静おばあちゃんにおまかせ*中山七里

  • 2014/12/30(火) 21:12:19

静おばあちゃんにおまかせ静おばあちゃんにおまかせ
(2012/07)
中山 七里

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神奈川県内で発生した警官射殺事件。被害者も、容疑者も同じ神奈川県警捜査四課所属。警視庁捜査一課の葛城公彦は、容疑者となったかつての上司の潔白を証明するため、公休を使って事件を探り出したが、調査は思うに任せない。そんな葛城が頼りにしたのは、女子大生の高遠寺円。――円はかつてある事件の関係者で、葛城は彼女の的確な洞察力から事件を解決に導いたことがあった。円は中学生時代に両親を交通事故で亡くし、元裁判官だった祖母の静とふたり暮らしをしている。静はいつも円相手に法律談義や社会の正義と矛盾を説いており、円の葛城へのアドバイスも実は静の推理だったのだが、葛城はそのことを知らない。そしてこの事件も無事に解決に至り、葛城と円は互いの存在を強く意識するようになっていった――(「静おばあちゃんの知恵」)。以下、「静おばあちゃんの童心」「不信」「醜聞」「秘密」と続く連作で、ふたりの恋が進展する中、葛城は円の両親が亡くなった交通事故を洗い直して真相を解明していく。女子大生&おばあちゃんという探偵コンビが新鮮で、著者お約束のどんでん返しも鮮やかなライトミステリー。


刑事には見えない葛城は、どういうわけか難事件を最後の最後で解決してしまうのである。実はその陰には、法曹界を目指す女子大生・高遠寺円の名推理があるのだった。そして実はそれは円の推理でさえなく、さらにその陰には、元裁判官である彼女の祖母・静の存在があったのである。葛城の円に対する思いが、事件解決のためと理由をつけて円に会おうとすることになり、静おばあちゃんの推理に頼ることになるという仕組みである。静おばあちゃん、格好いい。だが、最後に明らかにされる静おばあちゃんの真実には驚かずにはいられない。シリーズ化されると嬉しいのに、と思いながらも、このラストではそれも無理だと諦めざるを得ない一冊である。

サラバ!下*西加奈子

  • 2014/12/28(日) 06:51:47

サラバ! 下サラバ! 下
(2014/10/29)
西 加奈子

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父の出家。母の再婚。サトラコヲモンサマ解体後、世間の耳目を集めてしまった姉の問題行動。大人になった歩にも、異変は起こり続けた。甘え、嫉妬、狡猾さと自己愛の檻に囚われていた彼は、心のなかで叫んだ。お前は、いったい、誰なんだ。


上巻が姉の奇行を糧に歩が自分の立ち位置を測る時代だとすれば、下巻は、圷(今橋)家の激動の時代だとは言え、歩にとっては手痛いから緩やかな下降の時とも言えるように思う。何もかもが思うようにはいかず、頭髪までもが徐々に30代の自分を見離し始め、幼いころから容姿にだけは自信があった歩の自我をさえ崩壊させるのである。下巻の後半では、姉は自分なりの信じるものを見つけて彼女なりに安定に向かっているが、歩自身はそれとは裏腹にこれまでの人生すらガラガラと音を断てて崩れていくような思いから抜け出せない。良かれ悪しかれ姉の存在の大きさを思わされる。そしてカイロへ……。「サラバ!」が歩の心のお守りになったのだと涙が出る思いのラストである。圷(あえてそう言いたい)一家がしあわせでありますようにと願わずにはいられない一冊である。

サラバ!上*西加奈子

  • 2014/12/26(金) 18:41:33

サラバ! 上サラバ! 上
(2014/10/29)
西 加奈子

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西加奈子作家生活10周年記念作品。
1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。
父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。
イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。
後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに――。


長男・歩の独白の形を取った圷(あくつ)家の物語である。個性的な家族(特に女性)のせいで、気配を消してことさらいい子でいる術を身に着けた歩は、家族の中で、近所の人たちの間で、そして友人たちとの関係で、そこそこうまくやっているのだが、いつも頭の上に奇抜でつかみどころのない姉・貴子の存在がある。それは、家から離れても、どこかで逃れられないものなのだった。海外赴任者の家族として、知らない国で暮らすことが、貴子や歩の生き方にかなりの影響を及ぼしたように見えるが、貴子が解放されたのに比べて、歩にとってはさらに処世術を磨く機会になったようにも思われる。上巻だけで、歩が生まれてから大学生までの長期間が描かれているのだが、下巻ではどこまで行くのだろう。この先の圷家の人たちの行方がとても気になる。不思議に惹きこまれる一冊である。

注文の多い美術館*門井慶喜

  • 2014/12/24(水) 07:25:45

注文の多い美術館 美術探偵・神永美有注文の多い美術館 美術探偵・神永美有
(2014/11/26)
門井 慶喜

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美術探偵・神永美有とワトソン役の美大准教授・佐々木の名コンビ!
佐々木が密かに思いを寄せていた教え子・琴乃が結婚。嫁ぎ先の家宝「支倉常長が持ち帰ったタペストリー」を、琴乃は偽物と断じたが?


「流星刀、五稜郭にあり」 「銀印も出土した」 「モザイクで、やーらしい」 「汽車とアスパラガス」 「B級偉人」 「春のもみじ秋のさくら--神永美有、舌にめざめる」

火村先生とアリスを思わせるコンビだが、本作では主役(というか探偵役)は准教授ではなく美術コンサルタントの神永美有の方である。佐々木准教授は、アリス的な役割である。そして脇を固めるのは、かつての佐々木のゼミの教え子・イヴォンヌ(本名高野さくら)。奇抜な格好と奇抜な思考回路で、佐々木を翻弄する。代々家に伝わる美術品や古物の真贋を、何の引き合わせか専門外の佐々木が検証することになり、ひと目見ただけで舌が甘味と苦みで真贋を見抜く神永の助けを借りて(頼り切って)見極めるという流れである。持ち込まれたものによって絡まった人間関係を解きほぐしたり、恋の駆け引きがあったり、見どころは多いが、キャラクタがまだしっくり馴染んでいない感もある。シリーズになってもっとよく知れば、味わい深いものになるのかもしれないと思える一冊である。

アポロンの嘲笑*中山七里

  • 2014/12/22(月) 07:13:25

アポロンの嘲笑アポロンの嘲笑
(2014/09/05)
中山 七里

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<管内に殺人事件発生>の報が飛び込んできたのは、東日本大震災から五日目のことだった。
被害者は原発作業員の金城純一。被疑者の加瀬邦彦は口論の末、純一を刺したのだという。
福島県石川警察署刑事課の仁科係長は移送を担うが、余震が起きた混乱に乗じて邦彦に逃げられてしまう。
邦彦は、危険極まりない“ある場所"に向かっていた。仁科は、純一と邦彦の過去を探るうちに驚愕の真実にたどり着く。
一体何が邦彦を動かしているのか。自らの命を懸けても守り抜きたいものとは何なのか。そして殺人事件の真相は――。
極限状態に置かれた人間の生き様を描く、異色の衝撃作!


ただでさえ胸が痛み気持ちが沈む大震災とそれに続く原発事故の現場を舞台にした物語である。殺人事件の被害者は、阪神淡路大震災で被災し、心機一転福島に移住し、原発で働く青年。被疑者は、阪神淡路大震災で、盾になってくれた両親のおかげで奇跡的に命拾いしたが、その後の不遇により期せずして福島で原発作業員として働く男。それだけで充分背負ったものの重さにやり切れなくなるのだが、運命はさらに彼らを追いつめたのだった。福島第一原発の作業の過酷さ、政府や東電の対応の杜撰さに憤りを覚え、地団太踏みたくなるのはもちろん、それとは別に、その中で不気味に進んでいた計画の恐ろしさに背筋が寒くなる。なにより、実際にそんなことがあったとしても――そしてこのことだけではもちろんなく――、一般国民には全く知らされずに闇に葬られる可能性を想うと、一体何を信じればいいのだろうという虚しさが胸を覆う。穏やかな暮らしがいちばんだと改めて思わされる一冊でもある。

この部屋で君と

  • 2014/12/20(土) 07:31:21

この部屋で君と (新潮文庫)この部屋で君と (新潮文庫)
(2014/08/28)
朝井 リョウ、越谷 オサム 他

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誰かと一緒に暮らすのはきっとすごく楽しくて、すごく面倒だ。「いつかあの人と同じ家に住めたらいいのに」「いずれこの二人暮らしは終わってしまうんだろうか」それぞれに想いを抱えた腐れ縁の恋人たち、趣味の似た女の子同士、傷心の青年と少女、出張先の先輩と後輩、住みついた妖怪と僕…気鋭の作家8名がさまざまなシチュエーションを詰め込んだひとつ屋根の下アンソロジー。


 朝井リョウ 「それでは二人組を作ってください」
 飛鳥井千砂「隣の空も青い」
 越谷オサム「ジャンピングニー」
 坂木司「女子的生活」
 徳永圭「鳥かごの中身」
 似鳥鶏「十八階のよく飛ぶ神様」
 三上延「月の沙漠を」
 吉川トリコ「冷やし中華にマヨネーズ」

いろんな時代、いろんな場所の、いろんな部屋で繰り広げられる、いろんな二人の物語である。冒頭に、不動産広告のように部屋の案内と平面図が載せられていて、それを見ただけで周囲の環境や部屋の様子が想像できてすでに愉しい。物語に飛び込めば、どの二人もしあわせいっぱい大満足というわけではなく、何らかの屈託を身に宿して日々を暮している。それぞれの部屋の間取りによってもたらされるものもあって、それがなおさら興味深い。そしてそれぞれが最善とは言えないかもしれないが、なんとなく満たされて終わるのが心地好い一冊でもある。

if サヨナラが言えない理由*垣谷美雨

  • 2014/12/18(木) 18:19:20

if: サヨナラが言えない理由if: サヨナラが言えない理由
(2014/11/11)
垣谷 美雨

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マジメだけど不器用、悩める女医が拾ったのは、患者の心の「○○」が聞こえる聴診器。患者とともに、“もうひとつの人生”を生き直すことになるが―!?女性から圧倒的な支持を受ける著者が描くヒューマン・ドラマ。


第1章 dream  第2章 family  第3章 marriage  第4章 friend エピローグ

主人公の医師・早坂ルミ子は、真面目なのだが、空気の読めない言葉遣いをするところがあり、良かれと思って口にしたことで、時に患者や家族の神経を逆なでしてしまったりすることに悩んでいた。そんなときに病院の花壇で聴診器を拾う。ある時担当の患者の胸に当てると、患者の心の声が聞こえるのである。それからは、癌に侵され、余命いくばくもない世代も性別もさまざまな患者の心残りをなくして安らかに逝けるようにと心の声を聞くようになる。生き直した患者が満足することもあれば、家族の本当の気持ちが思惑違いのこともあり、人の一生のかけがえのなさに思いを致す。そして、医局の医者たちの抱える事々も興味深い、あの聴診器は、先輩医師からの思いやりの贈り物でもあるのかもしれない。つい応援したくなる心温まる一冊である。

荒神*宮部みゆき

  • 2014/12/15(月) 16:58:45

荒神荒神
(2014/08/20)
宮部みゆき

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元禄太平の世の半ば、東北の小藩の山村が、一夜にして壊滅状態となる。
隣り合う二藩の反目、お家騒動、奇異な風土病など様々な事情の交錯するこの土地に、
その"化け物"は現れた。
藩主側近・弾正と妹・朱音、朱音を慕う村人と用心棒・宗栄、
山里の少年・蓑吉、小姓・直弥、謎の絵師・圓秀……
山のふもとに生きる北の人びとは、
突如訪れた"災い"に何を思い、いかに立ち向かうのか。
そして化け物の正体とは一体何なのか――!?
その豊潤な物語世界は現代日本を生きる私達に大きな勇気と希望をもたらす。
著者渾身の冒険群像活劇。


565ページという大作で、しかも元禄の世の山里が舞台、しかも怪物が村を襲う物語。歴史、ホラーと個人的に苦手な分野の揃い踏みという感じで、読みはじめてすぐ、読むのをやめようかと一瞬思ったが、少し読み進めると、苦手は苦手として、それを取り巻く人間関係の機微や、使命感ゆえの強さなどの魅力に惹きこまれることになる。また、元禄の物語なのだが、どうしても現代と重ねて読んでしまうところが多く、やり切れなく哀しい思いに満たされそうにもなる。人の心の醜さや身勝手が何を生むか、それがどれほど恐ろしく虚しいものかを思い知らされる一冊でもある。

たった、それだけ*宮下奈都

  • 2014/12/13(土) 17:10:52

たった、それだけたった、それだけ
(2014/11/12)
宮下 奈都

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贈賄の罪が明るみに出る前に失踪した男と、その妻、姉、娘、浮気相手。考え抜いたそれぞれの胸の内からこぼれでた“たった、それだけ”のこと。本屋大賞ノミネート作『誰かが足りない』の感動ふたたび。人の弱さを見つめ、強さを信じる、著者の新たなる傑作!


それぞれの章で主役を替えて語られる物語。だがそれは、一貫して贈賄の汚名を着て、ある日突然失踪した望月正幸というひとりの男にまつわるものだったのである。望月自身はその姿を現すことはほとんどなく、取り残された周りの人たちのその後が描かれているのだが、いつもそこには色濃く望月の気配が漂っている。そしてラスト。これほど近づいたのにここで終わってしまうのか、ともどかしい気持ちにもなるが、それからのことをあれこれ想ってみるのもまた興味深い。たった、それだけのことが作りだした波紋は意外に遠くまで及ぶものだと思わされる一冊でもある。

肉小説集*坂木司

  • 2014/12/13(土) 07:35:10

肉小説集肉小説集
(2014/11/01)
坂木 司

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豚足×会社を辞めて武闘派として生きる元サラリーマン。ロースカツ×結婚の許しを得るべくお父さんに挑むデザイナー。角煮×母親に嫌気がさし、憧れの家庭を妄想する中学生。ポークカレー×加齢による衰えを感じはじめた中年会社員。豚ヒレ肉のトマトソース煮込みピザ風×片思いの彼女に猛アタックを試みる大学生。生ハム×同じ塾に通う女の子が気になる偏食小学生。肉×男で駄目な味。おいしくてくせになる、絶品の「肉小説」


「武闘派の爪先」 「アメリカ人の王様」 「君の好きなバラ」 「肩の荷(+9)」 「魚のヒレ」 「ほんの一部」

表紙は、よくお肉屋さんにある豚の部位別名称のイラストである。そして内容も、その部位別の物語になっている。ごりごりだったり、ぎとぎとだったり、ほろほろだったり、噛み切れなかったり。味わいも噛み応えもさまざまであるが、どの物語にもいささかの情けなさやほろ苦さや哀しみが漂っている。だが最後には胃の腑に沁み渡るやさしさに変わるのである。坂木流豚肉料理といった風味の一冊である。

ふたつのしるし*宮下奈都

  • 2014/12/11(木) 18:35:15

ふたつのしるしふたつのしるし
(2014/09/19)
宮下 奈都

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この人は何も知らない。遥名も何も知らない。それが決めてだった。
傷んだ心にやさしい雨のように降り注ぐ、傑作恋愛小説。
欠けていたものが、ぴたりとはまる。そんな風にしてふたりは出会った。
勉強のことを一秒も考えない小一のハルと、生きるための型がほしいと考える中一の遥名。
別々の場所で生まれ、まったく違う人生を歩んできたふたりの成長と出会いを描く、生きることが愛おしくなる傑作恋愛小説。


ハルと遥名、二人の「ハル」の人生は初めは別々に進んでいく。だがどちらもがいまいる場所にしっくり納まらない居心地の悪さを感じ、ほかの同級生たちのようにすんなりと事を運べずに成長していく。大人になり、それなりに必要とされる場所を見つけ、自分なりに充実して暮らしていた。そんなときに運命は二人を引き合わせたのである。そして震災。ハルは遥名を自転車で職場から自宅まで送るのである。二人にとっては、極端に言えば言葉さえ要らないくらいの必然的な出会いだったのだ。1991年、1997年、2003年、2009年、2011年と二人の人生を追いかけてきて、最後の章までたどり着いたとき、そこにはほんもののしあわせのしるしがあったのだった。愛おしいという言葉はこのためにあるのだと思える一冊である。

ずっとあなたが好きでした*歌野晶午

  • 2014/12/10(水) 18:26:06

ずっとあなたが好きでしたずっとあなたが好きでした
(2014/10/14)
歌野 晶午

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甘く切なく、ちょっと痛い恋の話いろいろ

国内外の様々な場所で、いろいろな男女が繰りひろげる、それぞれの恋模様。サプライズ・ミステリーの名手が贈る恋愛小説集……だが?


歌野晶午氏が恋愛小説?と?マークいっぱいでずいぶん長いこと読み進んだ。さまざまな年代、日本だけにとどまらない各地が舞台、状況も設定も実にさまざま。だがどれも恋愛小説なのである。それがあるところで「え!?」となる。もしやこれは……。さすが歌野氏である。そうだったのか、と腑に落ちる一冊である。

店長がいっぱい*山本幸久

  • 2014/12/06(土) 20:33:39

店長がいっぱい店長がいっぱい
(2014/11/14)
山本 幸久

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夫を亡くしたばかりの真田あさぎは、小学生のひとり息子を育てるため、「友々丼」と名付けた“他人丼”の専門店「友々家」を開いた―。あれから30年余り。いまでは、百二十店舗を数えるまでになった。東京、神奈川、群馬…今日も、あちこちの「友々家」では、店長たちが、友々丼をせっせと提供している。それぞれの事情を抱え、生きるために「友々丼」をつくり続ける7人の店長と、共に働く人々のちょっぴり切ない七つの物語。


「松を飾る」 「雪に舞う」 「背中に語る」 「一人ぼっちの二人」 「夢から醒めた夢」 「江ノ島が右手に」 「寄り添い、笑う」

友々家の各地の店の店長がそれぞれの章の主役である。店ごとに客層もスタッフの質もさまざまで、店長になったいきさつもそれぞれである。各店の抱える悩みや、店長個人の屈託、スタッフとのかかわり方など、ひとつとして同じ例はなく興味深い。そして、店長たちの物語ではあるのだが、それを大きく包んだ形で、創業者の真田あさぎとその家族の物語でもあるのが、さらに味わい深い。やり手で美人の霧賀さんもしあわせになれそうな感じなのも、つい嬉しくなってしまう。友々家に行ってみたくなる一冊である。

怪しい店*有栖川有栖

  • 2014/12/05(金) 18:58:54

怪しい店怪しい店
(2014/10/31)
有栖川 有栖

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骨董品店で起きた店主殺人事件、偏屈な古書店主を襲った思いがけない災難、芸能プロダクションの社長が挑んだ完全犯罪、火村が訪れた海辺の理髪店でのある出来事、悩みを聞いてくれる店“みみや”での殺人事件。「どうぞお入りください」と招かれて、時には悪意すら入り込む。日常の異空間「店」を舞台に、火村英生と有栖川有栖の最強バディの推理が冴える。極上ミステリ集。


表題作のほか、「古物の魔」 「燈火堂の奇禍」 「ショーウィンドウを砕く」 「潮騒理髪店」

火村&アリスシリーズ。今回は、火村先生とアリスが別々に聞き込みをする作品もあり、それぞれの相手に対する思いの一端を知ることができたりして、ちょっぴり得した気分でもある。骨董品店、古書店、きょうで閉店の理髪店、路地裏の聴き屋など、舞台になる店が趣があるものが多いのも想像力を掻き立てられた。そして、最後にアリスが大阪府警捜査一課の紅一点・コマチ刑事の反省会をした喫茶店<shi>もとても気になる店である。最後まで店で魅せてくれる一冊である。

よろずのことに気をつけよ*川瀬七緒

  • 2014/12/03(水) 18:35:55

よろずのことに気をつけよよろずのことに気をつけよ
(2011/08/09)
川瀬 七緒

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被害者は呪い殺されたのか!―謎が謎を呼ぶ、呪術ミステリーの快作。変死体のそばで見つかった「呪術符」の意味は?呪いと殺人の謎に文化人類学者が挑む!第57回江戸川乱歩賞受賞作。


民俗学、文化人類学、というと、どうしても北森鴻氏の連城那智シリーズを思い出してしまう。本作も、土地ならではの伝承や、民話の類、村特有の道具など、興味深い要素をたどって真相にたどり着くのだが、前半がいささかテンポに乗り切れていない印象なのに比べ、終わり近くであまりにあっけなく真実にたどり着き、しかもそれが当事者の告白というのは、ちょっぴり肩すかしと言えなくもない。キャラクタの持ち味が出そろわない内に終わった感もあり、中澤大輔シリーズとして別の事件も読んでみたい一冊である。