完璧な母親*まさきとしか

  • 2014/07/31(木) 17:03:16

完璧な母親 (単行本)完璧な母親 (単行本)
(2013/10/10)
まさき としか

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友高波琉子(29歳)は、東京のさびれた商店街を歩き、目についたそば屋に入る。テレビのニュース速報で、女が転落した状態で見つかったこと、さらに自分が参考人として追われていることを知る。
私を抱きしめ愛する母は、私を兄の名で呼ぶ。
1981年4月、北関東のT市に暮らす主婦・友高知可子のもとに警察から電話がかかってくる。ひとり息子の波琉(小1)が池で溺れて死亡したという。不育症のため流産を繰り返していた知可子にとって、波琉は結婚8年目でやっと生まれた子供。波琉の誕生日と同じ日に子供を産むことで、波琉を復活させようと考える。波琉子の誕生後、兄の生まれ変わりと言われながら育った波琉子。誕生日には、兄と自分用のプレゼントを受け取り、ケーキには自分の年齢より7本多いろうそくが立てられた。「あなたの体も心も、あなたひとりのものではない」という母の言葉を受け入れ続け母の愛を乞う気持ち、母を憎む気持ちが生まれる。ある日知可子のもとに「さぞ、いい母親なのでしょうね」と一通の手紙が届くが……。一人の掛け替えのない息子の死。それによって歪んでしまった、二つの家族。悩み苦しむ三人の母親、自分の生命の意味を問う三人の子供。彼等が乞う愛、赦しをテーマに家族の愛を書き切る渾身のミステリー長篇。


ミステリかどうかはさて置き、やり切れない物語である。自分を自分として信じられない生のなんと空虚なことか。空っぽの自分の裡側が、愛されるべきだった別の人格で満たされ、ほんとうの自我は否応なく封じ込められる。波琉子の兄・波琉が溺れて亡くなったことで人生が一変してしまった二つの家族の人生が、ある時ふとしたきっかけで交わる。そのことで、動き出したことがよかったのかどうかはよく判らないが、動かなければ何の解決にもならなかったのも確かだろう。完璧な母親がいい母親というわけでもないのだとやり切れない思いでいっぱいになる一冊である。

ホリデー・イン*坂木司

  • 2014/07/30(水) 13:16:37

ホリデー・インホリデー・イン
(2014/05/27)
坂木 司

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「初めまして、お父さん」。
元ヤンでホストの沖田大和の生活が、しっかり者の小学生・進の登場で一変! 思いもよらず突然現れた息子と暮らすことになった大和は、宅配便会社「ハニー・ビー・エクスプレス」のドライバーに転身するが……荷物の世界も親子の世界も謎とトラブルの連続。宅急便会社の仲間や、ホストクラブの経営者で女装のジャスミン、ナンバーワンホストの雪夜らをも巻き込んでの大騒動を描いた『ワーキング・ホリデー』が刊行されたのは2007年。2012年にはその後の大和と進の物語を書いた『ウィンター・ホリデー』が、同年には『ワーキング・ホリデー』が映画化され、人気となっている「ホリデー」シリーズから誕生した、初のスピンアウト短編集が本作『ホリデー・イン』である。
今回は親子の物語ではなく、彼らを取り巻く愛すべき人々のもうひとつの物語。ジャスミン、雪夜、進らそれぞれを主人公にした6編が収録された。
01「ジャスミンの部屋」 …… クラブ経営者が拾った謎の中年男の正体は?
02「大東の彼女」 …… お気楽フリーターの大東の家族には実は重い過去があった
03「雪夜の朝」 …… 完璧すぎるホストの雪夜にだってムカつく相手はいるんだ!
04「ナナの好きなくちびる」 …… お嬢様ナナがクラブ・ジャスミンにはまった理由
05「前へ、進」 …… まだ見ぬ父を探し当てた小学生の進の目の前には――
06「ジャスミンの残像」 …… ヤンキーだった大和とジャスミンの出逢いの瞬間
どの作品も登場人物たちの過去の秘密を明かしつつ、ハートウォーミングな結末は読者を暖かな気持にしてくれる。『和菓子のアン』で大ブレイク中の坂木さんの、さらなる魅力を惹き出すお洒落な作品集だ。


ジャスミンさん、知れば知るほど哀しくて切なくて、しあわせで愛すべきキャラクタである。惚れてしまいそう。そして、登場人物の誰もが、何かしらの屈託を抱えながら、拾われたり、偶然だったり、事情は違うがジャスミンさんの元に集まっている。いましあわせなことがなぜか哀しく感じられ、鼻の奥がつんとしてくる。それぞれの過去を知ることで、お互いの関係により深みが増すように思えるのが嬉しくもある一冊である。

ビタースイートワルツ*小路幸也

  • 2014/07/29(火) 17:15:03

ビタースイートワルツ Bittersweet Waltzビタースイートワルツ Bittersweet Waltz
(2014/07/10)
小路 幸也

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2000年、北千住の“弓島珈琲”。店主の私(弓島大)を過去の事件から救ってくれた恩人で、常連客でもある三栖警部が失踪。三栖さんからとおぼしきメールには“ダイへ”とだけ。私と常連の純也は、早速探索に乗り出す。一方、私が過去に巻き込まれた事件に関わることになったあゆみは、女子大生となり、“弓島珈琲”へ出入りする。そのあゆみが、親友と連絡が取れないというのだが…。


コーヒーブルースのときの僕から、ダイの一人称が私になっているのが、時の経過を思わされる。ダイもいまや40歳を目前にしている。だが相変わらず事件を引き寄せる体質はそのままなようである。周りを固める脇役陣も丹下さんや純平をはじめ、今回のキーパーソンである三栖刑事も相変わらず、というか増々格好よくて、久々に故郷に帰ってきたような嬉しさである。今回も事件はひとつではなく、別方向からダイのところにもたらされるのだが、結局はあちこちで点と点が繋がってひとつの太い流れになってしまう。いままでよりもダイの活躍が目立ったように思えるのは、それだけ経験を積んだということだろう。また数年後に会いたい一冊である。

芸者でGO!*山本幸久

  • 2014/07/28(月) 16:41:36

芸者でGO!芸者でGO!
(2014/07/10)
山本 幸久

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恋するゲイシャガールin八王子!?
5人の芸者が未来へGO!

東京・八王子の置屋「夢民(ゆめたみ)」
に在籍する五人の芸者たち

●弐々(杉浦晴子)元女子高生。大学受験に失敗、恋人とも別れて芸者の道へ。
●未以[みい](沢村紗英)元キャバクラ嬢。年下の男の子に貢ぎ癖が直らない。
●茂蘭[もらん](細井千香)元看護師。大学生の息子がいるシングルマザー。
●兎笛[とてき](望月優希)元女子プロレスラー。女らしくなりたくて芸者の道へ。
●寿奈富[すなふ](田中喜久代)元丸の内OL。憧れの的だが人には言えない秘密が……。

彼女たちは人生の逆境をのりこえて八王子最大の祭り
「八王子まつり」で最高の芸を見せることができるのか。
そしてままならぬ恋の行方は……!?
傑作『ある日、アヒルバス』の笑いと感動再び!
最高に面白くてキュンとくるお仕事&青春&恋愛エンターテインメント!!
山本お仕事小説の新境地!


今回のお仕事小説はなんと芸者!しかも舞台は八王子。八王子に芸者のイメージはまったくなかったのだが、意外に花街としての歴史は古いということを改めて知ってなるほど、と思う。訳アリ五人の芸者ガールたちの仕事や恋や来し方行く末が良いことも悪いこともきらきらしていて魅力的である。アヒルバスのデコさんも大事な役どころで登場し、カキツバタ文具とも縁があり、となかなか粋な計らいもあり、茂蘭姐さんの息子の長治くんといい感じの岡田鞠子ちゃんが、寿奈富姐さんを見ているあたりはもしかして……。なんだかみんな明るい未来に向かっているようで、さすが山本さんという一冊である。美以も佐野君も、しあわせになるに決まっているさ。

MIST*池井戸潤

  • 2014/07/27(日) 08:29:43

MIST(ミスト)MIST(ミスト)
(2002/11)
池井戸 潤

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「守りたい、この町を」高原の集落に侵入した“霧”のような連続殺人犯。受けてたつは唯ひとりの警察官・上松五郎巡査疾る!江戸川乱歩賞作家の最高傑作。


よく知っている著者の作品とは趣を異にするパニックサスペンスである。五年前、東京で起きた「中野の霧事件」の再来のような凄惨な殺人事件が、巡査がひとりしかいない紫野という集落で立て続けに起こる。中野の霧と同じ犯人なのか……。平和な集落が一転、恐怖に包まれる不穏さ、身近な人を疑わざるを得ないやりきれなさ、そしてすぐそこまで迫る魔の手。真犯人が判らないもどかしさと恐ろしさが満ち満ちている。そして何と真犯人は……。恐るべし幼児体験、という一冊である。

ユーミンの罪*酒井順子

  • 2014/07/25(金) 17:05:00

ユーミンの罪 (講談社現代新書)ユーミンの罪 (講談社現代新書)
(2013/11/15)
酒井 順子

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ユーミンの歌とは女の業の肯定である。ユーミンとともに駆け抜けた1973年~バブル崩壊。ユーミンが私達に遺した「甘い傷痕」とは?キラキラと輝いたあの時代、世の中に与えた影響を検証する。


ユーミンを語ると、日本の時代の変遷までわかってしまうという面白さである。そしてユーミンはどの時代でもその先駆けであったのがよく解る。ユーミンの罪とは、つまるところ、その時代時代の女性たちが、ユーミンの歌にあまりにも共感し、その中で自己完結してしまったことかもしれない。「自分の歌が、詠み人知らずの曲として、残っていってほしい」というユーミンの言葉が、あぁやっぱりユーミンだなぁ、と思わされる。さらにユーミン大好きになる一冊である。

あなたへ*森沢明夫

  • 2014/07/23(水) 16:44:30

あなたへ (幻冬舎文庫)あなたへ (幻冬舎文庫)
(2012/10/24)
森沢明夫

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富山の刑務所で作業技官として働く倉島英二。ある日、亡き妻から一通の手紙が届く。そこには遺骨を故郷の海に撤いてほしいと書かれており、長崎の郵便局留めでもう一通手紙があることを知る。手紙の受け取り期限は十二日間。妻の気持ちを知るため、自家製キャンピングカーで旅に出た倉島を待っていたのは。夫婦の愛と絆を綴った感涙の長編小説。


実直な倉島が、妻の遺言に従って、彼女の生まれ故郷に散骨のための旅をする。妻と旅するために買ったキャンピングカーで、妻の遺骨とともに。旅の途上で出会い、ひとときを共に過ごした人たち。妻の故郷で出会い恩を受けた人たち。その不思議なめぐりあわせは、運命を感じさせるものである。妻・洋子の生前の言葉「過去と他人は変えられなくても、未来と自分は変えられる」「人生に賞味期限はない」という言葉とともに、人生の出会いと生きる意味について考えさせられる一冊である。

ブラック・コール--行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2014/07/23(水) 07:24:44

ブラック・コール 行動心理捜査官・楯岡絵麻 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)ブラック・コール 行動心理捜査官・楯岡絵麻 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
(2014/04/04)
佐藤 青南

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行動心理学を用いて相手のしぐさから嘘を見破る、警視庁捜査一課の美人刑事・楯岡絵麻。その手腕から“エンマ様”と呼ばれる。元教え子を8年間監禁した容疑をかけられる美術教師の真相とは。他人のパソコンを遠隔操作して殺人予告を書き込んだ容疑がかかるプログラマーと、彼についた人権派弁護士との対立。そして15年前に絵麻の恩師を殺害した犯人との直接対決など、難事件に挑む!全4話収録。


「イヤよイヤよも隙のうち」 「トロイの落馬」 「アブナい十代」 「エンマ様の敗北」

相変わらずの美貌を誇る楯岡絵麻と威圧的な風貌の西野のコンビの見た目と中身のアンバランスさがなかなかいい。絵麻の嘘を見破る能力がなかったら、どうやって事件を解決するのだろう、という疑問はあるし、推理にいささか思い込みが入りすぎている気がしなくもないが、意外な結末が愉しくもある。恩師、栗原裕子殺害の犯人が見つかったのはよかったが、その結果はなんともすっきりせず、気分がよくない。そこそこ楽しめる一冊である。

純喫茶トルンカ*八木沢里志

  • 2014/07/21(月) 16:40:16

純喫茶トルンカ (徳間文庫)純喫茶トルンカ (徳間文庫)
(2013/11/01)
八木沢 里志

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「純喫茶トルンカ」は美味しい珈琲が自慢のレトロな喫茶店。東京の下町にひっそり佇む店には、魔法をかけられたようなゆっくりとした時間が流れ、高校生の看板娘・立花雫の元気な声が響く。ある日バイトの修一と雫が店に出ていると、女性客が来店。突然「あなたと前世で恋人同士だったんです」と修一に語りだし…。孤独や悲しみを抱えた人々の心がやわらかくドリップされていく…。ほろ苦くも心あたたまる物語。


「日曜日のバレリーナ」 「再会の街」 「恋の雫」

似たような設定の物語がいくつも思い浮かんで、どれがどれだか判らなくなりそうだが、このレトロなたたずまいのトルンカも、商店街のふと見過ごしてしまいそうな路地の奥にある、界隈をねぐらにしている野良猫に導かれなければ知らない人は入ってこないような店である。渋い中年男のマスターと高校生の娘の雫、バイトの大学生修一の三人で切り盛りしている。まさに野良猫に誘われてやってきた千夏が、修一と前世で恋人同士だったと言い始め、どうなることかと思ったが、あたたかく穏やかに解決されていくのだった。登場人物それぞれが何かしらの哀しみを抱えているのだが、お互いを思いやり、見守っていることが伝わってきて、しみじみとした心地にさせられる一冊である。

八月の六日間*北村薫

  • 2014/07/20(日) 17:04:18

八月の六日間八月の六日間
(2014/05/29)
北村 薫

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0歳目前、文芸誌の副編集長をしている“わたし”。ひたむきに仕事をしてきたが、生来の負けず嫌いと不器用さゆえか、心を擦り減らすことも多い。一緒に住んでいた男とは、3年前に別れた。そんな人生の不調が重なったときに、わたしの心を開いてくれるもの―山歩きと出逢った。四季折々の山の美しさ、怖ろしさ。様々な人との一期一会。いくつもの偶然の巡り合いを経て、心は次第にほどけていく。だが少しずつ、けれど確実に自分を取り巻く環境が変化していくなかで、わたしは思いもよらない報せを耳にして…。生きづらい世の中を生きる全ての人に贈る“働く山女子”小説!


「九月の五日間」 「二月の三日間」 「十月の五日間」 「五月の三日間」 そして表題作である「八月の六日間」

読み始めて、著者は北村薫氏ではなく、40代の女性エッセイストだったかと、思わず表紙を見直してしまった。山登りの経験はないので、その辺りのリアルさは判らないが、それでも、装備やらルートやら、山小屋でのあれこれやら、体験した人でないと判らないような臨場感が漂っている。荻原浩氏オバサン説(わたしが勝手に思っているだけだが)に加えて、北村薫氏女性説も唱えたくなる。それを抜きにしても、三年間一緒に暮らした男性と離れ、仕事で責任ある立場になり、古くからの心を許せる友人を喪い、心細さと力強さの間で揺れ動く女性の姿が目の前に立ち上ってくるようで見事である。読んでいる間、くっきりと彼女が目の前にいると思える一冊である。

芥川症*久坂部羊

  • 2014/07/19(土) 16:45:26

芥川症芥川症
(2014/06/20)
久坂部 羊

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あの名作が、現代の病院によみがえる――文豪驚愕の医療小説! 医師と芸術家の不気味な交流を描き出す「極楽変」。入院患者の心に宿るエゴを看護師の視点で風刺する「クモの意図」。高額な手術を受けた患者と支援者が引き起す悲劇「他生門」。介護現場における親子の妄執を写し出す「バナナ粥」……芥川龍之介の代表作に想を得て、毒とユーモアに満ちた文体で生老病死の歪みを抉る超異色の七篇。


「病院の中」 「他生門」 「耳」 「クモの意図」 「極楽変」 「バナナ粥」 「或利口の一生」

タイトルから想像に難くないが、各章のタイトルも見事に芥川作品をもじっていて、しかも内容もそれぞれの作品を思い起こさせる仕掛けに富んでいる。神の領域に限りなく近く思われる医学の世界も、人間の営みの一部であると、可笑し味や悲哀とともに再認識させられる一冊でもある。

あの街で二人は

  • 2014/07/18(金) 17:05:25

あの街で二人は: ‐seven love stories‐ (新潮文庫)あの街で二人は: ‐seven love stories‐ (新潮文庫)
(2014/05/28)
村山 由佳、山本 文緒 他

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私はきっと、探していたんだと思う。迷える恋の行きつく場所を。心が解き放たれる瞬間を――。隠してきた気持ちを打ち明ける決意、恋人未満の男友だちとの転機。そして、平凡な日常を鮮やかに一変させた大恋愛。すべて、あの風景に出会ったことがきっかけだった。全国の「恋人の聖地」を舞台に、七人の作家たちが彷徨う想いを丁寧に紡ぎだす。宝石のようにきらめく最高のアンソロジー。


 村山由佳「アンビバレンス」  六本木ヒルズ展望台/東京シティビュー
 加藤千恵「パノラマパーク パノラマガール」 伊豆の国パノラマパーク/空中公園
 山本文緒「バヨリン心中」 浜名湖かんざんじ温泉
 マキヒロチ「10年目の告白」 ラ チッタデッラ 
 畑野智美「黒部ダムの中心で愛を叫ぶ」 黒部ダムの麓 信濃大町
 井上荒野「最後の島」 牛窓/オリーブ園 幸福の鐘
 角田光代「その、すこやかならざるときも」 かのやばら園

あの街もさまざまあれば、二人もさまざまである。いろんな場所でいろんな二人が、真剣に相手のことを考えているのだと思うと、なんだか胸にあたたかいものが満ちてくる気がする。恋人の聖地と言われる風景を眺めながら、内容はそれぞれでも、誰もが何かを決心している。たとえそれがつらいものであっても、恋する悩みはいいな、と思わされる一冊である。

ボランティアバスで行こう!*友井羊

  • 2014/07/17(木) 17:02:29

ボランティアバスで行こう!ボランティアバスで行こう!
(2013/04/10)
友井 羊

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『このミステリーがすごい! 』大賞優秀賞受賞作家・友井羊のデビュー第二作目! 著者自身もボランティアとして足を運んだ、震災・被災地をテーマ、舞台にしたミステリー。東北で大地震が発生、日本各地からは自衛隊救助をはじめ募金や物資などの支援や、民間団体がバスをチャーターしてボランティアに参加する“ボランティア・バス"が盛んに行われる。就職活動のアピールポイント作りのため、ボランティア・バスを主催することにした大学生の和磨。父が行方不明になった姉弟と知り合いになった女子高校生の紗月。あることから逃亡するため、無理やり乗り込んだ陣内など、さまざまな人がバスに乗り合わせる。それぞれの目的は果たせるのか。被災地で出会う謎と事件が、バスに奇蹟を起こす。


ボランティアバスに乗り合わせた人たちの物語である。被災地にボランティアに行こうと思い定めるまでの経緯、実際に被災地に行って出会った人や出来事、そしてその事情などなど。ボランティアを通して人が成長する物語だとばかり思って読み進めていた。ある意味それも正解ではあるのだが、さらに時間空間を超えたつながりが仕掛けられていたとは。エピローグで一気にぞくぞくした一冊である。

僕はお父さんを訴えます*友井羊

  • 2014/07/16(水) 16:52:07

僕はお父さんを訴えます (『このミス』大賞シリーズ)僕はお父さんを訴えます (『このミス』大賞シリーズ)
(2012/03/09)
友井 羊

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何者かによる動物虐待で愛犬・リクを失った中学一年生の向井光一は、同級生の原村沙紗と犯人捜しをはじめる。「ある証拠」から決定的な疑惑を入手した光一は、真相を確かめるため司法浪人の久保敦に相談し、犯人を民事裁判で訴えることに。被告はお父さん―母親を喪った光一にとっての、唯一の家族だった。周囲の戸惑いと反対を押して父親を法廷に引き摺り出した光一だったが、やがて裁判は驚くべき真実に突き当たる!2012年第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作。


タイトルからして印象的だが、中学一年の光一が実際に父親を訴える物語だと判ってさらに衝撃は増す。推理小説好きのクラスメイトの沙紗(さーしゃ)や弁護士を目指す敦、父と離婚調停中の義母・真季の助けを借りて、裁判に漕ぎつけるのだが、そこで起こったことは、思わず目も耳も塞ぎたくなる事実が明らかにされることだった。たった13歳の少年をここまで追い詰めた父親を許せない思いでいっぱいである。光一がまっすぐ成長して行ってくれることを祈らずにはいられない一冊である。

私がデビューしたころ--ミステリ作家51人の始まり

  • 2014/07/16(水) 07:28:36

私がデビューしたころ (ミステリ作家51人の始まり)私がデビューしたころ (ミステリ作家51人の始まり)
(2014/06/28)
東京創元社編集部

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作家のデビューは、時に小説以上にドラマティックである。「ミステリーズ!」の好評連載に書き下ろしを加えた、豪華執筆陣全51名のエッセイ集。作家を志したきっかけや、新人賞受賞までの道のりなど、デビューまでの波瀾万丈の逸話と作家であり続けるための創作論を、デビュー年順に贈る。51のエピソードで読み解く、戦後日本ミステリ史!


表紙にずらっと並んだお名前を拝見するだけで、わくわくしてくる。一作ならだれでも書ける、とはよく言われることだが、1ページでさえ書ける気がしないわたしから見れば、何作も賞に応募し、それまでにも数々の習作をされているのを見ると、やはり常人には手の届かない才能と情熱が欠かせないことがよく解る。<ぬるっとデビューした>とおっしゃる倉知淳氏にしても、筆力と想像力と創造力があったからこそであろう。運と巡り合いに恵まれたということもあるかもしれないが、それだって才能である。そして、縁の下の力持ちである編集者の偉大さに、改めて尊敬の念を強くさせられるのである。愉しい一冊である。

二千七百の夏と冬 下*荻原浩

  • 2014/07/14(月) 16:56:36

二千七百の夏と冬(下)二千七百の夏と冬(下)
(2014/06/18)
荻原 浩

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紀元前七世紀、東日本―ピナイ(谷の村)に住むウルクは十五歳。野に獣を追い、木の実を集め、天の神に感謝を捧げる日々を送っている。近頃ピナイは、海渡りたちがもたらしたという神の実“コーミー”の噂でもちきりだ。だがそれは「災いを招く」と囁かれてもいた。そんなある日、ウルクは足を踏み入れた禁忌の南の森でカヒィという名の不思議な少女と出会う。


ピナイを追放されたウルクは、南の森の果てをめざし、過酷な旅をしている途中、陽の色のクムゥを倒し、何者かにさらわれて以前であったピナイの人ではない少女カヒィの住むフジミクニに連れてこられる。容貌違い、言葉も通じないフジミクニでは、暮らし方や約束事など何もかもがピナイとは異なっていて、ウルクはなかなか馴染めないが、仕事と棲家を与えられて、なんとかコーミィのことを知ろうと、奮闘する。それをピナイに持ち帰ることをまだあきらめてはいないのだった。2011年の日本では、手をつなぎ合うような二体の古代人骨の発掘が着々と進み、記者発表されることになる。二千七百年前では、ウルクとカヒィは、お腹の子と三人でフジミクニを逃げ出し、フジィを目指すが……。2011年に発掘された二体の古代人骨の事情が読者に明らかにされるとき、切なさと悔しさが胸に迫る。途方もなく壮大で、とても身近な一冊である。

二千七百の夏と冬 上*荻原浩

  • 2014/07/13(日) 16:54:16

二千七百の夏と冬(上)二千七百の夏と冬(上)
(2014/06/18)
荻原 浩

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2011年、夏――ダム建設工事の掘削作業中に、縄文人男性と弥生人女性の人骨が同時に発見された。二体は手を重ね、顔を向け合った姿であった。
3千年近く前、この二人にいったいどんなドラマがあったのか?新聞記者の佐藤香椰は次第にこの謎にのめりこんでいく。
紀元前7世紀、東日本――ピナイの村に住むウルクは15歳。5年前に父を亡くし、一家を支える働き頭だが、猟ではまだまだ半人前扱い。
いろいろと悔しい目にあうことも多い。近ごろ村は、海渡りたちがもたらしたという神の実コーミーの話でもちきりだが、同時にそれは「災いをもたらす」と噂されていた。


縄文人少年と弥生人少女の骨が発見された2011年の夏と、彼らが生きていたであろう二千七百年前とが交互に描かれている。2011年に、こういう形で骨が発見されることになるには、どんな経緯があったのだろう。興味ははるか昔に遡る。当たり前のことだが、二千七百年前の日本で営まれていた人々の暮らしがあったからこそ、2011年の香椰たちがいるのである。なんとわくわくすることか。上巻では、ウルクが掟を破って南の森へ入ったことでピナイを追放され、南の森に入っていったところまでが描かれているが、下巻ではどんな展開になるのか愉しみな一冊である。

御子柴君の甘味と捜査*若竹七海

  • 2014/07/10(木) 21:45:45

御子柴くんの甘味と捜査 (中公文庫)御子柴くんの甘味と捜査 (中公文庫)
(2014/06/21)
若竹 七海

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長野県警から警視庁捜査共助課へ出向した御子柴刑事。甘党の上司や同僚からなにかしらスイーツを要求されるが、日々起こる事件は、ビターなものばかり。上田市の山中で不審死体が発見されると身元を探り(「哀愁のくるみ餅事件」)、軽井沢の教会で逃亡犯を待ち受ける(「不審なプリン事件」)。『プレゼント』に登場した御子柴くんが主役の、文庫オリジナル短篇集。


「哀愁のくるみ餅事件」 「根こそぎの酒饅頭事件」 「不審なプリン事件」 「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」 「謀略のあめせんべい事件」

タイトルには信州名物のスイーツが並ぶが、事件自体はそれらとは無関係で、どれも深刻なものであるのだが、御子柴君の人の好さと随所に出てくるおいしそうなものたちのせいで、つい気を抜いてしまいそうになる。しかも、主人公は御子柴君だが、真の探偵役は、長野にいる上司の小林警部補ではないか。御子柴君の役目はお土産を買ったりチケットを取ったりすることか、と思ってしまうが、たくさんの甘いものとお人好しのキャラで、それも良しとしたくなる。どうしてこういう仕儀になったかは、著者あとがきで明らかにされている。やっぱり御子柴君はそういう役回りだったのね、と思わされる一冊である。

金魚鉢の夏*樋口有介

  • 2014/07/10(木) 12:45:58

金魚鉢の夏金魚鉢の夏
(2014/06/20)
樋口 有介

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社会福祉の大胆な切り捨てで経済大国に返り咲いた近未来の日本。警察の経費削減で捜査を委託された元刑事の幸祐は、夏休み中の孫娘・愛芽と共に、老婆の死亡事件が起こった山奥の福祉施設を訪れる。単なる事故死で片づけるはずが、クセのある施設の人々と接するうちに幸祐の刑事根性が疼きだして…ノスタルジックな夏休みの情景に棄てられた人々の哀しみが滲む傑作ミステリ。


生活保護が廃止され、刑務所の数が減らされ、北硫黄島への流刑制度などというものができ、消費税は廃止されている。北朝鮮は日本の三か所にミサイルを落とし、中国は沖縄に上陸しようとしている。そんな想像に難くない状況の近未来が舞台なので、それだけでわずかに戸惑う。そんな時代の福祉施設で老婆が階段から転落死した事故、あるいは事件の捜査にやってきた退役刑事の幸祐と夏休みで遊びに来ていて運転手を買って出た大学一年の孫娘・愛芽である。単なる事故で処理して、愛芽を草津温泉にでも連れて行こうという目論見は崩れ、次から次へと面倒事に巻き込まれていく幸祐である。高校に通わせてもらっている由季也と父の殺人を目撃して以来声を失った中学生の蛍子のこと、厚労省からきている所長の山本夜宵とのほの甘いひととき。なにもない狭い村の狭い人間関係の中で、これほどの事件が連鎖しているとは俄かには信じがたいようなことが、芋蔓式に暴き出されていく。真相はこのまま闇に葬られてしまうのだろうか。由希也と蛍子のこれからが心配になる一冊である。

平凡*角田光代

  • 2014/07/08(火) 17:08:20

平凡平凡
(2014/05/30)
角田 光代

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つい想像してしまう。もしかしたら、私の人生、ぜんぜん違ったんじゃないかって―― 。もし、あの人と別れていなければ。結婚していなければ。子どもが出来ていなければ。仕事を辞めていなければ。仕事を辞めていれば……。もしかしたら私の「もう一つの人生」があったのかな。どこに行ったって絶対、選ばなかった方のことを想像してしまう。あなたもきっと思い当たるはず、6人の「もしかしたら」を描く作品集。


表題作のほか、「もうひとつ」 「月が笑う」 「こともなし」 「いつかの一歩」 「どこかべつのところで」

あのときあれをしていなかったら、あのときあの人に出会わなかったら、あのときあっちの道を選んでいたら……。人生は選択の連続である。選択し続けたからこそいまの人生があると言っても過言ではないだろう。そんな人生の途中で、ふと振り返り、もしあの時……、と違う選択をしていた自分の現在を想ってみる。平凡に生きることが良いか悪いかは人それぞれだろうが、この道を選んでよかったと思えるように生きたいと思わされる一冊である。

クラスメイツ 前期*森絵都

  • 2014/07/07(月) 12:50:44

クラスメイツ 〈前期〉クラスメイツ 〈前期〉
(2014/05/14)
森 絵都

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日本のYA文学をきりひらいてきた森絵都が、直木賞受賞後はじめて描く中学生群像。中学1年生24人のクラスメイトたち、その1人1人を主人公にした24のストーリーで思春期の1年間を描いた連作短編集。前期・後期の全2巻。 うれしい出会いや、ささいなきっかけの仲違い、初めての恋のときめき、仲間はずれの不安、自意識過剰の恥ずかしさや、通じあった気持ちのあたたかさ。子どもじゃないけど大人でもない、そんな特別な時間の中にいる中学生たちの1年間。だれもが身にしみるリアル。シリアスなのに笑えて、コミカルなのにしみじみとしたユーモアでくるんだ作品集。


小学校を卒業し、中学に入学するというのは、子どもたちにとって特別なことだろう。知っているメンバーも多いとはいえ、きのうまでとはまるで違う世界に放り出されたような心許なさや、いままで知らなかった世界を知ることができるわくわく感が入り交じって、複雑な心持ちでいることと思う。そんな24人がバトンタッチするようにひとりずつ主人公になっていく物語である。人間関係とクラスでの立ち位置を確保するのが彼らにとってどれほど大切なことかがわかるし、クラスという世界がすべての中学生の、まだまだ子どもに見えても大人顔負け、あるいは大人以上の生存競争の激しさに目を瞠ったりもする。24人の彼らが振り返って懐かしいと思えればいいな、と思わされる一冊である。

スマドロ*悠木シュン

  • 2014/07/06(日) 21:05:13

スマドロスマドロ
(2014/05/21)
悠木 シュン

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ひとりの女性のモノローグから物語は始まる。登場人物が繋がっていく複雑な人間関係。
一章ごとに増えていく相関図! 一度読んだらもう一度読みたくなる、パズルのような群像劇!!
第35回小説推理新人賞受賞。選考委員をうならせたデビュー作!


 第一章 スマートクロニクル
 第二章 ジーニアスJr.
 第三章 Dog Eat Dog
 第四章 HERO
 第五章 Mr.レジェンド

各章の最後に記されている人物相関図を見て判るように、章ごとにどんどん人間関係が絡まり合い繋がり合っていく。なんと狭い世界なのだろう。タイトルのスマドロは、世間を騒がすスマートな泥棒であり、その知名度にあやかったアイドルグループ・スイートドロップでもあるのだが、これがタイトルになっている意味がいささか弱いような気がする。相関図がどんどんつながっていく中で、ひとつの出来事が別の角度から描かれることで立体的に浮かび上がってくる面白さはあり、それがもっと幾層にもなっていたらもっと面白かったのではないかと思う。中途半端さが勿体無かった一冊である。

ノックス・マシン*法月綸太郎

  • 2014/07/06(日) 14:29:04

ノックス・マシンノックス・マシン
(2013/03/27)
法月 綸太郎

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上海大学のユアンは国家科学技術局からの呼び出しを受ける。彼の論文の内容について確認したいというのだ。その論文のテーマとは、イギリスの作家ロナルド・ノックスが発表した探偵小説のルール、「ノックスの十戒」だった。科学技術局に出頭したユアンは、想像を絶する任務を投げかけられる…。発表直後からSF&ミステリ界で絶賛された表題作「ノックス・マシン」、空前絶後の脱獄小説「バベルの牢獄」を含む、珠玉の中篇集。


<ノックスの十戒>を題材にした近未来の物語である。紙の本はほぼ滅び、電子書籍に取って代わられ、さらにオートポエティクスという、自動物語生成システムなどというものが構築されている時代である。ロシアではタイムマシンの研究に失敗し続けていた。過去に向かった段階でパラドックスが生まれ、別の時空に行き着くので、始発点である現在に戻ってくることはできないという。そんな折、ノックスの十戒の五番目、「探偵小説には、中国人を登場させてはならない。」という一文に着目し、<NO CHINAMAN>がキーパーソンとなるのではないかと思いついた人物がいた。物理学的な法則の描写などは理解しがたく、読み飛ばしたくもなったが、不思議なタイムトラベルには興味津々である。ミステリマニアが描くSFと言った印象の一冊である。

ケモノの城*誉田哲也

  • 2014/07/05(土) 13:58:10

ケモノの城ケモノの城
(2014/04/18)
誉田 哲也

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ある街で起きた監禁事件。保護された少女の証言に翻弄される警察。そんな中、少女が監禁されていたマンションの浴室から何人もの血痕が見つかった―。あまりにも深い闇に、果たして出口はあるのか?小説でしか描けない“現実”がここにある―。圧倒的な描写力で迫る衝撃のミステリー。


眉を顰めずには読めない描写が随所に出てきて、何度も本を閉じたくなった。こっち系の誉田作品はいささか苦手ではあるが、真相を知りたい欲求が今作では嫌悪感に勝ったと言える。起こっていることが尋常ではないにもかかわらず、渦中の人たちが、犯人を含めてなぜか静かに見えてしまう。それが恐怖のあまり服従せざるを得ないという感じでもなく、精神の根幹から支配され尽くしているといった印象で、そうなる原因をも知りたくなる。こんなことは小説のなかだけのことだと思いたいが、それに近い事件が実際に起きていることを考えると、なおさら背筋が凍る心地である。行われていることそのものよりも、それをしている人間の在りように震えがくる一冊である。

仮面同窓会*雫井脩介

  • 2014/07/04(金) 07:33:41

仮面同窓会仮面同窓会
(2014/03/20)
雫井 脩介

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高校の同窓会で、久しぶりに再会した旧友4人。かつて生徒を囚人扱いしていた教師・樫村の変わらぬ姿を見た彼らは、恨みを晴らそうと仕返しを計画。予定通り、暴行して置き去りにするも、翌日なぜか樫村は暴行現場から2km離れた溜め池で溺死体となって発見された。いったいなぜ?そして、4人のうち誰が彼を殺害したのか?それぞれが疑心暗鬼に陥る中、新たな犠牲者を出した殺人事件が、高校時代の衝撃的な秘密を浮き彫りにさせる。過去と決別できない者たちを巧妙に追い詰めていく悪魔の正体とは?


最初から最後まで、陰から見られているようなもやもやとした気配がつきまとっていた。ときどき現れては語る「俺」とは一体誰なのか、洋輔はどんな秘密を抱えているのか、八真人と希一の関係の真実とは何か、串刺しジョージの正体は……。さまざまな謎が絡まり合って、読むほどにもどかしさを感じる。だがそれ故に、それがどう明かされ収束していくのかが興味深く、惹きこまれるのだが、ラストはさらに救いがなくスッキリしない。何の解決にもならないどころか、さらに厄介な事態になっているではないか。読後ももやもやがあとを引く一冊である。

チョコレートの町*飛鳥井千砂

  • 2014/07/02(水) 07:19:52

チョコレートの町チョコレートの町
(2010/07/21)
飛鳥井 千砂

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不動産会社で店長の遼は、故郷にある店舗に一時的に赴任する。閉塞的な土地柄や何事にもいい加減な家族を嫌っていたが、友人の結婚問題や、父親の退職にまつわるトラブルなどを経て、見方が変わっていく。そして遼自身も自分を見つめ直していた。共感度抜群のエピソードがちりばめられた、一人の青年の成長物語。


日本で四本か五本の指には入るであろう地方都市のすぐ近くの小さな町を故郷に持つ早瀬遼は、東京――と言っても川崎だが――の不動産会社で店長をしている。ある日、故郷の町の支店の店長の不祥事で、臨時店長として赴任し、久々の実家暮らしをすることになるのである。何もかもが中途半端な町や家族にいらいらしながらも、支店の人たちや、前店長の後始末をしに来ている人事部監査室の吉村さんとの関係は良好で、あちこちで出会う同級生たちも何かと声をかけてくれる。反対に、本来自分が店長を務める川崎の店には必要とされていないのではないかと、いささか自信を失ったりもする。自分自身の立ち位置や気持ちの変化に戸惑いながらも、いままで見えていなかった町のこと、家族のことが見えてきて、あれほど嫌っていた町を見直したりもするのだった。自分がほんとうにどうしたいのか、はっきりと答えが出たわけではないが、どこに暮らしていても、帰りたいと思える故郷になったことは間違いなさそうである。読めば故郷を愛していると思わず言ってしまいそうな一冊である。