からくさ図書館来客簿*仲町六絵

  • 2014/01/30(木) 19:03:37

からくさ図書館来客簿 ~冥官・小野篁と優しい道なしたち~ (メディアワークス文庫)からくさ図書館来客簿 ~冥官・小野篁と優しい道なしたち~ (メディアワークス文庫)
(2013/05/25)
仲町 六絵

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京都の一角に佇む「からくさ図書館」は、優しげな図書館長の青年と可憐な少女とが二人きりで切り盛りする、小さな私立図書館。紅茶か珈琲を味わいながら読書を楽しめる、アットホームなこの図書館には、その雰囲気に惹かれて奇妙な悩みと出会ったお客様が訪れる。それぞれに悩みを抱えるお客様に、図書館長・小野篁が差し出すのは、解決法が記された不思議な書物で―。悠久の古都で綴られる、ときにほろ苦く、けれど温かなライブラリ・ファンタジー。


図書館というタイトルに惹かれて読み始めてみたが、あまりにぶっ飛んだ設定にいささかたじろいだ。図書館長が、冥界のお役人だったり、井戸を通ってあちらと行き来していたり、善行を成したにもかかわらず天道へ行き迷っている「道なし」を焦げくさい臭いで見つけ出して、無事天道へ送り出すのを仕事にしていたり。縄張りを図書館にした必然性はあまり感じられないが、館長・篁の趣味と言われてしまえばそれまでである。道なしを天道に送るとともに、彼らが取りついた現世の人間の悩みも解決している。なんとなくピントがずれているようで、お人好しでもあり、それでいて自分の役割はきっちり果たすような篁のキャラクターと、時空を超えた愛の物語でもあるので、ついつい読み切ってしまった。タイムトリップの要素が加わった、あの作品とかその作品とかのような一冊ではある。

一の悲劇*法月綸太郎

  • 2014/01/28(火) 19:12:47

一の悲劇 (ノン・ポシェット)一の悲劇 (ノン・ポシェット)
(1996/07)
法月 綸太郎

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「あなたが私の息子を殺したのよ!」山倉史郎は狂乱する冨沢路子の前に絶句した。それは悲劇的な誤認誘拐だった。犯人は山倉の子と誤って、同級生の路子の子を拉致したらしい。しかも身代金授受に山倉は失敗、少年は骸となって発見されたのだった。鬼畜の仕業は誰が、なぜ?やがて浮かんだ男には鉄壁のアリバイがあった。名探偵法月綸太郎と共にいたというのだ…。


取り違え誘拐事件である。初めは、真犯人はこの人物か、と思い、読み進むにつれ、いやあの人物かもしれない、と思い直し、新しい事実が浮かび上がるたびに、確信を抱いたり裏切られたりし、最後の最後に畳みかけるように何度も展開が変わる。初めからそんな盲点を突かれていたのかと、油断できない一冊である。

小夜しぐれ*高田郁

  • 2014/01/26(日) 18:55:47

小夜しぐれ (みをつくし料理帖)小夜しぐれ (みをつくし料理帖)
(2011/03/15)
高田 郁

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季節が春から夏へと移ろい始める如月のある日。日本橋伊勢屋の美緒がつる家を訪れ、澪の顔を見るなり泣き始めた。美緒の話によると、伊勢屋の主・九兵衛が美緒に婿をとらせるために縁談を進めているというのだ。それは、美緒が恋心を寄せる医師、源斉との縁談ではないらしい。果たして、美緒の縁談の相手とは!?――(第三話『小夜しぐれ』)。表題作の他、つる家の主・種市と亡き娘おつるの過去が明かされる『迷い蟹』、『夢宵桜』、『嘉祥』の全四話を収録。恋の行方も大きな展開を見せる、書き下ろし大好評シリーズ第五弾!!


つる家で澪が客に饗する心づくしの料理の数々は、相変わらずどれもこれもおいしそうである。旬の素材を生かし、胃袋にも懐にもやさしく、ありきたりではないひと工夫が凝らされていて、通いたくなるほどである。今回は、登場人物の過去や真実、胸に抱える想いなどなど、さまざまなことが明らかになる。どれもがままならないことばかりではあるものの、一筋の光が見えなくもない、気もしてしまう。次作では澪と小松原の想いが通い合うことがあるだろうか。まだまだ愉しみなシリーズである。

いつもが消えた日*西條奈加

  • 2014/01/25(土) 16:54:59

いつもが消えた日 (お蔦さんの神楽坂日記)いつもが消えた日 (お蔦さんの神楽坂日記)
(2013/11/28)
西條 奈加

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もと芸者でいまでも粋なお蔦さんはご近所の人気者だ。滝本望はそんな祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。三学期がはじまって間もないある日、同じ中学に通うサッカー部の彰彦とその後輩・有斗、幼なじみの洋平が滝本家を訪れていた。望手製の夕飯をお腹いっぱい食べ、サッカー談義に花を咲かせた、にぎやかな夜。しかし望と彰彦が有斗を自宅に送り届けた直後、有斗が血相を変えて飛び出してきた「部屋が血だらけで!家ん中に、誰もいないんだ!」消えた有斗の家族の行方、そして家族が抱える秘密とは―。
お蔦さんの活躍がますます光る、人情味あふれる〈お蔦さんの神楽坂日記〉シリーズ第2弾。


お蔦さん、粋でご近所に信望も厚く、肝が据わっていて、カッコイイ女性である。孫の望の料理の腕は相変わらず一級品だし、学校の仲間やご近所さんの連帯感も並じゃない。ある日家族が突然自分ひとりを残して消えてしまった有斗にとっても、それがとても大きな救いになったことと思う。事件が解決に向かうにつれて、胸が痛む事実が次々に明らかにされるが、そのショックを上回るほどの、周りのあたたかい見守りの目が、心を穏やかにしてくれる。いつまでも続いてほしいシリーズである。

枕草子--ビギナーズ・クラシックス*角川書店編

  • 2014/01/23(木) 20:41:53

枕草子 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)枕草子 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)
(2001/07)
角川書店

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「源氏物語」とともに王朝女流文学を代表する珠玉の随筆集「枕草子」。清少納言の感性によって描写された機知に溢れる宮廷生活を、現代語訳を読むだけでもダイレクトに味わえる。装束・有職など図版も豊富に収録。


冲方丁氏の『はなとゆめ』を読んだのがきっかけで、そう言えば『枕草子』は教科書に出てきたところしか読んだことがなかったな、と思い至り、入門編として読んでみた。全編ではなくピックアップされたところだけが載っているのだが、まず現代語訳があり、その後に原文が載っていて、必要に応じて解説がついているので、すんなり抵抗なく読めてしまう。『はなとゆめ』を読んでいるので、原文を読んだときに、その場面が映像として頭に浮かぶので、愉しい気分になれるのもよかった。入門編としてはよくできた一冊である。

今朝の春*高田郁

  • 2014/01/23(木) 20:33:44

今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)
(2010/09/15)
高田 郁

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月に三度の『三方よしの日』、つる家では澪と助っ人の又次が作る料理が評判を呼び、繁盛していた。そんなある日、伊勢屋の美緒に大奥奉公の話が持ち上がり、澪は包丁使いの指南役を任されて―――(第一話『花嫁御寮』)。戯作者清右衛門が吉原のあさひ太夫を題材に戯作を書くことになった。少しずつ明らかになってゆくあさひ太夫こと野江の過去とは―――(第二話『友待つ雪』)。おりょうの旦那伊左三に浮気の疑惑が!? つる家の面々を巻き込んだ事の真相とは―――(第三話『寒紅』)。登龍楼との料理の競い合いを行うこととなったつる家。澪が生み出す渾身の料理は―――(第四話『今朝の春』)。全四話を収録した大好評シリーズ第四弾!!


みをつくし料理帖シリーズの四作目。
出てくる料理の数々のおいしそうなことは言うまでもない。お客を思いやる心がこもっているからこその心づくしが嬉しいのである。だが今回も、つる家には難題が持ち込まれる。包丁使いの指南役だったり、登龍楼との競い合いだったり、おりょう夫妻の問題だったり。そして、澪個人的にも悩ましいことがあり、それが故に怪我までしてしまうことにもなる。あさひ太夫のために澪にできることの道筋がうっすらと見えてきたようにも思えるが、どうなることだろうか。そして小松原様とのことは、この先どうなっていくのだろうか。まだまだ目が離せないシリーズである。

祈りの幕が下りる時*東野圭吾

  • 2014/01/21(火) 18:53:07

祈りの幕が下りる時祈りの幕が下りる時
(2013/09/13)
東野 圭吾

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悲劇なんかじゃない これがわたしの人生。極限まで追いつめられた時、人は何を思うのか。夢見た舞台を実現させた女性演出家。彼女を訪ねた幼なじみが、数日後、遺体となって発見された。数々の人生が絡み合う謎に、捜査は混迷を極めるが…。


加賀恭一郎シリーズである。今回も、加賀は単独で歩き回り、真実に迫る要素を集めてくるのだが、決して独断専行というわけではなく、いつも以上に従兄弟の松宮の補佐的な立ち位置で、松宮を立てているのが目につく。いままでは松宮が加賀にくっついて歩いている感が否めなかったが、ずいぶん成長したもので、今後は加賀のいい相談相手になるだろうと思わせてくれる。加賀がなぜ日本橋所にこだわり続けるかという疑問に答えも出たし、わだかまりのあった母親との経緯もすっきりさせることができて、読者も加賀と一緒に一歩前に進める気がする。犯した罪が消えることはないが、根っからの悪人がいないのが、かえって切なく哀しくやりきれない。読み応えのある一冊だった。

奇想博物館--最新ベストミステリー

  • 2014/01/18(土) 16:52:33

奇想博物館 最新ベスト・ミステリー奇想博物館 最新ベスト・ミステリー
(2013/12/14)
日本推理作家協会編

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三年に一度のお楽しみ。どこから読んでも面白い最強アンソロジー!
二ヵ月連続刊行第二弾。
伊坂幸太郎、石持浅海、乾ルカ、大沢在昌、北村薫、今野敏、坂木司、朱川湊人、長岡弘樹、深水黎一郎、誉田哲也、道尾秀介、湊かなえ、宮部みゆき、森村誠一、各氏の作品を収録!



テイストは様々だが、それぞれの持ち味が凝縮しているような作品群である。意外性、視点の変化、読者にとって嬉しい裏切り、などなど。既読のものも含めて、何とも読み応えのある一冊だった。

カウントダウン*佐々木譲

  • 2014/01/15(水) 17:08:30

カウントダウンカウントダウン
(2010/09/25)
佐々木 譲

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多選市長の放漫運営のもとで財政破綻に瀕した北海道幌岡市。街を救うため市長選に挑戦する若者たちの友情を熱く描く、爽やかな長編小説。


多選市長と馴れ合い市議会が、都合よく辻褄合わせし、長期に亘って市民を欺いていた財政破綻が白日の下に晒された。にもかかわらず、市長の大田原は六選を目論んでいる。そんなとき、一年生議員の森下直樹の元に、選挙コンサルティングと名乗る男が現れ、大田原の対抗馬として市長選に担ぎ出される。市長選開票までの、その後の顛末が描かれた物語である。さもありなんと思わされるようなネガティブキャンペーンあり、裏後援会の結束あり、直樹自身の意識の持ちようの変化ありで、読み応えはあるが、ラストはいささかあっけなかったかな、という気もする。大田原のその後や、新市長の施策も少しは見てみたかった。続編があるのだろうか。状況は違うが、折しも都知事選ということもあり、興味深い一冊ではあった。

私のなかの彼女*角田光代

  • 2014/01/13(月) 18:53:16

私のなかの彼女私のなかの彼女
(2013/11/29)
角田 光代

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いつも前を行く彼と、やっと対等になれるはずだったのに――。待望の最新長篇小説。「もしかして、別れようって言ってる?」ごくふつうに恋愛をしていたはずなのに、和歌と仙太郎の関係はどこかでねじ曲がった。全力を注げる仕事を見つけ、ようやく彼に近づけたと思ったのに。母の呪詛。恋人の抑圧。仕事の壁。祖母が求めた書くということ。すべてに抗いもがきながら、自分の道を踏み出す彼女と私の物語。


タイトルから、なんとなく「対岸の彼女」系の物語かと思って読み始めたが、まったく違っていた。蔵を整理するとき、祖母の手になる一冊の本を見つけた和歌は、母から聞かされた醜女であったということ以外にほとんど知らない祖母の人生に興味を持ち、以来祖母が心の中に棲みついたようである。なんとなくぼんやりとして、心から面白がることも少なく、恋人である仙太郎がその才能を花開かせて、ひと足先に社会に出ると、ますます影に引っ込んで無言の規範に自らを押し込めるようになる。そんな自分と、作家になる夢を捨てて家庭に入った祖母とを重ね合わせていたのかもしれない。そして、和歌も物を書く人間になるのだが、いつも自分を解放しきれず、どこかから聞こえてくる声に支配されている気がしている。あれもこれも手に入れたいと望むことはいけないことなのだろうか。何かを選んだら別の何かは諦めなければならないのだろうか。上手く乗り切っていくほどに和歌は器用ではないのだった。仙太郎との関係もいつしかどこかで捻じれ、一緒に歩いていたはずなのに、ふと気づくと隣には誰もいなくなっている。ラストでは自分を取り戻しかけたように見えるが、この先和歌がほんとうに幸福になることはないような気もしてしまう。どうにもならないもどかしさとやり切れなさ、切なさ寂しさ、そして歪な愛が満ちた一冊だと思う。

贖罪の奏鳴曲*中山七里

  • 2014/01/12(日) 17:16:26

贖罪の奏鳴曲贖罪の奏鳴曲
(2011/12/22)
中山 七里

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弁護士・御子柴礼司は、ある晩、記者の死体を遺棄した。死体を調べた警察は、御子柴に辿りつき事情を聴く。だが、彼には死亡推定時刻は法廷にいたという「鉄壁のアリバイ」があった―。「このミス」大賞受賞作家による新たな傑作誕生。 弁護士・御子柴礼司は、ある晩、記者の死体を遺棄した。死体を調べた警察は、御子柴に辿りつき事情を聴く。だが、彼には死亡推定時刻は法廷にいたという「鉄壁のアリバイ」があった―。「このミス」大賞受賞作家による新たな傑作誕生。


冒頭からショッキングな場面である。これがその後の展開にどうつながっていくのか、厭でも興味を惹かれる。御子柴がどんな対応をし、どう切り抜けていくのかという興味と、もうこれまでか、という絶望感にも似た気分に襲われる。それは思わせぶりに明らかにされないまま、物語は代理で務めることになった国選の事件が描かれていく。御子柴の考えに迫ろうとするドーベルマンのような刑事との駆け引きや、生まれつきの脳性麻痺で左手しか動かすことのできない、遺族であり被告人の一人息子である幹也との交流。そのひとつひとつの意味がわかるのは、最後になってである。思ってもみなかった展開に、驚かされ、それ以上の思惑にさらに驚愕するラストである。ほんの一端なのだろうが、御子柴が現在ある理由がわかって、さまざま腑に落ちることもある一冊だった。

漁師の愛人*森絵都

  • 2014/01/10(金) 18:15:58

漁師の愛人漁師の愛人
(2013/12/16)
森 絵都

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〈驚愕しながら、あきれながら、時に笑いながら、何度でも思う。ここはどこ?〉
妻子持ちの音楽プロデューサー、長尾の愛人だった紗枝。会社の倒産ののち漁師への転身を決めた彼の郷里へ伴われ、移り住むことになったのだが、身内意識のつよい漁師町で「二号丸」と呼ばれていることを知ったのは、やって来て、たったの十日だった。「妻」から時折かかってくる長電話に、敵意にみちたまなざしを向ける海の女たち。潮の匂いと海上にたちこめる白い霧。いつまでも慣れることのできない生活でいちばんの喜びは、東京にいたころよりはるかに生き生きとしてみえる長尾の笑顔だったが、彼が漁師仲間の喜寿祝いで紗枝を紹介する、と急に言い出した――閉塞する状況を覆す、漁を生業とする男たちと女たちの日々の営みの力強さ、すこやかさ。圧倒的な生の力を内に秘めた「漁師の愛人」。
〈問題は、私たちが今、幸せであったらいけないと感じていることかもしれない〉
震災から一か月足らず。女三人でシェアハウスして暮らす毎日があの日から一変してしまった。藤子の恋人(カフェ経営者)は、炊き出しボランティアで各地をまわり、ほぼ音信不通。ヨッシは、彼氏がホテルから妻のもとに逃げ帰って以来、微妙な感じ。眞由に至っては、大地震の三日後にこの家を出て行ったきり、帰ってこない。雨もりの修理にたびたびきてくれる63歳の小西とのなにげない会話と、豚ひき肉の新メニュー作り、ビーズ細工のストラップ作りが、余震のさなかの藤子の毎日を支えていたのだが。2011年春の、東京のミクロな不幸と混乱を確かな筆致で描いた「あの日以後」。
その他に【プリン・シリーズ】三篇を所収。


表題作のほか、「少年とプリン」 「老人とアイロン」 「あの日以降」 「ア・ラ・モード」

テイストの違う物語五編である。だが、どの物語もなんらかの鬱屈した想いが押し込められているのが感じられて胸が痛くなる心地である。少年たちも、女たちも、男たちも、愛人も妻も、誰もがままならないなにかを裡へ裡へと押し込めて、押し込めきれないものを溢れさせてぶつけているように見える。そして、そこから抜け出すためには、ある種開き直りのような潔さが必要なのかもしれない。そのとき人はきっと、ひとまわり大きく強くなるのだろう。鬱屈してもどかしくて、だが力強い一冊である。

はなとゆめ*冲方丁

  • 2014/01/09(木) 17:12:27

はなとゆめ (単行本)はなとゆめ (単行本)
(2013/11/07)
冲方 丁

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清少納言は28歳にして帝の后・中宮定子に仕えることになる。内裏の雰囲気に馴染めずにいたが、定子に才能を認められていく。やがて藤原道長と定子一族との政争に巻き込まれ……。美しくも心震わす清少納言の生涯!


清少納言が枕草子を書くに至った経緯と、彼女の華を愛した比類なき生涯の物語である。類稀なる学識と当意即妙の術を持ちながら、容姿を初めとして自分にに自信がなく、人の目を避けるようにしていた彼女の才能を花開かせたのは、まさしく清少納言が華と夢みた中宮定子であった。二人の間に流れる主従関係以上の愛が読む者の心も熱くさせるのである。清少納言が好きになる一冊である。

その鏡は嘘をつく*薬丸岳

  • 2014/01/05(日) 21:26:45

その鏡は嘘をつくその鏡は嘘をつく
(2013/12/11)
薬丸 岳

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エリート医師が、鏡に囲まれた部屋で自殺した。その後、医学部受験を控えた一人の青年が失踪した。正義感に溢れる検事・志藤清正は、現場の状況から他殺の可能性を見破り、独自に捜査を進める。その頃、東池袋所の刑事・夏目信人は池袋の町を歩き、小さな手がかりを見つめていた。二転三転する証言のなかで、検事と刑事の推理が交錯する。乱歩賞作家・薬丸岳が描く、極上の感動長編!


検事と所轄の刑事が別の角度からひとつの事件を追うという状況が珍しく興味深い。それぞれが、各人の信じるところと推理によって捜査を進めていくうちに、真実にたどり着くのだが、アプローチの仕方が全く違っていて、それをお互いが感じていて、上手い具合に影響し合い、絶妙な距離感が生まれている。殺人はどんな理由があるにしろ、決して許されることではないが、真実を知ってしまうと、被害者に同情は全く覚えない。重苦しい物語だが、可能性ということを考えさせてくれる一冊でもある。

卯月の雪のレター・レター*相沢沙呼

  • 2014/01/04(土) 16:49:03

卯月の雪のレター・レター卯月の雪のレター・レター
(2013/11/20)
相沢沙呼

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小袖は読書が好きなおとなしい高校生。法事で祖父のもとを訪ねた際に、従妹から奇妙な質問をされる。「死んだ人から、手紙って来ると思う?」祖父宛に最近届いた手紙は不可解な内容だったが、六年前に亡くなった祖母が昔に書いたもののようだ。それがなぜいまごろになって?誰かの悪戯なの?思い悩んだ小袖は、その手紙の謎をある人物に話すことに…。表題作をはじめ、揺れ動く少女たちの心理を巧みに描いた、鮎川賞作家の最新短編集。


表題作のほか、「小生意気リゲット」 「こそどろストレイ」 「チョコレートに、躍る指」 「狼少女の帰還」

どの物語もちょっとした違和感と、ちょっとしたすれ違い、そしてちょっとした謎に包まれている。ほんの少しほつれてはみ出している糸の端っこに気づきさえすれば、するすると解けて、ほんとうの姿が明るみに出るのに、その端っこになかなか気づけずに、前半ではすとんと納得しきれないもどかしさを感じるのである。しかしひとたび気づいてしまうと、目の前が開けて、まったく別の景色が広がるのが魅力的である。巧みな一冊である。

子育てはもう卒業します*垣谷美雨

  • 2014/01/02(木) 18:48:58

子育てはもう卒業します子育てはもう卒業します
(2013/12/11)
垣谷美雨

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「母親として主婦として頑張ってきたけど、私の人生このまま終わりに向かうの……?」
教育費を捻出するため夫の両親と同居するお受験ママの淳子。
娘には一生続けられる仕事に就いて欲しいと願う専業主婦の明美。
親の猛反対を押し切り結婚したことを後悔するお嬢様育ちの紫。

就職、結婚、出産、子育て、嫁姑、実家との確執、職場復帰……
故郷を離れた18歳から40年、3人は悩みを語り合ってきた。 時には口に出せない痛みを抱えながら――
注目作家が、「親離れ・子離れ」を等身大で描く書下ろし長編小説。


母親たちは、1960年生まれ。現在とは社会情勢も進学就職状況も全く違っていた。女子には短大がまだまだもてはやされ、終身雇用に疑いを抱くこともなかったが、女性はお茶汲みが当然のような時代に、地方から東京の四年制大学に進学した。その場に立ってみれば、それぞれが思い描いた将来とはどんどんかけ離れ、自分の選択に疑問さえ抱くようにもなって、理想と現実のギャップに苛まれて、悶々とするのである。現実のために諦めなければならないことのなんと多いことか。というより、諦めなければならないことばかりな気さえするのである。加えて子どもたちも思った通りには育たない。あっちもこっちも八方塞がりな気分である。それでも、仲好し三人が、離れてしまわずに集まっていたからこそ、閉塞感に風穴を開けることもできたのだろう。お互いいくつになっても親は親、子は子なのだが、もう子育ては卒業して自分自身のために頭も躰も時間も使おうと決めれば、自ずとかかわり方も変わってくるというものだろう。彼女たちのその後も、子どもたちのその後も見てみたいと思わされる一冊である。