつもなく奇妙で自由な想像力で乗り越える三つの物語。


まるでひとつの町のような巨大な工場が舞台である。タイトルは「工場」だが、スポットライトが当たっているのは「人」である。特に三人の、エリートにはなり得ず、どちらかといえば落ちこぼれ的存在であり、だが、それなりの矜持は持ち合わせている三人。何かを成し遂げることもなく、カタルシスを得ることもない。それでもそれぞれなりに真面目に仕事に取り組む毎日なのではある。小川洋子さんの世界観に似ているかな、と思うところも所々にあったが、あれほど別世界へ連れ去られる感覚はなく、どこまで行ってもそれは工場の敷地内であるところに、得も言われぬ閉塞感を覚えるのである。体力がないときに読むと引きずりおろされそうな気もする一冊である。

0番目の事件簿

  • 2013/07/23(火) 16:50:37

0番目の事件簿0番目の事件簿
(2012/11/29)
メフィスト編集部

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人気作家のアマチュア時代作品を無修正で大公開!作家志望者、ミステリファン必読の“前代未聞”本



有栖川有栖「蒼ざめた星」
……同志社大学推理小説研究会時代に執筆した江神シリーズ作品

法月綸太郎「殺人パントマイム」
……京都大学推理小説研究会時代に執筆した犯人当て

霧舎巧「都筑道夫を読んだ男」
……駒澤大学推理小説同好会会誌に収録された作品

我孫子武丸「フィギュア・フォー」
……京都大学推理小説研究会時代に執筆した犯人当て

霞流一「ゴルゴダの密室」
……ワセダミステリクラブ時代に執筆したデイリースポーツ懸賞付き犯人当て

高田崇史「バカスヴィル家の犬」
……中学時代に執筆した作品

西澤保彦「虫とり」
……SF同人誌に収録された作品

初野晴「14」
…… 第38回オール讀物推理小説新人賞に応募した初投稿作品

村崎友「富望荘で人が死ぬのだ」
……大学時代のミステリークラブ機関紙に収録された作品

汀こるもの「Judgment」
……追手門学院大学文芸部の卒業記念誌に収録された作品

綾辻行人「遠すぎる風景」
……京都大学推理小説研究会時代に執筆した『人形館の殺人』原型作品

なんと貴重な一冊だろうか。初々しいものあり、ちょっぴり未熟なものあり、すでに現在を想わせるものあり、無防備なものあり、さまざまで愉しめる。若き日の著者の方々が、意気揚々と愉しんで書いていらっしゃる姿が目に浮かぶような一冊である。

正義をふりかざす君へ*新保裕一

  • 2013/07/19(金) 17:03:58

正義をふりかざす君へ正義をふりかざす君へ
(2013/06/11)
真保裕一

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地元紙の記者だった不破勝彦は、神永美里と結婚し、義父の仕事を助けるべくホテル業へ転身する。が、やがてホテルは不祥事を起こし義父は失脚、妻との不和も重なり、彼は故郷から逃げ出した。七年後―彼は帰りたくない故郷へと戻る。元妻の不倫相手を救うために。問題を起こしたホテルを、正義の名のもとに攻撃した新聞社。そのトップに就任したのは、高校の先輩である大瀧丈一郎だった。ホテルは彼の傘下に吸収され、不破を恨む者たちが次々と現れる。そして、ついに魔の手が彼を襲う―!「正義」の意味を問い直す、渾身の長篇ミステリー!!


地方都市の市長選に絡み、利権にしがみつく者、正義をふりかざす者、利用される者、だまされる者、無邪気に信じる者など、人々の在りようがクローズアップされる。正義の名の下であれば何をしても許されるのか。そしてそれは罪に問われることはないのか。誰を信じていいのかさえ分からない中、勝彦は結局何のために思い出したくない過去と向き合わなければならなかったのか。真実が明るみに出たときの驚愕と脱力感は言いようがないものだった。正義とはなにか、信義とは、真実とは何かを考えさせられる一冊である。

夢幻花*東野圭吾

  • 2013/07/17(水) 17:06:34

夢幻花(むげんばな)夢幻花(むげんばな)
(2013/04/18)
東野 圭吾

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黄色いアサガオだけは追いかけるな―。この世に存在しないはずの花をめぐり、驚愕の真相が明らかになる長編ミステリ。


プロローグがいきなり通り魔殺人事件。だが、本編に入るとまるで別の物語のようで、あの事件がこの先どうつながってくるのだろう、と嫌でも興味をかきたてられる。本編では、秋山家のことが語られる。梨乃の従兄・尚人が自殺し、梨乃の祖父・秋山周治が殺される。そのことを調べる内に、まるで無関係に見えていた点と点がつながり、事件は急展開を見せるのである。次々と点がつながり始め、一枚の絵になっていくにつれて、背筋がぞくぞくする思いに駆られる。ここもこんな風に繋がってくるのか、という感じである。気高くも哀しいほど責任感の強い一族ゆえの物語でもあるかもしれない。惹きこまれる一冊だった。

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本日は、お日柄もよく*原田マハ

  • 2013/07/15(月) 16:51:40

本日は、お日柄もよく本日は、お日柄もよく
(2010/08/26)
原田 マハ

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二ノ宮こと葉は、製菓会社の総務部に勤める普通のOL。他人の結婚式に出るたびに、「人並みな幸せが、この先自分に訪れることがあるのだろうか」と、気が滅入る27歳だ。けれど、今日は気が滅入るどころの話じゃない。なんと、密かに片思いしていた幼なじみ・今川厚志の結婚披露宴だった。ところが、そこですばらしいスピーチに出会い、思わず感動、涙する。伝説のスピーチライター・久遠久美の祝辞だった。衝撃を受けたこと葉は、久美に弟子入りすることになるが…。


感動的なスピーチや演説を聴いて、スピーチライターに想いを馳せる人が果たしてどれほどいるだろうか。結婚式や、会社の創立記念式典、はたまた選挙戦といった表舞台の事情を描きつつ、そんな縁の下の力持ち的な仕事師にスポットライトを当てた物語である。スピーチの組み立て方や言葉の選び方はもちろん、そこに至る心のありようがあたたかくしみじみと胸を打つ。いままさに参院選の選挙運動真っ只中。選挙カーや辻立ちでの語りをいままでとは違った目で耳で捉えられそうな一冊である。

空ちゃんの幸せな食卓*大沼紀子

  • 2013/07/15(月) 10:53:48

空ちゃんの幸せな食卓 (ポプラ文庫 日本文学)空ちゃんの幸せな食卓 (ポプラ文庫 日本文学)
(2013/04/03)
大沼紀子

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血の繋がりのない義母と、奇妙な共同生活をはじめた私と姉は、同じ食卓を囲むうちに、少しずつ新しい関係を築いていく…。(「空ちゃんの幸せな食卓」より)。デビュー作「ゆくとしくるとし」(坊っちゃん文学賞大賞受賞)を収録。


表題作のほか、「ゆくとしくるとし」 「僕らのパレード」

表題作以外は既読である。
実の父が飛んで行ったきりなのに、一緒に暮らすことになってしまった姉妹と血の繋がらない義母との物語である。姉妹――特に姉――は義母を受け入れられず、義母は義母で母になろうとは端から思っていない。だがそれでも一緒に食卓を囲むうちに、通じ合い繋がり合い大切に思い合うことはできるようになるのだ。ほろ苦く切ないけれどあたたかな一冊である。

ミサキア記のタダシガ記*三崎亜記

  • 2013/07/14(日) 08:59:23

ミサキア記のタダシガ記 (単行本)ミサキア記のタダシガ記 (単行本)
(2013/06/28)
三崎 亜記

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「ダ・ヴィンチ」「本の旅人」で四年にわたり連載された人気エッセイが一冊に!Twitterの「ツブヤ記」、特別書き下ろし企画「ケンブツ記」も収録!当たり前と思っていた常識がゆらゆら揺らいでいく?可笑しくて、ちょっとストレンジなエッセイ集!


何度も書いているように、小説家のエッセイはどちらかというとあまり好きではないのだが、本書には著者のエッセンスが詰まっていて面白い。物事をとらえる視点や、著者流解決策は、やはりあの三崎亜記だ!と思わされる。愉しい読書タイムを過ごせる一冊。

家族写真*荻原浩

  • 2013/07/12(金) 13:27:12

家族写真家族写真
(2013/05/30)
荻原 浩

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娘の結婚、加齢に肥満、マイホーム購入、父親の脳梗塞……家族に訪れる悲喜こもごもを、ときに痛快に、ときに切なく描き、笑ったあとにじんわり心に沁みてくる、これぞ荻原浩!の珠玉の家族小説。勝手でわがまま、見栄っ張り、失礼なことを平気で言って、うっとうしいけどいないと困る、愛すべき家族の物語。


表題作のほか、「結婚しようよ」 「磯野波平を探して」 「肉村さん一家176kg」 「住宅見学会」 「プラスチック・ファミリー」 「しりとりの、り」

どの物語の主人公家族も平凡などこにでもいそうな一家である。取り立てて悪いことをするわけでもなく、日々を普通に平凡に暮らしている。だがそんな平凡な家族にも波風は立つのである。外から見れば小さな小さな波風だとしても、本人たちには一大事だったりもするのである。そんな、愉しく仲睦まじいだけではない数組の家族を、時にピリッとスパイスを利かせ、時に苦いものを噛みつぶしてしまったような厭な気分にさせたりもしながら、結局はこの家族あっての自分なのだと思わせてくれるようなしみじみと面白い一冊である。

なごり歌*朱川湊人

  • 2013/07/10(水) 20:54:10

なごり歌なごり歌
(2013/06/28)
朱川 湊人

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きっと、また会える。あの頃、団地は、未来と過去を繋ぐ道だったから。三億円事件の時効が迫り、「8時だョ!全員集合」に笑い転げていたあの頃。ひとつの町のような巨大な団地は、未来への希望と帰らない過去の繋ぎ目だった。失われた誰かを強く思う時、そこでは見えないものがよみがえる。ノスタルジックで少し怖い、悲しくて不思議な七つの物語。ベストセラー『かたみ歌』に続く感涙ホラー。


「遠くの友だち」 「秋に来た男」 「バタークリームと三億円」 「レイラの研究」 「ゆうらり飛行機」 「今は寂しい道」 「そら色のマリア」

埼玉との県境に近いマンモス団地に暮らす人々をめぐる連作物語。希望にあふれた未来都市のように思われた団地に暮らす人々も、それぞれの事情を抱えていた。そして、その事情が少しずつ重なり、あちらとこちらとがつながって、初めて見えてくるものもあるのだった。懐かしいような、切ないような、心もとないような心地にさせられる一冊である。

土蛍【猿若町捕物帳】*近藤史恵

  • 2013/07/09(火) 16:52:20

土蛍 猿若町捕物帳土蛍 猿若町捕物帳
(2013/06/19)
近藤 史恵

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業の深い男たち。見捨てることも、許すこともできぬ女たち。

長屋の差配人の殺し。芝居小屋で見つかった変死体。そして、青柳屋の遊女・梅が枝も巻きこまれた吉原の火事……。
背後にある男女の相剋を、同心・玉島千蔭はどう解きほぐすのか?
好評シリーズ最新作!


表題作のほか、「むじな菊」 「だんまり」 「はずれくじ」

玉島千蔭のシリーズである。千蔭をはじめとして、父の後添いのお駒、小者の八十吉、役者の巴之丞、遊女の梅が枝など、みな一様に情が厚い。そしてどこか頑固であるので、時に伝わるものも伝わらなかったりするのが歯がゆくもある。だが、そのおかげで、救われる者がいたりもするので興味深い。人と人というものは、むずかしくも面白いものだと思わされる一冊である。

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つくもがみ、遊ぼうよ*畠中恵

  • 2013/07/07(日) 17:00:42

つくもがみ、遊ぼうよつくもがみ、遊ぼうよ
(2013/03/27)
畠中 恵

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江戸は深川。僅かな賃料と引き替えに、何でも貸し出す損料屋の「出雲屋」には、つくもがみという妖怪と化した古道具たちがたくさん!威張りんぼうで、そのくせ友情にあつく、噂話にお茶や焼き芋、いたずらが大好き―主夫婦・お紅と清次のひとり息子十夜と幼なじみの子供らは、つくもがみたちと様々な大騒動を繰り広げ、健やかに成長していく―。


表題作のほか、「つくもがみ、探します」 「つくもがみ、叶えます」 「つくもがみ、家出します」 「つくもがみ、がんばるぞ」

『つくもがみ貸します』の続編だが、人間とはしゃべらぬという掟を破って、今作では子どもたちと話もすれば遊びもし、はたまた一緒に事件を解決までしてしまう。つくもがみはやはりこの方が親しめて愉しい。子どもたちが大きくなってきて、分別ができ、つくもがみを無闇に扱わなくなったことも大きいのだろう。十夜、市蔵、こゆりの三人組とつくもがみたちの今後も愉しみな一冊である。

幻坂*有栖川有栖

  • 2013/07/05(金) 18:20:12

幻坂 (幽BOOKS)幻坂 (幽BOOKS)
(2013/04/12)
有栖川有栖

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幼い頃、清水坂でよく遊んだ幼いヒナちゃん。不慮の事故で亡くなったヒナちゃんを偲んで、清水坂を通る人に語りかける。坂の傍らにはあのころと同じ、山茶花が咲いています。ーー「清水坂」
作家志望の美咲と愛染坂で会い、恋仲になるが、新作に苦悩する新進作家の私。いつしか二人の関係に亀裂が入り・・・。亡くなった美咲の四十九日に愛染坂で再び二人は会えるのか…切ない悲恋を描いた「愛染坂」。
七坂を舞台に歴史的因縁や文化的背景を織り交ぜながら、大阪の人々をリアルに叙情的に描いた傑作9編。
傑作と話題沸騰の、大阪で頓死したといわれる芭蕉の最期を怪談に昇華した「枯野」。怪談雑誌『幽』に連載された8篇に加え、難波の夕陽に心奪われた平安時代の歌人・藤原家隆の終焉の地となった「夕陽庵」を悠久の歴史とともに描いた書き下ろし傑作。


「清水坂」 「愛染坂」 「源聖寺坂」 「口縄坂」 「真言坂」 「天神坂」 「逢坂」 「枯野」 「夕陽庵」

大阪の天王寺七坂が舞台の少しばかり妖しい物語集である。大阪に抱いているイメージとは全くと言っていいほど違う坂の趣と、そこに流れる不思議な時間と心の動きに、惹きこまれる。坂というのは、違う時間や空間をつなぐものなのではないかと、つい思ってしまいそうになる一冊である。

暁のひかり*藤沢周平

  • 2013/07/04(木) 12:57:36

暁のひかり (文春文庫)暁のひかり (文春文庫)
(2007/02)
藤沢 周平

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壷振りの市蔵は、賭場の帰り、大川端で竹を杖に歩く稽古をする足の悪い少女に出会う。ひたむきな姿に、ふとかたぎの暮らしをとりもどしたいと思う市蔵だが、所詮、叶わぬ願いだった―。江戸の市井を舞台に、小さな願いに夢を見ながら、現実に破れていく男女の哀切な姿を描く初期の傑作短篇6篇を収録。


表題作のほか、「馬五郎焼身」 「おふく」 「穴熊」 「しぶとい連中」 「冬の潮」

どの物語も、はみ出し者たちが主人公だが、彼らの悪に染まり切ってはいない、やるせなく哀しい心情がさらりと描かれていて、ほだされる。そんな彼らの前に現れる女たちもまた、それぞれの立場なりの屈託を抱えて日々を暮している。全編を通して静かな情が流れているような一冊である。

ふたつめの庭*大崎梢

  • 2013/07/03(水) 16:48:09

ふたつめの庭ふたつめの庭
(2013/05/22)
大崎 梢

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そこは、かけがえのない場所。だから、あきらめない。裏鎌倉の保育園を舞台に新鋭が描く、家族と恋の物語。保育士になって五年の美南とシングルファーザー一年と二ヶ月目の志賀隆平。隆平は定時退社しやすい部署に異動し、子育てに奮闘するものの、保育園は予測不能のことばかり。園内の事件や行事を通して、美南と隆平は気づき、育んでゆく、本当に大切にしたいものを。湘南モノレールの走る街で紡がれる、愛しい時間を描く傑作長篇。


第一話 絵本の時間  第二話 あの日の場所へ  第三話 海辺のひよこ  第四話 日曜日の童話  第五話 青い星の夜  第六話 発熱の午後  最終話 青空に広がる

舞台は保育園、登場人物は園児とその保護者と保育士。それでもちゃんとミステリであり、ロマンスであり、もちろんお仕事物語でもあるという贅沢な一冊である。そしてやはり著者らしく本屋さんのシーンもちゃんとあり、絵本もちゃんと絡んでいる。心地好くて、ずっと読み続けていたくなる一冊でもある。

快挙*白石一文

  • 2013/07/02(火) 17:04:32

快挙快挙
(2013/04/26)
白石 一文

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変質しない夫婦関係などない。罪と罰を抱き共に生きる。それこそが、結婚――。あの日、月島の路地裏であなたを見つけた。これこそが私の人生の快挙。しかし、それほどの相手と結婚したのに五年が過ぎると、夫婦関係はすっかり変質してしまった。共に生きるためには、不実さえも許す。それこそが夫婦。そう思っていたが、すべては私の驕りにすぎなかった……。結婚の有り様をあなたに問う傑作夫婦小説。


男と女がある日出会って夫婦となり、愛ばかりではなくさまざまな波風に翻弄され、壁に突き当たり、乗り越えたり回り込んだりしながら共に暮らす日々を、淡々と描いた物語である。マニュアルなどどこにもなく、一筋縄ではいかない夫婦生活だが、これぞ快挙、と思える一瞬が確かにあったこと、そのことを忘れずにいられること、それが共に生きる味わいとでもいうものだろう、と思わせてくれる。しみじみと味わい深い一冊である。

あなたの猫、お預かりします*青井上鷹

  • 2013/07/01(月) 16:49:49

あなたの猫、お預かりします (実業之日本社文庫)あなたの猫、お預かりします (実業之日本社文庫)
(2013/06/05)
蒼井 上鷹

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家賃未払いでアパートを追い出されそうになっている大伴。友人の安部と結託し、自分の飼い猫を利用して一儲けしようと企んだのだが、その驚きの手口と仰天の結末は…表題作ほか、喫茶店“フラット&シャープ”に集うペット好きの人々が遭遇した奇妙な事件の数々。ペットも読者もハマる、仕掛け満載のユーモア・ミステリー、いきなり文庫で登場!!


表題作のほか、「ホトドッグが好きな犬」 「メダカたちは見ていた」 「鳥の気も知らないで」 「うちの猫を責めないで」 「いつも犬がそばにいた」 「帰ってきたペットたち」

生き物つながりでもあり、喫茶店の常連客つながりでもある連作ミステリ短編集である。主役(?)が物言えぬ生き物というのがまず面白い。そしてそこに生き物好きの人々が複雑に、しかも勝手に絡んでくるものだから、話がますますややこしくなったりして笑ってしまう。登場人物たちがみんな生き物嫌いだったら、絶対に成立しない一冊である。