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極小農園日記*荻原浩

  • 2018/05/30(水) 16:30:20

極小農園日記
極小農園日記
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荻原 浩
毎日新聞出版 (2018-03-09)
売り上げランキング: 37,159

小さな庭での野菜づくりに一喜一憂。 創作や旅の名エッセーを収録したファン待望の初エッセイ集。
家族に白い目で見られながらも庭の片隅で細々と続ける長年の趣味、家庭菜園。
小さな戦場で季節ごとの一喜一憂を綴った爆笑奮闘記。

書き下ろし、直筆イラストも多数収録。
直木賞受賞時も絶賛された軽快な文章とユーモアで、
著者の素顔(時々毒づきオヤジ)が垣間見える、愉快痛快エッセー集。

もくじ
第1章 極小農園日記」PART1(秋冬編)
第2章 極狭旅ノート
第3章 極私的日常スケッチ(厳選25篇)
第4章 極小農園日記PART2(初夏編)......書き下ろし


著者にこんなご趣味があったのを初めて知って、なんだかうれしくなる。菜園での奮闘ぶりや、一喜一憂ぶりが目に浮かぶようである。まさに好きではくてはこだわれないあれこれが満載で、思わずにんまりしてしまう。農園日記以外も、思わず漏れ出てくる心の声がどれもこれも好ましい。小説家の書かれるエッセイは、個人的に苦手なものが多いのだが、本作は好みの一冊である。

コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙*村山早紀

  • 2018/05/28(月) 10:03:42

(P[む]1-17)コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙 (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社 (2018-03-03)
売り上げランキング: 16,975

千花が幼い頃、隣家の庭に不思議なポストがあった。そこに手紙を入れると、なぜか空の上の「あの人」から返事がくる。結婚を控え故郷を離れようとしている千花は、もう一度だけ優しい手紙を読みたくなって。知らぬ間に見守ってくれていた温かなまなざしの物語、「小鳥の手紙」。春の風早の街を舞台にした二話と、話題作『百貨の魔法』の番外編を収録。大切な探しものが見つかる不思議なコンビニたそがれ堂、大人気シリーズ第7弾!


表題作のほか、「雪柳の咲く頃に」 番外編「百貨の魔法の子どもたち」

子どものころに体験した不思議なことは、いくつになってもその人の心のどこかに仕舞われていて、何かの折にふと思い出すと、この上なくやさしく懐かしい気持ちにさせてくれるものである。今作も、そんな不思議な経験と、懐かしさにあふれた物語たちである。子どものころに、こんな体験をした人は、大人になって、たとえ間違った道を選びそうになったとしても、自然に正しいほうに導かれていきそうな気がする。信じる心や想像力のパワーをとても感じられる物語である。じんわりほろりの一冊だった。

路上のX*桐野夏生

  • 2018/05/26(土) 07:24:23

路上のX
路上のX
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桐野 夏生
朝日新聞出版 (2018-02-07)
売り上げランキング: 2,267

幸せな日常を断ち切られ、親に棄てられた女子高生たち。ネグレクト、虐待、DV、レイプ、JKビジネス。かけがえのない魂を傷めながらも、三人の少女は酷薄な大人たちの世界をしなやかに踏み越えていく。最悪な現実と格闘する女子高生たちの肉声を物語に結実させた著者の新たな代表作。


さまざまな理由で繁華街をさまよいながら生きていくことを余儀なくされた少女たちの物語である。家庭環境に恵まれない少年少女がずるい大人の餌食になるのかと思っていたが、ごく普通の家庭で、何不自由なく育ってきた少女にも、ある日突然に不幸が訪れる可能性があることを目の当たりにして、愕然とさせられる。人生経験の少なさや未熟さからくる判断の甘さで、自分を追い詰める結果になるのを見ていると、胸が痛くなるが、もう少し落ち着いて考えられなかったのかと思わなくもない。今夜寝る場所がない、ということの切迫感が哀しすぎる。こんな少女たちがひとりでも少なくなることを、心から祈りたい。重いテーマだが、ページを繰る手が止まらなくなる一冊である。

トッカン 徴収ロワイヤル*高殿円

  • 2018/05/22(火) 18:21:44

トッカン 徴収ロワイヤル
高殿 円
早川書房
売り上げランキング: 108,606

税金滞納者に日々納税指導を行なう、国の取り立て屋・国税徴収官は、必要不可欠だけれど、一般には好かれにくい、厳し~い職業である。なかでも、とくに悪質な案件を扱うのが、特別国税徴収官(略してトッカン)だ。情け容赦のない取り立てで「京橋中央署の死に神」と怖れられるトッカン鏡の下、若手徴収官ぐー子が挑むのは、税金とその奥にひそむ人生の難問の数々――飲食店の巧妙に隠された滞納金捜しや、相続税が払えない老婦人の救済と公売ハウツー、税大研修での鬼畜ゼミ発表会や、ブランド品密売人を追っての対馬出張大捕物など……鬼上司・鏡によって磨かれたぐー子の徴収スキルが炸裂するとき、待ち受ける意外なラストとは?
*
バラエティ豊かな徴収官たちの仕事ぶりを、鏡とぐー子がお伝えします。お金の勉強になりつつ、明日への希望が溢れてくる、No.1税金ミステリ『トッカン』シリーズ初の短篇集。全6篇収録。


「幻の国産コーヒー」 「人生オークション」 「徴税官のシャランラ」 「五年目の鮭」 「招かれざる客と書いて本屋敷真事と読む」 「対馬ロワイヤル」

ハスキー犬のような鬼上司・鏡のやり口にもずいぶん慣れ、ぐー子こと鈴宮深樹の徴収官としての腕も一人前になりつつある。二人の掛け合いの絶妙さは相変わらずで、この関係は崩さないでほしいと願ってしまう。今回のどの事案も、一筋縄ではいかず、巧みに利用されたりもするのだが、ぐー子の機転が見事に功を奏することもあって、文句なく愉しめる。この先の移動で、鏡トッカンとぐー子の処遇がどうなるのかも気になる。長く続いてほしいシリーズである。

風は西から*村山由佳

  • 2018/05/18(金) 16:30:05

風は西から
風は西から
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村山 由佳
幻冬舎 (2018-03-27)
売り上げランキング: 2,204

大手居酒屋チェーン「山背」に就職し、繁盛店の店長となり、張り切って働いていた健介が、突然自ら命を絶ってしまった。大手食品メーカー「銀のさじ」に務める恋人の千秋は、自分を責めた――なぜ、彼の辛さを分かってあげられなかったのか。なぜ、彼からの「最後」の電話に心ない言葉を言ってしまったのか。悲しみにくれながらも、健介の自殺は「労災」ではないのか、その真相を突き止めることが健介のために、自分ができることではないか、と千秋は気づく。そして、やはり、息子の死の真相を知りたいと願う健介の両親と共に、大企業を相手に戦うことを誓う。小さな人間が秘めている「強さ」を描く、社会派エンターテインメント。


過労死、ことに過労自殺に焦点を当てた物語である。現実に起こった出来事を下敷きにしているせいもあり、遺族の憤りや口惜しさがリアルに伝わってくる。過労自殺に至る以前の、健介と千秋の二人の関係が、あまりにもあたたかく、幸福に包まれて充実しているので、過重労働によるすれ違いや、気持ちのささくれ、実際に顔を合わせて話ができないことからくる誤解などがつぶさに見て取れて、胸が痛くなる。ずぶずぶとアリジゴクに囚われていくさまを、客観的に眺められるので、何度も押しとどめたい思いに駆られる。取り返しがつかなくなる前に何とかならなかったのか。誰しもがそう思うだろうが、本作を読む限り、それがものすごく難しいことも思い知らされ、愕然とさせられる。最終的には和解という決着に辿り着いたわけだが、それでも健介は戻ってこないのだということが、いっそうやりきれない思いにさせる。一気に読み進んだ一冊である。

謎の館へようこそ 白

  • 2018/05/16(水) 16:27:05

謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)
東川 篤哉 一 肇 古野 まほろ 青崎 有吾 周木 律 澤村 伊智
講談社
売り上げランキング: 134,164

テーマは「館」、ただひとつ。
今をときめくミステリ作家たちが提示する「新本格の精神」がここにある。
奇怪な館、発生する殺人、生まれいづる謎、変幻自在のロジック――!
読めば鳥肌間違いなし。謎は、ここにある。新本格30周年記念アンソロジー第二弾。
収録作品:
東川篤哉『陽奇館(仮)の密室』
一肇『銀とクスノキ ~青髭館殺人事件~』
古野まほろ『文化会館の殺人 ――Dのディスパリシオン』
青崎有吾『噤ヶ森の硝子屋敷』
周木 律『煙突館の実験的殺人』
澤村伊智『わたしのミステリーパレス』


「黒」よりは、かなり普通に愉しめた。ただ、物語にのめりこんで、次へ次へとページを繰る手が止まらなくなる、というほどのことはなく、キャラクタを作りこみすぎな印象のものがあったり、これも館か?というようなものもあったり――それはそれで奇をてらって悪くはないのだが――、もうひとつグッとくる何かが欲しい気がしてしまう。まあまあ愉しめる一冊ではあった。

震える教室*近藤史恵

  • 2018/05/13(日) 08:10:17

震える教室
震える教室
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近藤 史恵
KADOKAWA (2018-03-31)
売り上げランキング: 242,884

歴史ある女子校・凰西学園に入学した真矢は、怖がりの花音と友達になる。ひょんなことから、ふたりは「出る」と噂のピアノ練習室で、虚空から伸びる血まみれの白い手を目撃してしまう。その日を境に、ふたりが手をつなぐと、不思議なものが見えるようになった。保健室のベッドに横たわる首がないびしょ濡れの身体、少女の肩に止まる白いなにか、プールの底に沈むもの…。いったいなぜ、ここに出現するのか?少女たちが学園にまつわる謎と怪異を解き明かす、6篇の青春ミステリ・ホラー。


わたしの苦手なホラーである。しかもそれが起こるのは、歴史ある――予てから「何か出る」と噂されている――女子校。中学からあるこの学校に、高校からの外部受験者として入学した真矢と花音はすぐに親しくなり、二人が触れ合うことで、怪異が見えてしまうことに気づくのにも時間はかからなかった。ここで起こる怪異は、この学校に関わる者たちの身に起こったことが元になっていて、それがさらに恐ろしさを増す印象である。見えるものと見えないものとのわずかな差で、世界が変わることも興味深い。苦手なホラーではあるが、真矢と花音のキャラクタや、花音の小説家の母のアドバイスなども含めて、拒否反応を起こさず愉しめる一冊だった。

アルテーミスの采配*真梨幸子

  • 2018/05/10(木) 20:32:15

アルテーミスの采配
アルテーミスの采配
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真梨 幸子
幻冬舎
売り上げランキング: 394,656

AV女優連続不審死事件。容疑者の男は行方不明。男が遺した原稿『アルテーミスの采配』が、隠された嘘、或は真実を語り始める。私の人生、狂ったのは誰のせい?毎日は無数の罠で満ちている。最後一ページまで、見事なる真梨幸子の采配。


AV女優のインタビューを集めた本を作るという企画のためにインタビューを受けたAV女優が次々に不審な死を遂げる、連続不審死事件を軸に、物語は進む。彼女たちの生い立ちや、AV女優になろうと思った動機がインタビュー記事として読者の前に明らかにされ、どうして殺されなければならなかったのかに興味を惹かれる。そして、「アルテーミスの采配」に関わった者たちの関係が次々に明らかになり、深く根差した恨みもさらけ出される。芋づる式に暴かれる恨みの連鎖に背筋が寒くなる。アリジゴクのような苦界に絡めとられる成り行きも恐ろしい。見たくないのに見てしまう、怖いもの見たさ欲をそそられる一冊であるとも言えるかもしれない。

5人のジュンコ*真梨幸子

  • 2018/05/09(水) 07:28:20

5人のジュンコ
5人のジュンコ
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真梨 幸子
徳間書店
売り上げランキング: 293,121

なぜ私は、あの子と同じ名前になってしまったのだろう。篠田淳子は、中学時代の同級生、佐竹純子が伊豆連続不審死事件の容疑者となっていることをニュースで知る。同じ「ジュンコ」という名前の彼女は、淳子の人生を、そして淳子の家族を崩壊させた張本人だった。親友だった女、被害者の家族、事件を追うジャーナリストのアシスタント……。佐竹純子容疑者と同じ「ジュンコ」という名前だったがゆえに、事件に巻き込まれていく4人の女たちの運命は。


現実の事件からの着想だということはすぐにわかるが、その事件を掘り下げているわけではなく、そこからさらに深く入り込み、事件の裏側、さらには、そこに至るはるか以前の子ども時代のエピソードから描いている。そこでは、たまたまジュンコという同じ名前だったからこそ生まれた悲劇がすでに始まっており、いかに根深いものだったかがうかがい知れる。その後も、佐竹純子にかかわったジュンコという名を持つ女性たちが、さまざまな形で影響を受け、泥沼にはまり込んでいくのである。たかが同じ音を持つ名前だっただけで、と思うが、その影響の強さには恐ろしささえ感じる。ジュンコさんが読むとしばらく落ち込むかもしれないとも思ってしまう。映像化されていたのは全く知らなかったが、観てみたいと思わせる一冊である。

高座のホームズ 昭和稲荷町らくご探偵*愛川晶

  • 2018/05/07(月) 16:30:41

高座のホームズ - 昭和稲荷町らくご探偵 (中公文庫)
愛川 晶
中央公論新社 (2018-03-23)
売り上げランキング: 54,581

テレビやラジオで落語が親しまれ、大看板と呼ばれた一流の噺家たちが芸を競った昭和五十年代。その一人、八代目林家正蔵(のちの彦六)の住む稲荷町の長屋には、傷害事件から恋愛沙汰まで、さまざまな謎が持ち込まれ―。なつかしいあの頃の落語界を舞台に、探偵・正蔵が快刀乱麻を断つ!洒脱な落語ミステリー。


これまでのシリーズのひと時代前の物語である。本作の高座のホームズは、八代目林家正蔵師匠で、安楽椅子探偵よろしく、持ち込まれる厄介話を聞いただけで、たちどころに絡み合った糸をほぐしてしまう。そんな名探偵が、次の時代にもちゃんと受け継がれているのが、これまでのシリーズなのだから、妙に納得してしまう。しかも今作では名探偵は実在の噺家なので、興味はさらに募るというものである。ただ、現代なら顰蹙を買うこと間違いないエピソードが盛り込まれており、しかも話の核心的な部分でもあるので、時代が違うとはいえ、いささか気になったことも確かではある。時代を語るには仕方ないと言え、拒否反応をする読者もいるかもしれないという気はする。そこを乗り越えれば、至極面白い一冊だった。

おまじない*西加奈子

  • 2018/05/06(日) 07:22:04

おまじない (単行本)
おまじない (単行本)
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西 加奈子
筑摩書房
売り上げランキング: 1,303

大人になって、大丈夫なふりをしていても、
ちゃんと自分の人生のページをめくったら、傷ついてきたことはたくさんある――。
それでも、誰かの何気ないひとことで、世界は救われる。
悩んだり傷ついたり、生きづらさを抱えながらも生きていくすべての人の背中をそっと押す、キラメキの8編。

「あなたを救ってくれる言葉が、この世界にありますように」――西加奈子


「燃やす」 「孫係」 「いちご」 「あねご」 「オーロラ」 「マタニティ」 「ドブロブニク」 「ドラゴン・スープレックス」

さまざまな年代の女性が主人公の物語である。すべて違う人物ではあるのだが、多かれ少なかれ、誰でもに心当たりがあるような悩みを抱えているという点では、普遍的なものであるともいえると思う。人生のさまざまな段階で、女性が感じる生きにくさのようなものが凝縮されて描かれている印象なので、読者もどこかしらに自らを寄せて読めるのではないだろうか。そして、読む人それぞれ、どこかに生きていく上でのヒントが隠されている一冊なのではないかとも思う。

オーパーツ 死を招く至宝*蒼井碧

  • 2018/05/04(金) 16:40:00


貧乏大学生・鳳水月の前に現れた、顔も骨格も分身かのように瓜二つな男・古城深夜。鳳の同級生である彼は、OOPARTS―当時の技術や知識では、制作不可能なはずの古代の工芸品―の、世界を股にかける鑑定士だと高らかに自称した。水晶の髑髏に囲まれた考古学者の遺体、夫婦の死体と密室から消えた黄金のシャトル…謎だらけの遺産に引き寄せられるように起こる、数多の不可解な殺人事件。難攻不落のトリックに、変人鑑定士・古城と巻き込まれた鳳の“分身倹ひ”の運命は?2018年第16回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。


全くの他人でありながら、瓜二つの容貌を持つ古城深夜と鳳水月が、主に古城の主導によって事件に巻き込まれ、謎を解き明かすという趣向である。多分にマニアックな蘊蓄が語られているので、興味がある人には垂涎ものなのだろうが、それ以外の人には、とっつきにくい部分も多いかもしれない。キャラクタもまだ発展途上という印象で、続編があるなら、少しずつこなれていきそうな気はする。個人的にはあまり入り込めない一冊ではあった。

ふたりみち*山本幸久

  • 2018/05/02(水) 16:32:53

ふたりみち
ふたりみち
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山本 幸久
KADOKAWA (2018-03-29)
売り上げランキング: 95,406

函館から津軽海峡をフェリーで渡る67歳の野原ゆかりは、元ムード歌謡の歌手。借金返済のため、営業の旅に復帰したのだ。その船内で知り合った12歳の家出少女森川縁が、なぜかゆかりの後をついて来る。旅先で起きるトラブルや55歳の歳の差を乗り越えて、いつしかふたりは固い絆で結ばれていく。そしてたどり着いた最後の会場、東京。そこにはゆかりの悲しい過去が刻まれていた…。


67歳と12歳、ゆかりと縁(ゆかり)の「ふたりみち」の物語である。それぞれに事情を抱えた利の差55歳の二人は、津軽海峡を渡るフェリーで出会い、なぜか一緒に旅をすることになる。歌を、音楽を通して、二人のなかにある何かが響きあったのかもしれない。行く先々でトラブルに見舞われ、ろくに歌うこともできずにいるミラクル・ローズ(=ゆかり)だったが、縁がいつも支えになってくれている。12歳らしい幼さと、12歳とは思えない逞しさを持ち合わせた縁がいたからこその、ゆかりの旅なのである。ゆかりにとっては、人生の来し方を振り返る旅にもなっており、縁にとっては、人生の行方を探す旅でもあるのだろう。切なさ、ほほえましさ、人情のあたたかさ、一筋縄ではいかないやりきれなさなど、さまざまな感情を呼び起こされる一冊でもある。

にらみ*長岡弘樹

  • 2018/05/01(火) 13:50:27

にらみ
にらみ
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長岡 弘樹
光文社
売り上げランキング: 255,057

“にらみ”とは、刑事が公判を傍聴し、被告人が供述を翻したりしないよう、無言で圧力をかけること―。事務所荒らしで捕まり、懲役五年の判決を受けた窃盗の常習犯・保原尚道は、仮釈放中に保護司を殺害しようとした容疑で逮捕された。取り調べを担当する片平成之は、四年前の保原の裁判で“にらみ”をしていて面識があった。保原は自首しており、目撃者による面通しも終えているのだが、片平は納得していない。保原は人を殺めようとするほどの悪人なのか―。(「にらみ」)驚きと情感あふれるミステリー傑作集!


表題作のほか、「餞別」 「遺品の迷い」 「実況中継」 「白秋の道標」 「百万に一つの崖」

いささか無理やりな感がある個所もないわけではなかったが、展開が愉しみになるストーリーである。ラストは読者それぞれが納得するように、ということなのか、明確に文字にされていない場合が多いので、物語によっては多少悩む点もあったが、ほぼ納得できるものだった。事実の裏側を垣間見るような一冊でもある。