ペンギンを愛した容疑者*大倉崇裕

  • 2016/01/30(土) 17:09:00

ペンギンを愛した容疑者 警視庁総務部動植物管理係
大倉 崇裕
講談社
売り上げランキング: 250,020

「人間の視点では、この謎は解けません」
ペンギン屋敷の溺死体! 秘められた”殺意の証拠”をアニマル推理で解き明かせ! 警視庁「いきものがかり」の名(迷)コンビが大活躍!!
強面の窓際警部補・須藤友三(すどう・ともぞう)と動物オタクの女性巡査・薄圭子(うすき・けいこ)の名コンビが、動物にまつわるさまざまな難事件を解決する、大人気「コミカル・アニマル・ミステリー」シリーズです。
登場する動物はペンギン、ヤギ、サル、そして最も賢い鳥と言われるヨウム(オウムではないことに注目!)です。
警視庁の「いきものがかり」というべき、総務部動植物管理係のコンビの活躍を楽しめる4つの短編を収録した傑作集です。


表題作のほか、「ヤギを愛した容疑者」 「サルを愛した容疑者」 「最も賢い鳥」 

何作目になっても、薄圭子巡査のおとぼけ(本人はそう思っていないだろうが)ぶりは相変わらずである。そして、ひとたび動物が関わってくると、繊細な観察力と見事な推理で、その場で起こった犯罪を暴いてしまうのも、相変わらずスカッとする。いやいやこの仕事に就いた須藤警部補も、次第にやりがいを感じてきているようだし、薄巡査にも親心のような愛情を持ってきているのも微笑ましく感じられる。どんどん息の合ったコンビになってきている気がする。いつまで動物ネタが続けられるか判らないが、もっとずっと見ていたいシリーズである。

陽気なギャングは三つ数えろ*伊坂幸太郎

  • 2016/01/29(金) 07:43:01

陽気なギャングは三つ数えろ (ノン・ノベル)
伊坂幸太郎
祥伝社
売り上げランキング: 2,662

絶体絶命のカウントダウン!
史上最強の天才強盗4人組に強敵あらわる!
嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女――
180万部シリーズ待望の最新作!

陽気なギャング一味の天才スリ久遠は、消えたアイドル宝島沙耶を追う火尻を、暴漢から救う。だが彼は、事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者だった。正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器成瀬ら面々は断崖に追いつめられた! 必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶体絶命のカウントダウンが! 人気シリーズ、九年ぶりの最新作!


陽気なギャングシリーズの最新作である。このシリーズを読むと、ついギャングを応援したくなってしまうのが難なのだが、今回も見事にやってのけてくれた。そこまではよかったのだが、久遠が負わされた怪我によって、ハイエナのような週刊誌の記者に疑われることになり、以後、身辺で不穏なことが立て続けに起きるようになる。自分たちの身を守ることと、ハイエナ記者に恨みを持つ者たちに肩入れすること、両方を叶えることはできるのか。記者が厭な奴なのでなおさらギャングたちを応援したい気持ちが募るのである。彼らのキャラクタと掛け合いも相変わらず絶妙で、真面目であるほど笑えるのもいつも通りでうれしくなる。もうギャングはやめてしまうのだろうかという一抹の不安も抱えつつ、それ以外の活躍だけでもいいから、ずっと長く続けてほしいと思うシリーズである。

だれもが知ってる小さな国*有川浩 村上勉

  • 2016/01/26(火) 07:44:39

だれもが知ってる小さな国
有川 浩 村上 勉
講談社
売り上げランキング: 5,340

ヒコは「はち屋」の子供。みつ蜂を養ってはちみつをとり、そのはちみつを売って暮らしている。お父さん、お母さん、そしてみつばちたちと一緒に、全国を転々とする小学生だ。あるとき採蜜を終えたヒコは、巣箱の置いてある草地から、車をとめた道へと向かっていた。
「トマレ!」
鋭い声がヒコの耳を打ち、反射的に足をとめたヒコの前に、大きなマムシが現れた――
村上勉の書き下ろし挿画がふんだんに入った、豪華2色印刷


佐藤さとる氏の『コロボックル物語』の続編・有川浩版とも言える物語である。ハチ屋として日本中を旅して歩く、ヒコの一家とヒメの一家。北海道でヒコが出会った小さなともだちと、ヒメと出会ったことによる世界の広がり。そして二人で出会った、自分の世界を持つ大きなともだちとの信頼関係、先祖から受け継がれたもの、などなど。やさしく強く、心温まる一冊である。

片桐大三郎とXYZの悲劇*倉知淳

  • 2016/01/25(月) 17:05:20

片桐大三郎とXYZの悲劇
倉知 淳
文藝春秋
売り上げランキング: 106,116

この一冊で、エラリー・クイーンの〝X・Y・Zの悲劇〟に挑戦!

歌舞伎俳優の家に生まれたものの、若くして映画俳優に転身、
世界的な人気を博す名監督の映画や、時代劇テレビシリーズなどに主演し、
日本に知らぬものはないほどの大スターとなった片桐大三郎。
しかし古希を過ぎたころ、突然その聴力を失ってしまった――。
役者業は引退したものの、体力、気力ともに未だ充実している大三郎は、
その特殊な才能と抜群の知名度を活かし、探偵趣味に邁進する。
あとに続くのは彼の「耳」を務める新卒芸能プロ社員・野々瀬乃枝(通称、のの子)。
スターオーラをまき散らしながら捜査する大三郎の後を追う!

「ドルリー・レーン四部作」を向こうに回した、本格ミステリー四部作をこの一冊で。
殺人、誘拐、盗難、そして……。最高に楽しくてボリューム満点のシリーズ連作。


 冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意
 春の章 極めて陽気で呑気な凶器
 夏の章 途切れ途切れの誘拐
 秋の章 片桐大三郎最後の季節

時代劇界の大御所、片桐大三郎が探偵役の物語である。聴力を失って役者は引退しているとは言え、存在感は少しも衰えず、社内でも、厳然と威容を誇っている。のの子(野々瀬乃枝)は、彼の耳代わりとして雇われたので、どこへ行くにもついていくことになるのだが、この二人のやり取りもなかなか味があって面白い。片桐は、庶民のことを知らないので、空気を読めないことは時にあるが、決して押しつけがましいわけではなく、観察眼は鋭く、推理力も見事なのである。警察が頼りたくなるのもうなずける。最後の章では、まさかそんな!?とどきどきさせられるが、まんまとしてやられてしまった。嬉しい限りである。もっと続きが読みたくなる一冊である。

リバース*湊かなえ

  • 2016/01/23(土) 18:52:09

リバース
リバース
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湊 かなえ
講談社
売り上げランキング: 19,810

深瀬和久は、事務機会社に勤めるしがないサラリーマン。今までの人生でも、取り立てて目立つこともなく、平凡を絵に描いたような男だ。趣味と呼べるようなことはそう多くはなく、敢えていうのであればコーヒーを飲むこと。そんな深瀬が、今、唯一落ち着ける場所がある。それは〈クローバー・コーヒー〉というコーヒー豆専門店だ。豆を売っている横で、実際にコーヒーを飲むことも出来る。深瀬は毎日のようにここに来ている。ある日、深瀬がいつも座る席に、見知らぬ女性が座っていた。彼女は、近所のパン屋で働く越智美穂子という女性だった。その後もしばしばここで会い、やがて二人は付き合うことになる。そろそろ関係を深めようと思っていた矢先、二人の関係に大きな亀裂が入ってしまう。美穂子に『深瀬和久は人殺しだ』という告発文が入った手紙が送りつけられたのだ。だれが、なんのために――。
深瀬はついに、自分の心に閉じ込めていた、ある出来事を美穂子に話し始める。全てを聞いた美穂子は、深瀬のもとを去ってしまう。そして同様の告発文が、ある出来事を共有していた大学時代のゼミ仲間にも送りつけられていたことが発覚する。”あの件”を誰かが蒸し返そうとしているのか。真相を探るべく、深瀬は動き出す。


大学のゼミ仲間と友人の別荘に出かけたとき、遅れてきた別荘の主本人を車で迎えに行った広沢が、崖から落ちて亡くなった。そのことを胸に抱えて社会人になった深瀬たちに、「人殺しだ」という告発文が届き、事態が新たに動き出す。広沢のことを知りたいと、彼をよく知る昔の友人たちに話を聴いて回る深瀬だったが……。それぞれの身勝手さ、心の弱さ、保身など、さまざまな面があぶりだされる中、最後の最後の最後の最後にとんでもない事実が明らかになるのである。まさにオセロゲームの白黒が一瞬にして入れ替わるように、世界の見え方が裏返るのである。一瞬思わず息を呑んだ。最後にタイトルの意味に納得する一冊である。

ボタンちゃん*小川洋子 作  岡田千晶 絵

  • 2016/01/22(金) 18:39:53

ボタンちゃん (PHPわたしのえほん)
小川 洋子
PHP研究所
売り上げランキング: 371,698

小川洋子初の絵本。子どものころ、はじめて考えた物語。ボタンちゃんとボタンホールちゃんはふたりでひとつ。いつもなかよしです。ところがある日、ボタンちゃんをとめていた糸が切れてしまって…。4~5歳から。


子どものころ、はじめて考えた物語、ということだが、現在の作風を彷彿させるようでもある。なぜなら、ブラウスから転げ落ちたボタンちゃんは、コロコロ転がり、薄暗い隙間に入り込んで、人が忘れたままに置き去りにされている者たちに注目するのだから。ほつれた糸が手の形をしていたり、表情もとても優しかったり。絵と物語がとてもマッチしていて、小さい子どもが何度でも読んで読んでとせがみそうな一冊である。

言い訳だらけの人生*平安寿子

  • 2016/01/20(水) 17:06:09

言い訳だらけの人生
言い訳だらけの人生
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平 安寿子
光文社
売り上げランキング: 162,291

五十にして天命を知る? 中学時代にあれに嵌まった男に贈るバイブル的小説!
五十歳を目前にした男三人。
家庭の危機、会社の不安、やり場のない不満。
あるじいさんの死から秘密の場所で遊んだ記憶を呼び起こした三人は、中学生時代に嵌まったアニメ・漫画から得た、ささやかな挟持を思い出すのだが……。


中学の同級生と、たまたまひと夏を一緒に過ごした近所の二つ年下の少年。五十歳を目前にして、あの夏のひとときの舞台を提供してくれた徳市じいさんの弔いをするために久しぶりに三人で集まることになるのである。それぞれ現在の境遇も家族構成も、家族のなかでの処遇も違う男たちだが、その昔、ガンダムにはまり、他愛のないことで大笑いし、転げまわって遊んだ日々は、忘れがたいものとして胸の中にあり続けているのである。男と女の行動原理の違いなども、面白おかしく描かれていて、家庭の円満には忍耐や駆け引きがどれほど大切かも教えてくれる。なんだかんだ言い訳をしたり愚痴ったりしても、胸のなかに宝物があれば、また一歩前へと進めるのだろう。厳しいながらほのぼのとさせてくれる一冊である。

Aではない君と*薬丸岳

  • 2016/01/18(月) 16:58:19

Aではない君と
Aではない君と
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薬丸 岳
講談社
売り上げランキング: 22,115

殺人者は極刑に処すべきだ。親は子の罪の責任を負うべきだ。周囲は変調に気づくべきだ。自分の子供が人を殺してしまってもそう言えるのだろうか。読み進めるのが怖い。だけど読まずにはいられない。この小説が現実になる前に読んでほしい。デビューから10年間、少年事件を描き続けてきた薬丸岳があなたの代わりに悩み、苦しみ、書いた。この小説が、答えだ!

勤務中の吉永のもとに警察がやってきた。元妻が引き取った息子の翼が死体遺棄容疑で逮捕されたという。しかし翼は弁護士に何も話さない。吉永は少年法十条に保護者自らが弁護士に代わって話を聞ける『付添人制度』があることを知る。生活が混乱を極めるなか真相を探る吉永に、刻一刻と少年審判の日が迫る。


人を殺してはいけない。これは大前提である。だが、そこに至る過程に何があったのか。そこをないがしろにしては、ことは何も解決しないし、被害者家族も加害者もその家族も前へは進めないのである。別れた妻の元にいる我が子が同級生を殺して逮捕される、という寝耳に水の事態に接した吉永の動揺、驚愕、そしてまさかという思い、さらには我が子に対する恐怖。さまざまな反応が生々しくて胸を塞がれる。親として、いままで我が子との一瞬一瞬を大切にしてきただろうかと、振り返ると、自信はない。子どもとの関係だけでなく、さまざまなことを考えさせられる一冊である。

うずら大名*畠中恵

  • 2016/01/17(日) 17:08:12

うずら大名
うずら大名
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畠中 恵
集英社
売り上げランキング: 29,263

正体不明の“大名"と泣き虫の村名主が江戸を揺るがす難事件に挑む!

若き日に同じ道場に通った貧乏武家の部屋住み・有月と百姓の三男・吉也。
金もなく、家にも町にも居場所がなく、この先どうやって生きていけばいいのかと
悩む日々を共に過ごしてきた。
時は流れ、吉也は東豊島村の村名主となり吉之助と改名。
ある日、大名家へ向かう途中に辻斬りに襲われるが、
「御吉兆ーっ」という鳴き声とともに飛び込んできた白い鶉とその飼い主であるお武家によって命を救われる。
お武家の正体は、十数年ぶりに再会した有月だった。
涼やかな面で切れ者、剣の腕も確かな有月は大名を自称するが、どう見ても怪しく謎めいている。
そんな有月と勇猛果敢な鶉の佐久夜に振り回されながら、吉之助は江戸近隣で相次ぐ豪農不審死事件に巻きこまれていく。
一つ一つの事件を解決するうちに、その背景に蠢く、江戸城を揺るがす恐ろしい陰謀が明らかになり――。
新しい畠中ワールドの幕開けとなる、痛快時代小説の誕生です!


畠中さんのシリーズもののキャラクタはどれも好いなぁ。今回も、見目麗しいが、すでに隠居の身で一見ふらふらしているように見える有月さんといい、大名家にお金を貸すほどの豪農であり名主でありながら、相変わらずに泣き虫の吉之助といい、出来過ぎでないところが親近感を持たせてくれて、物語をより近しく感じさせてくれる。そして何よりタイトルにもなっている、有月さまの巾着鶉の佐久夜の賢さと愛らしさが群を抜いている。あちこち手を回し、綿密に調べ、罠を張って犯人をおびき出し、事件を解決する手腕も見事だが、佐久夜の活躍も見逃せない。たのしみなシリーズになること間違いないと思わされる一冊である。

植物たち*朝倉かすみ

  • 2016/01/16(土) 07:25:50

植物たち (文芸書)
植物たち (文芸書)
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朝倉 かすみ
徳間書店
売り上げランキング: 286,325

<この植物、あの子に似てる>
他の木にくっついて生きているコウモリラン、ぽっこりしたお腹の見た目はかわいらしいけれど、大繁殖するホテイアオイ、暗くじめじめしたところにいるほど生き生きするコケ…。
植物のそんな生態は、あの人やこの人の生き方にそっくり。
人間の不可思議な行動を植物の生態に仮託して描く、アサクラ版・植物誌!


とても著者らしい植物図鑑(?)である。まず冒頭に、さまざまな文献などから引用された植物の解説があり、その後一見何の関係もないような物語が始まる。だが、読み進めば、何とはなしに、その植物の生態と似ていると気づくのである。しかもどの物語も一筋縄ではいかない趣である。こんな植物たちが群生している場所があったとしたら、一歩たりとも足を踏み入れたくはないと思わされる。それでもみんな、それなりに一生懸命なのはわかるので、いやな感じではないのも不思議である。装丁とタイトルから、爽やかな物語(朝倉さんでそれはないと思うが)だと思って手に取る人がいたら、手ひどく裏切られる一冊でもある。

ロマンシエ*原田マハ

  • 2016/01/15(金) 09:13:37

ロマンシエ
ロマンシエ
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原田 マハ
小学館
売り上げランキング: 9,246

乙女な心を持つ美術系男子のラブコメディ!

有名政治家を父に持つ遠明寺(おんみょうじ)美智之(みちの)輔(すけ)は、子どもの頃から絵を描くことが好きな乙女な男の子。恋愛対象が同性の美智之輔は、同級生の高瀬君に憧れていたが、思いを告げることもないまま、日本の美大を卒業後、憧れのパリへ留学していた。
ある日、アルバイト先のカフェで美智之輔は、ぼさぼさのおかっぱ髪でベース形の顔が目を惹く羽生(はぶ)光(み)晴(はる)という女性と出会う。凄まじい勢いでパソコンのキーボードを打つ彼女は、偶然にも美智之輔が愛読している超人気ハードボイルド小説の作者。訳あって歴史あるリトグラフ工房idemに匿われているという。
過去にはピカソなどの有名アーティストが作品を生み出してきたプレス機の並ぶその工房で、リトグラフの奥深さに感動した美智之輔は、光晴をサポートしつつ、リトグラフ制作を行うことになるが……。

【編集担当からのおすすめ情報】
小説『ロマンシエ』に登場するパリのリトグラフ工房“idem”とコラボした展示会がを開催します(2015年12月5日から2016年2月7日まで、東京・丸の内のステーションギャラリーにて)。小説を読んでから展覧会に行くもよし、展覧会でリトグラフを楽しんでから小説を読んでもよし。小説(フィクション)と展覧会(リアル)がリンクした初の試みをお楽しみください。


自分の性に葛藤する美智之輔が、パリで人気小説家の羽生光晴と出会うことで生まれた物語である。生まれて初めて自由を感じられたパリで、大ファンのハルさんと触れ合い、思い描いていた道とは違うが、創作の現場に立ち会い、そこで働く人々と親しむことで、ある意味逃げるように日本を出てきた彼の中の何かが花開いていくのがよく判って涙を誘われる。長年の忍ぶ恋は報われなかったが、美智之輔にとってもハルさんにとっても、新たな道が開けているのがとてもうれしい。気楽に読めるのに、深みのある一冊だった。

Killers 下*堂場瞬一

  • 2016/01/13(水) 21:06:53

Killers(下)
Killers(下)
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堂場 瞬一
講談社
売り上げランキング: 83,708

渋谷が生まれ変わる時、「Killers」も新たな「使者」を送る。正義を描いてきた著者が、書かずにはいられなかった集大成長篇!


下巻で描かれるのは主に現在である。捜査陣は代替わりし、当時の担当で犯人に殺された生沢の孫娘・薫が刑事になって、未解決のまま、なお続いていると思われる十字殺人の犯人を追っている。長野保が犯人だろうということは判っていながら、どうしても本人にたどり着けず、いたずらに被害者が増えていくのは、警察としてはどれほど歯がゆいことだろう。しかも、過去の捜査の穴がいまごろになって見つかっ足りもするのでなおさらである。だが、どれだけ読んでも、長野保の心理状態がさっぱり理解できない。しかも事件はまったく終わらないのである。面白かったが、後味の悪い一冊である。

笑う少年*樋口有介

  • 2016/01/11(月) 17:19:48

笑う少年
笑う少年
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樋口 有介
中央公論新社
売り上げランキング: 184,285

シングルマザーで弁護士事務所の調査員・風町サエは、安売りピザで大儲けし、今や芸能界を牛耳る小田崎貢司から依頼を受ける。自殺したアルバイト店員の両親が求める賠償金を減額したいというのだ。一方、ある人から小田崎の弱点を探るよう頼まれ―。謎に満ちた男の前半生に潜む真実とは!


風町サエシリーズの二作目である。元ヤンキーのシングルマザーで、息子・聖也にメロメロなサエが魅力的である。心に抱えている傷を隠すように元気にふるまうが、なにかの折にはちょこっと顔をのぞかせる屈託も、彼女の魅力を増しているように思う。今回は、ダブルで仕事を請け負っており、しかも小田崎という人物が依頼人でもあり、捜査対象でもあるのが複雑である。だが、聖也のための一億円貯金という目標に向かって、やり遂げてしまうのがサエのサエたるところなのである。得体の知れない小田崎のことはなかなか明らかにならないが、最後の最後に事実が明かされたときには、驚きを隠せない。後味が悪い物語ではあるが、先へ先へと興味が尽きない一冊でもある。

インターフォン*永嶋恵美

  • 2016/01/10(日) 06:53:15

インターフォン (幻冬舎文庫)
永嶋 恵美
幻冬舎 (2010-10-08)
売り上げランキング: 462,066

市営プールで見知らぬ女に声をかけられた。昔、同じ団地の役員だったという。気を許した隙、三歳の娘が誘拐された。茫然とする私に六年生の長男が「心当たりがある」と言う(表題作)。頻繁に訪れる老女の恐怖(「隣人」)、暇を持て余す主婦四人組の蠱惑(「団地妻」)等、団地のダークな人間関係を鮮やかに描いた十の傑作ミステリ。


壁を隔てれば、上下左右には別の世界がある。そこでは何が起こっているのか知るべくもない。そんな団地で日々起こっているブラックな出来事が集まっている。実際にこんなことはないだろう、と思わされることもあるが、もしかすると小説よりも奇な現実では、もっと恐ろしいことが起きているのかもしれないと、背筋が寒くなる。年齢も境遇も違う見知らぬ人々が隣り合って暮らす団地という場所の特殊な恐ろしさが凝縮されているような一冊である。

Killers 上*堂場瞬一

  • 2016/01/09(土) 18:20:56

Killers(上)
Killers(上)
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堂場 瞬一
講談社
売り上げランキング: 30,633

殺人者は、いつの時代にも存在する。

2020年東京五輪に向けて再開発が進む渋谷区のアパートで、老人の他殺体が発見され、かつての名家の人間だったことが判明する。いったい、この男は何者なのか――。
五十年、三世代にわたる「Killers」=殺人者の系譜と、追う者たち、そして重なり合う渋谷という街の歴史。

警察小説の旗手・堂場瞬一のデビューから100冊目を飾る、記念碑的文芸巨編1500枚!


東京オリンピックとは言っても、前回のオリンピックの時代が上巻の大方を占めている。老人ばかりが被害に遭った連続殺人事件が起こり、被害者の額には決まって十字のしるしがつけられていた。犯人は政治家の次男で、彼の目線で語られる部分と、警察の側から語られる部分とで物語は進む。舞台は渋谷だが、時間経過はものすごく長く、ときおり時代が一気に進み、過去を振り返る描写が差し挟まれているのが、もどかしさと空恐ろしさを増幅させる。使命感さえ帯びて殺人を続け、あるいは唆す様子は見るだけで虫唾が走るが、事態は少しずつ変化している印象でもある。上巻では、今後の展開が読めないが、どのように決着がつけられるのか、早く下巻も読みたくなる一冊である。

きらきら眼鏡*森沢明夫

  • 2016/01/07(木) 18:38:27

きらきら眼鏡
きらきら眼鏡
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森沢 明夫
双葉社
売り上げランキング: 52,723

愛猫ペロを亡くした喪失感にうちひしがれていた立花明海は古本屋で普段は読まない自己啓発本を買った。
中には前の所有者か、「大滝あかね」と書かれた名刺が挟まっていた。
そして自分が唯一心を打たれたフレーズには傍線が。明海は思い切ってあかねにメールしてみるが……。
新たな出会いとともに違う人生が現れ、明海は悩み、勇気を奮い、道を決めていく。


明海(あけみ)という名前でいじめられ、名付け親だと思っていた祖母を責めたことがトラウマになり、人の反応を先読みして、できるだけ害にならないように生きてきた25歳の青年が、人や言葉との出会いによって少しずつ自分を認め、受け容れ、成長していく物語である。会社の先輩の弥生さんや、ケラさん、そして、古本屋で買った自己啓発本に挟まっていた名刺の持ち主・あかねさん。誰もが胸の裡に屈託を抱え、それをそれぞれのやり方でなだめながら生きている。悲しみや苦しみに満ちた毎日だとしても、心の中のきらきら眼鏡をかけることによって、輝きにあふれたものに変えていくことはきっとできるのだ。後半はあたたかな涙が止まらなくなって困った。人前では読まない方がいい一冊である。

鍵穴ラビリンス*江坂遊

  • 2016/01/05(火) 16:46:33

鍵穴ラビリンス (講談社ノベルス)
講談社 (2014-02-07)
売り上げランキング: 43,055

ご存知ですか? 物語は圧縮すると結晶になるのです。ここに収められたのは56の短い物語。一つ一つは小さく、だけど、それぞれがキラキラ輝いています。ほら、鍵穴からそっとのぞくと、そこには目もくらむラビリンスが! 伝説のショートショート作家・星新一氏の遺志を継ぐ、稀代の異才・江坂遊、ノベルスについに登場!!


これぞショートショートである。さらっと描かれている世界が、とてつもなく怖かったり、背筋が凍るようだったり。ほのぼのさせてくれるのかと思いきや、ラストですとんと落とされたり。この短さの中によくぞこれだけの要素が入るものだと感心させられる。まさに、ショートショートのエッセンスがぎゅぎゅっと詰まった一冊である。

大川契り--善人長屋*西條奈加

  • 2016/01/02(土) 17:02:10

大川契り: 善人長屋
大川契り: 善人長屋
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西條 奈加
新潮社
売り上げランキング: 180,180

長屋の平和を守るため、悪党たちしぶしぶ大奮闘!スリに詐欺師に美人局、実は凄腕ばかりの善人長屋に迷い込んだ本物の善人・加助。人助けに燃え、減らず口の不良娘やケガをした当たり屋、不審な傷だらけの男児など、面倒の種をせっせと連れ帰り、そのたび騒動に巻き込まれる住人たちは戦々恐々。しかも拾った行き倒れが西国の盗賊一味と判明。とばっちりで差配の母娘が囚われて―!?


表題作のほか、「泥つき大根」 「弥生鳶」 「兎にも角にも」 「子供質」 「雁金貸し」 「侘梅」 「鴛鴦の櫛」

善人長屋と呼ばれる千七長屋の住人は、(まったく事情を知らない)加助を除いて、実は、裏稼業を持つ悪人なのである。あまりにも極端な善人ぶりの加助が、親切の果てに見境なく持ち込む厄介ごとに、善人長屋の面々は、否応なく巻き込まれることになる。苦りながらも、それぞれの得意分野を駆使し、手分けして問題を解決に導くのであるが、その様子や手際の良さがすかっとさせてくれる。仄かな恋心の成り行きもからめつつ、江戸の風物と裏事情を堪能できる一冊である。