金雀枝荘の殺人*今邑彩

  • 2013/12/31(火) 18:44:56

金雀枝荘の殺人 (中公文庫)金雀枝荘の殺人 (中公文庫)
(2013/10/23)
今邑 彩

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完全に封印され「密室」状況となった館で起こった一族六人殺しの真犯人は、いったい誰だったのか。事件から一年後、真相を探るべく館にやってきた兄弟たちは推理合戦を繰り広げる。そして、また悲劇の幕が開いた…。恐怖と幻想に満ちた本格ミステリー。巻末に全著作リストを付す。


70年前にたったひとりドイツから嫁いできたエリザベートのために造られた金雀枝(えにしだ)荘が舞台である。エリザベートはしかし、たった二年で生まれたばかりの子どもを置いてドイツに帰ってしまった。その後主の弥三郎はそこには住まわず、かと言って売ることも取り壊すこともせず、使用人夫婦に管理させていた。その後管理人は、赤ん坊ひとりを残して無理心中したのだが、それでも取り壊すことはしなかった。しかも、二年前に亡くなるときには、金雀枝荘を残すようにという遺言まで残していたのだった。弥三郎亡き後、曾孫たちがクリスマスパーティーをするために金雀枝荘にやってきて、そのときの管理人とともに全員がしたいとなって発見された。そして現在。残された曾孫三人が、金雀枝荘にやってきて物語は佳境に入るのである。曾孫のひとりが例が見えるという女友達を連れてきており、通りがかりに洋館に興味を持って写真を撮っていた、ライターと名乗る男性も加わった。そしてまた人が死ぬのである。昔の霊の呪いなのか、はたまた…。舞台設定と言い、ふたつの事件の死にざまと言い、否応なく興味をそそられ、一刻も早く真実を知りたい欲求が湧き上がる。ライターと名乗る男が探偵役となって過去から続く謎を解き明かしていくのだが、果たしてそれを額面通りに信じていいのかどうかも疑わしい状況になり、何が真実で、誰を信じることができるのかがだんだん判らなくなっていくのもぞくぞくさせられる。人の愚かさや脆さ、弱さ、愛を守ることのむずかしさが絶妙に描かれている。救いのない事件ばかりなのだが、ラストに明るい未来が見えるのが救いである。中身の濃い一冊である。

問いのない答え*長嶋有

  • 2013/12/30(月) 07:06:01

問いのない答え問いのない答え
(2013/12/09)
長嶋 有

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なにをしていましたか?
先週の日曜日に、学生時代に、震災の日に――様々な問いと答えを「遊び」にして、あらゆる場所で緩やかに交流する人々の切実な生を描く、著者四年振りの長篇群像劇。
震災発生の三日後、小説家のネムオはtwitter上で、「それはなんでしょう」という言葉遊びを始めた。一部だけ明らかにされた質問文に、出題の全容がわからぬまま無理やり回答する遊びだ。設定した時刻になり出題者が問題の全文を明らかにしたとき、参加者は寄せられた回答をさかのぼり、解釈や鑑賞を書き連ね、画面上に“にぎやかななにか”が立ち上がるのだ。最近ヘアスタイリストと離婚したばかりの「カオル子」、ボールベアリング工場勤務の「少佐」、震災を機に派遣社員をやめた「七海」、東京郊外の高校に転校してきたばかりの美少女「蕗山フキ子」……気晴らしの必要な人だけ参加してくださいという呼びかけに集まったのは、数十人の常連だった。グラビアアイドルに取材する者、雑貨チェーン店の店長として釧路に赴任する者、秋葉原無差別殺傷事件の犯人に思いをやる者、亡き父の蔵書から押し花を発見する者、言葉遊びに興じながら、彼らはさまざまな一年を過ごす。そして二〇一二年四月、twitter上の言葉遊びで知り合ったある男女の結婚を祝うため、たくさんの常連たちが一堂に会することになり――。


Twitterをやったことのない人には、なんだかよくわからず、読みにくいだろうなぁ、とは思う。だが、やったことのある人には、あぁ、そうそう、と思わされることが多々あり、普段何気なく素通りしていることに改めて気づかされることもある。インターネット上の交流の手軽さと存外の奥深さを併せ持ったような印象である。インターネット上で買わされる軽い会話の基には、当然のことながらここの地道な暮らしが厳然と横たわっているのである。それを飾り、上辺だけを掬い、あるいはありのままを曝け出して、人々は140文字で孤独に呟きつつ他社と交わる。不完全な問いに答えるという、ただそれだけのことが、自分の裡側をみつめるきっかけになることもあり、思いを解き放つことになることもある。寂しいような愛おしいような一冊である。

追憶の夜想曲(ノクターン)*中山七里

  • 2013/12/27(金) 18:56:33

追憶の夜想曲追憶の夜想曲
(2013/11/21)
中山 七里

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豪腕ながらも、依頼人に高額報酬を要求する“悪辣弁護士”御子柴礼司は、夫殺しの容疑で、懲役十六年の判決を受けた主婦の弁護を突如、希望する。対する検事は因縁の相手、岬恭平。御子柴は、なぜ主婦の弁護をしたのか?そして第二審の行方は?


シリーズものとは知らずに続編の方から読んでしまったが、前作が未読でも充分のめりこめる。夫殺しの容疑で裁判にかけられている妻・津田亜季子の弁護を自ら名乗り出て引き受けた、悪辣弁護士と評判の御子柴が、自らの足で集めた証拠によって、隠された真実を明らかにする過程が、法廷での岬検事との応酬を含めて描かれている。もともと罪を認めている亜季子だったが、その裏にはとんでもない真実が隠され、さらに御子柴がこの案件を受け持った理由にも驚愕の事実が隠されていたのだった。証拠集めの過程も、検事との駆け引きも興味深く、幾度もひっくり返される事実には、目を瞠るものがある。物語は終わっても、それから先のあれこれが案じられる一冊である。

明日町こんぺいとう商店街--招きうさぎと七軒の物語

  • 2013/12/25(水) 18:49:28

([ん]1-4)明日町こんぺいとう商店街: 招きうさぎと七軒の物語 (ポプラ文庫)([ん]1-4)明日町こんぺいとう商店街: 招きうさぎと七軒の物語 (ポプラ文庫)
(2013/12/05)
大島 真寿美、彩瀬 まる 他

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この路地を曲がれば、そこはもう、すこし不思議な世界の入口―。ひとつの架空の商店街を舞台に、七人の人気作家がお店を開店し、短編を紡ぐほっこりおいしいアンソロジー。商店街のマスコット「招きうさぎ」がなつかしくあたたかな物語へと誘います。


 一軒目「カフェ スルス」大島真寿美
 二軒目「あずかりやさん」大山淳子
 三軒目「伊藤米店」彩瀬まる
 四軒目「チンドン屋」千草茜
 五軒目「三波呉服店-2005-」松村栄子 
 六軒目「キッチン田中」吉川トリコ
 七軒目「砂糖屋綿貫」中島京子

表紙を開くと目次には、こんぺいとう商店街のマスコット・招きうさぎと、商店街の絵地図が載っていて、読み始める前からワクワクする。明日町から少し歩いたところにある、アーケードもない煉瓦敷きの道路沿いにあるこんぺいとう商店街は、古くからある商店街だが、シャッター通りになるわけでもなく、上手い具合に循環し、スカイツリーの開業とともに、下町を特集する雑誌にときどき取り上げられたりしながら、なんとか成り立っているのだった。全体が家族のような商店街の店々から七軒がクローズアップされているのがこのアンソロジーである。それぞれに歴史があり、さまざまな事情を抱え、屈託もないわけではなく、それでも毎日店を開け、日々を過ごしている。読んでいるうちに、アンソロジーということを忘れ、こんぺいとう商店街をきょろきょろしながら歩いているような錯覚に陥るのも愉しい。命名当時は、こんぺいとうの角と同じ24店舗あったという商店街のほかの店のことも、もっと知りたいと思わされる一冊である。
 

なぎさ*山本文緒

  • 2013/12/24(火) 19:15:26

なぎさ (単行本)なぎさ (単行本)
(2013/10/19)
山本 文緒

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家事だけが取り柄の主婦、冬乃と、会社員の佐々井。同窓生夫婦二人は故郷長野を飛び出し、久里浜で静かに暮らしていた。佐々井は毎日妻の作る弁当を食べながら、出社せず釣り三昧。佐々井と行動を共にする会社の後輩の川崎は、自分たちの勤め先がブラック企業だと気づいていた。元芸人志望、何をやっても中途半端な川崎は、恋人以外の女性とも関係を持ち、自堕落に日々を過ごしている。夫と川崎に黙々と弁当を作っていた冬乃だったが、転がり込んできた元漫画家の妹、菫に誘われ、「なぎさカフェ」を始めることになる。姉妹が開店準備に忙殺されるうち、佐々井と川崎の身にはそれぞれ大変なことが起こっていた―。苦難を乗り越え生きることの希望を描く、著者15年ぶりの長編小説!


導入部では、一見平穏に見える佐々井と冬乃夫妻の暮らしだが、ほぼ絶縁していた冬乃の妹・菫が、借りていた部屋でぼやを出して転がり込んできたのがきっかけで、さざ波が立つようになる。些細なすれ違いがどんどん二人の心を遠ざけ、それでも表面上はそれまでと変わらず平穏に見えるのが却って怖くもある。佐々井の部下の川崎の自堕落さや懊悩、菫の人間関係や、目論見、切り捨て逃げ出してきた故郷の両親のこと。さまざまなことが冬乃やその周りに波及していく。いたるところにちいさな棘があり、身じろぎするたびに、チクリチクリと苛まれるような、今度は上手くいくかと喜べば、不意に突き落とされるような、やり切れなさと不毛感にも包まれる。だがそれは、もしかするとすべて自分の裡側の問題なのかもしれないと、ふとした瞬間に思ったりもするのである。自分とは何か、活き活き生きるとはどういうことかを深く思わされる一冊である。

まほろ駅前狂想曲*三浦しをん

  • 2013/12/22(日) 19:19:13

まほろ駅前狂騒曲まほろ駅前狂騒曲
(2013/10/30)
三浦 しをん

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まほろ駅前で起きる、混沌と狂乱の大騒ぎ!
まほろ市で便利屋稼業を営む多田と行天。ある日多田は行天の元妻から子供を無理やり預けられて困惑する。待望のシリーズ第三弾。


行天はもはや松田龍平で脳内に登場し、多田はもちろん瑛太だが、まぁそれもありか、とも思う、多田便利軒最新作である。行天の元妻の娘で、遺伝子上は行天の娘でもあるはるを預かることになったり、無農薬野菜を作る団体の胡散臭さや、横中バスの横暴に憤る老人パワーに翻弄されたりと、相変わらずヘンに忙しい多田便利軒であるが、今回はそれだけでなく、多田の恋愛話があったり、行天が過去の傷と対決したりと、ふたりの真髄に迫る場面もあって、読み応えがある。ラスト前は、多田と一緒にほろりと寂しい気持ちにもなったが、ラストは今後の波乱を予感させつつもめでたしめでたしで、続きを期待させる一冊である。

あおぞらビール*森沢明夫

  • 2013/12/19(木) 21:16:02

あおぞらビール (双葉文庫)あおぞらビール (双葉文庫)
(2012/07/12)
森沢 明夫

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ボートで川下りをしたら滝に落ちそうになり、露天風呂で裸になったらアブの大群に襲われ、103歳のスーパーおばあちゃんと野宿し、電気クラゲの海に飛び込んで…。アウトドア遊びや貧乏旅で、ぼくと悪友たちが遭遇した抱腹絶倒の珍事件を綴る、青春エンタメエッセイ。


著者、10代~20代前半のことを語ったエッセイである。なかなかハードで愉しい青春時代を謳歌されていた様子が目に見えるようで、苦笑し、同情し、感動し、ため息をつき、そして何と言ってもお腹を抱える。ネタじゃないの?と思わせるようなエピソード満載なのである。それぞれに個性的な仲間たちとの交流も、見ていて清々しくあたたかい。何度も言っているが、小説家の書くエッセイはどちらかと言えば苦手なのだが、本作で初めて著者を知ったとしても、ぜひ小説を読んでみたいと思わせる魅力のある一冊である。

ようこそ授賞式の夕べに*大崎梢

  • 2013/12/18(水) 18:52:53

ようこそ授賞式の夕べに (成風堂書店事件メモ(邂逅編)) (ミステリ・フロンティア)ようこそ授賞式の夕べに (成風堂書店事件メモ(邂逅編)) (ミステリ・フロンティア)
(2013/11/09)
大崎 梢

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今日は年に一度のイベント、書店大賞授賞式の日。成風堂に勤める杏子と多絵は、初めての授賞式参加とあって、華やいだ気分でいっぱいだ。ところが朝の業務を終えて出かけようという矢先に、福岡の書店員・花乃が「書店の謎を解く名探偵」に会いに成風堂を訪れる。書店大賞事務局に届いた不審なFAXの謎を名探偵に解いてほしいというのだ。一方、明林書房の新人営業マン・智紀も、全国から書店員が集まる今日を有意義に過ごすべく、準備万端調えていた。そこへ、他社の営業マン・真柴から、今すぐ来いと呼び出しを受ける。書店大賞事務局長の竹ノ内が、今日のイベントに関わる重大問題に頭を抱えているらしい…。“成風堂書店事件メモ”と“出版社営業・井辻智紀の業務日誌”、両シリーズのキャラクターが勢ぞろい!書店員の最も忙しい一日を描く、本格書店ミステリ。


なによりもまず、勢揃いしたこの豪華メンバーが嬉しいのである。書店大賞事務局に届いた怪文書に「飛梅書店」の名があったことから、福岡の書店に問い合わせがいき、書店大賞に投票していて授賞式に出席することになっていた花乃が、謎を解明したい一心で成風堂書店の名探偵・多絵を頼ってきたのが、大騒動の一日の始まりである。花乃の意気込みが普通ではないと思っていたのだが、そういうことだったのか、というのはラストになってやっと明らかにされる事実である、書店大賞の裏側や実情、問題点までよく解り、書店員さんたちの愛を改めて感じられる一冊である。多絵ちゃん健在!

妻が椎茸だったころ*中島京子

  • 2013/12/17(火) 17:17:31

妻が椎茸だったころ妻が椎茸だったころ
(2013/11/22)
中島 京子

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オレゴンの片田舎で出会った老婦人が、禁断の愛を語る「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」。暮らしている部屋まで知っている彼に、恋人が出来た。ほろ苦い思いを描いた「ラフレシアナ」。先に逝った妻がレシピ帳に残した言葉が、夫婦の記憶の扉を開く「妻が椎茸だったころ」。卒業旅行で訪れた温泉宿で出会った奇妙な男「蔵篠猿宿パラサイト」。一人暮らしで亡くなった伯母の家を訪ねてきた、甥みたいだという男が語る意外な話「ハクビシンを飼う」。
5つの短篇を収録した最新作品集。


なんだか、胸の奥の奥の深いところがうずくような物語である。顔色ひとつ変えずに――あるいはうっすらと頬笑みさえ浮かべて――、切っ先鋭い刃物を突き付けられているような、そんな叫び声すらあげられないような恐怖でもあり、裏を返せば、それこそが自分の望みだったというような満たされたような心地にもなる。とても遠いにもかかわらず、身の裡に食い込んでくるような一冊である。

ミーコの宝箱*森沢明夫

  • 2013/12/16(月) 19:58:05

ミーコの宝箱ミーコの宝箱
(2013/09/19)
森沢 明夫

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生まれてすぐに両親に捨てられ、祖父母に育てられたミーコの特技は、毎日、「小さな宝物」を見つけること―。孤独と不安のなかにも、一縷の希望を探し続けるミーコの半生を、祖父、同級生、教師、ボーイフレンド、そして愛する娘・幸子の視点で切り取った感涙のハートフル・ストーリー。


タイトルから想像する内容と表紙の写真とがミスマッチだなぁと、読む前には思っていたが、読んでみればそういうことだったのか、と納得する。哀しみや寂しさ、満たされなさが満ち満ちていて、そしてそれをどこかへ押しやるほどに愛が満ちている物語である。鬼のようだと思っていた祖母の愛、いつもその隣にいる祖父の愛、学校の友だちの数少ない愛、常連客の愛、そして愛娘・チーコにそそぐ無償の愛とチーコがミーコに抱く愛。哀しく寂しく切ないが、とてもしあわせであたたかい一冊である。

致死量未満の殺人*三沢陽一

  • 2013/12/15(日) 17:12:05

致死量未満の殺人致死量未満の殺人
(2013/10/25)
三沢 陽一

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雪に閉ざされた山荘で、女子大生・弥生が毒殺された。容疑者は一緒に宿泊していた同じ大学のゼミ仲間4人――龍太、花帆、真佐人、圭。外の世界から切り離された密室状況で、同じ食事、同じ飲み物を分け合っていたはずなのに、犯人はどうやって弥生だけに毒を飲ませることができたのか。警察が到着するまで、残された4人は推理合戦を始める……15年後、雪の降る夜。花帆と夫の営む喫茶店を訪れたのは、卒業以来、音信不通の龍太だった。あと数時間で時効を迎える弥生の事件は、未解決のまま花帆たちの人生に拭いきれない影を落としていた。だが、龍太はおもむろに告げる。「弥生を殺したのは俺だよ」たび重なる推理とどんでん返しの果てに明かされる驚愕の真相とは? 〈第3回アガサ・クリスティー賞〉に輝く正統派本格ミステリ。


犯人が事項間際に当時の仲間に告白し、そのときのことを振り返るという趣向なので、誰が犯人かというハラハラ感はなく、如何にして殺したかというところに注目して読むことになるのだが、それさえも著者の仕掛けたトリックだったのかもしれない。最後まで読むと、あのとき無差別殺人を疑ってパニックにならなかった理由も腑に落ちるのである。そうだったのか…。最後の最後のどんでん返しは、あまりにも身勝手すぎて、胸が悪くなる感もあるが、最後まで緊張を切らせない一冊だった。

驚愕遊園地--最新ベスト・ミステリー

  • 2013/12/14(土) 16:45:05

驚愕遊園地 最新ベスト・ミステリー驚愕遊園地 最新ベスト・ミステリー
(2013/11/16)
日本推理作家協会

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三年に一度のお楽しみ。どこから読んでも面白い最強アンソロジー!
二カ月連続刊行の第一弾。
赤川次郎、芦辺拓、有栖川有栖、伊予原新、大崎梢、恩田陸、大門剛明、辻村深月、鳥飼否宇、西澤保彦、初野晴、東川篤哉、東野圭吾、麻耶雄高、米澤穂信、各氏の作品を収録!!


お馴染みの著者、初読の著者さまざまだが、それぞれにおもしろくて、なかなか粒ぞろいである。一作ずつはあっという間に読めてしまうので、もっと読み続けたいと思わされるものもあったが、次の作品への興味もわいて、ページを繰る手が止まらなくなる贅沢な一冊である。

からくりランドのプリンセス*青井夏海

  • 2013/12/10(火) 21:34:07

からくりランドのプリンセスからくりランドのプリンセス
(2013/11/22)
青井 夏海

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『赤ちゃんをさがせ』の著者が贈る学園青春ミステリ+「暗躍」する父兄会=プリンセスを巡って大騒動!
私の通う中学校に本物のプリンセスが留学してきた。そしてプリンセスの身辺警備を担当するのは、なんと私のお母さん。かつてそういう仕事に就いていたらしい――お母さんいったい何者? てか私の青春の邪魔しないでくれる? そんなドタバタ騒ぎの中、「陰謀」は深く静かに進行していく……。


日本ではほとんど知られていないフラクトゥール王国のプリンセスが、王位継承の条件である一年間の留学先として、汐音が通う海央学院にやってきた。プリンセスを巡る思惑で小競り合いを繰り返す女子たち、芸術文化研究部の文化祭へ向けての活動など、にぎやかな学園生活と、父母会から秘密裏に護衛を頼まれた親たちの温度差やそれぞれの事情、さらに国家をめぐる壮大な思惑に翻弄される物語である。さまざまな立場で見る夢の物語であるとも言えるかもしれない。いま流行のアイドルたちでドラマ化されたりしたら面白そうな一冊である。

ガンコロリン*海堂尊

  • 2013/12/09(月) 16:44:24

ガンコロリンガンコロリン
(2013/10/22)
海堂 尊

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ついにガン予防薬完成! と思ったら……鬼才炸裂のメディカル・エンタメ傑作集! 医学とは悪食の生命体である――夢の新薬開発をめぐる大騒動の顛末を描く表題作ほか、完全な健康体を作り出す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇を綴る「健康増進モデル事業」、医療が自由化された日本の病院の有様をシニカルに描く「ランクA病院の愉悦」など、奇想の中に医療の未来を映し出す海堂ワールドの新機軸!


表題作のほか、「健康推進モデル事業」 「緑剥樹の下で」 「被災地の空へ」 「ランクA病院の愉悦」

コミカルなタッチを織り交ぜながらも、やはりそこは著者である。皮肉たっぷりに医療に対する国策の愚かさを嗤っている。憂えていると言った方がいいのかもしれない。「被災地の空へ」には極北病院の速水医師も登場しているのが嬉しい。実はジェネラル、案外好きなのである。今回は、いつもよりいささかおとなし目ではある。内容紹介には新機軸と謳われているが、相変わらずの主張であると思われる一冊ではある。

悪医*久坂部羊

  • 2013/12/08(日) 21:12:38

悪医悪医
(2013/11/07)
久坂部 羊

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現役の医師でもあり作家でもある著者が、満を持して取り組んだ「悪い医者とは?」を問いかける感動の医療長編小説。
がん治療の拠点病院で、52歳の胃がん患者の小仲辰はがんが再発したあと、外科医の森川良生医師より「これ以上、治療の余地がありません」と告げられた。
「私にすれば、死ねと言われたのも同然」と、小仲は衝撃のあまり診察室を飛び出す。
小仲は大学病院でのセカンドオピニオンを断られ、抗がん剤を専門とする腫瘍内科、免疫細胞療法のクリニック、そしてホスピスへ。
それぞれの場所で小仲はどんな医師と出会うのか。
一方、森川は現在の医療体制のもと、患者同士のいさかい、診療での「えこひいき」問題など忙殺されるなか、診療を中断した小仲のことを忘れることができず、末期がん患者にどのように対したらよいのか思い悩む日々がつづく。
患者と医師の間の溝ははたして埋められるのか。
がん治療に対する医師の本音と患者の希望は軋轢を生み、物語は運命のラストへと向かう。
ひくにひけない命という一線を、患者と医師双方の切迫した事情が迫真のドラマを生み出す問題作。


重く壮絶な物語だった。当事者にならない限り、ほんとうには理解できないであろう患者の想いと、そんな患者を数多く担当する医師の想い。立場の違い、知識の違いなどによって、互いに理解し合えないことも多い。どのように病気と向き合うか、どのように患者に寄り添うかを、それぞれが問われているようにも思われる。さまざま考えさせられ、重苦しい気分になるが、考えることは無駄ではないとも思わされる一冊である。

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北天の馬たち*貫井徳郎

  • 2013/12/07(土) 17:00:38

北天の馬たち (単行本)北天の馬たち (単行本)
(2013/10/19)
貫井 徳郎

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毅志は、横浜の馬車道近くで、母親と共に喫茶店「ペガサス」を営んでいる。ある日、空室だった「ペガサス」の2階に、皆藤と山南というふたりの男が探偵事務所を開いた。スマートで快活な彼らに憧れを抱いた毅志は、探偵仕事を手伝わせてもらうことに。しかし、付き合いを重ねるうちに、毅志は皆藤と山南に対してある疑問を抱きはじめる…。


ふたりの探偵・皆藤と山南と、彼らと強く結びつく人々との事情を含めたあれこれを、探偵が事務所を構えることになったビルの一階で喫茶店を営む若者・毅志が、憧れのまなざしを持って語る物語である。皆藤と山南に惹かれ、日々の鬱屈から逃れるためもあり、探偵の仕事を手伝うことになる毅志だが、ふたりの間に入り込んで行けないもどかしさも感じているのであった。そのわけが、この物語の根底にあるのは、後半になってやっと判るのだが、最後の最後の処理の仕方が、それまでのスマートさと比べて、いささか芸がないように思われるのが残念でもある。相手の性質が悪かったせいもあるのかもしれないが、それにしてもなにかもっとカタルシスを得られる対処法はなかったものかと思われてならない。そのこと以外は人と人との結びつきの強さ深さを思わされ、ページを捲る手が止まらない一冊であった。

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冬虫夏草*梨木香歩

  • 2013/12/07(土) 07:44:39

冬虫夏草冬虫夏草
(2013/10/31)
梨木 香歩

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疏水に近い亡友の生家の守りを託されている、駆け出しもの書きの綿貫征四郎。行方知れずになって半年あまりが経つ愛犬ゴローの目撃情報に加え、イワナの夫婦者が営むという宿屋に泊まってみたい誘惑に勝てず、家も原稿もほっぽり出して分け入った秋色いや増す鈴鹿の山襞深くで、綿貫がしみじみと瞠目させられたもの。それは、自然の猛威に抗いはせぬが心の背筋はすっくと伸ばし、冬なら冬を、夏なら夏を生きぬこうとする真摯な姿だった。人びとも、人間にあらざる者たちも…。『家守綺譚』の主人公にして新米精神労働者たる綿貫征四郎が、鈴鹿山中で繰り広げる心の冒険の旅。


「家守忌憚」の続編である。至極当然のこととして、人である者と人に非ざる者が同じ地平に立ち、同じものを見ているのがいい趣である。たとえ見えているものが違うとしても。そしてまたそれをごく当然のこととしている営みも、これぞ本来の生き物の姿、と思わされるものである。生計を立てるための生業も、本能の赴くままの興味も、情愛も、何もかもが混在し人となりを作り上げているのがよく判って興味深い。著者の世界を堪能できる一冊である。

猫を拾いに*川上弘美

  • 2013/12/05(木) 16:50:46

猫を拾いに猫を拾いに
(2013/10/31)
川上 弘美

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恋をすると、誰でもちょっぴりずつ不幸になるよ。いろんな色の恋がある。小さな人や地球外生物、そして怨霊も現われる。心がふるえる21篇。傑作短篇小説集。


なんとも贅沢な21篇である。わたしたちが暮らしている世界から見たら、いささか不思議なことがたくさんあるのだが、それが不思議でも不自然でもなんでもなく、日常としてある世界の物語なのが川上世界である。しかも、そのずれ方が一様ではなく、物語によってさまざまな方向にさまざまな度合いでずれている、というかぶれているのである。さらに言えば、ずれながらぶれながらも芯は一本通っているので、読んでいて心地好いのである。瞬く間にその世界に取り込まれてしまう一冊である。

花咲小路一丁目の刑事*小路幸也

  • 2013/12/04(水) 17:02:42

花咲小路一丁目の刑事 (一般書)花咲小路一丁目の刑事 (一般書)
(2013/11/12)
小路幸也

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たくさんのユニークな人々が暮らし、日々大小さまざまな事件が起こる花咲小路商店街。今回の主人公は「和食処あかさか」を営む祖父母のもとに居候中の若手刑事。死んだはずのおじいさんから手紙が届くようになったラーメン屋さん一家や、本の上にフルーツがひとつずつ置かれるようになった本屋さんからの相談など、非番の日になると必ず相談ごとを持ちかけられるようになってしまう。


花咲小路シリーズであるが、今回の主人公は、セイさんではなく、<和食処あかさか>の夫婦の孫で新米刑事の淳さんである。しかも、刑事としての活躍は描かれておらず、非番の日におばあちゃんに頼まれたご近所の困りごとの解決に奔走するばかりなのである。だが、その様子が淳さんの人となりがよく現われていて好感が持てる。そしてやはり花咲小路が舞台なだけあって、謎があちこちにひっそりと横たわっていたりもするので、わくわくするのである。セイさんがらみの人間関係もまだまだ広がりを見せているようなのも嬉しいところである。次も愉しみなシリーズである。

新釈にっぽん昔話*乃南アサ

  • 2013/12/03(火) 21:13:46

新釈 にっぽん昔話新釈 にっぽん昔話
(2013/11/14)
乃南 アサ

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大人も子供も楽しめるユニークな昔話集が誕生しました。
ドラマ化で話題となった『いつか陽のあたる場所で』など、次々話題作を生み出す乃南アサさん。「さるかに合戦」「花咲かじじい」「一寸法師」「笠地蔵」など誰もが知っている昔話が、手練れの作家の手にかかると、大人も楽しめるユニークなエンタテインメントに大変身。太宰治の『お伽草子』を彷彿とさせる意欲作です。東日本大震災を、取材に訪れた仙台で経験した乃南さん、復興に取り組む人たちに、物語で勇気と希望を届けたい、という思いも込められた作品集です。「さるかに合戦」「花咲じいさん」「一寸法師」「笠地蔵」……誰もが知っている昔話が、誰も読んだことのない新解釈でよみがえる!


「さるとかに」 「花咲かじじい」 「一寸法師」 「三枚のお札」 「笠地蔵」 「犬と猫とうろこ玉」

大人も楽しめる、とあるが、子どもが読んだらいささか戸惑うかもしれない。ちょっぴりブラックで、大人っぽい昔話の数々である。実際には、こちらの解釈の方が現実的で、納得できてしまうが、ファンタジーとは言えないかもしれない。愉しい趣向の一冊だった。

「幽霊」が隣で聞いている*蒼井上鷹

  • 2013/12/01(日) 17:02:12

「幽霊」が隣で聞いている「幽霊」が隣で聞いている
(2013/10/29)
蒼井上鷹

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毎日通う喫茶店でも顔を覚えられず、隣に座っていても大事な話を始められてしまうほどの存在感。だがそんな彼の周囲で、不可思議な事件が起こり始める。友人が失踪し、その友人から借りた自転車が盗まれたかと思ったら、部屋からミイラ化した遺体が見つかったのだ!ややこしい事件と絡まる糸を、解くことはできるのか!「幽霊」のように陰から事件を追いかける小仏さん!?そして驚愕の結末を見よ!


世界一影の薄い男・小仏さんが探偵役となって、町内(?)で次々に起こる不可解な出来事を解きほぐし、答へと導いてしまう物語である。わかってみれば、なんと狭い人間関係で起こった事件か、と思わずにいられない。にもかかわらず、事件の内容そのものは、かなり悪質でもあり、ときには場当たり的でもあるのである。しかもこのラスト。えーーーっ!?とまずは驚くが、そう言えば、と次から次へと腑に落ちていく。なるほどぉ…。著者らしい一冊である。