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狩人の悪夢*有栖川有栖
- 2017/06/30(金) 13:35:51
「あなたに、悪夢を」 ――火村英生シリーズ、最新長編登場!
「俺が撃つのは、人間だけだ」
彼は、犯罪を「狩る」男。
臨床犯罪学者・火村英生と、相棒のミステリ作家、アリスが、
悪夢のような事件の謎を解き明かす!
人気ホラー小説家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、
京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。
そこには、「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。
しかしアリスがその部屋に泊まった翌日、
白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」と呼ばれる家で、
右手首のない女性の死体が発見されて……。
火村英生シリーズ、待望の長編登場!
待望の火村&アリスシリーズである。個人的には、ドラマを観た後でも、役者のイメージにとらわれずに済む数少ない作品でもある(わたしの中の火村先生は、もっと複雑で深い)。そして相変わらず時に三枚目を演じるアリスとはいいコンビであり、謎解きに至る火村の思考に果たすアリスの役割を、火村自身がいちばんよくわかり、頼りにしていることが改めて判って嬉しくもある。火村対真犯人の構図のほかに、アリスが真犯人に投げかける言葉に内包される愛ゆえの怒りや哀しみが、やり切れなさを誘う。火村&アリスが誕生して25年だそうだが、まだまだふたりを見続けられそうなのがなにより嬉しいと思うシリーズである。
短編少女
- 2017/06/26(月) 16:31:06
集英社 (2017-04-20)
売り上げランキング: 14,107
恋に恋する女の子のささやかな成長。家出した少女の冒険と、目の当たりにした社会の現実。早熟な少年が抱く不安と、それをほぐす少女のやさしさ。人気作家が「少女」をキーワードに綴った傑作短編9編を収録。多感な時期の憂しやときめき、ときに切ない気持ち。そしてそれらの先にある成長を、思い出のアルバムをめくるように楽しんでください。それぞれの作家の魅力も体感できる贅沢な一冊。
「少女」と呼ばれる一時代は、女性にとって特別な時なのではないかと思う。人生の中で、あまりにも変化に富み、自分自身は変わらないつもりでも、取り巻く状況が目まぐるしく変化し、変わりたいと思いながらも変わらずにいたいと願い、大人の真似をしてみたり、子どもぶってみたりと、何かと不安定で忙しい。とりとめのない時間を同級生と過ごしながら、さまざまな駆け引きもあったりして、一瞬も気を抜くことができない時代でもある。そんな途轍もなく穏やかで激動の少女をこのラインナップで読めるのは贅沢以外のなにものでもない。瑞々しい少女を満喫できる一冊である。
ミステリ国の人々*有栖川有栖
- 2017/06/25(日) 16:14:19
これぞミステリ!と膝を打ついかにも“らしい”52人。あの名探偵から、つい見逃してしまう存在まで、名編の多彩な登場人物にスポットライトをあて、世相を織り交ぜながら、自在に綴ったエッセイ集。作家ならではの読みが冴える、待望のミステリガイド!
ミステリ国に住む人々に焦点を当てたエッセイ集である。名探偵や、その相棒、たまには脇役、そして彼らを生み出した作者や、その作品が生まれた背景にまで及ぶこともある。紹介されている作品を読んだことがあってもなくても、とても魅力的であり、未読の作品はついつい読みたくなって、メモを取ってしまったりもする。愉しくわくわくするひとときをもたらしてくれる一冊である。
コンビニたそがれ堂 星に願いを*村山早紀
- 2017/06/22(木) 19:52:33
ポプラ社
売り上げランキング: 251,530
大事な探しものがある人だけがたどり着ける、不思議なコンビニたそがれ堂。
今回のお客様は、お隣のお兄ちゃんに告白したくてがんばる少女、
街角で長くコーヒーをいれてきた喫茶店のマスター、
子どもの頃、変身ヒーローになりたかった会社員......
夜空の星に切なる願いをかけた時、やさしい奇跡が起こる----。
つまずきがちな毎日に涙と笑いを運んでくれる、好評シリーズ第3弾。
コンビニたそがれ堂に行き着くまでの、異界に迷い込むような非日常的な警戒感はだいぶ薄れてきたし、長い銀髪に金色の瞳の店員さんもすっかり親しい存在になっているが、それでもたそがれ堂が特別な存在であることは疑いもない。必要としている人が、ちゃんと必要なものを手に入れ、それが結局は、自分のため人のために役立つことになるのである。たそがれ堂に行き着くまでの胸の裡の葛藤や切なさ、やるせなさが強いほど、たそがれ堂に行き着けたときに(読者は)ほっとする。これで何とか打開できる、と。だが、主人公たちにとってはここからが本番とも言えるのだ。ひとつとして同じ解決法はないが、みんな等しくあたたかい気持ちになるのである。読んでいるこちらまでやさしい気持ちになれるシリーズである。
踊れぬ天使 佳代のキッチン*原宏一
- 2017/06/21(水) 16:09:30
毎日大量に注文してくる疲れ顔の主婦、茶栽培に励む脱サラ夫になぜか冷たい妻、
笑顔に時おり影がさすロングライド女子……
ワケありな人びとの心を優しく満たす、とびっきりの一皿。
移動調理屋・佳代のおいしい料理が、温かな出会いと縁を繋ぐ絶品ロードノベル。
『ヤッさん』『床下仙人』の著者最新作!
第一話「おみちょの涙」 第二話「チャバラの男」 第三話「ロングライド・ラブ」 第四話「踊れぬ天使」 第五話「モンクス・ドリーム」 最終話「カフカの娘」
今回も、日本全国あちこちを旅しながら、その土地その土地の産物や調味料を使い、そこの人たちの知恵と力も借りて、調理屋を営んでいる佳代である。両親を探すという悲壮感はすっかり薄れ、未知の食べものに対する好奇心や、人々との触れ合いを愉しみ、ある時は巻き込まれて悩みながら、刻々と成長しているように見える。弟・和馬の言うところの根っからのおせっかい体質で、知り合った人たちの気持ちのもつれをほぐしてしまうのも、おいしい料理があればこそなのかもしれない。早く素敵な人と出会って落ち着いてほしいという思いと、いつまでも放浪し続けてほしいという思いで悩ましいシリーズでもある。
嫁をやめる日*垣谷美雨
- 2017/06/19(月) 18:22:34
ある晩、夫が市内のホテルで急死した。「出張に行く」という言葉は、嘘だった―。ショックを受けながらも、夫の隠された顔を調べはじめた夏葉子。いっぽう、義父母や親戚、近所の住人から寄せられた同情は、やがて“監視”へと変わってゆき…。追い詰められた夏葉子を、一枚の書類が救う!義父母、嫁家からの「卒業」を描く、「嫁」の役割に疲れたあなたに!人生大逆転ストーリー。
夫の急死をきっかけに、ぎくしゃくしていて遠いと感じていた夫の存在が、ある意味大きくなり、それまで意識したこともなかった「嫁」という立場もくっきりと浮き彫りになってくる。夫がいる間は、他所にないくらいうまくいっていると思っていた、舅・姑との関係も、夫がいなくなってみると、鬱陶しい以外の何物でもなくなる。上品でいい人だと思っていた旧家の奥さまである義母の行動のあれこれが鼻につき、知人の多さが、閉ざされた地方都市では監視の目が多いことにつながる。生前の夫の行いにも不信感が募り、悶々としているときに、がさつで品がないと思っていた実家の父が大いなる力になってくれたりと、ほんとうに頼るべき人が誰なのかを思い知らされたりもするのである。だが、一度はまりこんだ負のスパイラルの渦中では見えなくなっていたことが、ほんの少し距離を置いて冷静に眺めると別の様相が見えてきたりすることもある。結婚とは、個人と個人のものとは言え、その背後にいる家族と関わらずにいられるわけではない。「嫁」という存在についても改めて考えさせられもした。人と人の関係というのは誠に一筋縄ではいかないものであると思い知らされる一冊でもある。
青年のための読書クラブ*桜庭一樹
- 2017/06/18(日) 14:12:52
東京・山の手の伝統あるお嬢様学校、聖マリアナ学園。校内の異端者だけが集う「読書クラブ」には、長きにわたって語り継がれる秘密の〈クラブ誌〉があった。そこには学園史上抹消された数々の珍事件が、名もない女生徒たちによって脈々と記録され続けていた――。今もっとも注目の奇才が放つ、史上最強にアヴァンギャルドな“桜の園”の100年間。
お嬢様学校の誉れ高い聖マリアナ学園が舞台の物語なのだが、学園物語という言葉から連想されるのとはいささか趣を異にする世界が繰り広げられている。そもそも、聖マリアナ学園の成り立ち方からして尋常とは言えず、すでにそこには異端の匂いが色濃く漂っているのである。だが、女の園の常としての偶像崇拝的な恋愛ごっこや、二大勢力の学内戦争などは、これでもかというほど盛り込まれており、その二大潮流から外れたところに存在する「読書クラブ」こそがこの物語の本流であるというところが、もっとも聖マリアナ学園らしいとも言えるのである。詰まるところ、本作は、読書クラブ員たちが代々秘密裏に書き綴ってきた「読書クラブ誌」そのものなのである。赤レンガの部室棟の倒壊とともに姿を消した読書クラブだが、中野の某所で密かに生き続けているラストシーンで思わずにんまりしてしまう。著者らしい一冊だった。
コンビニたそがれ堂 神無月のころ*村山早紀
- 2017/06/16(金) 16:58:43
ポプラ社
売り上げランキング: 51,753
本当にほしいものがあるひとだけがたどりつける、不思議なコンビニたそがれ堂。今回は、化け猫「ねここ」が店番として登場!遺産相続で廃墟のような洋館を譲り受けた女性と忘れられた住人たちの物語「夏の終わりの幽霊屋敷」、炭坑事故で亡くなった父と家族の温かな交流を描いた「三日月に乾杯」など、ちょっぴり怖くてユーモラスな5つの物語を収録。深い余韻がいつまでも胸を去らない、大人気コンビニたそがれ堂シリーズ、第5弾!
今回は、たそがれ堂の店主・風早三郎は店を開けていて、ねここがアルバイトの店番である。不思議と訪れた人がつい胸の中のもやもやを聞いてもらいたくなるのである。そして、少しだけ胸の裡を軽くして帰っていくのだ。ねここちゃん、なかなか向いているかもしれない。ほんとうに欲しいものが何かわからずにやってくるお客さんも、その人がほんとうに求めているもの、その人に本当に必要なものを手に入れて帰っていくのである。初めは、異界に迷い込むような怖さもあったが、読んでいるうちに、この世になくてはならないもののように思えて、愛すべきものになっている。コンビニたそがれ堂で出てくる食べ物や飲み物が、どれもとてもおいしそうなのもなんとも惹かれる。いつまでもいつまでも読み続けたいシリーズである。
猫の傀儡*西條奈加
- 2017/06/14(水) 18:15:08
人を遣い、人を操り、猫のために働かせる。それが傀儡師だ。
傀儡師となった野良猫・ミスジは、売れない狂言作者の阿次郎を操って、寄せられる悶着に対処していく。やがて一匹とひとりの前に立ち現れる、先代傀儡師失踪の真相とは――? 当代屈指の実力派が猫愛もたっぷりに描く、傑作時代“猫"ミステリー! !
表題作のほか、「白黒仔猫」 「十市と赤」 「三日月の仇」 「ふたり順松」 「三年宵待ち」 「猫町大捕り物」
ひと言で言えば、猫が人を操って事件を解決に導く物語である。猫界では傀儡師は代々受け継がれ、傀儡としてふさわしい人間を、上手い具合に誘導して事件に関わらせ、それとなく道筋をつけて解決へと導くのである。傀儡にされた人間はそうとは知らず、自らの意志で謎を解きほぐした気になっているのだが、ふと気づくといつも同じ猫がそこにいるという寸法である。なんだか痛快である。天敵でもある烏との人情話もあり、現傀儡師のミスジの賢さと機転も見事である。シリーズになればいいなあと思う一冊である。
コンビニたそがれ堂 空の童話*村山早紀
- 2017/06/12(月) 07:24:38
ポプラ社 (2013-01-04)
売り上げランキング: 80,907
本当にほしいものがある人だけがたどり着ける、不思議なコンビニたそがれ堂。今回はその昔小さな出版社から刊行された幻の児童書『空の童話』をめぐって、優秀な兄に追いつこうと頑張ってきた若い漫画家の物語、なぜかおやゆび姫を育てることになった編集者の物語、閉店が決まった老舗の書店の書店員と謎めいたお客様たちの物語、そして老いた医師が語る遠い日の夜桜の物語の四作を収録。感動の声が続々寄せられる大人気シリーズ、待望の第四弾。
今回は『空の童話』という児童書がキーになっている。いまでは書店に並ばなくなった『空の童話』にまつわる登場人物それぞれの記憶と、その物語に触れたときの感情が、大人になり、乗り越えるべきものに行き当たったときによみがえってくる様子が、手に取るように伝わってきて、主人公と同じように胸が熱くなる心地である。大切なものは、ただそこにあるだけではなく、見えないところで誰かが守ってくれているのだという、忘れがちなことを思い出させてもくれる。どれも切なくあたたかく、やはり必ず一度は泣かずにいられないシリーズである。
反社会品*久坂部羊
- 2017/06/10(土) 09:02:36
KADOKAWA/角川書店 (2016-08-31)
売り上げランキング: 350,535
法に護られた高齢者と、死にものぐるいで働く若年層に分断された社会。若者は圧倒的な劣勢で。(「占領」)「働かないヤツは人間の屑!」と主張する愛国一心の会が躍進した社会で、病人は。(「人間の屑」)七編。
医療の近未来を描く、キケンな短篇小説集!
いま現在、本書に描かれた世界はまだ想像の域を出てはいない。だが、完全に絵空事だと言い切れる自信はない。いずれこんな社会になったとしても不思議はないとどこかで思ってしまうことが恐ろしくもある。何かきっかけがあれば、人々があっけなくある流れに呑み込まれ、流されていくことはよくわかっている。本作はその心理をとらえて見事であると思う。こんな世界にならないことを強く願い、安易に流されないように身を引き締めていかなければ、と思わされる一冊でもあった。
いかさま師*柳原慧
- 2017/06/08(木) 12:56:04
三十年前、顔を切り裂き、謎の自殺を遂げた天才画家・鷲沢絖。その妻の死体が、今ではゴミ屋敷と呼ばれている鷲沢邸から発見された。しかもその顔はどす黒く変色し、どろりと溶けていた。遺産相続人として母を指名された高林紗貴は、屋敷からある絵画がなくなっていることに気づく。作者はジョルジュ・ド・ラ・トゥール、約二百六十年の長きにわたり忘れ去られていた、フランス絵画史における最も謎めいた画家。計り知れない価値を秘めたその絵画の行方を探り始めた紗貴だったが、同時に周辺で不気味な出来事が起こり始める。年若い紗貴の恋人、相続を巡りライバル関係にある青年、姿を消してしまった絵画コレクターの父。いったい誰が味方で誰が敵なのか。ラ・トゥールと、見る者の心を揺さぶる鷲沢絖の断筆「顔を引き裂かれた自画像」。―これらの絵画に隠された真実とは。
タイトルの「いかさま師」はラトゥールの絵のタイトルなのだが、物語そのものを絶妙に表していて見事である。天才画家の遺産相続に関わる一連の流れと、彼の半生にかかわった人々が抱えることになった事々、そして、血のつながりと欲。興味深い要素がたくさんありすぎるが、それらがきっちりと太い流れになっている印象である。誰を信じればいいのか、誰が味方で誰が敵なのか、そもそも味方など誰ひとりいないのか。次々に奥の手やら隠し技やらが出てくるので、常に気を抜けない展開が続くのである。結局は、作品にとっていちばんいいところに落ち着いたとは言えるのかもしれない。先が愉しみで、ページを繰る手が止まらない一冊だった。
月の満ち欠け*佐藤正午
- 2017/06/07(水) 16:32:20
新たな代表作の誕生! 20年ぶりの書き下ろし
あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。
月が満ちては欠け、欠けてはまた満ちるように、魂も何度でも生まれ変わることができるかもしれないという「一理」を核に物語は進む。強すぎる思いを残して、思いがけず命を落とすことになった瑠璃は、何度でも生まれ変わってアキヒコと出会おうとする。そのたびに、そのときどきの周りの人たちを巻き込み、惑わせ、心の平静を失わせるのだが、そんなことに頓着しないところに、思いの強さが表れているとも言えるのかもしれない。現実問題、巻き込まれた人たちにとってはいい迷惑とも言えるのだが……。起きていること自体は、恐ろしくもあるのだが、ホラーテイストを感じさせない物語の運びになっていて、ラストの場面に向かってひたすら進んでいく印象である。瑠璃とアキヒコにとっては、めでたしめでたしだと言えよう。前世の記憶、というところに興味をひかれる一冊ではある。
コンビニたそがれ堂 奇跡の招待状*村山早紀
- 2017/06/04(日) 16:56:28
ポプラ社
売り上げランキング: 29,610
大事な探しものがある人だけがたどり着ける、不思議なコンビニたそがれ堂。ミステリアスな店長が笑顔で迎えるのは、大好きな友だちに会いたいと願う10歳のさゆき、あるきっかけからひきこもりになってしまった17歳の真衣、学生時代の恋をふと思い出した作家の薫子…そこで彼女たちが見つけるものとは?ほのかに懐かしくて限りなくあたたかい4編を収録したシリーズ第2弾、文庫書き下ろしで登場。
「雪うさぎの旅」 「人魚姫」 「魔法の振り子」 「エンディング~ねここや、ねここ」
どれも切ない物語である。主人公はみんな健気で、一生懸命考えている。それでもうまくいかずどうにもならないことがある。そんなときに現れるのが「コンビニたそがれ堂」なのである。その人が必要な時に、必要なものを手に入れることができる。そして、進むべき道へといざなってくれるのである。ここに行き着くまでの苦しみと、これで何かいい方向に向かうに違いないという安堵、そしてどんな風にして道が開けるのかを見守っていると、必ず一度は涙でページが見えなくなる。行ってみたいような、行かずに済むならそれがいちばんなような「コンビニたそがれ堂」。不思議な魅力の一冊である。
赤いゾンビ、青いゾンビ。 東京日記5*川上弘美
- 2017/06/02(金) 18:09:19
たんたんと、時にシュールに、そして深くリアルに……。2013年~現在までを綴ったライフワーク日記シリーズ、第5弾!
「つくりごととほんと」の境目が至極曖昧な著者の思考回路であり、行動パターンである。読者が明らかにつくりごとと思って読んでいる事々も、実はほうとのことかもしれない、と思わず読み返してしまうような雰囲気がある。そして、どちらにしても、そのときどきの著者の姿を容易に想像できてしまうのである。うつぶせで打ちのめされている姿とか、来る日も来る日もドラクエに明け暮れている姿とか、柱や建物の陰に身を潜めて、街で見かけた知り合いと出くわさないようにしている姿とか、である。それをそっと背後から覗き見している心地になれるのが、本作を読む醍醐味でもある。ともかく、愛すべき一冊なのは間違いない。
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