トオリヌケキンシ*加納朋子

  • 2014/10/31(金) 18:47:18

トオリヌケ キンシトオリヌケ キンシ
(2014/10/14)
加納 朋子

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人生の途中、はからずも厄介ごとを抱えることになった人々。でも、「たとえ行き止まりの袋小路に見えたとしても。根気よく探せば、どこかへ抜け道があったりする。」(「トオリヌケ キンシ」より)他人にはなかなかわかってもらえない困難に直面した人々にも、思いもよらぬ奇跡が起きる時がある――。短編の名手・加納朋子が贈る六つの物語。


表題作のほか、「平穏で平凡で、幸運な人生」 「空蝉」 「フー・アー・ユー?」 「座敷童と兎と亀と」 「この出口の無い、閉ざされた部屋で」

場面緘黙症、共感覚、脳腫瘍、相貌失認、脳梗塞、癌。どれもがただならない深刻さである。それが一話ごとの要素となっているのだから、さぞや暗く重い物語なのだろうと思われるが、さにあらず、どれもがなんだか爽やかでほのぼのさせられる物語なのである。何とも不思議な感覚である。それはやはり、たぶん著者ご自身が辛く苦しい体験をくぐり抜けてこられたからということが大きいのだろうと思う。誰だって明るく楽しく日々を生きていいのだ、きっと自分を必要としてくれる人がいるのだ、としみじみと思えてくる。物語同士が何気なくさらりと繋がっているのも嬉しくなる。読み終えても余韻に浸っていたい一冊である。

桃ノ木坂互助会*川瀬七緒

  • 2014/10/30(木) 16:59:25

桃ノ木坂互助会 (文芸書)桃ノ木坂互助会 (文芸書)
(2014/02/14)
川瀬 七緒

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のどかだった町は、すっかり変わってしまった―。移り住んできたよそ者たちの度重なるトラブルに頭を抱えていた桃ノ木坂互助会会長の光太郎。元海自曹長でもある彼は、悪い芽は早く摘まねばと、町に害を及ぼす人物を仲間たちとともに次々と町から追放することに。次なるターゲットは、大家とトラブルを起こしていた男、武藤。しかし、男を狙っていたのは光太郎たちだけではなかった。とある事件を機に、互いの思惑は狂い始め…。江戸川乱歩賞作家の新機軸ミステリー。


『三匹のおっさん』テイストの老人たちの自警団物語かと思いきや、復讐請負人のような沙月という女が現れた時点で、なにやらただならぬ様相を呈してくるのであった。奇しくも両者が同じターゲットを追いつめようとしたことで、互いの存在に気づき、ターゲットの武藤という男も不可思議な状況の原因を追究しようとする性質だったために、さらなる難しい展開になっていく。そこに老人同士の恋の鞘当て的目くらましが割り込んできたりもして、真実が覆い隠されてしまったりもする。ほのぼのどころか空恐ろしい一冊であるのだが、なんだか愉しく読んでしまった。

はじまらないティータイム*原田ひ香

  • 2014/10/28(火) 16:52:58

はじまらないティータイムはじまらないティータイム
(2008/01/05)
原田 ひ香

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甥っ子の博昭が「できちゃった不倫婚」!ミツエは元妻・佐智子を心配して訪ねるが、離婚のショックで彼女が「奇妙な行動」をとっていることを知る。博昭の新妻はミツエの娘に近づき、事態は複雑に…。第31回すばる文学賞受賞作。


博昭の不倫の挙句の離婚&できちゃった結婚をきっかけに、博昭の元妻・佐知子、略奪妻・里美、博昭の伯母・ミツエ、その娘・奈都子の不可思議な関わり合いが始まった。年齢も境遇も違う四人の女が、理解できなかったり、身を案じたり、不本意ながら解るような気がしてしまったりしながら、出口のない関わり合いを続けている。解決すべきことも、解決法もないし、どうしたいのかどうなりたいのかもよく判らないのだが、なんとなく女ってこういうものかもしれないなぁと思わされてしまう一冊である。

愛読者*折原一

  • 2014/10/28(火) 07:10:32

愛読者―ファンレター (文春文庫)愛読者―ファンレター (文春文庫)
(2007/11)
折原 一

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本にサインして送って下さい。写真送りますから、会って下さい―熱狂的読者の要求はエスカレートし、やがて悲劇が…(「覆面作家」)、作家の了解も得ず講演会を企画する図書館司書(「講演会の秘密」)、下手な小説を送りつけ添削せよと迫る作家志望者(「ファンレター」)他、覆面作家・西村香を巡る怪事件の数々。


上記のほか、「傾いた密室」 「二重誘拐」 「その男、凶暴につき」 「消失」 「授賞式の夜」 「時の記憶」

連作短編だが、ひと連なりの長編としても読める。覆面作家・西村香、と聞いて、まずあの方に似ているな、と思わされるのだが、あの方のネタ晴らし的な物語ではない。手紙やFAXのやり取りが大部分を占めており、しかも毎回西村香のしてやったり的どんでん返しが待ち受けている。なにやらざわざわと不穏でありながら、可笑しみたっぷりな一冊である。

Wonderful Story

  • 2014/10/27(月) 06:51:07

Wonderful StoryWonderful Story
(2014/10/08)
伊坂 幸犬郎、貫井 ドッグ郎 他

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伊坂幸太郎・大崎梢・木下半太・横関大・貫井徳郎――当代きっての人気作家5人が、「犬」にちなんだペンネームに改名(!?)して夢の競演。犬をテーマにした五つの物語が紡ぎ出された……。
昔話でおなじみの犬もいれば(伊坂幸犬郎「イヌゲンソーゴ」)、地名の由来になった犬もいる(犬崎梢「海に吠える」)。はたまた、悪者が連れてきた犬もいるし(木下半犬「バター好きのヘミングウェイ」)、人のために働く盲導犬や(横関犬「パピーウォーカー」)、やたらと見つめてくる犬も……(貫井ドッグ郎「犬は見ている」)。
個性豊かな犬たちが踊る、前代未聞の小説“ワンソロジー"、ここに登場!


名前の一部が犬になっても、それぞれの作家さんの個性はそのままで、さらに犬しばりの物語にも工夫が凝らされているのが興味津々で愉しめる。企画は遊び心いっぱいでも、物語の趣はさまざまで、コミカルなものありシリアスなものあり、ハートウォーミングなものありでバラエティに富んでいるのも嬉しい。文句なく愉しめる一冊である。

特捜班危機一髪*我孫子武丸

  • 2014/10/24(金) 21:13:42

特捜班危機一髪 警視庁特捜班ドットジェイピー特捜班危機一髪 警視庁特捜班ドットジェイピー
(2014/09/18)
我孫子 武丸

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警視庁の人寄せパンダと思われたドットジェイピーだが、ひょんなことから誘拐事件を解決し、一躍世間の脚光を浴びる。だが、その人気を快く思わない人物がひとり―ドットジェイピーに公衆の面前で恥ずかしい姿をさらされた篠原都知事だ。都知事はドットジェイピーの人気を失墜させ、解散に追い込もうと作戦を練る。そして新メンバーと称した刺客に、優秀な兄妹警官を送り込むが…。


警視庁特捜班ドットジェイピーシリーズ二作目である。後方はんとは名ばかりで、現実は落ちこぼれの寄せ集めチームであるドットジェイピーだが、ひょんな巡り合せで人気が出てしまい、それを快く思わない都知事によって罠を仕掛けられる。香蓮が職場ではひた隠しにしている極個人的な趣味も絡まって、人間関係のややこしさも露呈してくる。このまま策略にはまって解散させられてしまうのか、という興味と、現実と妄想の人物相関図の入り乱れ具合とで飽きさせない一冊である。

水声*川上弘美

  • 2014/10/22(水) 17:02:45

水声水声
(2014/09/30)
川上 弘美

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過去と現在の間に立ち現れる存在「都」と「陵」はきょうだいとして育った。だが、今のふたりの生活のこの甘美さ!
「ママ」は死に、人生の時間は過ぎるのであった。


「ママ」の存在の大きさと、彼女を取り巻く人たちの距離感。死んでもなお影響を与え続ける圧倒的な存在感。いつもどこかに彼女の声を聞きながら、姉弟として育った都と陵は自分の身の内にある水の声に耳を傾けながら、かけがえのない存在を身近に感じながら生きているのである。途方もなく甘美でありながら哀しく切なすぎる一冊である。

離陸*絲山秋子

  • 2014/10/19(日) 18:40:09

離陸離陸
(2014/09/11)
絲山 秋子

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「女優を探してほしい」。突如訪ねて来た不気味な黒人イルベールの言葉により、“ぼく”の平凡な人生は大きく動き始める。イスラエル映画に、戦間期のパリに…時空と場所を超えて足跡を残す“女優”とは何者なのか?謎めいた追跡の旅。そして親しき者たちの死。“ぼく”はやがて寄る辺なき生の核心へと迫っていく―人生を襲う不意打ちの死と向き合った傑作長篇。


初めは、中央よりも現場が好きな国交省の若手キャリア・佐藤弘(ひろむ)とダムの話しだと思って読み進むと、いきなりイルベールという黒人が現れ、女優の行方を知らないかと問われる。どうやら女優とは、佐藤が昔つき合っていた乃緒という女性のことらしい。イルベールは、乃緒の息子を預かり、父親役をやっているという。調べてみると、乃緒らしい女はイスラエルの映画に出ていたり、戦中のパリで怪しい仲介人をしていたりと、なにやら得体がしれない。ダムの仕事をしながら、喜んだり悲しんだり、しあわせを感じたり、日常に倦んだりという現実的な物語だとばかり思っていたら、いきなり時空を超えて連れ去られたような浮遊感にとらわれる。確実に生きるとはどういうことか。死んでいくとはどういうことか。すっきりと真相が判ったわけではないが、なんとなく納得させられるものがある。人はいつでも移動中なのかもしれないと思わされる一冊でもある。

侵入者--自称小説家*折原一

  • 2014/10/17(金) 07:14:25

侵入者 自称小説家侵入者 自称小説家
(2014/09/10)
折原 一

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北区十条で起きた一家四人殺害事件。発生後半年以上経っても解決のめどが立たず、迷宮入りが囁かれる中、“自称小説家”の塚田慎也は遺族から奇妙な依頼を受ける。「この事件を調査してくれないか」―。以前、同じく未解決の資産家夫婦殺人事件のルポを書いたことから白羽の矢が立ったのだ。百舌の早にえ、車椅子の老人、ピエロのマスクをかぶった男…二つの事件に奇妙な共通点を見出した塚田は、あるアイデアを思いつく。遺族をキャストに、事件現場で再現劇を行うことで犯人をあぶり出すのだ―。ミステリー界の特級幻術師が送る「○○者」シリーズ最新刊。


自称小説家の塚田慎也の視点で書かれた章と、彼が書いた侵入者Pierrotの脚本に則って事件現場再現激を演ずる関係者たちの様子が描かれた章とが織り交ぜられている。誰もが犯人に見えてくるし、そこここに思わせぶりなヒントがちりばめられているようにも見えるのだが、一体どれが真実なのかなかなか判らなくてもどかしく、なおのこと興味をそそられる。誰の言葉を信じればいいのか。ピエロのマスクの効果が、ちょっとどうだろうとは思うものの、ピエロであることが凄惨な現場にあってなおのこと気味が悪い。なんだかまだ事件は続くような薄気味悪さが残る一冊でもある。

降り積もる光の粒*角田光代

  • 2014/10/15(水) 12:35:53

降り積もる光の粒降り積もる光の粒
(2014/08/29)
角田 光代

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旅好きだけど、旅慣れない。そんなスタイルだからこそ出会えた、ひと、もの、風景。二度は出会えない貴重な旅のレポート。


第一章 「旅先で何か食べるのが、私はよほど好きなのだ」
第二章 「旅には親役と子役がいる。年齢や関係じゃなく、質だ」
第三章 「旅と本に関しては、私には一点の曇りもなく幸福な記憶しかない」
第四章 「彼女たちは、母親の世代からずっと、ひどい仕打ちを受けているという意識はあった」

一章と二章では、旅の途中のあれこれ、が綴られ、三章では旅に関する書物が紹介されている。そして四章では、自由な旅ではなく、女性の人権の心許なさを取材する旅が描かれ、そこで見たもの感じたことごと、観光地化された首都との落差、女性がひとりの人間として自立することの困難さが悲痛な気持ちとともに描かれている。だが、当の彼女たちに希望がないわけではなく、このままではいけないと考える人も多くいて、不断の努力を続けていることに希望を見出すことができるのである。著者と旅人の切り離せない関係を、あれこれ思わされる一冊である。

消防女子!!--女性消防士・高柳蘭の誕生*佐藤青南

  • 2014/10/13(月) 16:52:38

消防女子!! 女性消防士・高柳蘭の誕生 (宝島社文庫)消防女子!! 女性消防士・高柳蘭の誕生 (宝島社文庫)
(2013/06/06)
佐藤 青南

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横浜市消防局湊消防署で唯一の女性消防士、高柳蘭。新米の蘭は食事作りや洗濯などの雑務に訓練、消火活動と多忙な日々を過ごす。ある日、毎日確認しているにもかかわらず、蘭の使用している空気呼吸器の空気残量が不足していることに気づく。やがて辞職を迫る脅迫状まで届き、蘭は同僚の犯行を訝り疑心暗鬼に陥る。ちょうどその頃、世界一周中の豪華客船が横浜に寄港することになり…。


火災現場で父を亡くした女の子・高柳蘭は、父の後を継いで消防士になった。横浜市消防局湊消防署でただ一人の女性だが、もちろん男性消防士と一緒に厳しい訓練もこなさなくてはならない。体力的にもきついし、先輩の叱咤も厳しく、しかも新人の役目として雑用もこなさなくてはならないというぎりぎりの毎日である。そんなとき、空気呼吸器のエアが抜かれるというトラブルに見舞われ、疑心暗鬼に陥る。訓練や現場の様子など、ちょうど始まったドラマ「ボーダーライン」とついダブらせて読んでしまうので、消防とい未知の現場ながら容易に映像が浮かぶ。蘭の成長と、湊消防署のメンバーとの絆が深められていく様子が描かれた物語であり、家族愛の物語でもあるかもしれない。蘭の命名は父であり、山火事の焼野原に真っ先に咲く花・ファイヤーウィード(ヤナギラン)からであり、焼け野原を薄桃色に染めて、火災で大切なものを奪われた人たちに安らぎを与え、被災者を癒す復興の象徴なのである。夫を失い、娘をまた消防士として送り出した母の想いも胸に熱い一冊である。

電氣ホテル*吉田篤弘

  • 2014/10/12(日) 09:35:24

電氣ホテル電氣ホテル
(2014/09/25)
吉田 篤弘

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二人の詩人の冒険に立ちはだかる
謎につぐ謎、奇人また奇人!
停電調査の旅に出た詩人・オルドバと猿のチューヤー。
この世の二階から魔都・東京の夜景を見おろす詩人・シャバダ。
忽如として行方不明になった十数名の「児島」と、その謎を追う探偵・中田と相棒の探偵犬・終列車。
物語の行方は、この世の二階にあるといわれる、幻の〈電氣ホテル〉へ――。
奇怪にして愉快な活劇小説!


そもそも、停電調査人の上田(オルドバ)が停電調査は旅であるという自説故に、尾久へ行くのにやたらと遠回りをし、旅となそうとしたのが事の始まり。尾久へ直行していたら、この物語はなかったのかもしれない。いや、そうではなく、誰が何をしようとどこへ行こうと、変わらなくあったのかもしれない。この世の二階の辺りで、静かに。尾久へ向かうオルドバとチューヤーをどんどん遠く離れて物語は中二階、二階、三階、(四階)辺りをさまようが、まわりまわってまたオルドバたちへと帰って来る。かと言って何かが解決したわけではない。大停電の謎は解けたが……。下町の一画で起こっていることとはついぞ思えない長く遠く草臥れる旅であったことよ、と思わされる一冊である。

いつまでもショパン*中山七里

  • 2014/10/10(金) 17:07:57

いつまでもショパン (『このミス』大賞シリーズ)いつまでもショパン (『このミス』大賞シリーズ)
(2013/01/10)
中山 七里

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ポーランドで行なわれるショパン・コンクールの会場で、殺人事件が発生した。遺体は、手の指10本が全て切り取られるという奇怪なものだった。コンクールに出場するため会場に居合わせたピアニスト・岬洋介は、取り調べを受けながらも鋭い洞察力で殺害現場を密かに検証していた。さらには世界的テロリスト・通称“ピアニスト”がワルシャワに潜伏しているという情報を得る。そんな折、会場周辺でテロが多発し…。


舞台はポーランド、ショパンコンクール。岬洋介もコンテスタントのひとりである。そんななか、コンクール会場で十本の手指が切り取られた遺体が見つかる。コンクールの緊張感、ポーランドの歴史と切り離せないショパンとその楽曲の親密性、コンテスタントたちの胸の裡や駆け引き、そして何より演奏の描写など、興味深い要素が山盛りである。そんなショパンコンクールにまつわる物語の裏に、ミステリ要素が静かに流れているような印象である。音楽とテロという一見もっとも遠いように思えることが最後でぐっと近くなるのもぞくっとする。岬先生の素晴らしさがいよいよ際立つ一冊である。

きょうのできごと、十年後*柴崎友香

  • 2014/10/08(水) 18:37:20

きょうのできごと、十年後きょうのできごと、十年後
(2014/09/29)
柴崎 友香

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十年前、京都の飲み会に居あわせた男女。それぞれの時間を生きた彼らは、30代になり、今夜再会する。せつなく、おかしい、奇跡のような一夜の物語。


九月二十一日 午後二時から、九月二十二日 午前一時までのひと晩の物語。何気ない日常を描かせたら天下一品の著者だが、本作はちょっぴり特別な一夜の物語である。そうは言っても、舞台設定が特別なだけで、集まった人たちのやりとりや心の機微の描かれ方は、さらりとさり気ない。それでいて繊細で深いのである。十年という月日がそれぞれにもたらした変化と、変わらない芯の部分が読んでいてなぜか切なくなる。この時点からの十年後もまたみてみたいと思わされる一冊である。

おやすみラフマニノフ*中山七里

  • 2014/10/08(水) 17:01:02

おやすみラフマニノフ (『このミス』大賞シリーズ)おやすみラフマニノフ (『このミス』大賞シリーズ)
(2010/10/12)
中山 七里

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秋の演奏会を控え、第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに、プロへの切符をつかむために練習に励んでいた。しかし完全密室で保管されていた、時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれる。脅迫状も届き、晶は心身ともに追い詰められていく。さらに彼らの身に不可解な事件が次々と起こり…。メンバーたちは、果たして無事に演奏会を迎えることができるのか。ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」がコンサート・ホールに響くとき、驚愕の真実が明かされる。


岬先生のシリーズ(?)でうれしい。貴重な楽器の紛失と損壊、そして脅迫状と物騒な事件が次々に起こり、そんな中で学生たちは、疑心暗鬼に駆られながらも演奏会に向けて練習を積んでいる。岬先生が指揮者になってからのオケの充実ぶりは見ていてもうっとりする。ミステリではあるのだが、音楽の魅力や音楽が人に与える力の不思議をも愉しめて昂揚感がある。岬先生の活躍はまだまだこれからも見たいと思わせる一冊である。

ヒートアップ*中山七里

  • 2014/10/06(月) 16:49:28

ヒートアップヒートアップ
(2012/09/27)
中山 七里

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七尾究一郎は、厚生労働省医薬食品局の麻薬対策課に所属する麻薬取締官。警察とは違いおとり捜査を許された存在で、さらに“特異体質”のおかげもあり検挙率はナンバーワン。都内繁華街で人気の非合法ドラッグ“ヒート”―破壊衝動と攻撃本能を呼び起こし、人間兵器を作り出す悪魔のクスリ―の捜査をしている。暴力団組員の山崎からヒートの売人・仙道を確保するため手を組まないかと持ちかけられ、行動を共にして一週間。その仙道が殺される。死体の傍に転がっていた鉄パイプからは、七尾の指紋が検出された…。殺人容疑をかけられた麻取のエース・七尾。誰が、なぜ嵌めたのか!?冤罪は晴らせるか!?―。


特異体質のおかげで麻薬取り締まりのおとり捜査に活躍している七尾が主人公である。七尾のアウトローぶりや、暴力団・宏龍会のナンバー3の山崎との絡み、ほんとうの敵は誰なのか、という興味は先を急ぎたくなるが、あまりにもグロテスクな描写には目を背けたくもなる。ラストのちょっとしたどんでん返しを含め、人間の心情の複雑さには興味をそそられる一冊である。

母親ウエスタン*原田ひ香

  • 2014/10/05(日) 13:35:29

母親ウエスタン母親ウエスタン
(2012/09/15)
原田 ひ香

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母のない子持ちやもめの家庭を転々と渡り歩く広美。短いときは数か月、長くとも数年、トラック運転手や遠洋漁業、家を長く空ける父子家庭の母親役をして、家庭が軌道にのると人知れず去っていく。それは、母性が有り余っているのか、母性がぶっ壊れているのか、子供にとっては女神でもあり、突然姿を消す残酷な悪魔でもある。すばる文学賞受賞作家が挑む、初の長編エンターテインメント。ひたすらに“母”をさすらう女の物語。


「彼はすぐに忘れた」 「電話は一度しかかかってこなかった」 「免許証を盗み見た」 「夜明けにロックを歌った」 「耳栓をおいていった」 「エピローグ」

「おそれいりましてございます」という言葉が特徴的な広美とはいったい何者なのか。ことさら見返りを求めるそぶりもなく、心からの愛情を注いで(いるようにみえる)母のいない子どもの世話をし、ある日突然姿を消す。聖母なのか、はたまた極めて身勝手なのか、広美の素性や目的が何ひとつ判らないので、なおさら興味を掻き立てられる。だが、ひとたび残された子どもたちの身になってみれば、自分だけの母親だと思って安心していたらある日突然いなくなり、心に深い傷を負わせたひどい女なのである。子どもたちの哀しみと広美の喪失感が、時を隔てて交互に描かれる物語から滲み出してきて、やり切れない心持ちにさせられる。どちらにとっても満足な結末はないのだろうと思わされる一冊である。

ねじまき片想い*柚木麻子

  • 2014/10/03(金) 17:05:13

ねじまき片想い (~おもちゃプランナー・宝子の冒険~)ねじまき片想い (~おもちゃプランナー・宝子の冒険~)
(2014/08/11)
柚木 麻子

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毎朝スカイツリーを見上げながら、水上バスで通勤する富田宝子、28歳。浅草にあるおもちゃ会社の敏腕プランナーとして働く彼女は、次から次へと災難に見舞われる片想い中の西島のため、SP気分で密かに彼のトラブルを解決していく…!やがて、自分の気持ちに向き合ったとき、宝子は―。


「スカイツリーを君と」 「三社祭でまちあわせ」 「花やしきでもう一度」 「花火大会で恋泥棒」 「あなたもカーニバル」

乙女チックなふんわりしたファッションに身を包み、自分をしっかり持っておもちゃプランナーとして仕事をしている宝子だが、長年の片想い相手の西島に対すると、途端に気弱になってしまう。誰にも気づかれていないと思っている宝子だったが、実は職場のみんなが知っていて、もっといい人がいるのにと言い合いながらも密かに応援しているのである。報われない想いをぶつけるように、宝子は西島のために探偵まがいのことをして彼の心を曇らせる物事を解決していく。そんな中で、ほんとうに大切なことに徐々に気づかされていく宝子なのである。片思い物語、お仕事物語でもあり、ミステリでもあって贅沢に愉しめる一冊である。

それは秘密の*乃南アサ

  • 2014/10/02(木) 16:41:33

それは秘密のそれは秘密の
(2014/08/29)
乃南 アサ

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心理描写の名人上手が、小説技法と男女観察の粋を尽くした、きらめく宝石のような小説たち! 罠と浮気。カネとライバル。煩悶と純心。明けない夜と、白茶けた朝。いつまでも瑞々しい老婆、フェティシズムに目覚めた小学生男子、結婚できないカップル、闇の中で胸をときめかせる政治家――。〈恋ごころ〉という厄介きわまるものを抱えた男たち女たちのミステリアスな心情と希望を描く、作者会心の珠玉短篇集。


表題作のほか、「「ハズバン」 「ピンポン」 「僕が受験に成功したわけ」 「内緒」 「アンバランス」 「早朝の散歩」 「キープ」 「三年目」

掌編を含む恋愛短編集である。恋愛とひと口に言っても、実にさまざまである。だましたりだまされたり、ときめいたり諦めたり、疑心暗鬼に陥ったり。年代もさまざまな恋愛模様が気負いなく描かれていて好感が持てる。何か特別なことではなく、自分の身にも起こりそうな、隣の部屋でまさに進んでいそうなリアルさがとてもいい一冊である。

さよならドビュッシー*中山七里

  • 2014/10/01(水) 12:11:27

さよならドビュッシーさよならドビュッシー
(2010/01/08)
中山 七里

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第8回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。選考委員が大絶賛した話題の感動作!
行間から立ち上るドビュッシー「月の光」や、ショパン「エチュード 10-1」の美しい旋律。ピアニストを目指す少女、殺人、そして驚愕のラスト!
ピアニストを目指す遥、16歳。両親や祖父、帰国子女の従姉妹などに囲まれた幸福な彼女人生は、ある日突然終わりを迎える。祖父と従姉妹とともに火事に巻き込まれ、ただ一人生き残ったものの、全身火傷の大怪我を負ってしまったのだ。それでも彼女は逆境に負けずピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する――。


スポ根+ミステリといった印象の物語である。スポーツではなくピアノだが。とは言え、どちらもいささか中途半端な感がなくもない。でも完全に騙されていたという点では驚愕のラストである。そこに気づけなければ動機にも真犯人にも当然たどり着けず、最後でやっと腑に落ちることになる。スポ根ものとしては、せっかく立ち直りかけたのにもったいない気がするが、そこは仕方がないのだろう。岬先生のファンになった一冊である。