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警視庁特捜班 ドットジェイピー*我孫子武丸

  • 2014/06/30(月) 17:12:33

警視庁特捜班ドットジェイピー警視庁特捜班ドットジェイピー
(2008/06/20)
我孫子 武丸

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警察のイメージアップを図るため、日本のお偉方たちは、安易にも戦隊ヒーローブームにあやかり「警視庁戦隊」を作り、広報活動をさせることにした。部隊名は「警視庁特捜班ドットジェイピー」。ジェイピーはジャパニーズポリスの略。ドットが付くのは、なんか今風だから。集められたのは、性格に大きな難があるものの、格闘、射撃、コンピュータなどの達人にして美男美女の五人の警官。しかし、彼らを逆恨みする犯罪者が現れて…。戦え!世間の眼に負けるな!ドットジェイピー!浅はかで投げやりな平成ニッポンを照射し笑いのめす怪作、誕生。


ソルジャーブルー、デジタルブラック、キューティーイエロー、ビューティーパープル、バージンホワイトというコードネームまである「警視庁特捜班ドットジェイピー」が主人公である。戦隊ヒーローにあやかって、警察のイメージアップのために作られた特捜班である。しかも、警視総監の愛人の何気ないひと言がヒントになって生まれたのである。さらに、集められたメンバーは、それまで配属されていた部署で何らかの問題があり、ある意味厄介者扱いされていた者たちなのである。トラブルが起こらないはずがない。そしてそれが面白い。ふざけているようで、意外に真面目に職務に当たっているのも、はみ出し者と言えども警察官であり、いざというときの連携も――偶然もあるとはいえ――見応えがある。次の活躍も観たい一冊である。

独立記念日*原田マハ

  • 2014/06/29(日) 19:02:37

独立記念日 (PHP文芸文庫)独立記念日 (PHP文芸文庫)
(2012/11/17)
原田 マハ

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恋愛や結婚、進路やキャリア、挫折や別れ、病気や大切な人の喪失…。さまざまな年代の女性たちが、それぞれに迷いや悩みを抱えながらも、誰かと出会うことで、何かを見つけることで、今までは「すべて」だと思っていた世界から、自分の殻を破り、人生の再スタートを切る。寄り道したり、つまずいたりしながらも、独立していく女性たちの姿を鮮やかに描いた、24の心温まる短篇集。


前章で脇役だった人が次の章で主役になる、という緩やかにバトンタッチされていく連作短編である。と思って読み進んだら、最後の章の主役は最初に戻り……、という趣向になっている。どの物語でも主人公はなにかしらの屈託をを抱えているのだが、最後にはさまざまな形で吹っ切り、前向きになっていくのが爽やかな心地にしてくれる。リフレッシュできる一冊である。

珈琲店タレーランの事件簿3*岡崎琢磨

  • 2014/06/28(土) 07:36:15

珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
(2014/03/24)
岡崎 琢磨

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実力派バリスタが集結する関西バリスタ大会に出場した珈琲店“タレーラン”の切間美星は、競技中に起きた異物混入事件に巻き込まれる。出場者同士が疑心暗鬼に陥る中、付き添いのアオヤマと犯人を突き止めるべく奔走するが、第二、第三の事件が…。バリスタのプライドをかけた闘いの裏で隠された過去が明らかになっていく。珈琲は人の心を惑わすのか、癒やすのか―。美星の名推理が光る!


KBC=関西バリスタコンペティションの第五回大会の日程に従って物語は展開する。が、思わせぶりに五年前の場面がプロローグとして描かれているのが、このあと起こる事件のヒントになるのだろうと読者を身構えさせる。当然、どうつながるのかを探りながら読むことになる。その種明かしが、いささか拍子抜けと言えないこともない。ほのぼのとしたエピソードではあるのだが。事件自体は、無理やりな感じもしなくはないが、タレーランを抜け出して謎解きをする美星バリスタもたまにはいいかもしれない。コーヒー豆を挽きながら集中する姿があまり見られなかったのは残念でもある。次はタレーランで会いたいと思う一冊だった。

グレイ*堂城瞬一

  • 2014/06/26(木) 18:41:09

グレイグレイ
(2014/04/25)
堂場 瞬一

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著名な経済評論家・北川啓が主宰する「北川社会情報研究所」。日々の暮らしに汲々としていた大学二年生の波田は、街頭調査のバイトで見込まれ、破格の待遇で契約社員になる。それが運命を大きく狂わせる一歩だとは知らずに…希望に満ちた青年を待ち受ける恐ろしい罠。潰すか、潰されるか。孤独な戦いが始まる。警察小説の旗手が挑むピカレスク・ロマン。


食べたいものも食べられないくらいお金に困っている大学生の波田が、割のいいアルバイトに飛びついたのが発端で、悪の手先として利用され、揚句にとかげの尻尾切りのごとく切り捨てられ、報復しようとする物語である。取り立ててどうということもない学生だった波田が、優秀なバイトと見込まれ、北川社会情報研究所に取り込まれていく過程が、あまりにも抵抗感なくあっけないようにも思えるが、新興宗教さながらの手を使えば、世間知らずの学生などあっけないものなのかもしれない、とも思わされる。波田はおそらく、社会に物申したい下地があったのだろうが、それにしても、切り捨てられたと判ってからの行動も、以前の波田からは考えられなくて、俄かには信じがたい気はする。ただ、こんな風に取り込まれてしまうなら、誰でも波田になる可能性はあるだろうと、背筋が寒くなる一冊である。

かみつき*松久淳+田中渉

  • 2014/06/24(火) 10:01:11

かみつきかみつき
(2014/03/18)
松久 淳、田中 渉 他

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水に触れると人は昏睡してしまう―謎の「新水化」現象により、人類は絶滅への道を緩やかに辿っていた。その事態の打開に選ばれたのは、「かみつき」だった。かつて人の形をしながら、人を襲い、咬み、食い、人々をパニックに陥れ、忽然と消えていった“変異体”たち。そんな、死なない「かみつき」に、人類再生の鍵が隠されていた。そして、捕獲者はいまだゼロ、生還率10%以下というこの危険な任務に就いた男がいた。自分の人生に絶望していた彼は、死に場所を探すようなつもりで探索を始める。しかしそんな彼の目の前に、「かみつき」は現れた…。SFなのか、ホラーなのか、それともこれは予言なのか。2014年度もっとも静かな衝撃を呼ぶ問題作が登場!


SFもホラーも得意分野ではないが、個人的にはそのどちらでもないという印象である。これまで人間がしてきたさまざまな身勝手な行いが断罪されているようである。そしてなにより、人の想いが凝縮している物語でもある。死にながら生きている<かみつき>と、生きながら死んでいる<彼>の微かな、しかし歴然とした交流に胸を打たれさえする。あれこれと想像させられる一冊である。

ひとごと*森浩美

  • 2014/06/23(月) 07:10:26

ひとごと (単行本)ひとごと (単行本)
(2014/02/26)
森 浩美

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交通事故で幼い息子を失い、自分を責め続ける妻。ともに悲しみを乗り越えなければならないはずの夫との間には、次第に亀裂が入っていった。一周忌の法要が終わり、夫は躊躇いながらも、妻に意外な話を切り出すが…。(第一話「桜ひらひら」)。幼い息子を虐待して殺した母親を逮捕―残酷な事件のニュースが、人々の心に起こした波紋…。8組の家族の人生の転換期を、鮮やかな手法で描いた感動の連作集。


「桜ひらひら」 「かたくなな結び目」 「仮面パパ」 「接ぎ木ふたたび」 「親子ごっこ」 「愛情ボタン」 「捨てる理由」 「晴れ、ところにより雨」

<幼い息子を母親が虐待して殺した>というニュースを縦糸に、八つの家族が横糸となって物語が紡がれている。それぞれの家族には何の関係もなく、完全に独立した物語でありながら、遠目で見ると哀しく愛おしい色調が似通っている。そして最後にちいさな光が見えるのも気持ちが救われる。いまは他人事でも、いつ自分のことになるか判らないような、苦しいものが胸に押し寄せてくる一冊でもある。

貘の檻*道尾秀介

  • 2014/06/22(日) 13:46:11

貘の檻貘の檻
(2014/04/22)
道尾 秀介

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真実は「悪夢」の中に隠されている――。幻惑の極致が待ち受ける道尾ミステリーの頂点! あの女が、私の眼前で死んだ。かつて父親が犯した殺人に関わり、行方不明だった女が、今になってなぜ……真相を求めて信州の寒村を訪ねた私を次々に襲う異様な出来事。はたして、誰が誰を殺したのか? 薬物、写真、昆虫、地下水路など多彩な道具立てを駆使したトリックで驚愕の世界に誘う、待望の書下ろし超本格ミステリー!


悪夢と現実が入り交じり、見えていたものが一瞬にしてぐるりと反転して様相を変える。疑わしい人物が実は自分を見守ってくれていたり、信じていた人が初めから自分を欺いていたり。すべてが終わった後でも、実際は誰が誰を殺したのか、どれが事実なのかが定かにはならないような心地である。自分自身さえ信じきることができないような、不安な気分の一冊である。

クラスメイツ 後期*森絵都

  • 2014/06/20(金) 16:57:52

クラスメイツ 〈後期〉クラスメイツ 〈後期〉
(2014/05/14)
森 絵都

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日本のYA文学をきりひらいてきた森絵都が、直木賞受賞後はじめて描く中学生群像。中学1年生24人のクラスメイトたち、その1人1人を主人公にした24のストーリーで思春期の1年間を描いた連作短編集。前期・後期の全2巻。 うれしい出会いや、ささいなきっかけの仲違い、初めての恋のときめきや、仲間はずれの不安、自意識過剰の恥ずかしさや、通じあった気持ちのあたたかさ。子どもじゃないけど大人でもない、そんな特別な時間の中にいる中学生たちの1年間。だれもが身にしみるリアルさを、シリアスなのに笑えて、コミカルなのにしみじみとしたユーモアでくるんだ作品集。


前期で12人、後期で12人、中学一年のクラスメイトそれぞれが主役になった連作物語である。巻順の貸し出しにチェックを入れ忘れて、後期から読むことになってしまったが、クラスの生徒一人一人が主役をバトンタッチする構成なので、何の違和感もなく愉しめる。中学生の世界の広さと狭さが巧みに描かれていて、ときに痛く、ときに微笑ましい。巷間耳にする中学のクラスのなかでは、平和でしあわせなクラスなのではないかと想像する。二年生に進級した彼らの姿も追いかけてみたくなる一冊である。

書店員の恋*梅田みか

  • 2014/06/20(金) 07:48:25

書店員の恋書店員の恋
(2008/10/23)
梅田 みか

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どんな本も、その一冊を必要とする人がいる。誰にでも、その人を必要とする人がいる。主人公は、大手書店チェーンに勤める今井翔子(26)。入社6年目にして文芸コーナーを任せられた、書店員の仕事が大好きな女性。ファミレスの厨房で働く同い年の水田大輔という恋人がいる。彼は翔子のことを真剣に考えているが、今は、心の余裕もお金も将来の展望もない。そこに現れるのが、ケイタイ小説のベストセラー作家で歯科医師の青木譲二(35)。サイン会の打ち上げをきっかけに、翔子に好意を抱きはじめる。セレブの譲二か、先が見えない大輔か……揺れ動く翔子。そうした翔子の恋と仕事の悩みを中心に、短大時代からの親友や同僚がおりなす人間模様。
そして、最後に翔子が選んだ愛とは? お金がなくては生きていけない? でも、お金では幸せになれない? 女性の生き方、本当の愛について問う話題作。思わず涙が溢れてきます。


翔子の心の動きが伝わってくるような物語である。本書の主人公は、(たまたま)書店員の翔子であるが、書店員でなくてもすべての人に思い当たる心情だと思う。譲二さんもいい人なところが悩みどころだなぁ、とつい思ってしまう。悪い人が出てこないのも好感が持てる。大輔と翔子には、いつまでもお互いを大切にしてもらいたいものだと思う一冊である。

コロボックル絵物語*有川浩・作 村上勉・絵

  • 2014/06/19(木) 07:35:51

コロボックル絵物語 (Colobockle Picture Book)コロボックル絵物語 (Colobockle Picture Book)
(2014/04/16)
有川 浩、村上 勉 他

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北海道に住む少女ノリコが、お母さんのお墓の近くで出会った「小さな生き物」。コロボックルの温かな物語の扉が、再び開く―。300万人が愛したコロボックル物語。最終巻刊行から27年、書き下ろし新シリーズ、スタート!


佐藤さとるさんのコロボックル物語は、どの作品かは忘れてしまったけれど、幼いころに一冊読んでわくわくし、あれこれ想像した憶えがある。そして、自分の周りにも絶対にコロボックルさんがいると信じたものだ。バトンを渡されて走り始めた有川版コロボックル物語、はじまりの一冊は、まさにバトンタッチの一冊でもある。これからどんな物語が生み出されていくのか興味津々である。

波形の声*長岡弘樹

  • 2014/06/19(木) 07:23:27

波形の声 (文芸書)波形の声 (文芸書)
(2014/02/14)
長岡 弘樹

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人間の悪意をとことん見据えたまなざし、心温まるどんでん返し、そして切なさはビターに!奥の深い長岡ミステリー最新作7篇!


表題作のほか、「宿敵」 「わけありの街」 「暗闇の蚊(モスキート)」 「黒白(こくびゃく)の暦」 「準備室」 「ハガニアの霧」

胸の中に渦巻くどす黒いものが、ふと日常ににじみ出てくる瞬間を見事にとらえている。大人でも子どもでも、親子でも盟友でも、そんな瞬間はあるものである。だが、それが人間らしさでもあると、本作は思わせてくれる。どんでん返しが心憎い一冊である。

本屋さんのダイアナ*柚木麻子

  • 2014/06/18(水) 13:39:04

本屋さんのダイアナ本屋さんのダイアナ
(2014/04/22)
柚木 麻子

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私の呪いを解けるのは、私だけ――。すべての女子を肯定する、現代の『赤毛のアン』。「大穴(ダイアナ)」という名前、金色に染められたバサバサの髪。自分の全てを否定していた孤独なダイアナに、本の世界と彩子だけが光を与えてくれた。正反対の二人だけど、私たちは一瞬で親友になった。そう、“腹心の友”に――。自分を受け入れた時、初めて自分を好きになれる! 試練を越えて大人になる二人の少女。最強のダブルヒロイン小説。


姉のような歳でキャバ嬢の母と二人暮らしの大穴(ダイアナ)と誰もが羨む家庭環境にある彩子の二人が主人公の物語である。大筋は、彩子が挫折し、ダイアナが思い通りの道を掴み取るという、大方の想像通りではあるが、付随する出来事が、それぞれにとってなかなか過酷に描かれている。だが、それぞれが自分を信じ、自分自身でそれを乗り越えた先で再会し、再び心を通わせる場面は、心底ほっとさせられる。そして、小学校三年生からずっとダイアナを見守り続ける肉屋の武田君がとてもいい。ダイアナの母ティアラも、これほど極端に走らず、もう少し何とかならなかったものかと思いもするが、それでこその物語なのでまあ良しとするか。自分に呪いをかけるのもそれを解くのも、自分だけなのだと改めて思わされる一冊でもある。

私に似た人*貫井徳郎

  • 2014/06/17(火) 07:29:18

私に似た人私に似た人
(2014/04/08)
貫井徳郎

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小規模なテロが頻発するようになった日本。ひとつひとつの事件は単なる無差別殺人のようだが、実行犯たちは一様に、自らの命をなげうって冷たい社会に抵抗する“レジスタント”と称していた。彼らはいわゆる貧困層に属しており、職場や地域に居場所を見つけられないという共通点が見出せるものの、実生活における接点はなく、特定の組織が関与している形跡もなかった。いつしか人々は、犯行の方法が稚拙で計画性もなく、その規模も小さいことから、一連の事件を“小口テロ”と呼びはじめる―。テロに走る者、テロリストを追う者、実行犯を見下す者、テロリストを憎悪する者…彼らの心象と日常のドラマを精巧に描いた、前人未到のエンターテインメント。


十人がそれぞれ主人公になった十の連作短編である。初めは、この人物たちにどんなつながりがあるのだろうという興味で読み進み、次第に小口テロをインターネット上で巧みに唆す<トベ>と名乗る人物への興味も加わり、著者はこの物語にどんな決着をつけるのだろうかという興味もさらに湧いてくる。各章が、必ずしも時系列に並べられているわけではない理由が最後に判り、さまざまなことが腑に落ちる。そもそもの始まりが、思い描いていた<トベ>像とあまりにも違うことに驚かされ、そんなこと――というのは語弊があるかもしれないが――からここまで広がってしまうインターネットの力に改めて恐ろしさも感じる。ないとは言えないレベルの物語なのも厭な感じである。華々しい盛り上がりはないが、ずんずんと胸の奥に迫ってくる一冊である。

忘れ物が届きます*大崎梢

  • 2014/06/13(金) 18:35:00

忘れ物が届きます忘れ物が届きます
(2014/04/18)
大崎 梢

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想い出の中に取り残されていた謎をめぐる、ミステリー珠玉集。

あの事件は、結局誰が犯人で、どう解決されて、彼や彼女はどうかかわっていたのだろう──。
知らされていなかった真相が、時を経て、意外なきっかけから解き明かされる。
多彩な趣向が味わえる、五つのミステリー。


「沙羅の実」 「君の歌」 「雪の糸」 「おとなりの」 「野バラの庭へ」

外側は穏やかに見えて、内側が静かに青く燃えているような印象の物語たちである。思い出のなかのふとした疑問、解かれないままになっている謎。時が経って、風化しようとするそれらに、再び目を向け、解きほぐしていく。知りたいような、そっとしておきたいような、でもやはり知りたくてたまらなくて、身を乗り出してしまうような読書タイムだった。「君の歌」と「おとなりの」は知っている気がするのだが、アンソロジーかなにかに入っていただろうか。ちょっぴり切なく、人の思いやりを感じられる一冊である。

迷子の王様--君たちに明日はない5*垣根涼介

  • 2014/06/11(水) 17:02:43

迷子の王様: 君たちに明日はない5迷子の王様: 君たちに明日はない5
(2014/05/22)
垣根 涼介

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迷い続け、悩み抜いたからこそ、やって来る明日がある。大ヒットシリーズ、堂々完結! 一時代を築いた優良企業にも、容赦なく不況が襲いかかる。凄腕リストラ請負人・村上真介のターゲットになったのは、大手家電メーカー、老舗化粧品ブランド、地域密着型の書店チェーン……そして、ついには真介自身!? 逆境の中でこそ見えてくる仕事の価値、働く意味を問い、絶大な支持を得るお仕事小説、感動のフィナーレ!


表題作のほか、「トーキョー・イーストサイド」 「さざなみの王国」 「オン・ザ・ビーチ」

リストラ請負人・村上真介シリーズ最終章である。今作では、被面接者に対する真介の悩みや葛藤ではなく、リストラされる側の人物それぞれの境遇や胸の裡がつぶさに描かれているのが印象的である。さらに、とうとう真介自身も次のステージをどう生きるかを考えなくてはならない状況になり、心の動きがより興味深くもある。サブタイトルは「君たちに明日はない」だが、それぞれがちゃんと自分の明日を選び取っているのが救いでもある。真介と陽子の明日がどうなるのかも気になるところだし、終わってしまうのが残念なシリーズである。

美雪晴れ--みをつくし料理帖*高田郁

  • 2014/06/10(火) 18:30:42

美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)
(2014/02/15)
高田 郁

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名料理屋「一柳」の主・柳吾から求婚された芳。悲しい出来事が続いた「つる家」にとってそれは、漸く訪れた幸せの兆しだった。しかし芳は、なかなか承諾の返事を出来ずにいた。どうやら一人息子の佐兵衛の許しを得てからと、気持ちを固めているらしい―。一方で澪も、幼馴染みのあさひ太夫こと野江の身請けについて、また料理人としての自らの行く末について、懊悩する日々を送っていた…。いよいよ佳境を迎える「みをつくし料理帖」シリーズ。幸せの種を蒔く、第九弾。


前作では、哀しい出来事が次々に起こり、意気消沈していたつる家の面々である。本作では料理屋「一柳」の主・柳吾と芳の縁談に始まり、いずれつる家を旅立つ澪のあとを任せる板前・政吉も決まり、妻のお臼とともに、つる家に馴染み、あさひ太夫の身請け金を稼ぐ算段も少しずつ見えてきた。誰もがお互いのことを慮るつる家の面々とその周りの人たち。そして、おいしそうに料理をほおばるお客たち、もちろん澪が毎度工夫して拵える料理の数々。どれをとっても胸のなかにぽっと灯がともるようである。最後の最後の特別収録「富士日和」で小松原にも会わせてもらえた。次作では野江ちゃんとじっくり再開できるだろうか。待ち遠しいシリーズである。

あいにくの雨で*麻耶雄嵩

  • 2014/06/08(日) 10:45:14

あいにくの雨で (講談社ノベルス)あいにくの雨で (講談社ノベルス)
(1996/05)
麻耶 雄嵩

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かつて殺人があった廃墟の塔で再び殺人が! 発見者は高校生・烏兎(うと)、獅子丸(ししまる)、祐今(うこん)。死体はその事件の犯人と目され、逃亡していた祐今の父親だった。現場には、塔にむかう雪上の足跡ひとつ。そして三たび殺人は起こった。繰り返される、犯人の足跡がない密室殺人の真相は? 麻耶雄嵩、正面から雪の密室に挑戦!


密室ミステリなのだが、学園ものとしても愉しめる物語である。主人公の高校生烏兎(うと)と、親友同士のようでいて、一風変わった関係に見える獅子丸や祐今(うこん)との日々。塔で起きた過去と現在の殺人事件にかかわるのはもちろん、学校内での秘密の活動でも、三人のそれぞれ違った個性が際立っている。一見いちばん癖がなさそうに見える烏兎の鋭い着眼点と、気づいてしまった故の葛藤が切ない。なかなか愉しませてくれる一冊である。

こちらの事情*森浩美

  • 2014/06/06(金) 17:13:34

こちらの事情こちらの事情
(2007/04)
森 浩美

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『荷物の順番』―「老人介護施設に預けることにしたから、母を送り届けてほしい」。兄に頼まれ、正文は辛い役目を任される。割り切れず、思い悩む正文に、母は諭すように言う。「正文、人の手はふたつしかないからね。もっと大事なものができれば、先に持ってたものは手放さなきゃならない。世の中は順番なんだから」それでいいんだよと。当日、施設の車寄せに着き、いよいよ万感胸に迫った正文は―自分の中の「いい人」にきっと出会える作品集。


「靴ひもの結び方」 「妻のパジャマ」 「荷物の順番」 「葡萄の木」 「晴天の万国旗」 「甘噛み」 「短い通知表」 「福は内」

もう若くはない世代が主人公の短編集である。衰えてくる親との関係、可愛いだけでは済まない子どもたちとのかかわり、解っているようで解らない、近くて遠く遠くて近い夫婦の関係。しあわせも重荷もそれなりに抱えた主人公たちが、日々を暮らし、生きている姿は、不器用でも下手くそでも微笑ましい。周りがあって自分があるということを改めて思わされる一冊でもある。

途中の一歩 下*雫井脩介

  • 2014/06/05(木) 13:10:36

途中の一歩(下)途中の一歩(下)
(2012/08/31)
雫井 脩介

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理想の女は「浮気を許してくれる都合のいい人」と言い切っていたフリーライターの長谷部は、突如として正反対のタイプに惹かれてしまう。結婚を前提に付き合ってほしいと迫るものの、恋愛は自分の気持ちだけでは成立しないという現実にうちのめされる。婚活中のOL・奈留美は、冷凍食品を温めた夕食を取りながら、合コンで一度会ったきりの漫画家にデートのお誘いメールを送信。今までのそっけなさすぎる返信とたび重なるドタキャンのことは忘れて、最後のチャンスに望みを託す。「あなた」の本当の気持ちに光をあてる長編小説。


「夢中の恋慕」 「意中のそっぽ」 「渦中のトホホ」 「連中の闊歩」

上巻でまいた種が、下巻では少しずつ芽を出し始める。闇雲に突き出していた手は、ある程度ターゲットを絞って差し出されるようになり、相手の気持ちを慮るようにもなる。仕事と約束を天秤にかけることもあり、紆余曲折もある。上巻同様、登場人物は地味揃いだが、愛すべきという冠をつけたくなってくる。誰もが仕事にも恋愛にも一生懸命で、不器用ながらその様が微笑ましい。本の見た目よりも断然深い一冊である。

途中の一歩 上*雫井脩介

  • 2014/06/04(水) 13:38:42

途中の一歩(上)途中の一歩(上)
(2012/08/31)
雫井 脩介

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漫画家の覚本は、仕事を愛するあまり食事中もペンを手放さないが、最近はヒット作に恵まれずやる気だけが空回り。独身仲間に説得されて参加した初めての合コンで、信じられないくらい可愛い女の子たちに囲まれ、久々に恋の予感が到来。恋愛相談にのるのが得意な編集者の綾子は、いざ自分のこととなるとなかなか前に踏み出せない。眼中になかった男から猛アプローチを受けたことをきっかけに、秘めていた恋心に決着を付けようとするが、それにはお酒の勢いが必要だった。ヒットメーカー雫井脩介が描く大人のための愛と勇気の物語。


「命中のえくぼ」 「胸中の空っぽ」 「途中の一歩」 「熱中のつるぼ」

かつて一世を風靡したが、現在は鳴かず飛ばずの漫画家・覚本敬彦(かくもとたかひこ)が主人公である。表紙も裏表紙もフカザワナオコ氏の漫画なので、ぱっと見ただけでは誰のなんという作品なのか判らない。まぁ、シリアスではないのだろうとは見当がつく。読み始めると、なんだか地味な男たちが不慣れな女性相手に合コンをしたり、一通のメールに浮足立ったりしているのだが、地味なりにそれぞれキャラクタは個性的で、――好きになれるかどうかは別として――興味深い。軽いタッチで描かれてはいるが、実は結構心の深いところまで踏み込んでいるのでは、とも思わされて、下巻が愉しみである。著者にしては一風変わった一冊である。

結婚相手は抽選で*垣谷美雨

  • 2014/06/02(月) 17:08:39

結婚相手は抽選で結婚相手は抽選で
(2010/07/14)
垣谷 美雨

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少子化対策のため「抽選見合い結婚法」が施行されることになった。この強制見合いに、アキバ系青年は万々歳、田舎で母親と暮らす看護師は、チャンスとばかりにひとりで東京へ。慌てて彼氏に結婚を迫るも、あっさりかわされるOLもいて…。それぞれの見合い事情をコミカルかつ、ハートウォーミングに描いた長編小説。


なんとなく、絶対にないとは言えない気がしなくもない(まわりくどい)設定が哀しくも可笑しい。抽選見合いの当事者になり得る人々の反応が、何ともリアルで、心の動きがものすごくよくわかって苦笑してしまう。面白おかしく愉しみながらも、チクリと勘所を刺される気分もあって、なかなか深い一冊でもある。

殺人犯はそこにいる*清水潔

  • 2014/06/01(日) 17:08:49

殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件
(2013/12/18)
清水 潔

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犯人が野放しになっている? 「桶川ストーカー事件」を手掛けた記者が迫る! 5人の少女が標的になった知られざる大事件。それを追う記者が直面したのは、杜撰な捜査とDNA型鑑定の闇、そして司法による隠蔽だった――。執念の取材で冤罪「足利事件」の菅家さんを釈放へと導き、真犯人を特定するも、警察は動かない。事件は葬られてしまうのか。5年の歳月を費やし、隠された真実を暴きだす衝撃作。


報道を鵜呑みにしてはいけない、と常々思ってはいることだが、本書を読むと、一体何を信じればいいのだろう、と戸惑い、憤りさえ覚えてしまう。警察とは、市民の安全を守り、何を措いても市民の安全安心を脅かす真犯人を捕まえてくれるもの、というのは建前に過ぎないのだろうか。なにを信じればいいのか疑心暗鬼に駆られる中、著者の取材と調査が真実に迫る様子はもどかしさのなかから一条の光が差すようである。そしてそれでも自身の保身ゆえに動かない警察組織には落胆を隠せない。真実を知りたいと切実に思わせる一冊である。