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花咲小路二丁目の花乃子さん*小路幸也
- 2015/10/31(土) 09:32:59
元「怪盗紳士」が隠居として暮らし、非番の日にご近所の相談ごとで引っ張りだこの若手刑事も住む花咲小路商店街。ここにはたくさんのユニークな人々が暮らし、日々大小さまざまな事件が起こる。今回の主人公は、商店街で「花の店にらやま」を営む花乃子さんのもとに居候することになった十代の女の子。人々の慶びごとにも悲しみにも寄り添う花屋の仕事を手伝うなかで、ある日ちょっと気がかりなお客さんが来店して―
花咲小路シリーズ三作目の今回は、お花屋さん・花のにらやまの若き女店主・花乃子さんが主人公。いじめにあって高校を中退し、韮山家に居候しながら花屋の仕事をすることになった、めいちゃんの目線で物語が進む。花言葉の魔法を使える花乃子さんの目には、ときにガーベラが浮かぶ。そしてそんなときには、花言葉の不思議な力を使って花乃子さんが動き出すのである。花乃子さんの双子の弟・柾と柊や、親友のミケさん、そしてもちろんセイさんや花咲小路のご近所さんたちの力も借りて、ちょっとした気持ちのすれ違いをやさしく元に戻すのである。そしてラストは、パズルのピースがカチカチカチッとはまっていくように、嬉しく微笑ましく大きなひとつにまとまってしまう。きっとこれは花咲小路の魔法だろう。じんわりあたたかい一冊である。
運転、見合わせ中*畑野智美
- 2015/10/28(水) 18:56:57
朝のラッシュ時に電車が停止!
そのとき、大学生、フリーター、デザイナー、OL、引きこもり、駅員は?
突然のアクシデントに見舞われた若者6人のドラマを描く私鉄沿線・恋愛青春小説!
「大学生は、駅の前」 「フリーターは、ホームにいた」 「デザイナーは、電車の中」 「OLは、電車の中」 「引きこもりは、線路の上」 「駅員は、線路の上」
突然電車が止まり、その影響を受けた六人の物語、というなんとも魅力的な設定である。電車が止まったことで誰にどんな影響があり、彼らの人生はどんなふうに違っていき、それによってどんな出会いがあって……、と読む前から想像の翼は大きく広がるのだった。それぞれにそれらしいエピソードはあり、ちょっとしたつながりも用意されてはいるのだが、全体を通しての盛り上がりがいまひとつな印象である。繋がり方も、一応つなげてみました感が否めない。そして何より登場人物のキャラクタが個人的には魅力的に思えなかったのが、物足りなさのいちばんの要因だったかもしれない。期待値が高かった分いささか残念な気がする一冊だった。
きのうの影踏み*辻村深月
- 2015/10/27(火) 17:08:27
売り上げランキング: 9,630
子どもの頃、流行っていたおまじないは、嫌いな人、消したい人の名前を書いた紙を十円玉と一緒に十日間続けて賽銭箱に投げ込むことだった。ある日、子どもたちは消えた子どもについて相談していて……(「十円参り」)。あるホラー作家が語る謎のファンレターの話を聞きぞっとした。私のところにも少し違う同じような怪しい手紙が届いていたからだ。その手紙の主を追及するうちに次々と怪しいことが連続し……(「手紙の主」)。出産のため里帰りしていた町で聞いた怪しい占い師の噂。ある日、スーパーで見知らぬ老女を見かけた瞬間、その人だと直感し……(「私の町の占い師」)。
怪談専門誌『Mei(冥)』に連載した作品ほか、書き下ろしを収録した全13篇。人気絶頂の著者が、最も思い入れあるテーマに腕をふるった、エンターテインメントが誕生しました。
こういうテイストとは知らずに読み始めたのだが、怪談だったとは。ただ、ホラーは苦手なのだが、本作は、現実に即しているというか、荒唐無稽な理不尽さはなく、実際に身近で起こっているかもしれないと感じられるレベルなので――だからなおさら怖いとも言えるが――親しんで読めた気がする。このホラーは結構好きかも、と思わせてくれる一冊だった。
夢巻*田丸雅智
- 2015/10/27(火) 16:56:41
星新一の流れを受け継ぐ新世代ショートショート作家の旗手、初の単行本!
田丸ワールド全開の、ちょっと不思議な20編。
日常から題材を取ったショートショートの数々である。日常のひとコマとは言え、視点や想像力、そして創造力によって、ほのぼのとしたり、ぞくっとしたりとテイストはさまざまなので、次が愉しみでどんどんページが進んでしまう。結構好みかもしれない一冊である。
国道沿いのファミレス*畑野智美
- 2015/10/26(月) 07:23:02
第23回小説すばる新人賞受賞作
仕事上のトラブルで左遷され、6年半ぶりに帰郷した善幸。一見静かな町では、親友、家族、恋人、そして勤務先のファミレスでも、一筋縄ではいかない人間関係が・・・。現代をリアルにすくう青春小説。
これが現代をリアルにすくっているとしたら、現代って一体なんなのだ、と思わなくもないが、現代に生きる人間も多様なのだから、こんな現代もあるかもしれないということで一応納得する。主人公のチェーン店のファミレス社員・佐藤善幸も、その父も、善幸の恋人の綾も、その他の登場人物たちも、ほとんどが、なにに対しても行き当たりばったりの「なんとなく」な印象なのが、ものすごくもやもやしてしまう。シンゴ(とその恋人の吉田さん)が辛うじて、総崩れになるのを食い止めているように思われる。ラスト近くになってようやく、善幸の芯にわずかな力を感じられるようになったのがせめてもである。何気ない日常が興味深く読めるのは、やはり人物ありきなのかもしれないと思わされた一冊でもある。
女神めし--佳代のキッチン2*原宏一
- 2015/10/24(土) 13:47:05
新鮮な食材とともに持ち込まれる、ちょっとした厄介事。移動調理屋・佳代が、心にしみる一皿で美味しく解決?幸せの味を届けに、キッチンワゴンは全国を走る!
各地の港で取れた魚介を使った魚介飯をきっかけに調理屋の存在を知ってもらい、持ち込まれた食材で依頼された料理を作る佳代。魚介飯は各地で評判を博し、どこへ行っても順調にお客さんが増えていく。地元の人たちとの交流で人脈を広げ、ちょっとした厄介ごとの解決のお手伝いをしたり、人助けをしたりしながら、佳代自身もたくさんの人たちに助けられて旅を続ける。各地に調理屋を広めようという松江のばあちゃんの支援を受けて、新たに調理屋を始める人も出初め、すっかり軌道に乗ったようである。そんなときに松江のばあちゃんの訃報が。ばあちゃんの気持ちに応えるためにも、佳代はこれからも全国各地を厨房車で走り抜けるのだろう。お腹が鳴り、胸が熱くなる一冊だった。
孤狼の血*柚月裕子
- 2015/10/21(水) 16:42:55
KADOKAWA/角川書店 (2015-08-29)
売り上げランキング: 3,099
昭和六十三年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく―。
孤狼の血というタイトル通りの独断専行型で地元暴力団と持ちつ持たれつの関係を築いている暴力団係の刑事・大上の物語である。それは確かなのだが、それだけでは終わらない。配属されたばかりの若手刑事・日岡を可愛がり、暴力団捜査のイロハを伝授する大上の姿を、亡くなった息子と同じ名前に親近感を覚え、育てようとしたのだと思っていたが、ラストの種明かしのあとは、すべて納得ずくだったのだと思えてきて、大上の懐の深さにやられてしまった。決していいこととは思わないが、ある程度の必要悪ということもあるのではないかと思わされる一冊でもある。
イルカは笑う*田中啓文
- 2015/10/18(日) 16:38:44
最後の地球人と地球の支配者イルカの邂逅「イルカは笑う」、倒産した日本国が遺した大いなる希望「ガラスの地球を救え!」、ゾンビ対料理人「屍者の定食」、失われた奇跡の歌声が響く「歌姫のくちびる」…感動・恐怖・笑い・脱力、ときに壮大、ときに身近な12の名短編。日本人よ、これが田中啓文だ!
表題作のほか、「ガラスの地球を救え」 「本能寺の大変」 「屍者の定食」 「血の汗流せ」 「みんな俺であれ」 「集団自殺と百二十億頭のイノシシ」 「あの言葉」 「悟りの化け物」 「まごころを君に」 「歌姫のくちびる」 「あるいはマンボウでいっぱいの海」
SF&ホラーテイストといういささか苦手なジャンルではあり、グロテスク極まりない描写には一瞬立ち止まらざるを得なかったが、それでも田中啓文ここにあり、という物語であふれている。近未来のものは特に、捻りが効いていて、背筋がぞっとするほどである。元ネタを知っていても知らなくても愉しめ怖がれる一冊である。
消えない夏に僕らはいる*水生大海
- 2015/10/17(土) 16:56:08
新潮社 (2014-09-27)
売り上げランキング: 123,150
5年前、響の暮らす田舎町に、都会の小学生たちが校外学習で訪れた。同学年の5年生と言葉を交わすうち、彼らを廃校に案内する。きもだめしをすることになった響たちは、ある事件に遭遇し、一人の女子が大怪我を負ってしまう。責任を感じ、忌まわしい記憶を封印した響だが高校生活に希望を抱くなか、あの日の彼らと同じクラスで再会する―少年少女の鮮烈な季節を描く、青春冒険譚。
小学校五年の夏の校外学習で体験した衝撃的な出来事を、そのときの五人(響、友樹、紀衣、ユカリ、宙太)は、何らかの形でそれぞれ引きずったまま高校生になって再開し、そのまま封じ込めようとしていたものが再びよみがえってきてしまう。五年生のときの立場や役割によって、それぞれが抱えるものが少しずつ違い、それがその後の性格形成にも影響を及ぼしていたり、僅かずつずれて微妙な気遣いになっているあたりが興味深い。高校のクラスの中の人間関係も絡み、面白く読ませるが、ラストの決着がいささか物足りなかった印象はある。彼らの本当の青春はこれから始まるのだと思わせてくれる一冊ではある。
にょにょにょっ記*穂村弘 フジモトマサル
- 2015/10/16(金) 12:32:02
元気さの単位を考えたり毛布の中の見つからない穴を探したりと、日々順調に妄想と詩想の間をさまよい歩く穂村弘。日記という日常の記録が、言葉の鬼才の脳内を通りぬけ、ぴかぴかに結晶、ビザールかわいい一冊に。本作から共著者となったフジモトマサルの漫画も増量です。
もちろん相変わらず文句なく面白い。そしてなんだか前作よりも頷く場面が多くなった気がして、自分――いままでこれが自分だと思っていた自分――のことがちょっぴり信じられなくなったりもする。でも嬉しい。フジモトマサル氏の絵と相まって、穂村ワールド、ますますほのぼのしている印象の一冊である。
総理にされた男*中山七里
- 2015/10/15(木) 17:08:47
売れない舞台役者・加納慎策は、内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つの容姿とそ精緻なものまね芸で、ファンの間やネット上で密かに話題を集めていた。ある日、官房長官・樽見正純から秘密裏に呼び出された慎策は「国家の大事」を告げられ、 総理の“替え玉”の密命を受ける 。慎策は得意のものまね芸で欺きつつ、 役者の才能を発揮して演説で周囲を圧倒・魅了する 。だが、直面する現実は、政治や経済の重要課題とは別次元で繰り広げられる派閥抗争や野党との駆け引き、官僚との軋轢ばかり。政治に無関心だった慎策も、 国民の切実な願いを置き去りにした不条理な状況にショックを受ける。義憤に駆られた慎策はその純粋で実直な思いを形にするため、国民の声を代弁すべく、演説で政治家たちの心を動かそうと挑み始める。そして襲いかる最悪の未曽有の事態に、慎策の声は皆の心に響くのか――。
予測不能な圧巻の展開と、読後の爽快感がたまらない、魅力満載の一冊。
政治にはど素人の売れない役者・加納慎策が、真垣総理に瓜二つという理由のみで、病に倒れた総理の影武者にされ、現役国会議員や国民を惹きつけて政治を動かしていくという物語である。素人であるがゆえに純粋に考えることができ、政策の矛盾にも素直に反応する姿が私利私欲にまみれた政治家の心までも打ち政治行動までをも動かすというのは、胸がすく。だが、どうしてもつい先ごろ放映されていた池井戸氏原作のドラマと重ね合わせてしまうので、素直に愉しめなかった部分も多い。面白かっただけにもやもやが残る一冊でもある。
王とサーカス*米澤穂信
- 2015/10/13(火) 18:59:47
2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……。「この男は、わたしのために殺されたのか? あるいは――」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?
『さよなら妖精』の出来事から10年の時を経て、太刀洗万智は異邦でふたたび、自らの人生をも左右するような大事件に遭遇する。2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクションにして、米澤ミステリの記念碑的傑作!
実際に起こった事件が軸にあるからか、臨場感にあふれており、完全なフィクションとは思えない印象もある。太刀洗万智の置かれた状況と、トーキョーロッジの主や投宿する人々とのやり取りにもある種の含みが感じられて、これから起こることへの興味を掻き立てられる。後半はミステリ要素が少し増え、万智の気づきと思案を我が事のように読み進む。日本が舞台ではあり得ないことごとが異国情緒とともに独特の雰囲気を醸し出し、現実離れした浮遊感のようなものも感じられる。心に響く言葉は善人だけに言えるものではないのだと改めて思わされた一冊でもある。
空色の小鳥*大崎梢
- 2015/10/11(日) 13:39:00
「おまえはちがうから。この家から出ていくことを考えろ」三年前に急逝した兄・雄一と最後に交わした言葉。兄は微笑を浮かべていた。大企業のオーナーである西尾木家に後妻の連れ子として入ったものの、疎外感の中で暮らしてきた弟の敏也は、いまだにその真意が分からずにいた。ある日、偶然兄に内縁関係の妻子がいることを知った敏也は、妻・千秋が末期癌であることを突き止める。千秋の死後、六歳になる娘の結希を引き取ることにした敏也。だがなぜか、兄を溺愛したワンマン社長の父や一族には、そのことを一切知らせずに暮らし始めた……。敏也の真意とは? 静かな感動が胸を打つ著者渾身の家族小説!
著者には珍しい黒い思惑の渦巻く物語という印象で始まり、実際裏では打算にまみれた目論見が進行していきはするのだが、表に見える事象は実にほのぼのとあたたかく、愛と慈しみにあふれたものである。主人公の敏也と結希の関わりも打算だけでは成り立たない温か味にあふれているし、汐野や亜沙子の人柄も好感が持てる。血縁がすべての義父に憤りを覚えたりもしたが、ラストでそれも覆る。読み通してみれば著者らしい一冊だったと言える。
スクラップ・アンド・ビルド*羽田圭介
- 2015/10/08(木) 17:05:51
「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!第153回芥川賞受賞作。
毎日を躰の痛みと死への渇望とともに暮らす――と孫の健斗は思っている――88歳の祖父と、休職中で自分の躰を鍛えるという名目でいじめ続ける以外ほとんどすることのない孫の健斗の、介護という名の攻防のようにも見える。祖父に彼の望むような苦しみのない死をもたらす手伝いをしようと真面目に考え行動する健斗と、「早う死にたか」と事あるごとにぼやきながらも、ふとした折に生への執着を垣間見せる祖父。いささかボケているように見える祖父ではあるが、実のところは健斗の目論見などお見通しで、手のひらでころがしているように見えなくもない。あるいは見たままそのままで、健斗の思い通りの経過をたどることになるのか。さまざまに読めて興味深い。なんとなく祖父に軍配が上がりそうな印象はあって、健斗の一途さと空回りが微笑ましくも思えてくることもある。ストレートなようでなかなか曲者な一冊かもしれない。
プロフェッション*今野敏
- 2015/10/07(水) 18:30:15
立て続けに発生した連続誘拐事件。解放された被害者たちは、皆「呪い」をかけられていた――。警視庁きっての異能集団、ここに始動!
2014年に連続ドラマ化、2015年に映画化された「ST 警視庁科学特捜班」シリーズ(「ST 赤と白の捜査ファイル」)最新刊!
キャラクタはドラマに引きずられっぱなしだった。プロファイリングがメインな捜査なので、青山翔が前面に出てくる場面が多いのだが、そのたびに頭に浮かぶ映像を修正しなければならなのがいささか鬱陶しかった(著者のせいでは全くないのだが)。事件自体は、STが出てくるだけあって癖があるものだが、サイコパスを登場させるのはどうなんだろう、とちらりと思う。大学の研究室というある意味閉ざされた場所での人間関係のややこしさは充分に堪能させてもらった。設定を愉しめれば面白く読める一冊である。
十字の記憶*堂場瞬一
- 2015/10/06(火) 16:57:59
KADOKAWA/角川書店 (2015-08-29)
売り上げランキング: 71,395
新聞社の支局長として20年ぶりに地元に戻ってきた記者の福良孝嗣は、着任早々、殺人事件を取材することになる。被害者は前市長の息子・野本で、後頭部を2発、銃で撃たれるという残酷な手口で殺されていた。一方、高校の陸上部で福良とリレーのメンバーを組んでいた県警捜査一課の芹沢拓も同じ事件を追っていた。捜査が難航するなか、今度は市職員OBの諸岡が同じ手口で殺される。やがて福良と芹沢の同級生だった小関早紀の父親が、20年前に市長の特命で地元大学の移転引き止め役を務め、その後自殺していたことがわかる。早紀は地元を逃げるように去り、行方不明になっていた…。
新聞記者と刑事が、かつて見過ごしてしまった同級生の心を救おうと、互いの立場を超えて奔走する物語であり、大元に横たわる市長一族の利権と市の私物化を暴く物語でもある。しかしながら、なんとなくそれぞれの要素に対する動機づけが弱いと感じてしまうのはわたしだけだろうか。いまひとつのめり込めなかった印象である。なんとなくもやもやが残る一冊だった。
武士道ジェネレーション*誉田哲也
- 2015/10/03(土) 07:29:17
あれから六年、大学を卒業した早苗は結婚。香織は、道場で指導しながら変わらぬ日々を過ごすが、玄明先生が倒れ、桐谷道場に後継者問題が―。剣道女子を描く傑作エンタメ、六年ぶりの最新刊。
磯山さんと(特に)早苗の状況は六年前とはそれぞれ変わり、二人の関係も武士道をめぐる鍔迫り合いから、互いを思いやる大人の関係性に少しずつシフトしていて、純粋無垢な武士道魂のぶつかり合いを期待すると、不意を突かれた感じになるかもしれないが、それはそれぞれが成長しているし、立場も変わってきているのだから当然のことだろうと思う。ただ、現代の時流に物申したい著者の思いを早苗に託すのは、いささか無理があるのでは、と思わなくもない。そのためのジェフの登場?という気分にもなる。桐谷道場存続のための秘策は、ジェフでなくても成立したのではないかとも思うが、ともかく、桐谷道場にとって最善の道を歩めることになったのはよかった。付け足し感がなくもないが愉しめる一冊ではあった。
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