人魚猛獣説 スターバックスと私*穂村弘

  • 2014/04/30(水) 16:49:06

人魚猛獣説―スターバックスと私人魚猛獣説―スターバックスと私
(2009/12)
穂村 弘

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人気歌人・穂村弘がスターバックスの謎に迫る。


2008年のクリスマスにスターバックス コーヒー ジャパンのWebサイトで連載した「スターバックス三十一文字解析」に加筆・修正して、一冊にまとめたものだそうである。
一般から募ったスターバックスについての短歌や、熱く語られたコメント欄の内容などを織り交ぜながら綴られる、スターバックスと著者の関係など。いつもの自意識過剰気味の反応も微笑ましいが、ある種、スターバックスあるあるのようでもあって、自分にも当てはまることがたくさんあって笑ってしまう。いますぐスターバックスに行ってみたくなる一冊である。

鏡よ、鏡*飛鳥井千砂

  • 2014/04/30(水) 13:07:08

鏡よ、鏡鏡よ、鏡
(2014/03/19)
飛鳥井 千砂

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佐々木莉南、愛想がよく、モットーはいつも笑顔でいること。コミュニケーション力抜群で、新規のお客さんをつかむのがうまい。でもデータ処理などは苦手。仁科英理子、自分の価値観を大事にし、うわっつらの付き合いを嫌う。言葉がちょっとキツくなりがち。でもメイクの技術に優れているので、お客さんの評価は高い。化粧品会社の美容部員として出会った、莉南と英理子。まるで対照的な相手に惹かれ、親交を深める。だが、あることをきっかけに、二人は人生の選択を迫られる―。現代を生きる女性ふたりの友情と決断の物語。


黒と白、静と動。ことごとく正反対の英理子と莉南が主人公である。初めは、互いに反感を持ち、相手の理不尽さにうんざりしていたのだが、あるきっかけで正面からぶつかり合った後は、ウソのように仲好くなり、正反対であることが余計にふたりを結びつけるのだった。だが二人とも、表の顔とは別に、育った環境に由来するコンプレックスを抱えており、それもあって思いが一度すれ違ってしまうと、修復不可能なまでにこじれてしまうのだった。合わせ鏡を見ているような揺らぎを感じさせられる。五年後の二人が描かれていてよかった。華やかだが根深い一冊である。

嗤う名医*久坂部羊

  • 2014/04/29(火) 16:48:36

嗤う名医嗤う名医
(2014/02/26)
久坂部 羊

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“嫁”の介護に不満を持つ老人(「寝たきりの殺意」)。豊胸手術に失敗した、不運続きの女(「シリコン」)。患者の甘えを一切許さない天才的外科医(「至高の名医」)。頭蓋骨の形で、人の美醜を判断する男(「愛ドクロ」)。ストレスを全て抱え込む、循環器内科医(「名医の微笑」)。相手の嘘やごまかしを見抜く内科医(「嘘はキライ」)。本当のことなんて、言えるわけない。真の病名、患者への不満、手術の失敗。現役医師による、可笑しくて怖いミステリー。


小説だと思えば笑ってしまうような内容だったりもするのだが、これが現役の医師が書いたものとなると、また別な感情も湧いてくる。つい笑ってしまうようなことや、まさかそんなこと、と思われるような事例も、実は現場では頻繁に起こっているのかもしれないと、背筋がうすら寒くなりもするのである。うっかり病気にもなれないと健康を大事に思わせてくれる一冊でもある。

上野池之端 鱗や繁盛期*西條奈加

  • 2014/04/28(月) 16:47:39

上野池之端 鱗や繁盛記上野池之端 鱗や繁盛記
(2014/03/20)
西條 奈加

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なぜみんな気がつかないの? 優しい若旦那の背中で口を開ける蛇の姿に――。騙されて江戸に来たお末の奉公先「鱗や」は料理も接客も三流の料理店だった。少しでもお客を喜ばせたい。お末の願いが同じ志を持つ若旦那に通じ、名店と呼ばれた昔を取り戻すための奮闘が始まった。甦った名物料理と粋なもてなしが通人の噂になる頃、お末は若旦那のもう一つの顔に気づいていく……。美味絶佳の人情時代小説。


料理屋とは名ばかり、連れ込み宿まがいの鱗やが、若旦那と幼い女中の心意気で料理番付に載るまでの料理屋にのし上がる、というだけならばいかにもありそうな物語である。そしてそれだけでも充分に面白いのだが、本作にはその裏側に鱗や自体の由緒やら、ろくでなしの旦那一家の所業やら、菩薩の若旦那とも異名をとるよく働き、客にはもちろん使用人に対する人当たりもいい若旦那の隠された顔など、さまざまな要素が織り交ぜられて読み応え満載なのである。この先の物語もぜひ読みたいと思わされる一冊である。

満願*米澤穂信

  • 2014/04/27(日) 17:01:16

満願満願
(2014/03/20)
米澤 穂信

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人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。期待の若手が放つミステリの至芸! 人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジック。「日常の謎」の名手が描く、王道的ミステリの新たな傑作誕生!


表題作のほか、「夜警」 「死人宿」 「柘榴」 「万灯」 「関守」

どの物語も最後の最後に驚かされる。それもただのどんでん返しではない。人間の心の闇の深淵を覗くような、背筋が寒くなるようで、一瞬にして足元をすくわれたように落ち込んだ気分にさせられるのである。信じたい気持ちと、それでもやはりこのラストが真実なのだと心底ではわかっていたような昏い気持ちの狭間に閉じ込められたような読後感の一冊である。

怒り 下*吉田修一

  • 2014/04/27(日) 08:29:19

怒り(下)怒り(下)
(2014/01/24)
吉田 修一

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愛子は田代から秘密を打ち明けられ、疑いを持った優馬の前から直人が消え、泉は田中が暮らす無人島である発見をする―。衝撃のラストまでページをめくる手が止まらない。『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!


日本全国、あちこちに山神かもしれないと思わせる怪しい人物がいて、なんとなく周りの人たちを不安にさせていながら、決定的な証拠がないまま終わった上巻だったが、下巻では、周りの人たちがそれぞれ疑念の人物に何らかの働きかけをし、それまでの良好な関係を壊してしまう。大切な人を疑う不安と罪悪感、大切な人から疑われる憤りと哀しみが、あまりにも切なく、胸に迫る。そんななかで、山神本人がいちばんしれっと平気な顔をしていたように見えてしまうのはわたしだけだろうか。山神が追われることになった元々の殺人事件は結局彼の死とともに解明されずに終わり、彼が何に怒って犯行以及んだのかは闇のなかであるが、そんな彼に対してこそ強い怒りが湧くのである。翻弄された人たちのあしたが明るいことを祈りたくなる一冊である。

怒り 上*吉田修一

  • 2014/04/25(金) 17:15:21

怒り(上)怒り(上)
(2014/01/24)
吉田 修一

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殺人現場には、血文字「怒」が残されていた。事件から1年後の夏、物語は始まる。
房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。それぞれに前歴不詳の3人の男…。惨殺現場に残された「怒」の血文字。整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!


殺人事件が起きて、刑事が捜査に歩き回る、というだけの図式ではない。もちろん警察の捜査状況も折々に挟みこまれてはいるのだが、それ以外は、房総、新宿、沖縄の離島という離れた場所での、まったく無関係の人々の暮らしが接点のないまま描かれているのである。共通するのは、正体不明の男と知り合っていることだけ。彼らの誰かが殺人犯・山神一也なのだろうか。上巻ではまだヒントさえつかめない。下巻が愉しみな一冊である。

七月のクリスマスカード*伊岡瞬

  • 2014/04/23(水) 17:09:19

七月のクリスマスカード七月のクリスマスカード
(2008/07/01)
伊岡 瞬

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両親の離婚後、母と弟の3人で暮らす小学6年の杉原美緒。無理をしてきた母はアルコールに依存し、入退院を繰り返すようになってしまった。弟とともに母の従妹の薫に引き取られた美緒は、ますます内にこもっていく。そんな折、薫が経営する喫茶店の常連で元検事という初老の男と知り合いになる。美緒は徐々に心を開いていくのだが、彼は過去に娘を誘拐され、その事件は未だ解決されていないことを知る。数年後、成長した美緒は何かに背中を押されたかのように未解決の誘拐事件を探りはじめ、その裏に複雑な人間関係と驚愕の事実が隠されていたことを突き止める―。


小学六年生の少女にとってはあまりにも過酷な家庭環境にあって、美緒は心を閉ざし、周りと関わりを持とうとしなくなっている。母の従妹・薫の古くからの知人である永瀬は、愛娘・瑠璃を誘拐されるという痛ましい想いを抱えながら生きている。薫の店で出会った二人は、互いに何か感じるところがあったのか、次第に打ち解け、頼り頼られる存在になっていく。永瀬の娘の誘拐事件の顛末を間に挟み、時間はずいぶん飛ぶのだが、いくら時が経っても過去の事件が尾を引いており、永瀬の身にも次々と災いが降りかかるのがやるせない。美緒は瑠璃ちゃん事件を追いかけ、真相と思えるところまでたどり着くが、それと同時にいままで自分をがんじがらめにしていた家族の真実にも気づくのだった。だがどちらも、真実が判ったからと言って救われることがないのがあまりにも哀しい。この先の美緒の人生を応援したくなる一冊である。

三毛猫ホームズの あの日まで・その日から*赤川次郎

  • 2014/04/21(月) 06:54:57

三毛猫ホームズのあの日まで・その日から─日本が揺れた日 (光文社文庫)三毛猫ホームズのあの日まで・その日から─日本が揺れた日 (光文社文庫)
(2013/12/05)
赤川 次郎

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二〇一一年三月一一日、日本に激震が走った。新聞連載時、芸術評が主だったコラムは、「その日」から、社会への発言に重心を移した。震災から二年以上を経たが、復興は進まず、原発事故も収束の見通しが立たない。迷走する現代日本の未来のために。作家・赤川次郎からの提言。


あの日までは、オペラのこと、歌舞伎のこと、落語のことなど、わくわくするような平和な話題が並んでいる。そしてその日からは、もちろん芸術評が書かれているのだが、震災とその影響、そしてその対応と未来のことを絡めずには語れなくなっている。ソフトに書かれてはいるが、著者の憤りが溢れ出てくるようである。あの日のこと、その日から我々が歩んできた道を忘れてはいけないと改めて思わされる。そして、われわれが抱いている憂いや危惧を、国を動かす人たちにぜひしっかりと受け止めてほしいと切に願うのである。明るい未来を、と祈る一冊である。

ペテロの葬列*宮部みゆき

  • 2014/04/20(日) 13:06:45

ペテロの葬列ペテロの葬列
(2013/12/20)
宮部 みゆき

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今多コンツェルン会長室直属・グループ広報室に勤める杉村三郎はある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。事件は3時間ほどであっけなく解決したかに見えたのだが―。しかし、そこからが本当の謎の始まりだった!事件の真の動機の裏側には、日本という国、そして人間の本質に潜む闇が隠されていた!あの杉村三郎が巻き込まれる最凶最悪の事件!?息もつけない緊迫感の中、物語は二転三転、そして驚愕のラストへ!『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ待望の第3弾。


杉村三郎シリーズ、これで完結なのだろうか、というのが読後すぐの思いである。杉村が巻き込まれたバスジャック事件を軸に、連帯感を持った人質たちの身を案じ、悪徳詐欺商法の内実に切り込み、広報室内の人間関係に振り回され、今多コンツェルンのなかでの立場に葛藤し、最愛の妻と娘との時間を大切にし……、という物語の本筋はとてもスリルと人情に富んでいて興味深く、ページを繰る手が止まらなかったのだが、やっと一段落したと思った折も折にこの仕打ちはあんまりなのではないだろうか。それでも杉村に、納得してへこたれず強くなれと要求するのか。腑に落ちない気分のままこのシリーズが完結してしまうのは忍びないので、ぜひ北川の遺志を継いで私立探偵になった杉村の姿を続編で書いていただきたい。面白かったのだが、最後の最後でもやもや感が残る一冊である。

二歩前を歩く*石持浅海

  • 2014/04/17(木) 18:21:21

二歩前を歩く二歩前を歩く
(2014/03/19)
石持 浅海

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不可解な謎と論理のアクロバット。
石持ミステリーの真骨頂!!

スリッパが勝手に歩く? 留守の間に風呂場の照明が点く?
現代科学では説明のつかない不思議な出来事。
幽霊のしわざか、はたまた超常現象か?
そこに隠れた法則を見つけ出したとき、意外な真相が浮かび上がる!


表題作のほか、「一歩ずつ進む」 「四方八方」 「五か月前から」 「ナナカマド」 「九尾の狐」

企業の研究所に勤める小泉が同僚や後輩、先輩たちのいささか尋常ではない悩みを聞くうち、論理的に謎を解き明かす連作である。特に変わったところもない小泉が、超常現象かと思われるような謎を、些細な引っ掛かりから少しずつ解き明かしていくのが、なるほどと思わされて興味深い。そしてそれだけでは終わらず、解き明かされた先に見えてくるものの禍々しさと、それまでの日常の謎的流れとの落差に愕然とさせられるのである。なんと恐ろしいことだろう。ぞくぞくする一冊である。

ジンリキシャングリラ*山本幸久

  • 2014/04/16(水) 14:15:41

ジンリキシャングリラジンリキシャングリラ
(2014/03/06)
山本 幸久

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「だったらさ。人力車部、入ってくんない?」by鷭高2年・珠井由紀
“北陸の小江戸"と呼ばれる猫跨市で、市役所に勤める父と2人で暮らす高校一年の雄大は、イケメンなのに女子が苦手でぶきっちょで、おまけに喧嘩っ早い。入学早々に先輩と喧嘩して野球部から退部勧告を受けた直後、一つ上の可愛い先輩・珠井由紀から誘われるままに人力車部へ入部することになった。
そこには、ヨーダと呼ばれる顧問の先生、人気者ではあるがまるでモテない部長の倉掛、唯一の女性車夫で誰よりも男前な先輩・阿武、サボることにかけては誰にも負けない同級生の峰などなど、個性溢れる(?)面々がいて……。
「ずっと彼らと一緒にいたい」と思わずにいられない、愉快で、切なくて、甘ずっぱい物語である。“山本幸久の真骨頂"ともいうべき、読後感さわやかで、心あたたまる青春&家族小説。


まさに山本幸久である。爽やかな汗、ほろ苦くきゅんとする恋心、熱い仲間たち。そこに、父と息子の葛藤、亡き母への思慕、将来の夢、などのスパイスがふりかけられれば、それはもうのめりこむしかないのである。みんなの夢も、恋心もかなうといいなぁ、と思わされる一冊である。

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幸せは97%で*岸本葉子

  • 2014/04/13(日) 16:49:19

幸せは97%で (中公文庫)幸せは97%で (中公文庫)
(2014/02/22)
岸本 葉子

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煮た油あげのほのかな甘みにうっとり、同窓会を前にウキウキ、ドキドキ?動物柄の針山は刺すのにためらう…。世の中が激変しても静かに年を重ねる幸せをかみしめたい。悪戦苦闘しながらも優しい眼差しで悲喜こもごもの日常を綴る。単行本『「こつこつ」と生きたい』に続くブログを元にした文庫オリジナル・エッセイ集。


日々のこと、はまっている食べもののこと、仕事のこと、季節のこと。震災のその日そのとき、そしてその後のことごと。
祈り、戒め、悩み、だがしっかりとひとつひとつを味わい暮らす。親しみの湧く一冊である。

スペードの3*朝井リョウ

  • 2014/04/12(土) 07:27:34

スペードの3スペードの3
(2014/03/14)
朝井 リョウ

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ミュージカル女優のファンクラブまとめ役という地位にしがみついている美知代。地味で冴えないむつ美。かつての栄光は見る影もない女優のつかさ。待ってたって、「革命」なんて起きないから。私の人生を動かしてくれるのは、誰?


どんなに成功しているように見える人でも、自分というものに完璧に満足してはいないのだろう。こうなりたいと思う理想の自分、他者からこういう人だと見られる自分、自分だけが知っている本当の自分。三つの自分の間でもがきながら、努力したり諦めたり妥協したりして生きているのが人間なのかもしれない。持って生まれたものを超えた何者かになることは難しすぎて、三人の女性のもどかしさややり切れなさに、我が事のように胸が痛む。ただ、どの女性についても、尻切れトンボのような印象もあり、――それが狙いなのかもしれないが――それぞれをもっと書ききってほしかったという思いもある。誰でも同じなんだよ、というのが慰めになるかどうかは判らないが、少し救われた心地にもなる一冊である。

イッタイゼンタイ*吉田篤弘

  • 2014/04/10(木) 16:48:26

イッタイゼンタイイッタイゼンタイ
(2013/04/20)
吉田篤弘

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「なおす」という言葉がふたつの意味を持った。かつて「殺し屋」と呼ばれていた者は「なおし屋」となり、かつて「修理屋」と呼ばれていた者も「なおし屋」と呼ばれている。男はこわれたものをなおし、女は男をなおしてゆく。都会の片隅のシュールでコミカルな日常と秘密を描く現代の寓話。


著者の作品のなかでは、いささか趣が違う一冊である。ファンタジーのようでもあり、ホラーのようでもある。そしていま現在我々の身の回りでじわじわと進行していることそのものであるようにも見える。そのときどきの読み手の状態によっていかようにも受け取れてしまうのが興味深くて恐ろしくもある。人間というものは、幾度繰り返しても学ばない生き物なのかもしれないと、やれやれという心持ちにもなる一冊である。

腕貫探偵、残業中*西澤保彦

  • 2014/04/08(火) 18:40:29

腕貫探偵、残業中腕貫探偵、残業中
(2008/04/18)
西澤 保彦

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明晰な推理力をもつ安楽椅子探偵は公務員!

悩める市民の相談ごとが次々に持ち込まれる「市民サーヴィス課臨時出張所」の窓口。そこで対応する職員にして、黒い腕貫を嵌めたその男は、じつに聞き上手。相談者のこみいった個人的事情を聞きだすうちに、奇怪な事件の糸口が…。立て籠もり? 偽装殺人? 詐欺? 轢き逃げ? などなどさまざまな事件も、人間関係をほぐされていくと意外にも…。日常の暗部に恐ろしい罠が待ち受けているのが人生にはちがいないが!? あっけらかんとプライベートな秘密に迫る、嫌味なまでに冷静沈着な腕貫男は神出鬼没なくせに、杓子定規な市民サーヴィス課苦情相談係。そんな腕貫男を慕うエキセントリックな彼女は食いしん坊。オフタイムの腕貫のもとへ難題を持ち込むのだが…。軽妙な筆致でユーモラスに描く、西澤ワールド炸裂の連作ミステリ六編。


「体験のあと」 「雪のなかの、ひとりとふたり」 「夢の通い路」 「青い空が落ちる」 「流血ロミオ」 「人生、いろいろ。」

腕貫探偵、今回は腕貫をはめていない。なぜなら、就業時間後、プライベートタイムだからである。だが、普通のスーツを着ていようが、腕貫をしていなかろうが、彼は厄介事を相談され、ものの見事に解決へと導いてしまうのである。大学生のガールフレンド(?)とのデートの最中であってさえ。相談されやすい体質でグルメ、だが、およそ感情の起伏というものが感じられないこの男は一体何者なのか。ますます興味をそそられるシリーズである。

145gの孤独*伊岡瞬

  • 2014/04/06(日) 17:05:20

145gの孤独145gの孤独
(2006/06)
伊岡 瞬

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プロ野球投手として活躍していた倉沢修介は、試合中の死球事故が原因で現役を引退した。その後、雑用専門の便利屋を始めた倉沢だが、その業務の一環として「付き添い屋」の仕事を立ち上げることになる。そんな倉沢のもとに、ひとりの人妻が訪れる。それは「今週の水曜、私の息子がサッカーの観戦をするので、それに付き添ってほしい」という依頼だった。不可思議な内容に首を傾げながらも、少年に付き添うことになる倉沢。その仕事が終わるや、またも彼女から「来週の水曜もお願いします」という電話が入る。不審に思った倉沢は…。情感豊かな筆致で綴りあげた、ハートウォーミング・ミステリ。第25回横溝正史ミステリ大賞受賞第一作。


プロ野球の試合中の事故で野球選手としてのエリートコースを外れ、便利屋をやっている倉沢に、屈託があることは初めから判っていたが、それが想像以上のものだと明らかになるのは、物語も終わりに近づいてからだった。倉沢の苦しみと、その姿を目の当たりにする周りの人たちの哀しみ、そして願い。少しずつ噛み合わず屈折していくそれぞれの想いがやるせない。そして、倉沢に仕事を斡旋してくれる戸部もまた、とんでもない覚悟を抱え込んでいたのだった。苦しく哀しい人たちの想いが凝縮しているような物語であるが、そんな中にも明日を生きる希望の光が差し込むのだと思わせてもくれる一冊である。

穴*小山田浩子

  • 2014/04/05(土) 17:11:21

穴
(2014/01/24)
小山田 浩子

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仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい―。ごく平凡な日常の中に、ときおり顔を覗かせる異界。『工場』で話題を集めた著者による待望の第二作品集。芥川賞受賞作のほか「いたちなく」「ゆきの宿」を収録。


突き詰めれば、夫の転勤に伴い、同じ県内でも田舎の夫の実家の隣に立つ二階家に引っ越してきた妻が遭遇する少し変わった人たちと、そこでの暮らしに折り合いをつけようとする妻の物語であろう。家賃を払わなくてよくなり、特に好きでもない仕事も辞められていいことばかりのように思えた引っ越しも、移ってみれば当たり前だがいろいろと勝手が違うことがあり、悪意のないすれ違いなどが度重なったりするところへ、不妊の悩みなども加わって、ほんのわずか不安定になっている妻の精神状態そのものの物語のようでもある。客観的に見れば幸せそうであるにもかかわらず、とても不安定で暗い印象なのは、たぶんそんなわけなのではないだろうか。妻・あさひは穴から抜け出せたのだろうか、それとも……。その後が気になる一冊でもある。

腕貫探偵*西澤保彦

  • 2014/04/04(金) 17:17:52

腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿
(2005/07/16)
西澤 保彦

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本格ファンなら見逃せない名探偵が登場!市民サーヴィス課職員の腕貫男が出張所の窓口で、事件の謎を次々と解明する痛快ミステリー。


「腕貫探偵登場」 「恋よりほかに死するものなし」 「化かし合い、愛し合い」 「喪失の扉」 「すべてひとりで死ぬ女」 「スクランブル・カンパニィ」 「明日を覗く窓」

白いシャツに黒っぽいネクタイ、黒い腕貫をはめた市民サーヴィス課職員の男が探偵役となる連作である。市民サーヴィス課の臨時出張所は、大学や病院、繁華街など様々な場所に出没し、しかも心身ともに健やかな者の視界には絶対に入ってこないが、胸に何か心配事やわだかまりがある者の目の前に、なぜかふっと現れるのである。相談事をなんでも受け付けるのがこの腕貫男の仕事であり、相談者の話を聞いて、問題解決のヒントを与えるのである。いわゆる安楽椅子探偵である。しかし、主役とも言うべきこの男の影が薄いので、かえって気になってしまうのである。いずれ彼のことが判る日が来るのだろうか。続編もぜひ読んでみたいシリーズである。

オバさんになっても抱きしめたい*平安寿子

  • 2014/04/03(木) 12:50:21

オバさんになっても抱きしめたいオバさんになっても抱きしめたい
(2014/03/11)
平安寿子

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ビートルズと一人旅を愛する地味系OL・美結(28)にとって、バブルを引きずるお局主任・里佳子(45)は目の上のたんこぶ。能天気なお嬢様で物欲の塊、すぐ「私が若い頃は~」と説教してくるのだ。時代が良かっただけでしょ!我々若者はバブルの犠牲者なのよ!大っ嫌いなのについ見ちゃう。どうして気になっちゃうんだろう?バブル女がムカつくのは、私ができないことを軽々やってのけるからかもしれない。あの女にイライラするのはどうして?ジェネレーション・バトルを描いた痛快長編!


どちらの世代からもずれてはいるが、どちらの言い分もわかる気がする。そして、どんな時代に生きて、どんな価値観のなかで育ったとしても、その場その場の悩みは尽きないものなのだ、というのが実感である。彼女たちを見ていても、どちらの世代もそれなりにしあわせそうで、抱きしめたくなってしまうのである。あしたからの毎日ががらりと変わることはなくとも、自分の視線の角度が少し変わることで、多少なりとも景色が明るく変わればいいな、と思わされる一冊である。

不良になりました。--東京日記4*川上弘美

  • 2014/04/01(火) 18:37:42

東京日記4 不良になりました。東京日記4 不良になりました。
(2014/02/14)
川上 弘美

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川上弘美の人気日記シリーズ、待望の最新作! 東日本大震災、引っ越し、入院、手術……。2010年~2013年は、ほんとうに、いろいろなことがありました。カワカミ・ワールドのエッセンス。


川上弘美ワールド、嬉しいくらい全開である。著者の視線は、平凡な日常をするするとすり抜けて、道をほんのちょっぴりはみ出した物や事や人に止まる。たいがいは、へぇ、そこに引っかかるんだぁ、と思うが、たまに、そうそう、と膝を打ちたくなることがあって、そんなときは躍りだしたいほどうれしかったりする。内容にあっているのかいないのかよくわからない挿絵も味があって素敵である。息子さんもいい味を出していて、これからもどんどん秀逸なひと言を漏らしてほしいと願ってしまう。いつまでも続いてほしいシリーズである。

いつか、虹の向こうへ*伊岡瞬

  • 2014/04/01(火) 07:14:13

いつか、虹の向こうへいつか、虹の向こうへ
(2005/05/24)
伊岡 瞬

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奇妙な同居生活を送っている元刑事の尾木と3人の居候。家出少女が彼らの家に転がり込んできたことをきっかけに、殺人事件に巻き込まれてしまうが……。第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞ダブル受賞作。


このタイトルでハードボイルドだとは思わなかった。正直、ハードボイルドは苦手分野である。本作もむごたらしい乱闘シーンがないわけではない。だが、ただそれだけで終わらない深いところまで沁みとおって傷を癒してくれるような熱がある。あまりに深い哀しみを奥深くに畳み込んだ人と人との、並々ならない繋がりがなんとも言えず切なく、そして嬉しい。絶対に捨てない芯を守っているかのような一冊である。