罪人よやすらかに眠れ*石持浅海

  • 2015/12/31(木) 17:10:39

罪人よやすらかに眠れ
石持 浅海
KADOKAWA/角川書店 (2015-12-02)
売り上げランキング: 145,117

訪れた者は、この場所で自らの業と向き合う。それは揺らがぬ、この《館》のルール。

「この館に、業を抱えていない人間が来てはいけないんです」

北海道札幌市、中島公園のすぐそばに不思議な《館》がある。
公園と同じ名の表札を掲げるその建物に、吸い寄せられるように足を踏み入れた客の境遇はさまざまだ。
「友人と、その恋人」を連れた若者、
「はじめての一人旅」に出た小学生の女の子、
「徘徊と彷徨」をせざるを得ない中年男性、
「懐かしい友だち」を思い出すOL、
「待ち人来たらず」に困惑する青年、
「今度こそ、さよなら」をするために過去をひもとく女性……。
そして彼らを待ち受けるのは、北良(きたら)と名乗るおそろしく頭の切れる男。
果たして迷える客人たちは、何を抱えて《館》を訪れたのか?

ロジックの名手が紡ぐ、6つの謎。
まったく新しい《館》ミステリ、ここに誕生!


札幌市の中島公園にほど近い高級住宅街の、ひときわ大きな中島家の邸宅で繰り広げられる推理物語である。なぜか吸い寄せられるように、業を抱えた人物が中島邸の前へたどり着き、邸に住まう誰かに誘われて中島家にやってくる。犯した罪を白日の下に晒される者あり、業を洗い流して帰っていく者あり、さまざまであるが、抱えているものはかなり残酷な事々である。来訪者は、無理やり連れてこられたわけではないのだが、囚われた、という印象を受けるのは、業を宿した者を引き寄せる中島家と、元々業を抱えて邸に居ついてしまい、いまや探偵役となっている北良の存在ゆえだろうか。もっと別の来訪者の物語もぜひ読みたいと思わせる一冊である。

空に牡丹*大島真寿美

  • 2015/12/30(水) 19:09:11

空に牡丹
空に牡丹
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大島 真寿美
小学館
売り上げランキング: 165,598

時は明治。花火に心奪われた男の生涯!
私のご先祖様には、花火に魅せられて生きた静助さんという人がいる。
親族みんなが語りたくなる静助さんのことを、私は物語にすることにした――。
時は明治。江戸からそれほど遠くない丹賀宇多村の大地主の次男坊として生まれた静助は、村人から頼られる庄左衛門、母親の粂、腹違いの兄・欣市と暮らしていた。ある日、新し物好きの粂と出かけた両国・隅田川で、打ち上げ花火を見物した静助は、夜空に咲いては散る花火にひと目で魅了される。江戸の有名な花火屋たちは、より鮮やかな花火を上げるため競って研究をしているという。
静助は花火職人だった杢を口説き落とし、潤沢な資金を元手に花火作りに夢中になるが、次第に時代の波が静助の一族を呑み込んでいく。


丹賀宇多(にかうだ)村の元名主・可津倉(かつくら)家の当主・庄左衛門と後妻の粂(くめ)との間の子である静助は、先妻との子である兄・欣市が次期当主として期待されるのとは裏腹に、何の期待も持たれず気ままに成長していったのである。いつしか花火に心を奪われ、のめり込んでいくが、責める者も、止める者もいなかった。周りは年を経るごとにさまざまに変化するが、静助は、基本的に変わることはなく、稼業に励んでいても昔ながらの静助なのであった。家が傾くほど花火に私財を投じるとは、いささか道楽が過ぎる気もするが、どういうわけかそれを責める人はおらず、却って感謝されさえするのである。人徳とでもいうのだろうか。身近にいたらいらいらしそうな人物ではあるが、根が悪い人ではないので、始末が悪いとも言える。あっけない理由で亡くなったときに、村人たちが盛大に花火を上げて見送る場面では、思わず胸が熱くなってしまった。子孫が思わず語りたくなるのは、こんな気持ちからだろうか、と想ってみたりもするのである。のどかで大らかで、なぜか憎めない静助の物語である。

消滅*恩田陸

  • 2015/12/28(月) 17:03:45

消滅 - VANISHING POINT
消滅 - VANISHING POINT
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恩田 陸
中央公論新社
売り上げランキング: 68,412

202X年9月30日の午後。日本の某空港に各国からの便が到着した。超巨大台風の接近のため離着陸は混乱、さらには通信障害が発生。そして入国審査で止められた11人(+1匹)が、「別室」に連行される。この中に、「消滅」というコードネームのテロを起こす人物がいるというのだ。世間から孤絶した空港内で、緊迫の「テロリスト探し」が始まる!読売新聞好評連載小説、ついに単行本化。


523ページという大作である。だが、そんなことはまったく感じさせる暇もなく、ページを捲るのがもどかしいほど面白かった。新聞連載時は、もどかしい思いをした読者も多いのではないだろうか。物語の大半が、空港の、それも窓のない一室の様子であるにもかかわらず、想像はあちこちに飛んで行き、読者も一体となって、登場人物たちの背景に思いを馳せることになる。早い段階から、テロリストはあの人物だろうと想像はでき、あのアイテムが何か重要なカギになっているだろうことも察せられるのだが、このラストには驚かされた。実際に陰惨なテロが起こりはしないだろうと思ってはいたが、想像を見事に裏切られて、しかもなんと日本人らしい、と苦笑してしまうような行動が広まっていて、裏切られ方の見事さに舌を巻く思いである。どきどきの時間を愉しんだ一冊である。

ギブ・ミー・ア・チャンス*荻原浩

  • 2015/12/26(土) 18:39:10

ギブ・ミー・ア・チャンス
荻原 浩
文藝春秋
売り上げランキング: 137,896

元相撲取りの探偵、相方に逃げられた芸人…人生の転機を迎えた人々の悲喜こもごもを掬いあげる、笑いと涙の「再チャレンジ」短篇集。


表題作のほか、「探偵には向かない職業」 「冬燕ひとり旅」 「夜明けはスクリーントーンの彼方」 「アテンションプリーズ・ミー」 「タケぴよインサイドストーリー」 「押し入れの国の王女様」 「リリーベル殺人事件」

どの物語も、挫折あり、悲哀ありで、虐げられ、存在を認められない鬱屈ありで、暗い話しではあるのだが、沈み込むばかりでなく、それを斜め上から見下ろして笑い飛ばしてしまう客観的な目線で描くことで、コミカルで前向きな印象にしているのは見事である。それにしてもいつも思うのだが、荻原さんって何者?と今回も随所で思わされた。常々荻原浩オバサン説を唱えているわたしだが(生のご本人にお会いしたことがあるので、もちろんおばさんではないことは承知の上であるが)、今作では、売れない演歌歌手だったり、元相撲取りだったり、なにより、旬は過ぎたとはいえ女子だったりして、その誰もの私生活の描写が細かすぎるのである。実際に体験したことがあるに違いないと思わされることばかりで、感心するのを通り越して、恐ろしくさえある。荻原浩、いったい何者?である。なにがあっても生きていけるとなんだか元気になれる一冊であり、文句なく面白い。

W――二つの夏*永嶋恵美

  • 2015/12/24(木) 17:14:42

W――二つの夏
W――二つの夏
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永嶋 恵美
講談社
売り上げランキング: 1,279,916

二つの物語が交わった時、驚愕の事実が! 一人暮らしのナナミ、元ヤンキーのクニコ。ある日、クニコがカフェでメールを送ったところ・・・。ドメスティック・サイエンスの旗手が放つ驚愕の書下ろし長編。


クニコとナナの定型文の往復のようなそっけないメールのやり取りを軸にした、クニコとナナの物語である。と、読み始めてすぐにそう思った。だが端々にちょっとした、あるいは大きな違和感を覚え、あちこちに引っかかりながらもつい流してしまいながら読み進んだ。それぞれの人生は、さまざまな困難や壁に満ちていて、家族の事情に振り回され、自らの蒔いた種に翻弄されながら過ぎていく。そして最後の最後の種明かしで、それまで流してきた数々の違和感がすべて腑に落ち、彼女たちのこれからを見守りたくなるのである。わだかまりをすべて溶かして、しあわせになってほしいと願わずにいられない一冊である。

明治・金色キタン*畠中恵

  • 2015/12/22(火) 19:35:12

明治・金色キタン
明治・金色キタン
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畠中 恵
朝日新聞出版
売り上げランキング: 8,206

にぎやかなキャラクター達の織りなす楽しさ、軽妙さに加え、恐ろしい妖の要素で背筋がぞくっともさせられる、「明治・妖モダン」シリーズ絶好調の第2弾!
明治21年の東京・銀座。巡査の滝と原田は、日々持ち込まれる事件や相談事の解決に奔走する熱血漢コンビ。だがこの二人と仲間たち、時折何やら人間離れした「妖(あやかし)」の姿をも見せるのです……!?
不忍池の競馬場、女学生と結婚事情、頼母子講+宗教的な集まりなどなど、明治の風俗がたっぷり楽しめる、1話完結の痛快な謎とき短篇集。さらに全編を通して、廃仏毀釈によって消えた寺と仏像の大きな謎もドラマチックに描かれる会心作です。


明治の銀座の派出所の巡査・滝と原田、そして彼らがたびたび顔を出す百木屋に集う面々が、巻き込まれ、持ち込む事件とその顛末の物語である。ただいささか常と違うのは、どうやらこの面々、銀座で普通に暮らしてはいるのだが、ただならぬ者たちであるようなのである。その辺りの可笑しさ、痛快さも興味深く、舞台が現代ではこうは上手くいかなかっただろうと思われて、江戸から明治に替わりはしたが、まだまだ一歩踏み入れば江戸の色の濃い混沌とした時代ゆえの大らかさも見て取れて、物語に深みを出している印象を受ける。あまりにも世の中が変わり過ぎて、なにが起こっても驚かず受け容れてしまえそうな時代だったのかもしれないと想像したりもしてしまう。事件も廃仏毀釈がらみで、祟りだのなんだのと混沌としているのもこの時代らしい。これも長く続いてほしいシリーズである。

純喫茶「一服堂」の四季*東川篤哉

  • 2015/12/19(土) 17:12:52

純喫茶「一服堂」の四季
東川 篤哉
講談社
売り上げランキング: 107,958

古都・鎌倉でひっそりと営業する古民家風喫茶「一服堂」。エプロンドレス姿の美人店主は、恥ずかしがり屋で人見知り。しかし、事件となるとガラリと人が変わってしまう。動機には一切興味がない安楽椅子型の名探偵が「春」「夏」「秋」「冬」の4つの事件を鮮やかに解く、連作シリーズ!


安楽椅子と書いて、「あんらくよりこ」と読む。純喫茶「一服堂」の店主にして、安楽椅子探偵である。個人的には、客の話す猟奇殺人の内容を聞き、突如スイッチが入るときに、カップやグラスを叩き割るのは、いささかいただけない気がするが、そのギャップにやられる人もいるのかもしれない。常連客が連れてきた新しい客が常連になったりして、季節ごとの連作になっているのだが、仕掛けがさまざま配されていて工夫されている印象ではある。すでにあるこの手の物語のテイストを少しずつ寄せ集めた感がなくはないが、そこそこ愉しめる一冊ではあった。

絶唱*湊かなえ

  • 2015/12/18(金) 07:11:47

絶唱
絶唱
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湊 かなえ
新潮社
売り上げランキング: 103,583

悲しみしかないと、思っていた。でも。死は悲しむべきものじゃない――南の島の、その人は言った。心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために――。「死」に打ちのめされ、自分を見失いかけていた。そんな彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島。そこで生まれたそれぞれの「希望」のかたちとは? 〝喪失〞から、物語は生まれる――。


阪神淡路大震災からちょうど二十年目のその日に出版された一冊である。二十年という月日が、物語にするために必要だったのだと思うと、胸に迫るものがある。直接的、間接的に、大震災で負った傷を背負って、逃げるように、あるいは祈るように、南の島にたどり着いた女性たちの、いままでとこれから、そして圧倒的ないまが描かれている。悲しみや苦しみを忘れ、捨て去るのではなく,認めて受け容れられてこそ、次のステップに臨めるのだと教えられる気がする。少しずつリンクする彼女たちの人生。僅かでもかかわることで、互いのこれからに良い影響を与え合っているようにも思えてほっとする。ここからが始まりなのだと思わされる一冊である。

葬偽屋は弔わない*森晶麿

  • 2015/12/16(水) 18:46:50

葬偽屋は弔わない: 殺生歩武と5つのヴァ二タス
森 晶麿
河出書房新社
売り上げランキング: 298,320

自分が死んだら周りの人たちはどんな反応するんだろう。その願い<葬偽屋>が叶えます。人の本音が見えてくる本格人情ミステリ!


葬儀屋、ならぬ、葬偽屋の物語である。殻と呼ばれる本人そっくりの人形を作って偽の葬儀を執り行い、列席者の反応を確かめるという仕事である。終わった後には必ず偽の葬儀だということを明かす、などいくつかのルールがあるが、基本、依頼は断らない。煩悩時の原液住職・殺生歩武の副業なのである。元保険調査員で、わけありのセレナ、殻の製作者であり、カフェサボタージュのオーナーの黒村が一応スタッフである。依頼者が抱える問題を調査し、葬儀を行って周りの反応を見ることで解決に導くのだが、怪しげな仕事の割には心温まる結末に落ち着くのが不思議でもある。最後には歩武自身の過去も、セレナのしがらみも、黒村の屈託も、納まるべきところに納まり、物語自体も、一応ハッピーエンドと言えよう。葬偽屋の仕事ぶりをもっと見たいと思わされる一冊である。シリーズ化希望。

アンソロジー 捨てる

  • 2015/12/15(火) 10:24:38

アンソロジー 捨てる
アンソロジー 捨てる
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大崎 梢 篠田 真由美 松村 比呂美 光原 百合 柴田 よしき 新津 きよみ 永嶋 恵美 近藤 史恵 福田 和代
文藝春秋
売り上げランキング: 63,606

人気の女性作家9名が贈る書き下ろし短篇! 小説

柴田よしき・大崎梢・光原百合・福田和代・松村比呂美・近藤史恵・永嶋恵美・篠田真由美・新津きよみ。作家発! 『捨てる』小説集。


アミの会(仮)とは、アンソロジーを出したり、ごはんを食べたり飲んだりする女性作家の会なのだそうである。そのアミの会による「捨てる」をテーマにしたアンソロジーが本作である。さまざまなものが捨てられ、あるいは捨てられずに抱え込まれていて興味深い。捨てるものそのものに焦点が当てられていたり、その心境が描かれていたり、捨てられたものの背後にある物にスポットが当てられていたり、と作家それぞれの持ち味とともに、その取り上げられ方も味わい深い。女性の真の恐ろしさもそこはかとなく垣間見られて、ぞくっとさせられる。これからの活動も愉しみなアミの会の一冊である。

最後の花束*乃南アサ

  • 2015/12/13(日) 17:05:03

最後の花束: 乃南アサ短編傑作選 (新潮文庫)
乃南 アサ
新潮社 (2015-09-27)
売り上げランキング: 5,629

色恋をめぐる狂気は、その女たちを少しずつ蝕み、少しずつ壊していった……。ある女は大阪に引っ越してまで愛人を追いかけ、またある女は親友の婚約者を欲しがる。職人の夫の浮気を疑った妻は夫の作る提灯に火を仕込み、OLは見る間に垢抜けた同僚への嫉妬に狂う……。サスペンス・ミステリーの名手の短編を、単行本未収録作品を加えて精選したベスト・オブ・ベスト第一弾!


恋に落ちると多かれ少なかれ狂気に陥るのが女というものかもしれない、とは思う。だが、ここに集められた女たちの狂気は、常識の範疇に納まらない、少々度を越した狂気ではある。深く深く潜航し、静かに力を蓄えて長い時を過ごし、ふとした些細なきっかけで表面に吹き出すような狂気である。それまでが静かであればあるほど、その怖さは男を奮いあがらせる。ある意味胸がすくこともあり、女の側を応援したくなることもあるが、それはわたしが女だからかもしれない。男性と女性で違う怖さを感じる一冊かもしれないとも思う。

きまぐれラボ*江坂遊

  • 2015/12/11(金) 07:34:45

きまぐれラボ
きまぐれラボ
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江坂遊
樹立社
売り上げランキング: 512,286

“きまぐれ研究所”からおかしなロボットや驚きの発明品が次々登場。子どもが読んでも大人が読んでも理屈抜きに面白い、奇想とユーモアのつまった新作ショートショート集。


テントコロ博士が発明する奇想天外なものの数々に、弟子のネギ君、カモ君がいちいち感心し、実験に協力して不思議で愉しい光景を見せてくれる。情けない結果になったり、ほのぼのとした心地にさせられたり、いろいろだが、こんなものがあったらいいのになぁ、というだれもが抱く夢を叶えてくれているようで、文句なく愉しめる。ひとつひとつは小さな物語だが、想像が無限に広がる一冊でもある。

チョコ★ド*江坂遊

  • 2015/12/09(水) 18:36:20

チョコ★ド
チョコ★ド
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江坂遊
樹立社
売り上げランキング: 80,313

夢のかけらがキラキラひかり、驚きの灯がチカチカまたたく―そんな異次元にあなたをいざなうチョコっとドリーミーな32の物語。小さな物語に独自の新しい世界を切り拓く、珠玉のショートショート集。


ちょっぴりホラーな始まりでも、なにやら哀しい感じでも、最後まで読むと、ちょっぴりしあわせ気分になれるのがとてもいい。いつでも、どこでも、どこからでも読める手軽さもいい。短いながら旨味がぎゅっと詰まった一冊である。

夏のバスプール*畑野智美

  • 2015/12/07(月) 07:20:23

夏のバスプール
夏のバスプール
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畑野 智美
集英社
売り上げランキング: 598,434

夏休みまであと5日! 青春初恋物語
2012年、世界は12月で滅亡するとの噂だが、高校1年生の涼太は、仙台から来た同級生に恋をする。一風変わった彼女には複雑な事情が…? 小説すばる新人賞受賞第一作、胸キュン青春小説!


夏の、ときて、バスプールと続くので、泳ぐプールを連想してしまったのだが、バスターミナルのことらしい。
夏休み直前の高校一年生の物語である。彼らみな、まだ何者でもなく、それぞれが鬱屈した想いを抱えながら、一般的に見れば広いとは言えない自分の場所で、その時その時にいちばんいいと思ったことをしている。あるときは逃げ出し、籠り、爆発させ、弾け、頭を抱えるが、あしたが少しでも良くなればいいという漠然とした気持ちは伝わってくる。絶対的に良い人も悪い人もいなく、ひとりの中にさまざまなその人がいて揺れている様が、この年代ならではのもどかしさを絶妙に描いている。彼らがよくびしょ濡れになっているからというわけではないが、瑞々しい一冊だった。

虚栄*久坂部羊

  • 2015/12/05(土) 17:15:58

虚栄
虚栄
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久坂部 羊
KADOKAWA/角川書店 (2015-10-02)
売り上げランキング: 13,799

凶悪化がん治療国家プロジェクト「G4」の発足に、外科医・雪野は期待を抱いた。手術、抗がん剤、放射線治療、免疫療法。四グループの邂逅は陰謀に満ちた覇権争いに発展。がん医療の最先端をサスペンスフルに描く!


有名人が次々と凶悪がんで亡くなる事例がマスコミをにぎわした。そんな折、国は、診療科を跨いだがん撲滅に力を注ごうと、プロジェクト「G4」を起ち上げた。だが、いざ蓋を開けてみれば、それぞれの診療科の覇権争いに終始し、しかも、医者たち自身が、次々にがんに侵されていく。いざ自分ががんになったときの対応や、診療科同士はもちろん、科内での出世競争は、見ていて哀れさえも感じられる。これが医療の現実だとしたら、かなり厭だが、似たり寄ったりのことはあるのだろうと想像できてしまうところがまたなんとも言えない思いである。極端な描き方をされている部分もあるとは思うが、興味深く、486ページというボリュームを感じさせない一冊だった。

闘う君の唄を*中山七里

  • 2015/12/02(水) 18:50:33

闘う君の唄を
闘う君の唄を
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中山七里
朝日新聞出版
売り上げランキング: 11,598

新任教諭として、
埼玉県秩父郡の神室幼稚園に赴任した喜多嶋凛。
モンスターペアレンツたちの要求を果敢に退け、自らの理想とする教育を実践するのだが……。
どんでん返しの帝王が仕掛ける物語は、いったいどこへ向かうのか?
読者の予想を裏切る著者の真骨頂!


 一. 闘いの出場通知を抱きしめて
 二. こぶしの中 爪が突き刺さる
 三. 勝つか負けるか それはわからない
 四. 私の敵は私です
 五. 冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ

主人公は、幼稚園の信任教諭・喜多嶋凛。前半は、凛の理想に向かう熱意と子どもたちへのあふれる愛情と、保護者会という名のモンスターペアレンツの対決という図式である。よくあるように、凛の熱意がいつしか親たちのかたくなさを解きほぐし、これで何もかもうまくいくかと思わせる。ここまでは、これまでの著者の作風とかなり違う印象なのだが、中山流が本領発揮するのはまだまだこれからだったのである。園児に慕われ、保護者からも認められつつある凛の立場ががらりとひっくり返る事態になる。このまま凛は埋もれてしまうのかと不安になった矢先、またまた事態はひっくり返るのである。そうくるか、と思わされるような厭な感じである。子どもたちや園のことを考えると暗い気持ちになるが、きっと凛はここからもうひと踏ん張りするだろうと応援したくもなる一冊である。

殺人鬼の献立表 Team・HK*あさのあつこ

  • 2015/12/01(火) 18:40:28

殺人鬼の献立表: Team・HK (文芸書)
あさの あつこ
徳間書店
売り上げランキング: 252,457

幸せになりたかったら、窓を磨きなさい。ハウスキーピング会社で働き始めた引っ込み思案で平凡な主婦・美菜子が見つけたものとは…。著者と等身大の主婦・美菜子が主人公。仕事を通じて、とてつもない美男で変人のベストセラー作家・那須河闘一や、それぞれ事情を抱えた会社のメンバー、社長の日向たちの信頼を得て、生き生きと暮らしていた美菜子の日々に、殺人事件が起こる!?


とにかく登場人物のキャラがいい。主役の美菜子の変化も好ましいし、Team・HKのスタッフたちも、性格は違えどそれぞれ心温かく仕事熱心で好感が持てる。そして、チョウ人気&チョウベストセラー&高額納税作家でオネエの那須河闘一である。これ以上のぶっ飛びキャラもないと思うが、それがまたいい味を出していて、スパイスとして言うことなしである。恐ろしいタイトルではあるが、ハートウォーミングな一冊である。