誰かと暮らすということ*伊藤たかみ

  • 2014/09/28(日) 21:10:25

誰かと暮らすということ誰かと暮らすということ
(2009/10/30)
伊藤 たかみ

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当たり前の幸せは、当たり前そうに見えれば見えるほど手に入れにくいものなのです。うまく気持ちを伝えられない不器用な男女、倒産寸前の店を抱える夫婦、離婚してひとり暮らしを始めた女性…ひとつの町に浮かび上がる、著者新境地のハートウォーミング・ストーリー。


表題作のほか、「セージと虫」 「子供ちゃん」 「やや」 「サッチの風」 「イモムシ色」 「アンドレ」 「サラバ下井草」 

物語の本流は、職場の同期で、存在感のない虫壁知加子と安藤正次が、お互いをなんとなく嫌いではないところから、次第に近づいていく過程である。そこに、彼らが暮らす下井草で、ほんの少しずつかかわった人たちのエピソードが挟み込まれ、緩やかな連作になっている。誰かと暮らすことの自由さと不自由さ、気楽さと窮屈さ、そしてし幸福と少しずつの我慢などをしみじみと思ったりしてみるきっかけになりそうな一冊である。

相互確証破壊*石持浅海

  • 2014/09/27(土) 21:08:55

相互確証破壊相互確証破壊
(2014/07/24)
石持 浅海

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エロスと論理の融合! ストレンジ風味炸裂
情事を映像に残す江見の真の意図は? 深夜のヒッチハイクの真の行く先は? 6人のヒロインと恋人たちの熱いセックスと怜悧な推理。


表題作のほか、「待っている間に」 「三百メートル先から」 「見下ろす部屋」 「カントリー・ロード」 「男の子みたいに」

うーん、やはりこの性描写は好きになれない。それ抜きでも全く支障がないのではないかとしか思えない。というか、それなしで理詰めで推理を展開してくれた方がよっぽどのめり込めるのに、と残念な思いさえしてしまう。二話目からはほとんど飛ばし読みだった一冊。

スターダストパレード*小路幸也

  • 2014/09/27(土) 17:01:26

スターダストパレードスターダストパレード
(2014/09/05)
小路 幸也

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傷心の元暴走族ヘッドが、言葉を失った5歳の少女と逃避行―星屑のようなささやかな僕たちの光。『東京バンドワゴン』の著者が描く極上のハートフル・ミステリー。


ワケアリで服役していたマモル。出所した途端、親しい刑事・鷹原が迎えに来ていて、そのまま彼の車に乗せられる。そこにはハーフの小さな女の子が乗っていた。マモルに課せられた任務は、ニノンちゃんというしゃべることのできない5歳の少女を守り抜くことだった。訳も分からずに流れに乗るしかないマモルだったが、鷹原の話しや、なぜか味方につけてしまった追手の男の話しなどで真相に近いところまで察し、的確な判断ができてしまうのは天性のものだろうか。頼もしいことこの上ない。政治家が関わる事件の常とも言えるように公安との手打ちでおしまいになってしまうのだが、これからの彼ら――特にニノンちゃん――の暮らしは穏やかなものになることだろう。マモルはこの先もまた鷹原に呼び出されそうな気がするが、自分を大切に生きていってほしいと思わずにいられない一冊である。

倒立する塔の殺人*皆川博子

  • 2014/09/24(水) 17:08:50

倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)
(2011/11/17)
皆川 博子

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少女を殺したのは、物語に秘められた毒――戦時中のミッションスクールでは、少女たちの間で小説の回し書きが流行していた。蔓薔薇模様の囲みの中に『倒立する塔の殺人』とタイトルだけ記されたその美しいノートは、図書館の書架に本に紛れてひっそり置かれていた。ノートを手にした者は続きを書き継ぐ。しかし、一人の少女の死をきっかけに、物語に秘められた恐ろしい企みが明らかになり……物語と現実が絡み合う、万華鏡のように美しいミステリー。


女学校というある意味閉ざされ守られた場所が主な舞台であり、さらに戦時下という特殊な心理状況の下であったからこその物語であろう。物語の中で綴りあげられていく物語と、物語の中の現実とが入り組み互いに影響を与え合ってより不可思議な景色を見せているようでもある。時を隔て、ふとした勘違いを利用し、当初は思いもしなかった事実が明らかにされていくのだが、読むうちにだんだんと現実と作中作のどちらが先なのか判然としなくなってくるのがめまいのような感覚で、タイトルとも相まって不思議な心持ちにさせられる一冊である。

四人組がいた。*高村薫

  • 2014/09/22(月) 18:41:11

四人組がいた。四人組がいた。
(2014/08/11)
高村 薫

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元村長、元助役、郵便局長、そしてキクエ小母さん。儲け話と、食い物に目のない老人四人組は、集会所に集まっては、日がな一日茶飲み話を。だがそこへ、事情を知ってか知らぬか、珍客がやって来て―。タヌキのアイドルに、はたまたキャベツの大行進。最後には、閻魔様まで!!現代を、冷静かつ緻密に描写しつづけてきた著者が、今の日本を、地方からユーモアを交えて軽妙かつシニカルに描き出す。奇想天外、ブラックユーモアに満ちた十二編。


思いっきり通俗なのに、何ともファンタジックな物語である。元村長、元助役、郵便局長、キクエ小母さんの四人組は、郵便局兼集会所で日がな一日、あーでもないこーでもないとどーでもいい話に花を咲かせているのだが、時折訪れる珍客を巻き込んで、豚でもないことごとを引き起こすのである。だがそれさえも、ほんとうのことなのか四つ足たちに化かされたのか、ときにあやふやになったりもする。ともかく、何もなくて退屈な村のはずなのだが、何でもありでめまぐるしい日々のように見えるのは、四人組のパワフルさと関係があるのかもしれない。地獄ツアーでも天国ツアーでも、儲け話を拾ってひと波乱起こしてほしいと思わせられる一冊である。

壁と孔雀*小路幸也

  • 2014/09/21(日) 14:17:12

壁と孔雀 (ハヤカワ・ミステリワールド)壁と孔雀 (ハヤカワ・ミステリワールド)
(2014/08/22)
小路 幸也

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警視庁SPの土壁英朗は仕事の負傷で休暇を取り、幼い頃両親の離婚で別れたまま2年前に事故死した母の墓参りに赴く。北海道にある母の実家は町を支配する名家で、今は祖父母と小5の異父弟・未来が住んでいた。しかし初めて会う未来は自分が母を殺したと告げ、自ら座敷牢に篭もっていた。その真意とは?さらに町では謎の事故が相次ぐ。信じるべきものがわからぬまま、英朗は家族を護るため立ち上がる。


タイトルからはどんな物語が始まるのか全く見当がつかなかったが、過酷にもやさしくあたたかい物語が待っていた。警視庁SPの土壁英朗の幼いころ別れた母の実家である北海道の来津平町の篠太家は、その昔の篠太藩から続く家計で、町の有力者であった。警護している政治家の身代わりとなって撃たれ、休暇を取って母の墓参りに来津平にやってきた土壁である。思いのほか歓迎され、異父弟までいたと知って喜ぶのだが、次々と事故が起き、母の死にも何か事情がありそうなので、個人的に調べ始める。同僚や友人たちの協力によって少しずつ見えてくる真相は、思いもかけないものであり、一応の事件解決後の土壁の推理に、さらに驚かされる。ずいぶん大がかりで周到な作戦だ。弟・未来と祖母・桂子とのこれからがあたたかく光あふれるものになるよう祈らずにはいられない一冊である。

ある少女にまつわる殺人の告白*佐藤青南

  • 2014/09/19(金) 16:58:01

ある少女にまつわる殺人の告白ある少女にまつわる殺人の告白
(2011/05/06)
佐藤 青南

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「亜紀ちゃんの話を、聞かせてください」10年前に起きた、少女をめぐる忌わしい事件。児童相談所の元所長や小学校教師、小児科医、家族らの証言を集める男の正体とは…。哀しくも恐ろしい結末が待ち受ける!2011年『このミス』大賞優秀賞受賞作。


ジャーナリストを名乗り、亜紀ちゃんの過去のことを訊ねて回る男は一体誰なのか。幼いころから母の恋人に虐待されていた亜紀ちゃんはどんなふうに育ちどんな人生を送っているのか。さまざまな興味からページを繰る手は止まらない。虐待する親の身勝手に心が波立ち、児童相談所の力の及ばなさには地団太を踏みたくなるようなもどかしさを感じ、亜紀ちゃんの逞しさを応援したくなる。だが……。世間の目から隠された家庭の中で起こっていたことは、想像を超えることだった。そして、男の正体が判ったとき、何も解決されず、なんの光明も見えないラストが待っていて、胸に石をつめこまれたようなやりきれない思いに満たされるのである。深く深くため息をつきたくなる一冊である。

株式会社ネバーラ北関東支社*瀧羽麻子

  • 2014/09/18(木) 12:34:55

株式会社ネバーラ北関東支社 (ダ・ヴィンチブックス)株式会社ネバーラ北関東支社 (ダ・ヴィンチブックス)
(2008/02)
瀧羽 麻子

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東京の大企業でバリバリ働いていた弥生の転職先は、北関東の納豆会社ネバーラ。働きマン、田舎でひと休み…できるのか!?“お仕事+納豆”小説。


失恋して生きる気力を失い、バリバリやっていた仕事をやめて東京を離れた弥生。新たに働きはじめたのは北関東の納豆会社、その名も「ネバーラ」。ひと握りの人間関係、繰り返される日常、何も考えないことで馴染もうとする自分。どうにもならないときは逃げたっていいじゃないか。新しく始めるのがどこだって何だっていいじゃないか、と思わせてくれるほのぼのした中にもほろ苦さのある一冊である。

ストーミー・ガール--サキソフォンに棲む狐Ⅱ*田中啓文

  • 2014/09/17(水) 16:44:10

ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐II (サキソフォンに棲む狐 2)ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐II (サキソフォンに棲む狐 2)
(2014/08/19)
田中 啓文

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父の死の謎と母娘に迫る黒い影が潜む街・新宿で、音楽と運命の嵐が吹き荒れる。さらに典子の音楽の道に立ちはだかる母との対決…。JAZZって何?人生で一番大事なものは何だろう?高校生・典子が、悩んで、苦しんで、楽しんで、疾走っていく本格ジャズ青春小説。ミステリーの楽しみと音楽の喜びが見事に合体した魅力溢れる長編完結編。


サキソフォンと出会い、ジャズと出会い、質屋で運命的に楽器と出会い、典子は運命のように荒波に漕ぎだしていくのである。トモキとは誰なのだろう。父の死の真相は。ジャズとは、自由とは。典子の頭の中は、はてなマークだらけだったが、ひとたびジャズに触れると、考えるより先に躰が動いてしまうのである。知らない方がしあわせだなどと言う人もいるかもしれないが、知った上で前を向いている典子をますます応援したくなる。ジャズのことはまったく知らないが、その漲るものの中に身を置いてみたくなる一冊である。

疾風ロンド*東野圭吾

  • 2014/09/16(火) 09:13:02

疾風ロンド (実業之日本社文庫)疾風ロンド (実業之日本社文庫)
(2013/11/15)
東野 圭吾

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強力な生物兵器を雪山に埋めた。雪が解け、気温が上昇すれば散乱する仕組みだ。場所を知りたければ3億円を支払え―そう脅迫してきた犯人が事故死してしまった。上司から生物兵器の回収を命じられた研究員は、息子と共に、とあるスキー場に向かった。頼みの綱は目印のテディベア。だが予想外の出来事が、次々と彼等を襲う。ラスト1頁まで気が抜けない娯楽快作。


秘密裏に開発していた生物兵器が盗まれ、とある雪山に埋めたので三億円支払え、と強迫されるが、犯人はあっけなく事故死。さあ埋められた場所はどこなのか。早く回収しないと、どれほどの被害が出るか見当もつかない。これ以上ないほどスリリングな設定で、手に汗握る展開なのだが、見当をつけたスキー場に探しに行った栗原自身がスキーが得意ではなく、早々に足を捻って戦線からリタイアする辺りから、なんとなく気が抜け、ハラハラ感が薄らぎ、真実の事情を知らずに創作を請け負ったパトロール隊員たちの活躍が清々しくもあるせいで、さらに危機感は薄れた気がする。だが、状況は二転三転し、まさに紹介分のとおりラスト1ページで思わぬ落ちに出くわすことになるのである。シリアスで気が抜けないのだが、なんとなくほのぼの感も漂う一冊である。

精神科医は腹の底で何を考えているか*春日武彦

  • 2014/09/14(日) 16:58:44

精神科医は腹の底で何を考えているか (幻冬舎新書)精神科医は腹の底で何を考えているか (幻冬舎新書)
(2009/01)
春日 武彦

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精神科医とはどんな人たちなんだろうか。人の心を治療する医者だから、人の心の闇を知り精神の歪みにも精通し、人格的にも高い成長を遂げているはず。だが本当はどうなのか。テレビに出てくるあの人はあやしくないか。臨床体験豊富で熟練の精神科医である著者が、エクソシスト医師、無責任医師、赤ひげ医師、新興宗教の教祖的医師、タレント医師、世間知らず医師などなど累計100名を、裏も表も建前も本音もすべてリアルに描き尽くす。


幸いにして、いまのところ身近に精神科にお世話になっているひとがいないので、単なる興味で手にした一冊である。100名の、というよりは、100の典型的な状況ということなのだと勝手に解釈して読んだが、そのうちのかなりの部分が、著者ご自身のことでもあるのだろう、たぶん。内科や外科とは全く異なる覚悟と姿勢で診療に当たらなければならない医師の葛藤が見て取れて、人の心の複雑さを改めて思い知らされる。絶対的な正解がないからこそ、日々患者に相対して、どれほど真剣になっているかと思うと、崇高な思いにすらなるのである。「治る」ということの意味をも考えさせられる一冊である。

蜂に魅かれた容疑者--警視庁総務部動植物管理係*大倉崇裕

  • 2014/09/13(土) 07:14:50

蜂に魅かれた容疑者 警視庁総務部動植物管理係蜂に魅かれた容疑者 警視庁総務部動植物管理係
(2014/07/10)
大倉 崇裕

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新興宗教団体にかかわる事件で、捜査を指揮していた警視庁の管理官が銃撃された。庁内が緊張に包まれる中、都内近郊の各地ではスズメバチが人を襲う事故が続けて起こる。その中には高速道路を走行する車中で蜂が暴れるという重大な事例も―。本庁の総務部総務課動植物管理係の須藤友三警部補と部下の薄圭子巡査は、捜査一課からの依頼で蜂の事故の調査を始めるが―!?平穏な日常を脅かす小さな「兵器」に、警視庁の「いきものがかり」コンビが立ち向かう!窓際警部補と動物オタクの女性巡査が駆ける!スリルと抱腹の最新警察小説!!


須藤・薄(うすき)の珍コンビ再び、である。相変わらずの薄の常人外れっぷりに思わず頬が緩むが、須藤もすっかり生き物係――というか薄のお守り役――が板についている。生き物は薄、人間は自分、と悟っている感じに悲哀とたっぷりの愛情がにじみ出ているような気がする。薄の場を読まない質問攻撃と、生き物に関する説明攻撃は、ある意味傍迷惑ではあるのだが、それが事件を解決するカギを見つけるのに一役買っているのだから、闇雲に止められないのが痛し痒しで、それがまた面白い。まだまだ続いてほしいシリーズである。

ビブリア古書堂の事件手帖5~栞子さんと繋がりの時~*三上延

  • 2014/09/11(木) 16:25:24

ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)
(2014/01/24)
三上 延

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静かにあたためてきた想い。無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。彼女の答えは―今はただ待ってほしい、だった。ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。邂逅は必然―彼女は母を待っていたのか?すべての答えの出る時が迫っていた。


またまた面倒な事件に首を突っ込んでいる栞子さんなのである。そして、その事件のいくつかは、何と母が彼女を試すために仕掛けているのではないかという疑惑も。さらに、思い切って告白した大輔に五月いっぱいまで返事を保留し、栞子がしなければならないこととは。もどかしくほのぼのとした大輔と栞子の関係と、それを進めるために栞子が乗り越えなくてはならないことに立ち向かい、さらにそのために母の挑戦を受けて謎を解く。栞子さんにとってはなにやら決死の感じでもある。今後のあれもこれも気になるシリーズである。

糸切り--紅雲町珈琲屋こよみ*吉永南央

  • 2014/09/10(水) 17:01:56

糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ
(2014/08/25)
吉永 南央

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紅雲町にある五軒だけの小さな商店街「ヤナギ・ショッピング・ストリート」。雨の日に、そこで落ちていた手紙を拾おうとしたお草は、黒い外車にひかれそうになり、電器店の店先にあるレアなマスコット人形「ドリーム坊や」を壊してしまう。小蔵屋の従業員・久実は、電器店がその修理代金をお草に請求したことに憤慨するのだが…。シリーズ第四弾。


第一話 牡丹餅  第二話 貫入  第三話 印花  第四話 見込み  第五話 糸切り

各章のタイトルは、小蔵屋に置かれている焼き物に関する用語であり、各章では店先にそれにまつわる器が飾られている。今回は、寂れかけた小さな商店街「ヤナギ・ストリート」を舞台として、その建て替えとそれにまつわる人々の思惑が絡まり合い、真田紐を買いに行ったお草さんの身の危険から始まった物語がさまざまに発展していくことになる。小蔵屋にやってくるお客さんたちや商店街の店主たち、ヤナギの設計を任された建築家の弓削さん。いろんな人のいろんな話を聞いて、さまざま想いを巡らし、それぞれの想いを酌んで、できることをするお草さんなのである。小蔵屋のコーヒーをゆったりと飲みに行きたくなるシリーズである。

癒しやキリコの約束*森沢明夫

  • 2014/09/09(火) 06:53:46

癒し屋キリコの約束癒し屋キリコの約束
(2014/08/07)
森沢 明夫

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昭和歌謡を流す純喫茶「昭和堂」のオーナー・霧子は、四十路の美しい女性だが、金にはがめつく、性格はだらしない。営業中でも、お気に入りのロッキングチェアに腰掛けて、漫画片手にビールをごくごく…。雇われ店長として働くアラサー女性・カッキーと、愉快な常連客たちが、なんとか店を支えている。しかも「昭和堂」には裏稼業が…。町の人々の悩みを解決する「癒し屋」だ。噂が噂を呼び、癒しの依頼はひっきりなしだが、依頼者が持ちかける無理難題に、カッキーと常連客たち「アシスタント」はいつも大わらわ。しかも、霧子の奇想天外なアイディアで、結果は必ず予想外の展開へ!そんなある日、店に霧子への殺人予告が届く…。明日への希望が、心をやさしくほぐす、爽快エンタメ小説。


純喫茶・昭和堂の主である霧子さんのマイペースというか、お金への執着や、<わたしが法律>のごとき振舞いにまず目がいく。だが、一見荒療治にも見える霧子さんの癒しの手法に立ち会っているうちに、霧子さんの本質が垣間見られ、次第に雇われ店長のカッキーや個性的過ぎる常連客達が、チームキリコに見えてくる。それぞれが抱えているものの重さや辛さに、胸が痛むこともあるが、そんなこんながあっていまがある、という前向きな気持ちにもなれるのである。霧子さんの覚悟が潔くてほれぼれする一冊である。

まるまるの毬(いが)*西條奈加

  • 2014/09/07(日) 21:09:13

まるまるの毬まるまるの毬
(2014/06/25)
西條 奈加

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武士から転身した変わり種、諸国の菓子に通ずる店の主・治兵衛。菓子のことなら何でもござれ、驚異の記憶力を持つ出戻り娘・お永。ただいま花嫁修業中!ご存じ、南星屋の“看板娘”・お君。親子三代で営む菓子舗「南星屋」。繁盛の理由は、ここでしか買えない日本全国、銘菓の数々。でもこの一家、実はある秘密を抱えていて…。思わず頬がおちる、読み味絶品の時代小説!


表題作のほか、「カスドース」 「若みどり」 「大鶉」 「梅枝」 「松の風」 「南天月」

公方様のご落胤という出自を持つ主・治兵衛が、出戻り娘・お永と孫娘のお君と三人で営む和菓子屋「南星(なんぼし)屋」が舞台の物語である。治兵衛が諸国を旅して見覚えたご当地の菓子を真似て作り、しかも安く売り出すので、南星屋には毎日行列ができる。各章のタイトルは、すべてそれらの菓子の名であり、菓子にまつわる出来事が描かれている。おいしそうな菓子の魅力に思わず惹き込まれるが、それだけではない。主の出自ゆえの屈託や、登場人物たちの情の通い合い、家族のあたたかさにも胸を打たれる。お君の縁談は残念だったが、きっとこの先いいご縁があるに違いない。「南天月」だけではなく、新しいオリジナルの菓子ももっともっと見たいと思わされる一冊である。

蚊がいる*穂村弘

  • 2014/09/06(土) 16:35:17

蚊がいる (ダ・ヴィンチブックス)蚊がいる (ダ・ヴィンチブックス)
(2013/09/13)
穂村弘

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日常生活の中で感じる他者との感覚のズレ、居心地の悪さ、「ある」のに「ない」ことにされている現実……なぜ、僕はあのとき何も云えなかったのだろう。内気は致命的なのか。自称“ふわふわ人間"穂村弘のあたふたっぷりに共感しつつ、その鋭い自分観察と分析は、まさに“永久保存用"の納得感。
フリーマガジン『L25』で連載していた「蚊がいる」、読売新聞「○○のマナー」、週刊文春「かゆいところがわからない」、文芸誌『GINGER L.』の「この辺に埋めた筈」などの人気連載に、ピース・又吉直樹との対談を加えて刊行。
装丁=横尾忠則


折しもデング熱騒動のさなかの現在、いささか物騒なタイトルではある。だがもちろん、デング熱とは露ほどの関わりもない。相変わらず全開のほむほむ節が小気味よい。肯ける部分が多いのはいいことなのかどうなのかは別として、ついつい、そうそう、と膝を打つことも多い。世渡り下手なすべての人に勇気を与える一冊である。ピースの又吉さんとの対談も、うっすらとテンションが低くて好みである。

夏美のホタル*森沢明夫

  • 2014/09/06(土) 07:10:04

夏美のホタル夏美のホタル
(2010/12)
森沢 明夫

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山奥に忘れられたようにぽつんとある、小さくて古びた一軒の店「たけ屋」と、そこで支え合うように暮らしている母子、ヤスばあちゃんと地蔵じいさん。ぼくと夏美は、夏休みの間ずっと「たけ屋」の離れで暮らしてみる―という、なんとも心躍る展開になったのだけれど…。誰かを想うこと誰かの幸せを願うこと。切なくて、あたたかい、心の故郷の物語。


実在の店と人物がモデルなのだそうである。物語と同じ、通りがかりにトイレを借りたのが縁で親しくなったそうである。そこから始まる物語は、都内から車で三時間ほどの場所とは思えないほど自然豊かで、人の知恵でいくらでも愉しく豊かに暮らせるところなのだ。夏美と慎吾の若者二人も、そうやって日常の様々なことを身をもって学びながらひと夏を「たけ屋」の離れで暮らす。その夏は、夏美と慎吾にとっては特別な夏だったが、ヤスばあちゃんや地蔵さんにとってもまた特別なひとときだったのだと、あとになってしみじみ想う。目を閉じると、その夏の風景が鮮やかに浮かんでくるような一冊である。

夜は終わらない*星野智幸

  • 2014/09/05(金) 07:09:00

夜は終わらない夜は終わらない
(2014/05/23)
星野 智幸

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婚約者が自殺したとの一報が入った玲緒奈。千住警察署で悲しみにくれる彼女には、次に殺さなくてはならない別の婚約者がいた。セックスや結婚を餌に次々男を惑わし、財産を巻き上げ、証拠を残さず葬り去るのが日常なのである。そんな玲緒奈には不思議な癖があるのだった。
「生きてる意味があることを証明しないと。ね? 私が夢中になれるようなお話をしてよ」
あの世に送る前、男に語らせるのだ。それは、生い立ちでも、創作した話でも構わない。面白いかどうか、で命の長さが決まっていく。最期の気力を振り絞り話を続ける男たち。鬼気迫るストーリーが展開され、物語のなかの登場人物がまた別の話を語り始めたり、時空を超えた設定のなかにリアルなものが紛れ込んだり……全体の物語のなかにさまざまな短篇が入りくみ、海へと流れる大河として眺望できる大傑作。


男を喜ばせておいて、次々に殺していく女の物語。プロローグではこれ以上ないほど現実的で、これから始まる物語は、玲緒奈と警察の追いかけっこと、彼女の行動の理由を解き明かすものだと想像したのだが、まったくそんな型にはまったものではなかった。初めの内は、まだ現実的なのだが、いつの間にか、男たちに語らせる物語と現実の間に境界がなくなり、物語なのか、男たちの過去のことなのか、それとも玲緒奈自身のことなのか、もしかするとそのすべてなのか判然としなくなり、読者も語られる世界に連れ去られてしまうのである。さまざまな話が語られるのだが、どれもが同じ物語であるようにも思われ、どんなに遠くまで行っても知らぬ間にいまいる場所に戻ってきているような時空を飛び越えた不思議な感覚もある。事件に関しては何の解決もされないので、玲緒奈がそうなっていくのかは想像するしかないのだが、永遠に物語を追い求めて曖昧な境界の世界をさまよい続けるようにも思われる。ほとんど久音の部屋にいたにもかかわらず、あまりにも遠い所へ行き、精神的にも肉体的にも激しい体験をして疲れ切って眠りたいような一冊である。

アクアマリンの神殿*海堂尊

  • 2014/09/02(火) 06:55:25

アクアマリンの神殿 (単行本)アクアマリンの神殿 (単行本)
(2014/06/30)
海堂 尊

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桜宮市にある未来医学探究センター。そこでたったひとりで暮らしている佐々木アツシは、ある深刻な理由のため世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りにつき、五年の時を超えて目覚めた少年だ。“凍眠”中の睡眠学習により高度な学力を身につけていたが、中途編入した桜宮学園中等部では平凡な少年に見えるよう“擬態”する日々を送っていた。彼には、深夜に行う大切な業務がある。それは、センターで眠る美しい女性を見守ること。学園生活に馴染んでゆく一方で、少年は、ある重大な決断を迫られ苦悩することとなる。アツシが彼女のためにした「選択」とは?先端医療の歪みに挑む少年の成長を瑞々しく描いた、海堂尊の新境地長編!


主役は佐々木アツシ。今回はちゃんと目覚めて動いている佐々木アツシである。代わりに日野原涼子が凍眠し、その管理をアツシが任されている。大枠は医療ドラマであるが、描かれている多くが貴重な友人たちとの関わりや学園生活の場面であることもあり、これまでとはいささか趣が違っているのもなかなか新鮮である。そしてちゃんと最後には田口先生も登場し、しっかり役目を果たしているので安心した。完全に夢物語と言ってしまえないところに来ているのかもしれないと思わされる一冊である。