サイレント・ヴォイス--行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2014/05/30(金) 13:49:13

サイレント・ヴォイス 〜行動心理捜査官・楯岡絵麻 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)サイレント・ヴォイス 〜行動心理捜査官・楯岡絵麻 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
(2012/11/06)
佐藤 青南

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警視庁捜査一課巡査部長で取調官の楯岡絵麻。行動心理学を用いて、相手の仕草や行動パターンから嘘を見破る手腕から、通称「エンマ様」と呼ばれる。幼馴染殺害の容疑がかけられた歯科医、人気俳優の夫を殺害したと自白する国民的女優、クレーマー殺害の容疑がかかる占い師、絵麻の同僚を被疑者に追い込んだ音大生…。取調室で絵麻が被疑者に向かい合うとき、事件の真相が浮かび上がる。


「YESか脳か」 「近くて遠いディスタンス」 「私はなんでも知っている」 「名優は誰だ」 「綺麗な薔薇は棘だらけ」

取り調べ中のほんの一瞬の反応で、被疑者の心理状態を見抜き、言葉とは裏腹の事実を暴く取調官、楯岡絵麻が主人公である。絵麻は、類稀なる美貌の持ち主であり、それを絶妙に利用して被疑者を取り込み、嘘を見破ることから、エンマ様と呼ばれている。実際にこんな人物にみつめられたら、嘘をついていなくても挙動不審になってしまいそうだが、題材としてはとても興味深い。また、これほど鋭い取り調べをする絵麻が、立会刑事の後輩・西岡の気持ちに気づかないのも不思議だが、却ってリアルに感じられる。映像向きの一冊と言えるかもしれない。

風ヶ丘五十円祭の謎*青崎有吾

  • 2014/05/28(水) 17:13:10

風ヶ丘五十円玉祭りの謎風ヶ丘五十円玉祭りの謎
(2014/04/21)
青崎 有吾

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相変わらず学校内に住んでいる裏染天馬のもとに持ち込まれる様々な謎。学食の食品をめぐる不可思議な出来事、吹奏楽部内でのトラブル、お祭りの屋台のお釣りにまつわる謎ほかに、裏染の妹の華麗な謎解きを加えた、全五編+「おまけ」つきの痛快推理連作集。『体育館の殺人』『水族館の殺人』につづくシリーズ第三弾。なな、なんと“平成のエラリー・クイーン”が、日常の謎に挑戦。


表題作のほか、「もう一色選べる丼」 「針宮理恵子のサードインパクト」 「天使たちの残暑見舞い」 「その花瓶にご注意を」 「おまけ 世界一居心地の悪いサウナ」

裏染天馬の浮世離れぶりが、ほんの少々緩和されてきたような気がするのは、ただ単に見慣れたからだろうか。逆に妹の鏡華の実態が兄の伝馬以上に衝撃的で驚きである。大丈夫か袴田柚乃。謎解き自体は、その一瞬でそこまで目配りができるか、と突っ込みたくなることもあるし、そんなオチだったのか、というものもあるが、まあ愉しめた。最後に配されたおまけが、次作以降にどうつながってくるのか愉しみなシリーズである。

オール・ユー・ニード・イズ・ラブ 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2014/05/27(火) 17:06:21

オール・ユー・ニード・イズ・ラブ 東京バンドワゴンオール・ユー・ニード・イズ・ラブ 東京バンドワゴン
(2014/04/25)
小路 幸也

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古書店を舞台にした青の出演映画が公開になり、相変わらず賑やかな堀田家。中学3年生になった研人はますます音楽に夢中。なんと「高校に行かずにイギリスへ渡る」と宣言!さて堀田家の面々の反応は…?勇気を持って人生に立ち向かう人々を、「LOVEだねぇ」の心意気であたたかく包み込む、待望の最新作!老舗古書店“東京バンドワゴン”に舞い込む謎を、大家族の堀田家があふれる人情で解決する人気シリーズ、第9弾!


この一年の堀田家も、事件に満ちている。勘一が入院したり、研人が高校に行かないと言い出したり、勘一の幼馴染の薫子さんが古銭で支払いをしたり、裏の空き家に住む一家が決まったり、自分の絵本を売っておやつを買おうとする子どもがいたり。いてほしいときにいないと言われる我南人が、ここぞというところでその勘の鋭さと人脈の豊富さを発揮して、厄介事を解きほぐしてしまうのも、やはり格好いい。なんだかんだとややこしいことに巻き込まれながらも、平和であたたかい堀田家である。次の一年が愉しみな一冊である。

さいごの毛布*近藤史恵

  • 2014/05/25(日) 18:35:04

さいごの毛布 (単行本)さいごの毛布 (単行本)
(2014/03/26)
近藤 史恵

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年老いた犬を飼い主の代わりに看取る老犬ホームに勤めることになった智美。なにやら事情がありそうなオーナーと同僚、ホームの存続を脅かす事件の数々――。愛犬の終の棲家の平穏を守ることはできるのか?


幼いころから家族とうまくいかず、自分に価値を見いだせないまま世間と折り合えずにいた智美は、友人の紹介で老犬ホームに住み込みで働くことになる。さまざまな事情で飼えなくなった老犬たちの終の棲家となる老犬ホームで、智美はオーナーの麻耶子や同僚の碧、そしてそれぞれの飼い主の事情でここにいる犬たちに接し、求められることで、少しずつ自分を確立していく。犬たちのこと、人間関係のこと、いろいろ考えさせられる物語である。必要とされることの重みとあたたかさを感じさせられる一冊である。

星よりひそかに*柴崎友香

  • 2014/05/24(土) 07:26:04

星よりひそかに星よりひそかに
(2014/04/10)
柴崎 友香

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彼の部屋でラブレターを見つけた女、好きな人だけに振り向いてもらえないOL、まだ恋を知らない女子高生、数カ月で離婚したバーテンダー、恋人に会えない人気モデル、元彼の妻のブログを見るのが止められない二児の母……。みんな"恋"に戸惑っている。
『きょうのできごと』から14年。恋とか愛とかよくわからなくなった"私たち"に、柴崎友香が贈る、等身大の恋の物語。


「五月の夜」 「さっきまで、そこに」 「ほんの、ちいさな場所で」 「この夏も終わる」 「雨が止むまで」 Too Late,Baby」 「九月の近況をお知らせします」

ゆるく繋がった連作集である。並んだタイトルだけ見ても著者らしく、何気ない日常を切り取っているのだろうな、という印象を持つ。自分の想いに戸惑い、もてあましながらも、日々の暮らしは、自分や自分を取り巻く人たちを漏れなくあしたへと運んでいく。流れには逆らわないが、たまにはどこかに引っかかったりしながら、少しずつ前に進んでいる。相変わらず、ちょっとした会話や反応が生きている。なんてことないのに惹きこまれる一冊である。

真夜中のパン屋さん--午前3時の眠り姫*大沼紀子

  • 2014/05/22(木) 19:53:47

真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫 (ポプラ文庫 日本文学)真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫 (ポプラ文庫 日本文学)
(2013/10/04)
大沼紀子

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午前3時――真夜中にオープンする不思議なパン屋さんに現れたのは、ワケアリ男女の二人組。居候女子高生の希実は、彼らが抱える不穏な秘密によって、不本意ながらも、またまた事件に巻き込まれていく。降り止まない雨の中、希実の過去に隠された謎が明らかに……。人気シリーズ第4弾!!


ある晩、希実の従姉妹の沙耶がブランジェリークレバヤシにいきなりやって来てこの物語は始まる。沙耶の事情、希実の事情、そしていまここに希実がいること、さまざまなことが明るみになる、それがきっかけだったのだ。いまの希実には、ブランジェリークレバヤシにかかわる人たちとのしっかりとした信頼関係があるから、こういう展開になっても心が耐えられたのだろう。今回は、希実にとっても沙耶にとっても、いちばん好いところに落ち着いたのだと思う。だがラストでまた問題が提起されているので、次作でまた望みが翻弄されることにならなければいいが、と心配してしまう。
余談だが、ドラマを観た後でシリーズを読むと、必ずと言っていいほどドラマの配役に引きずられるのだが、暮林さんは、読みながらなぜかまったくタッキーにはならない。いままでの暮林さんのイメージのままで読めるので、何となく嬉しくなる。
次回作も愉しみなシリーズである。

桜の咲かない季節*伊岡瞬

  • 2014/05/20(火) 12:52:16

桜の咲かない季節桜の咲かない季節
(2012/08/21)
伊岡 瞬

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インドで襲われ一年後に亡くなった父の『占い拠 七ノ瀬』を継いだ桜子は、客が喜ぶ占いをするのが苦手で、占い師として致命的。そんな桜子を心配して、表に裏にと駆けずり回るのが乾耕太郎だ。ふだんはしがないフリーカメラマンをしている。仕事がないときがよくあるのだが、そんなときは奔走しっぱなし。というのも桜子に気があるからだ。二人の前に立ちはだかる五つの謎を解いて、男を上げろ、耕太郎。


表題作のほか、「守りたかった男」 「翼のない天使」 「ミツオの帰還」 「水曜日の女難」

亡き父・天山の跡を継ぎ占い処を営んでいるが、不吉な予見が得意という、およそ流行そうもない占い師・桜子。父親同士が親しく、父亡きあとは数年天山の家に下宿していたこともある乾耕太郎。桜子の家の一室を仕事場として使わせてもらいながら、ときどき占い処の留守番もする耕太郎だが、天山が亡くなった原因は、自分にあると言ってもよく、いまだに桜子に対して責任を感じ続けている。そんなこともあって、桜子が巻き込まれる謎を解き明かそうと奔走する耕太郎なのである。そもそもの結びつきに影が差しているということを除けば、よくある設定であるが、幼馴染や近所の情報通のおばさんなどがいい味を出していて、古き良き町内会的雰囲気を醸し出しているのがいい感じでもある。この先二人はどうなっていくのか、ちょっと興味がある一冊である。

団地で暮らそう!*長野まゆみ

  • 2014/05/18(日) 11:09:18

団地で暮らそう!団地で暮らそう!
(2014/03/15)
長野 まゆみ

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築50年の団地に移り住んだ平成の青年・安彦くん。間取り2K、家賃3万8000円。いま、めぐりあう不思議な“昭和”。なつかしさいっぱい、謎いっぱい、著者初の団地小説!


昭和の団地レポートのような小説である。本作、読者の年代によって、印象も感想もずいぶん違ってきそうである。まさに憧れの団地生活をした世代や少しでも昭和の匂いを知っている世代にとっては、つつましいながらもしあわせで懐かしい思いに浸れるだろう。だが、平成以降に生まれ、戦後の復興期などまったく知らない世代にとっては、ただの団地レポートでしかないだろう。評価が分かれる一冊であるとは思うが、わたし自身は昭和の真ん中生まれなので、コーダン&コーシャ団地で暮らしたことはないが、懐かしい空気を満喫できて愉しい一冊だった。

暗い越流*若竹七海

  • 2014/05/16(金) 17:02:25

暗い越流暗い越流
(2014/03/19)
若竹 七海

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5年前、通りかかった犬に吠えられ飼い主と口論になった末に逆上し車で暴走、死者5名、重軽傷者23名という事件を引き起こした最低の死刑囚・磯崎保にファンレターが届いた。その差出人・山本優子の素性を調べるよう依頼された「私」は、彼女が5年前の嵐の晩に失踪し、行方が知れないことをつきとめる。優子の家を訪ねた「私」は、山本家と磯崎家が目と鼻の先であることに気づいた。折しも超大型台風の上陸が迫っていた…(「暗い越流」)。第66回日本推理作家協会賞“短編部門”受賞作「暗い越流」を収録。短編ミステリーの醍醐味と、著者らしいビターな読み味を堪能できる傑作集!!


表題作のほか、「蠅男」 「幸せの家」 「狂酔」 「道楽者の金庫」

どの物語も、初めから屈折していて一筋縄ではいかない。どれも気を抜けない面白さである。だが、事件も解決、スッキリした、と安心しそうになる最後の最後に、黒い企みがちらっと顔をのぞかせるのである。その後の展開が――あるとすれば――恐ろしい。それとは別に、お馴染みの葉崎市や葉村晶が登場するものもあって、思わず懐かしい知人と再会したような心持ちにもなる。最後の最後まで気を抜いてはいけない一冊である。

探偵が腕貫を外すとき*西澤保彦

  • 2014/05/14(水) 18:50:18

探偵が腕貫を外すとき探偵が腕貫を外すとき
(2014/03/13)
西澤 保彦

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安楽椅子探偵の新ヒーローは、正体不明な公務員!

腕貫着用、神出鬼没な謎の公務員探偵が、市民の悩みや事件を鮮やかに解明!
そしてついに女子大生ユリエと……!?
お馴染み刑事コンビも登場、今日も櫃洗市は大騒ぎ!
絶好調「腕貫探偵」シリーズ待望の新作短編集!

【あらすじ】
■贖いの顔
三年連続、四月四日の午後四時に鳩の死骸と人の死に直面した配送員。
これは偶然なのか、必然なのか。そして今年もまた、四月四日がやってくる……。

■秘密
四十年前に不倫相手の女性を殺してしまった。
なぜ、彼女の夫はその罪を被ってくれたのか? 夫の葬儀の日、長年の謎が明かされる。

■どこまでも停められて
妻子と別れ、一人マンションに暮らす男。彼が契約した住人専用駐車場に、
決まって月曜の朝に不特定多数のドライバーに無断駐車されてしまう。その理由は?

■いきちがい
女子大生・ユリエが企画した幼稚園の同窓会の最中に、参加者が殺害された。
不可解な遺留品の謎、犯人は? そして動機は?


腕貫探偵には短編の方が向いているように思う。今回も、絶妙な観察力と推理力で相談者をスッキリさせてくれる腕貫さんであった。そして、ユリエとの今後が期待できるような終わり方なのも、ちょっぴりうれしい。櫃洗市から目が離せないシリーズである。

その手をにぎりたい*柚木麻子

  • 2014/05/11(日) 16:41:44

その手をにぎりたいその手をにぎりたい
(2014/01/24)
柚木 麻子

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80年代。都内のOL・青子は、偶然入った鮨店で衝撃を受けた。そのお店「すし静」では、職人が握った鮨を掌から貰い受けて食べる。
青子は、その味に次第にのめり込み、決して安くはないお店に自分が稼いだお金で通い続けたい、と一念発起する。
お店の職人・一ノ瀬への秘めた思いも抱きながら、転職先を不動産会社に決めた青子だったが、到来したバブルの時代の波に翻弄されていく。一ノ瀬との恋は成就するのか?


バブル真っ盛りの地方から出てきたOL青子(せいこ)が主人公の物語である。バブルの恩恵を当然のこととして享受し、その時代を駆け抜けたひとりの女としての青子、そしてまた、どの時代にもいるひとりの女としての青子。ある日上司に連れていかれた銀座の高級すし店「すし静」の職人・一ノ瀬のにぎる寿司に、青子は衝撃を受ける。そして恋に落ちるのである。一ノ瀬になのか、彼のにぎる寿司になのか。儚い泡沫の時代を背景に、青子の生き様が逞しくもあり切なく哀しくもある。熱に浮かされたような時代の恋物語とも言える一冊である。

消えてなくなっても*椰月美智子

  • 2014/05/10(土) 16:50:54

消えてなくなっても (幽ブックス)消えてなくなっても (幽ブックス)
(2014/03/07)
椰月 美智子

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タウン誌の編集をする青年・あおのは、ストレス性の病を抱え、神話の伝説の残る緑深い山中にある鍼灸専門のキシダ治療院を取材で訪れる。どこへ行っても治らないという難病がそこでは治ると評判で、全国から患者が後を立たず訪問する治療院だった。先生に会ってみると明るくさばけており、先生の手伝いとして、同じ年頃の小説家志望のつきのという女性が居候していた。あおのは、自分の治療をかねて、三人暮らしをすることになる。規則正しい暮らし、治療の手伝い、つきのとくだけた本音の付き合いをすることで、あおのの病気は少しずつ回復に向かっていく。そしてついに、あおのは庭先で河童に遭遇する! それが意味するものは……。つきのもあおのも同じように、両親を幼いころ亡くしている。つきのは孤児院に、あおのは親戚に預けられていた。あおのの心を開いたものは何だったのか、二人を結びつけた運命とは……。ラストに用意された大どんでん返しは号泣を誘います。生を願い、死をも恐れない、愛されて人は生まれてきたのだということを思い出させてくれる、生への賛歌。、椰月美智子の最高傑作。本年度、泣ける小説ナンバー1確実。


著者には珍しく、よしもとばななさん的な雰囲気の漂う物語である。精神世界とか、この世ならぬ者との触れ合いなどによって、傷ついた心が少しずつ修復されていく過程は、読んでいる自分も解き放たれていくような解放感と安心感に包まれて――主人公のあおのやつきのの心のなかは不安定であるにもかかわらず――心地好い。これですべてがうまくいく方へ進んでいくのだと思いかけたラスト近くに仕掛けられたどんでん返しは、驚くばかりで、思わず涙を誘われるが、だからこそのこの物語なのだと、次第に納得させられた。心が浄化されるような一冊である。

長女たち*篠田節子

  • 2014/05/09(金) 13:43:47

長女たち長女たち
(2014/02/21)
篠田 節子

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親が老いたとき。頼りされるのはもはや嫁でも長男でもない。無責任な次女、他人事の兄弟…追いつめられた長女の行く末は?痴呆が始まった母のせいで恋人と別れ、仕事も辞めた直美。父を孤独死させた悔恨から抜け出せない頼子。糖尿病の母に腎臓を差し出すべきか悩む慧子…当てにするための長女と、慈しむための他の兄妹。それでも長女は、親の呪縛から逃れられない。親の変容と介護に振り回される女たちの苦悩と、失われない希望を描く連作小説。


「家守娘」 「ミッション」 「ファーストレディー」

主人公は長女。長女と家、あるいは親との関係は、長女以外の家族とはひと味違っているようだなどと、いままで考えたこともなかったが、本作を読むと、確かにほかの家族とはいささか違った立ち位置にいるのかもしれない、と思えてくる。それが、親から教え込まれたものなのか、長女として生まれる宿命を負ったときから刷り込まれているものなのかはわからないが、親との距離感はほかの兄弟姉妹とはいささか違うかもしれない、と気づかされる。自分で望んで長女として生まれてきたわけではない彼女たちは、何を選択し、どう生きればよかったのだろう。逃れられない宿命であるならば、よりよい関係でいたいと心底思わされる一冊である。

スタンダップ・ダブル! 甲子園ステージ*小路幸也

  • 2014/05/07(水) 13:45:03

スタンダップダブル!―甲子園ステージスタンダップダブル!―甲子園ステージ
(2014/03)
小路 幸也

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見た目はそっくりながら性格は対照的な双子―エースピッチャーの青山康一とセンターの健一を擁する神別高校野球部は、北北海道大会を勝ち抜きいよいよ甲子園へ!彼らの不思議な強さの「秘密」と、優勝を目指す特別な「理由」を知る前橋絵里は、全国紙のスポーツ記者。彼女の前に、神別高校の監督・田村と高校時代にチームメイトだったフリーのスポーツライター・塩崎が現われ、神別高校の周囲をしつこいくらいにかぎ回りはじめる。塩崎は、田村との間に因縁があるらしい。絵里は、危険なネタを得意とするルポライター・西島などの応援を得て、なんとか神別高校ナインを守ろうとするが…。


いよいよ甲子園である。あちこちに離れ離れになっているそよ風学園のみんなもきっと見守ってくれているだろう。田村監督の采配の元、康一たちは力むことなく勝ち上がっていく。しかし、そんな選手たちの健闘の陰で、性質のよくないフリーライター塩崎のよからぬ企みがじわじわと進行しているのだった。しかも彼は、山路や田村のかつてのチームメイトでもあるのだ。選手たちがどうやって勝ち抜いていくかにはもちろん興味があるが、陰の闘いからも目を逸らすことができない。そして、いろんな立場からいろんな人が支えてくれていまがあるのだと改めて思わせてくれるラストは、お見事、と言いたくなる。どきどきはらはら、そしてじんわりの一冊である。

明日の雨は。*伊岡瞬

  • 2014/05/05(月) 18:31:04

明日の雨は。明日の雨は。
(2010/10/20)
伊岡 瞬

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「明日の雨は、明日にならなければ降らない」―親父の遺した言葉の意味は、今の俺には分からない。森島巧は公立小学校で音楽の臨時教師として働き始めた23歳だ。音楽家の親の影響で音大を卒業するも、流されるように教員の道に進んでしまう。腰掛け気分で働いていた森島だが、学校で起こる予想外のトラブルに巻き込まれていき…。「M」と教員の間で呼ばれる宮永敏美は連日学校にクレームを付けてくる。今年は新人教師・安西久野がターゲットにされたようだ。ある日、宮永と親しい大柴家でぼや騒ぎが起こる。翌日、宮永が学校に怒鳴り込んできて、ぼや騒ぎの犯人は安西だと断定するのだが…。曇りがちな心を晴れやかにする珠玉の青春ミステリー。


自分自身の身の処し方さえ覚束ない音大卒の23歳・森島巧が主人公である。公立小学校の臨時音楽教師という職をなんとなく得て、流されるままに腰掛け気分で勤め始めた。だがそこには、思ってもいなかったさまざまな――生徒の、保護者の、そして教師の――問題があり、どれも無責任に放っておけるものではなかった。巧は次第に学校の問題に真剣になっていき、生徒の問題にも真剣に向かい合うようになるのである。教師になり切っていないからこそできることもあったかもしれない。流されるままだった巧の成長譚でもあり、熱意を持って臨むことや自分に正直に生きることの大切さを身をもって示す物語でもある。これからますますノリにノッテくる巧の姿をもっと見たいと思わされる一冊である。

モラトリアム・シアター produced by 腕貫探偵*西澤保彦

  • 2014/05/04(日) 08:08:49

モラトリアム・シアターproduced by腕貫探偵 (実業之日本社文庫)モラトリアム・シアターproduced by腕貫探偵 (実業之日本社文庫)
(2012/10/05)
西澤 保彦

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学校関係者が連続死。新任講師・住吉ミツヲは混沌とする記憶を抱えたまま事件に巻き込まれていく。彼は同僚の妻を殺してしまったらしいのだが…。封じられた記憶の鍵を握るのは魔性の女性事務員なのか?交錯する時間軸と人間関係に惑うミツヲを救うため、愛くるしい女子高生、ド派手な女大富豪、腕貫着用の公務員―三人の個性派探偵が集結。幻惑の舞台が開演する。


初めからなにかいわくありげな主人公・住吉ミツヲではある。謎の核心に迫ろうとすると、なにやら記憶があいまいになり、自分自身の行動の確かささえ覚束なくなるのである。そこにすべての真実が隠されているのではないかと気になりつつも、物語は進んでいくのであるが……。あまりにも大がかりなドッキリ企画のような展開に戸惑いもあるが、現実離れしすぎていて却ってお見事と言えないこともない。腕貫探偵の登場が少なかったのはいささか残念である。彼には、辻に立つ易者のように、もっと地道に謎解きをしてもらいたいものである、と改めて思った一冊である。

カレイドスコープの箱庭*海堂尊

  • 2014/05/02(金) 17:12:47

カレイドスコープの箱庭カレイドスコープの箱庭
(2014/03/05)
海堂 尊

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東城大学病院は存続の危機に立たされながらも、運営を続けていた。そんな折、肺癌患者が右葉摘出手術で亡くなったのは、病理医の誤診が原因ではないかとの疑惑が浮上。田口医師は実態を把握せよという高階病院長の依頼を受け、仕方なく、呼吸器外科や病理検査室などの医師や技師たちに聞き取り調査を開始する……。万華鏡のように、見る角度によって様々な形となって姿を現す大学病院。果たして事件の真実とは――。海堂ワールドを俯瞰できる登場人物相関図や、600名近くに及ぶシリーズ全登場人物表なども収録した完全保存版。


巻末の人物相関図などの付録を見ると、ほんとのほんとに最後のようである。著者の頭のなかではこの複雑に絡まる人物相関図が混線せずにクリアになっているのだろうか。今回は、AI国際会議の演者ということで、そうそうたるメンバーが勢ぞろい――しかも愚痴外来に――する場面が見応えがある。謎解きのメインは、患者が手術後に亡くなったのは、検体取り違えか誤診か、ということだが、その調査と国際会議が見事に絡めて進められているのも見事である。出世欲があるわけでもないのに田口先生はどんどん東城大の重鎮になっていくが、これから先の田口先生の活躍も、見たかった。白鳥さんとのコントのようなやり取りが見られなくなるのも寂しいと思わせるシリーズである。