代々木Love&Hateパーク*壁井ユカコ

  • 2013/08/30(金) 16:55:04

代々木Love&Hateパーク代々木Love&Hateパーク
(2012/07/18)
壁井 ユカコ

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代々木公園には、ある都市伝説がある。3月の最終日曜日に公園に行くと、仲間の中に“チェッコさん”が紛れこみ、代わりに誰かひとりいなくなる。そして、きょうがその当日。ロカビリーグループや、高校の演劇部、売れない役者、ネットアイドルオタク、解散寸前のお笑いコンビ、イケメン俳優など、さまざまな人間がやって来た。都会の真ん中で愛と憎しみを繰り広げる彼らの中から、最後に“チェッコさん”に選ばれるのは誰か?切ないラストが胸を打つ、きらめく青春群像劇。


初めのうちは、やたら簡単に誰かが誰かを殺して置き去りにしたりするので、「この本、別に読まなくてもよかったかなぁ…」という感じで、途中で止めようかと思いもしたのだが、そう思い始めているとなにやら深みのある展開になってきたりして、結局読み通すことになった。三月最後の日曜日に偶然代々木公園に集まった人々の身勝手さばかりが鼻について、苛々させられたが、ラストで気分的にはすべてが救われた(それでいいのかどうかはさて置き)。代々木公園を出た後、犯した罪はきちんと償ってほしいと願う一冊である。

UNTITLED*飛鳥井千砂

  • 2013/08/28(水) 18:24:50

UNTITLED (一般書)UNTITLED (一般書)
(2013/08/06)
飛鳥井千砂

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31歳の桃子は実家暮らしで未婚。自分の中で培ってきた“ルール”を厳格に守り、家族や勤めている会社の人間にも一切スキを見せることなく暮らしている。ある日、桃子の携帯に弟の健太から2年ぶりに連絡が入る。子供の頃から迷惑をかけられっぱなしで、「一家の癌」だと思っている弟からの連絡は意外な内容だった…。ベストセラー『タイニー・タイニー・ハッピー』の著者が功妙に描きだす、ありふれた家族の真実のカタチ。


「あなたは誰?」と問われて、わたしは何と答えるだろう。名前や出身地や家族構成や学歴や職歴を並べるほかに、答えるべき何かを持っているだろうか。正しさとか、人間関係とか、価値観とか、存在意義とか、さまざまなことを考えさせられる一冊だった。

昨夜のカレー、明日のパン*木皿泉

  • 2013/08/27(火) 16:33:21

昨夜のカレー、明日のパン昨夜のカレー、明日のパン
(2013/04/19)
木皿 泉

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悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ―。七年前、二十五才という若さであっけなく亡くなってしまった一樹。結婚からたった二年で遺されてしまった嫁テツコと、一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフは、まわりの人々とともにゆるゆると彼の死を受け入れていく。なにげない日々の中にちりばめられた、「コトバ」の力がじんわり心にしみてくる人気脚本家がはじめて綴った連作長編小説。


人は大切な人を失ったときどうすればよいのだろうか。涙を流し続けることも、俯き続けることも、孤独な世界に籠り続けることもできるが、それはたぶん誰も望まないことだろう。明日も生きていかなければならない遺された者に、ほんとうの意味での命を吹き込むのは何だろうか。そんなことを考えさせてくれる一冊である。

たぶんねこ*畠中恵

  • 2013/08/26(月) 16:32:58

たぶんねこたぶんねこ
(2013/07/22)
畠中 恵

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病弱若だんなが兄やと交わした五つの約束とは? 累計580万部「しゃばけ」シリーズ最新作! えっ、若だんなが大店の跡取り息子たちと稼ぎの競い合いをすることになったってぇ!? 長崎屋には超不器用な女の子が花嫁修業に来るし、幼なじみの栄吉が奉公する安野屋は生意気な新入りの小僧のおかげで大騒ぎ。おまけに幽霊が猫に化けて……。てんやわんやの第十二弾の鍵を握るのは、荼枳尼天様と「神の庭」!


表題作のほか、「跡取り三人」 「こいさがし」 「くたびれ砂糖」 「みどりのたま」

きょうもきょうとて律儀に寝付いている若だんなの一太郎である。そして相も変わらず七面倒くさい厄介ごとに巻き込まれ、あちらへこちらへと走り回っている。そんな若だんなだが、今回は、厄介ごとの巻きこまれ方がいままでとはいささか違うような気がするのである。いままではいやおうなく巻き込まれてしまった感じが強かったが、今回は、人の行く末を思いやって自ら厄介ごとを引き受ける姿勢がみられるような気がするのである。ただ寝付いているだけではなく、ずいぶん大人になったものだと感慨深い。なにより驚いたのは、若だんなってお酒が飲めるんだ、ということである。兄やたちも止めないところを見ると、普通に飲めるようである。大人になったんだなぁ。それでも躰は強くならないものか、と思わされる一冊でもある。

体育館の殺人*青崎有吾

  • 2013/08/24(土) 18:23:43

体育館の殺人体育館の殺人
(2012/10/11)
青崎 有吾

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放課後の旧体育館で、放送部部長が何者かに刺殺された。外は激しい雨が降り、現場の舞台袖は密室状態だった!?現場近くにいた唯一の人物、女子卓球部の部長のみに犯行は可能だと、警察は言うのだが…。死体発見現場にいあわせた卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長のため、学内随一の天才・裏染天馬に真相の解明を頼んだ。なぜか校内で暮らしているという、アニメオタクの駄目人間に―。エラリー・クイーンを彷彿とさせる論理展開+抜群のリーダビリティで贈る、新たな本格ミステリの登場。若き俊英が描く、長編学園ミステリ。


神奈川県立風ヶ丘高校が舞台である。その旧体育館で放送部の部長が殺されているのが見つかり、物語は始まるのである。読みはじめは、なんとなく思わせぶりが大げさなところもあり、いささかこなれていない感がなくもなかったが、それも含めて著者の個性なのかもしれないと次第に思うようになった。事件よりなにより、探偵役が同校の成績いちばんの生徒であり、しかもあろうことか彼・裏染天馬は、百人一首研究会という名前だけの部活の部室にこっそり棲みついている超のつく自己中心的なアニメオタクであるという設定がとんでもなくて興味を惹かれる。探偵役をするのも、正義感とか義憤に駆られてとか友人のためになどという理由からかけ離れた、アニメグッズを買うための費用を稼ぐため、という至って自己満足的な動機によるもので、自らフェアプレイは好きではないと言い切るのである。それでいて一作目からすでに、警察にも頼りにされ、次回の依頼まで取り付けそうな勢いなのに苦笑してしまう。天馬探偵の傲慢な態度から目が離せなくなりそうなシリーズである。

謹訳 源氏物語一*林望

  • 2013/08/23(金) 17:04:16

謹訳 源氏物語 一謹訳 源氏物語 一
(2010/03/16)
林望

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■古典学者であり、作家である林望氏の畢生の大作、ついに刊行開始!

原作の『源氏物語』を正確に味わいながら、現代小説を読むようにすらすら読める。
「名訳」を超えた完全現代語訳が、ここに誕生。

■装訂は林望氏
装訂には、「コデックス装」という装本スタイルを採用。どのページもきれいに開いてとても読みやすく、平安から中世にかけて日本の貴族の写本に用いられた「綴葉装」という奥ゆかしい装訂を彷彿とさせる造り。

■各界絶賛!

「新しい読み方の出現」――黒井千次氏 「いやはや、とびきり面白い!」――檀ふみ氏

■全54帖の完全現代語訳、全十巻刊行予定
本シリーズは、すべて書き下ろし。
一巻は、桐壺 帚木 空蝉 夕顔 若紫を収録。


原文の趣を損なわずに現代語に置き換えて、現代小説を読むように読ませる、という趣旨である。たしかに読みやすくすらすら読める。でも、いっそのこともっと一足飛びに完全に現代風の口語で書かれていたらもっと面白かったかも、と思わないでもない。いまの日本の世の中では顰蹙ものの男女のやり取りの実態や、屈折したナルシストの光源氏が、どんな言葉で嘆いたり口説いたりするのか、ちょっと興味があると思うのはわたしだけだろうか。別のところにも興味が飛んで行く一冊である。

岳物語*椎名誠

  • 2013/08/21(水) 16:56:23

岳物語岳物語
(1985/05/14)
椎名 誠

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彼の名は岳(がく)。椎名誠の息子である。椎名誠よりもシーナ的といわれている。これは、ショーネン・岳がまだ父親を見棄てていない頃のウツクシイ父と子の友情物語である。著者初の私小説。


私小説と聞かなければ、フィクションの少年物語だと思ってしまうくらいである。岳少年の少年らしい無邪気さや一途な興味の向い方、父との関係、母との関係、現れ方は様々だが、きわめて健やかに描かれていて好ましい。気持ちの好い一冊である。

奇譚を売る店*芦辺拓

  • 2013/08/20(火) 16:42:43

奇譚を売る店奇譚を売る店
(2013/07/18)
芦辺 拓

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また買ってしまった―。店を出たとき、かならずつぶやく独り言。古本屋には、きっとある。まだ見ぬ、自分だけには価値のわかる本が。魅入られたように読みふけり、このくだらない現実に、二度と戻って来たくなくなるような本が。博覧強記の探偵小説家が想像力を暴走させて創り上げた、書くことと読むこと、そして本そのものの業に迫る、悪魔的傑作。


表題作のほか、「帝都脳病院入院案内」 「這い寄る影」 「こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻」 「青髯城殺人事件 映画化関係綴」 「時の劇場・前後編」

「また買ってしまった―。」というつぶやきで始まる連作である。古本好きの男が吸い寄せられるように古書店に入り、魅入られた一冊を手に入れて店を出、いつも行く喫茶店でその本を開き、物語の中の奇怪な事件に巻き込まれていく、というように見える物語たちである。と思っていると表題作でもある最後の一遍で様相はがらりと変わる。それぞれの物語も充分奇妙で信じがたくおぞましいものであるのだが、最後の最後にそれらを呑みこんでしまうようなさらに上を行く奇怪さに覆われてしまった心地である。背筋がぞっとする一冊である。

図書室のキリギリス*竹内真

  • 2013/08/18(日) 16:32:30

図書室のキリギリス図書室のキリギリス
(2013/06/19)
竹内 真

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バツイチになったのを機に、職探しをはじめた詩織。
友人の紹介で学校司書に採用されるが、彼女にはある特殊な能力があって……。
本に込められた思いと謎を読み解くブックミステリー。


資格も経験もないのに、県立高校の図書館で学校司書の仕事につくことになった詩織。故あって突然辞めた前任者の引継ぎ手引書を片手に奮闘するうちに、図書委員や図書館に出入りする生徒たちと一緒に、「居場所」を作っていくのだった。本にまつわるちょっとした謎ときも織り交ぜられており、生徒たちの本に対する愛情や、知らなかった本の魅力にも触れられて、愉しい一冊だった。詩織に残留思念を読み取る力があるという設定は、なくてもよかったのでは、と思わなくもなかったが。

春の駒 鷺澤家の四季*福田栄一

  • 2013/08/17(土) 20:01:36

春の駒 鷺澤家四季 (ミステリ・フロンティア)春の駒 鷺澤家四季 (ミステリ・フロンティア)
(2013/06/28)
福田 栄一

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ささやかな謎を通し、どこにでもいそうな一家の穏やかな日常を描く、鷺澤家のアルバム一冊め。これまでありそうでなかった、福田栄一はじめての〈日常の謎〉連作ミステリ。


「春の駒」 「五月の神隠し」 「ミートローフ・ア・ゴーゴー」 「供養を終えて」

鷺澤家の日常が、穏やかに健やかに綴られている物語である。三人の息子たちもみな表現の仕方の違いはあれ家族思いで、それぞれがそれぞれを尊重している、気持ちの好い一家である。そんな鷺澤家の穏やかな日常に、ほんの少しの謎が持ち込まれる。それを解決するのは、次男・葉太郎の高校の将棋部の顧問・城崎真琴。将棋を指しながら葉太郎の話を聞いて、たちまちのうちに真実にスポットを当ててしまうのである。あまりに淡々とあっさりと見抜いてしまうので、拍子抜けするほどである。だが、思い返してみると、なるほどと腑に落ちることばかりなのである。鷺澤家の日常をもっと見ていたいと思わされる一冊である。そして将棋部のこれからも。

バスを待って*石田千

  • 2013/08/16(金) 16:58:28

バスを待ってバスを待って
(2013/06/14)
石田 千

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町の景色と人情が心に沁みる石田千連作小説
<いちばんまえの席があいた。となりのおじいさんは、いそいで移動して椅子によじのぼった。男のひとは、いつまでもあの席が好きでおかしい。> 夫をなくしたばかりのお年寄り、自分の進路に迷う高校生、上司とそりが合わず落ち込むサラリーマン、合コンに馴染めないOL……、季節、場所、人は違えど、バスにゆられて「明日もがんばるか」と元気を回復する二十篇。
第一回古本小説大賞、2011年、12年芥川賞候補の石田千氏の最新小説。「お洒落なイタリアンより酒肴の旨い居酒屋が好き」「流行のファッションより古着やナチュラル系の服が好き」という女性を中心に人気を博している小説家・エッセイストの、人情に溢れ、ほろっときたり、ほほ笑んだりしながら読める物語。


乗り物が少し苦手なので、自分からバスを選んで乗ることは滅多にない。どこかへ行こうと思うと、最短経路を検索して電車や地下鉄を乗り継いで出かけている。だが、それほど急いでいかなければならない場所がどれほどあるだろうか、と考えると、首を捻らざるを得ない。この一冊を読んでいるうちに、もっとのんびり風景を愉しみながら移動するのもいいのではないかと思えてくる。さらに言えば、目的地を決めずに、来たバスにふらっと乗るのも愉しいかもしれないとさえ思えてくる。バスの座席では、人は自分に戻れるのかもしれないと思わされる一冊でもある。

増山超能力士事務所*誉田哲也

  • 2013/08/15(木) 08:54:57

増山超能力師事務所増山超能力師事務所
(2013/07/16)
誉田 哲也

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ちょっとおかしな新シリーズ始動!
いまや事業認定された超能力で、所長の増山ほか、能力も見た目も凸凹な5人の所員が、浮気調査や家出人探しなど依頼人の相談を解決!


また先が愉しみなシリーズの始まりである。こういうの、肩が凝らなくていい。まず設定からして超能力なので、読み始める前から適度に力が抜けて、物語に浸れるのもいい。基本はドタバタでコミカルなのだが、実は人間物語でもあり、お仕事物語でもあり、心温まるふれあい物語でもあったりするので、どんどん惹きこまれてしまう。探偵し事務所の面々もそれぞれ一長一短が判りやすくて、それぞれのこれからが愉しみである。すでに早く次を読みたいシリーズである。

グランドマンション*折原一

  • 2013/08/14(水) 12:43:59

グランドマンショングランドマンション
(2013/05/18)
折原 一

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著者ならではの奇想と騙りが炸裂する、傑作ミステリー連作集!
騒音問題、住居侵入、ストーカー……アクの強い住人たちが、これでもかとばかり次々に問題を引き起こす「グランドマンション一番館」を舞台に、希代の名手の技巧が冴え渡る!
ファン必読の傑作ミステリー連作集!!


「音の正体」 「304号室の女」 「善意の第三者」 「時の穴」 「懐かしい声」 「心の旅路」 「リセット」 そしてエピローグ

グランドマンションを舞台に繰り広げられるトラブルのあれこれの連作集である。揉め事も盛りだくさん、事件も盛りだくさん、ひと癖もふた癖もある住人も盛りだくさん、そして仕掛けも盛りだくさんである。揉め事や事件は、やれやれと思わされるものばかりで、しかも現実にもありそうなことばかりなので、他人事として笑ってばかりもいられないのだが、ミスリードや目くらましのトラップがあちこちに仕掛けられているので、気を抜けなくて愉しいことこの上ない。こんなマンションには住みたくない一冊である。

奇跡の紅茶専門店*荒川祐二

  • 2013/08/12(月) 16:41:36

奇跡の紅茶専門店奇跡の紅茶専門店
(2013/07/04)
荒川 祐二

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人の数だけ悩みがあって、悩みの数だけ「奇跡」が起こって…。実在の紅茶専門店「I TeA HOUSE」を舞台に繰り広げられる、男女7人の苦悩と再生の物語。
【「I TeA HOUSE」で奇跡に出会う登場人物たち】
美沙希:23歳。リストカット、男、クスリ……「死にたい」けど「死ねない」キャバ嬢。
航太:25歳。「俺、まだ本気出してないだけ」が口癖の極度のマザコンサラリーマン。
真須美:50歳。「あんな子に育てたつもりは…」と息子を嘆くワーキングマザー。
翼:14歳。真須美の息子で、「ダルい…。何もしたくない…」引きこもりの中学2年生。
武男:55歳。事業に失敗し、余命3カ月を宣告された元飲食店チェーン経営者。
彩花:21歳。100社受けても内定がもらえず、自信をなくしている就活中の大学生。
悟:32歳。3.11後に故郷の村を逃げ出したまま、無為の日々を送る無農薬米生産者。


物語中で、就職活動に悩む女の子が、出版社に入って自己啓発書と小説をかけ合わせたような本を作りたい、と言っているが、まさに本書がそれである。そしてわたしは個人的にこういうジャンルが苦手である。自己啓発書に啓発されるほどの素直さを失ってしまったとも言えるかもしれないが、ある種の胡散臭さを感じてしまう、というか、なんとなく鼻につくのである。素直に感動できる人からは顰蹙を買うこと必至だとは思うが。紅茶専門店という舞台設定は好きなのだけれどなぁ…、と申し訳なくもなるが、まぁ前向きになれる一冊、ということだろうと思う。

自分を好きになる方法*本谷有希子

  • 2013/08/11(日) 16:41:27

自分を好きになる方法自分を好きになる方法
(2013/07/26)
本谷 有希子

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16歳のランチタイム、28歳のプロポーズ前夜、34歳の結婚記念日、47歳のクリスマス、3歳のお昼寝時間、63歳の何も起こらない一日…ささやかな孤独と願いを抱いて生きる女性の一生を「6日間」で描く、新境地長篇小説!


タイトルを見ると自己啓発本のようでもあるが、ひとりの女性の生き様を描いたれっきとした小説である。主人公のリンデは、決定的に悪い人ではないのだが、どこか人をイラッとさせるところがあり、そのことにまったく無自覚というわけでもないのだが、自分をなんとか正当化して気持ちの落としどころを見つける、といった、ちょっぴり面倒くさい女性でもある。そんなリンデの16歳・28歳・34歳・47歳の一日を描き、いきなり3歳に戻ったところで、三つ子の魂百までということわざの真実を改めて思い、63歳の一日で、再確認させられる。それでも人は自分を好きでいたいのだ。腑に落ちたとともに寂しさも感じられる一冊である。

世界地図の下書き*朝井リョウ

  • 2013/08/11(日) 13:23:48

世界地図の下書き世界地図の下書き
(2013/07/05)
朝井 リョウ

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「青葉おひさまの家」で暮らす子どもたち。
夏祭り、運動会、クリスマス。そして迎える、大切な人との別れ。
さよならの日に向けて、4人の小学生が計画した「作戦」とは……?
著者渾身の最新長編小説。


舞台は児童養護施設「青葉おひさまの家」。年齢も境遇も違う五人がひとつの班として日々を過ごしている。施設での暮らし、親や親戚とのかかわり方、学校での位置、それらは家族と暮らす子どもたちからは計り知れないほどの心構えや心配り、そして忍耐と孤独にあふれている。だがそれだけではない絆が培われていることもまた確かなことなのだった。あまりに辛くてそこから逃げたとしても、次の場所にはいままでと同じ幅の道が続いているのだという言葉に胸を打たれる。誰かのために、という気持ちが力を生み出すのだということも強く伝わってくる。スタジオジブリの近藤勝也氏による挿画を読後に再度見直すと、あたたかな気持ちになる一冊である。

娘の結婚*小路幸也

  • 2013/08/09(金) 21:29:40

娘の結婚娘の結婚
(2013/07/25)
小路 幸也

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今年26歳になる実希に、結婚を考えている相手がいるらしい。17年前、妻の佳実が事故で亡くなって以来、孝彦が大切に育て上げた娘。その相手というのは、幼馴染みの古市真くんだった。実は、生前の妻は古市夫人と折り合いが悪かったようなのだ。孝彦は真くんに会う決心がつかず……。新たな門出を心から祝うために、父が最後にできること――。思わず涙があふれる、感動の家族小説。


ちょっぴりほろ苦いがほのぼの系の家族小説と思って読み始めたのだが、途中で、以前住んでいたマンションの住人である主婦の飛び降り自殺の新聞記事が古いアルバムから見つかり、これはミステリだったのか、どんどんきな臭い展開になっていくのか、とさらに興味津々で読み進んだのだった。やはり家族の物語だったのだが、人の性格に思いを致し、その人との関係性を見つめ直すという点では、純然たるほのぼの系ともいささか違っていて、それがなおさら気持ちを深くしているような気がする。娘を送り出す父の寂しさと喜びが大げさではなく描かれていて心に沁みる一冊である。

三階に止まる*石持浅海

  • 2013/08/09(金) 08:53:56

三階に止まる三階に止まる
(2013/07/20)
石持 浅海

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あなたの会社やマンションは大丈夫? 誰もボタンを押していないのに、必ず3階で止まるエレベーター。住民がそこに見たものは……? 奇妙な表題作はじめ、思わず背筋の凍るミステリー短編集。


表題作のほか、「宙(そら)の鳥籠」 「転校」 「壁の穴」 「院長室 EDS緊急推理解決院」 「ご自由にお使い下さい」 「心中少女」 「黒い方程式」

どれも――表題作だけはいささか趣が異なるが――著者らしく理路整然と読者を真実にたどり着かせてくれて興味深い。ひとつ次の段階に進むごとに、なるほどそうだったのか、とスッキリさせられる。やっぱり石持さんは面白いと思わされる一冊である。

玉響荘のユ~ウツ*福田栄一

  • 2013/08/08(木) 09:25:08

玉響荘のユーウツ (トクマ・ノベルズ Edge)玉響荘のユーウツ (トクマ・ノベルズ Edge)
(2005/10/21)
福田 栄一

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売上金を持ち逃げされたため、メイド喫茶を潰してしまった志郎は、「四日後の正午までに五百万円を返さないと、二十万円の不足につき、指一本を切り落とす」と債権回収屋に脅された。が、捨てる神あれば拾う神ありで、亡くなった祖母のアパートを突然相続することに。「アパートを手放して借金返済!」と、断トツ人気の元メイド・美保と小躍りしたのはいいけれど、売却するには住人全員が退室届にハンコを押さなければならないという…。一風変わった玉響荘の住人たちを相手取り、志郎が奔り回る。


設定は特別めずらしくもなく、展開も予想通りだが、少々の強引さと、次から次へとつながっていく点が、次第に一枚の絵になっていく過程が、適度なリズム感で好感が持てる。気軽に愉しめる一冊である。

ドミノ倒し*貫井徳郎

  • 2013/08/06(火) 16:43:18

ドミノ倒しドミノ倒し
(2013/06/21)
貫井 徳郎

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「元彼の殺人容疑を晴らして欲しい」探偵・十村の元に舞いこんだ美女からの依頼。しかし事件に触れると別の事件に行き当たり、さらなる別の事件を呼び起こす……。


貫井作品にしてはいささか物足りなかったかなぁ、というのが正直なところである。私立探偵・十村のキャラクターも、嫌いではないが、ハードボイルド探偵物語にありがちな設定だし。タイトルから想像して、ラストに向かってバタバタとドミノが倒れるようにスカッと真実が暴かれていくのかと思いきいや、そういうわけでもないようで。期待が大きかった分、ちょっと肩透かしを食らった気分である。愉しくないわけではないんだけれどなぁ、という一冊である。

こんなわたしで、ごめんなさい*平安寿子

  • 2013/08/05(月) 16:40:38

こんなわたしで、ごめんなさいこんなわたしで、ごめんなさい
(2013/07/11)
平 安寿子

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婚活を放棄したOL、対人恐怖症の美人、男性不信の<巨乳>女、フリフリ・ファッションおばさんetc.etc……。
欠点や弱点、悪い癖を自分から引きはがせずに、あがく女たちの悲喜こもごもを、クスクス、ほろりと描きだす。
「婚活の外へ」「どうか小さな幸せを」「イガイガにチョコがけするのも年の功」「自然の法則に従って」
「じれったい美女」「カワイイ・イズ・グレート! 」「こんなわたしで、ごめんなさい」の全7編を収録。
ユーモラスでシニカルな「平節」炸裂の傑作コメディ短編集!
「そんなあなたを許します」
と誰かが言ってくれるまで、先は長いぞ、頑張ろう。


命にかかわる悩みではないものの、悩める本人にとっては大問題。傍から見るとどうしてそんなことで…、と思えるようなことも、当事者には死活問題であったりもするのだ。至って真剣な本人を、読者という客観的な目で眺めるのが何とも言えず快感でもある。いざ自分の身に降りかかったら、主人公たちと同じように悩みもがくのだろうことを、お気楽に眺められるのも一興である。まさにクスクス、ほろりの一冊である。

泣き童子--三島屋変調百物語 三之続*宮部みゆき

  • 2013/08/04(日) 16:52:20

泣き童子 三島屋変調百物語参之続泣き童子 三島屋変調百物語参之続
(2013/06/28)
宮部 みゆき

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不思議で切ない「三島屋」シリーズ、待望の第三巻
江戸は神田。叔父の三島屋へ行儀見習いとして身を寄せるおちかは、叔父の提案で百物語を聞き集めるが。
人気時代小説、待望の第三巻。


変わり百物語の聞き役もすっかり板についてきたおちかである。聞いて聞き捨て、語って語り捨てが約束だが、おちかは重荷にならないのだろうか、といささか心配になるくらい、胸に重い語りが続く。聞き捨てとはいっても、聞いている間は、語り手の想いに寄り添い、その場に立ち会うような心持ちでいるのだから、身も心も疲れ果てるのではないかとつい案じてしまう。だが、語り終えた語り手は、一様に重荷を下ろしたように心を軽くして帰っていくのだ。それがおちかの糧になってもいるのかもしれない。おちかがいつの日か人並みのしあわせを手にすることができますように、と願わずにはいられないシリーズである。

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友罪*薬丸岳

  • 2013/08/02(金) 16:55:20

友罪友罪
(2013/05/02)
薬丸 岳

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―過去に重大犯罪を犯した人間が、会社の同僚だとわかったら?―
ミステリ界の若手旗手である薬丸岳が、児童連続殺傷事件に着想を得て、凶悪少年犯罪の「その後」を描いた傑作長編!
ジャーナリストを志して夢破れ、製作所に住み込みで働くことになった益田純一。同僚の鈴木秀人は無口で陰気、どことなく影があって職場で好かれていない。しかし、益田は鈴木と同期入社のよしみもあって、少しずつ打ち解け合っていく。事務員の藤沢美代子は、職場で起きたある事件についてかばってもらったことをきっかけに、鈴木に好意を抱いている。益田はある日、元恋人のアナウンサー・清美から「13年前におきた黒蛇神事件について、話を聞かせてほしい」と連絡を受ける。13年前の残虐な少年犯罪について調べを進めるうち、その事件の犯人である「青柳」が、実は同僚の鈴木なのではないか?と疑念を抱きはじめる・・・・・・


実際に起きた衝撃的な事件がモチーフになっているので、面白いと言ったら語弊があるかもしれないが、同僚が猟奇的殺人事件の犯人だと知ってしまった益田の心の動きや周囲の人たちの反応が真に迫っていて、読み応えがある。自分が彼の立場だったら――、とどうしても考えてしまうが、答えを出すのは難しい。現実にモチーフとなった事件の犯人は、何らかの形で社会復帰しているのだろうから、彼が読んだら身の置き所がなくなるのではないかとも思ってしまう。いろいろと考えさせられる一冊である。

ドンナ ビアンカ*誉田哲也

  • 2013/08/01(木) 16:50:35

ドンナ ビアンカドンナ ビアンカ
(2013/02/18)
誉田 哲也

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恋に墜ちたことが、罪だったのか。恋愛捜査シリーズ「ドルチェ」感涙必至の極上長編。41歳の純粋な男と27歳の儚い女。二人の不器用な恋愛が犯罪を導いたのか――? 中野署管内で身代金目的の誘拐事件が発生した。被害者は新鋭の飲食チェーン店専務の副島。提示された身代金は二〇〇〇万円。練馬署強行犯係の魚住久江は、かつての同僚・金本と共に捜査に召集される。そして、極秘裏のオペレーションが始動した。


魚住久恵シリーズ。魚住らが捜査する身代金目的誘拐事件の捜査の様子と、酒屋の配達員・村瀬の恋愛をめぐる物語が交互に語られるという趣向だが、両者の時系列が少しずれているのが、興味をさらに掻き立てられる。魚住は、際立った活躍をするわけではないが、彼女の直観が捜査の進展に一役買っているのも、好感が持てる。村瀬と瑶子も、別の出会い方をしていたら、こんな回り道をすることもなかったのに、と切ない思いにもなる。不器用で真摯な一冊である。

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