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今だけのあの子*芦沢央
- 2015/06/29(月) 16:54:02
何時だって何歳だって女の友情はめんどくさくって、あやうくって、美しい。OL、ママ友、中高生…。さまざまな年代、立場の女性の友情に隠された想いを情感あふれる筆致で描ききる!注目度ナンバーワンの新鋭が贈る連作ミステリ。
「届かない招待状」 「帰らない理由」 「答えない子ども」 「願わない少女」 「正しくない言葉」
初読みの作家さんだったが、このタッチ、好きかもしれない。冷静に淡々と描かれているのだが、心当たりのある者にはピンポイントでグサッと刺さりこむ鋭さを秘めている印象である。何気なさそうな描写にも、その関係性における逃れ難い真実のようなものが感じられてぞくっとさせられる。ほかの作品も読んでみたいと思わされる一冊である。
ヒポクラテスの誓い*中山七里
- 2015/06/28(日) 19:09:06
「あなた、死体は好き――?」 栂野真琴は浦和医大の研修医。単位不足のため、法医学教室に入ることになった。真琴を出迎えたのは法医学の権威・光崎藤次郎教授と「死体好き」な外国人准教授キャシー。傲岸不遜な光崎だが、解剖の腕と死因を突き止めることにかけては超一流。光崎の信念に触れた真琴は次第に法医学にのめりこんでいく。彼が関心を抱く遺体には敗血症や気管支炎、肺炎といった既往症が必ずあった。「管轄内で既往症のある遺体が出たら教えろ」という。なぜ光崎はそこにこだわるのか―—。 凍死、事故死、病死……何の事件性もない遺体から偏屈な 老法医学者と若き女性研修医が導き出した真相とは? 死者の声なき声を聞く迫真の法医学ミステリー!
「生者と死者」 「加害者と被害者」 「監察医と法医学者」 「母と娘」 「背約と誓約」
医師が取るべき行動の規範を示したヒポクラテスの誓いがタイトルである。医師は常に患者の利益を考え、どの患者をも等しく扱うべきである、というその教えは、法医学教室の教授・光崎の行いそのものである。そして彼に心酔するキャシー准教授もその教えに従っている。そんな法医学教室に単位不足故に送り込まれた真琴は、初めは納得できず反感を覚える場面も多々あったが、光崎の揺るがない行動原理と巧みな手技に接するうちに、次第に心がけが変わってくるのである。光崎教授のところに出入りする古手川刑事とのやり取りもお決まり感はあるものの、ちょっとしたスパイスにもなっていて好感が持てる。光崎教授の真の思惑は想像外だったが、それがまた光崎らしくていい。好きな一冊である。
インサイド・フェイス--行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南
- 2015/06/27(土) 18:30:40
宝島社 (2015-04-04)
売り上げランキング: 10,337
行動心理学を用いて相手のしぐさから嘘を見破る、美人刑事・楯岡絵麻。その手腕から“エンマ様”と呼ばれる。離婚した元夫に刺されたという被害者女性の証言により、被疑者の取調べに当たった絵麻。しかし、ふたりの娘が三年前に殺されていた事実を知った絵麻は、筆談でしか応じようとしない不可解な行動をする被疑者から、ある可能性を感じ、後輩の西野とともに調査に乗り出すと…。自供率100%を誇る美人取調官「エンマ様」シリーズ第3弾!
今回も、楯岡絵麻の行動心理学を駆使した取り調べと捜査が興味深い。これまでよりも絵麻のキャバクラ的取り調べ術の描写が少なかったのがかえって落ち着いた印象でよかった(絵麻のキャラクタが浸透したからということもあるだろう)。相棒の西野との表面上はともかく、深いところでの信頼関係もさらに深まっているように見受けられ、勝手に嬉しくなる。さらに、いままで反感を買うだけだったほかの刑事たちにも絵麻の捜査の価値が少しずつ認められていく様子もほっとさせられる。次もまた読みたいシリーズになってきた。
読めない遺言書*深山亮
- 2015/06/26(金) 18:54:20
平凡な教師の竹原は、ある日、警察から父の孤独死を知らされる。いつか我が家に帰ってくると思っていた父。だが、見つかった遺言書は“全遺産を小井戸広美に遺贈する”という、見ず知らずの人物に宛てられた信じがたいものだった。家族を捨てた事への憤りとやりきれなさを胸に広美を追い始めた途端、尾行、盗撮、放火と、立て続けに事件に巻き込まれ―。竹原は遺言書を握りしめ、父が残した「謎」を追う。緻密な構成と劇的な展開が導く、驚愕のラスト。珠玉の長編推理小説。
家族を捨てた――とずっと思っていた――父の孤独死によって、見ず知らずの人物に全財産を譲るという遺言書を手にすることになった中学校教師・竹原が主人公。遺言書にある人物・小井戸広美とはどんな人物で、父とはどんな関係なのか。調べる内に、ホームレスの支援活動に行き着き、さらにその裏側にはびこるものを知ることになる。教師としての存在意義、教え子の抱える問題、同僚に抱くコンプレックスなどなど、さまざまな要素を絡めながら、流れが次第に一本にまとまっていくのが心地好い。泥沼に陥るかと思った物語であるが、最後は胸の中がほんのりぬくもる一冊である。
パレードの誤算*柚月裕子
- 2015/06/24(水) 06:56:59
念願の市役所に就職がかなった牧野聡美は、生活保護受給者のケアを担当する事になった。 敬遠されがちなケースワーカーのという職務に不安を抱く聡美。先輩の山川は「やりがいのある仕事だ」と励ましてくれた。その山川が受給者たちが住むアパートで撲殺された。受給者からの信頼も篤く、仕事熱心な先輩を誰が、なぜ? 聡美は山川の後を引き継いだが、次々に疑惑が浮上する。山川の知られざる一面が見えてきたとき、新たな惨劇が……。
生活保護受給者とケースワーカーに焦点を当てた物語である。生活保護受給者のさまざまな事情と、それを悪用する貧困ビジネス。そして、受給者に親身に向き合い、あるいは自らの在りように葛藤し、職務の意味に疑問を抱きつつ、あまりにも多い案件を抱えながらも日々奮闘するケースワーカーたち。どうにもならないやりきれなさと、憤り、行き止まりまで追い詰められた時に一条の光となってくれる存在のことなど、さまざまなことを考えさせられる一冊だった。
サイドストーリーズ--ダ・ヴィンチ編集部/編
- 2015/06/22(月) 16:36:32
KADOKAWA/メディアファクトリー (2015-03-25)
売り上げランキング: 177,801
『百瀬、こっちを向いて。』の相原ノボルの高校時代のクラスメート・田辺が17歳の夏に経験した切なくも不思議な出来事(「鯨と煙の冒険」)。防犯探偵・榎本径の不在時に起こった密室環境での事件。自殺か他殺か?弁護士・芹沢豪と青砥純子が挑む(「一服ひろばの謎」)。女子高生・清海が恋人・星良一の浮気調査を多田と行天に依頼(「多田便利軒、探偵業に挑戦する」)。あの人気作品のサイドストーリー12編が楽しめるアンソロジー。
本編を読んだことがあるものが多かったので、その登場人物のストーリーからはちょっぴりはみ出したエピソードが興味深く、愉しい読書になった。本編の厚みもより増したような気がするお得な一冊である。
唄めぐり*石田千
- 2015/06/20(土) 19:29:56
日本人の真心を伝える歌声を訪ねて――唄と踊りとお酒で紡いだ愉快至極な民謡紀行! 民謡はなぜ、人を元気にするのだろう……佐渡おけさ、木曾節、会津磐梯山、河内音頭、黒田節などの名曲から福島復興の祈りを込めた盆踊りまで、全国各地を訪ね歩いて歌う現場を生で体感。唄の名手たちと語らい、歌い継がれてきた歴史と変遷を繙きながら、根底に流れる人びとの情念をすくっていく滋味豊かな紀行エッセイ!
日本各地の民謡を訪ね歩き、歌を習うだけでなく、その背景や伝承の様子、そして暮らしに溶け込む生きた唄たちの姿まで。傍で見るだけでなく、著者が自らまざって体感したあれこれが綴られていて、各地の風景や風の匂いまで感じられるような一冊である。
七つ空、二つ水*東直子
- 2015/06/18(木) 16:56:03
2009年から2014年まで、人気連載コラムの書籍化。自身の歌や生活、過去の文人たちの歌や逸話など、著者の日常と文人の過去を行き来するようなエッセイ集。
東さんの歌はもちろん、さまざまな作者の歌が、日々の暮らし、訪れた先で心動かされた事々に差し挟まれ、魅力的である。そのときどきの思いがさらに際立つようにも思われ、また、著者とは違う感じ方をも尊ぶ広々とした心を感じられる。さまざまな時代さまざまな作者の歌を通して著者が見た風景を、東さんの目を通してさらに自分で見ているような心地の一冊である。
さえこ照ラス*友井羊
- 2015/06/16(火) 16:48:09
口と態度は悪いが遣り手の美人弁護士、沖縄の空の下で大奮闘!
沖縄本島北部の法テラスに派遣されてきた弁護士・阿礼沙英子。
オジィオバァの方言通訳を命じられた事務員の大城を従え、縁もゆかりもない琉球の地で、厄介な民事事件を率直すぎる発言で一刀両断にします!
異色の法律相談ミステリー。
「オバァの後遺障害認定事案」 「軍用地相続の調停事案」 「モアイの相談」 「誘拐事件の国選弁護」 「ユタの証明」 「親権問題の調停事案」 「オジィとオバァの窃盗事件」
沖縄独特のゆるい時間の流れと、あくまでも凛と自分を崩さない弁護士・沙英子のギャップが面白い。そして、ウチナンチューと沙英子の間で奔走する大城もいい味を出しているし、有能な事務員の西崎さんも素敵である。法テラスに持ち込まれる案件は、沖縄ならではのものもあり、依頼人の名字も沖縄らしくて、沖縄を満喫できる気分である。冷たいようにも見えるが意外に熱血であり、始めたことはきちんと最後までけりをつけないと気が済まない気性もあり、最後はびしっと決めてくれる沙英子にほれぼれする。次もあればいいなと思わせる一冊である。
ヒア・カムズ・ザ・サン--東京バンドワゴン*小路幸也
- 2015/06/15(月) 07:08:51
老舗古書店“東亰バンドワゴン”を営む堀田家に、まさかの幽霊騒ぎが持ち上がる。夜中に棚から本が落ち、白い影が目撃されて、みんなドキドキ。我南人たちがつきとめた、騒動の意外な真相とは?さらに、貴重な古文書を巡って招かれざる客が来訪。それが思わぬトラブルへと発展して…。下町の大家族が店に舞い込む謎を解決する人気シリーズ、第10弾!!
「夏 猫も杓子も八百万」 「秋 本に引かれて同じ舟」 「冬 男の美学にはないちもんめ」 「春 ヒア・カムズ・ザ・サン」
第十弾の堀田家である。冒頭でサチさんも言っているように、回を重ねるたびに(当然のことながら)登場人物が増えてきて、導入部分の人物紹介がいささか間延びした印象になってきた気がしなくもない。ただ、それがないと、あれ?この人はどんなエピソードの人だっけ?ということがたまにあるので、ありがたい部分もあるので、痛しかゆしと言ったところではあるのだが。幽霊騒ぎや受験と恋、懐かしい人の再訪、宮内庁がらみの鬱陶しいいざこざ、年老いた猫と新入りの猫、などなど、相変わらず事件を呼ぶ堀田家である。そして我南人がふらふらとどこかへ行ってはここぞというところでいい仕事をするのもお決まりである。てんやわんやの朝食風景と言い、この水戸黄門的お決まり感が魅力のひとつと言えるかもしれない。いつまでも元気で顔をそろえていてもらいたい堀田家のシリーズである。
煩悩の子*大道珠貴
- 2015/06/13(土) 07:06:05
桐生極は小学校五年生。
周囲にズレを感じているが、まだその「違和感」を上手く言葉にできない。
どういう局面でも腑に落ちないし、落ち着かない。
でも、油断はしていない。ただひとつだけわかっているのは、
いまここで間違ったら、先々どんくさい人間になりかねないということだ。
少女の素朴でシニカルな視線から描く、ユーモアと哀感漂う傑作長編。
「幸薄い顔の小学五年生」 「敵」 「あの子と遊んではいけません」 「秋」 「色つきの世界」 「白い闇」 「恋がいっぱい」 「真実」
自分自身のことや自分の置かれた状況を冷静に客観的にみつめ、周囲との違和感をも俯瞰しているような極(きわみ)だが、かと言って達観しているというわけでもなく、小学五年生なりの処世術にあれこれ悩みもするのである。大人びているようでもあり、子どもっぽいようでもある、11歳という時期に特有の心理状態であるようにも見える。久々の大道作品だったので、あぁ大道さんってこんなんだったな、という親しみもあり、にんまりしながら読み進むことが多かったが、当事者の極にしてみれば大変な毎日だろうと察せられる。極がどんな大人になるのか見てみたい心地になる一冊だった。
女が死んでいる*貫井徳郎 作 藤原一裕 モデル
- 2015/06/11(木) 18:46:34
KADOKAWA/メディアファクトリー
売り上げランキング: 206,000
本当におれが殺したのか……?
貫井徳郎が描く、最悪な男。
二日酔いで目覚めた朝、ベッドの横の床に何かがあった。
……見覚えのない女の、死体。
おれが殺すわけがない。知らない女だ。では誰が殺したのか?
密室のマンションで、女とおれは二人きりだった……。
藤原一裕(ライセンス)を小説のモデルに、貫井徳郎が書き下ろし。
小説とグラビアで描く“最悪な男"。
こういう趣向の本とは知らずに手にしたのだが、写真を挟み込む必要性がよく判らない。藤原氏のファンは喜ぶだろうが……。それにつられてなのか、物語自体も寸足らずな印象がぬぐえない。同じ題材で、もっと突き詰めた緻密な物語が読みたいものである。どっちつかずの印象の一冊だった。
福家警部補の追及*大倉崇裕
- 2015/06/11(木) 18:40:02
狩秋人は未踏峰チャムガランガへの挑戦を控え、準備に余念がない。勇名を馳せた登山家の父・義之がついに制覇できなかった山である。義之は息子に夢を託して引退、この期に及んで登山隊の後援をやめると言った会社重役を殺害する(「未完の頂上」)。動物をこよなく愛する佐々千尋はペットショップの経営者。血の繋がらない弟は悪徳ブリーダーで、千尋の店が建っている敷地を売ろうとする。そもそも動物虐待の悪行に怒り心頭だった千尋は、弟を亡き者に……(「幸福の代償」)。『福家警部補の挨拶』に始まる、倒叙形式の本格ミステリ第四集。
刑事コロンボを思い出させる福家警部補である。とても刑事には見えない小柄で若い女性というキャラクタを生かし――と福家警部補地震は思っていないだろうが――これと目をつけたホシに近づき、しぶとく食らいついてじわじわと追いつめる。キャラクタとのギャップが相変わらずなんとも小気味よい。ここはドラマの配役に引きずられずに愉しみたい(とは言えときどきちらついてしまうのが鬱陶しい)。強面の男性刑事が現れると身構えている犯人も、きっと調子が狂うのだろうなぁ。最後の最後には自白に追い込む手腕は見事である。福家警部補の次の活躍も早く見たいシリーズである。
火花*又吉直樹
- 2015/06/08(月) 07:15:37
お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。
期待値が高すぎたのだろう。芸人界の裏側、芸人の葛藤と日常を垣間見られたという意味では、興味深い点もあったし、徳永が心酔し、師匠とあがめる神谷に対する複雑な思いに胸が騒いだりもするが、導入部分のこれから何かが始まろうとするようなわくわく感が、物語が進むにつれて、できごとの羅列に色をつけた印象になっていき、尻すぼみになってしまうのが残念でもある。人を笑わせることの裏側の苦労を思わされて一冊ではある。
ごんたくれ*西條奈加
- 2015/06/07(日) 10:55:53
当代一の誉れ高い絵師・円山応挙の弟子・吉村胡雪こと彦太郎。その応挙の絵を絵図とこき下ろし、我こそ京随一の絵師と豪語する深山箏白こと豊蔵。彦太郎が豊蔵を殴りつけるという最悪の出会いから、会えば喧嘩の二人だが、絵師としては認め合い、それぞれ名声を高めながら数奇な人生を歩んでいく―。京画壇華やかなりし頃を舞台に、天才絵師の矜持と苦悩、数奇な生き様を描いた、読みごたえたっぷりの傑作時代小説!
絵師として、ひとりの人間として、どう生きるかが描かれた物語である。絵師として名が売れたものが人間的にも優れているかと言えば、あながちそうでもなく、ひと癖もふた癖もある人物が大成したりもする。円山応挙という穏やかで技を極めた師匠の下で、その色に染まらない画風を貫きながらも師匠を尊敬し、葛藤し続けた彦太郎と、応挙をも彦太郎もけなし続け、独自の道を行く豊蔵の、絵師としてのぶつかり合いと、人間としての心の通い合いが興味深い。内容紹介のとおり、読みごたえたっぷりの一冊である。
あぶない叔父さん*麻耶雄嵩
- 2015/06/04(木) 16:35:15
鬱々とした霧が今日も町を覆っている―。四方を山と海に囲まれ、古い慣習が残る霧ヶ町で、次々と発生する奇妙な殺人事件。その謎に挑む高校生の俺は、寺の小さな離れに独居してなんでも屋を営む、温厚な叔父さんに相談する。毎回、名推理を働かせ、穏やかに真相を解き明かす叔父さんが、最後に口にする「ありえない」犯人とは!常識破りの結末に絶句する「探偵のいない」本格ミステリ誕生!!年間ミステリ・ベスト10常連の奇才が放つ、抱腹と脱力の問題作。
「失くした御守」 「転校生と放火魔」 「最後の海」 「旧友」 「あかずの扉」 「藁をも摑む」
叔父さん、一見頼りなく、見た目は怪しげではあるが、ほんとうに穏やかで、なんでも屋の仕事も丁寧にこなし、人の役に立つ好人物である。甥である優斗の相談にもいつも親身になってくれるし。だがそんな折、飛び出してくる叔父さんの打ち明け話が実は怖い。そしてそれが、各物語のオチになっている。いいのかこれで!?という感じではあるが、そこが著者らしい。叔父さん、ある意味疫病神ではないか。くくくと思わず笑ってしまう一冊である。
ナイルパーチの女子会*柚木麻子
- 2015/06/02(火) 07:21:39
丸の内の大手商社に勤めるやり手のキャリアウーマン・志村栄利子(30歳)。実家から早朝出勤をし、日々ハードな仕事に勤しむ
彼女の密やかな楽しみは、同い年の人気主婦ブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を読むこと。決して焦らない「おひょう」独特の価
値観と切り口で記される文章に、栄利子は癒されるのだ。その「おひょう」こと丸尾翔子は、スーパーの店長の夫と二人で気ままに
暮らしているが、実は家族を捨て出て行った母親と、実家で傲慢なほど「自分からは何もしない」でいる父親について深い屈託を
抱えていた。
偶然にも近所に住んでいた栄利子と翔子はある日カフェで出会う。同性の友達がいないという共通のコンプレックスもあって、二
人は急速に親しくなってゆく。ブロガーと愛読者……そこから理想の友人関係が始まるように互いに思えたが、翔子が数日間ブロ
グの更新をしなかったことが原因で、二人の関係は思わぬ方向へ進んでゆく……。
女同士の関係の極北を描く、傑作長編小説。
他人、ことに同性との関係の築き方、距離の取り方が判らない栄利子は、社内でも浮いた存在になっている。ランチにも誘われず、当然女子会にも声がかからない。そのことに達観できてしまえば楽なのだろうが、そうもいかず、女友達を求めるあまり、偶然出会ったお気に入りブログの書き手の翔子に自分の理想を投影しすぎてしまう。女ってなんて難しいのだろうという思いとともに、自分を正当化する理屈に絡め取られがんじがらめにされていく過程は、とてもよく判る部分もあって、一歩間違えば自分も、と背筋が寒くなる心地にもなる。何事においても「自分」「自分」で「相手」が不在なのだろうなぁ。哀しくやりきれなくもあるが、最後には遠くにちいさな光が見えるようでもあるので、少しほっとする。他人あっての自分なのだということを改めて胸に刻もうと思った一冊である。
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