エヴリシング・フロウズ*津村記久子

  • 2014/11/30(日) 18:38:11

エヴリシング・フロウズエヴリシング・フロウズ
(2014/08/27)
津村 記久子

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クラス替えは、新しい人間関係の始まり。絵の好きな中学3年生のヒロシは、背が高くいつも一人でいる矢澤、ソフトボール部の野末と大土居の女子2人組、決して顔を上げないが抜群に絵のうまい増田らと、少しずつ仲良くなっていく。母親に反発し、学校と塾を往復する毎日にうんざりしながら、将来の夢もおぼろげなままに迫りくる受験。そして、ある時ついに事件が…。
大阪を舞台に、人生の入り口に立った少年少女のたゆたい、揺れる心を、繊細な筆致で描いた青春群像小説。


中学生の物語である。大人から見れば狭い世界でうろうろしているように見える彼らにも、日々さまざまな出会いがあり、感情の揺れがあり、駆け引きがあり、心の通い合いがあるのだと、忘れかけていた気持ちを思い出させてくれる。しかも、それぞれに学校生活以外にも抱えているものがあり、ときには一人で抱えきれないこともある。新学期の出会いがあって現在がある。遠いようで近く、浅過ぎず深すぎない関わり方が、彼らなりの絶妙さでそれぞれの関係を成り立たせているのが素晴らしい。みんなに明るい未来があることを信じたくなる一冊である。

あなたの本当の人生は*大島真寿美

  • 2014/11/29(土) 07:05:43

あなたの本当の人生はあなたの本当の人生は
(2014/10/07)
大島 真寿美

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「書く」ことに囚われた三人の女性たちの本当の運命は……
新人作家の國崎真美は、担当編集者・鏡味のすすめで、敬愛するファンタジー作家・森和木ホリーに弟子入り――という名の住み込みお手伝いとなる。ホリー先生の広大で風変わりなお屋敷では、秘書の宇城圭子が日常を取り仕切り、しょっぱなホリー先生は、真美のことを自身の大ベストセラー小説『錦船』シリーズに出てくる両性具有の黒猫〈チャーチル〉と呼ぶことを勝手に決めつける。編集者の鏡味も何を考えているのか分からず、秘書の宇城は何も教えてくれない。何につけても戸惑い、さらにホリー先生が実は何も書けなくなっているという事実を知った真美は屋敷を飛び出してしまう。
一方、真美の出現によって、ホリー先生は自らの過去を、自身の紡いできた物語を振り返ることになる。両親を失った子供時代、デビューを支えた夫・箕島のこと、さらに人気作家となった後、箕島と離婚し彼は家を出て行った。宇城を秘書としてスカウトし書き続けたが、徐々に創作意欲自体が失われ……時に視点は、宇城へと移り、鏡味の莫大な借金や箕島のその後、そして宇城自身の捨ててきた過去と、密かに森和木ホリーとして原稿執筆をしていることも明かされていく。
やがて友人の下宿にいた真美は、鏡味と宇城の迎えによって屋敷へと戻る。そしてなぜか、敢然とホリー先生と元夫の箕島にとって思い出の味を再現するため、キッチンでひたすらコロッケを作りはじめた。小説をどう書いていいのかは分からないけれど、「コロッケの声はきこえる」という真美のコロッケは、周囲の人々にも大評判。箕島へも届けられるが、同行した宇城はホリー先生の代筆を箕島に言い当てられ動転する。真美、ホリー先生、宇城、三人の時間がそれぞれに進んだその先に〈本当の運命〉は待ち受けるのか?


森和木ホリー、宇城圭子、國崎真美という三人の書き手の三者三様の人生の物語なのだが、ホリー先生自身と彼女の紡ぎだした「錦船」というファンタジーを軸にして、三者が分かちがたく絡み合っている。宇城と真美はホリー先生の預言者めいた言葉にある意味縛られ、そのホリー先生は、突然現れた國崎真美に何かを開かれていく。痛いような心地好いようなどこにもない物語で、いつまでも浸っていたい一冊である。

冥の水底*朱川湊人

  • 2014/11/25(火) 16:59:00

冥の水底冥の水底
(2014/10/29)
朱川 湊人

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医者である市原玲人は、友人の平松光恵に、首から上だけが狼のいわゆる「狼男」の死体写真を見せられる。彼女はその写真と大切な取材手帳を市原に託し、忽然と姿を消した。時は20年遡る。阿巳雄山の奥に、特殊能力を持つ「マガチ」とよばれる人々が暮らしていた。マガチの青年シズクは、初恋の少女を忘れられず、彼女を追って東京で暮らし始めるが……。一途な純粋さが胸を抉る、一気読み必至の、純愛ホラー巨編。


現在の市原玲人が巻き込まれた事件と、二十年前の曲地谷(まがちや)シズクが初恋の女性に宛てた出す当てのない手紙とが交互に描かれている。マガチという特殊な力を持った一族に生まれたシズクの一途な想いゆえに始まった物語は、ラストでひとつに収束し、結末を迎える。ホラーでありながらこれ以上ないほどの純愛物語であり、切なくもなるのだが、起こしてしまった事々は償いようのないことで胸が痛む。恐ろしくもあり透き通った一冊でもある。

猫が足りない*沢村凛

  • 2014/11/24(月) 07:18:07

猫が足りない猫が足りない
(2014/09/17)
沢村 凜

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就職が決まらない知章はスポーツクラブに入会した。会員の女性たちに頼まれて近隣の猫虐待を調べると、意外な事件が明らかに。
真相究明に一役買ったのは会員の四元さんだった。その後、猫がらみで騒動を引き起こす彼女に振り回される知章。
就職はどうなる?四元さんの悲願とは?端正かつ大胆な筆の運びが魅力の連作ミステリー。


周りがどんどん内定を取る中、なかなか就職が決まらない知章は、父の方針でアルバイトも禁じられ、身分不相応なスポーツクラブの会員証を渡される。することもなく毎日スポーツクラブに通ううちに、ラウンジに集いおしゃべりをする年上(高齢?)の女性たちの輪になんとなく入っていて、その情報収集力や意外に取れている統制にちょっと驚くのである。そして、その知章が勝手に名づけている<おしゃべり会>からは少し距離を置く四元さんが、猫が足りない故に物語の中で大切な役割を果たすのである。おばさんたちのおしゃべりに端を発する日常の探偵物語にしては、死体も出てきたりして物騒でもあるのだが、<おしゃべり会>の面々や四元さんと知章の関係が微笑ましくもあり、心温まる物語でもあるのである。知章と<おしゃべり会>のこれからも見てみたいと思わされる一冊である。

地図とスイッチ*朝倉かすみ

  • 2014/11/23(日) 18:14:36

地図とスイッチ地図とスイッチ
(2014/11/07)
朝倉 かすみ

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昭和47年9月8日。同じ日、札幌の同じ病院で生まれたふたりの赤ちゃん――
「ぼく」蒲生栄人と「おれ」仁村拓郎。進学、就職、結婚、離婚etc.……
毎日毎日、無数にあるスイッチの中からひとつを選んで押して、
選択を繰り返したふたりの男は、どんな道筋でそれぞれの人生の「地図」を描いてきたのか――。
感動作『田村はまだか』の名手・朝倉かすみが紡ぐ、40歳の「ぼく」と「おれ」の物語。

「スイッチは無数にあるんだよ。問題はどれを押すかってこと、ちがう?」


同じ病院で生まれた二人の男の子、という時点で、赤ちゃん取り違え事件?と思ったが、そんな劇的なこともなく、二人はそれぞれの人生をそれぞれに歩んでいく。ときどきに選んだスイッチが正解だったのか間違いだったのか、別のスイッチを押していたら今より素晴らしい人生があったのか、そんなことを突き詰めるわけでもなく、二人はそれぞれにスイッチを押し続ける。この先の地図がどうなっていくのか、どこへたどり着くのか。誰しも生まれてきたからにはスイッチを押さずにはいられないのだ。そう思うと、いままで以上に真剣に人生の地図のことを考えるようになる。英人と拓郎がこの先どんなスイッチを押していくのか、どんな地図を描いていくのか、興味が湧いてくる一冊である。

群青のタンデム*長岡弘樹

  • 2014/11/22(土) 08:40:04

群青のタンデム群青のタンデム
(2014/09/13)
長岡 弘樹

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警察学校での成績が同点で一位だった、戸柏耕史と陶山史香。彼らは卒配後も手柄を争い出世をしていくが――。なぜ二人は張り合い続けるのか?ベストセラー『教場』につづく異色の警察小説。


第一話から第八話まであるが、章が変わるごとに時間もぐっと進んでいたりして、初めは多少戸惑いもあったが、新人警察官が、歳を重ね昇進し、署長まで務めて退職してのちまでの長い長いスパンで描くことで、戸惑いと愛情の深さを思い知ることにもなるような気がする。警察小説としては邪道なのかもしれないが、人間ドラマとしては奥深いのもがある一冊である。

虫娘*井上荒野

  • 2014/11/20(木) 16:58:58

虫娘虫娘
(2014/08/27)
井上 荒野

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あの日、あたしは生き返らなかった――。
シェアハウス〈Bハウス〉には五人の住人がいる。樅木照(ヌードモデルをしながら体を売っている)、桜井竜二(イタリアン・レストランのオーナー・シェフ)、妹尾真人(売れない俳優)、碇みゆき(フリーライター)、鹿島葉子(銀行員)、それにハウスを管理する不動産屋の青年・曳田揚一郎。
照の謎の死が、それぞれの人物に新しい光と影を投げかける。照はその死後も彼らの頭上を浮遊している。


樅木照(もみのきひかる)の目を通して語られる物語なのだが、当の照はすでに死んでいる。Bハウスという凝っているのか投げやりなのか判らない名前のシェアハウスの住人たちに何があったのか。あのパーティーの日に。そしてそれまでの日々に。照が生き返らなかったあのパーティーの日からの日々は、Bハウスの住人たちにとって、それまでとは全く別のものになった。照から解放されたようでいて、がんじがらめに絡めとられているような。そして照自身さえ恨んでいるのか妬んでいるのか、心残りがあるのか、どうなりたいのかわかっていないように見える。ミステリのような心理劇のような一冊である。

処刑までの十章*連城三紀彦

  • 2014/11/19(水) 07:17:07

処刑までの十章処刑までの十章
(2014/10/09)
連城 三紀彦

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ひとりの平凡な男が突然消えた。弟直行は、土佐清水で起きた放火殺人事件、四国の寺で次々と見つかるバラバラ死体が、兄の失踪と関わりがあるのではと高知へと向かう。真相を探る度に嘘をつく義姉を疑いながらも翻弄される直行。夫を殺したかもしれない女に熱い思いを抱きながら、真実を求めて事件の迷路を彷徨う。禁断の愛、交錯する嘘と真実。これぞ、連城マジックの極み。耽美ミステリーの名手が遺してくれた渾身の1000枚!闘病中に書き上げた執念の大長編を、追悼の意を込めて、一周忌に刊行―。


怖かった。初めはただの浮気の果ての逃避行かと思われた平凡な男の失踪が、美しい青い蝶・アサギマダラを介してはるか四国の放火事件やバラバラ死体遺棄事件と繋がり、じわりじわりと怖くなる。しかも、夫・靖彦に失踪されて呆然とする妻だと思っていた順子は、靖彦の弟・直行に痴れっと嘘をつくのである。夫と妻と義弟の捻じれた三角関係、そしてはるか四国の歪んだ三角形。関係があるようで遠いようなもどかしさ。真相に近づきかけるとするりと逃げられるような喪失感。そして思っても見なかった真相。捻じれ歪み背筋がうすら寒くなる一冊だった。

丹生都比売--梨木香歩作品集*梨木香歩

  • 2014/11/16(日) 18:35:37

丹生都比売 梨木香歩作品集丹生都比売 梨木香歩作品集
(2014/09/30)
梨木 香歩

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胸奥の深い森へと還って行く。見失っていた自分に立ち返るために……。蘇りの水と水銀を司る神霊に守られて吉野の地に生きる草壁皇子の物語――歴史に材をとった中篇「丹生都比売」と、「月と潮騒」「トウネンの耳」「カコの話」「本棚にならぶ」「旅行鞄のなかから」「コート」「夏の朝」「ハクガン異聞」、1994年から2011年の8篇の作品を収録する、初めての作品集。しずかに澄みわたる、梨木香歩の小説世界。


当たり前のことのようであって、なにかしらどこかしらがほんの少しだけずれているような、躰半分ここではない場所に滑り込み、あとの半分はこちら側に残ったままでいるようなお尻の座らない感じがなんとも堪らない。世界に浸っている間は確か過ぎたことが、ふと夢から覚めるように現実感がなくなり遠のいていくような一冊である。

いとの森の家*東直子

  • 2014/11/15(土) 17:00:41

いとの森の家 (一般書)いとの森の家 (一般書)
(2014/10/29)
東 直子

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「あなたには残酷なできごとが起こりませんように。しあわせな人生でありますように」
おハルさんは、私の頬を両手で包んで微笑んだ――。
福岡市内の団地暮らしだった加奈子は、父の突然の思いつきで、山々に囲まれた小さな村に引っ越すことになる。
都会とのギャップにとまどいながらも、すぐに仲良しの友達もでき、自然の豊かな恵みに満ちた田舎の暮らしに魅了されていく。
中でも特別な存在はおハルさんだ。
童話に出てくるような家に住み、いつもおいしいジャムやクッキーを作ってくれるおばあさん、おハルさんは子どもたちの人気者。
だが、大人たちの中には彼女を敬遠する人もいた。それはおハルさんが毎月行っている死刑囚への慰問が原因だった。
なぜおハルさんは、死刑になるような人に会いに行くの……?
そんな素朴な疑問から、加奈子はおハルさんからさまざまな話を聞くようになり、命の重みや死について、生きていくことについて、考えるようになっていく――。
福岡・糸島の地を舞台に、深い森がはぐくんだ命の記憶を、少女のまなざしで瑞々しく描いたあたたかな物語。


なんとなく勝手に悲しいことが起こる物語のような気がしていたのだが、ちっともそんなことはなく、あたたかな気持ちで満たされる物語だった。にぎやかさや便利さ、都会のごちゃごちゃが何もない自然あふれる田舎の森での暮らしは、ほんの短い間のことだったがとても濃密で、大切なことをたくさん知ることができ、加奈子にとってかけがえのない時間になったのだった。さまざまな思いを抱える人がいること、そのどの思いもとても大切であることを改めて思わされる一冊でもある。

だいじな本のみつけ方*大崎梢

  • 2014/11/14(金) 18:42:01

だいじな本のみつけ方 (BOOK WITH YOU)だいじな本のみつけ方 (BOOK WITH YOU)
(2014/10/16)
大崎 梢

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大好きな作家の最新刊。発売を楽しみにしていたある日、中学二年生の野々香は、学校の手洗い場の角で忘れ物の本をみつける。好奇心から書店のカバーを外してみると、それは、まだ発売されていないはずの最新刊だった!野々香と、クラスの図書委員・高峯秀臣は、本の持ち主の正体と、どうやって手に入れたかを探り始める―。大切な本との出会いをめぐって巻き起こる、賑やかでやさしい物語。


中学生たちが主役の物語である。小学校との交流とか、中学生ならではのこともたくさんあるが、要は本好きさんが主役ということで、同級生の叔父の新人作家や書店員さん、元ラジオアナウンサーの読み聞かせ名人、みんなの本好き加減が溢れ出ていて微笑ましい。本に関する謎解きと、野々香と秀臣の可愛い言い合いがアクセントになっていて、気軽に愉しめる一冊である。

3時のおやつ

  • 2014/11/14(金) 07:03:34

3時のおやつ (ポプラ文庫)3時のおやつ (ポプラ文庫)
(2014/10/03)
壁井 ユカコ、大崎 梢 他

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30人の人気クリエイターが語る、とっておきの“私のおやつ"!

子どもの頃にいつもお母さんがつくってくれた懐かしいケーキ、自分で初めてつくったクッキー、友だちの家でごちそうになった不思議なおやつ、いちばんお気に入りのスイーツ、どんなに豪華なお菓子より魅力的だったアレ……30人の人気クリエイターが「おやつと言えばこれ! 」というとっておきを、それにまつわる思い出とともに語ります。
ポプラ社の小説誌「asta*」掲載の人気エッセイ30篇をまとめた、おいしい記憶がたっぷり味わえるエッセイ・アンソロジーです。

★執筆者一覧(50音順) あさのますみ/天野頌子/彩瀬まる/安東みきえ/伊藤たかみ/絲山秋子/犬童一心/内澤旬子/大崎梢/大島真寿美/加藤千恵/金原瑞人/壁井ユカコ/越谷オサム/中脇初枝/梨屋アリエ/仁木英之/原宏一/東直子/平松洋子/平山夢明/万城目学/益田ミリ/ ミムラ/宮下奈都/森まゆみ/森見登美彦/椰月美智子/山崎ナオコーラ/柚木麻子


手作りおやつ、スナック菓子、おこづかい、などなど、おやつの形はさまざまなれど、そのどれもに思い出がもれなくついてくる。読者もついつい頬を緩ませ、自分にとっての懐かしいおやつに思いを馳せるのである。しばししあわせな心地に浸れる一冊である。

ミチルさん、今日も上機嫌*原田ひ香

  • 2014/11/13(木) 07:13:09

ミチルさん、今日も上機嫌ミチルさん、今日も上機嫌
(2014/05/26)
原田 ひ香

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恋を謳歌し、気ままなシングルライフを満喫する山崎ミチル・45歳。ところが生まれて初めて男に裏切られ、おまけに仕事まで失った。残されたものは元夫が譲ってくれたマンションと僅かな貯金だけ。やむなく始めた地味なアルバイト。そこで出会ったのは、個性豊かな愛すべき老若男女たち。彼らとの交流で、どん底バブリー女が手に入れた希望の切符とは―。


「上機嫌」という割には、主人公のミチルさんは鬱屈を抱えているように見える。バブル期に青春を謳歌し、その後さまざまなものを失ってまだ、もっと満たされるという思いがどこかにあり、地に足をつけた生き方ができずにいるのである。ある意味バブルの被害者とも言えるのかもしれない。スーパーの面接に落とされ、チラシ配りを始めることになった彼女は、いままで知合わなかった人たちと知り合い、ある意味未知の世界を知る。抱えていた鬱屈がいつの間にかひとつふたつと減っていき、次第にいまを生きられるようになっていく彼女を見守るように読み進んだ。バブルもあってその後もあって、そして現在がある。そのときどきをその人らしさで生き抜いてこその幸福であると思わせてくれる一冊である。

マスカレード・イブ*東野圭吾

  • 2014/11/12(水) 12:32:41

マスカレード・イブ (集英社文庫)マスカレード・イブ (集英社文庫)
(2014/08/21)
東野 圭吾

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ホテル・コルテシア東京のフロントクラーク山岸尚美と、警視庁捜査一課の新田浩介。『マスカレード・ホテル』で二人が出会う前、大学教授殺人事件の真相とは!? 新シリーズ第2弾!!ホテル・コルテシア東京のフロントクラーク山岸尚美と、警視庁捜査一課の新田浩介。『マスカレード・ホテル』で二人が出会う前、大学教授殺人事件の真相とは!? 新シリーズ第2弾!!


表題作のほか、「それぞれの仮面」 「ルーキー登場」 「仮面と覆面」

短編だが、フロントクラークとして新人の山岸尚美の観察眼が捜査の役に立つという意味でキーになっている連作なので、ぶつぶつ途切れる感じがなく愉しめる。『マスカレード・ホテル』では、潜入捜査中の新田刑事の教育係なので、前作以前の物語と言えよう。それでタイトルにも「イブ」がつくのか、と納得。新田も捜査一課の刑事として、要所でいい働きをしているが、まだ尚美と知り合いではない。ホテルマンの矜持と尚美固有の観察眼が今作でも生きていてテンポよく愉しい一冊だった。

なぜなら雨が降ったから*森川智喜

  • 2014/11/11(火) 07:08:41

なぜなら雨が降ったからなぜなら雨が降ったから
(2014/09/17)
森川 智喜

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ある雨の日「Yuregi Detective Office」の表札がある部屋の前で、女の人が一人で煙草を吸っていた。「あの、もしかしてここの事務所の方ですか」「そうよ」「探偵さん…ということですか?」「そうなるわね」「すごいですねえ。あの。探偵さんってことは、推理とか、するんですか?」「まあね。あなた、もしかして最近、新しく靴を買ったんじゃない?」史上最短、デビュー2作目で今年度本格ミステリ大賞受賞。天才モリカワによる前代未聞の名探偵、登場!春夏秋冬、そしてまた春―雨女探偵が出会う5つの事件!


「雨女探偵」 「てるてる坊主」 「雨天決行」 「雪女探偵」 「狐の嫁入り」

タイトルからして雨だらけである。なぜなら女探偵・揺木茶々子(ゆれぎちゃちゃこ)が雨女だから。そしてこの物語の主人公であり、大学に合格し、同じマンションに探偵事務所があるという興味から部屋を決めた野崎圭人は、偶然というか当然というか、成り行きで揺木探偵の助手を務めることになる。出会いの時から揺木の一瞬の目のつけどころが鋭く、野崎ともどもわたしも先が愉しみになる。雨女探偵なので、雨が降らないと事件を解決に導く推理が成り立たないという弱点もあるが、そもそも雨の日しか活動していないようなものなので、そこは深く突っ込まなくてもいいのかもしれない。いまひとつとらえどころのない揺木のキャラクター隣幸助手の野崎という適当なコンビがなかなか魅力的な一冊である。続編もぜひ読みたい。

警察(サツ)回りの夏*堂城瞬一

  • 2014/11/09(日) 18:42:27

警察回りの夏警察回りの夏
(2014/09/26)
堂場 瞬一

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甲府市内で幼い姉妹二人の殺害事件が発生。盗みの形跡はなく、母親は消息不明。
マスコミは「虐待の末の殺人では」と報道を過熱させていく。日本新報甲府支局のサツ回り担当の南は、
この事件を本社栄転のチャンスにしようと取材を続けていた。
だが、殺害された姉妹の祖父が度重なるマスコミの取材攻勢によって追いつめられていく。
世間のムードは母親叩きからマスコミ叩きへと一変。粘り強く取材を続けていた南は、警察内部からの
リークで犯人につながる重要な情報を掴む。だがそこには、大きな罠が待ち受けていた――。
やがて日本新報本社では、甲府2女児殺害事件の報道に関する調査委員会が立ち上げられる。
元新聞記者でメディア論研究者の高石が調査委員会委員長に抜擢。事件報道の背景を徹底調査しはじめるが……。
果たして真相はどこにあるのか? 報道の使命とは何か? 現代社会に大きな問いを投げかける、渾身の書き下ろし事件小説。


世間の興味を煽る要素のある殺人事件を、警察ではなく新聞社にスポットを当てて描かれた物語である。読み進むと、事件そのものが本筋ではなく、とんでもないはかりごとが背後に隠れているのが見えてくる。読めば読むほど新たな興味が掻き立てられ、真相を知りたい欲求がいやでも高まる。それを高石をはじめとする調査委員会の面々が代わりにやってくれるという感じである。事件の真犯人が判っても、裏で進んでいたはかりごとがすっきりしたわけではないが、一応カタルシスは得られる。警察と報道の関係、ネットの風評など、いろいろ考えさせられる一冊でもある。

いやでも楽しめる算数*清水義範

  • 2014/11/07(金) 17:12:06

いやでも楽しめる算数いやでも楽しめる算数
(2001/08/21)
清水 義範

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算数をめぐってハカセとサイバラがバトルを展開。円の面積から掛け算・割り算、電卓パズル、人類の三大数学者まで、異色爆笑知的入門エッセイ。『小説現代』連載の「お嫌いでしょうが算数」を単行本化。


実際算数は嫌いだった。高校生くらいになると、どうしてあんなに嫌いだったのか、とも思うようになったが、どういうわけか端から毛嫌いして頭が受け付けなかったような気がする。それでも九九はしっかり覚えているのが不思議である。いまでも大好きというわけではないが、算数的なものの考え方の合理性に納得できることがままあり、いつの間にか拒否感はなくなった(あくまでも「算数」の話しである)。本書を読んで、急に算数嫌いの人が算数大好きにはならないだろうが、いままでとりあえずおいておいたあれこれの、謎解きができてちょっぴりすっきりするような一冊である。

ほどのよい快適生活術--食べる、着る、住む*岸本葉子

  • 2014/11/06(木) 06:47:13

ほどのよい快適生活術---食べる、着る、住むほどのよい快適生活術---食べる、着る、住む
(2011/01/15)
岸本 葉子

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昭和に探す「ほどのよい」暮らし、レンタサイクルで半日旅etc.頑張りすぎず、欲張りすぎず、“ほどほど”がちょうどいい…。おひとりさまも楽しい、快適で上手な暮らし方。


生きているということは、何につけても選択の連続だと思う。そしてその際の迷いどころ、悩みどころ、選択の基準はそれこそ人それぞれで、何に優先権を与えるかに正解はない。我身と引き比べて、ここでこれは選ばないなぁとか、そうそうやっぱりそれを選ぶわよねとか、著者と一緒になってあれこれと悩むのが面白い。高望みせず、ほどほどに、けれど快適に日々を暮していきたいものだと改めて思わされる一冊である。

3時のアッコちゃん*柚木麻子

  • 2014/11/05(水) 16:58:50

3時のアッコちゃん3時のアッコちゃん
(2014/10/15)
柚木 麻子

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アッコ女史ふたたび! 大人気の「ランチのアッコちゃん」に、待望の続編が登場!!
澤田三智子は高潮物産の契約社員として、
シャンパンのキャンペーン企画チームに入っているが、会議は停滞してうまくいかない。
そこに現れたのが黒川敦子女史、懐かしのアッコさんであった。
イギリスでティーについて学んできたというアッコさんが、お茶とお菓子で会議の進行を激変させていく。
またもやアッコさんの底知れぬ力をまざまざと見せつけられる三智子であった――
表題作ほか、「メトロのアッコちゃん」「シュシュと猪」「梅田駅アンダーワールド」を含む全4編。


「アッコちゃん」とたいとるにもつく二作は、アッコさんの知恵と愛が光る、正統派アッコちゃんシリーズといった趣である。ほかの二作は、番外編といおうか、神戸と梅田という東京を離れた場所が舞台になっていて、アッコさんの活躍物語という感じではないので、個人的にはちょっぴり物足りなさもある。だが、順調なことばかりではなく、凹んでいるときにこそ、アッコさんの想いが温かいスープのように身に沁みるのである。アッコさんアッコさんした次作をたのしみに待ちたいシリーズである。

灰と話す男--消防女子!高柳蘭の奮闘*佐藤青南

  • 2014/11/04(火) 17:06:06

灰と話す男 消防女子!! 高柳蘭の奮闘灰と話す男 消防女子!! 高柳蘭の奮闘
(2013/10/09)
佐藤 青南

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横浜市消防局湊消防署に勤める任官二年目の女性消防士、高柳蘭。中区内では、二ヶ月間で四十二件もの火災が発生していた。そのうちの十六件は半径一・五キロ圏内に集中し、火災原因も明らかになっていないことから、警察は事件性を疑う。火災原因調査員の木場は、根拠の薄いことから「事件」との見方に慎重になるが、ある人物の存在に気づき…。一方、民家の消火に当たった浜方隊は、殉職者を出してしまう。それを機に蘭に異変が起こって…。『このミス』大賞シリーズ。


高柳蘭シリーズの二作目。連続放火なのか、はたまた偶然なのか、それともただの失火なのか。警察との通報者の取り合いやら、仲間の殉職やら、今回も見どころ満載である。そして「灰と話す男」と呼ばれる消火後の現場をくまなく検証し、灰の状態まで観察し尽くす予防課の木場がいい仕事をしている。高柳蘭が主役なので仕方がないのかもしれないが、タイトルにもなっているのだから、もう少し木場をクローズアップして欲しかった気もする。裏方担当、大好きである。どんどん成長する蘭のこれからが愉しみなシリーズである。

砂に泳ぐ*飛鳥井千砂

  • 2014/11/03(月) 07:01:28

砂に泳ぐ砂に泳ぐ
(2014/09/27)
飛鳥井 千砂

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大学卒業後、地元で働いていた紗耶加は、やりがいを見つけられず息苦しい毎日を過ごすなか、思いきって東京に行くことを決心する。新しい職場で気の合う同僚に恵まれ、圭介という優しい男性にも出会うことができた。やがて圭介と半同棲をすることになったが、彼の自分勝手な言動に違和感を抱きはじめる。苦悩する紗耶加を救ってくれたのは、写真を撮ることだった。そして、思いがけない新たな出会いが紗耶加の運命を変えていく―。仕事や恋愛で揺れ動く女性の生き様を圧倒的リアリティで描いた、勇気と希望の物語。


どこにいてもいつでも自分なりに真面目に一生懸命やっている紗耶香だったが、いつもなんとなく満たされない思いにもやもやしていた。そんなとき、職場の携帯ショップで出会ったパキスタン人のミシュラさんの生き方の一端に触れ、心が動く。そして彼にもらった水色のコンパクトデジカメで写真を撮るようになるのである。東京に出てきても、思い通りに行かないともやもやすることも多いが、写真はいつも紗耶香を元気にしてくれるのだった。紗耶香自身は思い通りに行かないと思いつづけているのかもしれないが、傍から見ると結構いつでも自分で自分の道を切り拓いているように見える。思い描いた通りではないとしても、やりたいことを見つけ、その道を歩きはじめているのだから、しあわせなことである。なにより周囲の人間関係に恵まれて、いつも助けられている。そのことを忘れずに歩き続けていってほしいと願う一冊である。

明日の子供たち*有川浩

  • 2014/11/01(土) 16:45:43

明日の子供たち明日の子供たち
(2014/08/08)
有川 浩

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三田村慎平・やる気は人一倍の新任職員。和泉和恵・愛想はないが涙もろい3年目。猪俣吉行・理論派の熱血ベテラン。谷村奏子・聞き分けのよい“問題のない子供”16歳。平田久志・大人より大人びている17歳。想いがつらなり響く時、昨日と違う明日が待っている!児童養護施設を舞台に繰り広げられるドラマティック長篇。


「かわいそう」とつい思ってしまいがちな児童養護施設の子どもたちにとって、それがいちばん言われたくない言葉なのだ。ここに来て初めて安心して息ができるようになった子どもがいる。三食食べられて、安心して眠れる寝床があり、学校にも行けて、いくら勉強しても怒られることがない。彼らはちっともかわいそうなんかではないのである。明日に向かって泣いたり笑ったりしながら生きているのだ。これだけで決して解った気になってはいけないことは充分承知しているが、それでも、児童養護施設の現状と、施設を出た後のケアの現状の一端を垣間見られたという点では、考えを新たにするきっかけとなる一冊だと思う。