シャーロック・ホームズたちの新冒険*田中啓文

  • 2018/04/30(月) 07:03:55

シャーロック・ホームズたちの新冒険
田中 啓文
東京創元社
売り上げランキング: 46,820

シャーロック・ホームズ&明智小五郎、東西の名探偵たちの知られざる冒険譚。“マンガ家の聖地”トキワ荘内で忽然と消えた、生原稿の謎。ミステリ愛好家の基礎教養「黒後家蜘蛛の会」にまつわる重大な秘密。正岡子規が推理する松尾芭蕉の死の真相…。実在非実在の名探偵たちの活躍を描く短編集。『シャーロック・ホームズたちの冒険』に続く、まさかまさかの第二弾登場!


小説家というのは、物語を創り出す人なのだと、改めて思わされる。物語の主人公や実在の著名人の人生のひと幕を、さも見てきたように上書きしてしまうのだから。しかも、だまされる人たちを見ながら、自分もさらにだまされているという、うれしい仕掛けが満載で、苦笑し、感心しながら愉しめる一冊である。

春待ち雑貨店 ぷらんたん*岡崎琢磨

  • 2018/04/28(土) 18:21:16

春待ち雑貨店 ぷらんたん
岡崎 琢磨
新潮社
売り上げランキング: 288,705

京都にあるハンドメイド雑貨店『ぷらんたん』。店主の北川巴瑠のもとには今日も不思議な出来事が舞い込む。イヤリングの片方だけを注文する客、遠距離恋愛中の彼氏から貰ったアルファベットの欠けたネックレス、頑なに体の関係を拒む恋人、そして、お店への嫌がらせ。ひとつひとつに寄り添い、優しく解きほぐしていく巴瑠。でも、そんな彼女にも人には言えない、ある秘密があった。とあるアクセサリーショップと4人の来訪者をめぐる物語。


一歩店内に入れば、たちどころにその場所が好きになる。そんな店がぷらんたん。巴瑠の手作りアクセサリーを主に、数人の作家の作品も置いている小さな店だ。手作りアクセサリーには、作り手の内面がにじみ出るのか、リピーターもついてくれ、細々とではあるが続けることができている。そんな巴瑠にも、そのことによって、人生の道筋さえもちがってくるかもしれない屈託があるのだが、進んで人に言いたいことではない。店に舞い込む困りごとに、親身に向き合うのも、人の痛みがわかるから、ということもあるだろう。恋人や友人、お客さんとの関係を通して、困りごとに解決の糸口を見つけたりしながら、巴瑠自身も少しずつ強くなり、前向きになっていくのがわかって、応援したくなる。いつでも真っ直ぐでいようと思わせてくれる一冊でもある。

悪徳の輪舞曲*中山七里

  • 2018/04/27(金) 09:36:10

悪徳の輪舞曲
悪徳の輪舞曲
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中山 七里
講談社
売り上げランキング: 23,018

14歳で殺人を犯した悪辣弁護士・御子柴礼司を妹・梓が30年ぶりに訪れ、母・郁美の弁護を依頼する。郁美は、再婚した夫を自殺に見せかけて殺害した容疑で逮捕されたという。接見した御子柴に対し、郁美は容疑を否認。名を変え、過去を捨てた御子柴は、肉親とどう向き合うのか、そして母も殺人者なのか?


御子柴礼二シリーズ四作目である。依頼に訪れたのは、なんと三十年ぶりに会う実の妹・梓だった。再婚した夫殺しの容疑で拘留されている母の弁護の依頼だった。かつて「死体配達人」と呼ばれた御子柴が、実の家族の弁護を通して、人間らしい心を取り戻すかどうかが大きな見どころである。すっかり家族とは決別し、一片の迷いもないと考えていた御子柴自身が、時に受ける衝撃と動揺、それに続く葛藤と戸惑い、さらには自制と抑圧の感情に読者も飲み込まれていく。家族に対する愛情を取り戻したかと問われれば、即座に否と言えるが、全くの他人の場合と寸分の違いもなかったかと言われれば、それもまた否であろう。揺れる部分が残っていることに、ほっとするところもあり、ここまで来たら悪辣を貫いてほしいという勝手な希望もあり、こちらの心も揺れるのである。これからの御子柴礼二がますます愉しみになる一冊である。

ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで*真梨幸子

  • 2018/04/25(水) 13:34:22

ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで
真梨 幸子
幻冬舎 (2018-01-25)
売り上げランキング: 85,341

嫌なお客のワガママ放題、無理難題。敏腕外商・大塚佐知子がご用命とあらば、殺人以外なんでもします…でも。「お客様は神様?所詮は他人です」。私利私欲の百貨店へいらっしゃいませ。


老舗百貨店の外商のお仕事ぶりの物語。とは言っても、普通に想像する有能な外商さんとはちょっと違うのが、著者らしいところだろう。有能といえばこれ以上有能な外商もいないかもしれないが、お得意様方から持ち込まれる無理難題を、いささかやりすぎと思えなくもない方法で片づけてしまう。客の要求が常識の範囲内であれば、これ以上ない外商さんたちなのだろうが、顧客の要求が並ではないので、勢い、対処法も並ではなくなるのである。勘違いや行き違いも微妙に絡み合い、ブラックすれすれの流れにコミカルなスパイスが効いて、面白さも味わいも深くなっている。物語のその後が知りたいと思わせるものもたくさんあって、愉しめる一冊である。

樽とタタン*中島京子

  • 2018/04/23(月) 16:44:40

樽とタタン
樽とタタン
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中島 京子
新潮社
売り上げランキング: 55,917

忘れかけていた子どもの頃の思い出を、あざやかに甦らせる傑作短篇集。小学校の帰りに毎日行っていた赤い樽のある喫茶店。わたしはそこでお客の老小説家から「タタン」と名付けられた。「それはほんとう? それとも噓?」常連客の大人たちとの、おかしくてあたたかな会話によってタタンが学んだのは……。心にじんわりと染みる読み心地。甘酸っぱくほろ苦いお菓子のように幸せの詰まった物語。


病的なまでに家から出ることに恐怖を感じていた幼いころ、母や祖母となら家の外に出かけることができた。勤めに出ていた母よりは、祖母と暮らす日々がトモコを作ったのかもしれない。そんなある日、偶然母と入った喫茶店は、かつて祖母が生きていたころ入ったことのある店で、どういうわけかそこなら怖くなかったので、以来、放課後には、仕事終わりの母を待ってその喫茶店=レッド・バレルで過ごすようになったのだった。そして、その店の赤い樽が指定席のようになり、常連の老小説家にタタンと名付けられるのである。こどもは、大人が思うよりも、大人の話をよく聞いていて、結構よく覚えてもいる。そして大人は、そのつもりはなくても、こどもにさまざまなことを日々教えているものだ。それぞれの孤独を抱えた常連客たちの言葉の端々からたくさんのことを吸収し、タタンは少しずつ大きくなっていった。大人になって思い出すあれこれは、あの頃に培われたものなのかもしれない。あの喫茶店は、すべての大人とこどもたちの心の世界なのかもしれない。ひとりぼっちの寂しさと、守られている安心感に包まれる一冊でもある。

物語のなかとそと 江國香織散文集*江國香織 

  • 2018/04/22(日) 08:53:39

物語のなかとそと 江國香織散文集
江國香織
朝日新聞出版
売り上げランキング: 4,950

「本を読むというのはそこにでかけて行くこと」
──小説家は、どのように小説を読んでいるのか、
また、著者にとって「書く」とは、どのような経験なのか?
すべて初収録、過去15年以上にわたって書かれた掌編小説とエッセイから、
江國香織の「秘密」がひもとかれる贅沢な一冊。


小説とエッセイが混じっているのだが、その垣根がとても低く感じられる。なんの引っ掛かりもなく、エッセイからするりと物語の世界に入って行ってしまえるのだ。もう物語が江國香織自身だと言えなくもない気がする。そして、江國さんご自身は、わたしが極個人的に思い描いていたよりも、瑣末なことを気にされる方のようで、一挙に親近感が湧く。失礼な言い方かもしれないが、かわいらしい人、という印象である。ご自身のペースを保ちつつ、その世界を保持しつつ、ひとつひとつ丁寧に暮らしていらっしゃるようにお見受けする。心の凝りをほぐされる心地の一冊である。

モモコとうさぎ*大島真寿美

  • 2018/04/21(土) 08:45:59

モモコとうさぎ
モモコとうさぎ
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大島 真寿美
KADOKAWA (2018-02-01)
売り上げランキング: 277,571

働くって、生きるってどういうことだろう―。モモコ、22歳。就活に失敗して、バイトもクビになって、そのまま大学卒業。もしかして私、世界じゅうで誰からも必要とされてない―!?何をやってもうまくいかなかったり、はみだしてしまったり。寄るべない気持ちでたゆたうように生きる若者の、云うに云われぬ憂鬱と活路。はりつめた心とこわばった躰を解きほぐす、アンチ・お仕事小説!


家庭の事情には複雑なものがあったが、それ以外には大学まで躓かずにやってきたモモコだったが、就職活動にことごとく失敗し、自分は世界中から必要とされていないのではないかという強迫観念にさいなまれ、引きこもってちくちくと縫物ばかりしている日々。そして不意に思い立っての家出。初めは友人知人に頼りつつ、暗~く生きていたが、触れ合う人たちから次第に掃除の腕を買われ、仮の居場所を得ていく。だが、そことて終の棲家とは言えず、モモコは自分の居場所を探し続けるのである。彼女にいつも寄り添うのは、かつての母のパートナーの連れ子である姉がくれた不思議なうさぎ。うさぎ同士が同期して不思議な力を持つようになるという。ときおり、あちこちにいるうさぎたちが話し合っていたりはするが、彼らがあまりうまく生かされていないような印象でいささか残念な気はする。結局、モモコの行く末は、いまだに茫漠としてはいるが、家出した当初から比べると、得るものがたくさんあったようには思える。母や家族に翻弄されず、これからはモモコとしての人生を生きていってほしいと思わせる一冊である。

風神の手*道尾秀介

  • 2018/04/17(火) 16:55:31

風神の手
風神の手
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道尾秀介
朝日新聞出版 (2018-01-04)
売り上げランキング: 32,495

彼/彼女らの人生は重なり、つながる。
隠された“因果律(めぐりあわせ)"の鍵を握るのは、一体誰なのかーー

遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、
朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。
読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、
数十年の歳月が流れていく──。
道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。

ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――心中花
まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――口笛鳥
死を前にして、老女は自らの“罪"を打ち明ける ――無常風
各章の登場人物たちが、意外なかたちで集う ――待宵月


登場人物ひとりひとり、エピソードのひとつひとつにまったく無駄がない。力士が塩をまくようにばらまかれた要素が、見事なまでに拾い集められ、知りたかったことがすべて明らかにされる。だからと言って窮屈さはまったくなく、ストーリー展開も興味津々で読む手が止まらない。風が生まれるところを見たような心地にさせてくれる一冊である。

駒子さんは出世なんてしたくなかった*碧野圭

  • 2018/04/15(日) 10:41:05

駒子さんは出世なんてしたくなかった
碧野 圭
キノブックス (2018-02-28)
売り上げランキング: 50,724

水上駒子42歳。出版社で働く管理課課長。専業主夫の夫と高校生の息子あり。平穏な毎日に突然降りかかった昇進辞令。社内をかけめぐる噂と悪口、足を引っ張る年上の部下、女を使うことも厭わない同性ライバル…セクハラ・パワハラの横行する男社会をかいくぐり、駒子はどんな明日をつかむのか!?痛快お仕事小説!


出世欲はさほど強くないものの、出版社の管理課で課長を務める駒子さんが主人公である。家には、専業主婦の夫と息子がいて、日々はとてもうまく回っていると疑わなかったが、社内のセクハラ問題の後始末的な人事異動に始まり、駒子さん自身の昇進と新部署立ち上げという目の回る忙しさに加え、夫がカメラマンの仕事を再開することになって、家庭内にも不協和音が響き始める。あっちもこっちも、うまくいかないことだらけ。とは言いながらも、立ち止まってはいられない。人脈や熱意や、開き直りも駆使しつつ乗り越えていくことになるのである。掛け違った歯車にどこで気づき、どれだけ迅速に修正するかでその後の展開が変わってくるというのが伝わってくる。完璧な人間なんかどこにもいないのだから、頼り頼られながら、一歩ずつ前へ進めばいいのだ、と思わせてくれる一冊でもある。

ノーマンズランド*誉田哲也

  • 2018/04/14(土) 07:48:05

ノーマンズランド
ノーマンズランド
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誉田哲也
光文社
売り上げランキング: 6,436

またしても同僚の殉職を経験し、心身に疲弊の残る姫川玲子が入ったのは、葛飾署管内で起こった若い女性の殺人事件捜査本部。しかし、事件の背後にはもっと大きな事件が蠢いている気配があった……。あらゆる伝手を辿り、玲子が摑んだ手がかりとは!?


冒頭では、過去の女子高生失踪事件に至るまでの日々と、現在の警察の様子が並行して描かれる。どうつながっていくのか興味を惹かれつつ読み進めると、とんでもない事実が浮かび上がってくる。しかも、別件の捜査に行き詰まり、裏にはなにやら胡乱な動きがあるようなのだ。現在の事件の捜査が、過去の事件とつながり、点が少しずつ線になり、全体像が現れると思いきや、手の届かないところへ行ってしまう。姫川玲子の動向や、元姫川班の面々との関わりにも興味を惹かれる。その暴走ぶりや、男社会では「これだから女は……」と言われかねない不安定さや弱さがそのまま描かれているのも、姫川の魅力のひとつだろう。日下との関係が、これまでにない展開になったのも、今後の愉しみのひとつかもしれない。凄惨な場面は正直言って得意ではないが、このシリーズは読み続けたいと思わせる一冊である。

犬とペンギンと私*小川糸

  • 2018/04/12(木) 16:29:23

犬とペンギンと私 (幻冬舎文庫)
小川 糸
幻冬舎 (2017-02-07)
売り上げランキング: 183,591

女子四人組で旅したインドでは、ヨガとカレー三昧。仕事で訪れたパリでは、お目当てのアップルパイを求めて一人お散歩。旅先で出会った忘れられない味と人々。でも、やっぱり我が家が一番!新しく家族の一員になった愛犬と“ペンギン”の待つ家で、パンを焼いたり、いちじくのジャムを煮たり。毎日をご機嫌に暮らすヒントがいっぱいの日記エッセイ。


そもそもが日記なのだから、何が書いてあろうと文句を言う立場にはないのだ。それと知って読んでいるのだからなおさらである。でも、最初から最後まで、何となく置き去りにされた感が否めず、人の暮らしを覗き見て、ふんふんとうなずく愉しみは、残念ながら得られなかった。まったく勝手な感想だということは重々承知である。単に相性があまり良くなかったということなのかもしれないが、時折イラっとさせられる一冊ではあった。

さよなら、わるい夢たち*森晶麿

  • 2018/04/10(火) 16:43:06

さよなら、わるい夢たち
森 晶麿
朝日新聞出版 (2018-02-20)
売り上げランキング: 180,106

〈日本悪夢すぎるだろ。待機児童って何だよ、待機してんのは俺たち家族な〉
〈出てったよ。もう疲れました、だってよ。〉
〈嫁帰ってこない。詰んだな。〉

ジャーナリストの長月菜摘は、
学生時代の友人・薄井麻衣亜の夫のSNSから、彼女が幼い息子を連れて家庭を捨てたことを知る。
夫も、両親も、友人も、同僚も、彼女が消えた理由を知らないというが、
誰もが麻衣亜を失踪に駆り立てるだけの要因を持っていた――。

現代女性が背負わされた、見えない「重荷」の正体を抉りだす、
本格社会派ミステリー。
アガサ・クリスティー賞受賞作家の新境地!


読み進めるにしたがって、少しずつ印象が変わってくる物語である。失踪した友人の行方を捜す高校時代の友人のジャーナリスト菜摘の懸命さがクローズアップされる前半から、失踪した麻衣亜とその家庭の事情の救いのなさに胸を締め付けられる中盤。そして、次第にさまざまな事情が明らかになるにつれて、かすかに苛立ちを覚え始める後半からラストにかけては、だんだんと厭な気分が募ってくる。何かとんでもないものに振り回されたような心地の一冊である。

そのバケツでは水がくめない*飛鳥井千砂

  • 2018/04/08(日) 13:36:15

そのバケツでは水がくめない
飛鳥井千砂
祥伝社
売り上げランキング: 84,040

アパレルメーカー「ビータイド」に勤める佐和理世は、自らが提案した企画が採用され、新ブランド「スウ・サ・フォン」の立ち上げメンバーに選ばれた。そんなある日、カフェに展示されていたバッグのデザインに衝撃を受けた理世は、その作者・小鳥遊美名をメインデザイナーにスカウトする。色白で華奢、独特の雰囲気を纏う美名の魅力とその才能に激しく惹かれる理世。社内でのセクハラ事件をきっかけに二人の距離は一気に縮まるが、やがてその親密さは過剰になっていく…。


理世が主役のお仕事ものがたりという趣で始まる物語である。だが、kotoriこと小鳥遊美名というデザイナーと電撃的に出会い、仕事上のパートナーであり、ともだちでもあるという関係になってから、次第に空気が変わってくる。表面上は穏やかで静かでやわらかいのだが、ちょっとした隙間にふと入り込み、チクリと針の跡を残していくような気分になることがあり、次第に気のせいでは片づけられなくなっていく。真綿で首を絞められるような、じわじわと追い込まれる恐怖がリアルに描かれていて、他人事とは思えないほど怖くなる。距離を置いて眺めれば誤らない判断が、渦中にいると、アリジゴクに引きずり込まれるようにはまってしまう恐ろしさをじわじわ味わわされる一冊である。

御子柴くんと遠距離バディ*若竹七海

  • 2018/04/06(金) 20:37:10

御子柴くんと遠距離バディ (中公文庫)
若竹 七海
中央公論新社 (2017-12-22)
売り上げランキング: 34,507

長野県警から警視庁へ出向中の御子柴刑事。すっかり東京のペースにも慣れ、刑事としても中堅どころになり、わりあい平穏な日々を送っていた。だが、その油断がたたったのか、年末押し迫ってから行く先々で事件にぶちあたり、さらには凶刃に倒れてしまう! 相棒の竹花刑事は御子柴の死を覚悟するが……。シリーズ第二弾は波瀾の幕開け。


御子柴くん、相変わらず、厄介事引き寄せ体質全開である。しかも、大したことではないと思われている些細なきっかけが、続々と事件を発覚させ、さらには解決へと導いていってしまうのだから、もっと尊重されてしかるべきだと思うのだが、どうしたわけか、いいように使われている感が拭えない(実はそうでもないのかもしれないが……)。バディである竹花刑事と、今回は遠距離での絡みだったが、それでも信頼関係がうかがえて、思わずうれしくなった。ラストでは、次作につながる嬉しい仄めかしもあるので、さらに楽しみである。御子柴くんにはくれぐれも躰を大切にしてもらいたいと思うシリーズである。

緑の庭で寝ころんで*宮下奈都

  • 2018/04/03(火) 16:27:18

緑の庭で寝ころんで
緑の庭で寝ころんで
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実業之日本社 (2018-01-26)
売り上げランキング: 51,877

ふるさと福井で、北海道の大自然の中で、のびやかに成長する三人の子どもたち。その姿を作家として、母親として見つめ、あたたかく瑞々しい筆致で紡いだ「緑の庭の子どもたち」(月刊情報誌「fu」連載)4年分を完全収録。ほかに、読書日記、自作解説ほか、宮下ワールドの原風景を味わえるエッセイ61編、掌編小説や音楽劇原作など、単行本初収録の創作5編も収載。本屋大賞『羊と鋼の森』誕生前夜から受賞へ。そしてその後も変りなくつづく、愛する家族とのかけがえのない日々。著者充実の4年間のあゆみを堪能できる、宝箱のようなエッセイ集!
地元の新聞社が月に一度発行する情報誌『fu』に、二〇一三年からエッセイを連載してきた。「緑の庭の子どもたち」という、子どもたちがテーマの文章だ。本になるとは思っていなかったので、ずいぶんリラックスして書いている。寝ころんで読んでもらえるくらいでちょうどいいなと思う。読んでくれた方の夢も、きっといつのまにか叶っているに違いない。これはしあわせのエッセイ集なのだ。 (「まえがき」より)


どのページを開いても、宮下さんのお人柄の魅力がほとばしり出てくる。彼女の目が見つめるもの、彼女の心が受けとめる事々、なにからなにまでに著者の慈しみがあふれていて、心が洗われるようである。愛と信頼がぎゅっと詰まった一冊である。

意識のリボン*綿矢りさ

  • 2018/04/01(日) 18:17:22

意識のリボン
意識のリボン
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綿矢 りさ
集英社
売り上げランキング: 45,469

少女も、妻も、母親も。
女たちはみんな、このままならない世界をひたむきに生きている。

迷いながら、揺れながら、不器用に生きる女性たち。
綿矢りさが愛を込めて描く、八編の物語。


表題作のほか、「こたつのUFO] 「ベッドの上の手紙」 「履歴のない女」 「怒りの漂白剤」 「声の無い誰か」

エッセイなのか小説なのか、一読判断がつかないようなテイストの物語たちである。作家の葛藤のようなものも書かれているが、それも著者の胸の裡とは限らない。だからこその小説の愉しみだとも言える。その辺りにあれこれ想像をめぐらすのもまた愉しい。本作に描かれている女性たちの生き方は、一般的なものとは思えないが、彼女たちの生きづらさはよく伝わってくる。なかなか興味深い一冊ではある。