ひとりぼっちのあいつ*伊岡瞬

  • 2015/04/30(木) 17:05:12

ひとりぼっちのあいつひとりぼっちのあいつ
(2015/03/23)
伊岡 瞬

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「故郷に帰れ、田舎もん!」毒づきながら、内心コンプレックスに苛まれている宮本楓太は二十五歳のサラリーマン。ひょんなことで出会った冴えない中年男の秘密を知って、以来なぜか彼から目が離せなくなる。まわりには、謎の美女に強面の老人、なんだか危ない人たちまで…一体彼は何者なのか?素直になれず孤独を抱える楓太と、過去に傷つき未来に希望を持てない春輝。居場所を求めてあえぐすべての人に贈る、希望のラプソディ!


宮本楓太と大里春輝の日々が、過去と現在を織り交ぜながら綴られている。どの時代においても、精彩を放っているとはいいがたく、運命を呪いたくもなりそうな二人の人生が、あるところで交錯し、互いに何か気になるものを感じるのだった。このまま何事も怒らず、穏やかに生きていけたらいいのに、と途中で何度も思うが、そうはいかないのが人生なのだろう。そして、もうこんな世界は嫌だと思ったとき、何が起こったのだろう。薄れていく意識下の妄想なのか、神がかり的な何かが働いたのか……。ささやかなしあわせこそが宝物だと思わされる一冊である。

キッズタクシー*吉永南央

  • 2015/04/28(火) 07:31:38

キッズタクシー (文春文庫)キッズタクシー (文春文庫)
(2015/03/10)
吉永 南央

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タクシードライバーの千春には、正当防衛で人を死なせた過去があった。ある日、千春のタクシーを予約していた小学生が失踪する。その後少年の行方は判明したが、千春の過去に関連づけた噂が流れたため後味の悪さを残していた。さらに彼女の周りでは、不穏な出来事が相次ぐ。一体誰の、どんな思惑があるのか。


キッズタクシー。塾や病院、学校などへ、会員の依頼を受けて子どもを送り届けるタクシーである。実際こんなタクシーがあるのかどうかは知らないが、このタクシーのドライバー千春が主人公である。担当する子どもは基本的には決まっているので、子どもの性格もある程度把握しているし、乗車時の様子でいつもと何かが違うとか、言いたいことがありそうだとか、気がつくこともある。ある日、トラックの荷崩れ事故に巻き込まれ、約束の時間に二分遅れて到着すると、そこに待っているはずの壮太はいなかった。それが事の起こりである。千春の過去と現在、そしてこれから。ひとり息子の修との関係。いなくなった壮太と母・公子の関係。職場の人間関係。さまざまなつながりが、それぞれの事情と絡み合い、がんじがらめにされていく。やりきれなさと切なさに胸を締めつけられ、人の想いのあたたかさに熱いものがこみ上げる一冊である。

エイプリルフールズ*脚本:古沢良太 小説:山本幸久

  • 2015/04/25(土) 18:56:26

エイプリルフールズ (ポプラ文庫 日本文学)エイプリルフールズ (ポプラ文庫 日本文学)
(2015/03/05)
古沢良太、山本幸久 他

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エイプリルフール――それは1年で唯一嘘が許される日。
そんな日に巻き起こる事件の数々。人間模様の数々がからみ、つながり、そして小さな「嘘」が奇跡を起こす!
戸田恵梨香主演、『キサラギ』『リーガル・ハイ』『デート~恋とはどんなものかしら~』など今最も注目されている脚本家・古沢良太のオリジナル脚本で映画化される作品を、人気作家・山本幸久が小説化!


一年の内でも特別な一日、それが四月一日ではないだろうか。唯一嘘をついても許される一日として。そんな日が誕生日の人がいる。そんな日にささやかな嘘をついた人がいる。そしていろんな人が繋がり合い、さまざまなことがもつれ合って、てんでに散らばり、めぐりめぐって元のところに戻る。だが戻ったところはすでに過去のそことは同じではなく、時は進んで進化しているのである。その様がとても面白い一冊である。

札幌アンダーソング 間奏曲*小路幸也

  • 2015/04/22(水) 18:47:03

札幌アンダーソング 間奏曲札幌アンダーソング 間奏曲
(2015/03/29)
小路 幸也

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北海道は札幌。駆け出し刑事の仲野久が勤務する警察署に、謎の手紙が届いた。「おおきな ゆきたいせきば みっつのうちのひとつに したいをうめた」雪堆積場とは、雪国特有の、排雪した雪を運び溜めておく場所のこと。しかしその手紙だけを頼りに、巨大な雪堆積場を掘り起こすわけにはいかない。捜査が進む中、久の先輩刑事の根来は、被害者とされる男の娘に不審を抱く。「あの娘には、背徳の匂いがする」そして、「変態の専門家」で超絶美少年の志村春に、協力を要請するが…。悪趣味ギリギリ!?けれど読めば必ず癖になる、面白さ間違いなしの最強エンタメミステリ!!


キュウくんと根来先輩の信頼関係はもちろん、特異脳を持つ春(シュン)とその家族の緊密な結びつきも前作同様特徴的である。そして、そんな環境と人間関係ゆえに引き寄せられるように起こると言ってもいいような事件も、ある意味特殊である。どこが始まりなのか、どこから巻きこまれているのか、そしてどこから崩せば正解なのか、手掛りを見つければみつけるほど、判らなくなってくるのが、春と宿敵・山森との戦いの凄まじさを感じさせられる。それなのに最後は愛と信じる気持ちなのである。著者らしくなくて著者らしい一冊である。

神様のケーキを頬ばるまで*彩瀬まる

  • 2015/04/21(火) 07:14:41

神様のケーキを頬ばるまで神様のケーキを頬ばるまで
(2014/02/19)
彩瀬 まる

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私は他人に語れることを何一つ持っていない―むつみ(マッサージ店店主)。やっぱりここは、俺にふさわしい七位の場所なのかもしれない―橋場(カフェバー店長)。私から、こんな風に頭を下げてでも、離れたいのだ、この人は―朝海(古書店バイト)。どうすればあの人は私を好きになってくれるのだろう―十和子(IT企業OL)。私は、真夜中の散らかった1DKの部屋で、びっくりするほど一人だった―天音(元カフェ経営者)。きっと、新しい一歩を踏み出せる。ありふれた雑居ビルを舞台に、つまずき転んで、それでも立ち上がる人の姿を描いた感動作!


錦糸町という、流行の最先端とはいいがたい街の雑居ビルに入る五つの店で働く五人の物語である。五人には緊密なつながりはないものの、ウツミマコトというクリエイターの作品が共通するキーポイントになっている。自分の人生に欠落感を抱くそれぞれが、ウツミマコトの作品に自分の胸の裡を投影させたり、反発したりする心の動きも興味深い。常に内省し続け、内へ過去へと意識を向けてきた彼らが、老朽化による取り壊しによってビルを出る時、何かが少しずつ動き出したのだろうか。誰にでもある屈託を、わかりやすい言葉で描き出している一冊だと思う。

天才までの距離*門井慶喜

  • 2015/04/20(月) 06:57:14

天才までの距離天才までの距離
(2009/12/05)
門井 慶喜

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近代日本美術の父・岡倉天心の直筆画が発見された!?「筆を持たない芸術家」と呼ばれた天心の実作はきわめてまれだが、神永はズバリ、破格の値をつけた。果たして本当に天心の作なのか。


表題作のほか、「文庫本今昔」 「マリーさんの時計」 「どちらが属国」 「レンブラント光線」

シリーズになっていないと思っていたのだが、神永美有と佐々木の物語、本作が一作目のようである。価値がある美術品だと甘味を感じ、そうでなければ苦みを感じるという神永の天賦の才が、如何なく発揮されているのだが、それは、作品の真贋を見極めるだけではなかったのだ。もっと深い,描かれた紙の材質や、それが成された意図、時代背景にまで及び、いま目の前にあるものの、その人にとっての価値を推し量りさえしてしまうのである。イヴォンヌや琴乃も絡んで、次へと続くことになるのだが、もっと神永の天才ぶりを見てみたいシリーズである。

億男*川村元気

  • 2015/04/16(木) 16:56:58

億男億男
(2014/10/15)
川村 元気

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宝くじで3億円を当てた図書館司書の一男。浮かれる間もなく不安に襲われた一男は、「お金と幸せの答え」を求めて大富豪となった親友・九十九のもとを15年ぶりに訪ねる。だがその直後、九十九が失踪した―。ソクラテス、ドストエフスキー、アダム・スミス、チャップリン、福沢諭吉、ジョン・ロックフェラー、ドナルド・トランプ、ビル・ゲイツ…数々の偉人たちの“金言”をくぐり抜け、一男の30日間にわたるお金の冒険が始まる。人間にとってお金とは何か?「億男」になった一男にとっての幸せとは何か?九十九が抱える秘密と「お金と幸せの答え」とは?


もっと軽くコミカルな作品かと思って読み始めたのだが、心情的には意外にシリアスで、Amazonの評価の低さの割には面白く読んだ。宝くじで三億円当てた主人公・一男と学生時代からの親友の九十九との関係がなかなか面白いし、別れて暮らしている一男の家族とのつながり方も興味深い。よくありそうな設定のところもないわけではないが、なるほどと思わされるところもある一冊だった。

出版禁止*長江俊和

  • 2015/04/15(水) 06:24:36

出版禁止出版禁止
(2014/08/22)
長江 俊和

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社会の暗部を暴き続ける、カリスマ・ドキュメンタリー作家の「心中事件」。相手は、有名女優の妻ではなく、不倫中の女だった。そして、女だけが生き残る。本当は、誰かに殺されたのではないか?「心中」の一部始終を記録したビデオが存在する。不穏な噂があったが、女は一切の取材に応じなかった。7年が経った。ひとりのルポライターが彼女のインタビューに成功し、記事を書き上げる。月刊誌での掲載予告。タイトルは「カミュの刺客」。しかし、そのルポは封印された―。いったい、なぜ?伝説のカルト番組「放送禁止」創造者が書いた小説。


テレビ番組のことも著者のことも知らなかったが、テレビ番組と似たようなスタンスで書かれた作品のようである。目に見えているものが真実とは限らず、事実を語る告白が真実であるとも限らない。同じ描写が、真実を知ると全く違う様相を呈するようにもなるのである。読者はどうしてもルポライターの視線で事件を見ることになるので、騙されないようにしなければならない。疑いつづけ、緊張感が続く一冊である。

EPITAPH東京*恩田陸

  • 2015/04/13(月) 16:46:54

EPITAPH東京EPITAPH東京
(2015/03/06)
恩田 陸

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東日本大震災を経て、東京五輪へ。少しずつ変貌していく「東京」―。その東京を舞台にした戯曲「エピタフ東京」を書きあぐねている“筆者”は、ある日、自らを吸血鬼だと名乗る謎の人物・吉屋と出会う。吉屋は、筆者に「東京の秘密を探るためのポイントは、死者です」と囁きかけるのだが…。将門の首塚、天皇陵…東京の死者の痕跡をたどる筆者の日常が描かれる「piece」。徐々に完成に向かう戯曲の内容が明かされる作中作「エピタフ東京」。吉屋の視点から語られる「drawing」。三つの物語がたどり着く、その先にあるものとは―。これは、ファンタジーか?ドキュメンタリーか?「過去」「現在」「未来」…一体、いつの物語なのか。ジャンルを越境していく、恩田ワールドの真骨頂!!


ジャンル分けが難しい作品である。エッセイかと思えばドキュメンタリーでもあり、ファンタジーでもありながら戯曲でもある。「筆者」を主語にしたエッセイ風の部分は、実際に著者の日常ではないかと思ってしまうほどエッセイのようである。だがその中に、知らず知らずのうちに何百年にもわたって別の躰にやどり続けているという吸血鬼・吉屋の語りにのめり込み、かと思うといつのまにか、とあるマンションの一室に集まって宅配弁当を作りながら仕事を請け負う女たちの物語に惹きこまれている。それはあたかも夢の中で、次々と場面が切り替わるのになぜか辻褄が合ってしまう不思議さのような感覚である。そしてまた、東日本が大きく揺れたあの日に、別のなにかも人知れずほんのわずかずれ、その世界をさまよっているのかもしれないという心地にさせられる一冊でもある。

電車道*磯崎憲一郎

  • 2015/04/10(金) 18:33:05

電車道電車道
(2015/02/27)
磯崎 憲一郎

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鉄道開発を背景に、日本に流れた百年の時間を描いた著者最高傑作! 橋を架け山を切り開き、四六時中ひっ きりなしに電車を走らせよう。そうすればこの国の人間たちも、絶望の淵からほんの何歩かは引き戻されるはずだから――。日本の近代から現在に至る百年の時間を描き、自然災害、戦争、さらには資本主義経済と抗いがたいものに翻弄されながら、絶えまなく続いてきた人間の営みを活写した長編小説。


全編通して淡々と綴られている。だがその内容はといえば、日本が近代国家に様変わりしていく過程とも言える百年がぎっしり詰まっているのである。変化の著しいこの百年という時間をコマ送りで見せられているような印象でもある。人の意志により、あるいは欲望により、意図せざる状況によって変わり変えられていく街の様子は、そこに暮らす人の営みと合わせて興味深いものがある。ただ、個人的には著者の文章になかなか馴染めず、内容にのめりこみにくかったのが残念でもある。淡々としていながら壮大な一冊である。

幸せ嫌い*平安寿子

  • 2015/04/08(水) 16:53:16

幸せ嫌い幸せ嫌い
(2015/02/26)
平 安寿子

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結婚欲満々の麻美は、そこそこモテる人生を送ってきた。しかしエリート社員との婚約破棄、さらにはハリウッドスター似の男による結婚詐欺に遭い、未婚のまま三十路を迎える。仕事も失い意気消沈の麻美は、母の又従姉妹の紹介により結婚相談所でアルバイトを始めるが、やってくる会員は、性格に難を抱えた“結婚不可人種”ばかりだった。他人の婚活を間近で見るうちに、麻美の結婚観にも変化が訪れ―。“結婚”の見方がきっと変わる痛快長編!


結婚相談所のスタッフになることで、「人のふり見て我がふり直す」的気づきを得るという、ひと味変わった婚活物語である。登場人物たちが、こと結婚に関してはイタイほどの勘違い人種で、しかもかなりの人に思い当たることがありそうな面々なのが、身につまされるところもあって、完全に他人事として読み過ごせない気にさせてしまうところが巧い。初めはインチキ相談所の匂いぷんぷんだと思っていたが、読み終えると印象が変わってくるのも興味深い。克子所長にやられたか!?面白い一冊だった。

神さまたちの遊ぶ庭*宮下奈都

  • 2015/04/07(火) 12:38:08

神さまたちの遊ぶ庭神さまたちの遊ぶ庭
(2015/01/16)
宮下 奈都

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北海道を愛する夫の希望で、福井からトムラウシに移り住んだ宮下家五人。TSUTAYAまで60キロ、最寄りのスーパーまで37キロ。「誰が晩のおかずの買い物をするのかしら」。小中学生あわせて15名の学校には、元気満々曲者ぞろいの先生たち。ジャージで通学、テストも宿題もないけれど、毎日が冒険、行事は盛り沢山。大人も子供も本気の本気、思いきり楽しむ山での暮らし。大自然に抱かれた宮下家一年間の記録。


夫の熱望に負けて――というよりも著者自身もわくわくしながら――、十勝の山の中、アイヌ語で「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼ばれるほど素晴らしい景色に恵まれた土地である富村牛(トムラウシ)に一年の期間限定で家族で移り住んだ宮下家の春夏秋冬である。村の人たちのあたたかい歓迎、子どもたちの順応力、先生たちの熱心さ、四季の移ろい、村を上げての行事の数々、そして何より著者のわくわく感がリアルに伝わってくるようで、こちらまで興奮してくる。後ろ髪引かれる別れの辛さと、福井に戻ってからのふわふわした感じ、そして反れたまたいつしか日常になっていきそうな予感まで含め、とても愛おしい一冊である。

異邦人(いりびと)*原田マハ

  • 2015/04/06(月) 07:24:44

異邦人(いりびと)異邦人(いりびと)
(2015/02/25)
原田 マハ

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一枚の絵が、ふたりの止まった時間を動かし始める。
たかむら画廊の青年専務・篁一輝(たかむら・かずき)と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長期逗留していた。妊婦としての生活に鬱々とする菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗の画廊で、一枚の絵に心を奪われる。画廊の奥で、強い磁力を放つその絵を描いたのは、まだ無名の若き女性画家。深く、冷たい瞳を持つ彼女は、声を失くしていた――。
京都の移ろう四季を背景に描かれる、若き画家の才能をめぐる人々の「業」。
『楽園のカンヴァス』の著者、新境地の衝撃作。


惹きこまれるように読んだ。京都の古より続く暮らしの美しさ、暮らす人々の立居振舞の美しさ、日々の暮らしに根づいた風流を肌で感じられる気がした。そこに、声を失ったという謎めいた未開拓の画家の登場である。惹きこまれないはずがない。東京での篁家と有吉家の関わりや、それぞれのお家事情などが絡みあって、セレブリティの内幕を興味本位で覗くようなミーハー的悦びもあり、純粋に美に没入する菜穂を応援したい気持ちにもなる。画家・白根樹(たつる)の謎が解かれるとき、それまでの不可解が腑に落ちる。ただ、菜穂を京都に長逗留させるのに必要だったのだろうとは思うが、原発事故の影響から胎児とともに逃れることを理由にしたのには少し引っかかるものがあったのも事実である。美しく純粋で残酷な一冊である。

わたしたちはその赤ん坊を応援することにした*朝倉かすみ

  • 2015/04/04(土) 18:22:27

わたしたちはその赤ん坊を応援することにしたわたしたちはその赤ん坊を応援することにした
(2015/02/10)
朝倉 かすみ

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どこかで誰かがあなたの味方。
でもストレートには受けとれない、届かない、なぐさめや励まし……
ビターで不思議な7つの世界
◉森のような、大きな生き物――この子の未来を応援しよう、と決めた子がわたしたちにはいた。オリンピック代表の彼女に期待し、夢を託したが……。
◉ニオイスミレ――産む女を国家全体で支援する世界に住むスミレ。〈志願母〉の彼女は今日も国営のサロンへ通う。
◉あなたがいなくなってはいけない――入院が決まった。ステージII。その昔、離婚騒ぎで愚痴を聞いてもらったチョピンを思い出していた。
◉地元裁判――まちの結束を乱す人間は、亜子ちゃんの地域でも地元裁判にかけられる。ある日、卯月くん一家が消えた。
◉相談――波多野が何か相談したそうだったので課長のおれから飲みに誘った。転職か? 諭す準備はできていた。
◉ムス子――加賀谷は太った中年女に会った。元同級生、あだ名はムス子。彼女に起こったことを、この時の彼はまだ知らない。
◉お風呂、晩ごはん、なでしこ――フージコさんはみんなに愚鈍と笑われる。でも気にしない。かけがえのない仲間はあの中にいる。


初めの物語では、日本人ならだれでも知っているような登場人物たちを熱く応援したり、彼らの行動にちょっとがっかりしたりと、応援する側の者たちの心情や身勝手さが浮き彫りにされていて、自分の中のちょっぴり意地悪な視線が白日の下に晒されたような居心地の悪さと、妙な納得感がもたらされる。そのほかの物語のどれもが、事実を少し斜めから冷めた目で見ているような、気が咎めるようなことをするときに、ふと周りの視線を気にしてしまうような居心地の悪さが感じられて、自分の中の影の部分に一瞬光を当てられているような気分にさせられる。淡々とした文章であるにもかかわらず、心の中に深く食い込んでくるような一冊である。

4ページミステリー 60の奇妙な事件*蒼井上鷹

  • 2015/04/03(金) 19:07:47

4ページミステリー 60の奇妙な事件 (双葉文庫)4ページミステリー 60の奇妙な事件 (双葉文庫)
(2015/03/12)
蒼井 上鷹

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バーで出会った男は荒れていた。なんでも、妻の浮気が判ったという。それを聞いた私の同伴者は、男に語り始めた。「あなたを見て、以前の自分を思い出したもので―」その意外な結末とは。(「遅すぎた忠告」)一編わずか4ページでも、面白さは長編並み!?巧みな謎と鮮やかな推理がぎっしり詰め込まれた、傑作ショートショート・ミステリー集の第2弾。60作収録で読み応え抜群の一冊!


見事に4ページのミステリの数々である。だがどれもたった4ページとは思えないほどエッセンスのぎゅうっと詰まった物語である。起承転結の結の部分の裏切られ感はかなりのものである。たった一文でいままで見えていた景色ががらっと反転することもしばしばである。いつでもどこでも手軽に読めるのに、内容にも裏切られない一冊である。

嗤う淑女*中山七里

  • 2015/04/01(水) 18:35:38

嗤う淑女嗤う淑女
(2015/01/31)
中山 七里

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“稀代の悪女”蒲生美智留。天賦の美貌と巧みな話術で、人々の人生を狂わせる!!美智留の罠に徹夜確実!?ノンストップ・ダークヒロイン・ミステリー。


一 野々宮恭子  二 鷺沼紗代  三 野々宮弘樹  四 古巻佳恵  五 蒲生美智留

美智留と、美智留の昏い人生に巻き込まれた人たちの物語である。母に捨てられ、実父に性的暴力を受け続けた13歳の美智留は、その時点ですでに悪女だった。環境がそうさせたのかもしれないが、とても13歳とは思えない策略をめぐらせ、同級生たちを、そうとは気づかせずに思いのままに操っていたのだった。そして、折々にあちこちで人助けを装ってターゲットを巧みに唆し、犯罪を犯させては自分の懐を潤わせ、さっと姿を消すことを繰り返すようになる。ターゲットにされた者は、巧みに取り込まれ、完全に信用した上に、崇拝に近い感情を抱くようにさえなる。その過程を見ていると、空恐ろしくなってくる。犯罪にしてはかなり杜撰な仕掛けのように見えるのだが、それがかえって信用を得る手立てになっているようにも思われる。子どもの頃の環境が彼女を作ったのだとすると、哀れにも思われるが、どこまでも平然と悪事を働く美智留に同情する気にはなれない。こんな女に近寄られたくないと心から思う一冊である。