ヤモリ、カエル、シジミチョウ*江國香織

  • 2015/01/31(土) 10:26:50

ヤモリ、カエル、シジミチョウヤモリ、カエル、シジミチョウ
(2014/11/07)
江國 香織

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虫と話をする幼稚園児の拓人、そんな弟を懸命に庇護しようとする姉、ためらいなく恋人との時間を優先させる父、その帰りを思い煩いながら待ちつづける母―。危ういバランスにある家族にいて、拓人が両親と姉のほかにちかしさを覚えるのは、ヤモリやカエルといった小さな生き物たち。彼らは言葉を発さなくとも、拓人と意思の疎通ができる世界の住人だ。近隣の自然とふれあいながら、ゆるやかに成長する拓人。一方で、家族をはじめ、近くに住まう大人たちの生活は刻々と変化していく。静かな、しかし決して穏やかではいられない日常を精緻な文章で描きながら、小さな子どもが世界を感受する一瞬を、ふかい企みによって鮮やかに捉えた野心的長篇小説。


大人の世界の中での子どもの存在とその世界が瑞々しく描かれていて胸を突かれる。平然と浮気を続けながら、平然と家にも帰って来る夫と、鬱屈しながらもその状態を崩そうとはしない妻。そんな大人を父と母として、郁美と拓人は日々を過ごしている。幼稚園児の拓人は、心の中で虫と話ができ、それは特殊能力でもあるのだろうが、子どもの本質のようにも思われる。大人から声をかけられた時の反応や、他人の認知の仕方が、おそらくどんな子どももある程度こうなのだろうと、さまざまなことが腑に落ちもするのである。ある意味欲に駆られた大人の事情とは全くかけ離れたところにある子どもの世界のみずみずしさに溺れそうになる一冊である。

避難所*垣谷美雨

  • 2015/01/29(木) 18:46:48

避難所避難所
(2014/12/22)
垣谷 美雨

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なして助がった? 流されちまえば良がったのに。3・11のあと、妻たちに突きつけられた現実に迫る長篇小説。乳飲み子を抱える遠乃は舅と義兄と、夫と離婚できずにいた福子は命を助けた少年と、そして出戻りで息子と母の三人暮らしだった渚はひとり避難所へむかった。段ボールの仕切りすらない体育館で、絆を押しつけられ、残された者と環境に押しつぶされる三人の妻。東日本大震災後で露わになった家族の問題と真の再生を描く問題作。


椿原福子、漆山遠乃、山野渚、三人それぞれの事情が語り手を次々交代しながら描かれている。冒頭からいきなり地震とそれに続く津波の描写で、胸を塞がれる心地で読み始めたのだが、運良く命拾いした人たちのその日からの避難所暮らしの過酷さは、想像を絶するものだった。外側からではうかがい知れない避難所の現実や尋常ではない気持ちの動きや、本音などがつぶさに書かれていて、そのあまりのリアルさに、暗澹たる気持ちにさせられる。安全な場所にいて考える支援のなんと的外れなことかと、胸が痛くなる。なにが本当に必要で、どこまで我慢できるのか、物質的なことはもちろん、人間関係においても、核のところが露わにされていくように思える。誰を責めても、なにをどうしても、埋めることができないことがあるのだと思い知らされる一冊である。

青い翅*吉永南央

  • 2015/01/27(火) 18:18:31

青い翅青い翅
(2014/12/17)
吉永 南央

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版画家の黒木が消えた。美しい蝶“ユリシス”の木版画を託された親友の善如寺は、黒木の才能を信じ、この「複数性に頼らない、絵画のような版画」を大切に守ってきた。だが18年後、善如寺は4枚もの複製の存在を知る。それらは偽物なのか?あるいは黒木に裏切られていたのか?衝撃を受けた善如寺が探偵に依頼した調査は、思わぬ人物へと波紋を広げてゆく。“信頼”と“希望”をめぐる傑作長編ミステリー。


自らがもつ色ではなく、光を反射して美しい青色を成す蝶・ユリシス。版画家の黒木は友人の善如寺に唯一のユリシスの木版画を託し、後に行方不明になった。18年経ち、唯一無二と信じていたユリシスが、ほかに四枚も存在することを知り、善如寺は不審に思い調査を依頼するのだが……。現在と過去とを行き来しながら物語が進むにつれ、黒木とその周りで起こったことが少しずつ明らかになっていくのだが、真実がひとつ明らかにされるたびに、切ないような複雑な心地にさせられる。そして、すべてを白日の下に晒すのが果たしていいことなのだろうか、という思いにとらわれる。読み応えのある一冊だった。

あなたは、誰かの大切な人*原田マハ

  • 2015/01/26(月) 17:03:14

あなたは、誰かの大切な人あなたは、誰かの大切な人
(2014/12/18)
原田 マハ

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家族と、恋人と、そして友だちと、きっと、つながっている。大好きな人と、食卓で向かい合って、おいしい食事をともにする―。単純で、かけがえのない、ささやかなこと。それこそが本当の幸福。何かを失くしたとき、旅とアート、その先で見つけた小さな幸せ。六つの物語。


「最後の伝言」 「月夜のアボカド」 「無用の人」 「緑陰のマナ」 「波打ち際のふたり」 「皿の上の孤独」

かけがえのない人と離れてみて初めて気づく、その人の大切さ。何気ない日常にこれほど豊かなしあわせがあったのかと気づかされる旅の途中。言葉にしなければわからないことも多いが、自らの心の持ちようで違って見える毎日もあることに、それぞれの物語の主人公たちが、それぞれの場所で気づき、大切な人に思いを馳せる。何気ない日常を切り取ったようで、とても大切なことを教えてくれる一冊である。

物語のおわり*湊かなえ

  • 2015/01/25(日) 17:06:11

物語のおわり物語のおわり
(2014/10/07)
湊 かなえ

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妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、
父親の死を機にプロカメラマンになる夢をあきらめようとする男性……
様々な人生の岐路に立たされた人々が北海道へひとり旅をするなかで受けとるのはひとつの紙の束。
それは、「空の彼方」という結末の書かれていない物語だった。
山間の田舎町にあるパン屋の娘、絵美は、学生時代から小説を書くのが好きで周りからも実力を認められていた。
ある時、客としてきていた青年と付き合い婚約することになるのだが、憧れていた作家の元で修業をしないかと誘いを受ける。
婚約を破棄して東京へ行くか、それとも作家の夢をあきらめるのか……
ここで途切れている「空の彼方」という物語を受け取った人々は、その結末に思いを巡らせ、自分の人生の決断へと一歩を踏み出す。
湊かなえが描く、人生の救い。


「空の彼方」 「過去へ未来へ」 「花咲く丘」 「ワインディング・ロード」 「時を超えて」 「湖上の花火」 「街の灯り」 「旅路の果て」

冒頭の「空の彼方」をキーにした連作物語である。当初はそうは思わず、それぞれの物語に結末がなく、読者に想像させる仕組みなのだと思ったが、さにあらず。冒頭の手記のような小説がリレーのようにバトンタッチされていき、受け手にさまざま影響を与えては、また次にバトンタッチされていくのである。そして、長い時間をかけて熟成された壮大な物語は、次々にあちこちと繋がって完成されるのである。読み終えてあたたかい気持ちになれる一冊である。

六花落々(りっかふるふる)*西條奈加

  • 2015/01/24(土) 17:08:38

六花落々六花落々
(2014/12/11)
西條奈加

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冬の日、雪の結晶の形を調べていた下総古河藩の下士・小松尚七は藩の重臣・鷹見忠常(のちの泉石)に出会う。その探究心のせいで「何故なに尚七」と揶揄され、屈託を抱える尚七だったが、蘭学に造詣の深い忠常はこれを是とし、藩の世継ぎ・土井利位の御学問相手に抜擢した。やがて江戸に出た主従は、蘭医・大槻玄沢や大黒屋光太夫、オランダ人医師・シーボルトらと交流するうちに、大きな時代の流れに呑み込まれていく…。


「何故なに尚七」と呼ばれ、周りにある意味迷惑がられていた尚七が、古河藩の重臣・鷹見忠常と出会い、蘭学を知ることで、より広い世界へと興味を広げ、動く時代の渦中に呑みこまれていく物語である。だが、大きなことだけでなく、日々の些細な出来事に尚七が心を動かされ、興味を惹きつけられる様が、とてもリアルに描かれていて、読者は尚七に惹きつけられていくのである。運命の妻との出会いや、その後の家庭のあたたかさも尚七の探求心を見守っているのがよく判る。知ることの第一歩は、知りたいと思うことだと改めて思わされる一冊である。

身代わり島*石持浅海

  • 2015/01/23(金) 18:47:45

身代わり島 (朝日文庫)身代わり島 (朝日文庫)
(2014/12/05)
石持 浅海

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景観豊かな鳥羽湾に浮かぶ本郷島が舞台となった大ヒットアニメーション映画『鹿子の夏』のイベント開催を実現させるため、木内圭子ら発起人5名は島を訪れる。しかし打ち合わせをはじめた矢先、メンバーの辺見鈴香が変わり果てた姿で発見される…。


アニメ映画のイベント開催に絡む敵対関係、映画監督と何か曰くがありそうな語り手・圭子の心の裡、映画の主人公が生きて現れたような民宿の娘・彩音、コアな鹿子オタク、などなど、意味ありげな要素があちこちに散らばっている中で起こる殺人事件である。密室でもなく特殊な状況でもない、普通の人々が登場する珍しい石持作品である。そのなかにあって、映画に興味もなく、ただ魚釣りを愉しみに来ている鳴川が、ひとり異質と言えば言えるかもしれない。そしてその鳴川が探偵役として、事件の謎を解き明かすのである。限られた状況から繰り出される推理は素晴らしいのだが、彼の素性がいまひとつよく判らず、圭子との関係も、どうなることやら、な印象なのが、いささか物足りない気もしなくはない。鳴川シリーズにして、鳴川のことをもっと知ることができたら、きっともっと入り込めるのではないかと思う。鳴川シリーズ、ぜひ読みたいと思わされる一冊である。

ナオミとカナコ*奥田英朗

  • 2015/01/21(水) 18:33:06

ナオミとカナコナオミとカナコ
(2014/11/11)
奥田 英朗

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ナオミとカナコの祈りにも似た決断に、やがて読者も二人の“共犯者”になる。望まない職場で憂鬱な日々を送るOLの直美。夫の酷い暴力に耐える専業主婦の加奈子。三十歳を目前にして、受け入れがたい現実に追いつめられた二人が下した究極の選択…。「いっそ、二人で殺そうか。あんたの旦那」復讐か、サバイバルか、自己実現か―。前代未聞の殺人劇が、今、動き始める。比類なき“奥田ワールド”全開!


直美と加奈子がカナコのDV夫を殺そうと決意し、綿密に計画を練りつつも数々の偶然を取り込みながら計画を実行していく過程がスリリングでありながら、日常生活も表面上はそれまでとほぼ変わらずにこなしているのに、女のしたたかさが感じられる。いつの間にか自分もナオミとカナコになりきって、ついどう切り抜けようか考えを巡らしたり、彼女たちに立ちふさがる者たちに憤ったりしてしまうのだが、人ひとり殺してそうやすやすと逃げ延びられるものではない。いざとなった際の二人の常とは違う強さや弱さなど意外な一面も、リアリティがあって興味深い。只者であって只者ではないナオミとカナコにすっかり魅了された一冊である。

本格小説 上*水村美苗

  • 2015/01/20(火) 18:49:56

本格小説 上本格小説 上
(2002/09)
水村 美苗

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ある夜、“水村美苗”は奇跡の物語を授かった。米国での少女時代に出逢った実在する男の、まるで小説のような人生の話。それが今からあなたの読む『本格小説』…。軽井沢に芽生え、階級と国境に一度は阻まれた「この世ではならぬ恋」がドラマチックに目を覚ます。脈々と流れる血族史が戦後日本の肖像を描く。


本格小説というタイトルだが、まず「本格小説の始まる前の長い長い話」という章があり、水村美苗のアメリカ滞在中の少女時代のあれこれが描かれていて、それがこの小説を書くきっかけになったのだという。初読みの著者なので、どんな仕掛けが隠されているのか皆目想像がつかず、自伝のような出だしに少なからず戸惑う。本編(?)が始まってからは、物語に惹きこまれはするが、冒頭の章がどうかかわってくるのかが気になったまま、上巻は終わり、物語の主人公・東太郎のこの先の生き方も気になるが、どんな構成になっているのかも気になって仕方がない。早く下巻を読みたくなる一冊である。

天の梯(そらのかけはし)--みをつくし料理帖*高田郁

  • 2015/01/19(月) 17:03:26

天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)
(2014/08/09)
高田 郁

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『食は、人の天なり』――医師・源斉の言葉に触れ、料理人として自らの行く末に決意を固めた澪。どのような料理人を目指し、どんな料理を作り続けることを願うのか。澪の心星は揺らぐことなく頭上に瞬いていた。その一方で、吉原のあさひ太夫こと幼馴染みの野江の身請けについて懊悩する日々。四千両を捻出し、野江を身請けすることは叶うのか! ? 厚い雲を抜け、仰ぎ見る蒼天の美しさとは! ?「みをつくし料理帖」シリーズ、堂々の完結。


完結篇の今回は、澪のひとり立ちと新たな出発の物語である。登龍楼との確執も、意外な展開で幕を閉じ、しかもそれをめでたしめでたしに持って行く辺り、著者の巧さにうならされる。そしてなにより、澪のなによりの願いが叶い、さらにはこれからますますしあわせになりそうな要素満載のラストで、嬉しいことこの上ない。だが、完結編なのである。続きは想像するしかないのだ。なんと寂しい……。巻末の「みをつくし瓦版」のりうの質問箱への作者からの回答に、わくわくすることが書かれているので、それを愉しみにすることにしよう。そしてさらに最後に綴じられている最新の料理番付が読者の想像を助けてくれるのである。泣かされ続けたシリーズである。

インデックス*誉田哲也

  • 2015/01/18(日) 09:08:59

インデックスインデックス
(2014/11/14)
誉田 哲也

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池袋署強行犯捜査係担当係長・姫川玲子。所轄に異動したことで、扱う事件の幅は拡がった。行方不明の暴力団関係者。巧妙に正体を隠す詐欺犯。売春疑惑。路上での刺殺事件…。終わることのない事件捜査の日々のなか、玲子は、本部復帰のチャンスを掴む。気になるのは、あの頃の仲間たちのうち、誰を引っ張り上げられるのか―。


姫川玲子シリーズである。所轄でも相変わらず周りに迎合せず煙たがられてもいる玲子だが、直感とも言える捜査をして成果はあげている。傷を負った心を宥めきれずに肩肘張って生きる姿もすっかり板についた印象である。ただ、かつての仲間たちとのような関係性はどこへ行ってもなかなか望めない。毎日のように起こる事件に当たる様子も常に玲子らしくてわくわくするのだが、最後の最後にあの人が登場したときにはなぜか涙が出てきた。これはぜひ本部に復帰してのちも読みたいものである。まだまだ続いてほしいシリーズである。

テミスの剣*中山七里

  • 2015/01/17(土) 07:24:56

テミスの剣テミスの剣
(2014/10/24)
中山 七里

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昭和五十九年、台風の夜。埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が殺された。浦和署の若手刑事・渡瀬は、ベテラン刑事の鳴海とコンビを組み、楠木青年への苛烈な聴取の結果、犯行の自白を得るが、楠木は、裁判で供述を一転。しかし、死刑が確定し、楠木は獄中で自殺してしまう。事件から五年後の平成元年の冬。管内で発生した窃盗事件をきっかけに、渡瀬は、昭和五十九年の強盗殺人の真犯人が他にいる可能性に気づく。渡瀬は、警察内部の激しい妨害と戦いながら、過去の事件を洗い直していくが…。中山ファンにはおなじみの渡瀬警部が「刑事の鬼」になるまでの前日譚。『どんでん返しの帝王』の異名をとる中山七里が、満を持して「司法制度」と「冤罪」という、大きなテーマに挑む。


渡瀬刑事シリーズの一環ということになるのだろうか。といっても、渡瀬刑事が登場する作品を読んでいないので、あまりピンとは来ないのだが、それでも惹きこまれる内容である。そして、高遠寺静が現役裁判官時代に唯一心を残した案件が主題でもあり、興味深く読んだ。さらには、途中で真犯人がつぶやいたひと言がなかなか回収されないなと思っていたら、それこそが最後の最後にとんでもない隠し玉となって、一連の状況に新たな驚愕をもたらすことになるのである。初めから終わりまで興味が持続し、ページを繰る手が止まらない一冊だった。

化石少女*麻耶雄嵩

  • 2015/01/15(木) 13:29:17

化石少女 (文芸書)化石少女 (文芸書)
(2014/11/12)
麻耶 雄嵩

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京都の名門学園に続発する凄惨な殺人事件。対するは、マンジュウガニ以上といわれるすべすべ脳みそにして、化石オタクの変人女子高生。古生物部の美形部長まりあが、一人きりの男子部員をお供に繰り出す、奇天烈推理の数々!


名門学園で次々に人が死ぬ。廃部寸前の古生物部と生徒会とのいざこざ、化石にしか興味のない美少女部長・神舞まりあと唯一の部員でありまりあの幼馴染にして、親の仕事がらみでまりあのお守り役を仰せつかって入学した桑島彰の夫婦漫才――彰が聞いたら怒り出しそうだが――のようなやりとり、といったある種コメディにもなりそうなお定まりの設定のなかで、禍々しい殺人事件が起きるのである。しかもまりあは、古生物部の宿敵である生徒会のメンバーを犯人として推理を展開するので、彰はその尻拭いをさせられることになる。さらに言えば、事件はまったくすっきり解決しないのである。だが、そういう趣向なのかと思いかけたラスト近くで、突然目を覚まされた感じである。いろんな風に愉しめる一冊でもあると思う。

みんなの少年探偵団

  • 2015/01/14(水) 07:13:52

みんなの少年探偵団 (一般書)みんなの少年探偵団 (一般書)
(2014/11/07)
万城目 学、湊 かなえ 他

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少年探偵団と怪人二十面相の息詰まる対決に胸を躍らせた過去を共有する人気作家5名が、当時のドキドキ感を筆に込めて、見事なオマージュ・アンソロジーを紡ぎだしました。


「永遠」万城目学 「少女探偵団」湊かなえ 「東京の探偵たち」小路幸也 「指数犬」向井湘吾 「解散二十面相」藤谷治

怪人二十面相や少年探偵団を心底愛しているのだなぁと思わされる物語たちである。設定や、主人公の年代にも工夫が凝らされ、乱歩作品の舞台裏をちらりとのぞいた心地にさせてくれる。文句なく愉しめる一冊である。

何が困るかって*坂木司

  • 2015/01/13(火) 07:20:13

何が困るかって何が困るかって
(2014/12/12)
坂木 司

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子供じみた嫉妬から仕掛けられた「いじわるゲーム」の行方。夜更けの酒場で披露される「怖い話」の意外な結末。バスの車内で、静かに熾烈に繰り広げられる「勝負」。あなたの日常を見守る、けなげな「洗面台」の独白。「鍵のかからない部屋」から出たくてたまらない“私”の物語―などなど。日常/非日常の情景を鮮やかに切り取る18篇を収録。


著者の作品としては珍しいテイストである。読み始めて、「え?ほんとうに坂木さん?」と表紙を見直してしまう感じ。ひとつひとつの物語はとても短く、あっという間に読めてしまいはするのだが、喉越しはまったく滑らかではなく、どこかにちいさな何かが引っかかっているような居心地の悪さが残りもするのである。かと言って腑に落ちないわけではなく、「あるある」的な納得感も満載なのだから不思議である。強いて言えば、日常に潜むホラーのような怖さだろうか。気づかずに通り過ぎてしまえばどうということもないのに、一旦気づいてしまったら最後、足が竦んでしまうような。そんな中に、じんわりあたたかい気分になる物語が紛れ込んでいたりもして、絶妙な一冊である。

花野に眠る--秋葉図書館の四季*森谷明子

  • 2015/01/12(月) 07:33:00

花野に眠る (秋葉図書館の四季)花野に眠る (秋葉図書館の四季)
(2014/11/28)
森谷 明子

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れんげ野原のまんなかにある秋葉図書館は、いつでものんびりのどか。新人司書の文子の仕事ぶりも、どうにか板についてきた。そんななか、図書館のお向かいの日向山から突然、白骨死体が…。誰が、どうして、こんなところに埋められていたのか?文子は、図書館の利用者が持ち込む、ふとした謎を解決しつつ、頼もしい先輩司書たちの助けを借りて、事件の真相究明に挑むが―。本を愛してやまない人の心をくすぐる、やさしい図書館ミステリ!


『れんげ野原のまんなかで』に続く、秋葉図書館シリーズ二作目である。大賑わいとは言えない秋葉図書館ではあるが、いつでも来館者に向けるまなざしは暖かく、訪れた人がいま何を求めているかを親身に考えてくれ、寄り添ってくれるのは、都会の大規模図書館にはなかなかない良さである。新人の文子もだいぶ慣れてきて、保育園の親子に向けたブックトークを任されたり、訳あり気な少年の疑問に親身になったりと、立派な司書ぶりを見せているのも嬉しくなる。本作でも、人の気持ちに寄り添うからこそ解決できた事件の数々が、めぐりめぐり繋がり合って、人の心を解きほぐすことにもなったのではないだろうか。長く続いてほしいシリーズである。

パスティス--大人のアリスと三月兎のお茶会*中島京子

  • 2015/01/10(土) 18:22:17

パスティス: 大人のアリスと三月兎のお茶会 (単行本)パスティス: 大人のアリスと三月兎のお茶会 (単行本)
(2014/11/10)
中島 京子

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太宰治、吉川英治、ケストナー、ドイル、アンデルセン……。あの話この話が鮮やかに変身するパスティーシュ小説集。思わずにやりとする、文芸の醍醐味がたっぷり!


元になった作品を読んでいるものもありそうでないものもあったが、知らなくても元の作品を思い描けるものもあり、知っていれば思わずクスリとなったり、あぁそんな裏話もあったかもしれないなと、妙に納得してみたり、ときには、元作品より腑に落ちたり。なかなか愉しい一冊だった。

さよならの手口*若竹七海

  • 2015/01/09(金) 21:12:38

さよならの手口 (文春文庫)さよならの手口 (文春文庫)
(2014/11/07)
若竹 七海

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探偵を休業し、ミステリ専門店でバイト中の葉村晶は、古本引取りの際に白骨死体を発見して負傷。入院した病院で同室の元女優の芦原吹雪から、二十年前に家出した娘の安否についての調査を依頼される。かつて娘の行方を捜した探偵は失踪していた―。有能だが不運な女探偵・葉村晶が文庫書下ろしで帰ってきた!


久々に会えた葉村晶は、十年ほど歳を取ってはいるが、相変わらずついていない感につきまとわれていて、思わずニンマリしてしまう。とは言え、今回の身体的ダメージはかなりのものである。にもかかわらず、最後まで読むと、なんだか明るい未来が約束されているような気分になってしまうのは不思議である。癌で明日をも知れない往年の名女優の依頼による娘探しが、、過去の未解決事件を掘り起し、政治家のスキャンダルを暴き、大御所俳優の狂気の沙汰をあぶり出し、かつて娘探しをしていて行方知れずになっている同業者の行方を突き止め……、と芋蔓式に事件を手繰り寄せている感もあり、危ない目に遭いながらもすべてに決着をつけているあたり、そうは見えないがやはり有能なのだろう。しかも、今回の物語の主な舞台が、思い切り私の生活圏であり、しかもかなり正確なので、ついうっかりその辺で葉村晶とすれ違ったかもしれないなどという気になったりもして、二度おいしい一冊であった。ぜひまたすぐに会いたいものである。

レッツゴー・ばーさん!*平安寿子

  • 2015/01/07(水) 07:09:59

レッツゴー・ばーさん! (単行本)レッツゴー・ばーさん! (単行本)
(2014/12/08)
平 安寿子

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老化も含めて60歳は自由だ! そう思えば将来(不安はゼロではない)もどーんと受け止められる。人生をきれいに生き尽くせるかは50代が勝負! ユーモアあふれる短編連作。


長寿記録が更新され続ける昨今、老後と呼ばれる時代をどう生きるかは、誰にとっても見過ごせない一大事である。年々、日々、刻々と失われゆく体力・筋力をいかにして我が身に繋ぎとめ、衰えを最小限に食い止めるか。はたまた身ぎれいなばーさんになるためにはどうすればいいのか。物語の主人公、東西文子さんと一緒に読者もあーでもないこーでもないと考えることになる。文子さんと同年代の著者のエッセーかと思ってしまうような悩みのあれこれで、ほぼ同年代の自分にも身につまされる。じたばたもがきながらも、なかなかいいじゃないかと思える老後を送りたいものだと思わされる一冊である。

夜また夜の深い夜*桐野夏生

  • 2015/01/04(日) 17:15:57

夜また夜の深い夜夜また夜の深い夜
(2014/10/08)
桐野 夏生

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私は何者?私の居場所は、どこかにあるの?どんな罪を犯したのか。本当の名前は何なのか。整形を繰り返し隠れ暮らす母の秘密を知りたい。魂の疾走を描き切った、苛烈な現代サバイバル小説。


自分の名前が舞子であること、一緒に暮らす母が日本人であること、それ以外は何も知らず、日本に行ったこともない。世界のあちこちに移り住み、ひとところに長居することもなく、それぞれの地で違う名を名乗り、親しい友人も作らない。国籍もIDもない、根なし草のような暮らしを続けていたある日、マイコはMANGA CAFFEのチラシをもらう。そこで日本の漫画に出会い、夢中になるうち、少しずつ自分の在りようについて考えるようになり、やがて家を出ることになる。それからナポリの街でマイコのサバイバルが始まるのである。この物語は、それらのことを、マイコが自分の境遇と似ていると親近感を持った七海という女性に宛てて手紙に書く、という体裁を取っているので、読者はマイコの客観的な思いを手紙を通して知ることができるのである。マイコの出自を含め、物語がどう展開し、どこに落ち着くのか、なかなか予想できずに読み進んだが、ラストは以外にあっけなかったようにも思われる。だが、マイコにも母にも物語の先があるのだと思うと、少しでも穏やかに、と願わずにはいられない。激動の一冊だった。

家族シアター*辻村深月

  • 2015/01/04(日) 06:58:26

家族シアター家族シアター
(2014/10/21)
辻村 深月

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お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、娘も、息子も、お姉ちゃんも、弟も、妹も、孫だって―。ぶつかり合うのは、近いから。ややこしくも愛おしい、すべての「わが家」の物語。


「「妹」という祝福」 「サイリウム」 「私のディアマンテ」 「タイムカプセルの八年」 「1992年の秋空」 「孫と誕生会」 「タマシイム・マシンの永遠」

姉と妹、母と娘、祖父と孫。家族にもさまざまなつながり方がある。近いがゆえに却って見えないこと、近すぎて気づけないこと。愛の深さをそうと気づかずに鬱陶しく思うこともある。それぞれがそのときどきの精一杯で家族と関わっていたのだと気づくのはいつもはるか先へ行ってふり返る時なのだ。もどかしくて切なくて、じゅわんとあたたかい一冊である。

ディーセント・ワーク・ガーディアン*沢村凛

  • 2015/01/01(木) 17:12:07

ディーセント・ワーク・ガーディアンディーセント・ワーク・ガーディアン
(2012/01/18)
沢村 凜

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「人は、生きるために働いている。だから、仕事で死んではいけないんだ」労働基準監督官である三村は、〈普通に働いて、普通に暮らせる〉社会をめざして、日々奮闘している。行政官としてだけでなく、時に特別司法警察職員として、時に職務を越えた〈謎解き〉に挑みつつ。労働基準監督署を舞台に描く熱血エンターテインメント!


第一話 転落の背景  第二話 妻からの電話  第三話 女の頼み事  第四話 部下の迷い  第五話 フェールセーフの穴  第六話 明日への光景

労働基準監督官という仕事にスポットライトを当てたお仕事小説であり、謎解きもあるミステリでもあって、ひと粒で二度おいしい感じでうれしい。労働基準監督官の三村と友人で刑事の清田との関わりも好もしいし、それぞれのキャラクタがしっかりしていて読みやすい。監督に出向く先の事業所の問題ばかりでなく、三村の家族の事情や、部下との関係も絡ませてさまざまな興味を掻き立てられるが、どれも散漫になっていないのがいい。労働基準監督官という仕事の大切さと苦労のことを、いままでまったく知らなかったと思い知らされ、読んでよかったと思わせる一冊である。