岩窟姫*近藤史恵

  • 2015/05/31(日) 08:52:53

岩窟姫 (文芸書)
岩窟姫 (文芸書)
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近藤史恵
徳間書店
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人気アイドル、謎の自殺―。彼女の死を悼む暇もなく、蓮美は激動の渦に巻き込まれる。蓮美からのいじめに悩む様子がブログに残されていたのだ。まったく身に覚えがなかったが、マネージャーにもファンにも信じてもらえず…。すべてを失った蓮美は、己の無実を証明しようと立ち上がる。「サクリファイス」シリーズの著者が描き出す、ガーリー冒険譚!疾走感×ミステリー!!


アイドルの周りで渦巻く大人の企みと、夢や希望を抱きつつも自分を殺さなければならない世界に対する絶望も抱え、本音と建て前、虚と実の狭間で、その時その時をギリギリで生きている女の子たちの姿に胸が痛み哀しみも覚える。自殺したアイドル仲間に貶められて舞台を降りざるを得なくなった主人公の蓮美は、初めは被害者としか思われなかったが、読み進めるにつれて、ある意味いちばん恵まれていたのかもしれないと思うようになった。人の思いに恵まれるということが、これほど心に安定をもたらしてくれるのだということも、改めて思わされる。ラストはいささか強引な感もなくはないが、希望の光が見えたという点では喜ばしいことなのだろう。人の心の裏表を垣間見せられる一冊でもあった。

悲嘆の門 下*宮部みゆき

  • 2015/05/30(土) 17:10:06

悲嘆の門(下)
悲嘆の門(下)
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宮部 みゆき
毎日新聞社
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「連続切断魔」の正体は?「悲嘆の門」とは何か?圧巻の終章に向けて物語は加速する!最高傑作誕生。このめくるめく結末に震撼せよ。


あぁ、やっぱりこの手の物語とは相性が良くなかった。現実のミステリの部分は純粋に愉しめ、孝太郎の人間関係も興味深く読んだが、ガラが絡み、孝太郎自身が魔物化してしまってはもう着いて行けなかった。伝えたいことはよく判るのだが、テイスト自体が受け付けないので、最後は義務のように読んでしまってもったいない一冊だった。

晴れ女の耳*東直子

  • 2015/05/27(水) 17:11:56

晴れ女の耳 (幽BOOKS)
晴れ女の耳 (幽BOOKS)
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東 直子
KADOKAWA/角川書店 (2015-04-25)
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「私」が外に出るときは、どんなに悪天候だったとしても必ず晴れる。ある日、耳の奥から声が聞こえてきた。声の主は、豆粒ほどの小さなおばあさんだった。おばあさんが、なぜ豆粒ほどに小さくなったのか―。訥々と語られる、貧しい炭焼き職人の一家の物語。夫殺しの罪を着せられた母が、幼い子どもたちのためにした選択とは…。哀しみと絶望の底にさす一筋の光をしなやかに描いた傑作「晴れ女の耳」。他、七つの怪談短篇集。


表題作のほか、「イボの神様」 「ことほぎの家」 「赤べべ」 「先生の瞳」 「サトシおらんか」 「あやっぺのために」

どこか懐かしく、そして哀しい物語たちである。出会ったとたんに魅入られてそっと手を差し出し、そのままあちらの世界へ連れていかれてしまいそうな、けれどそれが恐ろしいばかりではなく、寄り添っていたい想いに浸されるようでもあって、怪談でありながら、やさしい気持ちにもなる一冊である。

手のひらの幻獣*三崎亜記

  • 2015/05/26(火) 13:11:48

手のひらの幻獣
手のひらの幻獣
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三崎 亜記
集英社
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動物のイメージをあやつる異能力者の日野原柚月は、同じ能力を持つ者たちが所属する会社に勤めて早10年。孤独ながら安定した日々を送っていた。そんなある日、出来たばかりの新研究所を警備する業務を任される。しかしそこには異能力者のパワーを増幅する禁断の存在が隠されていて…。近くて遠い並行世界を描き出す2つの中編を収録。


『廃虚建築士』の中の『図書館』の流れを汲む表出者たちの物語である。冒頭には、実在しないものをあたかもそこに在るように表出させ、思い通りに操る能力の持ち主である表出者の日々の仕事がなんでもないことのように淡々と描かれているが、すでにそこからにして不思議世界である。ここで撥ねつけてしまったら三崎作品は先へ進めない。柚月たち表出者たちがそうやって日々の仕事をこなしている裏では、秘密裏に胡乱な計画が進められている。その一端が垣間見られた時、柚月たちは命さえかけて守ろうとするものがあるのだった。異能の持ち主であるということと、さまざまな感情を持つ普通の人間であることの狭間で、それでも仕事としての表出で自らの内側を削りながら生きなければならないというジレンマ。現実とは違う世界でありながら、それはとてもよく理解できることでもあるのだ。痛みを伴いつつも甘やかな一冊である。

睦月童*西條奈加

  • 2015/05/24(日) 18:43:58

睦月童(むつきわらし)
睦月童(むつきわらし)
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西條 奈加
PHP研究所
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おめえの鏡は罪じゃあなく、人に残った人らしいところを映すんだ。人にとっていちばん大事な、あったかい心だ。
ある東北の村から日本橋の酒問屋に招かれた一人の少女・イオ。彼女は「人の罪を映す」という不思議な目を持っていた。荒れた生活を送っていた酒問屋の跡取り息子・央介は、彼女の目をみたことで激しい良心の呵責に襲われ、かつて自分が犯した罪を贖おうとする。やがて更生した央介とイオは、彼女の目を使って、江戸で起こる数々の事件を解決していくことに。しかし、イオの出生の秘密を知る侍が現れたことで、二人の運命は大きく動き始める……。
人にとって「罪」とは何か。そして「許し」とは何か。イオの不思議な能力の源泉に隠された秘密とは何か。そしてイオの過酷な運命を、央介は救うことができるのか。日本ファンタジーノベル大賞でデビューした著者が贈る、感動の時代小説。


江戸物語とファンタジーの融合といった趣である。ホラーテイストもほんの一滴、という感じ。ファンタジーもホラーも苦手な分野ではあるが、本作は無理なく読み進めることができた。下酒問屋(くだりさけどいや)の放蕩息子・央介と、彼の両親が息子を案じて呼び寄せた睦月童のイオとの出会いと心の通い合いが微笑ましく、あたたかくて、二人とその周りの人たちとのしあわせを知らず知らず願ってしまうのである。睦月神とそれを崇める里人、そして里人たちのためにその信仰を断とうとする想いに切なさも募る。ラストは、ほのぼのとしているようでもあり、また何か恐ろしいことが始まる予感も含んでいるようでもあり、ドキドキさせられる一冊である。

悲嘆の門 上*宮部みゆき

  • 2015/05/23(土) 19:01:22

悲嘆の門(上)
悲嘆の門(上)
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宮部 みゆき
毎日新聞社
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日本を縦断し、死体を切り取る戦慄の殺人事件発生。
ネット上の噂を追う大学一年生・孝太郎と、退職した刑事・都築の前に、“それ"が姿を現した!
ミステリーを超え、ファンタジーを超えた、宮部みゆきの新世界、開幕。大ベストセラー『英雄の書』に続く待望の新刊!


貧困ゆえに飢えと病で命を落とした母親と、なすすべもなく寄り添う五歳の娘。殺害された挙句身体の一部を切り取られる、連続猟奇事件。行方不明になるホームレスたち。茶筒ビルと呼ばれる廃ビルの上から下界を見下ろすガーゴイル像の微妙な変化。これらの断片が今後どうつながるのか、つながらないのか。硬派のミステリの様相で始まった物語だが、サイバーパトロールの会社「クマー」でアルバイトする孝太郎が、あることを調べているさなか行方不明になったアルバイト仲間の森永を探し始めると、次々に不可解なことに出くわし、物語は一気にファンタジーに移行する。実はファンタジー、ちょっと苦手である。前半のテイストのままで進んでくれた方が好みではあるのだが、これはこれで下巻でどんな風に展開していくのか興味が湧くのも確かである。前半のいくつかのピースがどんな風に落ち着くのだろうか。下巻も愉しみな一冊である。

鳩の撃退法(下)*佐藤正午

  • 2015/05/21(木) 16:58:35

鳩の撃退法 下
鳩の撃退法 下
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佐藤 正午
小学館
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「このままじゃおれたちはやばい、ラストに相当やばい場面が待っているかもしれない。おれたちというのは、床屋のまえだとおれ、それにもちろん津田さんの三人組のことだ。だけど厳密にやばいのはあんただよ。わからないか。夜汽車に乗って旅立つ時だよ」いきなり退職金を手渡された津田伸一にいよいよ決断の機会が訪れる―忽然と姿を消した家族、郵便局員の失踪、裏社会の蠢き、疑惑つきの大金…たった一日の交錯が多くのひとの人生を思わぬ方向へと導いてゆく。


現実の津田伸一の身に起こったことと、彼が書いている小説が、行きつ戻りつして、一体いま自分はどこにいるのだろうかとときどき迷う。鳩の意味も判り、でも撃退法が見つかったとは思えないし、撃退できたとも思えない。それは於くとしても、もつれたり絡まったりしながら、ぐるぐるめぐる二月二十八日だったということだけは間違いない事実だろう。翻弄されてあちこち連れまわされたような面白さの一冊である。

お任せ数学屋さん*向井湘吾

  • 2015/05/19(火) 17:01:59

お任せ!  数学屋さん (一般書)
向井 湘吾
ポプラ社
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数学が苦手な中学二年生の遥の前に、不思議な転校生・宙がやってきた。「数学で世界を救うこと」が将来の夢だと語る彼は、ある日突然、どんな悩みでも、数学の力で必ず解決してくれるという、「数学屋」なる謎の店を教室内で開店する。はじめは遠巻きに見ていた遥も、店を手伝いはじめることに…。どんな相談事も華麗に解決していく二人だが、投書箱に届けられたある一通の悩み相談の手紙から、数学では解けそうにない「人の感情」という、超難問にぶつかることに。彼らは果たしてどんな答えを導くのか!?数学嫌いも夢中にさせる、感動の青春数学小説。


転校生、神之内 宙(じんのうち そら)は、どうやらかなり変わった人物のようである。いつも本を読んでいて、友人を作ろうともせず、暑いのに学ランのホックをすべて留め、どうやら本気で数学で世界を救おうとしているらしい。数学で悩みを解決する数学屋を始めた宙に、隣の席になった天野遥は、少しずつ彼に興味を抱き始め、それをきっかけに、遥の友だちとの接点もできるようになり、数学屋にも客が来るようになっていく。中学生活と人間関係に絡めて数学の面白さを描いているのだが、きゅんとさせられる場面も折り込まれ、愉しんで読める。宙くんが駆け抜けるようにいなくなってしまって寂しい一冊である。

キャプテンサンダーボルト*伊坂幸太郎 阿部和重

  • 2015/05/17(日) 16:33:28


世界を救うために、二人は走る。東京大空襲の夜、東北の蔵王に墜落したB29。公開中止になった幻の映画。迫りくる冷酷非情な破壊者。すべての謎に答えが出たとき、カウントダウンがはじまった。二人でしか辿りつけなかった到達点。前代未聞の完全合作。


阿部和重氏の作品は未読なので、特徴は判断しかねるが、伊坂氏の持ち味は充分出ていると思う。特に、これ以上ないほどさり気なくつぶやかれたひと言が、後々、パズルのピースをひとつずつはめ込むように拾われていくところなど、ぞくぞくさせられる。物語は序盤はどこにどう運ばれていくのか見当がつかなかったが、中盤からは、いくつかの流れがいつどんな風に大きな一本になるのかという興味で一気に読み進んだ。いちばんの功労者は巻き毛の犬・ポンセ(?)だったりしてね、などと思ったりもする。現在の世情に鑑みても、イヤな感じの物語ではあるのだが、あっちもこっちも丸く治まって、めでたしめでたしのラストがなかなか好ましい一冊である。

お任せ!数学屋さん 2*向井湘吾

  • 2015/05/15(金) 18:47:14


「数学屋」にピンチ到来!?天才数学少年・宙と体育会系女子・遥の凸凹コンビが営んでいた、摩訶不思議なお店「数学屋」。日常の困り事から恋愛相談まで、中学の同級生から寄せられるどんな問題でも「数学」を使って華麗に解決してきた人気のお悩み相談所だったが、宙のアメリカへの転校によって最大の危機を迎える。宙の不在により、たった一人で「数学屋」を引き継ぐことになった遥の前に、一筋縄ではいかない難問が持ち込まれたのだった…


1から読んだつもりだったのに、うっかり2を先に読んでしまったので、初めから数学屋・宙(そら)くんはボストンに行ってしまっているし、これまでの経緯は判らないが、物語自体は一話完結的な作りになっているので、充分愉しめる。数学は基本的に苦手だが、数学の美しさと有用性がとてもよく伝わってきて、きゅんとさせる青春小説でありながら、ちゃんと出来事に決着もつけ、さらに数学の素晴らしさも啓蒙してしまうという盛りだくさんさが成り立っているのが見事である。魅力的な中学生たちの一冊である。

鳩の撃退法(上)*佐藤正午

  • 2015/05/14(木) 06:56:38


かつての売れっ子作家・津田伸一は、いまは地方都市で暮らしている。街で古書店を営んでいた老人の訃報が届き形見の鞄を受け取ったところ、中には数冊の絵本と古本のピーターパン、それに三千万円を超える現金が詰め込まれていた。「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」転がりこんだ大金に歓喜したのも束の間、思いもよらぬ事実が判明する。偽札の動向には、一年前に家族三人が失踪した事件など、街で起きる騒ぎに必ず関わっている裏社会の“あのひと”も目を光らせていた。


上巻を読む限り、まだタイトルの意味は判らない。そして物語自体も、売れない作家・津田伸一の困った日常に突如として紛れ込んだ夢物語が一転して疑心暗鬼の世界に追いやられるかと思えば、家族三人失踪事件に至る物語が延々と挿入されていたり、しかもどこかで見た憶えがある話だったりするので、どこに重きを置いて読めばいいのか戸惑いもある。下巻では、このとりとめのなさが、ある人物をキーにして、一点に収束していきそうな予感はあるが、どんな収束の仕方をするのかは全く読めず、下巻が愉しみな一冊である。

にぎやかな落ち葉たち*辻真先

  • 2015/05/10(日) 06:57:39


北関東の山間にたつグループホーム「若葉荘」。世話人は元天才少女小説家。居住者は自在に歳を重ねた高齢者たちと、車椅子暮しながら筋骨隆々の元刑事と、身寄りのない彼の姪。賑やかで穏やかな日々は、その冬いちばんの雪の日、とつぜん破られる。密室に転がった射殺死体の出現によって―ホーム最年少の少女スタッフは、隠された因縁を解き明かし、真相に迫ることができるのか!?半世紀を超える筆歴を持つ日本一やんちゃな巨匠が、稚気と叙情と茶目っ気を縦横に駆使して描く、本格ミステリ長編!


まず、登場人物がそれぞれに個性的で、にもかかわらず親しみやすく、読者もあっという間に若葉荘の雰囲気に馴染めてしまうので、つい入居者の一人になった心地で読んでしまう。最年少、17歳の綾乃は、世話人の寥(りょう)を甲斐甲斐しく手伝いながらも、人一倍屈託を抱えているのが端々に伺えて気になる。仕事熱心とは言いかねる杵谷が解雇もされずに若葉荘にいるのも気にかかる。何かが起きそうだと思っているところに大雪で道路が閉ざされ、殺人事件が起きるのである。過去から続く恨みの気持ちと時のいたずら、そして別の流れが加わったとき、とんでもない力になってしまったのである。何度もそうだったのかと思わされる一冊である。

東京帝大叡古教授*門井慶喜

  • 2015/05/07(木) 13:24:38


最高学府で連続殺人!謎を解くのは天才哲学者「ウンベルト・エーコ」ならぬ天才政治学者「ウノベ・エーコ」。他を圧する「知の巨人」が開示していく事件の真相は、まさに予測不能。ラストは鳥肌モノ!!


ミステリなのだが、歴史の裏側を見ているようでもあり、まさに現実に起こり得るかもしれないと思わされる部分もあったりして、面白かった。歴史として文字で見るのとは違う生の時代の動きを覗き見たら、意外とこんなものかもしれないとさえ思えてくるのは著者の巧さであろう。思わずふふふと笑ってしまう一冊でもある。

我が心の底の光*貫井徳郎

  • 2015/05/05(火) 16:59:04


峰岸晄は五歳で伯父夫婦に引き取られ、空腹を抱えながら育った。
母は死に、父は人を殺したからだった。
学校では、椅子に画鋲が置いてあったり、いじめに遭った。
幼なじみの木下怜菜は万引きまでさせられる晄をただ一人、案じてくれる存在だった。
まったき孤独の闇の中で、晄が向かう先は――。
驚愕のラストが待ち受ける、心に迫る傑作長編!


晄がどんな大人になり、どんな人生を歩んでいくのか。前半はあまりにも過酷な晄の幼少期に目を覆いたくなりながらも、今後の展開を期待しながら読み進んだ。途中からなにやら犯罪に手を染め、どういう経緯なのか、どんな理由でターゲットを決めたのかに興味が移る。常に底にに流れているのは自分自身を尊重できない晄の姿であり、歪んだ思いであるように思えて仕方がない。だが、最後にその理由がわかったときには、いささか拍子抜けした思いであったが、それほどまでに親にないがしろにされた子ども心に光となった出来事だったのかと思うと、言葉を失う。重くやるせない一冊だった。

神様のカルテ0*夏川草介

  • 2015/05/03(日) 17:08:26


シリーズ300万部突破のベストセラー『神様のカルテ』にまつわる人々の前日譚であり、かつ珠玉の短編集です。栗原一止は、信州にある24時間365日営業の本庄病院で働く内科医です。本作では、医師国家試験直前の一止とその仲間たちの友情、本庄病院の内科部長・板垣(大狸)先生と敵対する事務長・金山弁二の不思議な交流、研修医となり本庄病院で働くことになった一止の医師としての葛藤と、山岳写真家である一止の妻・榛名の信念が描かれます。ますます深度を増す「神カル」ワールドをお楽しみください。


一止の医学生時代から物語は始まっている。国家試験直前から、24時間365日受け入れを掲げる本庄病院の研修医になってからしばらくの物語である。現在の一止と榛名の忙しいながらも穏やかな暮らしの基礎が、すでにこのときにはできあがっているように思われる。静な激しさを感じられて、印象的である。命というものととことん向き合う二人なのだと改めて思わされる一冊でもある。

永い言い訳*西川美和

  • 2015/05/02(土) 18:39:34


長年連れ添った妻・夏子を突然のバス事故で失った、人気作家の津村啓。悲しさを“演じる”ことしかできなかった津村は、同じ事故で母親を失った一家と出会い、はじめて夏子と向き合い始めるが…。突然家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか。人間の関係の幸福と不確かさを描いた感動の物語。


バスの事故で妻・夏子を失った作家・津村啓(本名:衣笠幸夫)と、夏子と一緒だった友人・ゆきの夫と二人の子ども。突然家族を喪った者の反応は一律ではない。悲しみや喪失感の質もまたそれぞれであり、その表し方も然りである。これまでの妻との関係を振り返り、妻の愛を素直に受け取れずひねくれた感情にとらわれる幸夫と、妻を喪った喪失感をまっすぐに表し続けるゆきの夫・陽一。そして、幼いながらに母亡き後の日々をけなげに生きる兄妹。彼らの通常ならば不自然とも言える関わり方の中で、彼らはお互いに助け合い依存し合い、ときには反発し合いながら、ほんの少しずつ自分を取り戻していく。正解などどこにもなく、胸を締めつけられながらも励まされる心地になる一冊である。