クジャクを愛した容疑者 警視庁いきもの係*大倉崇裕

  • 2017/08/17(木) 16:39:47

クジャクを愛した容疑者 警視庁いきもの係
大倉 崇裕
講談社
売り上げランキング: 41,910

学同院大学で起きた殺人事件の容疑者は、クジャク愛好会の奇人大学生! だが無実を信じる警視庁いきもの係の名(迷)コンビ、窓際警部補・須藤友三と動物オタクの女性巡査・薄圭子はアニマル推理を繰り広げ、事件の裏側に潜むもうひとつの犯罪を探り当てる!? 犯人確定のカギはクジャクの「アレ」!?

警視庁の「いきもの係」というべき、総務部動植物管理係の名コンビ、窓際警部補・須藤友三(すどう・ともぞう)と動物オタクの女性巡査・薄圭子(うすき・けいこ)のアニマル推理が楽しめます!


ドラマ化もされ、ますます親しみを覚えるシリーズである。(石松の配役は全く別物だが。)今回は、ピラニア、クジャク、ハリネズミである。薄圭子は(すっかり橋本環奈で頭の中に登場するが)、相変わらず、人間社会のことにはまったくといっていいほど興味がなさそうで、とんちんかんな受け答えに苦笑するばかりだが、それを軽くいなす須藤も、なにやらすっかり慣れた様子で微笑ましい。今作では、いきもの係に捜査一課から芦部という新人が配属され、どんなに頼りになるかと思えば、生き物アレルギーだったりして、当てにしていいのかどうか悩ましい。薄の天然の行動によって、捜査中の事件の謎がひとつずつ明らかにされていくのは、見ていて愉しくなる。手柄を手柄と思っていないところも可愛い薄巡査である。最後の最後のそのまた最後に載せられている、「取材協力」にも思わず笑わされてしまった。次は何の生き物か愉しみなシリーズである。

I Love Father

  • 2017/08/16(水) 09:56:45

I Love Father
I Love Father
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冲方 丁 岡崎 琢磨 里見 蘭 小路 幸也
宝島社
売り上げランキング: 494,596

冲方丁、岡崎琢磨、里見蘭、小路幸也、友清哲――
大人気ストーリーテラーが贈る、「父」にまつわるミステリー。

大学教授の父が女子学生からセクハラの告発を受ける……?(小路幸也「美女とお父さんと私」)、
船乗りの父に憧れる僕だったけど、ある日、父が「船を降りる」と言い出して……?(岡崎琢磨「進水の日」)など5編。
魅力的な謎と、愛すべきお父さんたちに出会う、珠玉のミステリーアンソロジー!


それぞれ味わいの違う物語である。感動するもの、胸にぐっとくるもの、温かい心持ちになるもの、そして目を疑うもの……。父にもいろいろあり、その父を持つ子もまたさまざまである。父と子の在り方に正解はないだろう。それぞれの子にとって、いちばんの父であってくれることを願うのみである。ぎゅっと詰まった一冊である。

東京カウガール*小路幸也

  • 2017/08/15(火) 12:32:28

東京カウガール
東京カウガール
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小路 幸也
PHP研究所
売り上げランキング: 296,734

きみは知らない/きみを知りたい
僕は動けなかった。恐怖心からではなく、男たちを叩きのめすその女性に見惚(みと)れてしまったんだ――。
その夜、カメラマン志望の大学生・木下英志は夜景を撮っていた。人気(ひとけ)のない公園で鈍い音を聞きつけカメラを向けると、そこには一人の女性がいた。彼女は屈強な男たちを叩きのめすと、車椅子の老人を伴い車へと消えた……。後日、改めて画像を見た英志は気づく。「似ている。横顔が、あの子に」
〈カウガール〉と名付けた彼女の画像を頼りに、その正体に近づいていく英志だったが、やがて彼女自身にも心を寄せていく。そして辿り着いた真相と、彼女の家族が背負った哀しい過去とは? 累計150万部突破の「東京バンドワゴン」シリーズの著者が描く、もう一つの「東京」の物語。


東京郊外の牧場が舞台ののんびりほのぼのした物語、ではない。実際には、都心のど真ん中で、物騒な出来事が繰り広げられる物語である。何人ものどうしようもない男たちが、再起不能なほど叩きのめされている。そして、そのことに偶然気づいてしまった大学生の英志(えいじ)が、バーを営むゲイの叔父や店の常連客たちと、秘密裏に策を練る、ものすごく不穏な物語なのである。それでも、なんとなく漂う雰囲気は穏やかでやさしくあたたかい。登場人物たちがみな、誰かのことをまっすぐに思いやり、その人のためにできる限りのことをしようと決意しているからなのかもしれない。裏事情はさまざまあって、きれいごとだけでは済まされないこともままあるが、人の思いがまっすぐで確かなものなら、良い結果がついてくるのだと思わせてくれる。哀しく切なく、じんわり心温まる一冊である。

アキラとあきら*池井戸潤

  • 2017/08/14(月) 07:54:14

アキラとあきら (徳間文庫)
池井戸潤
徳間書店 (2017-05-17)
売り上げランキング: 223

零細工場の息子・山崎瑛(あきら)と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬(かいどうあきら)。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった――。

ベストセラー作家・池井戸潤の幻の青春巨篇がいきなり文庫で登場! !


タイトルと、表紙のイラストから、努力家の零細工場の息子・山崎瑛が、鼻持ちならない御曹司・階堂彬に立ち向かって勝つ物語かと予想したのだが、そんなありきたりな物語ではなかった。瑛も彬もどちらも自分の置かれた環境に埋没することなく、抗って自らの進む道を切り拓いていく。それぞれの場所で自分を極めた二人が出会い、反発するのかと思いきや、互いを認め合い力を合わせて互いを守り抜く。どこまでもいい奴らなのである。二人とも初心を忘れず、環境に流されることなく思いを貫く強さと、考え方の柔軟性を持っていて、魅力的過ぎる。思いの熱さに何度涙を誘われたことだろう。700ページ超えの大作なのだが、あっという間に読み終えてしまい、それでもまだ読み続けたいと思わされる一冊である。

明治・妖モダン*畠中恵

  • 2017/08/11(金) 16:41:29

明治・妖モダン
明治・妖モダン
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畠中 恵
朝日新聞出版 (2013-09-06)
売り上げランキング: 19,356

「江戸が終わって20年。妖たちが、そう簡単にいなくなると思うかい?」煉瓦街が広がり、アーク灯が闇を照らす銀座に、ひっそりと佇む巡査派出所。そこに勤務する原田と滝は、“かまいたち”に襲われた者や、瞬く間に成長を遂げる女の子の世話など、不思議な対応に追われてばかり。それらは、とてもこの世のものとは思えず…。摩訶不思議な妖怪ファンタジー。


第一話 煉瓦街の雨  第二話 赤手の拾い子  第三話 妖新聞  第四話 覚り 覚られ  第五話 花乃が死ぬまで

このシリーズの一作目だが、読んでいなかっただろうか(なぜか読んでいなかったようである)。ただでさえ忙しい銀座の巡査、滝や原田のところには、きょうも事件が押し掛けてくる。近所の牛鍋屋・百木屋の主・百賢、常連客のお高や赤手を巻き込んで、解決したり、余計にややこしくしたりと大忙しである。江戸から明治に替わって二十年。華やかな表の顔を見せる銀座の煉瓦街も、一歩裏手に入れば、妖しい雰囲気も流れている。まだまだ人と妖が近くに居た時代の、ちょっと不思議な日常の物語である。二作目から読んだからこそ判りやすい部分もあったかもしれない。この先も愉しみなシリーズである。

僕と先生*坂木司

  • 2017/08/09(水) 07:08:25

僕と先生
僕と先生
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坂木 司
双葉社
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大学の推理小説研究会に入ったけれどこわがりな僕と、ミステリ大好きでしっかりした中学生の先生が、日常に潜む謎を解いていく〈先生と僕〉シリーズの最新刊。
社会問題にも目を向け、ちょっぴり大人になった二人の活躍をどうぞお楽しみに!


一話 レディバード  二話 優しい人  三話 差別と区別  四話 ないだけじゃない  五話 秋の肖像  指先の理由

一作目のタイトルが『先生と僕』だったので、同じ作品と勘違いしてずっとスルーしてしまっていて、やっと二作目であることに気づいて読んだのだが、気づいてよかった。大学生の二葉は、相変わらずお人好しで怖いものが大の苦手。中学生の隼人は、二葉をワトソン代わりにして、アームチェアディテクティブ――時に現場にも赴くが――ぶりに磨きをかけている。今作では、薬指だけにテントウムシのネイルアートがある女性が、ところどころに登場し、キーになっている。ある意味、問題提起的な役割とも言えようか。なにが善でなにが悪か、ある行動の奥にどんな気持ちが隠れているのか、ということを、考えるきっかけにもなるのである。日常の謎を解きながら、さまざまな人間模様も愉しめるシリーズである。

チェーン・ピープル*三崎亜記

  • 2017/08/08(火) 13:00:36

チェーン・ピープル
チェーン・ピープル
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三崎 亜記
幻冬舎 (2017-04-20)
売り上げランキング: 170,807

名前も年齢も住所もまったく違うのに、言動や身ごなし、癖に奇妙な共通点がある。彼らは「チェーン・ピープル」と呼ばれ、定められた人格「平田昌三マニュアル」に則り、日々、平田昌三的であることを目指し、自らを律しながら暮らしているのだ。『となり町戦争』の著者が描く、いまこの世界にある6つの危機の物語。


「正義の味方」―― 塗り替えられた「像」 ――
「似叙伝」―― 人の願いの境界線 ――
「チェーン・ピープル」―― 画一化された「個性」 ――
「ナナツコク」―― 記憶の地図の行方 ――
「ぬまっチ」―― 裸の道化師 ――
「応援」―― 「頑張れ!」の呪縛 ――

普段から当たり前に思い込み、漠然と受け容れて疑いもしていなかった事々、あるいは、些細な違和感を覚えながらも、深く追求することなく流してきたあれこれが、著者の目を通すと、これほどまでに理不尽で不可思議な物事としてクローズアップされるのか、という驚きに満たされる。だがそれは、どういうわけか快感でもあり、よくぞさらけ出してくれた、と拍手を送りたくさえなるのである。三崎流健在といった一冊である。

ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2017/08/07(月) 16:16:39

ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン
小路 幸也
集英社
売り上げランキング: 15,459

若き日の堀田我南人はコンサート帰りに、ある女子高校生と出会った。名は秋実。彼女はアイドルとして活躍する親友・桐子の窮地を救うため、ひそかに東京に来たという。話を聞いた我南人と、古書店“東京バンドワゴン”の一同は、彼女のために一肌脱ぐが、思いもよらぬ大騒動に発展し…?下町の大家族が店に舞い込む謎を解決する人気シリーズ、番外長編


サチさんがちゃんと生きて動いていて、秋実ちゃんもいて、我南人はまだ二十歳そこそこの堀田家である。こんな景色を見られる日がくるなんて。このシリーズを読み続けていてよかった、と思わず嬉しくなってしまう。そして、周りの人たちをあっと驚かせる、一度であっちもこっちも片づけてしまう我南人の仕切りが、この頃からのものだったことがわかって、やはり天性のものなのだと腑に落ちる。いつもちゃらんぽらんな感じでしゃべっているのに、ときどき普通の話し方に戻ってしまう辺りも、可愛らしささえ感じてしまう。堀田家とその周りの人たちに、さらなるLOVEを感じる一冊である。

鎮憎師*石持浅海

  • 2017/08/05(土) 16:27:09

鎮憎師
鎮憎師
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石持 浅海
光文社
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赤垣真穂は学生時代のサークル仲間の結婚式の二次会に招かれた。その翌日、仲間の一人が死体となって発見される。これは、三年前にあった“事件”の復讐なのか!?真穂は叔父から「鎮憎師」なる人物を紹介される…。奇想の作家が生み出した“鎮憎師”という新たなる存在。彼は哀しき事件の真相を見極め、憎しみの炎を消すことができるのか―。


理詰めでじわじわと外堀から埋めていって真相にいきつく著者流の謎解きが健在である。ことに、事件の当事者の八人が理系の大学出身ということで、情に流されない理論的な検証が自然である。とは言え、人間関係は、理詰めでいかないことの方が圧倒的に多く、そんな意のままにならない人間関係によって事件は引き起こされるのである。犯人を暴くのではなく、憎しみの連鎖を止めるという「鎮憎師」と呼ばれる沖田の存在が、狭い関係性に新しい何かを吹き込み、あとから思い出したふとした違和感から真犯人にたどり着くという結果にもなる。たったこれだけの関係者の中で、そういう趣向の人間があれだけいるというのは、いささか不自然な気がしなくもないが、ひとつずつ積み重ねていく過程と、お互いを案じる思いとに惹きこまれる。好きな一冊である。

錆びた太陽*恩田陸

  • 2017/08/04(金) 18:41:02

錆びた太陽
錆びた太陽
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恩田 陸
朝日新聞出版
売り上げランキング: 51,947

「最後の事故」で、人間が立ち入れなくなった立入制限区域のパトロールを担当するロボット「ウルトラ・エイト」たちの居住区に、国税庁から派遣されたという謎の女・財護徳子がやってきた。三日間の予定で、制限区域の実態調査を行うという。だが、彼らには、人間の訪問が事前に知らされていなかった!戸惑いながらも、人間である徳子の司令に従うことにするのだが…。彼女の目的は一体何なのか?直木賞受賞後長編第一作。


当然、原発事故にまず思いがいく。立入制限区域にいるのは、一度死んで甦った「マルピー」と呼ばれる存在、巨大な青い九尾の猫、巨大化して帯電した、「青玉」と呼ばれるタンブルウィードなどがいて、見回りをするだけでも一苦労なのである。そんな場所に若い女が派遣されてくることなど、本来考えられることではないのだが、国税庁からやって来たのは、財護徳子という20代後半の女性だった。ウルトラ・エイトたちのキャンプには、人間はいないのだが、ただ一人の人間・財護徳子は、超のつく自然体で、ロボットたちとも何の垣根もなく接している。ロボットたちにも新鮮な体験であり、心のないはずの彼らと徳子との間に心の通い合いがあるように見えるのが印象的である。財護徳子の本当の目的は何なのか、立入制限区域で何が起こっているのか、昔起こった一家殺人事件の真相は……。、近未来の冒険物語のようでもあり、人とロボットとの交流の物語でもあり、政府の隠ぺい体質の恐ろしさを暴く物語でもあり、さまざまな要素が絡み合って、面白さを増している。読み始め手間もなくは、もっと苦手な分野かと思ったが、予想に反して愉しめる一冊だった。

ドクター・デスの遺産*中山七里

  • 2017/08/02(水) 18:31:45

ドクター・デスの遺産
中山 七里
KADOKAWA (2017-05-31)
売り上げランキング: 62,367

警視庁にひとりの少年から「悪いお医者さんがうちに来てお父さんを殺した」との通報が入る。当初はいたずら電話かと思われたが、捜査一課の高千穂明日香は少年の声からその真剣さを感じ取り、犬養隼人刑事とともに少年の自宅を訪ねる。すると、少年の父親の通夜が行われていた。少年に事情を聞くと、見知らぬ医者と思われる男がやってきて父親に注射を打ったという。日本では認められていない安楽死を請け負う医師の存在が浮上するが、少年の母親はそれを断固否定した。次第に少年と母親の発言の食い違いが明らかになる。そんななか、同じような第二の事件が起こる――。


人間の尊厳と安楽死について、最期をどう迎えるかということについて、いくら考えても何が最善なのかわわからない。だが、安楽死という選択について、深く考えるきっかけになる物語である。少年の通報によって動き出した捜査一課は、安楽死を請け負うサイトにたどり着き、かつて、積極的安楽死を推奨した病理学者、ジャック・ケヴォーキアンの意志を受け継ぐそのサイトの管理者を、一連の安楽死事件の真犯人と読み、ケヴォーキアンがそう呼ばれたのにちなんで、ドクター・デスと呼んで捜査を始める。ドクター・デスは、見事なほど印象が薄い男で、頭が薄い小男という証言しか得られず、容易に迫ることができない。そんな折、共に行動していた看護師を見つけ出し、彼女の証言によってドクター・デスの名前が判り、それを糸口にして真犯人を逮捕するところまで行くのである。だが、そのあとの展開は、全く想像の外だったので驚くしかなかった。なるほどそういうことだったのか。安楽死はもちろん、現在の日本では違法であり、実行すれば殺人罪に問われるものである。自分自身も難病に苦しむわけでもなく、身近に病人を抱えるわけでもないので、法を犯してまで安楽死を望もうとは思わないが、実際に当事者になったときにどうなるか、確固として安楽死の誘惑を退けられるかどうか、いささか自信が持てないのも確かである。超高齢化社会目前のわが国において、なにが最善なのか、真剣に考えなければならないと思わされる一冊である。